闘神都市―――それは聖魔教団が作り上げた空中浮遊都市にして、超巨大移動要塞兵器でもある。
M・M・ルーンの強大な魔力を使い上空を飛ぶ非常に優秀な兵器だ。
その中には闘神と呼ばれる管理者が居るが、その闘神も魔人には勝てなかった。
魔人と力では互角の存在も居るが、それでも魔人という存在は巨大すぎた。
この闘神都市Kも魔人の手で陥落してしまった。
「くくく、ハハハ! 中々面白かったぞ、闘神!」
その存在こそ魔人レキシントン、魔人の中でも非常に好戦的な存在である。
ノスと共に闘神都市落としを楽しんでおり、その凶悪な力は闘将では相手にならず、闘神でも傷一つつける事は出来ない―――無敵結界が有る限り。
「いやー、流石だねレキシントン」
「闘神だろうとレキシントン様に勝てる訳無いでしょ」
ジュノーとアトランタ、二人の使徒も主を称える言葉を放つ。
「だがこいつはイマイチだったな。次に行くぞ次に!」
闘神都市のコアであるマナバッテリーを完全に破壊した事で、闘神都市Kは既に墜落するのは確定していた。
「ところでレキシントン。良い報告と悪い報告の二つがあるんだけどどっちから聞きたい?」
「何だジュノー。勿体ぶりおって。ならばいい報告から聞かせろ」
「良い報告は、脱出手段として帰り木をきちんと持ってきていた」
「おう、当然だな!」
「悪い報告は実はレキシントンの分、持ってくるの忘れちゃったんだよね」
「ハハハハハ! それは面白いな!」
「レキシントンは魔人だから大丈夫だよね」
「おう! 無敵結界があるからな!」
「じゃあ俺達は先に戻ってていいかな?」
「酒を用意しておけ! まだまだ楽しみは続くのだからな!」
こうして闘神都市Kは魔人レキシントンによって落とされた。
地上―――
「な、なんじゃこりゃああ!?」
流石のランスも空から落ちてくる巨大な物体には驚くしかない。
「まさか…闘神都市が落ちたのか!?」
シロウズは巨大な物体が闘神都市なのは直ぐに理解した。
それはつまり、闘神が魔人によって倒された事を意味していた。
「いかん! この場所は…」
落下してくる闘神都市は間違いなくこの地に向かって落ちてきていた。
それはつまり、この場所に留まっている事は死を意味していた。
「ランス! 逃げるわよ!」
「チッ! それしかないか!」
流石のランスもレンの言う通りにするしか無い。
あんなものの落下に巻き込まれればレベルがどうとか言う問題ではない。
「このタイミングでか! 運が悪いな…!」
一方のレイも今の状況には歯噛みするしか無かった。
闘神都市が落ちるのは、魔人にとっては勝利の証なのだ。
もしレイが闘神都市に居れば、同じように躊躇いなく闘神都市を落としていただろう。
今、こうして地上で戦っている方が魔人としてはおかしいのだ。
しかし、まさかランスと戦っているタイミングで丁度良く闘神都市が落ちるなど、レイは運命を呪うしか無かった。
これまで何度かランスと戦ってきたが、今度はこんな事が起きるとは考えもしない。
「レイ様! 退却を!」
「好きにしろ!」
魔物将軍ゾノの言葉にレイはぶっきらぼうに返すと、自分自身も急いでその場を離れる。
闘神都市が落ちると当然のように地上には膨大な被害が出る。
が、それは魔軍も例外ではなく、魔人達は闘神都市を落とす位置なんか当然計算もしない。
なので魔軍の密集地に落ちる事も当然あるのだ。
一応それを考えてはいるのだが、どうあっても予期せぬ出来事というのはあるものだ。
「チッ…まさかこんな事になるとはな…」
レイとしては水を差された形となり、当然腹立たしい。
「まあ…まだまだ楽しめるってもんさ」
そう納得させ、レイも急いでその場から駆けていく。
無敵結界があるので死ぬことは無いが、地面に埋まればそれだけ地上に戻る時間がかかってしまう。
無敵結界は衝撃までは防いでくれないので、あれだけの質量とぶつかれば当然無事ではない。
レイはここに、このタイミングで闘神都市を落とした奴を少し恨みながらも、その顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
そして一方のランス達も急いでこの場から離れていた。
「だあああああっ! 何であんなもんが突然降って来るんだ!」
過去にランスも闘神都市を落とした事は有るのだが、それは忘れて文句を言う。
「おいレン! お帰り盆栽だ!」
「無茶言わないでよ! それに使った所で私達が使っていた砦に戻るだけ! 戻った所で吹っ飛ばされるだけよ!」
「うぐぐぐぐぐ…」
レンの言っている事は間違っていないので、ランス達はそのまま走って逃げるしかない。
「シロウズ! 皆は…!」
「今から行っても無理だ! 彼等が自力で生き延びるのを期待するしかない!」
ラギはシロウズの厳しい言葉に唇を噛むしかない。
そう、これはどうしようも無い事だ。
今の自分達が何をしようが、砦の仲間達には自力で生き残ってもらうように期待するしかない。
ランス達が走っていると、突如として上空から凄まじい殺気をランスは感じ取った。
それと同時に、
「見つけたぞ! 小僧!」
凄まじいダミ声と共にすさまじい圧力を持った何かが上空から降って来た。
ソレはランス達が走っている方向に着地し―――凄まじい勢いで地面に埋まっていった。
「…何だ今のは」
「え…何なんだろう…」
シロウズとラギは困惑するしか無いが、その困惑も直ぐに消え去る。
地面に埋まっていた存在が完全にその姿を見せたのだ。
「グハハハハハハ! こうして貴様と会うのも1000年ぶりか! あの時よりも強くなっているだろうな! 小僧!」
それは巨大な鬼だった。
「どっから降って来るのよ…! レキシントン!」
レンが苦々しい声でその名前を呼ぶ。
「レキシントン…まさか魔人レキシントン!?」
その名前にシロウズは驚愕し、ラギは声を失う。
魔人レイとの戦いが終わったと思ったら、別の魔人が上空から降って来たのだ。
しかも明らかにランスとは顔見知りのような態度を取っている。
「やかましい! とっととどけ!」
ランスは止まらずに剣を構えると、そのまま勢いよく飛び上がる。
「ラーンスアタタタターーーーーック!」
「相変わらずいい覇気をしている! 小僧! 儂と死合え!」
レキシントンも金棒を構え、ランスを迎え撃つ。
ランスの必殺の一撃は無敵結界によって弾かれる。
レキシントンもランスアタックの衝撃までは逃せずによろける。
「ランス!」
「ランス様!」
「とっとと行け!」
レンとジルがランスに声をかけるが、ランスは早くここから離れるように言うと、レキシントンとぶつかり合う。
「前よりも随分と強くなっているではないか! カミーラに随分と揉まれたようだな!」
「やかましい! むさ苦しいおっさんの分際で!」
「いいぞ小僧! もっとだ! もっと儂と戦え!」
レキシントンの強烈な攻撃をランスは避けるが、その上空からは闘神都市の破片や、壊された闘将がどんどんと振って来る。
幸いにもランスには当たらないが、それでももう限界は近い。
「ランス! 例の場所で!」
レンはそう言うとジルと残りの二人を担ぐと、凄まじい速度でこの場を離れていく。
ランスを回収するとなると流石に厳しいだろう。
レキシントンの狙いはあくまでもランスなのだから。
「楽しいな小僧! この状況すらもな!」
「やかましい! 無敵結界を使っておきながら偉そうな事を言うんじゃねえ!」
「使えるものを使って何が悪い! 貴様とて同じ状況ならばそうするだろうが!」
ランスはレキシントンと斬り結ぶが、それももう限界だ。
「フン、お前1人で勝手にやってろ! ランスアターーーック!」
そう言ってランスはレキシントンではなく、その地面に向けて必殺技を放つ。
「ぬうっ!?」
闘気と土砂、そして落ちてきた闘神都市の破片を巻き込んでレキシントンの視界からランスが消える。
「小賢しい!」
金棒を振るい、レキシントンは目の前の破片を吹き飛ばす。
その時、ランスは既にレキシントンの横を通り抜けていた。
「待て小僧!」
レキシントンはランスを追おうとするが、その時レキシントンの頭上に闘将の体が落ちてくる。
「むうっ!?」
流石に衝撃までは無視できず、レキシントンの足が止まる。
その時、既に落ちてきた闘神都市が完全に墜落する。
「うおおおおおお!?」
凄まじい衝撃と共にレキシントンの体が吹き飛ばされる。
いくら魔人の無敵結界でも、それは逃す事は出来なかった。
それは同時にランスの体も巻き込んだ。
凄まじい衝撃はランスの体を巻き込み、衝撃によって飛ばされた闘神都市の欠片や闘将の破片がランスの体にぶつかる。
その衝撃には流石のランスも息が詰まる。
闘神都市の墜落の衝撃はランスの体を簡単に浮かせる。
「あ、ヤバ」
ランスはそれ以上の言葉を継げなかった。
流石にこの衝撃はランスでも逃せないし、飛んでくる破片を打ち落とす事も出来ない。
これは流石に、本当にヤバイと思い、ランスも死を覚悟せざるを得なかった。
「ランス!」
剣の中からケッセルリンクの声が聞こえるが、生憎と彼女にも何も出来ない。
ランスの体に闘将の体の破片が突き刺さり、ランスも血を吐き出す。
その時―――
「ランスさん!」
何かがランスの体を抱きしめると、自分の体をランスの盾にする。
飛んでくる破片はその人物に当たると思ったが、それは何かに阻まれる。
「君は…」
その人物を見てケッセルリンクは驚く。
「しっかりして下さい! ランスさん!」
背中から翼を生やした美しい女性はランスの体を抱きしめ、何とか姿勢を保とうとする。
魔人ハウゼルでも闘神都市の墜落の衝撃は厳しいようで、ランスを抱えて何とか飛んでいる。
「ここまで離れれば…」
かなりの距離を吹き飛ばされたが、ここまで離れればもう衝撃は来ない。
ハウゼルはランスを抱きしめたまま、何とか地面に着地する。
「ランスさん!」
ハウゼルは声をかけるが、ランスは既に気絶していた。
その腹には闘将のものであろう破片が突き刺さっている。
「ハウゼル、何とか出来るか」
「大丈夫です、ケッセルリンク。これくらいなら…」
ハウゼルはランスに突き刺さっていた破片を抜く。
そこから勢いよく血が飛び出るが、ハウゼルはその箇所を押さえる。
「これで大丈夫。後はきちんとした治療をしないと…」
ハウゼルはランスの傷口を押さえたまま飛び上がる。
「当てはあるのか、ハウゼル」
「大丈夫です。密かにカラーの人達と連絡を取る事に成功しました。この戦争の少し後に黒髪のカラーとコンタクトを取れたのが幸いです。私はカラーが魔軍に攻められないように動いていましたから」
「そうか…助かる、ハウゼル。本来ならば私がやらなければならない事なのに…」
ケッセルリンクは剣の中で辛そうに声を出す。
「カラーならば神魔法を使える者も居るでしょう。まずはランスさんを運びます」
そう言ってハウゼルはカラーの里、ペンシルカウに向けて飛んでいった。
「何とか助かったわね…」
「…助かったと言えばそうだが、一体何があったのやら」
レン達は衝撃を受けながらも何とか大した被害も無く逃げる事に成功できた。
破片が何個か当たったが、幸いにも大きな傷は無い。
シロウズはレンを見て訝し気な顔をするが、それ以上探るのは止める事にする。
彼女を敵に回す必要は無いし、何よりも今やる事がある。
「皆は…」
「恐らく全滅だろう…闘神都市が近くに落ちたんだ、生きている可能性は低い」
シロウズの言葉にラギは唇を噛む。
言われるまでもなく、彼女自身も分かっているのだ。
砦の間近に闘神都市が落ちた被害は洒落にならないだろう。
「レンさん。これからどうします?」
「ペンシルカウに行く。そこにランスは居るでしょうし」
ジルの言葉にレンは断言する。
「本当ですか?」
「ハウゼルが飛んで来てたもの。ランスを助けたなら行くところはカラーの所でしょ。私達がカラーと縁が深いのは分かってるでしょうし」
「ハウゼルさんが来てたんですか?」
レンの言葉にジルは目を丸くする。
「よく見えましたね…」
「まあね。と、言ってもどうやってペンシルカウまで向かうかっていう話もあるんだけど…」
「フム…ペンシルカウ、カラーの隠れ里か」
レンとジルの会話を聞きシロウズも顎に手を当てて思考する。
「良ければ私も同行したい。大将と共に行動する方が私には良さそうだ」
「シロウズ!」
「ラギ、もう私達が帰る砦は無い。それに元々私は無頼の身、組織とは中々相容れられぬものだ」
「…否定はしないけど」
シロウズ・亜空は本当に強いし頼りにはなるが、組織に馴染めている様子は無かった。
自分について来るものは拒みはしないが、それでもどこか他人を寄せ付けない空気があった。
そこもまた魅力的な所と見る者も多かったが、中々性格的にも一癖も二癖もある人物だった。
「君達が不要と言うならば仕方ない。だが、私は君達の足手纏いにはならない自負はあるよ」
シロウズの言葉にレンとジルは目を合わせる。
「邪魔さえしなければ私は別にいいけど」
「確かに…ランス様にもついて来れる実力は有ると思います」
二人の目から見てもシロウズの実力は大したものだ。
事実、魔物兵を軽々と倒し、神魔法も使える万能さも有る。
流石にエンジェルナイトであるレンには及ばないが、それでもランスの足を引っ張るほどではない。
「それに…コレだしね」
「…あはは」
ジルはレンの言葉に曖昧に笑うしかない。
コレとは勿論シロウズの容姿の事だ。
仮面を被っている上に、凄まじいアフロ…仮面の下は色男なのかもしれないが、そのアフロが台無しにしている。
ぶっちゃけ傍から見たら不審人物である。
それならばランスも自分を『邪魔する男』とは思わないだろう。
「ふむ…何かは分からないが、許しを得たのならば同行させてもらう」
シロウズはそう言って二人に一礼する。
「改めて名乗ろう。私はシロウズ・亜空、見ての通りただの軍人だ」
「…ねえ、一つ聞いて良い?」
「何かな?」
「エドワウ・亜空って名前に聞き覚えない?」
レンの言葉にシロウズは驚いたようだった。
「先程の魔人からも我が偉大なる祖先、エドワウの名前が出た事に驚いたが、まさか君達からも同じ名前が出るとは…」
「ああ…うん…」
その特徴的なアフロが他にいてたまるか、レンはそう思うが何とかそれを隠す。
「世の中に大きな節目が有る時、我が亜空家には特別な者が生まれる。そして人と魔の戦い…その大いなる時期に私が生まれた…これは何か意味があるのだろう」
「そ、そうなんだ…」
「そして亜空家に伝わるこの剣が抜かれたという事は、正に我が先祖、エドワウの時のような大きな出来事が起きる証。ならば私は自分の感覚を信じる」
「ところでそのエドワウという人は何かあるんですか?」
レンとレイが同時にその名前を出したという事は、ランスとも関係のある人間だったのだろう。
レイとランスの関係を知っている者としては、そこの関りも気になってしまう。
「我が先祖は魔人に対抗する秘術を求め、AL教の本部へ渡り、そこで大きな何かを得たと聞いている。ただ、その大きな出来事は魔王ガイによる人類の蹂躙で失われたと聞いている。しかし、一つ言われている事は、魔王ジルは望んで魔王になった訳では無い、それだけは伝えられてきたな」
シロウズの言葉に二人は無言になる。
「そう…ですか…」
ジルは小さな声でそう言うだけだ。
「奇しくも君と同じ名だな…が、同じ名の者が居ても全くおかしくは無い。さて、これからどのように動く? ラギ、君にも報告の義務があるだろう」
「…そうだ、地上にも魔人が出たって事言わなきゃ! まさか魔人レイが来るなんて」
「レキシントンもよ」
「え?」
「最後に落下して来た奴。あいつが魔人レキシントンよ」
「ま、魔人レキシントン…!」
レンの言葉にラギの背筋が凍る。
まさか短期間…いや、ほぼ同時に2体の魔人と遭遇するなど狂気の沙汰としか思えない。
「幸いにもこっちに来ている人間達が居るし、そっちに合流したら?」
レンの視線を追って行くと、確かに集団が近づいてくる。
それは魔軍では無いのは明らかだ。
魔軍ならばあのくらいの数で動いている訳が無い。
「…私は向こうに合流するわ」
「それがいい。情報は共有するに限るからな」
シロウズの言葉にラギは強く頷き、
「皆、元気で…死なないで!」
そう言って走っていく。
「じゃあこっちはこっちで動くか」
「そうですね。でもペンシルカウまでどうやって行きます?」
「それなら私にいい案が有る」
ジルの疑問にシロウズが手を上げる。
「墜落した闘神都市を経由すればいい。魔人は闘神の強さに興味は有っても、闘神そのものには興味が無い。なので墜落した施設を調べるような事も無い」
「それもそうね。じゃあまずは行きましょうか」
そう言ってレン達もランスに合流すべく、ペンシルカウに向けて動き出した。
「チッ…いい所で邪魔しやがって…レキシントンの野郎…」
魔人レイは何とか闘神都市落としの範囲が逃れ、腰を落としていた。
「レイ様、ご無事ですか!」
そのレイに魔物将軍ゾノが駆け寄って来る。
「おう、生きてたのか」
「ええ、何とか…4分の3は犠牲になりましたが…」
魔物将軍ゾノが率いる2万の軍だが、その4分の3となる15,000もの兵が闘神都市落としの犠牲となってしまった。
落ちた場所が場所だけに仕方ないのかもしれないが、被害は大きいと言っても良いだろう。
「また奴に何を言われるか…」
上司であるチューザレに報告をと思うと嫌になってしまう。
このまま魔物界に戻ってしまいたいくらいだ。
「…気にすんな。レキシントンのバカが悪い」
「レキシントン様!? ではあの闘神都市を落としたのはレキシントン様なのですか!?」
「一瞬見えた。あの野郎、横入りしやがって…」
レイは苛立ちを隠さずに呟く。
が、次の瞬間顔を顰めて傷口を押さえる。
「レイ様…その傷は…」
魔人レイの体にはあの人間に斬られた傷がしっかりと残って居る。
しかもその傷口は凍り付き、出血こそ無いがその冷気がレイの体を侵食していた。
「衛生兵! 衛生兵は早く来い!」
「うるせえよ。こんくらいで一々騒ぐな」
レイは氷に手を伸ばすと、その氷を力づくで引きはがした。
その際に派手に出血するが、それでもレイは呻くだけで顔色一つ変えない。
「チ…前より強くなってやがるじゃねえか。しかも傷の治りがおせえ…また何か変化があったか?」
日光とカオスに斬られた訳でも無いのに傷の治りが襲い。
流石にあの二本の剣のように再生能力そのものを殺された訳では無いが、それでも痛いものは痛い。
その内衛生兵らしき魔物兵が来ると、レイに向かってヒーリングをかける。
が、魔人の底なしの体力に比べればまさに焼け石に水だ。
それでもマシな事には変わりないので、レイも好きなようにさせている。
「しかしあんな人間が居るとは…」
「誰にも報告するな。アイツは俺の獲物だ。誰にもやらせやしねえ」
「…分かりました。部下にも徹底させます」
レイから立ち上がる気迫を見て、ゾノはそう答える。
実際、あのいけ好かないチューザレに報告するのは嫌だったが、こうして魔人直々に言われたのだから、その義務は無いのだ。
魔物大将軍よりも魔人は遥かに格上の存在なのだ。
「が、その前に少々休むか。その後は闘神にでもちょっかいかけるか」
「あの人間は宜しいので?」
その言葉にレイはニヤリと笑う。
「こういうのは偶然が一番良いんだよ。実際今回はそれに任せて上手くいったからな」
レイはそう言って魔物将軍ゾノを見る。
「お前、中々使えるな」
「は?」
「使ってやる。この戦争の間、お前は俺の部下として動け」
「は、ははっ!」
その言葉にゾノは高揚を押さえてレイに跪く。
まさか一介の魔物将軍にしか過ぎない自分が、魔人直属の部下として働けるとは思っても居なかった。
まさに幸運が舞い降りた、そんな感じだ。
レイも本来は孤狼と呼ばれる存在だが、やはり人時代の事も有りその性格に若干の変化があった。
それこそが『効率よく戦う』という点だ。
闘うにしてもそれに相応しい場所を作る事が重要という事を、ランスとガイに分からされた。
「この戦い…退屈しねえな」
そう言うレイは本当に楽しそうに不敵な笑みを浮かべるのだった。
「むぐ…」
ランスは目を覚ます。
気で出来た天井が目に入り、ランスはそれを何処かで見た事があると思った。
「えーと…アレからどうなった…」
何があったかはきちんと覚えている。
闘神都市が降って来ただけでなく、魔人レキシントンも降って来た。
ランスはそのレキシントンから逃げている途中で大怪我をした所で記憶が途切れている。
そこで自分の腹に何かが突き刺さった記憶が有り、その部分に触れようとした時、何か温かいものに触れる。
意識がハッキリして感覚が戻って来ると、それが何なのか分かると同時に、ランスの視界に何かが入って来る。
誰かが自分の体を抱きしめているのだ。
今思えば左腕が少し動かし難かったと思ったが、改めて自分の傷口に温かい手が触れられているのが分かる。
「あ…目が覚めましたか?」
ランスが起きた事を察したのか、ランスを抱きしめていた存在が優しく声をかけてくる。
その声にはランスも聞き覚えがある。
「…お前、ハウゼルか?」
「はい。ラ・ハウゼルです。無事でよかった…ランスさん」
ハウゼルはそう言って安心したようにランスを優しく抱きしめた。
闘神都市落としって普通に考えれば凄まじい被害なんですよね
それを考えると町一つは簡単に潰れてもおかしくないのでこうなりました