ランス再び   作:メケネコ

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新たな一歩

「あれから80年…結局何も変わらないな」

 魔王スラルは自分の体が限界に近づいているのを嫌でも自覚せざるを得なかった。

 あれから頭の中には声は聞こえない…だが、代わりに自分の体がいう事を聞いてくれない。

「こんな私の姿を見たら、ガルティアやケッセルリンクは悲しむだろうな」

 自分のしている事はずるい事かもしれないのは十分に分かっている。

 それでも、こんな自分の姿を見られたくは無かった。

「私は…何をしたかったのだろうな」

 生まれてから魔王となり、この世界最強の存在として君臨していた。

 しかしそれは自分が望んだものだったのだろうか。

 臆病な自分は神について調べ、とうとう神へと謁見した。

 そして神からは「絶対に殺せない」という願いを叶えてもらい、その結果無敵結界を得られた。

 同時に魔王が血を与える事で生まれる魔人達もその恩恵に肖り、今やこの世界は魔物の天下…は言いすぎだが、恐れるものは何も存在しないはずだ。

「だが…それが私の全てだったのだろうか」

 魔王となっても孤独である事には何も変わりはしない。

「…ランス、お前は何処へ行ったのだ。そしてまた会えるという言葉はなんだったのだ」

 80年前のあの日の事は今でも思い出せる。

 自分が魔王の血に飲み込まれ、ランスの意志を無視して魔人へとしようとした戦い。

 その結果、ケッセルリンクとカミーラにも止められ、最後は時の聖女の子モンスター、セラクロラスの力によって止められた。

 そしてランスはあの場所から消え、今でもその姿は見つかっていない。

「もう私は…」

 スラルの眼前が歪んでいく。

 魔王である自分が涙を流すなど言語道断ではあるが、目の前に迫っている恐怖からは逃れる事が出来なかった。

「ランス…」

 もう一度その名前を呼んだ時、突如として部屋の中央が光り始める。

「な、何だ!?」

 自分の部屋には結界をしいており、誰であろうと許可無しには入る事は出来ないはずだった。

 目が眩むほどの光に、スラルは思わず目を手で覆う。

「だー! またか!?」

「ちょっとランス! どこ触ってるのよ!」

「まーおー!」

 そこに現れたのは…スラルが求めてやまなかった人物、ランスとレダだった。

「ランス…レダ…」

「ん? あ、スラルちゃんか!」

「え? 本当だ」

「まーおー」

 ランスが目を開けると目の前には自分を魔人にしようとした魔王、スラルがそこにいた。

「むむむ…もう大丈夫なのか?」

「ん? ああ…もしかして、お前にとってはアレは一瞬の出来事だったのか?」

 ランスの様子を見て、スラルはランスがまだあの時の状態のスラルなのではないかと警戒しているのを理解する。

「私の目を見ろ。紅くないだろう」

 そう言われてランスはスラルの顔を見る。

 確かに、前に見た血のような紅い瞳では無く、最初に出会った時の色である緑色をしている。

 が、それ以上にランスが気になったのは、あの魔王がどこか辛そうにしている事だ。

 クエルプランという神に会ったと思ったら、今度はレダ達と共に魔王城にいる…ランスからすれば不可解この上ない。

「うむ…綺麗な緑色だ。だが、突然どうした? 顔色が悪いぞ。そんな一瞬で変わるものではないだろう」

「そうか…お前にとってはそういう認識か」

 ランスの言葉でスラルは今のランスの状況を理解した。

 自分にとっては80年という時間がたっているが、ランス達からすればまさに一瞬の出来事だったのだろう。

「…今説明しよう。まずはお前達が消えてから、80年という時間がたっている」

「は?」

 スラルの言葉にランスだけでは無く、レダも首を傾げる。

「理解出来ぬのも無理は無い。だが、これは事実だ。ここはお前達が消えてから80年後の世界だ。尤も証明は出来ないがな」

「な、何と…」

「まさかこれもセラクロラスの力? でもそれにしては…」

 魔王スラルがそのような嘘をつく理由が見当たらない事と、スラルが元に戻っている事からそれは事実だと判断する。

「で、スラルちゃんはどうしたのだ。顔色が悪いぞ」

「ここ最近な…いや、お前に隠す理由も無いな。私もそろそろ体が限界だという事だ」

 スラルの言葉にランスは首を傾げる。

 彼女は魔王であり、体が限界とだという言葉が理解できない。

 魔王とはこの世界で最強の存在であり、そもそも死ぬという事があるのかどうかと考えた事もあるくらいだ。

「魔王なのに死ぬのか?」

「魔王だから、だろうな。私の願いは分不相応だったというだけだ」

 スラルは自嘲的に微笑む。

 自分の臆病さが招いた事が、結局は自分の命を縮めていたのだ。

「何か方法は無いのか?」

「もう一度神に出会えばあるいは…いや、無駄だな。私ももう一度願いを聞いてもらおうとは思わない」

 レダはその言葉に難しい顔をする。

 神とは即ちレダにとっては仕えるべき存在であり、まさに雲の上の存在だ。

 1級神すらも容易には会えないとも聞いている。

「それに…もう遅い。私も近いうちに消えるだろう…私は魔王の血の器では無かったという事だ」

「レダ! お前はエンジェルナイトなんだろう! どうにか出来んのか!」

「無理よ。魔王はエンジェルナイトよりも格上の存在。私程度ではどうする事も出来ない」

 ランスの言葉にスラルは驚きの表情を浮かべる。

「そうか…レダはエンジェルナイトだったのか」

「別に隠してた訳じゃないけどね」

「いや、構わない。だが惜しいな…もっと時間があれば、色々な事が聞けたのかもしれないのに」

 ここでスラルは咳き込む。

 自分の体の限界を悟る…恐らくはものの数分で自分は消滅してしまうだろう。

「最後にお前達と出会えてよかった。セラクロラスの言った事は嘘ではなかったのだな」

 セラクロラスは「また会える」と言っていたが、こんな状況とはいえども再びランス達に出会えるのを嬉しく思う。

「何を言っておるんだ! まだスラルちゃんは俺様の女になるんだぞ! それが再会したとたんに死ぬとかありえんだろうが!」

「そうか…ランスにとっては私は女か。それもいいものだな」

 ランスは最後の最後まで、自分を魔王としてではなく「スラル」として扱ってくれた。

 生まれた時から魔王ではあったが、こうして一個人として見られるのは悪くは無かった。

「思えば誰もが…私を魔王として見ていたな。いや、当然か」

 ケッセルリンクとガルティアは自分に対しては魔王としてではなく接してくれていたが、ランスにはそんな感情は無かった。

 完全に女として見てくれていたことに、女性として嬉しく思った。

「っ…!」

 襲ってくる痛みにスラルは胸を押さえる。

 時間が無くなっていくのが嫌でもわかる。

「惜しいな…時間があれば、もっとお前達と話せたのに…」

「本当に何とかで出来んのか」

「ああ、無理だ。私では力不足だったという事だ」

 自分は魔王という器では無かった…だからこそ、あのような願いをして消えていく。

 全ては自分で蒔いた種だ。

「スラルちゃん!」

 目に見えてスラルの体から生気が抜けていく。

「…ランス、最後に頼みがある」

「魔王が最後とかいうな! 何かあるはずだろう!」

「ランス!」

 怒鳴るランスをレダが諌める。

 ランスがレダを見ると、彼女はただ首を振るだけだ。

「最後を…見てあげなさい。彼女を思うなら」

「あ…」

 レダの言葉にランスも流石に悟る…もうどうしようもないのだと。

 ランスにとっては短い時間だったが、初めて本格的に『魔王』という存在に触れた時間だった。

 ジルとも美樹とも違う、本質は己に苦悩する普通の少女にしかすぎなかった。

 目の前でこれほどの極上の女が消えるのを見ているしかないというのは、ランスとしても許しがたい事だった。

 が、ランスにもどうしようもないという事実だけだ目の前に突き付けられていた。

「ランス…最後に、その…普通のキスというのをしてもらってもいいか。お前とした時はほとんどSEXの途中だったからな…」

「…本当にどうしようもないのか」

 ランスの言葉にスラルは頷く。

「わかった」

 だからランスも素直にスラルの想いに応える事にする。

「まったく…お前のような美女が死ぬのは世界の損失だぞ」

「ははは…魔王が死んで世界の損失とはな。人間にとっては良い事だろうに」

「やかましい。魔王だろうが神だろうが美女が死ぬのは世界の損失なのだ」

 ランスはスラルの肩を掴むと、

「あー…本当にそれだけでいいのか」

「ああ、構わない」

(もう私の体がもたないからな…)

 覚悟を決めたようなスラルの顔を見て、ランスは一度ため息をつく。

 もう何を言っても無駄だと気付いたからだ。

「いくぞ」

「ああ」

 そしてスラルの唇に静かに唇を合わせる。

 それはランスからすれば本当に何でも無いキスだった。

 そして二人の唇は離れる。

「…これでいいのか」

「ああ、ありがとう…こうして普通にキスをした事も無かったのだな…私は」

 ランスとは体を重ねたが、それは己の中の魔王の血をおさめるためだった。

 だからこそ『スラル』としては初めてのキスかもしれないとスラルは笑った。

「ああ…もっと…色々な事をしてみたかったな」

 スラルの体から力がどんどん抜けていく。

 ランスはそれを苦い顔で見ていた時、

「まーお! まーおー!」

 突如として大まおーが叫びだす。

「む、どうした」

「まーお! まーお! まーおー!」

「ランスの剣を指(?)さしてるみたいだけど」

 ランスは自分の剣を見る。

 それはカオス同様に黒い刀身をした非常に強力な剣であり、悪魔との契約で手にした剣だ。

 そして大まおーに対してトドメを刺した剣でもある。

「まーおー!」

 大まおーはベッドに倒れているスラルに大鎌を振るう。

 大鎌はスラルに突き刺さるが、不思議と血は流れない。

「何をやっとるんだ貴様!」

 ランスが怒鳴るが、大まおーは気にせず大鎌を引き抜く。

「え…ランス!」

「なんだ! ん!?」

 大まおーの鎌が引き抜かれると、そのまま半透明のスラルも同時に浮かび上がる。

「まーおー!」

 大まおーはそのままランスの剣を指さす。

 そこでレダは大まおーが何を言いたいのか気づく。

「ランス! その剣でそのスラルを斬りなさい! 彼女を死なせたくないなら! 急いで! 時間が無い!」

 このままスラルが死ねば、彼女の魂は回収されいずれは創造神の元へと戻る。

 それがこの世界の摂理であり、エンジェルナイトはそれを守るべき存在でもある。

 だが、レダは敢えてそれに背いた。

「何だかわからんが…とーっ!」

 ランスは大鎌によって出てきた半透明のスラルをその剣で斬る。

 するとスラルはまるでランスの剣に吸い込まれるかのように消滅する。

 それと同時に、スラルの肉体が消滅し、残ったのはスラルがつけていた大きなマントだけだ。

「…何かあるのか?」

 ランスはこの一連の行動を不信に感じているが、大まおーはやり遂げたと言わんばかりに胸を張り、レダも複雑な表情をしている。

 ランスはこの世に残った最後のスラルの証である、マントを手に取る。

 今見てみると、このマントは小柄なスラルの体には大きすぎる。

 それでもこれをつけていたのは、やはり魔王としての威厳を出すためだったのだろうかとも思う。

「まったく…あれだけ苦労した魔王がそう簡単に死ぬだと? どうなっとるんだ」

「そうね…世の中不思議なことだらけだわ」

「そうだな。スラルちゃんにも分からない事はあったのか」

「世の中分からない事だらけよ。でもだからこそ知識を集めるのは楽しいわね」

「そうか…あん?」

 今になってランスは誰と会話をしていのかと首を傾げる。

 今の声は明らかにレダの声では無い。

 大まおーを見るが、まさかこんな奇妙な物体がスラルと同じ声で話すなど考えられない。

「ここよ、ここ」

 ポンッ! と音を立ててランスの剣の宝玉から何かが出てくる。

 それは人の形をしている…と、言うよりも明らかに先程倒れていた魔王…スラルの姿をしていた。

「スラルちゃん!?」

「ええ、そうよ」

 そこには透き通った体を持つ、魔王スラルの姿がそこにあった。

「…どうなっとるんだ? 鈴女も似たような事をしとったが」

 ランスは過去に死んだ自分の友人である鈴女の事を思い出す。

 彼女もこの世に未練があったのか、幽霊となってこの世界に残っていた…すぐに満足して成仏したようだったが。

「私にもよく分からないけど…ランスの持ってるその剣の力じゃないかな?」

 改めて剣と見ると、その柄に埋められていた宝玉が青く光り輝いている。

「何だか良く分からんが、スラルちゃんとこうして話せるならばそれでいいのだ!」

 ランスはそう言ってスラルを抱きしめようとするが、その手はスラルの体を通過してしまう。

「む」

「いや、私今幽霊みたいだし。あ、魔王でも無くなってる」

 スラルは自分の体の中にあった魔王の血が無くなっているのに気づく。

 まあ幽霊なので血も何もあった物ではないが、魔王であった時の不快感が消え頭の中もさっぱりしている。

 その時、

「スラル様!」

 ケッセルリンクが部屋に飛び込んできて、その少し後にカミーラが飛び込んでくる。

「スラル様! な…ランス! レダ!」

「おー、ケッセルリンクとカミーラではないか」

「また会ったわね。ケッセルリンク」

「ランス…お前は何故…いや、それよりもスラル様は?」

「まあ待ちなさい。今説明するから」

 

 

「…そんな事が」

 スラルの説明を聞きケッセルリンクは大きく口を開ける。

 一方のカミーラはスラルに対しては興味は無いようだ。

「ランス…私の使徒になるために再び現れたか」

 カミーラはランスの顎を掴むと、そのまま唇を重ねる。

「カミーラ!」

 スラルは抗議の声を出すが、カミーラはスラルに興味が無いという感じでランスの唇を貪る。

 無論やられっぱなしのランスでは無く、直ぐにその舌を押し返すと、まだキスに対して不慣れであるカミーラは直ぐに守りに入ってしまう。

 ランスの舌を口内に入れぬべく抵抗するが、直ぐにそれは砕かれその舌の侵入を許してしまう。

「いい加減にしろ! カミーラ!」

 スラルの声を無視し、カミーラはランスとのキスを堪能する。

 2人の唇が離れると、カミーラは感情の籠らぬ声で、

「スラル…貴様はもう魔王では無い。このカミーラに命令することは出来ない」

「魔王…ではない? いったい何が?」

「私の体が魔王の血に耐えられなくてね…血に飲み込まれて消滅しちゃった。でもランスの剣のおかげでこの世界には留まれているって事よ」

 スラルの説明にケッセルリンクは納得するが、

「その…スラル様。口調が随分と…」

「あはは…もう魔王じゃ無くなったから。もしかしたらこれが本来の私なのかもしれないわね」

 スラルの微笑みにケッセルリンクも微笑みで返す。

 どのような事があったとはいえ、こうして自分の主が笑っていてくれる事がケッセルリンクには嬉しかった。

「ですが魔王がいなくなったという事はどうなるのでしょうか」

「それは…私にも分からないわね」

 ケッセルリンクとスラルは首を捻るが、カミーラだけは顔を歪ませていた。

「…直ぐに分かる」

 カミーラが忌々しそうに言うと、スラルの部屋に置いてある花が突如として開く。

『お知らせいたします。新たな魔王ナイチサが誕生しました。これからの年号はNCとなります。皆様お間違いなきよう…」

 その花が言葉を発したかと思うと、直ぐに花が閉じていく。

「…はっ?」

 ランスはポカンと口を開いている。

 今、この花は何と言った? 

「今、新たな魔王が誕生したとか言わなかったか」

「…いや、確かに私も聞いた。魔王ナイチサが誕生したとな」

 2人は顔を見合わせたかと思うと、直ぐに濃厚な気配がその場に居る全員を襲う。

「これは…」

「再び繰り返す…か」

 ケッセルリンクは呆然とし、カミーラは何かを噛みしめるように唇を歪ませる。

「おいスラルちゃん! 君が魔王なんじゃなかったのか!」

「私に聞かれても…確かに魔王じゃ無くなったけど、もう新しい魔王が生まれたの?」

「そうだ。スラル、貴様が現れた時と一緒だ。この花が言葉を発し、新たな魔王が生まれた事を知らせる」

 カミーラの言葉にレダを除く全員が絶句する。

 まさか魔王がいなくなったと同時に、新たな魔王が生まれるなど想像もしていなかった。

 唯一、カミーラだけは500年前にも同じことが起きたため、苛立ちを隠してもいない。

「まずいわね…魔王の気配が近づいてくるわ」

「ランス、ここから逃げるわよ」

 スラルが部屋に備え付けてある人の形をしている彫像を指さす。

「どうやってここから逃げる」

「この像の首を回して」

 ランスがスラルの指示通りに首を回すと、音を立てて彫像が動き、その奥には扉が現れる。

「…スラル様」

「いや、脱出口とか作ってみたけど…魔王だったから結局一度も使わなくてね。でも作っておいて良かったわ」

 スラルは何処か楽しそうに笑う。

 その様子にケッセルリンクは呆れてしまうが、スラルは楽しそうに笑っているのでそれでも良かったと思った。

「カミーラ…」

 ケッセルリンクはカミーラを見るが、意外にもカミーラはランス達を止めるつもりは無いようだった。

「いいのか?」

「今は構わぬ…新たな魔王がどのような魔王か分からぬ以上、ランスを使徒とする訳にもいかぬ」

 魔人は魔王の命令に逆らえない以上、ランスを使徒にするのは少し危険に感じた。

 スラルはランスを生かしていたが、新たな魔王がランスを生かしておくという保証は何処にもない。

 ただランスを使徒にするのではなく、自らの意志で使徒になるように仕向けたいカミーラとしてはそれは憚られた。

「いいのか。再びランスに出会えるとは限らないし、その時には死んでいるかもしれないぞ。それにランスは人間だ…寿命で死ぬぞ」

「ククク…この男がその程度でどうなるとも思えぬがな」

 カミーラは不敵に笑う。

 ランスとはまた再び出会う事になる…それを確信しているようだった。

「準備は完了よ! 行くわよ! ランス!」

 特に持っていくものも無いが、念のためにレダは確認を怠らない。

「うむ…じゃあケッセルリンク、カミーラ、またな」

 その言葉を最後にランス達が扉の向こう側に消えていく。

 扉が閉まると、彫像が勝手に動いて扉を隠す。

 そして聞こえてくる魔物達の歓声と、濃厚になる魔王の気配。

「…行ったか」

 ケッセルリンクはランス達が消えた場所をジッと見ている。

 その顔には何時の間にか笑みが浮かんでいた。

 ランス達と再び出会えた事、そして魔王から解放されたスラルの笑顔。

「新たな魔王が呼んでいるな」

 ケッセルリンクとカミーラに新たな魔王の命令が届く。

「ああ…しかし魔王とは一体何なのだろうな」

「さあな」

 ケッセルリンクの言葉にもカミーラは特に感情を込めずに応える。

 誰が魔王になろうがカミーラには然程興味は無い。

 だが、その目は今までのような退廃的な目はしていない。

 2人は魔王のいる場所に向かって歩き出した。

 ここから新たな時代―――人間にとっての苦境の時代が幕を開けた。

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫だろ」

 あれから休まず走ってきたランス達はようやく一息ついていた。

「私は楽だったけどね」

 スラルはランスの剣から体を出すと、二人にタオルを渡そうとして、その手が通過してしまう事に口をへの字に変える。

 レダはランスにタオルを渡し、自分も流れる汗をタオルで拭き取る。

「で、これからどうするの?」

「うーむ…まさかここに来て自由になるとはな」

 思えば最初にカラーに出会った時、他の人間とは結局出会う事は出来なかった(男の事など覚えていません)。

 その後は魔王に捕らわれ、当然自由など無かった。

「色々回ってみるのもいいかもしれんな。何より…スラルちゃんがこのまま幽霊のままだとSEXが出来ないではないか!」

「え…」

 ランスの言葉にスラルが赤くなる…のだが、幽霊なのでその顔色までは分からない。

「うむ、まずはスラルちゃんの新しい体を探してみるか」

「清々しいまでに目的が女なのねー。まあランスらしいと言えばランスらしいけど。それよりも、ホラ」

 レダは1枚のマントをランスに差し出す。

 それはスラルがしていた大きな黒いマントだ。

「うむ、前のはカミーラとの戦いで無くなったからな。おお、意外とちょうどいい」

「じゃあ…まずは人里を探してみる? 時間は十分ありそうだし」

「そうだな。本格的に体を休める場所が必要だ」

 ランスの顔には何時もの自信に満ち溢れた力が戻っていた。

(色々とあったが、終わりが良ければ全て良しだ。それにあいつらを探さなきゃならんしな)

 離れ離れになったシィル達の事を思い出す。

(まったく、あいつらは俺様がいなくなってピーピー泣いてるに違いない。お前らから探しに来るのが筋だろうが。これはオシオキだな)

 ランスは新たな世界で一歩を踏み出す。

 魔王スラルが血に飲み込まれ、新たな時代…NC期が始まる。

 違うのは、かつての魔王であるスラルが己の意識を保ってランスの側に居る事。

 女神ALICEの目論見は、最早完全に破綻してしまっている事をまだ彼女は知らない。

 小さく、だが確実にもう一つの世界の歯車は動き出した。

 

 

 




SS期終了
次からはNC期が始まります
スラルちゃんおオチはランス10のあの人
悪魔って便利過ぎますよ…鈴女みたいに頼り過ぎないようにしないと…
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