魔物界―――
普段は魔物に溢れて慌ただしい魔物界だが、今は人間との戦争なのでより強い熱気に溢れている。
誰もが人間を殺しに行きたいが、魔王は魔物兵の総動員を許さなかった。
正確には魔人筆頭であるバークスハムがガイを止めたのが原因だが、それでも戦争をしている事には変わりない。
誰もが次は誰だと思っている―――一部の魔人を除いて。
そして魔人になってから300年程で魔人四天王の地位にまで上り詰めた―――正確にはノスが魔人四天王の座を退いたので、繰り上げてその座に就いた魔人シルキィはこの戦争に心を痛めていた。
「…私が魔人になる事で人類は自由になったのに」
シルキィはガイによって魔人に勧誘される際に一つの条件を出した。
それは人類を魔王及び魔人の支配から解放する事、普通に考えれば無茶な要求だ。
だが、魔王ガイはそれを受け入れた。
そして本当に人類を解放し、人類は自由を得た。
そこからは人類同士の争いとなったが、それに関しては仕方の無い事とシルキィは割り切っていた。
魔物に蹂躙され殺されるよりも何倍もマシだろう。
それに魔物同士でも争いや諍いはあり、そこは人間と何も変わらないという事が分かった。
それからはシルキィは静かに人類を見守っていたが、まさかの戦争が始まった。
シルキィはガイに意見をしたが、ガイはそれを退けた。
いかにシルキィでも魔王の絶対命令権の前には無力、結局は何も出来ずに居る。
「酷い被害にならないと良いんだけど…それとランス君達がこの時代に居ないといいんだけど…」
シルキィは人類と、そして自分と共に魔人と戦った仲間達の事を思う。
いくらランスが強くても、現在は魔人は14体も参戦している。
日光が無ければランスがいくら強くても魔人には勝てない。
魔人は連携が取れないので、魔人が袋叩きにしてくるという事は無いが、それでも今のランスには魔人の相手は厳しいだろう。
しかもカミーラ、ノスという四天王もこの戦いに参加している。
カミーラはそれ程積極的では無いが、それでもランスを見つければ喜々として襲いに行くだろう。
その事を考えるとどうしても心配になるのは姉として当然の事だ。
「シルキィ!」
「あ、ハウゼル」
シルキィが色々と考えていると、そこに友人であるラ・ハウゼルが飛び込んできた。
「どうしたの? まかさカラーに何かあったの?」
「いえ、そうじゃありません。あなたに協力して欲しくて」
「私に? 今私に出来る事はそんなに無いと思うんだけど」
「私じゃ無くて、ランスさんです。ランスさんがこの時代に現れました」
ハウゼルの言葉にシルキィは目を見開く。
「…そっか。やっぱりランス君は巻き込まれちゃったんだ」
自分の心配が当たってしまった事にシルキィは唇を噛むしかない。
出来れば戦争に巻き込まれて欲しくは無かったが、やはりランスはそういう宿命なのかもしれないと思ってしまう。
「もうレイとレキシントンと戦いました。闘神都市の落下に巻き込まれて、ランスさんも酷い怪我を負ってしまって…」
「でも峠は越したのね。ハウゼルがこうして私に会いに来るくらいだし」
「はい。今はカラーの里で療養してます。みんなも一緒ですよ」
「そう…取り敢えず無事なのね、良かった」
シルキィは安堵の表情を浮かべた後、真剣な顔に変わる。
「それで私は何をすればいいの?」
「ペンシルカウに向かってください。迎えのカラーの方が居ますから」
「そう、分かった…と言いたいけど、少し待って。色々と材料を持って行かないといけないし」
「材料?」
「そう。ランス君が戦いに巻き込まれるのは分かっていた事だしね。こういう事もあるかと思って色々と準備はしていたの。私がしてあげられるのはこれくらいだから」
そう言ってシルキィは寂しそうに笑う。
魔王の命令が有る限り、シルキィはこの戦争を止めることは出来ない。
だが、ランスに協力するくらいならガイも何も言ってこないだろう。
何か因縁があるようだが、もし魔王が本気でランスを始末したいのならば、あの時にランスは殺されていたはずだ。
それをしないという事は、ガイはランスを泳がせているのだ―――人間が何をしようが魔王には敵いっこないのだから。
「ハウゼル。あなたはこれからどうするの?」
「私はこれからケッセルリンクの使徒の所へ行きます。彼女達もランスさん達の事を心配してるでしょうし、彼女達は主であるケッセルリンクの命令で動くのですから、魔王様も特に何も言わないでしょう」
「そうね…魔王様は意図的にケッセルリンクを見逃しているでしょうしね。それにランス君も彼女を何とかしたいって前々から言ってたし。その辺はあなたに任せるわ。じゃあ私は準備するから」
そう知ってシルキィは目を輝かせて何やら怪しげなモノを手に取り始めた。
「あ、リトルは脱いでいってね。それ着てたらランスさんはあなただって分からないから」
「…あ、そ、そうね。もうずっとリトルを身に纏ってるから、そんな意識も無かったわ」
リトルを身に纏い、巨人のような姿になっているシルキィを見て苦笑しながら、ハウゼルは次の行動を始めた。
ケッセルリンク城―――
魔人四天王ケッセルリンクの城―――それは非常に豪勢な建物と言っても良かった。
ただ、豪勢と言っても下品な感じはせず、落ち着いた趣のある城だ。
だが、この城には本来の主は居ない…居るのはその使徒達だけだった。
ケッセルリンクが行方不明となりもうすぐ400年になるが、彼女達は特に慌てることも無く、いつ彼女が戻って来ても良いように城を整えている。
それが彼女達の日課だ。
「それにしても人間との戦争…予想以上に長いですね」
使徒の1人であるバーバラは少し呆れたように呟く。
「そうですよねー。魔人が14体も動いているのに、よくもっていると思いますよー。JAPANにも魔人と戦った記録が残って居ましたけど、魔人ザビエル一人と魔軍だけで人類軍は壊滅に近い被害がありましたから」
加奈代の言葉にエルシールは苦笑する。
エルシールはその魔軍と人類の戦いに参加していたが、実際にはJAPANの軍勢だった訳では無い。
ランスと共に行動を共にし、魔軍と魔人レキシントンを相手に戦いを繰り広げた。
ただ、それは人類の記録には残らない戦いだった。
「10年…驚異的な時間ですね。いくら魔人の方々が本気ではないとはいえ、よく保っているとは思います」
「私達は私達で大変でしたけどね…」
シャロンとパレロアは過去を思い出し同時にため息をつく。
今思えばよくこうして生きていられたと思うし、同時に主とランスによって守られていた事を嫌でも感じられる。
「ランスさん…もしかしたら今の時代にいるかもね」
「そうね…あの方はそういう星の下に生まれた人ですから。もう魔人と交戦して居てもおかしくは無いですね」
エルシールは心配そうにため息をつき、シャロンも同じようにため息をつく。
その時、窓からノックをする人影が見える。
「あら…珍しい事もありますね。ハウゼル様が正面玄関からではなく、こんな所から来るなんて」
パレロアは慌てる事無く窓を開け客を招き入れる。
「お久しぶりです、ハウゼル様。こんな所から来るのは珍しいですね」
「ごめんなさないね。ちょっと急いでいて」
ハウゼルは少し頬を上気させている。
どうやら急いでここに飛んできたようだ。
「皆さん、話が有ります」
「何でしょうか」
メイド長であるエルシールを中心に、使徒達が集まる。
「ランスさんがこの時代に居ます」
「…やはりですか」
「今はペンシルカウに居ます。そしてケッセルリンクさんが、皆に協力して欲しいと」
「ケッセルリンク様が?」
ハウゼルの言葉に皆が驚く。
「今の状況を動くのには皆さんの協力が必要との事です」
「分かりました。それがケッセルリンク様のお望みならば」
エルシールは躊躇いなく答え、他の者達も皆頷く。
「ありがとう御座います。私はランスさんの所に行かないといけません。皆さんの迎えはカラーの方が協力してくれます。じゃあお願いしますね」
そう言ってハウゼルは慌ただしく飛んでいく。
「エルシール」
「ええ、シャロンさん。こういう時のために動ける準備はしていましたからね」
メイド達は既に準備万端だ。
いつ主の指示を受けられるように常に備えていた。
そしてついにその時が来たのだ。
「私達が動いても大丈夫ですか?」
バーバラは少し不安そうにしているが、エルシールは大丈夫だと言わんばかりに微笑む。
「大丈夫ですよ。私達はケッセルリンク様の命令で動くんです。それに魔王様も特に私達に何も言ってこないでしょう。その気なら、私達はどうとでもされていたはずですから」
「そうですねー。魔王様は厳しいですけど、たまに寛容な方ですからねー。大丈夫ですよ」
「では、私達も動きましょう。全てはケッセルリンク様のために…そしてランスさんの手助けのために」
「「「はいっ」」」
「あ…はい」
シャロン、パレロア、加奈代が返事をし、遅れてバーバラが返事をする。
「では行きましょう…ペンシルカウへ」
「…それにしても怒涛の体験だった。大将、あなたは一体何者なのか、興味はつきないな」
シロウズはランスを見て口元に笑みを浮かべる。
「男に興味を持たれてもウザいだけだ。俺様を見るな」
「詮索するなら殺さないといけないんだけど、そんな馬鹿な事はしないわよね」
レンの圧力にもシロウズは笑ったままだ。
「確かに興味は尽きない。だが、それ以上に私は大将の力を見てみたい。その過去も気にはなるが、私に必要なのは未来だ」
「…言ってる事はカッコよく聞こえるが、お前のその頭部が台無しにしているな」
シロウズの言葉にメイはずばりと斬り込む。
「で、あなたはどうなの? 今の現状は理解しているんでしょ?」
「俺はカラーの皆を守れるのであれば何であろうと構わない。それに、この男の力…非常に興味深い。見ているだけその強さを感じられる」
メイはランスを見て不敵に笑う。
「お前はリックと同類か…まあ女だからいいか」
ランスはメイを見てリックを思い出すが、メイはいい女なので許す事にする。
(それに体は筋肉だが、やはり女らしい体をしてるからな。うむ、全然いけるな)
メイは確かに筋肉質な肉体だが、それでも立派に女をしているとランスは感じる。
ミネバのような奴は論外だが、彼女は女性的な魅力も兼ね備えている。
これなら全然イケるとランスはニヤリと笑うが、その笑みを見てメイが鋭い眼光をランスに向ける。
「むむ…なんつー眼光だ」
ランスは取り敢えずそそくさとその場から離れて誤魔化す事にする。
外に出るともう日が暮れており、ペンシルカウは非常に静かだ。
結界は張られているが、何時魔軍が襲ってこないとも限らない。
なので外では僅かな明かりしかない。
ジルは魔法で明かりを灯し、少し不安そうに声を出す。
「ランス様…凄い事になって来ましたね」
「別に普通…いや、違うな。感覚がマヒしてきたぞ。だが俺様なら問題無い」
「でもカラーは大丈夫なんですか? もしこれからカラーが魔人の手先のような扱いをされたら…」
「それは大丈夫だろ。人間はカラーにまで気を回す余裕なんて無いからな。この辺は魔物が占領しているしな」
現状を教えてもらうと、確かにカラーはもう大ピンチ…いや、詰んでいる状態だ。
ただ、ハウゼルが魔軍に対して睨みをきかせているのと、魔物達はカラーを目標とはしていない事から、カラーが魔物に狙われる事は無いだろう。
その上で動く必要は有るが、ランス達には一番の問題が有る。
「問題はどうやってあそこの闘神都市に行くかだな」
「そうですね…魔人達はどうやって行ってるんでしょう? 空を飛べるサイゼルさんや、カミーラならともかく、レイやレキシントンはどうやって行ってるんでしょうね」
「飛行魔物兵じゃ。魔物兵の中には空を飛べるものも居る。それに掴まって行っているのじゃよ」
「エアリスさん」
「ただ、魔人は闘神都市の砲撃には無傷じゃが、魔物兵はそうもいかん。魔人達も闘神都市に入るのにはそれなりに時間がかかるのじゃよ。魔人カミーラとサイゼルを除いてな」
カミーラとサイゼルは空を飛べる。
無敵結界もあるので、闘神都市の砲撃など意にも介さないだろう。
「じゃが、カミーラとサイゼルは闘神都市への攻撃は殆どしておらぬとの事じゃ。カミーラとサイゼルは本気で闘神都市を落とすつもりは無い、始祖様はそう言っていたな」
「ありえる話だ。カミーラの狙いはあくまでもランス、お前のはずだ。それにサイゼルは短気だが飽きっぽい所がある。10年も戦い続ける程、サイゼルは戦いに飢えている訳では無い。カミーラは良く分からぬがな」
「おお…先は挨拶もせずに失礼致しました、偉大なるカラーの英雄ケッセルリンク様」
エアリスはランスの剣に向けて恭しく頭を下げる。
「ふむ…私の事情を知っているという事は、正しく伝えられているという事か?」
「ええ。妾はカラーの女王、正しき歴史を受け継いでおります。故にこの者の事情も知っております。それを考慮した上で、カラーはどう動くべきか、見定めておりました」
「君は中々聡明のようだな。良ければこの件でランスを助けてやって欲しい。ランスもお前達を助けてくれるのは間違いない」
「勿論です。この者は魔人メディウサを倒しカラーを救ってくれた英雄…それを公には出来ませぬが、今の時代のカラーの英雄を生み出してくれた者ですから」
「カラーの英雄…メイトリックスか。成程、彼女は確かに強いな。カラーだった頃の私より強いかもしれない」
ケッセルリンクの言葉にランスは驚く。
「お前よりもか? お前だって相当強かっただろ。あの変なムシ相手に一歩もひかなかっただろうが」
「ヴェロキラプトル…懐かしいな。ランス、カラーの時の私の強さは知ってるだろう。確かに魔法と剣は使えたが、弓と呪いには縁が無かった。だが彼女はその力も持っている。まさにカラーの英雄…それこそカラー界の藤原石丸になれる器だよ」
「お前がそこまで褒めるのか。だったら俺様にもついて来れるな」
「ランス様…」
「ジル、こっから先は足手纏いはいらん。少なくともヘルマンの時の連中クラスの強さが無ければ女でも駄目だな」
ランスの言葉にジルは驚く。
それだけランスは本気だし、相手が強大だと認めているのだ。
「本気だな、ランス。だったら私からお前に話がある。スラル様も聞いて欲しい」
「なんだ、ケッセルリンク」
ジルの口調が変わり、スラルが言葉を放つ。
「ランス、お前の中にいるククルククル様とバスワルド、その力を完全に分けるべきだ」
「あん? 何言ってるんだ」
「確かに私の言っている事は不可解に聞こえても無理は無い。だが、その力を安定化させるべきだ。今はバスワルド…サイゼルの力が強い。だが、その力を使えばククルククルが優位に立つ」
「俺様ならば問題無いぞ。どっちだろうが俺様の剣の腕は変わらんだろうが」
ランスは本気でそう言っている。
この剣は手に馴染むし、ククルククルとバスワルド、どっちの力が強くてもランスの剣技には影響は少ない。
口では文句を言っているが、どっちの力でもランスは強いのだ。
「だが、ククルククルの力では無敵結界は斬れない。しかし、バスワルドの力ならば無敵結界を無視出来る」
「む…」
「思い当たる所は有るはずだ。お前が初めて無敵結界を斬った時、スラル様の力を借りてレキシントンの無敵結界を無視してダメージを与えられた」
「…確かにそうだが、正直今の状況でアレは使いたく無いぞ。レベルが下がる」
確かにあの力は強力だが、剣の中に居たスラルの魔力の低下が激しい上に、ランスの経験値すらも下がるという副作用がある。
バスワルドの力は強力だが代償も大きく、ランスの経験値を犠牲にしてしまうのだ。
そしてこれからの激闘を考えると、ランスのレベルが下がるのは好ましくない。
勿論使う必要がある時は使うが、それは魔人を確実に殺せる時以外に無い。
そしてそんな事をするくらいなら、日光さえあればランスは魔人に十分に対抗できるのだ。
「だからだ。力を安定させるんだ。ランス、お前はその辺りの所が無頓着過ぎる。剣そのものはお前の力は疑わないが、流石にククルククルとバスワルドに関しては話は別だ」
「………」
本気でランスを心配して言っているケッセルリンクの言葉には流石のランスも何も言えない。
確かに力を自在に使えれば魔人相手にも戦えるかもしれないのは事実だ。
いくらランスが強くても、流石に魔人が相手では一人で戦うなど無謀過ぎる。
「でもそんな事出来るんですか?」
ジルが疑問に思うのも当然だ。
ランスの剣の中の出来事で、ランス自身も介入は出来ない。
バスワルドの力が増すのはハウゼルとサイゼルとセックスが出来るからだ。
ククルククルはそれに比べると力の増減が無い。
「しばらくの間はお前も動けないだろう。その間に力を安定させればいい」
「だからそのやり方が分からんのだろうが!」
「問題無い。伊達に私もお前の剣の中に居た訳では無い」
ランスを安心させるようにケッセルリンクが優しく言う。
「俺様はどっちでも良いんだがな。あ、だがバスワルドの方が良いか? 女だしな」
ランスも日光とカオスどっちが良いか聞かれれば当然日光を選ぶだろう。
日光もカオスもランスとは相性が良いので、そこからはもう好みの問題だ。
今のランスは剣も刀も使えるので、本当にランスの好みの問題になっている。
「ランスさん」
「早いな。もう戻って来たのか」
ランスの名前を呼んだのはハウゼルだ。
アレから直ぐに魔物界に戻り、シルキィとケッセルリンクの使徒に会いに行ったはずだが、もう戻って来たようだ。
「ええ、飛ばしましたから。時間は有限ですし…何よりも、私はこの戦争が早く終わって欲しいと思ってるんです」
「魔人らしくない奴だな」
「そうですね、姉さんからも良く言われます。シルキィさんは準備があるから少し時間がかかるみたいです。ケッセルリンクさんの使徒も同じです」
「じゃあ少し時間が有るな」
動くとすれば彼女達が来てからの方が都合がいい。
魔軍もカラーに対しては目立った動きを見せていない。
なのでランスも思う存分準備が出来る。
どうせこの戦いは闘神都市が全て落ちて、聖魔教団の指導者が死んで終わりなのは分かっているのだ。
ランスも態々こんな所で死ぬ必要は無いのだが、それでも動く必要は有る。
ケッセルリンクを元に戻すためには、どうしても聖魔教団の遺産が必要なのだ―――少なくともランスは本当にそう思っている。
「しかし暫くの間は動けんな」
「そうですね、ランス様。魔物兵達もこっちには来てないみたいですし」
「束の間の休息だ。それまでは…ハウゼルと楽しんでいればいい。彼女もそれを望んでいる」
ケッセルリンクはランスの剣の中で苦笑しながらそう言うと、そこから先は一切口を開かなくなる。
「ケ、ケッセルリンク!」
ハウゼルは抗議するように彼女の名前を呼ぶが、返事が返って来ることは無い。
代わりに、ランスの手がハウゼルの大きくて形の良い尻に触れる。
「あいつの言う通りだな。少なくともサイゼルにやった分、お前ともセックスしなければいかんからな」
「…もう、あの時は本当に大変だったんですからね」
ハウゼルとサイゼルは感覚が繋がっている。
サイゼルがランスと楽しんでいたのは感覚で分かったが、それが突然切れた。
感覚が戻って来たのは10年後だったので、ハウゼルも事情は察したが、そんな事よりも姉がランスとほぼ毎日のようにセックスをしているのは恥ずかしかったし、羨ましくもあった。
「だから今度はお前の番だ。ちなみにアイツは口では色々と文句は言っていたが、セックスの時は俺様の要求は何でも聞いていたぞ」
「ね、姉さんったら…やっぱりランスさんと毎日のようにエッチな事してたのね…」
ランスの言葉通り、サイゼルはランスの要求は何でも受け入れていた。
勿論口では文句を言うが、絶対に折れてくれていたし、サイゼルもセックスを楽しんでいた。
「お前はそればかりだな…が、まあ今は何も言うまい。今のお前には必要な事だ」
ケッセルリンクは呆れたように声を出すが、どうせランスは止まらない。
「がはははは! じゃあ行くぞハウゼル!」
ランスはハウゼルを抱き上げるとそのまま魔法ハウスへ向かって走って行ってしまった。
「さて…我は我で色々とやる事があるな。ジル、少し体を借りるぞ」
「あ、はい」
スラルがジルに話すと、ジルは直ぐに意識を引っ込める。
「ふむ…安定はしてきたな。ジルの肉体の成長に合わせて魔王の血が暴れると思ったが、その様子も無い。これなら近いうちにジルに完全に意識を渡せるが…」
問題は自分の事だとスラルは悩む。
(我も自在に扱える己の肉体が欲しいものだ…IPボディではなく、きちんとした己の肉体が。まあ無い物ねだりか)
自分は生まれつきの魔王、そしてその肉体は魔王の血に呑まれてしまった。
それも自業自得なので、スラルは何も言わない。
だが、やはり彼女には寂しさを感じていた。
(本来の体で…人としてランスと会いたかったのかもしれんな、我は。ありえない事ではあるが、それでもそんな事を考えてしまう…未練だな)
スラルは自嘲しながらも、次の行動に向けて動き出すのだった。