ランス再び   作:メケネコ

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第一次魔人戦争⑬

 ラ・バスワルドの言葉は唐突だった。

 ランスは唐突にどちらかを選ぶように迫られた。

 が、ランスは当然のように言葉を放つ。

「どっちかならお前に決まってるだろうが。お前の力が無いと魔人を倒せんからな」

 当然、ランスはバスワルドを選ぶ。

 そもそもランスはバスワルドの力を用いて無敵結界を何とかするという事を考えていた。

 途中で今のランスの剣よりも遥かに効率が良い、日光が手に有ったのでそこまで求めなかっただけだ。

 確かにバスワルドの力は強いのだが、その技には副作用が有り、自身の経験値を犠牲にするというランスにとっては非常に痛い欠点が浮き彫りになってしまった。

 今のように高レベルになると1レベル上げるのも大変なので、ランスとしてはバスワルドの技を使うのも避けるようになった。

 ただ、ランスにも思う所も有った。

「だが、あいつはあいつで剣としては使いやすいし、魔人を相手にしないのならあいつでも問題は無いんだがな…」

 あいつとは勿論ククルククルだ。

 オーソドックスな剣の姿となるバスワルドの力と違い、ククルククルの場合はかなり異質な剣となる。

 剣というよりも鈍器のように使える事も有り、ランスのスタイルにも実はマッチしていた。

 その点を考えると、剣…いや、武器としてはククルククルの力が有る方が使い勝手が良かった。

 それはどちらに魅力が有るという事であり、一人の戦士としては両方あって困るものでは無かった。

「あ、あの…ランスさん…」

「何だ、ハウゼル」

「その…彼女が凄い不機嫌になってるんですが…」

「は?」

 ハウゼルの言葉にランスはバスワルドを見る。

「うげ」

 そしてその顔を見て、確かにランスはバスワルドが不機嫌になっているのを察した。

 表情は変わらないが、周囲の空間が揺らいでおり明らかに怒っている。

「何故お前は奴の力を望む。お前は最初から我の力を望んでいたはず。奴はイレギュラーだ」

「確かにお前の力は凄いが扱いが難し過ぎる。お前に教えてもらっても副作用があるんじゃ特訓も出来ん」

 ランスの言葉にバスワルドは無言になる。

 バスワルドにはランスの言葉が分からない。

 彼女にしてみれば世界を崩壊させる力は腕を振る程度の行為でしかない。

 それは当たり前で有り、ランスの言う副作用も特訓という言葉も『神』である彼女には分からない言葉なのだ。

 ただ、ランスの剣の中に居る以上は情報は入って来る。

「…もう一度問う。お前は我と魔王の力、どちらを望む」

「そりゃ女の方が良いに決まってる。お前の力を…」

 ランスがそう言おうとした時、轟音と共に地面から音が聞こえてくる。

「な、何ですか!?」

「またこのパターンか…というかお前等まだこんな事やっとるのか!」

 呆れたようにランスが言うと、もうお約束のようにククルククルが地面が姿を現す。

「お前等いい加減にしろ! 俺様の剣の中で何時まで暴れてるつもりだ!」

 ランスは文句を言うが、二体の人を遥かに超えた存在は互いに睨み合っている…のだろうか。

 何しろバスワルドもククルククルも全く感情を感じさせないのだから、表面上は何も分からない。

 するとククルククルがランスがランスに近づいてくる。

「む、何だ」

 ランスの言葉に何も答えなかったが、その腕から生えている翼のように広がる触手をランスに向けてくる。

 その触手でランスの剣を指さす様な仕草をする。

 そして何か勝ち誇ったかのように、先端の女性の顔を模した部分が笑みを浮かべているように見える。

 それを見たバスワルドはやはり表情は変わらないが、ランスの側に近寄るとその剣に触れる。

「………」

「………」

 再び無言で睨み合ったかと思うと、バスワルドがランスに目を向ける。

「どちらを選ぶ」

「…お前等、暇なのか?」

 ランスは呆れたように呟く。

「あの…ランスさん、これはどういう事なのでしょうか…」

「うむ…こいつらは俺様の剣の主導権をどちらが握るかを争っとるんだ。最近はバスワルドの方が力が増して来たようだが、何時の間にかこいつも力をつけてきたみたいでな」

「…今更ながら、凄い事が起きてますね」

「こいつが邪魔をしているせいでお前の力が完全に回りきらんからな。おい! いい加減俺様の邪魔をするな!」

 ランスはククルククルに対して怒鳴る。

「あの…ランスさん。相手は初代魔王なのでしょう? 人間に何かを言われたくらいで引き下がらないのでは…」

 そう言うハウゼルだったが、何とククルククルの気配がいきなり薄くなる。

 そしてランスに顔を近づけると、何処か悲しそうな顔をしているように見える。

 それは女性の顔を模しているだけだが、何かを感じさせる表情があった。

「う…あ、違うな。お前は女じゃ無いからな。というか性別なんてあるのか、こいつは」

 ククルククルは丸い物出身の魔王だ。

 性別という概念があるかどうかも分からない。

 この先端の部分はコミュニケーション用の部分…なのかもしれないが、何故このような姿を取っているかは誰にも分からない。

「人間…やはりお前は我を選ぶか」

「魔人を斬るためにはお前の力が必要だからな。元々俺様はお前の力を探してたのであって、こいつが横入して来ただけだしな」

 ランスは最初の目的を思い出す。

 そもそも魔人の無敵結界を何とかするための力を求めた結果であり、ククルククルはその副作用のようなものだ。

 だとすれば、ランスとしてはバスワルドの力を求めるのが正しい。

 しかもバスワルドは明確に女なので、こっちの方が良いに決まっていた。

 ククルククルは抗議をするように触手を振る。

「だからそんな態度を取っても駄目だ。お前じゃ無敵結界はどうにも出来んだろうが」

 ランスの言葉にククルククルの動きが止まる。

 そもそもククルククルは無敵結界が存在しない時に生まれた魔王だ。

 だからこそ、絶大な力を持っていながらもドラゴンとの戦いに敗れたのだ。

 それを理解はしているのだろう、ククルククルは若干不満そうな顔をしているように見える。

「あの…ランスさん。そんな事を言ったらククルククル様がますます意固地になるんじゃ…」

「時間が無いからな。それにこういうのはハッキリ言ってやった方が良いだろ。こいつらの喧嘩でカラーが襲われるのは論外だ」

 そう、ランスにはカラーを救うというハッキリとした目的が有る。

 それは未来に出会う娘のためというのもあるが、カラーには長い間救われてきた面がある。

 ククルククルは何かを考え込むかのようにランスの顔を見ていたが、その内にその姿が消えていく。

「うーむ、一体何だったんだ」

「それよりもランスさん…」

 ククルククルが消えた事により、ハウゼルは改めてバスワルドを見る。

「…私はこの人を知っているような気がします」

 真面目な顔でバスワルドを見るハウゼルだが、バスワルドは特に興味が無いようだった。

「あなたは…一体…?」

「我は破壊を司る神、バスワルド。世界が破滅に近づいた時、破滅を防ぐ為に、世界を破壊する者」

「ラ・バスワルド…私は貴方を知っているような気がする…」

「お前と我は違う。我は所詮は破壊の神の力の一部でしかない」

「力の…一部?」

「答える必要は無い。我は我でありお前では無い」

 バスワルドはそうとだけ言うと、ランスを見る。

「力を望むか、人よ」

「だから前にも言っただろうが。お前の力を使うとレベルが下がるんだ。そのおかげで特訓も出来ん。俺様が特訓をするなど珍しい事だというのに。それにお前は俺様の貝を要求しおったからな…」

 ランスは恨みがましい目でバスワルドを見る。

 自分の宝の貝を断腸の思いで差し出した結果、確かに力を得る事は出来たが、それが使いこなせないのならば扱いが難し過ぎる。

「我がこの剣の本気の力となれば、その問題は消える」

 そう言ってバスワルドは姿を消す。

「だからそれが出来んから苦労してるんだろうが!」

 彼女が姿を消すと同時に、ランス達の姿も消えていった。

 

 

 

 朝―――

 もう日が昇ってかなりの時間が経ってからランスとハウゼルは同時に目を覚ました。

「…ランスさん、今のは夢…じゃないですよね」

「そういう事だろ」

 ランスは気怠い体を起こすと、ハウゼルも同じように体を起こす。

「…ランスさん、一つ聞いても良いですか?」

「何だ?」

「ランスさんは…あのバスワルドの力を得るために、私と姉さんに近づいたんですか?」

「はあ?」

 ハウゼルの言葉にランスは目を丸くする。

 だが、ハウゼルの顔は真剣そのものだ。

「別にそんな気は無いぞ。お前が美人だから会いたかっただけだぞ」

「…本当ですか?」

「当たり前だろ。そうじゃないと魔人であるお前と1対1なんてすると思うか」

 その言葉にハウゼルも目を見開く。

 ランスとの出会いを思い返し、その時の事を思い出す。

 ランスは魔人である自分と1対1…だったかと言われると微妙だったが、確かに人間であるランスが魔人である自分と戦ったのだ。

 色々と嵌められたとは思うが、それでも人間にとっては絶望的な戦いだったはずだ。

 それでも、ランスは戦って勝利した、それが結果だ。

「…ごめんなさい。私、ランスさんを疑うような事を…」

 落ち込むハウゼルに対し、ランスはその頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。

「気にするな。大した事じゃ無いだろ」

「…魔人との関係を大したことじゃないなんて、そんな事を言えるのはランスさんくらいですよ」

 そう言ってハウゼルはランスに優しく抱き着く。

「姉さんは知ってるんですか…? この事」

「いや、あいつといた時は出て来なかったな」

「そうですか…」

 ハウゼルとしては聞きたい事がある。

 あるのだが、ハウゼルはそれをあえて問わない。

 ランスとの出会いにバスワルドは関係無い、これは自分とランスの縁なのだ。

 だからそういう事を考える方が無粋なのだ。

「んっ…」

 ハウゼルはランスに触れる程度のキスをする。

「ランスさん、頑張りましょうね。カラーを守るためにも」

 その言葉にランスは少しだけ顔を歪める。

「そのためにはこっちを何とかせんといかんのだが…」

 ランスは自分の剣を手に取ると、そこにある変化に目を見開く。

「うお!? 何があった!?」

 今のランスの剣は、片面が凍り付きそうな美しい青い剣だ。

 そしてその逆側は3分の1が赤だったが、今はもう4分の3が赤く染まっている。

「何か急にお前の力が強くなったぞ」

「そうですね…何があったのでしょうか」

 突然の変化にはランスもハウゼルも驚くしかない。

「…まさか、お前のこっちの処女を貰ったからか?」

 ランスはハウゼルのお尻を撫でながらニヤニヤと笑う。

「も、もう! そんな訳無いじゃ無いですか! わ、私がランスさんに全部の処女を上げたからって…そんな…」

 ハウゼルは自分で口にしてから顔どころか、全身を真っ赤に染めてランスから顔を反らす。

 自分でどれだけ恥ずかしい事を口走ったのか、そして昨日自分が何をしたのか、それがハッキリと自覚したからだ。

 勢いと快楽に飲まれてとんでもないプレイをしていた事を詳細に思い出してしまった。

「否定できるか?」

「そ、それは…で、でもそんな事…」

 そんなことある訳ない、ハウゼルはそう否定したかったが、否定できる材料なんて無い。

(た、確かに私、凄い気持ち良かったですけど…)

 ハウゼルにとってはまさに最高の快楽の一夜だった。

 確かにプレイ自体は特殊だったかもしれないが、それでも沢山愛してもらえたという思いはあった。

「ランスさんは意地悪です…だって絶対態とそういう事言ってるんですから」

 ランスも本気でそういう事を言っている訳では無いのは分かっている。

「まあもうちょいだな。そのためには沢山やらんとな」

「本当にそればっかり…でも、私はランスさんに…いえ、ケッセルリンク、あなたにも聞かないといけません」

 ハウゼルは起き上がり、何時もの服に着替える。

 ランスもそれを見て、いい加減に起きようと同じく着替える。

 互いに着替え終えると、思い思いの場所に腰を下ろす。

「今大丈夫ですか、ケッセルリンク」

「…ああ、問題無いよ」

 これまで黙っていたケッセルリンクだっが、ハウゼルの言葉に少しため息をついてから答える。

「ケッセルリンク…あなたは事情を知ってたんですよね?」

「事情、とは何処までだ? 私にも答えられる範囲というものがある」

「…バスワルド、ランスさんの剣の中に居る存在です。私は…何となくですが、分かるんです。私と姉さんに関わる存在だと」

 ハウゼルの言葉にケッセルリンクはため息をつく。

「それについては私は本当に知らない。知っているのはランスとレンとスラル様だけだ」

 ケッセルリンクはスラルから聞いているので、事情は当然知っている。

 そのためにハウゼルとサイゼルをランスに近づけるように工作もした。

 ただ、バスワルドとハウゼル・サイゼル姉妹の関係については本当に知らない。

「そして全ての事情を知っているのは、恐らく先代魔王であるジル様だけだ」

「…ジル様は私と姉さんに対して警戒をしているような気がしていました」

 ジルは自分達を魔人にした存在。

 自分達はエンジェルナイトの魔人だと思っていた。

 しかし、そうでは無いのではないか、そう思ってしまった。

「別に気にする必要は無いだろ。お前はお前だろ」

「…そうなんですけどね。でもランスさんは私がバスワルドと関係あるから…という事は無いんでしょうね」

 ハウゼルはそう言って笑う。

「…どうやら気にして無いようだな」

「ええ。正直、私達は生まれた時から何かあるんじゃないかとは思っていたんです。そして、ランスさんと会った時に、この人は私達と何か関係が有るんじゃないか…そうも思いました」

「ほう。そうなのか」

「感覚的なものですけどね。それに、私達とセックスしたら、私達の力がその剣に宿る時点で関係があるなんて誰だって思うじゃないですか」

「…まあそれはそうだな」

 ハウゼルの言葉にケッセルリンクは苦笑する。

「ですので私は私で、バスワルドはバスワルドなんです。ですが、それとは別に問題が発生してしまいましたね…」

 深刻そうなハウゼルの言葉にケッセルリンクは何かを察したような声を出す。

「私のあずかり知らない所で何かあったようだな」

「大したことない。ククルククルかバスワルドかどちらか選べと言われただけだ」

「…大事では無いか。だが、時間が無いのも事実なのだが」

「フン、大体持ち主である俺様を無視して選ばせるのがおかしいんだ。どっちも俺様の剣の中に居るのなら俺様のものだ。好きに使うだけだ」

 神だろうが魔王だろうがランスには知った事では無い。

 自分の持ち物をどう使おうが持ち主の勝手なのだ。

 今更ながらランスは勝手な事を言うあの二体に腹が立って来た。

「その事なのだが…ランス。ククルククルの態度だが、少々軟化していると思わないか?」

「どういう事だ」

「これまで私達はククルククルに挑んだが、何れも勝つ事は出来なかった。が、最近ククルククルの攻撃方法が変わって来ただろう」

「…そうか?」

 ランスは少々怒りに身を任せて戦っていたので、ケッセルリンクの言って居る事がピンと来ない。

「そういえばそうですよね。最初はあっさりと倒されましたけど、最近はその時間は増えてきてましたからね」

「ああ。私はただ単にランス達が慣れてきただけだと思ったのだが、今思えば違ってきている。どちらかというと、ククルククルが楽しんでいるように見える」

「…あいつがか?」

 ククルククルからは何の表情も見えない。

 あの触手の先端の女性を模ったものはククルククル本人でも何でもない。

 アレはあくまでも他の生物とのコミュニケーションのための器官であり、本体はあくまでも別にある。

 ランスの剣にあるのはその器官の一部分でしか無いが、明らかに何らかの意思を持っているのは分かる。

 それが本体の意思なのかどうかは、それは誰にも分からないのだ。

「うむ…最初は遊ばれていると思ったのだが、もしや本当に言葉通りに遊んでいるとしたらどうだ?」

「…あれがか」

 ククルククルは正直滅茶苦茶強い。

 ランスから見ても、リーザスで戦った時のジルと同じくらい強いのではないかと感じている。

 あの異空間でのジルとの戦い程では無いが、少なくともランスが戦って来たどの魔人や悪魔よりも格段に強い。

「そういやそうだな」

 ランスも冷静になると相手の事が分かって来た。

 一度勝てなければ次に絶対に勝つのがランスという男だ。

 勝つためにはどんな手を使ってでも勝ちに行くが、流石にククルククルは格が違う。

 今まで戦って来た魔人よりも圧倒的に格上で、強さは今のカミーラでも比較にならないくらいに強い。

 そのククルククルだが、最初は圧倒的な力でこちらを捻じ伏せてきた。

 だが、最近はランス達も長い時間を戦えて来ている…と思っていたのだが、今思えばククルククルが手を抜いていたと言われれば納得もいく。

「あの魔王は気紛れな存在なのかもしれんな。そもそも私達は最初の魔王の事を何も知らない。ケイブリスだけが唯一知っているだろうが、そのケイブリスでもあの魔王とコミュニケーションは取れなかっただろうからな」

「というかあいつ喋らんからな。いや、喋れんのか? あいつ」

「さあな。だが、これまで一言も喋っていないのだ。そういう事だろう」

「フン、今日の夜にもう一度行ってみるか…」

 ランスはククルククルの態度が気になったので、今日の夜に会いに行く事にする。

 戦っても現実で疲れる訳でも無いのでそこは有難かった。

「…どうやら気が楽になったようだな」

 前向きなランスを見てケッセルリンクは嬉しそうな声を出す。

 これまでは中々上手くいかない事に少々イライラしているのは分かっていた。

 こうしてランスが前向きになったのならばそれは良い事だ。

「がはははは! 久々にスッキリしたからな!」

 ランスはハウゼルの腰に手を回し、その大きなお尻を撫でる。

「もう…本当にエッチするだけで上機嫌になるんですから」

 ハウゼルは顔を赤くしてランスの手を払う。

「うむ、今日こそククルククルをぶっ飛ばすぞ!」

 

 

 

 その夜―――

「だあああああありゃああああ!」

 ランスの剣がククルククルの小さな触手を斬り飛ばす。

「ランス、絶好調ね」

 それを見てレンはランスの調子が戻った事を悟る。

 やはり人はイライラしていると本調子が出せない物なのだろう。

「でも、ククルククルにダメージにはなっていませんよね…」

 ジルの言う通り、ククルククルにとっては触手など簡単に再生出来る。

 ランスに斬られた先から触手が再生してしまう。

「日光があればあの再生能力を制限出来るんだけどね…」

 日光とカオスならば魔王や魔人の再生能力を殺すことが出来る。

 ただ、無い物を言っても仕方が無いので真っ当に倒すしかない。

「でも…妙ですよね。ククルククルの攻撃が緩く見えます」

「そうなのよね…これまで使って来てた衝撃波もあまり使ってこないし、何よりも…」

 レンはククルククルとランスの戦いを見る。

 ククルククルの意識は完全にランスに向いており、他の者など殆ど無視している。

 それはハウゼルとシルキィでも例外ではなく、ただ只管にランスに攻撃をしている。

 シルキィはランスに向かってくる攻撃を防ぎながら反撃をするが、ククルククルに当たっても直ぐに再生をしてしまう。

 そしてその巨体でのタックルはシルキィでも防ぐ事は難しい。

「問題なのはやはり私達だな…あの時もそうだったが、どうにも連携が取れない」

 ケッセルリンクは難しい顔をしながら戦いを見ている。

「それは人間にとっては朗報だけどね。魔人は連携が取れない…簡単に言うと、二人以上で襲っては来れないという事だしね」

「そのようだ。だからこそ、あの時私はカミーラに攻撃を任せ、ランスを守る事に終始していたが…」

 ケッセルリンクが魔法を放っても、それが効果的になるタイミングが無いのだ。

 なのでシルキィとは交代でランスを守りながら戦うという手段しか取れない。

「ランスさん! 衝撃波が来ます!」

 ククルククルが口を開けたのを見てハウゼルが警告する。

 その攻撃は非常に凶悪で、何しろほぼ全方位に攻撃をするという恐ろしい技だ。

 前方に居るとその威力は更に凶悪さを増し、シルキィですらもその鎧を砕かれてしまう程だ。

「チッ! 面倒な技を!」

 ランス達はこれまでその衝撃波によってククルククルに敗れてきた。

 一応魔法バリアで防げなくは無いが、威力が桁違いなのだ。

 それこそカミーラのブレスよりも遥かに威力も範囲も大きい。

 避けるのは至難の技で、空を飛んでいるハウゼルもその衝撃波の前には無力だった。

「!!!」

 ククルククルが大きく口を開くと、そこから凄まじい衝撃波が放たれる。

「いい加減に見飽きたぞ!」

 その時ランスは剣を構えると、その衝撃波に対抗するように二本の剣を交差させる。

 するとランスとシルキィの二人を襲ったはずの衝撃波の威力が弱まり、シルキィもランスもその攻撃に耐える。

 勿論無傷とはいかず、ランスはその体重故に吹き飛ばされてしまう。

 が、それでも上手く着地をしてダメージを逃がす。

「ランス! 何やったの!?」

 レンはジルとケッセルリンクと共にバリアを張った事で難を逃れたが、ククルククルと近い所に居たランス達は何とその衝撃波に耐えたのだ。

「フン! こいつと同じことをやっただけだ! 何回も喰らったからもう覚えた!」

「…! アンタ、やっぱりとんでもないわね!」

 レンはあっさりとそう言い放つランスに呆れた声を出す。

 そして自分達が反撃を―――と思った時だった。

 急にククルククルが動きを止め、ランスの事をジッと見ていたかと思うと、ゆっくりとランスに近づいて行った。

 そこには全く敵意が無かったので、ランスも思わず攻撃の手を止めてしまう。

「な、何だ?」

 ククルククルはランスを見ると、その隣に移動した後で前方に向けて衝撃波を放つ。

 それは全方位に向けられたものではないので、ランス達にはダメージは無い。

 ただ、やはりその威力故かランスは吹き飛ばされそうになるが、シルキィがそれを押さえていた。

「大丈夫? ランス君」

「俺様は大丈夫だが…おい! 何のつもりだ!」

 ランスの怒声に対し、ククルククルはランスに対して笑った―――ように見えた。

 そしてランスの手に触手を近づける。

 何かをさせるかのように、その触手を動かすが、声が無いのでその意図を読めない。

「あの…ランス様。もしかしたら、さっきランス様がやった事をもう一度やってみろと言ってるんじゃ?」

「はあ? こいつがか?」

「はい。何かそんな感じがするんです」

 ジルの言葉にククルククルは何も答えない。

 答えないが、何かを待つかのように動きを止めている。

「…意味が分からんが、こんな感じだったな」

 ランスは剣を構えると、先程やったように剣を振るう。

 するとククルククルの衝撃波には及ばないが、確かにその剣からはククルククルのものに似た衝撃波が放たれたのだ。

「凄いな…威力と射程は段違いだが、ククルククルの放った衝撃波とそっくりだ」

 ケッセルリンクはランスの剣の動きに感心するしかない。

「ランス君、いつそんなの覚えたの?」

「さっきも言っただろうが。こいつが何回もやってきたから覚えた。それだけだ」

「それだけで済む話では無いと思うぞ。だが…成程、そういう事か」

 ケッセルリンクはククルククルを見上げる。

「ランス、ククルククルはどうやらお前に期待をしているようだな」

「はあ? 何でだ」

「お前も分かってるだろう。ククルククルは本気ではない。本気ならば魔法も交えて攻撃してくるだろう」

 以前の戦いを思い出し、ケッセルリンクは初代魔王を見上げる。

「前から少々不思議ではあった…以前の戦いの時、ククルククルはお前を魔人にしようとしたのを覚えているか」

「そういやそんな事もあったな」

 あの時はククルククルに魔王としての権限はなく、魔人を作る事は出来なかった。

 だからこそランスは何とかあの時にククルククルに勝つ…いや、ククルククルがランスの剣の中に入るという結末が出来たのだ。

「簡単に言えばお前を鍛えている…つもりなのだろうな」

「…はあ!?」

「だが、この方はそのための手段を持たない…だからこそ、こういう風に仕向けたのだろうな」

「ケッセルリンク…じゃあまさかこの戦いは?」

 レンの疑問にケッセルリンクは頷く。

「だからこそ、分かりやすく剣の力の妨害をしたのだろう。それが最近弱まって来たのは、単純にククルククルの機嫌がよくなったのだろうな。ようは構って欲しかったのだろうな。お前に」

「………はああああああ!?」

 ランスもその言葉には絶句するしかない。

 ククルククルは相変わらずランスをジッと見つめている。

「何て迷惑な奴だ…」

 ランスが呆れていると、ククルククルは触手を伸ばしてランスの手を取る。

 そして何かを教えようとしてるのか、触手を動かす。

 ランスはそれを見てため息をつく。

「分かった分かった。お前から教わってやる。だから離せ」

 ランスがそう言うと、ククルククルは触手をランスから離す。

 そして先程と同じように衝撃波を何も無い所に放つ。

「フン、最初からハッキリ言え。いや、喋れんのだったな」

 ランスはそう言いながらも、意外と素直にククルククルの望み通りに剣を振るってやるのだった。

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