ランス再び   作:メケネコ

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第一次魔人戦争⑭

「魔物兵達がカラーの森に入って来ましたね…」

「ええ。魔人の言葉ならば魔物兵は従わないといけないですし」

 シャロンとバーバラはカラーの森に入ってきている魔物兵を見て難しい顔をする。

 エルシールが動いて魔物大将軍や魔物将軍に掛け合っては居たが、やはり限界は訪れてしまう。

 ただ、それはもう仕方の無い事で、むしろエルシールは良く持たせてくれたと言うべきか。

「シャロンさん。魔人マリーゴールドは本当にカラーを狙うんですか?」

「間違いなく。カラーは美しい女性の種族しか居ません。それをあのマリーゴールドが見逃すとは思えません。今まではケッセルリンク様、そして魔王様の命令が有るので手出しは出来ませんでしたが…今回は魔王様が容認なさっています。カラーを狙う事も戦争の範囲内という事でしょう」

「ケッセルリンク様さえ居られれば、こんな事にはならないのに…」

 バーバラは厳しい顔をするが、そんな顔をしても問題は解決しない。

「あの男は本当に魔人を何とか出来るんですか?」

「ええ。それに関しては問題無いでしょう。ランス様の実力ならば、無敵結界を何とか出来ればマリーゴールド程度であれば、倒す事は難しい事では無いでしょう」

「…そんなに強いんですね、あの男」

 シャロンはメイドの中で一番の古株で有り、同時にランスとの付き合いもそれだけ長い。

 その彼女が言うのであれば、それは間違っていないのだ。

「あなたは近くでランスさんの力を見ているのに、どうして今でもそんなに疑うんですか?」

「そ、それは…」

 シャロンの指摘にバーバラは口をパクパクとさせ、何を言おうか迷っているようだったが。

 が、観念したのか小さく口を開く。

「み、皆さんが人間のあの男を認めるのが…その、ちょっと…私、人間に対しては…」

「…そうでしたね。あなたは人間の時にランスさんと出会ってませんでしたからね」

 バーバラだけはケッセルリンクとの出会いが違う。

 なので人間に対していい感情を持っていないのは当然なのだ。

 他のメイド達も人間によって酷い目に合わされているので、人類そのものに対しては良い感情を持っているとは言い難い所もあるのだが。

「どうしますか? シャロンさん。魔軍が動いた以上はもうこれ以上はエルシールさんでも足止めは出来ないんじゃ…」

「そうでしょうね。しかし、報告のために戻る事が出来なければ結局は何も無かったという事になりますから」

 魔物兵達がペンシルカウを探すべく動いているのをシャロン達は見張っている。

 魔物兵の数はそう多く無く、魔物隊長すらも存在しない。

 あくまでペンシルカウを探すのが目的の哨戒任務なのでそれも無理は無いだろう。

「…何で俺達こんな事してるだろうな」

「文句を言う暇あったらとっとと探すぞ。マリーゴールド様に殺されたく無いだろ」

「ああ、アイツとんでもないブスだからな…誰だよ、女の魔人様は全員美人とか言ってた奴は…」

「あいつだけは別さ。俺はサイゼル様を見た事あるけど、滅茶苦茶美人だったぜ!」

「いいなあ…俺、魔人様はバボラ様とレイ様しか見た事無いんだよな…」

 魔物兵は愚痴を言いながら動いている。

 魔物兵達もこんな仕事は望んではいないのだ。

「でもカラーに手を出していいのか? もし手を出せばケッセルリンク様が…」

「そのケッセルリンク様が行方不明だからって事だろ」

 魔人ケッセルリンクに知られればタダでは済まない…それを分かっていても動くしかない。

 もし動かなければ、マリーゴールドに殺される―――板挟みになるのも下っ端の辛い所だ。

「カラーって滅茶苦茶綺麗なんだろ? だったら俺達もおこぼれに預かれるかも…」

 魔物兵達が下卑た笑いを浮かべながら歩いていると、そこに一人の女が現れる。

「来たか」

 そこに居たのはカラーであるメイトリックスだ。

 突如として巨漢の筋肉モリモリのカラーが出た事に魔物兵達はおののく。

「誰だお前は!?」

「ま、まさかこれがカラー!? こんな筋肉モリモリマッチョマンとしか言えない奴が!?」

「そんな馬鹿な! しかも顔が良いのが凄いムカつく!」

 魔物兵の言葉にメイトリックスの額には実は青筋が浮かんでいるのに彼等は気づいていない。

「いや待て! 額にクリスタルがついている!」

「じゃ、じゃああの190cmもある筋肉モリモリマッチョマンの変態は間違いなくカラーなのか!?」

「そんな! 世の中間違っている!」

「黙れ! 間違っているのはお前等だ!」

 そう言ってメイは背中から弓を取り出す。

 その動作を見て、魔物兵は背筋が凍る。

 何故ならメイが取り出したのは明らかに普通の人間が使うには大きすぎる強弓だったからだ」

「死ね」

 そう言ってメイは躊躇う事無く矢を放つ。

 矢が放たれたとは思えない程の轟音と共に放たれた矢は、先頭に居た魔物兵を簡単に貫く。

 それどころか、その背後に居た魔物兵すらも貫通し、その矢は凄まじい音を立てて巨木に突き刺さった。

「………」

 魔物兵達は茫然として巨木に突き刺さった矢を見る。

 突き刺さっていると思っていた矢だが、実際にはその巨木を貫いていたのだ。

 それを見て魔物兵は自分達の目の前にいるカラーがとんでもない存在だという事に今更気づいた。

「イズナ、これこそ俺の弓の奥義。そして今からお前達は死ぬ」

 メイは弓を仕舞うと、その背中から巨剣を取り出す。

 それはその筋肉に相応しい無骨な大剣だった。

 それを構えたまま、メイは真っすぐに魔物兵達に突っ込んでいく。

「て、敵は一匹だけだ! 囲んで殺せ…ぐぎゃあああああ!」

 メイを囲もうとする魔物兵だが、その行動はメイの素早さに比べてあまりにも遅すぎた。

 メイが大剣を振るだけで魔物兵の体がいとも簡単に両断される。

 カラーは非力な種族だと思っていた魔物兵達はそれに驚く暇も無かった。

 たったの一振りで魔物兵ですらもあっさりと殺される、その力に魔物兵は成す術も無く倒されていく。

 そして斥候部隊であろう魔物兵が全滅するのにはそう時間はかからなかった。

「…今回は多いな。魔人が近づいているというのは間違い無いか」

 メイは全ての魔物兵を倒すが、その顔に喜びは無い。

 むしろこれからの事に気が重くなる。

 流石に魔人が相手では今の自分では役に立てない。

「あの男に任せる以外には無いが…時間はそう無いだろうな」

 そう言ってメイはペンシルカウに戻るしか無かった。

 時間はもう無い―――それは事実なのだから。

 

「…凄いですね、あのカラー」

 魔物兵の死体を見ながらバーバラは背筋が凍っていた。

「そうですね。かつてのケッセルリンク様よりも強い…その言葉は嘘ではないようです」

「本当に一人で何とか出来るなんて…」

「バーバラは知らないでしょうが、昔にはもっと強い…それこそ剣だけならばランス様を上回る人間だって居ましたよ」

「そんなのが居るんですか!?」

「ええ、藤原石丸…純粋な剣だけならランス様すらも上回る人間です。それでも魔人には勝てなかったのですが…」

 今回魔物兵の斥候が来ている事をランス達に教えたのは当然シャロンだ。

 ただ、これも全ては時間稼ぎでしかない。

 魔物兵が戻ってこない事を察した魔物将軍が、次にはもっと多くの魔物兵を送り込んでくるのは明らかだ。

 ただ、魔物兵達の目的はカラーでは無いので、魔物将軍はこちらに兵を割くのを嫌がるのは間違いない。

 だが、魔物将軍の上に居る魔人の命令ならば話は別だ。

 そうしないためにも、エルシールも手を尽くしているだろうが、時間の問題だろう。

「後はランス様に任せるしかありません」

「…本当に何とか出来るんですかね、あの男に」

「フフ…認めたくないという気持ちは変わりませんね」

 バーバラの言葉にシャロンは意味深に微笑むのだった。

 

 

 

「フン!」

 ランスが剣を振るうと、それだけで衝撃波が生じる。

 これはランスの剣の中ではなく、現実の世界でありながら、ランスは新たな技を生み出していた。

「凄いですね、ランス様。ククルククルの技を使えるなんて」

 ジルは本気で感心しているが、ランスはその言葉を聞いても得意気な顔にはならない。

 普段ならば自慢するだろうが、今のランスはそんな気分にはなれない。

「フン…」

 つまらなそうな顔をするランスに、ジルは不思議そうな顔をしている。

「ランス様…?」

「ジル、ランスとしては不満なのさ」

 何かを言いたそうなジルを制し、スラルが口を開く。

「ククルククル程の力は出せない、それが不満なのだろう?」

「やかましい」

「あの存在と一緒にするな。むしろ奴と同じような攻撃を出来るお前が凄いだけだ。しかも奴の動きを見て覚えたんだ。その才覚はやはり異常としか言えないな」

 スラルの言葉にもランスはやはり不満そうな顔をしている。

「どうしたんですか? ランス様」

「時間がない、そんな顔をしてるわね、ランス君」

 ジルが再び問い質そうとするとシルキィが現れる。

「まだ魔人の無敵結界を斬れない、だから焦ってるのよね、ランス君」

「フン」

 その指摘をランスは否定しない。

「でもそろそろという感触は持っている。ただ、それが間に合うかどうか…そういう事よね」

 シルキィの指摘は正しい。

 ランスは強くなっていたとしても、無敵結界が有る限り魔人には勝つ事は出来ない。

「そしてもう少しだけど、まだ足りない…ククルククルが満足してないって事かしらね」

 ランスの剣は残り一割程が紅く染まっていない。

 それが満タンにならない限りは、恐らくはバスワルドの力を使う事は出来ないのだろう。

 ランスもそれを自覚してはいるが、どうするべきかを悩んでいる。

「大丈夫よ、ランス君。いざとなったら私が出るわ」

「おいシルキィ」

「私は元々この戦争には反対だったし、カラーを狙うなら私はマリーゴールドを殺してでも止めるわ」

 シルキィは心優しいが、同時に戦士でもある。

 戦う時は躊躇いは全く無い。

 そして自分がどうなろうとも、目の前の助けたい人達を助けるのがシルキィだ。

「フン、お前の出る幕は無い。俺様がぶっ殺せばいいだけだ」

 シルキィが出ればそれこそ面倒な事になるかもしれない。

 もしかしたら、魔王ガイに何かをされる可能性も捨てきれない。

「そうね、それが一番かもね。ランス君なら無敵結界を何とか出来れば倒せるでしょうし」

 そう、無敵結界を何とかすれば倒せる―――出来ればの話だ。

 それは本来であれば日光とカオスが無ければどうしようもない。

 だからこそ、魔人並みの力を持っている闘神でも魔人相手には無力なのだ。

 ランス達が話していると、そこに一人のカラーが現れる。

 ランスよりも身長が高く、筋骨隆々のカラー…メイトリックスだ。

 その剣は血に塗れており、何があったかは一目瞭然だ。

「魔物兵が現れた。ペンシルカウに近かったら処分したが…見つかるのも時間の問題かもしれない」

「全部殺したのか」

「ああ。あの程度の数は問題無い。が、魔人の襲来は近いのかもしれないな」

「フン、それまでにはあのバカ魔王を何とかすればいいだけだ」

「期待している。お前に賭ける以外に道は無いだろうな」

 そう言ってメイトリックスは去っていく。

「ランス君、そろそろ決めないとね」

「当然だ」

 

 

 

 その夜―――

「ラーンスアターーーーック!!」

 ランスの必殺の一撃がククルククルに当たる。

 それを見てククルククルはその口に笑みを浮かべたように見える。

「ファイヤーレーザー!」

「ライトボム!」

 ジルとレンの魔法がククルククルに放たれる。

「!」

 ククルククルが口を開けると、そこから凄まじい衝撃波が放たれる。

 すると二人の魔法が目に見えない何かに当たったように爆発する。

「魔法も防げる…!?」

「魔法は絶対に当たるもの…それなのに目標のククルククルに当たって無いという事は、目に見え無い衝撃波が壁の役割を果たした、という事かしらね」

 魔法は確かに絶対に命中する。

 だが、目的の存在に魔法を放ったとしても、その前に遮蔽物があればそれに当たってしまう。

 それもまたルールであり、魔法を放っても必ず目標物に当たるという事では無いのだ。

 そしてククルククルの放つ衝撃波はまさに壁としての役割を果たしているのだ。

「流石は初代魔王…その力は一部とはいえ、歴代最強と呼ばれる訳だ」

「私のタワーファイヤーも防がれますからね…存在するだけで災害級ですよ。あの触手一つでも私達魔人を簡単に倒せるだけの力があるという事ですね」

「ああ。まさに歴代最強…その力は凄まじい」

 ククルククルの力は本当に極一部のはずなのだが、魔人四天王二人でも全く勝てる気配は無い。

 魔人は連携が取れないのが弱点だが、それでも生命体としての次元が違うのだが、ククルククルはそれを遥かに超越するまさに魔王だ。

「その魔王に鍛えられてるのだから、ある意味贅沢だ」

 ケッセルリンクはランスとククルククルの戦い…いや、この場合は最早ふれあいだろう。

 間違いなく、ククルククルはランスに何かしらの期待を持って接している。

「それにしてもランスさんって本当に凄いですね…」

 ハウゼルは改めてランスの戦いをじっくりと観察できている。

 ランスと相対した経験も有るのでその強さは分かってはいた。

 分かっていた上で、目の前でのランスの動きはまさに異質と言っても良かった。

「どうしてあんな動きになるのか…全く理解が出来ません。それでいて最善の手になっているような気がするんです」

「ランスの剣や戦い方は論ずることは出来ないさ。ランス自身、己の剣や戦い方を説明なんて出来ないだろう。天賦の才、それ以外に言いようが無いな」

 ランスはククルククルが死角から放って来た触手を見る事無く回避する。

 自分の攻撃の邪魔になる触手は斬る事で回避し、ククルククルの本体を的確に狙う。

「でもククルククルには勝てない。生物としての圧倒的な格の差が有るわね」

 レンの言葉にケッセルリンクは苦笑する。

「当然だ。魔王は我等が傅く存在…人間では勝つ事は出来ない、それが例えランスでもな」

 ククルククルに攻撃は当たるが、そのあまりの防御力、そして生命力の前にはランスでも手も足も出ない。

 それは魔王というこの世界の頂点の存在の圧倒的な力だった。

 ランスがククルククルの衝撃波に吹き飛ばされるのをケッセルリンクが軽く受け止める。

「やはりお前でも無理か」

「やかましい」

 苦笑しながらも優しい顔を見せてくる彼女に対しランスは毒づく。

「大体お前等揃いも揃って役立たずではないか」

「私達は連携が取れないからな…正直数で挑むより、個で挑んだ方が魔人は圧倒的に強いという事が分かった。これはもう魔人という生命体の宿命だな」

 ケッセルリンクは真正面からランスを見据えると、そのまま優しく抱きしめる。

「それよりも早くあの方を満足させてやれ。それが出来るのはお前だけだ」

「フン、お前に言われるまでも無いわ」

 そう、ようやくランスの剣の全てにサイゼルとハウゼルの力が行きわたる。

 それで何が起こるかはまだ分からないが、それでもそうする事で何かが起きるはずなのだ。

「ランス君! 大丈夫!?」

 ククルククルの足止めをしていたシルキィがこちらに駆け寄って来る。

 追撃はする気はない様で、ククルククルは悠然とこちらを見ている。

「問題無い。大体アイツは手加減してるの丸分かりだろ」

「まあ…それはそうね。本気だったら衝撃波と魔法を連発するだけで私達負けるしね」

「でも、どうすればククルククルは満足するのでしょうか」

 ジルもランスの側にやって来てククルククルを見上げる。

 確かにククルククルは満足しているようだが、それでもまだ何かが足りないのだろう。

 そうしていると、ククルククルから炎の矢が放たれる。

「うお!?」

「これは…魔法か!」

 突如として放たれる炎の矢をジルとケッセルリンクが魔法バリアで防ぐ。

「まさか魔法を使ってくるとはな…」

 これまでククルククルは魔法を使ってこなかったが、突如として魔法を解禁してきたようだ。

 今のは炎の矢だが、初級魔法なのに恐ろしい程の威力が有るだろう。

 それこそ魔人が使うレーザー級の威力を持っていても不思議じゃない。

 ケッセルリンクの疑問を消すかのように、今度は氷の矢がランス達に襲い掛かる。

「クッ!」

 シルキィが皆の盾になるべく一人でククルククルの魔法を受ける。

「うあっ!」

 それだけで魔人四天王のシルキィが膝を突いてしまう。

 そこに無数の触手がシルキィの体を捕らえる。

 そしてランスを見ると、今度は雷の矢がランスに降り注ぐ。

「チッ!」

 ランスは舌打ちをすると、剣を構える。

 魔法は絶対命中、魔法バリアが使えない者はその威力に耐えるしかない。

 それはランスとて例外ではない―――なのに、ランスは剣を構えた。

 そして剣を振るうとククルククルと同じように衝撃波が生じ、雷の矢が壁に当たったかのように消滅する。

 それを見てククルククルは満足したような笑みを浮かべる。

「凄いです、ランス様! ククルククルのように魔法を防げるなんて!」

 ジルはそれを見て素直に喜ぶ。

「フン、俺様ならば当然だ。だが…疲れる」

 ランスは地面に腰を下ろす。

 その顔は汗でびっしょりで、どれだけランスが疲労しているのかが見て取れる。

 ジルはタオルでランスの顔を綺麗にする。

「凄いわね、ランス君! まさか魔法すらも防げるなんて…」

「ああ、流石はランスといった所だ。まさにその剣は異質としか言いようが無い」

 シルキィとケッセルリンクは素直に感心する。

 特にケッセルリンクはランスが凄い苦労をしている事を知っている。

 才能も勿論有るが、それ以上にランスは死地を何度も乗り越えてきた。

 その経験があるからこそ、強くならざるを得なかったのだ。

「後はククルククルだけど…」

 ククルククルは真っすぐにランスを見ているが、まだ満足はしていないような感じはする。

「ククルククルはランスさんに何を求めているのでしょうか…」

 ハウゼルの言葉にケッセルリンクも首を傾げる。

「フム…無論威力に差異は有れど、ランスはククルククルの技を会得した。ランスと何度も戦う事で成長を促している…と考える事も出来るが…」

 ククルククルは喋らないので何を考えているか分からない。

 この女性の姿をした触手の先端も本体では無いし、その顔からは表情を窺うのも難しい。

「フン」

 ランスは疲労した体にも関わらず立ち上がる。

「お前の考えてる事が何となく分かったぞ」

「そうなの? ランス」

「ああ。こいつ、要は俺様がバスワルドの力に頼るのが気に入らんのだ」

 ランスの指摘にも当然ククルククルは何も言わない。

 ただ、何となくその表情が嬉しそうにも見える。

「でもククルククルの力を使うと、バスワルドの力は使えないんですよね」

「互いに互いを気に入らんようだからな。全く、持ち主の俺様に従わんとはとんでもない奴等だ」

 ランスはそう言いながらも剣を構える。

「時間が無いからな。とっとと終わらせるぞ」

「ランス? まさかお前はククルククルが求めているのが分かるのか?」

 スラルが声を出すと、ランスはニヤリと笑う。

「当たり前だ。コイツ等、揃いも揃って自己主張が激しい奴だからな」

 ランスはククルククルを睨む。

 そして目の前の初代魔王がランスに何を望んでいるかを見せつけるために剣を振るう。

「いい加減に俺様の言う事を聞きやがれ!」

 ランスは剣から凄まじい衝撃波を走らせる。

 それがククルククルの体を飲み込むと同時にランスは走る。

「だああああありゃあああああ!」

 そして刀と剣を同時に振るうと、その衝撃波の中に凄まじい斬撃と更なる衝撃波が波打ち共鳴する。

 斬撃と衝撃波の相乗効果はククルククルの体を飲み込み、その巨大な体を斬り刻み、打ちのめす。

 だが、流石はククルククルと言うべきか、その体は直ぐに再生を始める。

 同時に、ククルククルは確かに笑みを浮かべた。

「…フン」

 ランスはそれを見て鼻で笑うと剣を収める。

「ランス…今のは?」

「俺様の新必殺技だ。こいつの技を組み込んでやったな」

「…成程、そういう事だったのか。お前に新たな力を授け、それと共に必殺技に昇華させる。それが初代魔王の目的だったのか」

 ケッセルリンクは合点がいったと言わんばかりに頷いて見せる。

 ククルククルは心なしか上機嫌な様子を見せると、その姿が消えていく。

「しかし凄い技ね…ククルククルの衝撃波にランス君の必殺技を組み込む。でも、そんなとんでもない事を出来るのはランス君だけね。うん、凄い凄い!」

 シルキィは鎧を脱ぐと、ランスを抱き寄せて頭をぐりぐりと撫でる。

「魔人の力で前みたいにやるな! 痛いだろうが!」

「あ、ごめんねランス君。お姉ちゃん、ランス君の成長が本当に嬉しくて…私、ランス君に出会ったのは200年ぶりだから」

「フン、200年経ってもまだ直らんのか。お前、まさか魔人の間でも俺様の姉を名乗ってるんじゃ無いだろうな」

「え? 名乗ってるけど?」

「貴様は…」

 ランスは完全に呆れた顔でシルキィを見る。

 だが、シルキィはそういう奴なので言っても無駄だからランスでも何も言えない。

「それよりもこれからどうなるかだな。ククルククルは満足したのか消えた。後はバスワルドの出方次第だ」

 ケッセルリンクがそう言うと、突如としてランスの周囲から他の者達の姿が消える。

「な、なんだ!?」

 ランスは驚いて周囲を見渡すと、上空から眩い光と共にバスワルドが降臨する。

「お前か」

「…人間、お前は何をした?」

「何の話だ」

「魔王が眠りについた。神か魔か、どちらかを選べと我は言ったが、その必要が無くなった」

 相変わらずバスワルドは無表情だが、僅かに困惑しているように見えた。

「だったら別に良いだろ。どうせ俺様は両方選ぶつもりだったからな」

「…それならばそれで構わぬ。お前は条件を満たした。ならばお前に力を与える」

 ランスの剣は今や片面が蒼、もう片方が紅に染まっている。

 そしてその剣が光始めた。

「おおっ」

 光が収まった時、そこには一本の剣がある。

 それは両面が黒に染まっていた。

 片面には蒼い光の線が走り、もう片面には紅の光の線が走っている。

 完全にバスワルドの力がバランスよく融合し、それが光の線として現れているのかもしれない。

「この力ならば無敵結界を無視出来るだろう…」

「試せば分かるか。うむ、中々いい感じだが…やっぱりお前も自己主張が激しいな」

 ランスは剣の柄を見て呆れた顔をする。

 そこにはやっぱり魔王ククルククルの顔がハッキリと浮かんでいた。

 しかもその顔は何となく誇らしげな顔をしているように見えた。

「…魔王め」

 それを見てバスワルドも少し苦い声を出したように見える。

「うむ、お前との付き合いも長いが、ようやくここまで来たな」

 ランスはニヤニヤとしながらバスワルドに近づく。

「ここまで来たのだからやらせろ!」

 そう言ってバスワルドに抱き着き、その体に触れる。

 が、バスワルドは全く反応が無い。

「そういやお前はマグロだったな…」

 ランスは前にバスワルドを犯したが、全く反応が無かったことを思い出す。

 そういう感情も無いのかもしれない。

 まさに世界を破壊するために存在する、それがラ・バスワルドなのだ。

「人間、まだ何か望むか」

「お前とやりたい。が、反応が無いから面白くない…」

 ランスはバスワルドの体に触れながらあまり楽しく無さそうにする。

 鎧があって胸を触れないし、尻を触っても何も反応が無い。

「じゃあこれならどうだ」

 ランスはバスワルドの口を自分の口で塞ぐ。

 が、それでもバスワルドの反応は無い。

「これもダメか…つまらん」

「………人間、お前は我と性行為をしたいのか」

「勿論だ、と言いたいが、お前は何も反応が無いからな…セックスしても反応が無いと面白くない」

 バスワルドはやはり無反応だったが、詰まらなそうな顔をしているランスを見て目を細める。

「我に感情は無い。我は破壊する事、それが全て。性行為等必要無い」

「うーむ…だったら尚更お前をアヘアへ言わせたくなってきたな」

 ランスは新たな目的が出来る。

「よーし、次はお前をセックスであへあへさせるために何とかするか」

「…好きにするがいい。我は何時でもお前の側に居る」

 バスワルドが輝くと、その姿が光に消えていく。

 同時にランスの姿も消えていくのだった。

 

 

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