ランス再び   作:メケネコ

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第一次魔人戦争⑮

「これがランスの新たな剣か…」

「がはははは! ようやく形になったぞ!」

 ランスは進化した自分の剣を皆に見せる。

「凄いわね…何か異質な力を感じるわ」

 シルキィもランスの剣を感心したように見ている。

「私は…自分に近い何かを感じます。私の力と姉さんの力を」

「問題なのはこれで無敵結界を斬れるかよね」

 レンの疑問も尤もだ。

 問題なのはこれで無敵結界を無効に出来るかどうか、それが重要なのだ。

「じゃあ私で試してみてよ。リトルを纏ってればいくらランス君でも殺せる程の一撃にはならないし」

 シルキィはそう言ってリトルを纏う。

 そこには鎧を纏った巨人が現れる。

「ランス君、無敵結界を使うから斬ってみてくれていいわ」

「その前に…ジル、シルキィに魔法を撃ってみろ。全力でだ」

「あ、はい。シルキィさん、大丈夫ですか?」

「勿論よ」

 シルキィの言葉にジルは詠唱を始める。

「ライトニングレーザー!」

 そして強力な魔法がシルキィにぶつかるが、それは何かの壁にぶつかったように霧散する。

「うむ、無敵結界は問題無いな」

 ランスはそう言うとレンから剣を受け取る。

 そして同じようにシルキィをトロコンソードで攻撃する。

 ジルの時と同じように、ランスの剣は弾かれる。

 それを見てランスは剣をレンに返すと、自分の剣を手にする。

「行くぞ、シルキィ。心配するな、手加減してやる」

「本気で来ても良いわよ。私のリトルを甘く見ないで欲しいから」

「フン、まずはテストだ。その後で確かめてやる」

 ランスはそう言うと、新たな剣を構えてシルキィに斬りかかる。

 そしてその剣は―――シルキィが纏ったリトルの装甲によって防がれた。

「おおっ! 無敵結界に弾かれなかったぞ!」

「ええ、私はきちんと無敵結界を使ってたわ。それでいて衝撃も感じた…その剣は魔人の無敵結界を無視出来るという事ね」

 その結果に周囲の皆が歓声を上げる。

 今ここに、カオスと日光以外で魔人にダメージを与えられる剣が誕生したのだ。

「でも、カオスと日光みたいに無敵結界が斬られた訳じゃ無いわね。あくまでもランス君のもってるその剣でのみ、魔人にダメージを与えられる感じね」

「そこはカオスと日光じゃないとダメって事ね…そこまで万能という訳じゃ無いか」

 レンはランスの剣を見て目を細める。

 今ここにバランスブレイカーが誕生した瞬間だった。

 元々バランスブレイカーではあったが、その力が更に上がった瞬間だ。

「これで魔人をぶっ殺せるな」

「ランス、お前の刀はどうなんだ?」

 ランスが剣を収めると、ジルの口からスラルが話しかけてくる。

「そういやこっちは見てなかったな」

 ランスも疑問に思い、刀を抜いてみる。

 それは極普通の刀―――などでは無かった。

「…お前、今度はこっちか!」

 その刀を見てランスは呆れたようにその刀を叩く。

 そこにはランスの剣と同じように…いや、それよりも強く侵食しているククルククルの姿が在った。

 刀身にはククルククルを思わせる白に染まっている。

 ククルククルの姿こそ無いが、ランスには分かる。

 剣はバスワルドに譲ったようだが、代わりにこの刀の方に力を移したのだ。

「ランス様…これはまさかククルククルが?」

「そうみたいだな…良く見りゃ刀が一回り大きくなってるしな」

 これまでランスが使っていた刀よりも一回りは大きい、だがランスならば問題無く使える。

 それくらいの大きさに変化していた。

「ランス君、そっちでは無敵結界は斬れる?」

「試してみるか。ほれ」

 ランスはそう言ってシルキィではなく、ハウゼルに向けて軽く刀を振るった。

「え?」

 その刀はハウゼルに届く事なく、無敵結界に弾かれる。

「どうやらこっちじゃ無敵結界は無視出来ないようだな」

「ランスさん…いきなりでびっくりしました」

「両方で試してみた方が良いだろ。どうせ無敵結界を斬れないのは分かってたしな」

「そうなんですか?」

「ククルククルが無敵結界を何とか出来るなら、こいつはもっと自己主張してただろうからな…」

 ランスは呆れながら剣に浮かんでいるククルククルの顔を見る。

 その顔は何処となくランスを見て笑っているように見える。

「まあいい。とにかくこれで魔人だろうがぶっ殺せるな」

 ランスはニヤリと笑うが、問題なのはこれからだ。

「問題なのはランスしか攻撃が出来ないって事だけどね」

 そう、確かにランスの剣は無敵結界を無視出来る。

 が、それはあくまでこの剣で攻撃するランスだけであり、他の者達は結局は無敵結界に阻まれる。

「日光とカオスでは無いから魔人の再生能力も殺せないのも問題だな」

 カオスと日光ならば魔人の持つ強力な再生能力を殺すことが出来る。

 だが、ランスの剣では恐らくはそこまでの力は無いだろう。

「フン、一撃でぶっ殺せばいいだけだ。それにそのマリーなんちゃらとかいう魔人は強くないんだろ。だったら不意打ちで一気にぶっ殺す」

「その舞台を整えるのも大変ですね…」

 魔人を一撃で倒すなどそれこそ夢物語に等しい。

 それこそランスがカオスと日光を持っていれば何とか出来るかもしれない…その程度の可能性だ。

 何よりも、その魔人を逃がす訳にはいかないのだ。

 確実に殺さなければ、何時までも脅威になり続けてしまう。

「ランス、お前ならばその魔人に一撃で致命傷を負わせる事は出来るのか」

 メイトリックスが真顔でランスに問いかける。

「む、当然だ。俺様ならば一撃で魔人を瀕死に出来るぞ」

「あくまでも不意打ちが通れば、の話だけどね」

 ランスの言葉をレンが補足する。

「…ならば俺が囮になる。それならばどうだ」

「あん?」

 メイの言葉にカラー達は驚きの声をあげ、ランスも怪訝な顔をする。

「相手はカラーを狙ってくるのであれば、カラー最強である俺が囮になれば済む話だ。その最中にお前が不意打ちで致命傷を負わせればいい」

「あのな…お前、魔人を舐めてるだろ。俺様じゃあるまいし、タイマンで何とかなる相手じゃ無いぞ」

「勿論サポートはしてもらう。その上で俺が隙を作る。だからその間にお前が何とかしてくれればいい」

 メイの顔は本気でそう言っている。

 無謀この上ない言葉だが、このカラーは本気で出来ると思っているのだ。

「ランス殿、メイの言葉を汲んで欲しい」

 そこにカラーの女王が口を出す。

「元々はカラーの問題、ここでカラーが何とか出来ねば、未来のカラーが危なくなる。じゃが、ここで魔人をどうにか出来ればカラーの将来に光が見える」

「あのな…お前等簡単に言うがな…」

「大将、魔人を確実に殺すのであれば必要な事だと思う」

「それしか無いのならそれでいいんじゃない? いざとなったら私が止めに入るわよ」

「むぅ…」

 皆がそれしか無いと次々に言うのにランスは考える。

 確かにランスが不意打ちで相手を殺すのであれば、昔魔人アイゼルにそうしたように不意打ちしか方法は無い。

 アイゼルの時とは違い、ランス以外で魔人に攻撃をする事が出来ないならば尚更だ。

「…絶対に死なない自信はあるか」

「ああ。死ぬつもりで戦うつもりは無い。それに、お前ならばその隙を逃さんだろう」

「チッ、だったらお前達の言う通りにしてやる」

 メイの言葉にランスは少々不満そうだが、それでも言葉を受け入れる。

 それ以外に方法は見つからないのだから仕方なかった。

 真正面からランスが倒せるならばそれで良いのだが、今回は魔人を一度で倒さなければならない。

 そうでなければカラーが危なくなる。

「ランスさん、私達は何も出来ませんけど…」

「あいつが死んでも誤魔化すくらいは出来るわ。だから遠慮なくやりなさい」

「当たり前だ。戦いに参加出来んならそれくらいはやってもらうぞ」

 ハウゼルとシルキィの言葉を受け、ランスも本気で考える。

 そう、一度の戦闘で魔人を倒す…それもランスだけの攻撃でだ。

 レンも攻撃できるだろうが、やはり『人間』のランスだけで倒すのが一番カラーにとっても都合がいい。

「ならば戦う場を整えよう。そこは俺に任せて貰いたい。ランス、お前がどのような形で不意打ちをするか、どういうタイミングが良いか、そこを考える必要がある」

「フン、俺様ならば問題ないわ。が、まあ聞いてやる」

 メイの言葉を受け、ランス達は魔人への対抗策を立てていくのだった。

 それを見届け、加奈代とパレロアも密かに動くのだった。

 

 

 

「シャロンさん!」

「加奈代…何か動きが?」

 加奈代は早々に魔軍に居るシャロンに会いに行った。

 使徒である彼女達は魔物将軍よりも位が高い、それ故に誰も彼女達の動きを咎めることも無い。

 彼女達が何処かへ行って内緒の話をしていたとしても、それを追求できる者は存在しないのだ。

「成し遂げました」

「! そうですか…流石ですね」

 その言葉だけでシャロンは何が起きたか理解する。

 そして加奈代がその報告をして来たという事は、ランス達ももう準備を始めているという事だ。

 後は自分達がそのお膳立てをするだけだ。

「魔人が行動を起こすのにはやはり時間はかかるでしょう。それまでには準備を整えなければいけません」

「はい。エルシールさんにはパレロアさんが既に報告に行っています」

「エルシールならば上手く魔軍をコントロールできるでしょう。そして魔人は好き勝手に動く…出来るだけ魔人には魔物兵を多くはつけたくありませんね」

「その心配は無いとは思いますよー。だって人望は皆無ですから」

 加奈代の言葉にシャロンは苦笑する。

 魔人マリーゴールドには人望は全く無い。

 気に入らなければ簡単に兵士を殺す、そういう意味でも非常に恐れられている。

 無論魔人なのだからそれは当たり前なのだが、そういう性格なのは今は都合がいい。

 それに今は人類との戦争中、カラーにちょっかいを出したがる魔物兵はそう多くは無い。

 魔人四天王ケッセルリンクを怒らせて只で済むとは思っていないだろうし、何よりもその使徒であるシャロン達が動いているとなれば、自然と魔物大将軍もカラーを避ける思考になっている。

 だが、それが一番都合が良いのでメイド達としては有難かった。

「では後は日時ですね。配下の魔物兵も連れて行くでしょうから、そちらはランスさん達に任せないといけませんが…」

「連れて行くと言っても一個小隊が関の山ですよ。将軍クラスは持ち出せませんし、隊長だってそんなに差し向けられませんよ。それに、カラー相手にそこまで数は必要無いと判断するでしょうし」

「ええ。では加奈代、マリーゴールドが動くまでの間、ランスさんにしっかりと連絡をするように」

「はーい」

 加奈代はお気楽そうに返事をしながらも、迅速に行動を開始するのだった。

 

 

「そう…ついにランスさんがやりましたか」

「はい。ですので、時間稼ぎはもう必要ありません」

「良かった…そろそろ限界だと思ってたんですよね」

 パレロアの報告にエルシールは安堵のため息をつく。

 使徒として魔軍の中に入り、色々と理由をつけたりしてカラーの森へ入る魔物兵の数を減らしていた。

 魔人マリーゴールドはかなり短気な魔人なので、どう動くはは分からなかったが、どうやら賭けに勝てた事を素直に喜ぶ。

「でしたら私はもうここに居る理由はありませんね。魔物大将軍も正直私の事を煙たいと思っているでしょうし、後は任せましょう」

「ここを離れても大丈夫なんですか?」

「ええ。出来る事はもう無いですし。後はランスさん達次第ですから」

「では…」

「一言くらい声をかけては行きますよ。でも相手からの追及も無いでしょうし、何も問題無いでしょう」

 エルシールはそう言ってニコリと笑う。

「パレロアさん、後は全てランスさんに任せると伝えて下さい。私とシャロンさんはマリーゴールドの動きを見て伝えなければいけませんから」

「分かりました。ではお願いしますね」

 パレロアはそう言ってエルシールの前から姿を消す。

 それを見届けて、エルシールは改めて真剣な表情を取る。

「私の役目は終わったけど、ここからはランスさんに任せるしかない。でも、ランスさんなら絶対に勝つでしょうね…」

 エルシールはランスが勝つ事を疑っていない。

 今のランスならば真正面からでも魔人に対抗できるだけの力がある、そう確信している。

 そしてマリーゴールドはそこまで強い魔人ではないし、厄介な能力の類も無い。

「ランスさんが事前準備をしないはずが無いですからね。後は罠に嵌るのを待つだけ…」

 エルシールは急いで魔物大将軍の元へと向かうのだった。

 

 

 

「ここならばどうだ」

 メイはランス達をある場所に案内する。

 そこはある程度開けた場所だが、木々が覆い茂り身を隠すにはもってこいの所だ。

「別に構わんが、どうやってここに誘い込む」

 魔人は基本的に自分以外の存在を見下している。

 今回戦う魔人の事もケッセルリンクから聞いたが、人間の言う事など聞くような相手では無いとの事だ。

 つまりここに誘い出す前に、目の前にある家を襲撃する可能性が高い。

「問題無いぞ。ここに出るように結界を少々調整するだけで良い」

 エアリスも周囲を確認しながら頷いて見せる。

「丁度向こうの方から現れるように調整すれば良い。その程度ならば妾であれば容易い」

 彼女が指さした方向は確かに都合の良い場所だ。

 向こう側からはカラー達の家はある程度の距離があるので見えず、今メイが立っている場所は丁度入ってくる場所の正面だ。

 そこで立っていれば嫌でも目立つだろう。

「結界は少々弱まるが、相手はその魔人のみ。その後で結界を改めて張り直す。後はお主達に任せる以外に無い」

「あの…いざとなったらカラーの皆さんを脱出させないといけないんじゃないですか?」

 ジルの指摘にエアリスはコロコロと笑う。

「魔人がここに入って来た時点でカラーに未来は無い。お主達と一蓮托生じゃ」

「そうか」

 ランスはそう言いながらも頭を捻る。

(カラーは間違いなく俺様の時代まで残ってたんだがな…魔人に襲われたって話は聞いた事無いぞ。だったら何で魔人がここに来てるんだ?)

 それはランスが感じた自然な疑問。

 LP期にまで間違いなくカラーは存続しているし、何なら次期女王であるリセットはランスの娘だ。

 そのカラーが魔人に狙われた事があるなんて話は聞いた事が無い。

 そもそも魔人に狙われたのならもっと悲惨な事になる。

(ケッセルリンクが何とかしたのか?)

 ランスはこの世界の歴史を知らないのでそう考える。

 実際はランスが今の時代に居る事で魔人が現れたのだが、そんな事はランスの知る所では無かった。

「まあいい。俺様がぶっ殺す。黙って見てろ」

「うむ、お主の実力は疑いようが無い。カラーの命運…メイとお主に託す」

 女王であるエアリスは真剣な顔でランスを見る。

「だったら最後まで協力しろよ」

「無論じゃ。メイ、お主に全てがかかっている…最強のカラー、その名が偽りで無い事を示すがよい」

「勿論だ。俺が何としても隙を作る。だから後はお前に任せる」

「最悪お前が死んでも俺様がぶっ殺してやるから心配するな」

 ランスの言葉にメイは笑う。

「フッ…頼もしいな。ならば絶対に生き残ってやろう」

「じゃあ魔軍が来た時の対処はどうする? 魔人が1人で来るとは思えないけど」

「ぞろぞろ数を連れてくるとは思えない。数が少なければ私でも何とかなるだろう」

 レンの言葉にシロウズが応える。

「…まあお前は死んでもいいからどうでもいい。俺様とレンとジルで確実に魔人をぶっ殺す」

「大丈夫よ。仮に魔軍が来ても私が抑える。何を言われようともね」

 シルキィが任せて欲しいと言わんばかりに胸を張る。

「だからランス君、必ず倒してよ」

「当たり前だ。よーし、じゃあどっから不意打ちするか見てみるか」

 こうしてランス達は魔人を倒すべく、行動を開始した。

 

 

 

「カラーの隠れ里が見つかった?」

 魔人の元へ一体の魔物兵が報告をしていた。

 魔物兵はビクビクと怯えているが、ハッキリとカラーの隠れ里を見つけたと断言した。

 それを見て魔人マリーゴールドやニヤリと笑う。

「そう、いい子ね」

 そう言って笑うが、魔物兵は生きた心地がしない。

 この魔人はとんでもない癇癪持ちで、迂闊な事を言わなくても殺されかねない。

 魔人への報告も殆ど罰ゲームみたいなものだ。

 だが、それでも報告をしなければいけない理由が有るのだ。

(ケッセルリンク様の命令ならば逆らう訳にはいかない…)

 この魔物兵はケッセルリンクの使徒であるエルシールに言われて報告をしているのだ。

 選ばれた理由は、愚鈍で先を考える力が無いから、という身も蓋も無い理由だ。

 だからこそ、魔物兵はエルシールの言葉を疑う事も無く魔人へと報告しているのだ。

 その思惑を全く考える事も出来ぬままに。

「案内しなさい」

「は、はっ!」

 魔人の言葉に魔物兵は震えながらも返事をする。

 そして魔人が出陣した事で残された魔物兵達は安堵する。

 魔人マリーゴールドはそれ程までに恐怖の象徴だったからだ。

「エルシール様」

「ええ、全ては予定通りに」

「はっ…」

 エルシールの隣には1体の魔物隊長が控えていた。

 この魔物隊長はケッセルリンクの使徒達の手駒として動く事を決めていた。

 中身は女の子モンスターの最強魔女で、使徒であるエルシール達に絶対の忠誠を誓っている。

「ですが一つ懸念が有ります」

「懸念? 何か起きたのですか?」

「はい…まだ噂ですが、『殺姫』の姿が確認されたと」

 その報告にエルシールは目を見開く。

「それは間違い無いのですか?」

「はい。私の部下が確認しました。闘神都市で闘将と戦っていたらしいのですが…何時の間にか地上に戻って来たようです」

「そうですか…彼女が」

 エルシールは苦い顔をする。

『殺姫』…もちろんそれは本名ではなく、綽名だ。

 その物騒な名前の通り、目の前の敵全てを殺す勢いで戦闘を繰り広げる、まさに戦闘狂の女の子モンスターだ。

 本来は魔物スーツを着なければ魔物達は統制を維持する事は出来ない。

 が、殺姫はその魔物スーツを着る事無く戦いを繰り広げる異端児だ。

 モンスターの中にも突然変異のモンスターが生まれる事が有る。

 そのモンスターは突然変異故に同種のモンスターと馴染めず、孤立しているのが当たり前だ。

 殺姫も例外では無いが、種族が種族だけにモンスターを率いる事が出来る―――ただし、力づくでだが。

「しかもこちらに居るようなのです。もしかしたらカラーの所に行くかもしれません」

「理由は?」

「魔人レイ様の所に居た様なのです」

「…成程」

 魔人レイ―――あの好戦的な魔人の所に居たのならこっちに居てもおかしくは無い。

 あのレイが地上で人間と戦ったのはちょっとした話題になっている。

 そして殺姫がその話に食いついたのならば、地上で動いても不思議ではない。

「あの者はバトルノート…突然変異ですが、種族が種族です」

「そうですね…警戒は必要かもしれませんが、何とかなるでしょうね」

「そうなのですか?」

「ええ。そういうものです」

 エルシールはそう言ってニッコリと微笑むのだった。

 

 

 

 カラーの森入り口―――

「諸君、今ここに忌まわしきブタが入っていった。理由は分かるか?」

「…カラーを殺すためですよね」

「そうだ。美しい者が嫌いという実に身勝手で―――実に魔人らしい理由だ。面白い」

「ひ、姫様…じゃあ我等は一体何故こんな所に?」

 姫様と呼ばれた女の子モンスター―――バトルノートはその顔に狂気の笑みを張りつけながら高らかに笑う。

「決まってるだろう! 実に楽しそうだからだ! カラーに手を出した魔人がどうなったか、その伝説は有名だろう!」

「…魔人メディウサの事ですね」

 バトルノートの隣に居るのは魔物隊長―――本来はバトルノートよりも格上の存在だが、彼女には逆らう事が出来ない。

「そう! その逸話からすればマリーゴールドは死ぬ! その死を見届けて大いに笑おうでは無いか! ヒヒヒヒヒ、クハハハハハハハ!」

 そう言ってバトルノート、いや殺姫は笑う。

 その哄笑を聞いて部下―――となってしまった魔物兵達は震える。

 バトルノートと言えば軍服ドレスに扇を携えている。

 だが、この殺姫は違う―――そのドレスは既に血で汚れており、その白い髪もまた血がこびりついている。

 片目は眼帯をしているが、もう片方の目からは限りない狂気が滲み出ていた。

「何か不満か? 貴様」

「ヒッ! そ、そんな事はありません!」

 殺姫に指摘された魔物兵は震えながら答える。

「いいや、違うなー…お前は明らかに私に不満を持っている。死にたくないから従っている」

 その口元には笑みが浮かんでいるが、その目は全く笑っていない。

 それなのにこちらの心を覗き込むような眼が非常に恐ろしかった。

「が、私は今気分が良い。だから一撃で許してやる」

「え?」

「今日の私は紳士的だ。運が良かったな」

 そう言って殺姫は魔物兵の頭部を叩く。

「ぐべらっ!」

 それだけで魔物兵が地面に埋まる。

「おや、手加減してやったのに地面に埋まってしまった。魔物スーツの中にも安物があるのかな」

「あの…規格は一定ですから普通に姫様の拳のせいだと思うんですけど…」

「なんと! それは喜ばしい! 私はそれだけ強いという事だからな!」

 殺姫は高らかに笑う。

 確かに殺姫は狂気を携えた恐ろしい女の子モンスターだ。

 だが、同時にカリスマを備えたモンスターでもある。

 その有能さ、そして強さ故にスーツを着ない事を魔物大元帥直々に認められた存在だ。

「諸君、私は戦争が好きだ! 殲滅戦が…」

「ストップ姫様! それは元ネタがマズいです! いくらこの作品の元ネタにその手のネタが多いとは言ってもそれはダメです!」

「む、そうか…まあいい。さあ、戦争に行くぞ!」

 そう言って殺姫と呼ばれたモンスターはカラーの森へと入っていった。

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