ランスは二人の戦いを観察していた。
メイの体は明らかにボロボロであり、勝ち目が無いのは明白だった。
だからこそ、ランスはその瞬間を待っていたと言ってもいい。
(ランス…集中しているな。ならばそろそろか)
ランスが目の前の戦いに集中しだしたのを感じ取り、スラルも気を引き締める。
決着は近い…つまりは、ランスが介入する時間が近いという事だ。
ランスは静かに動き、不意打ちがしやすいように移動を開始する。
その動きは本当に見事なモノであり、何と物音すら立てないというある意味凄まじい事をしている。
元々ランスは変な所で隠密の技術に優れている所がある。
かなみに気づかれずに接近したり、フレイヤにすら気配を感じさせずに不意打ちをしたりと、実際に本当に凄いのだ。
ランスが狙っているのは、相手が勝ち誇った瞬間だ。
あの手のタイプは人間を嬲り殺しにするタイプだ。
そういう奴は自分の嗜虐性で必ず墓穴を掘る、ランスにはそれが分かっていた。
そしてメイがとうとう倒れる。
ランスは剣を抜いて何時でも飛び出せるようにする。
今回は不意打ちで必ず相手を殺す、もしくは致命傷を負わせる必要がある。
これがカオスか日光ならば、不意打ちで大ダメージを負わせた後で皆でタコ殴りにすればいいのだが、今回はランスしかダメージを与えられない。
だからこそ、一撃で相手が逃げられなくなる程のダメージを与えねばならない。
そのためには狙うのは相手の急所だ。
倒れているメイに対して、魔人はその体を踏みつぶそうとした。
メイはそれに対抗するようにその足を掴んだ。
そしてそれこそがランスが待っていた瞬間だった。
音も無く走り始めたランスが魔人に向かって突っ込んでいく。
ランスアタックは必要無い、狙うのは魔人の心臓部だけ。
魔人マリーゴールドはランスに全く気付いていない。
そしてランスの剣はマリーゴールドの心臓付近に深々と突き刺さった。
傷口を広げるようにランスは剣を捻り、傷口を広げていく。
マリーゴールドは力づくでランスを引き剥がすが、最早その姿には魔人としての威厳は全く無い程に弱くなっていたのだった。
「まあいい。どうせお前はここで死ぬからな。女を虐める奴は許さん。ぶっ殺す!」
ランスは剣を突き付けてニヤリと笑う。
そこから感じる確かな殺意、そして自分を傷つけた剣に対してマリーゴールドは恐怖した。
人間につけられた傷は致命傷に近い。
本来は再生能力が働くはずだが、内臓が焼かれ、そして凍らされたような衝撃に体が震える。
そしていくら再生能力に優れると言っても、即座に傷が治るような便利な能力は持っていない。
つまりはここで逃げる事が出来なければ待っているのは間違い無く死だ。
「クッ!」
だからマリーゴールドは躊躇いなく逃げる。
死にたくない―――その一念だけで逃げる事を選んだのだ。
「がはははは! 逃げられると思うなよ! やれ!」
ランスの言葉に合わせたように、マリーゴールドが逃げようとした方向からレンが降って来る。
それだけでなく、何処に隠れていたのかカラー達が現れて一斉に矢を放つ。
「エンジェルカッター!」
レンもそれに合わせて魔法を放つ。
「邪魔を…!」
その全ては無敵結界に阻まれるが、問題なのはやはりレンの魔法だ。
何しろレンは人では無いので、その魔力の質も普通とは違う。
無敵結界で防ぐことは出来ても、その衝撃までは防ぐことが出来ない―――その法則通りに、レンの魔法は確実にマリーゴールドに衝撃を与えていた。
そしてその衝撃はマリーゴールドの傷口には堪えるものだった。
「グフッ!」
血を吐き出しよろめくマリーゴールドの背後から接近してくる足音が聞こえる。
マリーゴールドはそれを自分を突き刺した人間だと思ったが、それは違った。
「逃げられると思うなよ!」
それは自分が叩きのめしたはずのカラー…メイトリックスだった。
その強烈な剣は的確にマリーゴールドの傷口を狙って放たれた。
無敵結界がその一撃を阻むが、今のマリーゴールドにはその衝撃すらもダメージになってしまう。
「カ、カラーが…人間如きが…!」
「がはははは! 無敵結界が有ろうが無かろうが所詮は雑魚は雑魚だな! 死ねーーーーーーっ!」
そして自分を刺した人間が向かってくる。
「ひっ!」
小さな悲鳴を上げるが、そんな事はお構いなしにランスは飛び上がった。
「ラーンスアタタタターーーーーック!」
「ぐ、ぎゃあああああああ!」
ランスの必殺の一撃がマリーゴールドの肩口から突き刺さり、先程刺された傷口を更に抉る。
それでもうマリーゴールドは立っている事すらも出来なくなった。
凄まじい出血にとうとう体が耐えきれなくなったのだ。
「そ、そんな馬鹿な…ま、魔人なのに…無敵結界があるはずなのに」
「フン、そんなもん俺様の前には役に立たんわ。いい加減とっとと死ね」
ランスが剣を構えた時、ランスの足元に何かが飛んでくる。
「あん?」
「シロウズ?」
それはシロウズ・亜空だった。
気絶しているのか、ピクリとも動かないが生きてはいるようだ。
「クハハハハハ! まさに伝承は事実! カラーに手を出したバカは魔人だろうと死ぬ! その事実のなんと楽しき事か!」
シロウズを投げ飛ばしたであろう存在―――血まみれのドレスを纏った女の子モンスターだ。
「何だお前は」
「おお! これは名を名乗るのが遅くなったな! 我が名は殺姫! 誰もがそう呼ぶ! だからそう呼んでくれていい!」
ランスの言葉にも殺姫は哄笑しながら答える。
ランスから見てもその笑みには狂気が浮かんでおり、非常に危うい気配を感じさせる。
「お、お前…わ、私を助けなさい!」
殺姫の姿を見て、マリーゴールドが声を出す。
「おお! これはこれは無敵の魔人様ではありませんか!」
マリーゴールドを見て殺姫は非常に楽しそうに笑う。
その顔には魔人に対する畏敬や恐怖、それらの感情は全く浮かんでいない。
それどころか今の状況を楽しんでいるように笑い続ける。
そしてその顔に酷薄な笑みを浮かべる。
「無様ですな。そして私が助ける義理も理由もございません。だからそこで死んでください」
そう言って魔人すらも見下す様に天を仰ぎながら哄笑する。
「き、貴様…魔物の分際で…」
「魔物であって貴様の部下でも何でも無い。貴様を助ける義理も無ければ理由も無い」
「わ、私の使徒にしてやる! 永遠の命を、永遠の闘争を得られるぞ」
マリーゴールドの言葉に殺姫はニヤリと笑う。
「興味ありませんなあ。永遠の命にも永遠の闘争にも興味は無い。一瞬の輝きが有ればそれでいい。それが我が美学であり、真理!」
「ば、馬鹿な…」
殺姫の言葉にマリーゴールドは愕然とする。
永遠の命を下らないと言い切り、闘争を求めながらもそれは永遠では無いという。
理解不能の存在には魔人ですらも茫然とする。
「うるさい。さっさと死ね」
「ぎゃあああああああ!!」
そしてそんな茶番を無視し、ランスがマリーゴールドの心臓に剣を突き刺す。
それが止めとなり、マリーゴールドは悲鳴を上げて痙攣するが、光に包まれたかと思うと後には紅い球だけが残される。
「ほう、それが魔血魂…魔人が死ぬとその姿になるという。俺からすると伝承でしかないのだが、まさかこの目で見られるとは、まさに僥倖!」
魔人が死んだにも関わらず、殺姫は楽しそうに笑う。
「そして! 魔人を倒す存在に出会えた! そのような存在と戦えるとは、これぞ武門の誉れなり!」
「…どうでもいいがメチャクチャテンション高いな。まるで女版ガンジーをみとるようだぞ」
ランスは一々テンション高く、そして高笑いをしてポーズを決めながら言葉を放つ相手にゲンナリする。
これ程までに色々な意味でやかましい女の子モンスターなど始めて見る。
「…お前、まさかバトルノートか?」
「その通り! 我はバトルノート! と、言っても誰もそれを信じぬがな! 何故か皆私をイカレタバルキリー扱いする! だがそれもまた良し!」
「うーむ、こいつ本当にやかましいな…」
流石のランスもここまでテンションが高い女だと性欲よりも先に疲れが来る。
しかも容姿は良いので、ランスとしては非常に残念に思ってしまう。
「それよりも何をしに来た訳? さっきの態度からすると魔人の敵討ち、なんて事は無いでしょ」
レンは殺姫達魔物兵を睨む。
シロウズを倒した事からも、相手は相当に強いのは明らかだ。
「うむ、伝承を確かめるために来た。古来からカラーに手を出した者は魔人であろうとも死ぬという話がある。その逸話、興味があった。だからマリーゴールドの後をつけた、それだけだ」
「で、これからどうするつもり?」
「無論! 戦うのさ! 強い相手と戦う事が我が楽しみ! 戦争が生き甲斐! さあ、貴様等! 奴等を倒せば魔血魂が手に入るぞ! 上手くいけば魔人の仲間入りだ!」
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
殺姫の言葉に魔物兵達の士気が大幅に上がるのが分かる。
確かに殺姫の言う通り、魔血魂を飲み込めば運が良ければ自分が魔人になれるかもしれない。
そして誰もが永遠の命が欲しいのだ…数少ない例外を除いて。
「さあ戦争だ! 人間! この殺姫と戦え!」
「うおおおおおおおお! 俺が魔血魂を貰う!」
「いや、俺だ! 俺が魔人になる!」
「まけっこんをよこせ! おれはまじんになるんだ!」
殺姫の言葉を合図に、魔物兵達が一斉に襲い掛かって来る。
「ザコ共が! ジル、レン、やるぞ!」
「はい! ランス様」
「分かってる。それよりも…ヒーリング!」
レンが魔法をかけると、メイが起き上がる。
「やれるのか」
「ああ。今の俺は血が滾っている。あの程度、何も問題は無い!」
魔人と戦った後だというのに、メイは全く衰える事無く魔物兵に向かって行く。
魔物兵の目的はランスの持っている魔血魂で、ランスに向かって殺到し来る。
が、所詮は魔物兵―――今のランスにとっては全く問題無い相手でしか無かった。
「フン!」
ランスが剣を振るうとそれだけで魔物兵が両断される。
魔物兵ですらも一撃で倒すランスの剣は異常なまでに素早く、魔物兵が殺到しても問題無い程の強さを発揮していた。
「氷雪吹雪!」
「ライトボム!」
ジルとレンの魔法も魔物兵に突き刺さる。
「カラーも力を見せろ! 魔物兵程度、俺達でも行けると見せつけろ!」
「「「了解!!!」」」
メイの言葉に控えていたカラー達も現れ、弓と魔法を放って魔物兵と交戦する。
「ハハハハハハ! 強いなあ! だからこそ、戦いは良い!」
魔物兵が蹴散らされても殺姫は尚も笑い続ける。
そしてとうとう殺姫が動いた。
一瞬でランスとの間合いを詰め、二人は間近で顔を突き合わせる程までに接近したのだ。
「うお!?」
「やあ、人間。最高の戦争をしよう」
殺姫は凄まじい蹴りをランスに見舞う。
ランスはそれを刀の柄で防ぎ、殺姫に向かって蹴りを放つ。
殺姫はその蹴りに合わせて同じように蹴りを放つ。
二人の足がぶつかり合い、ランスはその衝撃によろける。
殺姫はよろける事無く、ランスへと向かってくる。
(こいつ…普通に強いぞ。使徒並だぞ)
ランスは襲って来た殺姫の力に驚く。
こいつは女の子モンスターなのは間違い無いが、今までランスが戦って来たモンスターの中では一番強い。
レア女の子モンスター等とも戦っては来たが、それとは全く違う、異質な力を感じられる。
「ハハハハハ! 防ぐか! いいぞその強さ! 生身の体なのに闘将よりも強いのだろうなあ!」
「フン、俺様をあんなデクの棒と一緒にするな!」
ランスは殺姫に対して剣を振るう。
つまりは、ランスが殺姫を倒すために本気になったという事だ。
「行くぞ人間! 殺し合いをしようか!」
そして殺姫はランスに向かってくる。
だが―――ランスにとってはやはり只の『強い女の子モンスター』でしか無かった。
確かに強いが、ランスはこれまで殺姫よりも強い相手と戦い続けてきた。
使徒、魔人、悪魔、怪獣、闘神等これまでランスが戦ってきたのはそれこそ凄まじい相手ばかりだった。
それらの相手と比較すると、やはり劣るのは仕方の無い事だろう。
「フン!」
ランスが剣を振るうと、その衝撃波が殺姫を襲う。
「当たらんなあ!」
殺姫はそれを予測していたようにその衝撃波を飛び上がる事によって避ける。
ただ、それこそがランスの狙い。
ランスは居合の態勢を取ると、空中に居る殺姫に対して、距離があるにも関わらずに一閃する。
殺姫はその動作に冷や汗が流れる。
空中で防御の姿勢を取るが、ランスの放った一閃は距離があるにも関わらずに殺姫の脇腹を斬り裂いた。
「ぐはっ!」
凄まじい斬撃に殺姫は口から血を吐き出す。
だがそれでも―――殺姫はその動きを止めなかった。
痛む傷口を無視して、その足をランスに向ける。
「まだまだあ!」
渾身の蹴りがランスを襲う。
まさかこれ程の傷を負いながらもまだ攻撃をしてくるとは思っていなかったランスはその攻撃を避けれなかった。
避けれないと悟り、ランスはシルキィお手製の防具でその蹴りを防ぐ。
「うおっ!?」
その衝撃はランスが脇腹を斬ったにも関わらず、ランスの体をぐらつかせる。
腕が痺れ、骨が軋む音がした。
防具の上からでもそれ程までの攻撃は流石に予想もしていなかった。
闘将を相手にしたというのも頷けるほどの威力だ。
ただ、ランスも魔人との戦いではもっと苦労をさせられている。
「クハハハハハ! 流石に魔人を倒すだけの事は有る!」
殺姫はそう言いながらも自分に回復魔法をかけている。
どうやらバトルノートの突然変異というのは伊達では無い様で、回復魔法が使えるようだ。
「偉そうに言うけど、後はアンタだけよ」
「ほう…我が部下が全て倒されたか。そこそこ強い個体を集めたつもりなのだがな…」
背後に立っているレンの気配を感じ取り、殺姫は目を細くして周囲を見渡す。
そこには確かに魔物隊長を含めた自分の部下達が絶命していた。
「やはり画一的な部下というのはいかんな。確かに魔物スーツは弱い魔物を強くするが、同時に個性が失われてしまう。魔物隊長の中身はデカントだったというのにな…その巨体が生かせぬならば意味は無いか」
先程の狂気に溢れた目から、突如として冷静な指揮官としての顔を覗かせる。
「フン、魔物兵など今更相手にならんわ」
「のようだな。もう少し粘ると思っていたのだが…まあそんなものか!」
そう言って殺姫はなんと自分を囲んでいるはずの一番層が厚い方向に向かって行く。
「む!」
「いかん! 皆退けろ!」
ランスの驚きの声を共にメイがカラー達に声をかける。
カラー達はそれに逆らわずに、殺姫から距離を取る。
そして殺姫はそのまま一目散に逃げだしていった。
「チ、逃がしたか!?」
ランスとしては最大の失態だ。
自分が魔人を殺せるという事を他の奴等に知られるのはマズい。
だからこそ皆殺しにしなければならなかったのだが、どうやら相手が一枚上手だったようだ。
「まさか一番層の厚い所から抜けていくとはな…俺とした事が相手を見誤ったか」
メイも自分のミスに唇を噛む。
「バトルノートの突然変異か…バトルノートとバルキリーのハイブリッドって感じだったけど…流石に今からじゃ追えないわね。どうする、ランス」
「今からじゃ間に合わんだろ」
流石のランスでも今かでは追う事は難しい。
何しろここはカラーの森、ランスだけでは道に迷ってしまうのが関の山だ。
それは相手も同じだが、一度距離を取られてしまうとそれだけ探すのにも時間がかかる。
「…あの手のタイプは問題無いと思うがな」
「スラルちゃん、どういう意味だ」
「突然変異種のモンスターというのは基本的に嫌われ者だし、変わり者が多い。それに奴のターゲットはランスになっただろうからな。その楽しみを他の奴等に奪われるような事はしないと思うがな」
「そんなもんか?」
「カミーラと同じと言えば分かるだろう」
「………あいつと同じか」
カミーラはランスを狙い何度も戦って来た仲だ。
ただ、カミーラは魔人としてではなくドラゴンとしてランスに戦いを挑んできている。
そしてランスを嬲り殺しにするのではなく、真正面から、そしてあくまでもランスでも自分を倒す事が出来るように態々自分に縛りを入れる程だ。
流石に魔王の命令があれば別だが、それが無ければランスの事を他の奴等に漏らす事は無いし、あくまでも己の力だけでランスを屈服させようとしてくる。
確かにそのカミーラと同じだと言うなら、カラーには影響は無いだろうし、態々ランスの存在を表にするとは思えない。
あくまでも自分の力でランスを倒すために。
「フン、迷惑な奴等だ」
ランスは剣を収めるしか無かった。
当初の目的通り、魔人を倒せたことで良しとするしか無かった。
「だが…本当に魔人を倒せたのだな」
「だから言っただろうが。俺様ならば余裕だと」
「そうだな…お前は不意を突いたとはいえ、あっさりとあの魔人を倒した」
メイはランスに向けて不敵な笑みを浮かべる。
「だからこそ、お前と戦いたくなった」
「何で俺様の周りにはこういう連中ばっかり集まるんだ…」
ランスは少々ゲンナリした様子でため息をつく。
その時、カラーの皆を纏めていたエアリスがやってくる。
「それよりもまずは後処理を行うのが先じゃな。それに始祖様から連絡があった」
「始祖様が!?」
女王の言葉にメイも目を見開く。
「そういやハンティの奴の姿が見えなかった。あいつ、何しとるんだ」
ハンティはカラー存続のために動いていたはずだったが、今の危機的状況には姿を見せていない。
時代が時代だけに難しいのかもしれないが、ランスからすれば不自然に思えたのも事実だ。
「始祖様は地上の者達を守るために動いている。人類がいなければ我等カラーも滅ぶ。始祖様も色々と厳しい立場なのじゃよ…」
エアリスもハンティの立場は分かっている。
これからのカラーの未来のためにもハンティは動いていてくれているので、自分達は自分達の手で身を守る以外に無かった。
「じゃからこそ、お主の助けには感謝しておる」
「がはははは! そうだろう!」
ランスは偉そうにしているが、カラー達はランスに対して興味津々であるようだ。
カラーの未来を守り、魔人を倒した英雄なのだから当然と言えば当然だ。
「しかし、問題は次の段階だな。所詮は魔人の1人を倒したに過ぎない。これからどう動くか…ランス、重要な事だぞ」
スラルの言葉にランスも考える。
その言葉通り、魔人の1人を倒した程度では何も変わらないだろう。
ただ、ランスとしてもこれからどうするか―――それは全く考えていない。
というよりもこの第一次魔人戦争に関してはランスも結果を知っている。
ヘルマン革命でそんな話を少し聞いたような気がしただけだが、実際にはそれは間違っていない。
つまりはランスが何をしようがこの戦争は人類の負けなのだ。
「少し様子を見る」
「…それが良いのかもしれないな。今の状況、下手にお前が動いて魔人がお前を狙うのも厄介だ」
ランスの言葉にスラルも同意する。
今は動くべきではない、というのは間違っていない。
「ランス君、やったわね!」
その時シルキィがやって来てランスに抱き着く。
その衝撃でランスは倒れる。
「あ、ごめんなさい」
シルキィは慌ててランスの手を引いて起こす。
「お前な…少しは加減という物が出来んのか!?」
「あはは…嬉しくなっちゃって。でもこれからが大変ね」
「フン、どうにでもなる」
ランスは少しの不安があったが、確かに本当に何も起きなかった。
マリーゴールドは死んだが、誰もそれを気にする者もいなかった。
魔物界―――
「ククク…ハハハハハ! まさかここまでの存在が居るとは! まさに僥倖! この殺姫の全力をぶつけられる相手が出てきた!」
傷を癒すために魔物界に戻って来た殺姫は狂喜乱舞していた。
本当に自分の全力をぶつけられる相手を見つけたのだ。
その証拠に自分は最大限の興奮をしており、それは最早恋する乙女のように熱い眼差しを持っていた。
ただ―――その愛はもの凄く物騒なものだったが。
「何が嬉しい、殺姫」
「おや、これは大元帥殿。私のようなはぐれ者の所を訪れるのは貴様だけだな」
「それを思うのであれば少しは身の振り方を考えるのだな。貴様に言っても無駄だろうがな」
「その通り、よく分かっていらっしゃる。レギン大元帥殿」
魔物大元帥―――七体の魔物大将軍の内の1人であり、魔物大元帥の地位を預かる存在。
現世界での最強の魔物、とも言われている。
が、今回の戦争には参加は許されていないが、本人は特に不満を零した事は無かった。
「ああ、そうだ大元帥殿。私にも部下が欲しい。それも普通の魔物兵ではダメだ」
「偉そうにモノを言える立場だと思っているのか? が、貴様の言う事も分からぬ訳でも無い」
「流石に話が分かる。そうだな…俺のようなはぐれ者でも良いから集めて欲しいものだ」
「突然変異の連中をか」
殺姫の言葉に大元帥は少し考える。
「まあいい。どうせ突然変異の連中を部隊に入れたがる奴は居ない。そんな奴を貴様が率いるというのであればそれも構わん」
「おお、それは面白い! 是が非でもお願いしたいものだなぁ!」
「フン、使いにくいのは貴様も同じだ。貴様が死のうが私は一向に構わぬからな」
「ハッハッハ! 実にストレートな物言い、非常に楽しいな! やはり貴様とはつまらぬ腹の探り合いをしなくても良いのが楽で良い!」
「お前のような連中を集めてやる。後は好きにしろ」
「それはもう!」
殺姫は本当に楽しそうに、そして禍々しく笑う。
そしてランス達の事は一切報告しないし、レギンもそんな事は期待していない。
どうせこの戦いはもう魔軍の勝利は確定しているのだ。
殺姫達が死のうが戦果を挙げようがどうでもいい事なのだ。
そう、これも特に戦況には影響が無い小さなこと―――だが、それは遠い未来において大きな意味を持つのは当然誰も分かってはいなかった。
大分遅れて申し訳ありません
ちょっと忙し過ぎました…