「人間共が攻めてきただと?」
「は、ハイ! 既にゲナン・デー将軍が討たれました!」
「フン、どうせ死ぬくらいならばと特攻して来たか? 他の部隊から回して包囲殲滅しろ。数はこちらが優位なのだからな」
ゾロッカは特に慌てることも無く魔物将軍達に指示を出す。
浮足立っていた魔物達も、大将軍が全く動じていなかった事から落ち着きを取り戻す。
「人間共はその後で皆殺しにすればいい。少しずつ世界をさっぱりさせんとな…」
そう言って不気味に笑うゾロッカに対して背筋が寒くなるが、それでも戦場ではやはり魔物大将軍ではあるのだ。
その指示は的確で問題は無い。
人格や思想に問題はあっても、能力に関しては問題無い。
魔物大将軍はそんな連中ばかりだ。
「行け。人間共を根絶やしにしろ」
「ハハッ!」
魔物将軍達はそう言って配下の魔物兵達の指揮に戻っていく。
「人間共め…まあいい。ここで皆殺しすれば遅れも取り戻せよう」
ゾロッカの目的としては、次の魔物大将軍の交代の時期までに大陸の南半分―――LP期で言う所のゼス地方までの人間共を皆殺しにしたいと考えていた。
どうせ山脈と海に囲まれた地形の部分…LP期でのパラパラ砦の所は攻めるのは難しい所なのだ。
そういう所は他の奴にでも任せればいい、そんな事も考えていた。
最終的に人間共を皆殺しにまでは行けなくとも、人類の数を10分の9を抹殺出来ればそれで良いとさえ思っていた。
(そう、ナイチサ様の行いは正しいのだ。人間共に我等に逆らう気力すら与えてはならぬのだ)
魔物大将軍ゾロッカ―――本来は存在しないはずの魔物大将軍。
本来の歴史において、魔物大将軍がここまで死ぬことは無かった。
NC期では本来死なないはずの魔物大将軍が2体も人間によって討ち取られた。
その事が後世において影響を及ぼした…その結果が、この魔物大将軍ゾロッカが就任した理由だった。
過去に起こった事はやはり現在において大きく影響を及ぼしていた。
それが魔物大将軍が変わるという結果を生み出していた。
この魔物大将軍ゾロッカは魔王ナイチサの信奉者で、ナイチサが行った大虐殺こそが魔物の本懐と信じていた。
だからこそ、今も人類に対する殺戮を繰り広げているのだ。
「ジグソウを放つ準備もしなければならんか…? いや、補充の部隊は何者かに殺された。少しの間は大人しくしなければならぬか」
補給の部隊が何者かに殺された事は勿論分かっていた。
ただ、それでもゾロッカは特に動揺する事も無く、人間の殲滅に力を入れるつもりだった。
だが…魔物大将軍ゾロッカがイレギュラーであるように、この世界には大きなイレギュラーが存在している事をゾロッカも知る由も無い。
だからこそ、次の魔物兵の将軍にはゾロッカも驚愕するしか無かった。
「大変です! ゾロッカ大将軍!」
「何だ。騒々しい。人間共の援軍でも来たというのか?」
「ち、違います! 闘将です! 闘将共がこちらの背後から攻めて来ました!」
「何だと!? 闘将だと! バカな! 連中は魔人共が遊んでいるはずだ!」
「間違いありません! 闘将が突然現れて攻撃を仕掛けてきています!」
「…まさか人間共が動いたのはこれが理由か? 闘将と闘神が地上に降りてきたとでも? いや、そんな事はどうでもいい! 人間共はいい! 闘将を優先させろ! ゾナン・デンとビエル・Sを向かわせろ!」
「ハッ!」
突然の闘将の出現には驚くが、それでもゾロッカは正しい対処をした。
ただ、ゾロッカの読み違いはその闘将以上の存在が居たという事だ。
「た、大変です大将軍!」
「今度は何だ!」
「ば、バケモノです! バケモノの集団が突然襲って来ました!」
「バケモノ!? 何だそれは! 報告はしっかりとしろ!」
「は、そ、その…そうとしか表現できぬのです。我々のような魔物でもないですが、人間でも闘将でも無い存在が襲って来たのです!」
「…何処にそんな戦力を隠していた」
あまりの部下の混乱にゾロッカは逆に冷静になっていた。
(思えば補給部隊が全滅させられたのもそうだ。人間共の悪あがきだと思っていたが…まさかこれも聖魔教団の連中の企てなのか)
聖魔教団で脅威なのは闘神都市と闘神、闘将だけだ。
地上でも人類は抵抗はしているが、正直に言えばその抵抗など闘神都市に比べれば紙屑に等しい。
そしてその闘神都市は魔人によって蹂躙されており、地上に応援を送る事も難しいのだ。
しかし、もし連中がこの地上に闘神や闘将を送り込んだとすれば…と考えてしまう。
「まあいい。人間と闘将を殲滅しろ! 数は決して多くは無い! このまま数で連中を押しき…」
ゾロッカがそう言おうとした時、凄まじい轟音と共に魔物大将軍専用のテントが揺れる。
「な、何だ!?」
「な、何が起きたんだ!?」
魔物兵達はその轟音に狼狽えているが、ゾロッカはそれを無視してテントを出る。
そして目の前にあったのは―――氷の嵐に飲み込まれている自分の部下達の姿だった。
少し前―――
「ランス、連中が動いたわよ」
「そうか。お前等は連中の後ろから派手に暴れて来い」
「うむ、承知した」
「精々派手に暴れてやりますよ」
「腕がなるのう」
ランスの指示に3体の闘将は待っていましたと言わんばかりに動き始める。
「その後はお前だ。お前も精々派手に暴れて来い」
「任せな。そういうのは俺の得意分野だぜ!」
黒部がランスの言葉に牙を剥き出しにして笑う。
「ある程度ぶっ殺したら俺は好きにさせて貰うぜ」
「構わん。ま、お前が好きにする頃にはもう終わってるがな」
「言うじゃねえか。だったら意地でも間に合って見せるぜ! 行くぞお前等!」
そう言うと黒部は妖怪たちを引き連れて魔物の集団へと向かって行く。
「連中が二手に分かれたら突撃という訳か。だが、この数で何とかなるのか?」
メイは今この場に残って居る者達を見る。
ここに居るのはランス、レン、ジル、メイ、お町だけだ。
この数で突撃するなど無謀この上ない。
「問題無い。我とランスが居る限り、この奇襲は必ず成功する」
「ジル…いや、スラルか。俺はその理由が知りたいな。確かにお前達は強いが、それはあくまでも相手が少数の場合だ。流石に相手が大軍となれば、数に押しつぶされるだろうな」
「確かにな。だが、今の我とランスならばある程度の数など問題にならない。それこそ、我とランスがどれだけの時間を過ごし、そして戦って来た事か」
スラルはそう言っても薄く唇を吊り上げる。
「ランス、久々だが勿論やれるな?」
「当たり前だ。まあ確かに昔は中々苦労させられたが…正直、ククルククルに比べれば大した事無いしな」
「違いない。ジル、しばらくの間お前に全てを任せる。血の方も今ならばそれ程問題無いだろう。後は任せるぞ」
そう言うと、ジルの体から女性の霊体が現れたかと思うと、ランスの剣の中に消えていく。
「大丈夫です、スラルさん。今の私ならば、この力を一人でもある程度なら制御出来ますから」
スラルが消えた事でジルは久々に自分の体が完全に一人になる。
ランスと再会する前にも試しては見たが、やはり力がついていなかったかせいか制御が出来なかった。
フリークやルーンとの出会いでジルも知識と力を高め、こうして短期間なら自分の中の血をある程度制御が出来るようになったのだ。
それを聞かされたからこそ、ランスも止めの一刺しを相手に食らわせられると確信した。
「よーし、突っ込むぞ」
「適当で良いでしょ?」
「構わん。どうせ一発ぶちかましたら残るのはそこそこの連中だけだからな」
「今ならそのそこそこの奴等も残らんだろうさ。ランスが修行していたように、我とジルもまた長い間己の力を安定させてきたからな」
ランスの剣の中からスラルが喋る。
その口調は何処までも不敵で、スラルが魔王だった時代を思わせる。
「がはははは! 久々に全力で行くぞ! スラルちゃん!」
「ああ。我とお前の力…奴等に見せてやるとするか」
ランスも闘将と妖怪達に続いて動き始めた。
魔物達は突如として現れた闘将、そして妖怪の部隊に混乱しているようだ。
「闘将だ! 闘将が相手なら魔法使いを出せ!」
「そんなに数は居ないぞ!? 人間共の所に駆り出されちまった!」
「少しでもいい! 魔法魔物兵を持ってこい!」
魔物隊長の言葉に魔物兵はしっかりと動く。
が、それでも闘将という存在の力は圧倒的だった。
「魔物は倒す! 行くぞ、ロブロズ! ルデム!」
「了解です! 魔物は俺達の敵だぜ!」
「魔人や使徒に比べれば脆いものじゃの!」
闘将はたったの3体なのに、数百の魔物兵相手にも全く臆することなく戦い続ける。
「こ、この!」
魔物兵が斧を振るが、その一撃も闘将の硬いボディの前には意味が無い。
少しはダメージになるのかもしれないが、それでも闘将という存在はやはり魔物兵には大きすぎた。
「甘いなあ!」
ロブロスの拳で魔物兵の腹が貫かれる。
そのまま魔物兵の死体を振り回し、魔法を使おうとしている魔物兵に投げつける。
「炎の…うわあああああ!」
「魔法を使うヤツを優先的に狙え!」
「おう!」
「ま、魔法だ! 闘将には魔法をぶつけろ! それしかない!」
闘将の唯一の弱点は魔法だ。
鋼の肉体を持ち、疲れる事の無い体をしているが、魔法だけは例外で防ぐ事が出来ない。
それが闘将と闘神の弱点ではあるが、そんな事は闘将達も承知の上だ。
ならばそれなりの戦い方というものが有る。
それにこちらには魔法使いはそれ程回す事が出来なかったようで、緑魔物兵、赤魔物兵、青魔物兵が殆どだ。
その時、魔物兵達に向かって強烈な電撃が天から襲ってくる。
「ぎゃああああああ!」
「あ! ま、魔法使い達が!?」
「な、何が起きた!?」
その雷撃は丁度後方―――魔法使いの魔物兵が居る所を襲ったようで、魔物兵達はパニックになっている。
「おお! 何という力…魔人と渡り合っていたのは伊達では無いな!」
「あの蛮人…いや、人間達はまさに闘将とも渡り合える逸材って奴ですな!」
「うむ、彼等に任せれば問題無いだろう! ロブロス、ルデム! 我等の仕事を忘れるな!」
「俺としては彼等と共に戦いたい所ですがね!」
ロブロスは魔物兵をちぎっては投げを繰り返す。
その規格外の力はやはり只の魔物兵にとっては脅威でしかない。
「いい所見せて叱られたい!」
「あ、そりゃいいのう! ワシはあの金髪の嬢ちゃんになじられたい!」
「全く! お前達は本当に何処までの不真面目な奴等だな!」
そう言いながらも3体の闘将は凄まじい力を発揮し、見事に囮としての役割を果たしていた。
「行け! 魔物大将軍の所まで突き進め!」
「おおおおおお!」
「死ね! 魔物め!」
シロウズの鼓舞に人間達は士気を上げて魔物兵に突撃していく。
「な、なんだコイツら!?」
「に、人間如きが…! うぎゃあああああ!」
魔物兵は人間の兵士よりも遥かに強い。
流石に闘将には劣るが、それでも並の兵士では歯が立たないくらいに強い。
そんな魔物兵だが、士気が崩れると脆い。
「おのれ人間! 好きにはさせん!」
魔物隊長が立ちふさがるが、
「邪魔だよ」
「ぐええええええ!」
ブリティシュの前には只の魔物兵とそんなに変わりない。
「僕も随分と強くなったものだね。異世界でのサバイバルも無駄では無かったようだね」
宝剣の力もあり、今のブリティシュもエターナルヒーローと呼ばれた頃よりも遥かに強い。
そしてランスと共に魔人達と戦い、そして魔王とも戦った経験。
それがブリティシュを昔よりも更に強くさせていた。
今のブリティシュは、魔物隊長でも止める事は出来ない。
「だ、駄目だ! あの人間は強すぎる!」
「お、お前が行けよ! だってあいつは人間だぞ!?」
「ば、バカ言うな! お前が行けよ!」
そんなブリティシュに恐怖し、魔物兵達は腰が引けていた。
「今だ! やれ!」
シロウズの合図に兵士達が一斉に矢を浴びせる。
魔物兵達はハリネズミのようになり、そのまま絶命する。
「く…こいつら、こんなに強かったか!?」
魔物隊長は人間の勢いに飲み込まれ冷や汗を流す。
「援軍を! 援軍をよこしてくれ!」
「だ、駄目です! 後方から闘将が攻めてきて…それと正体不明の軍団が側面から襲い掛かって来て対応中との事です!」
「何だと!? そんな集団が何処から…」
「人間を甘く見ない事だな!」
混乱する魔物隊長に向け、シロウズがその剣を放つ。
「ぐ…人間風情が!」
「その人間に押されている者のいう言葉では無いな! このb・i・i・mサーベルの秘技、メガトンブレードを受けよ!」
「ぎゃあああああ! ふ、ふざけた名前のくせに強い…」
剣を受けて魔物隊長も倒れる。
「行け! このまま突き進んで食い破れ!」
「「「おう!!!」」」
今シロウズとブリティシュが率いている者達にはもう後が無い。
ならば死力を尽くす、それが魔軍に対して有効に働いていた。
「調子に乗るな! 相手の数はそう多くない! 援軍も来る! このまま包囲して殲滅するのだ!」
魔物将軍の言葉に魔物兵達も何とか混乱を立て直そうとした気、
「な、何だ!?」
凄まじい雷撃が魔軍に襲い掛かる。
それは今魔物将軍が期待していた援軍に襲い掛かかるのを見て、魔物将軍は茫然とする。
まるで闘神都市の攻撃のような一撃が魔物兵達に襲い掛かったのだから、無理は無い。
だが、その一瞬の隙はこの英雄にとっては命とりだ。
「とった!」
「な…ぐわあああああ!」
その一瞬の隙を見逃さなかったブリティシュによって剣が突き刺さる。
それは魔物将軍の急所を貫き、強靭な肉体を持っているはずの魔物将軍ですらも地に膝を突かせる。
そのままブリティシュは魔物将軍の頭部を貫き絶命させる。
「ば、バカな!? しょ、将軍が…!?」
「ひ、ひいいいいい! お、俺達どうすりゃいいんだよ!」
目の前で魔物将軍が人間に殺されたのを見て、魔物兵達に一気に不安が広がる。
そしてその不安を更に煽るように、凄まじい冷気の嵐が言葉通りに『嵐』となって魔軍を飲み込む。
「こ、今度は何だってんだよ!?」
「ま、まさか闘神も居るのか!?」
「そ、そんな! 闘神って魔人様じゃないと戦えないくらい強いんだろ!? 何でそんな連中がここに居るんだ!?」
その力に魔軍はパニックとなり、戦線は崩壊しつつある。
新たな魔物将軍がここに来るとしても、どうあっても時間がかかってしまう。
確かに魔軍は強いが、その指揮を取ることが出来る魔物将軍に関しては貴重で数に限りが有るのだ。
これは魔軍の構造的な問題ではあるが、そもそも魔軍には魔人が居るのでそんな事は何の言い訳にもならない。
分かっているのは、その貴重な魔物将軍が居なくなっていっているという事だけだ。
「あの威力は…!」
「間違い無い、ランスだね」
「大将か! あの御仁が使えるのは電撃だと思っていたが、あんな攻撃も出来るのか…!」
「ただ、あの力を連発する事は出来ない…そうも言っていた。だとしたら、アレがこの戦いでの最初で最後の切り札…いや、真っ先に切り札をきるのは彼らしいのかもね」
ブリティシュとシロウズは魔軍には聞かれないように小声で話す。
「シロウズ、僕はランスの援護に向かう。彼の目的は間違い無く魔物大将軍だ」
「だろうな。魔人級と称される魔物大将軍を相手に出来るのは君や大将だけだ。だとすれば、私達は君がランスの所に向かえる様に援護をする事だな」
「悪いね、貧乏籤を引かせる事になる」
「いや、そっちの方が厳しいだろう。とにかく、魔物大将軍を倒せばこの戦いは決まる。ブリティシュ、後は君に託すよ」
「ああ! 僕達が間違い無く魔物大将軍を倒す。だから君達はそれまでこの戦線を支えてくれ」
「承知! 行くぞ! 魔物を打ち倒し、この地を取り戻すんだ!」
こうして人類の更なる反撃が始まった。
「よーし、ジル。まずは一発ぶっ放せ」
「はい、ランス様!」
ジルはそう言って詠唱を始める。
今のジルは子供の体だった時代よりも更なる力が有る。
フリークの元で修行し、知識を積み重ね、ルーンと共に魔法について学んできた。
そして今もまだほんの少しだけ残って居る魔王の力の残滓、それがジルの全ての力だ。
「威力よりも範囲…それならこれが一番ですから」
「次は我の出番か…大雷撃!」
ジルがそう言った時、ジルの隣に突然ハンティが現れる。
「間に合ったようだね」
「始祖様」
「私は元々地上に残された人間達の味方をしてたしね。協力させてもらうよ」
「だったらお前も遠慮なくぶちかませ。お前はあっちの方な」
ランスが指さした方向を見てハンティも薄く笑う。
「何だかんだ言ってアンタも闘将の事を見てるんじゃない?」
「アホか。囮として利用できるから使ってやるだけだ」
「そういう事にしとくよ。じゃあ私も合わせるよ、ジル」
「はい、ハンティさん。じゃあ行きます!」
ジルから凄まじい魔力の波動が放たれる。
足元には魔法陣が既に描かれ、それがジルだけでなくハンティの魔力も底上げする。
「行きます! 雷神雷光!」
「行くよ! 火炎流石弾!」
「我も負けてはいられんな。大雷撃!」
そして3人の強力な魔法が魔軍に放たれる。
それは強烈な雷撃と炎となって魔軍を襲い掛かる。
「さて、3人が終わった後は我とランスの出番だな」
「久々にやるからな。大丈夫なのか? スラルちゃん」
スラルがIPボディを使って肉体を得てからは合体技は使ってこなかった。
昔は強力な合体技を使うとスラルの魔力が空になってしまうので、魔軍との連戦が多かったランスにとってはあまり使いたい技では無かった。
一発の威力は高いが、継戦能力に欠けるのが欠点だった。
「問題無い。まあ色々と理由があってな」
「そうなのか。まあいい、なら久々に全力でやるぞ」
「ああ。今のお前と我ならばそれこそ魔人に匹敵…いや、上回る事すらも出来るだろう」
ランスはレンと共に混乱している魔物兵に突っ込んでいく。
その剣の中でスラルはかつての部下と話していた。
「悪いな、ケッセルリンク。お前の魔力を借りる形になってしまって」
「構いません、スラル様。むしろ私はこの剣の中に居ながらも、ランスの役には立てませんでした。私の魔力で助けになるのなら、いくらでも使ってくださって結構です」
「しかし…お前の力を使って魔物を蹴散らすというのも変な話だな」
「別に私は魔人という立場に執着はありませんから…魔王の命令が無ければ、私は魔軍の立場から物事を見るつもりはありませんし」
「…悪いな、ケッセルリンク。お前を魔人にしてしまったのは我なのに」
「スラル様とランスに救われた命です。存分にお使いください」
「ああ。今は存分に使わせてもらう」
スラルはそう言って詠唱を始める。
これはただ魔法を使うだけでなく、その力をランスの持つ剣に付与する必要がある。
ケッセルリンクはその姿を見てため息をつく。
(やはり凄いな…スラル様は。私にスラル様以上の魔力があっても、私ではランスの剣に力を付与する事は出来ない)
スラル程の魔力を剣に付与するというのは並大抵の技術では不可能だろう。
それこそその技能が無ければ不可能なのは間違い無い。
(それにスラル様が一度魔力を付与すると少しの間の付与は出来なかった…が、成長した今ならばより多くの付与が出来るのだろうな)
ケッセルリンクは自分の魔力が使われていくのが分かる。
(存分にお使いください、スラル様。私の力で良ければいくらでも)
「さて…行くぞ、ランス! これは今までのように中途半端な魔法ではない。これこそ今の我の全力、そしてお前と我が出来る最高の技だ! 受け取れ、我が最強の魔法…ソリッドブラッドを!」
「がはははは! 久々に俺様とスラルちゃんの本気だな! ラーンスアタタタターーーーーーック!!!」
スラルの魔法がランスの剣に付与され、ランスはそれに自分の必殺技を乗せる。
しかも今のランスの一撃は只のランスアタックではない。
ランスの剣から放たれるククルククル直伝の衝撃波、それにランスの気とスラルの魔法が合わさり、それはまさに災害級の威力となって魔軍に襲い掛かる。
ランスがアベルから血を受けた影響もあるのか、それはまるでドラゴンのブレスの様に広範囲に、そして純粋な暴力となって魔軍を包み込んだ。
「ランス様…凄い…」
「呆れた奴ね。スラルの力も有るとはいえ、人間の放つ力じゃ無いわね…ま、例外っていうのはどんな時代にもあるものだけどさ」
「これが魔人を倒した男の本気の技か…!」
「ランス…ここまで力を上げておったか」
「やれやれ…ルーンも相当なものだけどさ、やっぱりこいつも十分おかしいね」
ランスの技を見た者達も思わず茫然としてしまう程のまさに災害。
ソリッドブラッドを乗せたランスの一撃は、まさに巨大な氷の津波となって魔軍を飲み込んでいくのだった。