「現状はどうなっている!」
「今現在、闘将と人間共、そして突如として現れた謎の軍団に対して部隊を分けております」
「人間共の方が数が多いので、そちらの方に多めに回しておりましたが、謎の集団はこちらの想像以上に強く…」
「分かった。そのまま当たらせろ。数はこちらが多い、時間はかかるが殲滅できるだろう。問題なのは闘将だが…数は多くは無いのだろう、魔法使い共を向かわせろ」
「はっ!」
ゾロッカの指示に部下の魔物兵達は機敏に動く。
「人間共め…粛清対象に過ぎないゴミ共め、やはり殲滅しなければならんな」
ギラギラした目でゾロッカが忌々し気に呟く。
その時、凄まじい轟音が響く。
「何だ!?」
ゾロッカは魔軍のテントを出て、轟音の方を見る。
それは巨大な電撃の嵐だった。
こちらの近くに落ちた訳では無いが、それでもその魔力には戦慄するしか無かった。
「あの方向は…!」
「と、闘将と人間共に向かっていた部隊の方向です!」
「まだ居たのか…人間共め!」
ゾロッカが忌々し気に舌打ちした時、それよりも遥かに大きな力が魔軍に襲い掛かった。
それはまさに氷の嵐―――それが魔軍の中央部隊に向けて襲い掛かって来たのだ。
「な、なんだアレは…」
魔物将軍の一体が茫然としたように呟く。
「あ、あれは…まるで魔人様の魔法のような…まさかレッドアイ様が!?」
「バカ言うな! いくらレッドアイ様でも…いや、レッドアイ様なら…」
「まさか闘神が地上に居るのか!?」
「黙れ! それよりも状況を確認に急げ!」
好き勝手言う部下に怒鳴りつけ、ゾロッカは歯ぎしりをする。
部下の言葉通り、今の一撃はまさに魔人級の一撃だ。
「何が…起きているというのだ? 地上の人間共の何処にこんな力があったというのだ」
ゾロッカの言葉に反応する者は誰も居なかった。
「ラーンスアタタタターーーーーック!!!」
ランスの一撃はまさに人を超え、まさに魔人にも匹敵すると言わんばかりの暴力の嵐だった。
ランスアタックの闘気とスラルの魔法が合わさり、凄まじい広範囲に魔軍に襲いかかった。
「な、なんだアレは!?」
「え? 氷のかたま」
魔物兵に氷で出来た無数の刃が突き刺さる。
その一撃だけで魔物兵は即死する。
即死出来た者はまだ幸せで、下手に生き残った方が問題だった。
「あ、足が…凍って…い、痛くな…」
その言葉を最後に、魔物兵はその傷口から体力と気力を奪われて死んでいく。
それはランスの一撃から遠い所に居た連中で、まだマシな方だった。
ランスに近かった魔物兵達はそれこそ生き残れた者なんて存在しない。
闘気と冷気に晒された魔物兵達はランスの闘気でミンチになった後、スラルの冷気で氷漬けになる。
ランスアタックの闘気が過ぎ去った後に残ったのは、氷の粒だけだ。
その氷の粒も徐々に砕け散り、残るものは何も無い。
そんな無常な程の暴力が広範囲で魔物兵に襲い掛かり、それは魔物隊長と魔物将軍も巻き込んでいた。
魔物隊長は氷漬けになった後で、その氷がバラバラに砕け散る事によって死亡する。
何とか生きていた魔物将軍だったが、氷の嵐に襲われて両手が千切れてしまっている。
足も完全に凍り付いており、もう歩く事すら出来ない。
「あ、ああ…い、一体何が…ち、力が入らない…」
ソリッドブラッドによる気力の低下、それが魔物達から生きる気力すらも奪っていく。
そのまま魔物将軍は体力を失い倒れたまま動かなくなる。
そんな光景があちこちに広がったかと思うと、その死体は凍り付いて砕けていく。
残ったのは砕け散った氷が残って居るだけだ。
「…凄いな。いや、まさに絶対的な暴力だ」
メイはそれを見て戦慄する。
ランスの実力は知っていたが、まさかこんな隠し玉を持っているとは想像もしていない。
「やれやれ…昔からとんでもない奴とは分かっていたけど、まさかこれ程とはね」
ハンティも呆れたような声を出すしかない。
(ルーンやフリークが協力して欲しいとは言ってたけど…ま、無理だね。話し合いが通じる奴じゃ無いし。でも、もし協力していれば…と思わなくも無いけどね)
「流石はランスと言った所か。ま、奴ならばそれくらいしてもおかしくは無いか」
お町は驚きはしたが、むしろ感心したような声を出す。
それでこそ、妖怪王である黒部が友と認めた男だと感じてる。
「昔よりもパワーアップしてるわね。ただ、昔は一度この技を使うと、ランスもスラルも大変な事になってたのよね」
「そうなんですか? レンさん」
「前はランスの経験値が下がって、スラルも数日間使い物にならなくなった。リスクが大きかったのよ。だからランスもスラルもあまり使おうとはしなかったわね」
「今はそのリスクが少なくなった、という事ですか」
「だと良いけどね。今はまずは魔物達をどうにかする方が先。行くわよ、ジル」
「ええ。ランス様に続きます」
2人はランスを追って駆けだす。
そしてそのランスはその勢いのまま、魔物大将軍が居るであろう所に向かって行く。
「がははははは! 死ねーーーーーーっ!」
「な、なんだお前は!?」
突然向かってくるランスに魔物兵達は狼狽えている。
魔物兵は自分達に何が起こっているのか全く分かっていなかった。
突然の攻撃の威力と範囲、それらが人間がやったとは思ってもいない。
なので魔軍は闘神が襲って来たとさえ思っていた。
だからまさか人間が突っ込んでくるとは考えもしない。
「とーーーーーーっ!!」
「ぎゃあああああ!」
ランスの一撃で魔物兵はあっさりと殺される。
その剣の中では、スラルが今の必殺技の光景を見届けて満足そうに笑みを浮かべていた。
「うむ、流石に我も疲れたが、お前のおかげで魔力の使用は殆ど無い。流石に連発は不可能だが、下位魔法の付与ならば問題無く出来そうだ」
「そ、それは…良い事です…」
そう言うケッセルリンクは荒い息を吐きながら地に膝を突いている。
「大丈夫か、ケッセルリンク」
「え、ええ…特に命が縮まったとかそういう事は有りません。ですが、流石に私の魔力がほぼ枯渇してしまいました…」
ケッセルリンクは大きく消耗した自分の魔力に荒い息を吐くしかない。
それ程までに魔力の消耗が激しかったのだ。
「お前に魔力を借りたが、お前でもそこまで消耗してしまうか…お前には付与の力が無いからか、想像以上に魔力を使わせてしまったな…」
スラルは想像以上に消耗したケッセルリンクの肩を抱く。
「悪い、ケッセルリンク」
「いえ、スラル様の役に立てるのならば問題有りません」
「やはり他の者の魔力を使って付与をすると大きく消耗させてしまうか…まあそうソリッドブラッドを使う事も無いから問題は無いか」
「それにしても、まさかあれ程の威力とは…私の魔法をも超える、凄まじい威力です」
「それもランスの技があってこそだ。やはりLV3技能というのは凄まじいな。元魔王とはいえ、我の必殺の魔法すらも見事に扱いこなして見せた。これまで魔人と渡り合っていたのは伊達ではないという事だな」
ケッセルリンクも外の光景は見えていたし、何よりもランスが放った一撃がどんなものかを間近で感じ取れた。
まさに戦略級の一撃で、それこそ魔人が放ったと言われても誰も疑わないだろう。
「全てはお前のためなのだろうな。ランスがこんな戦いに参加するのもな」
「スラル様…」
「まあそれが我でもジルでもレンでも、女のためならばアイツはこんな戦いでもやってのける。付き合いは長いが、あいつの戦いは何時もこんなものだ」
そう言うスラルの顔は楽しそうに笑っている。
「付き合わされる方は溜まったものでは無いだろうが、それでも我はランスと共に居ると楽しい。我が魔王だった頃よりもよっぽど刺激的だ。常に怯えていた昔とは比べ物にならない程にな」
「…そういう奴です、ランスは。最初にカラーをムシから、そして魔人から助けた時も、ランスが要求したのは私でしたから」
「そう言えばそうだったな。思えばランスがこの世界に現れてから、一番最初に出会ったのはお前だったな」
「ええ…それは今でも私にとっては素晴らしい思い出…勿論それからの事も…悲しい事も、楽しい事も…全てが私にとっては大切な物です」
「助けてやってくれ…ケッセルリンク。ランスを魔王と、そして魔人と関わらせたのは我だ。だが、今の我には魔人を退ける力は無い」
「勿論です。それらスラル様もジルもレンも例外ではありません。今私の魔力を使い、ランスを助けてやってください」
献身的なケッセルリンクの態度にスラルは苦笑する。
「問題無いよ。魔物大将軍が相手でも、今のランスならば我の手助けが無くても何とかなる。レンとジルが、そして黒部も居る。ランスは本当に強い味方を見つけるのが上手いな」
2人が話し合っている間にも、ランスはどんどんと進んで行く。
「がはははは! 雑魚共が! 俺様の経験値になれる事を感謝しろ!」
「な、何だこの人間!?」
「つ、強すぎる…!」
魔物の群れに突っ込んだランスだが、その魔物に囲まれても全く意にも介さない。
何しろランスの一太刀で魔物はその体を両断されるのだ。
それは緑魔物兵の上位である青魔物兵、そして赤魔物兵でも例外ではない。
「く! 防衛部隊の兵士を呼べ!」
「い、居ません! ここの防衛魔物兵は…先程の攻撃に巻き込まれて全滅です!」
「何だと!? く、まさか先程の攻撃は防衛兵を潰すために…?」
魔物隊長は戦慄し、その体が恐怖へ震える。
が、勿論ランスにはそんな気は無く、先程の必殺技に多く巻き込まれたのが防衛の魔物兵だったというだけだ。
その辺りの強運もまた、ランスの持つ力であるのは間違い無い。
「何故止められん!? たかが人間一匹だろうが!」
「む、無理です! ち、近づくのにも精いっぱいで…」
今のランスにはククルククルから教えられた衝撃波がある。
流石にククルククルの放つ衝撃波のような破壊力は無いが、それでも魔物兵を複数体フッ飛ばすくらいの力は有る。
ランスはそれを少ない気力で放つ事が出来るので、魔物兵はランスに近づくのにも苦労する。
「エンジェルカッター!」
「死爆!」
「ライトボム!」
強力な魔法が放たれ、魔物兵がまた吹き飛ぶ。
「突出し過ぎよ! ランス!」
「お待たせしました、ランス様!」
「このまま魔物大将軍の元へと突っ込むのだな!」
レン、ジル、メイの三人がランスに追いついたのだ。
「魔物大将軍が使っているテントは近いわよ!」
「分かるのか?」
「普通の人間より視力は良いからね。それと黒部もこっちに追いつきつつあるわよ」
レンの向いている方向に目を向けると、そこには怒号と共に魔物兵が押し込まれる姿が目に付いた。
「フン、アイツも少しは役に立つな」
「男を褒めるなんて、ランスにとっても黒部って特別なのね」
ランスの言葉にレンは唇に笑みを浮かべる。
「アホ。そんなんじゃない」
そう言いつつも、ランスはその黒部の行進に合わせるように突き進んでいく。
「メイさん! 魔物将軍が居ます! 狙えますか!?」
「確認した。奴を倒せればここの士気は崩れるか?」
「間違い無く! 私も援護します!」
「分かった。さて、俺も少しは役に立たんとな!」
メイは弓を構えて魔物将軍を狙う。
「さて、ジル。俺のために露払いくらいはしてくれるよな?」
「大丈夫です。私の魔法なら、魔物兵の壁くらいどうとでも出来ますから」
「頼もしいな。さて、俺の技も披露させて貰うか」
弓はカラーにとっては当たり前の技能だ。
そして今の時代のカラーにおいて、メイ以上に弓が上手い者は存在しない。
「行きます、電磁結界!」
「俺も行くか! イズナ!」
ジルの電磁結界で魔物将軍を守る魔物兵体が倒れる。
そしてその倒れた魔物兵の間を縫うように、強烈な矢が魔物将軍に襲い掛かる。
「な」
その一撃は強烈な衝撃波を放ちながら魔物将軍の喉元に突き刺さる。
「ぐえ!」
魔物将軍はその一撃を受けて倒れる。
「しょ、将軍! し、しっかりして下さい!」
「吹っ飛びなさい! ライトボム!」
そこを更にレンが魔法を放ち魔物将軍もろとも魔物兵を吹き飛ばす。
「な、何だこいつら!?」
「つ、強すぎる…本当に人間か!?」
魔物兵は突然現れたランス達に混乱するしかない。
「邪魔だ! 退きやがれ!」
更には、黒部が魔物兵を蹴散らしながらランスへと合流する。
「ランス! まだこんな所で足止めされてんのか!」
「やかましい! とっととぶっ潰すぞ!」
「へへ! それがいいな! 行くぜ!」
軽口を叩く黒部はランスの言葉を聞いてニヤリと笑う。
そして二人は同時に魔物大将軍がいる巨大なテントに向かって突っ込んでいく。
「か、囲め! 囲んで殺せ!」
「む、無理です! 変な連中が押し寄せてきてて…それと闘将も相手にしないといけなくて…」
「バカな! これだけの数だぞ!? これだけの数の連中に我々が負けるなど…ぐはっ!」
何とか指示を出していた魔物隊長の頭部に矢が突き刺さる。
「頭を潰す、か。言うだけならば簡単だが、実行するのは難しい。だが、あの男はそれをやってのける…やはり強いな」
「メイさんも凄いですね。剣も弓も出来るんですから」
「魔法も呪いも一通り出来る。女王には及ばないがな。まあここまで来たんだから、オレにとっても相応しいスタイルでやらせてもらうさ」
そう言ってメイは弓をしまうと、背中に背負っていた大剣を構える。
「カラーとしては異端なのかもしれないが、オレはこっちの方が好きなくらいだ。偉大なる英雄であるケッセルリンク様もまた剣の使い手だったと言われている。その方と同じ事が出来るという事は嬉しい事さ」
「行くなら行きなさいよ。ジルは私が見とくし。それに妖怪達もこっちに来てるみたいだしね」
レンの視線の先には、負傷を全く恐れずに妖怪達が魔物兵へと襲い掛かる。
剣を、槍を、斧を、弓を、あらゆる武器を使い、妖怪達は魔物兵へと向かって行く。
「後は私一人で十分だし。行くなら行って良いわよ」
「承知した。ならば後は任せる!」
そう言ってメイは大剣を魔物兵を斬り捨てながらランスと黒部を追って行く。
「珍しいカラー…ですよね、やっぱり」
「そうね。私も色々とカラー見て来たけど、あそこまでのカラーは見た事無いわ」
ジルとレンは感心と呆れが混じった顔でメイを見る。
あそこまで生き生きと接近戦をするカラーなんて珍しい…というか、見た事が無かった。
「それよりも…そろそろ本番よ」
「ええ、私も大丈夫です」
レンはジルと話しながらも襲い掛かって来る魔物兵を斬り捨てる。
ジルも炎の矢等の初級魔法で魔物兵をあっさりと撃退する。
かつて魔物大将軍とも戦ったが、何れも強敵だったのは間違い無かった。
無敵結界の無い魔人、その評価は決して間違っていないのだ。
「ふ、防げ! 奴等をこれ以上近づけるな!」
「だ、駄目です! に、人間共もどんどんと勢いを増して…ぐえっ!」
隊長に報告する魔物兵に妖怪が放った矢が次々と突き刺さっていく。
妖怪達の目的はあくまでも魔物兵のようで、魔物将軍の所に向かう様子は無い。
目的は足止め、それを黒部に命令されているのだろう。
そしてランスはとうとう魔物大将軍のテントに辿り着く。
「がはははは! 邪魔だ!」
テントの前に居る魔物兵を斬り殺し、テントの入り口をランスアタックで吹き飛ばす。
「オラァ!」
黒部も強烈な一撃でテントを吹き飛ばし、その中に居る存在が明らかになる。
そこに居たのは魔物将軍よりも更に大きな体を持つ、赤い体表をした不気味な存在だった。
「貴様等…人間如きが」
魔物大将軍は忌々し気にランスと黒部を睨む。
鉄の仮面を被っていたかのような顔をした大将軍から明らかに苛立ち、そして強い殺意が簡単に読み取れる。
「フン、お前が魔物大将軍か」
「忌々しい世界のゴミ共め…」
ゾロッカはそう吐き捨てると、その濃厚な気配が更に大きくなる。
「今ここで貴様等を始末すれば何も問題は無い。そうだ、その後で世界を少しずつさっぱりさせればいい。そう、粛清だ…お前達人間共はこの世界から粛清されるべきなのだ!」
「…何言ってんだこいつ」
ランスにはゾロッカが何を言っているか全く分からないし、興味も無い。
こういう妄執に取りつかれた奴とはどうせ会話は成立しないし、大体今ここで始末するべき相手なのだ。
「まあいい。とっととぶっ殺す!」
デトナ・ルーカ―――聖魔教団の本部。
そこの地下にM・M・ルーンこと、ルーカ・ルーンは生命維持装置の下で世界の事を憂いていた。
地上の蛮人…魔法を使えない者達は聖魔教団は地上を見捨てたと思っているが、実際には違う。
魔人が想定以上に強すぎたのと、聖魔教団がまだ魔人と戦う準備が出来ていない時に突然攻め込まれたから、闘神都市の防衛に力を入れなければならなかったのだ。
実際、闘神都市が魔人を足止めして居なければ、地上の者達はとっくに魔軍に滅ぼされていただろう。
これがまだ続くのか、と思っていたが、魔軍の動きに少し乱れが出たのはつい最近だ。
人類の僅かな反撃でしかないが、それでも朗報と言えば朗報だろう。
「ルーン! ルーン!」
「先生」
その時、ルーンの師であるフリークがルーンの元へと走って来る。
この戦争が始まって以来フリークの声は悲痛に満ちていたが、その声には喜びがあった。
「どうかしましたか、先生」
「朗報じゃ! あの御仁が…ランス殿が姿を見せたそうじゃ! ハンティから聞いたから間違い無い!」
「ランス殿が…!」
ランスの名を聞いて、生命維持装置の中でルーンが少し笑みを浮かべる。
その名前はルーンにとっても衝撃的で、その出会いもまたルーンに凄まじい影響を与えた。
何しろ人間の身でありながら、闘将とも渡り合える凄まじい剣技の持ち主。
それだけでなく、雷竜をその身に纏わせるというまさに規格外の力を持つ魔法を使えない人間の戦士。
「そうですか…彼は魔軍と戦ってるんですね」
「うむ、地上で魔物将軍を何体か倒したらしい。そしてこれから魔物大将軍を倒すとも言っておった」
「魔物大将軍を…もし倒せれば、私達には相当な時間を得られる事になりますね」
魔軍の動きは当然ルーンにも伝わっている。
そして魔軍にはある法則が有り、それは10年間ずっと守られている。
だからこそ、地上は今でも何とか持ちこたえられているという状況なのだ。
「うむ、そして今地上に闘将が降りておる。どうやらランス殿の元で共に戦うようじゃ」
「闘将が…しかし誰が闘将の管理権を? 聖魔法を使えなければ出来ない事です。ジルさんもレンさんも聖魔法は使えなかったはずです」
「そこは分からぬが…とにかく、闘将と共に協力して魔軍と戦っているのは間違い無い」
「それは…良かった」
ルーンは師の言葉に安堵する。
地上の者達を聖魔教団が見捨てた訳では無い―――その事をアピール出来るチャンスでもある。
そうする事で人類はまだ存続できる、それが何よりも有難い。
「闘神都市の建造は…間に合いませんか? 闘神都市Yは…」
「まだ時間がかかるじゃろう…セルジオには悪いがな。じゃが、魔人の動きも少し緩慢になっておるのは間違い無い。何よりも、あのノスが戦場から姿を消した」
「魔人ノスが…? ではもしやそれもランス殿が?」
「それは分からぬ。じゃが、ノスが居なくなったのはチャンスじゃ」
「ええ…地上に鉄兵だけでも送る事が出来るかもしれません。先生、何とかランス殿にコンタクトを取る事は出来ますか?」
「難しいかもしれん…何よりランス殿が何時姿を消すか分からぬ。ランス殿を頼った戦いを想定するのは止めた方が良いじゃろうな」
フリークの言葉は尤もだ。
ルーンも最初からランスありきのプランなど立てはしない。
「…これは無駄になってくれればいいの」
フリークはルーンの側にある一体の闘将を見る。
それはまるで鎧を纏った戦士のような姿をした明らかに異質な闘将だ。
「そうですね…これはあくまでも私の憧れから生まれた闘将…ですが、この闘将に彼を移すなんて事は無いようにしたいです」
「闘将R…あの御仁ならば、闘神に匹敵する最強の闘将になったじゃろうな」
「でも彼はそれを望まない。だからこそ、これは私の憧れでしか無いのです。先生、宜しくお願いします」
「うむ、まだ希望は捨てる訳にはいかん。人類を終わらせる訳にはいかんのじゃからな…」
だが二人は知らない。
確かに魔人ノスは戦場から姿を消したが、その代わり別の魔人がやって来ることを。
そしてその魔人はある意味ノス以上に厄介な存在だという事を知らない。
魔人筆頭バークスハム―――魔王ガイの親衛隊である魔人がこの戦場に現れようとしている事を。