レン達は雪原の中を歩き続けてようやくダンジョンを見つけた。
この豪雪であれば雪に埋まっていそうなものだが、不思議とこのダンジョンはすんなりと見つける事が出来た。
「本当にあったのね」
レンは全身についた雪を払いながらようやく一息つく。
いくら神と言っても寒いものは寒いのだ。
「無いと困るだろう。それにしても黒部殿でも体が冷えておるな」
「大したことはねえよ。ま、少々濡れてるのが気持ち悪ってだけだな」
黒部が体を震わせると無数の水滴が辺りに飛び散る。
「フム、これが人間界のダンジョンか。やはり魔物界にあるモノとそう変わらぬな」
殺姫は少し寒いのか、自分の体を抱きしめて何とか寒さをしのいでいる。
「少し体を乾かした方が良いわね。特に黒部」
レン達はダンジョンの入り口から少し入った奥に移動すると、レンが魔法を唱えて暖を取る形となる。
「それにしても本当にここにあんのか? その目的の物がよ」
「ふむ、それは確かにそうじゃな。まさかの無駄骨とあっては流石に気が滅入る」
黒部の言葉にお町も同意するように頷く。
妖怪王である二人にとってはこの程度の寒さで死ぬという事は無いが、それでも寒いものは寒いのだ。
毛が多い黒部は、尻尾が多いお町にとっては冷えるとどうしても体が濡れてしまう。
それはやはり愉快な感触ではない。
「恐らく間違い無いだろう。このダンジョンに入ってから明らかに気温が上がっている。この豪雪地帯にあるダンジョンにしては不自然だ。…どうした、変な顔をして」
「いや、急にまともな事言うから驚いただけ。そうしてるとホントに普通のバトルノートみたいで気持ち悪い」
「フッ…確かにオレはバトルノートの風下にもおけないだの、脳みそ最強魔女だの、子孫を残す気になれないバルキリーなど好き勝手に言う奴等は居るが」
「全部あってそうじゃがな」
「否定はしない。まあそんな事を堂々とオレの前でいう奴等は皆わからせたがな」
殺姫は好戦的な笑みを浮かべる。
「だが、オレは何だかんだ言ってもバトルノートなのだろうな。こうしてオレよりも明確に強い奴が側に居ると、体よりも頭が働く。敵ならばそんな事にはならないのだがな」
今度はどこか自嘲するような笑みを浮かべる。
「まあどうでもいいけど。それよりも急いだほうが良いわね。下手したら闘神都市Θが雪で埋まって帰れなくなるかもしれないし」
「お帰り盆栽はランスから預かっておるがな。これで返れるのではないか?」
「何処までそれが有効か分からないしね。ま、体が乾いたら行動しましょ。私達ならそう時間はかからないでしょ」
闘神都市Θ内部―――
ランス達は魔法ハウスで缶詰状態になっていた。
やはり極寒の地で有る事と、闘神都市が損傷しているので快適な環境では無い事。
そのため魔法ハウスから出る事も少し厳しい状態となっている。
ランスもあまりにも暇なので闘神都市を探検しようとしたのだが、あまりにも寒かったのとお帰り盆栽をお町に貸していた事もあり探索を直ぐに諦めた。
「暇だな」
「まあ仕方ないんじゃないかな」
ランスの言葉にブリティシュが苦笑する。
魔法ハウスから出れないのはランスからすれば非常に退屈だ。
闘神都市の探索というのはランスとしても結構魅力的だったのだが、当てが外れてしまった。
正直ケッセルリンクの呪いを解くアイテムを探しに行きたいが、そんな事が出来る状態じゃない。
「ルシラ、どうにかならないの?」
「難しいな。マナバッテリーの損傷自体は少ないが、起動のために強力な魔力が必要になる。それこそルーンクラスの魔力が必要になる。ルーンは一人でこの闘神都市を浮上させる程の魔力の持ち主だ。魔人でもそんな奴は居ないだろうな」
闘神都市Θの設備のチェックに向かっていたルシラが戻ってきたのだが、やはりルシラ本人にはどうしようもなかった。
彼女はあくまでも闘神であって魔鉄匠ではないので、この闘神都市をいじる事が出来ないのだ。
ホピンズである闘神Σなら別のアプローチを見つけていたかもしれないが、生憎とルシラにはそんな技能は無い。
「最低限の機能で何とかこの闘神都市Θを維持しているんだ。やはり外部との接触は急務だな。出来ればフリーク先生の手を借りたいのだが…難しいだろうな」
ルシラはこれからの事を考えると頭が痛くなる。
この闘神都市Θを修理したいのはやまやまだが、生憎とフリークにそんな暇と時間が有るとは思えない。
それこそ他の事で手一杯だろうし、こんな所にまで来る時間があるかどうか分からない。
そこから更にこの闘神都市を再び浮上させる時間など到底取れないだろう。
「闘神がこの闘神都市を完全に管理している、という訳では無いのだな」
「この闘神都市を動かす、という意味では管理はしているよ。ただ、私には闘神都市を直す力も生み出す力も無いという事さ。フリーク先生が偉大過ぎるんだ」
ルシラの声は明らかに落ち込んでいる。
正直言えば、この闘神都市Θはもうこの戦争から離脱したのも同然だ。
もしかしたら一生このままかもしれない、そう思っても不思議ではない状況なのだ。
「それにしてもこの魔法ハウス…凄い便利だね。この状況でも快適に過ごす事が出来るなんて」
ブリティシュの言葉にルシラが頷く。
「私もそう思っている。魔法ハウス…という割には魔法でどうにかなっているとも思えない。確かにミニチュアサイズで持ち運べるのは魔法の力なのかもしれないが…それ以外の所がどうなっているのかさっぱり分からない」
何しろこの魔法ハウスは魔法が無くても勝手に水が作られるし、暖房も冷房も完備されているまさに至れり尽くせりの超便利アイテムだ。
「聖魔教団でもここまでのものを作り出す事は出来ないだろう。聖魔教団とは完全に別のベクトルで作られているからな」
ルシラは感心したように魔法ハウスを見渡す。
「ふーん。あのガキ、そこまでだったのか」
ランスとしても聖魔教団の遺産の凄まじさは知っている。
何しろ闘神とも闘将とも敵対したし、何より闘神MMを破壊したのはランスとその仲間達だ。
「これを作った者と知り合いなのか? ならば会ってみたかったな…この技術の持ち主と聖魔教団が協力して居れば、未来は変わったかもしれない…」
ルシラは残念そうな声を出す。
あり得ない道筋なのは分かっていても、そう思ってしまうのは仕方の無い事だった。
「直接は会って無いだろうがあいつもこの戦いに参加してるぞ」
「何!?」
ランスの言葉にルシラは身を乗り出す。
「どういう事だ! ランス!」
「パイアールの奴がもう闘神都市を攻めたと言ってたな。そうだな、ジル」
男の事は忘れるランスだが、パイアールとはかなりの頻度で協力体制を築いていたので覚えていた。
何よりもバイクの作成者であり、ランスとしては非常に便利なアイテムを作った奴、そしてあのルートの弟として記憶してやってた。
「え、ええ…そ、そうなんですけど…ランス様、それを彼女の前で言うのは…」
ジルはランスの言葉にどう答えて良いか分からなくなる。
何しろパイアールは魔人―――人類の敵なのだから。
「パイアール…魔人パイアールか!?」
「そういやあいつ魔人だったな。あいつ自身は弱いからそんな事全然思って無いが」
「ちょ、ちょっと待て! お前は…魔人と知り合い…いや、どういう関係なんだ!? 確かに魔人ノスや魔人バークスハムがお前の事を知っている事から妙だとは思っていた。だが、アイツらは明確にお前の敵だった。なのに魔人パイアールがこの魔法ハウスを作った…? どういう事だ!?」
ルシラは激昂してランスに詰め寄る。
「その体で俺様に向かってくるな!」
流石に闘神の体で向かって来られるとランスとしても非常に困る。
闘神に迫られても嬉しくも何とも無い。
「奴の依頼の報酬でバイクと魔法ハウスを改造させた。それだけだぞ」
「それだけって…何がどうなっているんだ…?」
ルシラからすればそれはこれまでの出来事がひっくり返る事だった。
ルーンがランスを仲間に引き入れたいと思っていたように、ルシラもランスと協力できればと思っていた。
ランスが受け入れる事は無いとは分かっていても、ランスが闘神になってっくれればと思っていたのも事実だ。
「お前は…魔人と協力しているのか?」
「は? 何言っとるんだお前は。俺様が魔人に協力している訳無いだろうが」
「そ、そうなのか」
「あ、あの…ランス様。ランス様の言葉はルシラの誤解を拗らせてると思うのですけど…」
この二人の問答を聞いてジルが助け船を出すべく声を出す。
「ジル…お前、知っていたのか?」
「魔人と協力している…というのは間違ですよ。ランス様が魔人と敵対してるのはルシラも見たでしょ?」
「そ、そうだな。あのノスの態度を見る限り、お前が人類を裏切って魔人に協力してるなんて考えられない。そもそも魔人が人間の協力を求めるなんて事もありえないしな」
ルシラは聖魔教団の幹部でもあり、長い時間を生きている者でもある。
だからこそ、これまでのランスの行動と魔人と敵対していた事を思い出し『ランスが人類の裏切り者』という考えを否定する。
「ランス様はパイアールが人間だった頃からの付き合いなんです。その時にこの魔法ハウスを色々と見て貰ったらしいです」
「魔人が人間だった頃…」
普通に考えれば信じられない事だ。
ランス達が使徒だというのならば年齢の事は納得するが、ランス達が使徒だとは思えない。
だとすればランスは一体何者なのか?
そう思うのは当然の事だろう。
「いや、お前達と再会した時もお前達は年をとっていなかった。それどころか、今の世界の現状を知らなかった。それに今こうしてお前達と話せるのも本来はありえない話だからな…」
ルシラは考える事を止める事にする。
多分考えても理解出来ないだろうし、何よりランスが人類に害をなす存在では無いと分かっているからだ。
女好きで人類の未来を考えてはいないだろうが、それでも女を救うためになら体を張れる男だ。
(何よりも…ジルが奴隷という事を受け入れているからな。その奴隷というのも普通の奴隷とは少し違うみたいだしな)
ルシラから見てもジルは幸せそうだ。
ランスと共に居る事で生き生きとしているし、何よりも自分の友達が慕っている男を悪くは思いたくない。
(間違いなく善人では無いのだがな…それでも不思議と人を惹きつける何かがあるのか?)
ルシラはランスの事はあまり知らない。
負けて犯されて酷い事はされたのだが、それは自分がランスの言葉を受け入れた上でそうなったのだから今更恨んでも居ない。
「ルシラ。この闘神都市の浮上はやっぱり出来ないの?」
「さっきも言ったが、私の力では修理をする事が出来ないんだ。しかし完全に破壊された訳では無いからな。魔鉄匠の力があれば修理は出来ると思う。問題なのはここに居ると闘神都市が雪に埋もれていく事なのだがな…」
「どちらにしろ彼女達が戻ってこない限りは動けないさ。少しの間缶詰だね」
「つまらん。それよりルシラ。ここには本当に魔王の呪いを解けるアイテムは無いのか」
「前にも言ったが、そんなの有る訳無いだろう。そもそも魔王の呪いを解けるアイテムなんてそれこそバランスブレイカーだ。あったとしても、聖魔教団本部にだって有るかどうかだぞ」
「むぅ…」
ルシラの言葉にランスは呻く。
正直少し期待していた所もあったのは事実だ。
実際、シィルは聖魔教団にあったアイテムで氷漬けから解けた―――とランスは思っている。
なのでもしかしたらこの闘神都市Θにもあるかと期待していたが、どうやらそれは外れて居たようだ。
「もっとこう…便利なアイテムがあるもんじゃないのか? 闘神都市ってのは」
「有るには有るだろうが、それは全て魔人との戦いに回されているからな…少なくとも、この闘神都市Θにはお前が求めるようなアイテムは無いと思う。私個人としては、お前が求めるアイテムを渡しても良いと思ってはいるんだけどな。そうでなければ、ルーンがバランスブレイカーの剣をお前に渡すとは思えんしな」
「ああ、アレか。まあ俺様には必要無いが」
ルーンから渡された剣は確かにバランスブレイカーの剣だ。
ただ、ランスにはそれ以上に強力な剣があるので今はレンが使っている。
「だが、お前が何故そんなアイテムが必要なのだ? 魔王の呪いを解くなど…普通の話では無い」
「必要だから必要なのだ。それ以外にあるか」
「…まあ深くは聞くまい。何れ話してくれる時が有れば良いがな」
ランスがこちらに深く話すつもりは無いと察し、ルシラもこれ以上詮索するのは止める。
「まあとにかく今は待つしか無いね。無事ならいいんだけど…」
ブリティシュはダンジョンにアイテムを探しに行っている者達の無事を祈る。
「問題無いだろ、あいつ等なら」
「…随分と信用しているな」
ランスの言葉にメイは意外そうに答える。
「レンと黒部が居るなら問題無いだろ」
「…ランス様、レンさんと黒部さんは信頼されてるんですね」
「フン、俺様についてくるならこれくらい出来て当然だ」
「妖怪王黒部か…僕は歴史については知らないからよく分からないんだけどね」
「かつて人類を統一しようとした藤原石丸…それに従った妖怪王だと聞いている。その妖怪王とお前の間に強い信頼関係があるのは意外だったな」
ルシラもランスと黒部の仲が気になるのか、その声は少し興奮しているように聞こえる。
「かつて我等と共に戦った仲だ。お前にとっても頼れる所があるのではないか?」
「む、そんな事は無いぞ。まあ俺様について来れる事は認めてやらんでは無いが…」
スラルの言葉にランスは何時ものように素直ではない発言をする。
ランスと付き合いの長い者なら、口ではどうこう言っていてもやはり認めているというのは分かる。
「………ジル、では無いな? 昔から人が変わったような雰囲気になる事はあったが。二重人格とも違う…ジルとは全くの別人だ。お前は何者だ?」
ジルの口から明らかにジルではない口調の言葉が出た事にルシラはジルを見る。
そのジルはランスの方を見て『もう説明していいか?』というジェスチャーをする。
ランスはそれを見て好きにしろと言わんばかりの態度を取る。
「我はスラル。今はジルの体を借りている。お前の言う通り別人さ」
「………こうあっさりと肯定されるとは正直思ってなかった」
「別に隠すような事では無いからな。それに我がこうして表に出てる時間は少ない。ジルが見聞きした事はきちんと頭に入ってはいるがな、ルシラ」
スラルはジルでは絶対しないような笑みを浮かべる。
「我は別にジルの体を乗っ取っている訳では無いぞ。きちんと理由があって今はジルの体に居る」
「事情は聞くつもりは無いが、それにしても私にも話してくれても良いと思ったのだがな…私は親友のつもりだったんだぞ」
「話辛い事だって世の中には有るだろう。まあお前はランスから一定の信頼を得られているから話してやった、という事だ」
「ほう…この男の信頼か。それはそれで有難いな」
闘神の体で無ければ苦笑していたのだろう、ルシラはランスの方を見る。
「うーむ…お前とセックスが出来れば…やはり闘神はダメだな」
「あのな…私が闘神になった時はもう大分年がいってたと言っただろう」
「知らん。俺が知ってるお前は若かったからな。それにしても勿体ない…」
ルシラのあの健康的な体を思い出しランスはため息をつく。
「お前は本当に変わらないな…いやまあお前がそう簡単に変わる方がおかしいか」
「フン、もうもう寝るぞ。ジル、ついてこい」
「あ、はい。ランス様」
本当にやる事も無いので、ランスは夜になるとさっさとジルを連れて自分の部屋へと行く。
別にこれは珍しい光景では無いので、誰も何も言わない。
「待て、ランス。お前に話が有る」
「何だメイ。別にここでもいいだろ」
「いや、これはカラーとしての話だ。お前と二人だけで話をしたい」
「…まあいい。来い」
真剣な顔でランスを見るメイを見て、ランスも思う所が有るのか何時ものような好色な様子を見せずに彼女の話を受け入れる。
ランス達が去っていったのを見て、ブリティシュは改めて闘神Θを見る。
「…魔人との戦いは早かったね」
「早いも何も、向こうから突然攻めてきた。聖魔教団としてはまだ魔物達と戦うつもりは無かったからな」
「日光とカオス…二人が居なければ魔人とは戦えないか。ランスであっても無敵結界を持つ魔人相手には歯が立たないからね」
「ああ…その二つの剣を見つけてからルーンは魔人に戦いを挑むつもりだった。まだ完成していない闘神と闘神都市もある。正直魔人達から襲ってくるなど考えても居なかった所もある…」
「…全ては魔王の思うままに、か。魔人ガイがこうなるなんて誰も思わないか」
ブリティシュは共に魔王ジルと戦った事を思い出す。
あの時の魔人ガイが魔王ジルを倒すという思いは本物だった。
だからブリティシュも当時の勇者と共に、日光とカオスと共にジルと戦った。
その最中にブリティシュは魔王ジルによって異世界へと飛ばされ、つい最近戻って来たばかりだ。
「…ランスもだが、お前も今の時代の人間では無いみたいだな。興味は有るが、聞くのは止めておこう」
「まあ話してもあまり楽しくない事だからね…でも、そんな中でも諦めないからこそ得られるものがある。僕はそれを思い知らされたからね」
そう言ってブリティシュは笑った。
「で、何だ。俺様に話とは」
「正確にはお前では無いな。お前の剣の中に居る方に話が有る」
「ケッセルリンクか。今あいつは寝てるぞ。というか闘神都市が落ちてからアイツは俺様に話しかけてこんからな。アイツの事だから寝てるんだろ」
ランスは自分の剣を見る。
そこにはケッセルリンクの魂が眠りについている。
が、闘神都市の落下の際に膨大な魔力を使ったからか、今でもまだランスに話しかけても来ない。
「そうか…」
メイは残念そうに目を閉じる。
「何だ。アイツに話が有るのか」
「…お前になら話してもいいか」
「いや、私に話が有ると言うのであれば聞こう」
ランスの言葉に対し、メイが口を開こうとした時、ランスの剣から気怠そうな声が放たれる。
「ケッセルリンクか。生きてるか」
「…生憎とかなり力を消耗してしまったがな。なので状況も分からないのが現実だ」
確かにケッセルリンクの声には何時のも覇気が無い。
「お前…本気で無理してたのか」
「ああ。お前とジルとスラル様を助ける為ならどんな無理でもするさ。言っただろう、これは私の誓いなのだと」
「フン、だからと言って命を粗末にするような真似は止めろ。それだとお前を呪いから解いた時にセックス出来んだろうが」
ランスの軽口にケッセルリンクは剣の中で苦笑する。
実際にはこちらを心配してくれているのはケッセルリンクには分かっている。
「それで私に何の用だ」
「ハッ、ケッセルリンク様」
メイはランスの剣の前に跪いた。
「ケッセルリンク様。今回この闘神都市が墜落のさいに俺達が無事だったのは、ケッセルリンク様の力のおかげです。その時にケッセルリンク様は俺の力を通して魔力を注ぎました」
「ああ。分かっているのだな。それにしても君の力は大したものだ。カラーだった頃の私を優に超えている」
「勿体なきお言葉です」
ケッセルリンクは本心からそう言っている。
メイは明らかにカラーだった頃のケッセルリンクを上回っている。
それはケッセルリンクにとっても嬉しき事でも有る。
とうとうカラーの歴史の中で、明確に自分を上回る力を持つカラーが生まれたのだ。
「それで君は私に何を言いたい?」
「ケッセルリンク様の力、この身を通して思い知りました。そして俺は一つの結論に辿り着きました」
メイは真剣な顔でランスの剣の中でいるであろうケッセルリンクを見る。
「俺の体、お使いください。ケッセルリンク様」
「…急に何を言う?」
メイの言葉にケッセルリンクも驚きの声を上げる。
「カラーにはある力があります。それは既に肉体無き者でも、この世界に肉体を持つ者として留まれる術を」
「…一応知ってはいる。しかし、私は正確にはそういう存在ではない。事実私の肉体は存在しているからな」
「ええ。ですが、それでも今はケッセルリンク様のお力が必要なのです。魔人四天王のケッセルリンク様ではなく、カラーの英雄ケッセルリンク様が」
その言葉にケッセルリンクはため息をつく。
「カラーとしての私は君には及ばない。むしろ弱体化するだろう」
「いえ、そんな事は有りませぬ。俺の肉体をケッセルリンク様が使えば間違いなく戦力になります」
「…君はどうしてそこまでする? あの魔人に対してもそうだ。君はカラーのためにだけに戦ってはいない。むしろ人類も守るべき存在だと思っている節もある。だからこそ、聖魔教団にあまり良い顔をしていなかったのだろう」
「俺は…聖魔教団に協力するのは正直気が進みませんでした。無論、カラーの女王が決定した事、それに異を唱える気は有りませぬ。ですが、始祖様は魔法を使えぬ者…蛮人と呼ばれる者達のために戦いました」
メイは力強い目でケッセルリンクが居る剣を見る。
「それこそが俺の理想…始祖様こそが俺というカラーの理想の存在なのです。そしてその始祖様はランスに対して強く協力する事は出来ぬ様子」
「…始祖様には始祖様の理由がある。それは私だって例外ではない」
「ですからその例外を排除しようと言うのです。俺の肉体を使い、ケッセルリンク様がランス達を助ける事、それこそが始祖様と貴方様にとっての最良の結果となるのです」
「…それは」
ケッセルリンクはその言葉に何も言えなくなる。
勿論ケッセルリンク本人としてはランスを助けたい。
今も助けてはいるが、局地的にしか助けられず歯がゆい思いをしていたのも事実だ。
「しかし君の肉体を使うという事は…」
「全てはカラーの為でもあります。カラーの未来を続かせるため、俺の思いをどうか受け入れて欲しいのです」
メイは言葉には一片の曇りも無い、真っ直ぐ過ぎる程に誠実だ。
「いいんじゃないか?」
「ランス…」
「別にこいつの体を使ったって何か不利益がある訳では無いだろ」
「それはそうだが…」
「それにお前だって俺様と冒険したいと言ってただろうが。サイゼルに色々言われてただろ」
ランスの言葉にケッセルリンクは無言になる。
そして少し考えたのち、
「良いのか、メイトリクス・カラー」
彼女も真剣な様子でメイの名前を呼ぶ。
「勿論です、カラーの英雄ケッセルリンク様」
「分かった。ならばお前の言葉を有難く受け取ろう。そして必ず叶えよう。カラーが続いて行く未来を」
「いえ、それは俺の仕事です。ケッセルリンク様にはその一歩を叶えて欲しいのです」
「フッ…あえて茨の道を進むか。だが、気に入った。私に魔人の肉体があれば使徒に欲しい位にな。そしてその最強のカラーの肉体、使わせてもらおう」
ランスの剣の中からケッセルリンクの霊体と言える存在が出てくる。
「メイ。その最強のカラーの力を使い、私はランスを助けるために動く。それで良いな」
「それこそ俺の望みであり、始祖様の望みでもあります。その為には必要な事」
「フッ…君はカラーの中でも別格だな。だからこそ、私の力に耐えられる程の精神力を持っているのかもしれぬ」
メイの体にケッセルリンクの霊体が重なる。
すると眩い光と共に、一人の女性の姿が現れる。
カラーでは珍しい少し癖のある髪と、その見事すぎる肉体。
「おお…」
ランスも思わず茫然とする光景がそこにある。
「メイ、君の思いは伝わった。私も君の思いに恥じぬ戦いをする事を誓おう」
そこに居たのは間違いなく魔人四天王ケッセルリンク―――ではなく、ランスも知っているカラーとしてのケッセルリンクの姿があった。