「がはははは! まだまだ甘いな、ケッセルリンク」
「全く…少しくらい応えてくれてもくれてもいいんじゃないか」
ランスとケッセルリンクが互いに剣で打ち合いをしている。
その光景を皆が観戦していた。
「いいなあ」
それを見ていたブリティシュが少し羨ましそうな顔をする。
「何だ突然」
「いや、こうしてランスと打ち合いが出来る彼女が羨ましくてね。僕が誘ってもランスは全く乗ってくれないからね」
「男とやり合うのは嫌がる男じゃからな。それはもうどうしようもあるまい」
「そうなんだけどね…彼と打ち合えれば僕も何か得る物があると思うんだけどなあ」
ブリティシュは苦笑する。
「ま、ランスの気分が良ければ受けてくれるんじゃない? 実際、黒部は何度かランスと摸擬戦してたしね」
「そういやそうだったな。ま、俺はそう簡単に死なねえからアイツも遠慮が全く無かったけどな」
「…君は大丈夫なんだね」
「黒部は安全圏の男扱いだしね。それに何よりも黒部はランスと共にJAPANでの戦いと、魔人との戦いを切り抜けてきた間柄だもの。ある意味特別よ特別」
レンの言葉にブリティシュは少し笑みを浮かべる。
「やれやれ…彼からの信頼を得るのは難しそうだ」
実際にはランスには結構親しい男も多いのだが、そんな事はこの場に居る者は誰も知らない。
「ふぅ…やはりお前に剣だけで挑むのは無理だな」
「当たり前だろうが」
「私の本分は魔法にある…が、こうして一対一の戦いではお前相手に魔法を使うというのは無謀そのものだ。しかし、私はその新たな力を確立しなければならない」
ケッセルリンクは短く何かを呟くと、その剣に風が纏わりつく。
「む」
「新たな手で行くぞ、ランス」
そして風を纏わせた剣でランスに向かって行く。
その速度はやはり早い。
が、ランスにとっては速さはあっても重さは無い。
簡単にケッセルリンクの剣を受けた時、ランスの態勢がずらされる。
「うお!?」
「こういう事も出来る」
そう言って更に追撃をしようとするケッセルリンクの剣をランスは刀で受け止める。
無茶な姿勢からでも確実に受け止める技術には見ている誰もが感心する。
「フン!」
ランスはその無理な姿勢のまま、ケッセルリンクの向かって体当たりをする。
するとケッセルリンクの体から急に闇が噴き出し、ランスの体当たりは空振りに終わる。
「む、これか」
「ああ。私の持つ力。私はこの技を磨いて来た。魔人で無い状態でも使えるのはお前も理解していただろう?」
「がはははは! 魔人で無いお前が俺様に勝てると思うなよ!」
ランスは慌てる事も無く、闇に包まれた状態でも不敵に笑う。
そして闇から放たれた剣をランスは己の剣であっさりと受け止める。
それはまさに完璧な受けであり、剣を放ったケッセルリンクが驚くほどだ。
「分かるのか」
「闇だろうが俺様がお前を見逃すはずが無いだろうが」
「…フッ、流石と言うべきか」
かなり無茶苦茶な事を言っているランスに対してもケッセルリンクは闇の中で嬉しそうに笑うだけだ。
「とーーーーーっ!」
そしてランスの剣は闇と化したケッセルリンクを闇ごと吹き飛ばす。
闇が集まってケッセルリンクの形となり、荒い息を吐いたケッセルリンクが姿を現す。
「ここまでだ、ランス。流石に私も限界だからな」
ケッセルリンクは剣を仕舞い、額から流れる汗を手で拭う。
「ランス様、ケッセルリンクさん、どうぞ」
ジルが二人に冷たい飲み物とタオルを手渡す。
「うむ」
「ありがとう、ジル」
二人はそれを受け取る。
ただ、ランスは殆ど汗をかいていないためか、タオルは使わない。
それを見てケッセルリンクは苦笑する。
「やれやれ…私は結構本気だったのだがな。やはりカラーの私ではお前には敵わないか」
「当たり前だろうが」
「フッ…私もかなり強くなり、メイの肉体を使っているのだがな」
当然のように言うランスにもケッセルリンクは苦笑するしかない。
「凄いね…何があったか全く分からなかったけど、とにかくランスが強かったという事だけは分かるよ」
「というか我にはランスが何をやっていたのかも分からん。まさにレベルが違うとしか言いようが無い」
「ま、石丸の奴と互角に渡り合う奴だからな」
「フッ、流石と言っておこう。だからこそ倒し甲斐があるというもの」
各々が感想を言い合い、そこには少し穏やかな空気が流れている。
「体力は問題無いが、やはりお前と打ち合うと体がな。これが本来の体の持ち主であるメイならば話は変わるのだろう」
メイの筋肉隆々の見事な肉体は伊達ではなく、ランスとも力で渡り合うというカラーにあるまじき存在だ。
「メイならばお前との剣の打ち合いにも負けないだろうがな。技術ではお前には渡り合えんだろうが」
「随分とアイツを評価しとるな、お前は」
「同じカラーだからな。それにメイはカラーにおいては私を遥かに超えているのは事実だよ。こうしてメイの体を使わせてもらっていて改めて分かる。私ではメイの肉体を完璧に扱いこなす事は出来ない。私の得意分野はやはり魔法にあるという事だな」
「そんなもんか。俺様からすればメイよりお前の方が厄介だがな」
ランスの言葉にケッセルリンクは笑う。
「それはお前が私の強さを魔人として見ているからだよ」
「それでランスよ。今日は探索に行かないのか? 私の要望を聞き入れてくれた事には感謝するが…」
ケッセルリンクは少し申し訳なさそうにランスを見る。
ランスと手合わせを望んだケッセルリンクの申し出をランスは特に悩む事無くOKした。
その分本日の探索が出来るかどうか少し怪しい時間になっている。
「別に急ぐ必要も無いだろ」
「いや、ランス。食料の問題も有るだろう」
「それについては問題無い。魔農民は破壊されていなかった。だから人が食べる事の出来る食料は有るぞ」
ケッセルリンクの疑問にルシラが答える。
「まのうみん? 何だそれは」
「ああ、魔法で動く農業をする人形だ。これを用いて聖魔教団は農業の自動化を目指した。人が作るよりも効率が良いからな。半自動的に動くからな」
「…そんな物まで作っていたのか。私からすれば恐るべき技術なのだがな」
少々複雑そうにするケッセルリンクだが、同時に聖魔教団がここまで勢力を延ばせた事にも納得がいく。
恐るべき技術であり、魔人達がこれを脅威に見てもおかしくはない。
そもそも魔人がここまで参戦していて、まだ滅んでいない国家があること自体が驚きなのだ。
(もし日光が聖魔教団の手に有れば…魔王以外はどうにかなっていたのかもしれないな)
ケッセルリンクもランスの剣の中から闘神の強さは理解している。
魔人とも渡り合える強靭で、疲れる事のない体。
何よりも、魔人と違いしっかりと連携が取れるという意思を持っている。
魔人は魔人同士で連携を取る事が出来ず、戦う時は必ず一人でだ。
ケッセルリンク自身、魔人同士で連携を取る事が出来ない事を不思議に思っていた。
ランス達とは問題無く連携を取ることが出来るのに、魔人同士では出来ない…非常に不可解に思っていた。
そんな魔人の欠点を突け、そして日光が聖魔教団の手元に有れば魔人達でも危なかったのかもしれない。
(最後には魔王によって潰されるだろうがな…)
ただ、魔人はどうにかなっても魔王はどうにもならない。
いくら闘神や闘将が強くても、そんなものは魔王の前には何の価値も無い。
結局はこの世界は魔王の機嫌次第なのだ。
ケッセルリンクはスラルの時代から魔王に仕えているので嫌でも分かってしまう。
「ルーンはこれからどうするのか…闘神都市Θも私ももう戦争には参加出来ぬから、何とか上手く収まる事を願うしかないな…」
これからの事を考えるとどうすれば良いか分からなくなる。
ルシラも聖魔教団の幹部とはいえ、これから先がどうなるか全く予想が出来ない。
良くなる未来が全く見えないのが非常に辛い。
「あっ」
ランスはそんなルシラを見て思い出したかのように声を出す。
「どうした? ランス」
「いや…何でも無い」
(うーむ、こうしてルシラと普通に話せてるから忘れていたが、闘神とか闘将は全部人間を襲うんだよな。確かルーンの奴がそう命令したとか爺さんが言ってたような気がするぞ)
ルシラが理性的で、ランスに協力的なので忘れてしまうが、闘神も闘将もランスが居る時代では人間にも襲い掛かって来る迷惑な奴でしかない。
ランスもイラーピュで苦労したし、ヘルマンでも闘神MMを倒している。
(流石に闘神は面倒くさいぞ。無駄に硬いからな…俺様の敵では無いが)
考えるのが面倒なので先延ばしにしていたが、将来的にルシラも間違いなく人類の敵になる。
そうなると非常に面倒な事になってしまう。
ランスはまだ知らない事だが、MMルーンの魂は納得の上で天に帰っている。
その影響で闘神や闘将がランス達人類の仲間となって戦ってくれるのだが、それはまだ今のランスには知らない事だ。
「ランス様、どうしましたか?」
「いや…何でも無い」
ジルの言葉にもランスはそう言うしか無かった。
ハッキリ言えば、ランスにはどうすれば良いのか全く分からない。
(考えても分からんからな…ま、いいか。その時に考えるか)
結局ランスは物事を先送りにするしかなかった。
どう考えても良い考えが思い浮かばなかった。
だが、将来的に絶対にぶつかる問題なので、ランスとしてもスルーは出来ない事なのだ。
それでもランスはまだ楽観的だった―――何時ものように。
次の日―――
「ふう…闘神都市も中々の迷宮だね」
「フッ、俺としては非常に楽しい。人間の作るものは非常にユニークだ」
ブリティシュの言葉に殺姫は笑う。
「興味深くはあるが、理解は出来ないだろうな。これはそういう物だ」
ケッセルリンクも闘神都市に触れて改めて思う。
「だが、人の作ったモノが魔人とこうして戦えているというのは事実だ。ただ、私のような考えになる者は少ないだろうな。それを考えれば私もまた異質な魔人なのかもしれんな」
「ケッセルリンク様程のお方がそう仰せられるとは…この殺姫、新たな発見に心が躍る」
「君はそればかりだな…まあいい。私自身、ある意味特別な経緯で魔人になったからな。ガルティアも似たような状態だったと聞いたが、私とは状況が違う。だが、もしかしたらそれも影響するのかもしれない、私はそう思う様になってきたというだけだ」
今でも覚えている、自分が魔人になった経緯。
ムシに襲われ死に寸前だったところを魔王スラルによって救われる形で魔人になった。
勿論スラルには感謝しているが、同時にランスと共に居られなくなった事を悲しんだものだ。
だが、今でもランスとの縁は続いているし、こうして共に居られる事が嬉しく思う。
(そして…私にはジルが幸福になる事を今度こそ見守らねばならない。ランスとジルは気にしていないと言うが、性分だな。私はそんな風に割り切れない)
今でも自分を苦しめる過去の所業…それを二人は許してくれている。
それでも罪の意識に苦しむのはもうケッセルリンク本人の性分としか言えない。
だからこそ、ジルをどんな形であれ魔王から取り戻したランスを尊敬しているし、許されない事をした自分を許してくれているジルに申し訳ない。
「…変な事を考えるなよ。俺様は本当に気にしとらんからな」
「…お前は妙な所で勘が鋭いな」
自分の考えを読んだかのように言うランスにケッセルリンクは苦笑しながらも、安堵する。
そんな二人の様子に残された者達は首を傾げるだけだ。
「それよりも目的の場所は何処だ。中々遠いな」
「ああ。目的の場所に行くのには遠回りをする必要があるからな。本来であれば先程の穴の場所から行けるようだが、そこには本来は橋があるようだ。だが、闘神都市の落下のせいでその機能が上手くいっていないらしい」
「本当に面倒だな…」
殺姫の言葉にランスはため息をつく。
こんな面倒くささまでイラーピュに似る必要は無いのだ。
宝箱も見つからないし、ランスとしては非常につまらない状況になってしまっている。
「フッ、お前の考えている事は分かるぞ、ランス。だが、そんな顔をする必要は無い。この先にはどうやらお宝があるようだぞ」
「何だと?」
「うむ、どうやら武器の保管庫があるようだ。俺としても闘将共がどのような武器を使っているのか非常に気になる。これまでの闘将は全て徒手空拳だったからな」
「武器か…うーむ」
「何やら不満そうだな、ランス。まあ気持ちは分からぬも無い。恐らくはその剣以上の武器は見当たらぬだろうからな」
武器と聞いても少し微妙そうな顔をするランスに殺姫は頷く。
その言葉通り、今のランスにはこの剣以上に手に合う武器は無い。
カオスと日光も勿論凄い武器なのは間違い無いし、魔人と戦う場合はその二振りを使った方が圧倒的に強力だ。
ただ、普通の剣として見た時はどうしても今のランスの持つ剣の方が強力だ。
「でも行ってみてもいいんじゃないかい? 何か新たな発見があるかもしれないさ。それに聖魔教団の用意した武具には興味があるよ。ランスも戦士としては気になる所があるんじゃないか?」
「フン」
ブリティシュの言葉にランスは少しつまらなそうにする。
が、ブリティシュの言っている事は間違っておらず、やはりランスも戦士としてそういう物には興味もある。
強力なアイテムはいくらあっても損は無いのだ。
もしかしたら強力な魔法のアイテムがあるかもしれないという可能性は否定できない。
「仕方ないな。行ってやるか」
「そう来なければな! では行こうか、皆の衆!」
「どうしてお前が仕切っとるんだ」
地図を片手に生き生きとしている殺姫を見てランスは呆れる。
「あはは…凄い元気ですね」
ジルもここまでランスに馴染めている殺姫を見て愛想笑いを浮かべるしかない。
実際、冒険という事に関してみればランスと殺姫は相性は非常に良かった。
互いに趣味の合う同好の士と言っても良く、何だかんだいっても冒険という単位で見れば気が合っているのは間違い無い。
ランス達は闘神都市を進んで行く。
モンスターは出てくるが、強さには非常にムラがあり、全てが全て強力なモンスターとは限らない。
下位のモンスターであるぶたバンバラやぷりょやるろんたというモンスターも数多い。
「る壺も見当たらんな」
「そうだね。こことは違う所に有るんだろうね」
生憎とる壺は見当たらなく、ここでは無い所に有ると判断せざるを得ない。
「ここが目的の場所の一つか。ジル、頼むぞ」
「はい」
まずは目的の一つである施設に魔力を通す。
非常に面倒くさい事なのだが、肝心のマナバッテリーが破損しているのでどうしようもない。
そして注入する魔力は非常に多い。
となれば今のメンバーで大きな魔力を持つのはジルしかいない。
「じゃあ行きます」
ジルが施設に魔力を注入すると、やはり変化が起きる。
それが何の意味を持つがランス達には分からないが、決して悪い事では無いだろう。
「終わったなら次の所に行くか」
「うむ、こっちの方だな」
地図を片手に殺姫は歩いて行く。
そこにモンスターが襲い掛かるが、殺姫はそのモンスターを一瞥もする事無く裏拳で一発で吹き飛ばす。
それだけで彼女が尋常でない力を持っている事は間違い無い。
しかし、やっぱりそれはバトルノートのものとは思えないのが突然変異のモンスターの由来なのだろう。
「さて、ここか」
殺姫の前には頑丈そうな扉がある。
「開くのか?」
「さあ。俺には分からんな。俺が言ったのはここに武器庫があるというだけだ」
その扉は非常に頑丈で、生半可な攻撃では決して壊れないだろう。
「スラルちゃん。何とか出来んのか」
ランスの言葉にスラルが扉の前に立つ。
何やら呪文のように言葉を放つが、それでも何の変化も無い。
「無理だな。どうやら我でも解放する事が出来ないようだ」
スラルの言葉にランスは唸る。
目の前にお宝があるかもしれないのに、ここで諦めるなど普通は出来ない。
「ぶっ壊すか」
「え? そ、そんな事しなくてもルシラの許可があれば開くんじゃ…」
「そんなの待ってられるか。ランスアターーーーック!!」
ランスが扉に向かって必殺技を放つ。
が、逆にランスの体が弾き飛ばされる。
「うお!?」
ランスが吹き飛ばされたのを見て、ケッセルリンクは改めてその扉を注視する。
「ランスの一撃でも壊れないか。大した防御力だ。魔人と戦い抜いてきたというのも理解出来る」
「フン、関係無いな」
剣を構えたランスは精神を集中させる。
「ランス…こんな事のために使うのか? 経験値が下がっても良いのか?」
そんなランスにスラルは呆れたような声を出す。
「関係無い。俺様の邪魔をする奴は誰だろうと許さん」
「全く…」
「スラル様、ランスはそんな無計画に事を起こす男ではありませんよ」
「ケッセルリンク」
「今の状態であの力を使いこなせるか、そして副作用はあるか。ランスはそれを試すという意図も有りますよ」
「…正直疑わしいがな」
ケッセルリンクの言葉にスラルは半眼でランスを見ている。
実際ランスがそこまで考えているかは誰にも分からない。
だが、とにかくランスがあの力を使おうとしているのは事実だ。
ランスは意識を集中させ、剣の中にあるバスワルドの力を引き出そうとする。
破壊力は抜群だが、扱いが異常に難しく、LV3技能があったとしても使いこなすのは不可能に近い。
ランスが経験値を犠牲にして鬼畜アタックを編み出し、そして長い年月をかけて副作用が無くなったように慣れるしかないのだ。
「むう…何かしっくりこんな」
剣を構えるが、ランスは技を放とうとしない。
「あの技を使う時はお前は刀を使っている事が多かった。だからではないか?」
「そういやそうだったな。こっちでやるか」
ケッセルリンクの指摘にランスは剣をしまうと、刀を構える。
居合抜きのような構えを取り、目の前の聖魔教団製の扉を見る。
集中しているランスからは異様な気配が溢れるのをその場に居る者達は感じ取っていた。
「…美しい」
殺姫はランスの構えと気配を見て思わず呟く。
「こうして改めてランスの技を間近で見るが…やはり何かが違う」
ケッセルリンクもランスの剣の中に居た時とは違う気配に感心したようにため息をつく。
「とーーーーーっ!」
そしてランスは刀を凄まじい速度で抜き放つ。
それは距離としては扉に届く距離では無いのは明らかだが、確かにランスの剣はその扉を斬った。
扉に無数の線が走ったかと思うと、それがバラバラになって崩れていく。
「! な、何が起きたんだ!?」
ブリティシュはそれを見て目を見開いて驚く。
音も無く放たれたランスの一撃があの硬い闘神都市の扉を斬ったのだ。
「ランス様…凄い」
ジルもランスの技に目を見開きながらも、熱い目をランスに向ける。
「…素晴らしい」
殺姫も改めてランスの凄まじい技を目にしてそう言う以外に無かった。
ただ一人、ケッセルリンクだけは黙ってランスに近づいて行く。
そして刀を抜き放った手に触れる。
「うぐ…あだだだだだだ!」
「やはり怪我をしているか。早くレンに直して貰わねばな」
「ラ、ランス様!」
ランスの左手からは血が流れていた。
肘辺りから出血しているようで、見るからに痛そうだ。
ケッセルリンクはそれを見て手際よくランスの腕を消毒し、包帯を巻く。
「応急処置だが楽になっただろう。それにしてもここまで副作用があるとはな」
「うぐぐ…俺様ともあろう者が…」
「本気で斬ったな? まだ早いのはお前も分かっていただろう。無理はしてくれるなよ」
処置を終えたケッセルリンクはランスを優しく抱きしめる。
「凄い…闘神都市の強固な扉が鮮やかに斬られている。凄い技だけど…流石に多用は出来ないね」
ブリティシュは斬られた扉に触れて感心したような声を出すが、同時にランスの様子に厳しい顔をする。
「ランス、その技は強力だけど副作用が大きすぎる。今、君は左手を上手く握れないだろう」
「大きなお世話だ」
ランスはブリティシュを睨むが、それでもブリティシュは怯まない。
「君だって分かっているはずだよ。それでも言うのが僕の役割だと思っている。僕だって冒険者のリーダーだったからね」
そう言ってブリティシュは軽く笑う。
その嫌味の無い笑いにランスは不愉快そうにする。
「ランス様、無理はしないで下さい」
「フン、無理などしとらんわ」
ジルの言葉にランスはため息をついてその頭をぐりぐりとする。
「それよりも行くぞ。入れるだろ」
ランスの言葉に皆がランスについて行くが、ブリティシュだけは斬られた扉を見て目を細めていた。
(ランスの剣…斬ったというよりも、無くしたといった方がいいのかな。ランスが斬った扉の継ぎ目の形が明らかに合わない。まるでその部分が消滅したかのようだ。だからこそ、ランス自身にも負担が大きいのだろうな。ランスをもってしても使いこなせない技…人が扱うには難しい禁技といった所か。魔法にもそういうものが有るってホ・ラガも言ってたし)
ブリティシュの仲間であるホ・ラガも色々な知識を持っており、その中には禁術も有ると言っていた。
それはホ・ラガでも使う事を止めており、彼をもってしてもそれを制御する事は出来ないとの事だった。
ランスの技もそれに近いものなのかもしれない…そしてその反動がランスの左手の怪我だろう。
「早く日光に会えればいいんだけどね…あの二人は今どうしているのだろうか」
ブリティシュはまだ見ない二人の仲間の事を考えるのだった。
暑くてヤバイですね…