「誰だお前」
今のジルよりも少し上か同い年くらいの年齢であろう生意気そうな少年を前にしてハウゼルは絶句していた。
(確か…退行の呪いをレッドアイにかけられていて、それの解呪が成功したんですよね)
ハウゼルもランスがどういう状況になっているのかはケッセルリンクから聞かされていた。
ただ、きちんとランスとセックスが出来ていた事も有り、ハウゼルはランスは大丈夫なのだと思っていた。
だが、その認識は甘かったようだ。
現実にランスの体と精神は退行していた。
「ランスさん…本当に私が分からないのですか?」
「知らん。始めて見るぞ。というか人間じゃ無いだろ」
「あ…そうですよね」
ハウゼルは角と翼を持っているので明らかに人ではない。
「俺はゴモラタウンを追い出されてあの女戦士について行って…ってここは何処だ?」
「…ちょっと待ってて下さいね」
ランスの言葉から状況がかなり深刻なのを察し、ハウゼルは皆を呼ぶために急いで出ていった。
1人取り残されたランスはそれを茫然と見ていた。
「何なんだ? 一体」
そんなランスの様子を一本の剣が楽しそうに見ていたのをランスは知る由も無かった。
「…ええ、これが退行の呪いです。記憶も当時に彼のモノへと退行しているんです」
カラーの女王がランスの様子を見てため息をつく。
「そんな…ランス様」
「…何とかならないのかい?」
「申し訳ありません、始祖様…これは非常に高度な呪いでして…闘神γが呪いの進行を食い止め、私が解呪する事は出来ましたが、その呪いの進行を食い止めた所までは退行してしまっているんです」
ハンティはその言葉を聞いて苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
この呪いはまさにレベル3クラスの技能の呪いだ。
「退行ね…確かにあるみたいね。今のランス君からは呪いの前のランス君の覇気が感じられない。多分本当に少年期のランス君なのね」
シルキィがランスを見て眉を顰める。
「…何だこいつ。スタイル悪い癖に露出狂なのか?」
「大きなお世話よ。それにしてもランス君って昔からそういう性格だったのね」
そう言ってシルキィはランスの顔を覗き込み―――ニンマリと笑う。
「ランス君にもこんな時期があったのね。可愛いじゃない」
ランスを抱きしめると、その頭をぐしぐしと撫でる。
「あだだだだ! 何だこいつ!? 何て馬鹿力だ!」
「あ、ごめんなさい」
シルキィはランスを放すと、改めてその体を見る。
まだ体が作り込まれていないのか、戦士としては不十分だ。
ランスは筋肉質な肉体を持っていたが、今のランスにはそれが無い。
「それよりも誰だお前等は。そしてここは何処なんだ。俺はアイスに居たはずだが」
「ふむ…本当に全てを忘れているのだな」
この場に居る全員の事が記憶に無いランスを見て、スラルも難しい顔をする。
「で、お前がカラーって奴か?」
「…ああ、そうだ。私はカラーだ。その事も忘れている…いや、知らなかったのか」
ケッセルリンクも不安そうな顔をするが、それでもランスが無事だった事に安堵もしていた。
「少なくとも命は無事だって事だね…この呪いは徐々に退行していって胎児にまで戻り最終的に死ぬ…そういう呪いだからね。それでも状況は悪いけどね」
ハンティも難しい顔をする。
「もしかしてランス様が退行したという事は、そのレベルも?」
「ああ。今のランスはその時のランスのレベル相当の力しか無いって事さ」
「そんな…」
ジルは青い顔をしてランスを見る。
ただ、ランスのレベルが戻った事よりも、自分達の事を何も覚えていないという事がショックだった。
「別に大した事ないんじゃないのか?」
そうあっけらかんと言い放ったのがルナだった。
「どういう事だい」
ブリティシュの鋭い視線にもルナは全く応えない。
「だって強くなれば良いだけだろ? また鍛え直せばいいだけじゃ無いのか?」
「そんな簡単な話では無い。ランスはこれまで数多くの魔人や悪魔…そして魔王と戦って来た。その戦闘経験が無くなったという事は大きい。人間がそこまでレベルを上げるなど本来は難しい事だからな」
ケッセルリンクは大きくため息をつく。
命だけは助かったが、それ以外の物を失ってしまった形になってしまっている。
レッドアイの残した呪いはあまりにも大きすぎた。
「ただ、何とかなるのかもしれません。確かに退行の呪いは大きいですが、ランスさんは完全な退行をした訳では無いようですから」
「どういう事? 私の事も覚えてないんだけど…」
レンの言葉に女王は微笑む。
「私は呪いのエキスパートです。だから分かります。魔人レッドアイは魔法レベルと魔力は高くても、呪いの技能を持っていないんです。ですから呪いを完全に解除出来れば…その強さも戻ると思います」
「問題はその呪いの解除の方法じゃな。その方法が分からなければどうする事も出来ぬ」
お町の言葉に女王は頷く。
「何か切っ掛けはあるのだと思います。ですが、それが何なのかは私にも分かりません」
「しばらくの間は休みしか無いわね。ランスがこんな調子じゃ戦いにもならないでしょ」
レンの言葉に皆が重々しく頷いている中、ランスだけが訳の分からない顔をしていた。
「ははははは! まだまだ甘いなあランス! そんなんじゃオレには勝てねえぜ!」
「うぐ…」
ランスはルナと共に剣の打ち合いをしていた。
結果は…当然の事ながらランスが剣で自分を支えるのが精いっぱいなくらいに押されていた。
「…成程、これが女王の恐れていた事か。退行の呪い…私の想像以上に厄介だな」
「ああ。ランスの強さがまるでねえ。まだ剣を覚えて少ししか経ってねえガキって感じだな。今のランスの姿と面白いくらいに比例してやがる」
ケッセルリンクと黒部は今のランスを見て苦い顔をする。
ランスの強さを十分に知っているだけに、今の状況の深刻さも理解出来るのだ。
確かに今の姿のランスも十分に強い…それこそ並の大人では手出しできない程にだ。
が、やはり体格の差が出ているのと、ランスの体がまだ出来上がっていないのが如実に表れている。
「ランス様、筋肉質でしたからね…」
「今のランス君は年相応の体だからね…ランス君の強さも年月を積み重ねてのものだったって事ね」
「そうじゃな。我も幼き姿の時は碌に戦えなかった。その時期がランスにもあったという事じゃな」
体が出来上がっていないランスに大人のランスの強さを求めるのは酷だ。
「それにしても不思議な剣だね。今のランスの体格に合わせるように変化したんだから」
ランスの剣はロングソードの形ではあるが、その体格に合わせるように少し小さくなっている。
刀も同様に少し小さくなっており、ランスにとっては手に馴染むようだ。
「それにしてもお前の必殺技も使えなくなっているのか…深刻だよな」
ランスを打ち倒したルナだが、ランスを見て複雑な顔をする。
「そうね。ランス、本当に覚えて無いの? アンタの必殺技」
「知らん」
そして退行の呪いの恐ろしさ…それはこれまでの経験すらも無くなってしまった事。
ランスは自分が考えて考え抜いて編み出したとされる必殺技である、ランスアタックも忘れていた。
正確にはランスアタックを編み出した時よりも退行してしまっているので、まだランスアタックを編み出してもいない時期なのだ。
「あの…ランス様を元に戻す事は出来ないのでしょうか?」
ジルの言葉にも女王は難しい顔をする。
「呪い自体は解呪出来ています。魔人がかけた呪いを闘神が食い止めた事から色々とこんがらがってしまっているのだと思います。ランスさんの記憶を辿る糸…ランスさんの印象に深い事があれば思い出すと思うのですが…」
「呪いというのも複雑なものだな。我としてもランスがこのままだというのは具合が悪い。いや、このままでは時間が経過したとしても、元にランスに戻るという事が無くなってしまう」
スラルが懸念しているのは、このままランスが成長したとしても、それは元に戻ったという事では無く別人になってしまうという事だ。
性格はランスのままだが、このまま成長しても元のランスに戻るという事では無い。
ランスに似た別人が出来てしまうだけだ。
「ねえ、ドラゴンの力も使えないの?」
「ドラゴンの力? 何だそりゃ」
「うーん…ま、いいか。こんな感じ」
そう言うとルナの体から雷光が走る。
体が帯電したかのように周囲い稲光が走り、ルナの存在感が増す。
「で、どう? 何か思いだせる?」
「何のことだかさっぱり分からん」
ランスは困惑したような声を出す。
「ダメかあ…あ、でも同じような事出来るはずだよ。ほら、やってみよ」
ルナは残念そうな声を出すが、それでも明るく笑ってランスの側に行く。
「それにしても…ルナは随分とランスを構うのう」
「そうですね…でも何だか微笑ましくもありますよね」
「そうだね。弟に構う姉…みたいな感じかな? 僕には兄弟が居ないから分からないけど」
二人のやり取りを見てお町、ハウゼル、ブリティシュが薄く笑う。
「…姉。ランス君の姉は私なのに」
「いや、お前は姉じゃ無くて姉を名乗る不審者じゃねえか」
ルナとランスを見て嫉妬しているシルキィを黒部が呆れたように見下ろす。
「うおっ!? 何か出た!」
「おー! そうそうそんな感じ! ほら、体に力を纏わせるような感じで!」
ランスの手を背後から握っていたルナが嬉しそうな声を出す。
するとランスの体から雷光が放たれ、その剣に黒い稲妻が走る。
が、それは少しの間だけで、ランスが直ぐに倒れてしまった。
「な、何だ…滅茶苦茶疲れる…」
「ランス様、大丈夫ですか!?」
倒れたランスに向かって慌てた様子でジルが走っていく。
「あー…体がまだ耐えられないか。でも力自体は残ってるんだ」
ルナもランスを抱き起すと、意識が朦朧としているであろうランスを介抱する。
そんなランスを見て、ケッセルリンクは目を見開く。
「…成程、確かにランスは完全な意味で退行している訳では無いのだな」
「どういう事よ、ケッセルリンク」
「ランスのドラゴンの力は後天的なもの…それもその力を宿したのは最近の事だ。ランスが完全に退行しているのなら、アベルから渡されたドラゴンの力が残って居るはずが無い」
「あ、そうか。あの力って後天的なものだものね。じゃあランスは完全に自分の力を無くしたって事じゃ無かったんだ」
レンも嬉しそうに笑う。
もしランスがこのままなら…自分の任務はどうなってしまうのかと不安になっていた所だ。
帰還命令が来るかどうかは今は不明だが、やっぱりランスの側に居るのは楽しいのでなるべく帰りたくないと思っているのだ。
「まだまだ長い目で見る必要が出てきたな。そう慌てる事は無いという事だ」
そして―――1週間が過ぎた。
「がははははは!」
「あははははは!」
ランスとルナは二人同時に笑い冒険を楽しんでいた。
「あの二人…凄い相性が良いわね。ちょっと不気味なくらいに」
「互いに性格が子供っぽいから…ランス君は今は完全に子供なんだけど。でも本当に似てるというか…まるで姉弟みたい…ランス君は私の弟なのに」
レンの言葉にシルキィが嫉妬丸出しで二人を見る。
男女の仲に嫉妬しているのではなく、あの二人が本当の姉弟だと思うくらいの関係に複雑なのだ。
「おいルナ! そっちは何かあったか!」
「あはははは! なーんも無いが分かった!」
「むう…折角ここまで来たのにスカか」
「いいじゃない! 楽しめてるんだしさ!」
不満そうな顔をするランスをルナが後ろから抱き上げる。
「それは止めろと言ってるだろうが!」
「いいじゃない! 今はランスはオレに対抗出来ないんだからさー!」
ルナは楽しそうにランスを抱き上げたままグルグルと回る。
「ランス様があんなに振り回されるなんて…」
「それは物理的にという意味か? ジル」
「そうじゃなくて…ランス様が完全に相手のペースに呑まれているのが珍しくて…」
「そうだな。そう言った意味ではルナはランスと似ている所があるな」
ケッセルリンクもそんな二人を見て複雑な顔をしている。
ただ、ケッセルリンクの場合はまた別の意味で複雑なのだ。
(…どうしてもルナの姿が奴と重なる。だが、何のためにという疑問も出る。ただ、ルナはランスに悪意を持っていない…いや、それどころか好意を持っているだろう。ただ、それは男女の仲というよりも家族のような好意に見えるが)
ルナがランスに悪意を持っていないのは丸分かりなのでケッセルリンクも特に疑っても居ない。
何よりも二人とも冒険という行為を楽しんでいる。
こうしてダンジョンを攻略すればランスが何か思いだすのかと思い、危険を承知で近くのダンジョンに来たが、残念ながらその思惑は外れてしまった。
「それよりもとっととマッピングをするぞ」
「あ、そうだった。マッピングマッピング」
ランスとルナはそれぞれマッピングを始める。
「ランス様…何時もこういう事は私に任せてくれてたのに」
「確かにな。だが、これは過去のランスの行動そのものという事…ならば、ランスにもそういう時期があったという事だな。非常に興味深い」
「そうね。ランス君って冒険が大好きだけど、こういうマメな時期があったのね。冒険が好きっていうのは伝わって来るわね」
今の時期、ランスは丁度女戦士に引き取られ共に過ごしていた時期―――つまりは冒険のイロハを叩きこまれていた時期だ。
シィルを買ってからはシィルにやらせていたが、今はそれを自分でやっている時期だ。
そしてルナもそれに触発され、ランスと同じことをしている。
「あはははは! ランスって凄いマップが下手ねえ」
「お前だって変わらんだろうが!」
ランスとルナは顔を突き合わせて笑い合う。
「ジル! 私とランス、どっちがマッピング上手!?」
「俺に決まってだろうが」
二人がジルの前に自分で作ったマップを見せてくる。
「え、えーと…」
そのマップを見てジルは非常に複雑な表情を浮かべる。
何故なら二人のマッピングは…非常に下手だ。
ただ、ジルもそれをハッキリ指摘出来る性格でも無いので、曖昧に笑うしか無かった。
「二人とも下手ねえ…ほら、ジルのを見てみなさい」
シルキィは呆れた顔でジルが作っていたマップを見せる。
それを見た二人は愕然とした表情を浮かべる。
「な、なん…だと…?」
「う…す、凄い上手…それに比べたらオレとランスの作ったマップは…うん、ゴミだ」
ジルの正確無比なマッピングに二人はショックを受ける。
これはジルの几帳面な性格が表れており、同時にランスとルナの杜撰な性格が表れていた。
「ランス君、人任せ過ぎよ。少しは自分でやらなきゃ」
「フン、やる事はやっとるわ」
「…そうなのよね」
ランスが退行してからその行動を皆が見ていたが…ランスは意外と思われるかもしれないが、自分で出来る事は自分でやっていた。
普段はジルに任せており、そういう事はほぼやらないのがランスだ。
ジルもジルで嬉しそうに家事をするので、最近はランスに頼られない事に寂しげだった。
「ランスにもそういう時期があったのだろうな。ランスの元に居た女性たちが自発的に身の回りの世話をしていたという事もあるのだろうが」
「城持ちでメイドも居るみたいだしね、ランス。シィルとロッキーが言ってたけど、凄い優秀なメイドさんが居て身の回りを全部してくれるって言ってたし」
レンはランス城に居るフェリスを狩りに来てランスに返り討ちに合った。
その時は確かに人間の城だった…が、人間界にあまり興味の無かったレンはその事が頭から抜けていた。
「今ってランス君の見た目通りの年齢だとすると…うーん、私の時代だと人間って隠れて暮らしてたから比較対象が無い…」
シルキィが人間だった時代はGI期初期、まだGL期が色濃く残って居た時代だ。
人間達は隠れて暮らしており、シルキィのような人間が異端だった。
「ランス君、故郷に帰りたいって思った事は無い?」
「故郷? 何だそりゃ。そんなもん知らん」
「知らないの?」
「知らん。別に知らなくても問題無いしな」
本当に何とも無いように言うランスにシルキィは目を丸くする。
「…ねえ、ランス君。ランス君ってさ、どうして冒険してるの?」
「…フン、関係無いだろ」
シルキィの言葉にランスはあからさまに不機嫌な顔になる。
それはランスとしては言いたくない事があるように感じられた。
実際には複数股が判明し、ゴモラタウンから追い出されただけなのだが。
「ランス、君が呼んでいた女性は何者だ?」
ケッセルリンクは思い切ってランスに聞いてみる事にする。
それはランスが最初に皆と会った時に読んだ女性の名前。
勿論そんな名前は誰も聞いた事が無いので、皆が知らないと答えた。
「あいつか…まあ色々だ。偉そうに俺に言ってくる奴だ」
「色々って…こういうマッピングとかもか?」
ルナが純粋に気になって聞いてみる。
「…色々だ。そういや今は居ないんだな」
ケッセルリンクは人生が長いゆえに、ランスの言葉に色々な感情が乗せられている事が分かる。
色々とは間違いなく生きていくための技術だろう。
大人のランスと、そして今の退行したランスと共に居るからこそその違いが理解出来る。
ある時からシィルという奴隷を買った事で大人のランスの性格になっていったのだろう。
(彼女との出会いが…ランスの土台となったのかもしれないな。会ってみたいものだな。が、同時にランスも生きていくために色々と苦労をしたのだろうな)
自分で出来る事は自分でやる―――いや、ランスが言っていた女にそれを叩きこまれたのだろう。
「また会いたいのか?」
「というか今の状況が全く分からん。魔人だの魔王だの言われても全く理解出来ん」
「ランスとは思えない言葉ね…本当に厄介な呪いね」
ランスが退行してしまった事は本当に皆に重く伸し掛かっていた。
「お、ランス! 宝箱だんごだ!」
「何だと!? ぶっ倒すぞ!」
「おう! どっちが倒すか勝負しようぜ!」
「俺がぶっ倒す! お前は黙って見ていろ!」
「ははははは! 今のお前には負けないぜ!」
宝箱だんごを見つけたランスとルナは同時に駆けだし、そんな二人を皆は少々呆れながらも温かく見守っていた。
「ランスにもあんな時期があったのだな」
「…前からあんなんじゃない?」
「しっかしお前がこんなガキになっちまうとはな。それにしてもまだまだ細かったんだな、お前も」
カラーの里の露店風呂―――そこで作られた男湯にランス、黒部、ブリティシュが共に風呂に入っていた。
「むさ苦しいぞ。近寄るな」
「クックック…そういう所は変わらねえな! ま、お前は昔からそういう奴だったって事だな!」
ランスの言葉に黒部は楽しそうにその肩を叩く。
「それにしてもそんな時代から強かったんだね」
「当たり前だ。俺が弱い訳が無いだろうが」
「今一番弱いのはお前だけどな」
黒部はその爪でランスの頭を小突く。
「あだっ! そのでっかい爪で俺をつつくな!」
「わりぃな」
黒部は大きく笑うと、ランスの頭をぐしぐしと撫でる。
「…黒部は本当にランスが好きなんだね」
「気持ち悪いこと言うな。こんなデカいわんわんに好かれても嬉しくも何とも無いぞ」
「本当に昔から変わらねえな。まあ俺はコイツのダチだからな」
「だからお前なんぞ知らんと言っとるだろうが!」
ランスと黒部の言い合いにブリティシュもつられて笑う。
今のランスはその容姿同様に割と素直になっていた。
勿論子供の頃から色々と厄介な性格ではあったが、流石に大人になった頃の様に男が嫌い、という事も無かった。
取り敢えずは平和だった―――あくまでも表面上だが。
「さて、ランスの記憶の事なのだがな…」
同じくカラーの里の露天風呂の女湯…そこにはランスに近い女性たちが集まっていた。
そこでスラルが口を開く。
「何か良い案が有りましたか? スラル様」
「うむ、一つ思いついた。ランスは全ての記憶を失った訳では無いし、実際にアベルのドラゴンの力は使えている」
「そうじゃな。全てが退行したというなら、新たに得た力も失われているはずじゃな」
スラルの言葉にお町が頷く。
「でもそれがランスさんの記憶とは結び付きませんよ」
「そうね…結局はこのまま成長を続けると言っても、ある意味それはランス君じゃ無いわ」
ハウゼルとシルキィも複雑な顔をする。
確かに今のランスも楽しそうだが、それとコレとは話は別だ。
「そこでだ。ランスが一番記憶に残ってそうな事を考えた。そして当然のようにこの事に帰結した」
「…それって何よ」
「勿体つけてる訳では無い。只管に簡単な事…即ちセックスだ。ランスが一番求めているとしたらそれしか無いだろう」
「うんまあそうよね。それを目的にどんな戦いでも潜り抜けてきた男だしね」
スラルの言葉にレンは少々呆れた様子で声を出す。
結局はランスを辿れば女に辿り着く、それは当然の事だ。
「そこでだ。ここはもう単純にランスとセックスすれば良いと思う」
誰もが「やっぱりか」という顔をする。
というかそれしか無いだろう。
「セックスかあ…」
「アンタは無しよ。何かマズい事になりそうだから」
興味がありそうなルナをレンが止める。
「で、でもスラルさん。ランスさんはまだ子供ですよ。そんな事…」
「自分を偽るな、ハウゼル。お前だって実は興味ある癖に」
「も、もう」
スラルの指摘にハウゼルは顔を真っ赤にする。
だが、その態度が実は興味深々だという事を現していた。
「そこでだが…一番はお前が良いと思うぞ、ケッセルリンク」
「…私ですか? ジルでは無く?」
「ああ。お前が一番良い。ランスはカラーに対しては誠実だからな。だからお前が一番良い」
「私が…」
スラルの言葉にケッセルリンクは複雑な顔で自分の体を見るしか無かった。
本来の自分の体では無いメイの体を。
ランスの過去は公式からの引用をしてますが、女戦士に関してはまだ不明なんですよね…
しかしランスの過去は甘え上手みたいな所が有るとか
ただ、それを描写するのって難しいなあ…やっぱりシリーズでのランスの行動が脳裏に焼き付いている
一応時期としてはゴモラタウンを追い出されて女戦士について行ってる時期になります