「うーん…これだと威力が高すぎる、こっちだとランスの剣の邪魔をしちゃう…悩ましいわね」
「スラル様…大丈夫ですか?」
夜…スラルは魔法でペンを動かしながら、頭を捻っていた。
そんなスラルをケッセルリンクは心配そうに見ていた。
夜にケッセルリンクが目覚めてから、スラルはずっとこうしてランスの持つ剣を見ながらうんうん唸っていた。
「大丈夫よ。今の私は絶好調…新しい考えがどんどん出てくるのよ」
スラルは紙にペンを滑らせ、色々な公式をどんどんと書き込んでいく。
そして色々と魔法を試しながら、喜んだり落ち込んだりと忙しく表情を変えていく。
そんなスラルを見てケッセルリンクは微笑む。
このように普通に笑ったり喜んだり落ち込んだり…こんな表情のスラルを見るのが非常に楽しい。
かつてスラルがランスを魔人にしようとしていた頃…その時彼女はこのように非常に感情豊かだった。
ランスが消えてしまってからは人前に姿を現すのも珍しくなり、そしてとうとう魔王の血に耐えられずに消えてしまった。
しかしこうして幽霊という形で今でも現世に残っている。
「しかし…私も見てみたかったですね」
「ケッセルリンクは怪我もあったし、安静にしていた方がいいと思ってね。それに昼間だったから、あなたを起こすのに気が引けてね」
「お気遣いありがとうございます。おかげで私はもう大丈夫です」
ケッセルリンクは自分の脇腹に触れる。
悪魔の攻撃は魔人のケッセルリンクに確かなダメージを与えており、その傷が癒えるのには思ったより時間がかかった。
改めて悪魔という存在の強さをケッセルリンクは思い知らされた。
(もしかしたら…私も悪魔になってしまっていたのかもしれないな)
カラーは何れ天使か悪魔になる…ケッセルリンクはその前に魔人となったが、かつての仲間たちがどうなったのか、今になって過去の事を思い出す。
(ルルリナ様…アナウサ、メカクレ…皆どうなっただろうか)
魔人になってからはカラーには会いに行ったことが無い。
いや、会うべきではないと考えている。
魔王が変わってどうなるかと思ったが、ナイチサはカラーには興味が無いようで、カラーが虐殺されたとは聞いた事は無かった。
最も、ケッセルリンクは300年あまりこの世界に居なかった時期があるので、今は分からないが。
「本当はケッセルリンクがテスト出来ればいいんだけどね…」
スラルが自分の名前を呟いた事で思考の海から戻る。
「ランスの剣は本当にランスだけの剣なのでしょうね。私でも持つ事が出来ません」
ランスの剣は本人以外には持つ事は出来ない…ケッセルリンクも持とうとしたが、そのあまりの重さに扱う事が出来なかった。
スラルも魔王であった時にランスの剣を調べたが、やはり持つ事はかなわずその膨大な魔力を使って運ぶのがやっとだった。
さらにはランスの意志で剣はランスの元に向かうために、武器を取り上げる意味すら無かった。
この剣が悪魔との契約で渡された剣と聞いたが、まさにランスのための剣なのだろう。
「魔人が持てれば色々無茶も出来るんだけど…まあそれも含めて研究よね」
スラルは目を輝かせながら魔法でペンを動かし、紙に色々と書いていく。
ケッセルリンクはそんなスラルを見て微笑む。
これが本来の彼女の姿なのだと思うと、やはりランスとの出会いはスラルにとっても最上のものだったのだろうと。
(あいつが魔人になっていたら…スラル様はこうも笑っている事が出来ただろうか…いや、それはそれで出来ただろうな)
ランスが魔人になった時の事を想像し…ケッセルリンクはそれならそれでスラルは笑っていただろうと思う。
ただし、その笑いには苦笑いも多いだろうし、ランスが持ち込んだ大事に頭を抱えるスラルが容易に想像できる。
そしてそれでもランスは全く変わらずに笑っているのだろうとも。
「ランスと言えば…今色々と準備をしているようですね」
ケッセルリンクの言葉にスラルが魔法で動かしていたペンを止める。
「そうよね。魔王だった時はあまり分からなかったけど、ランスって凄い冒険好きなだけあって意外とその辺の行動は細かいのよね。もっと大雑把だと思っていたけど」
ランスは移動が上手くいかないことには怒っていたが、その行動に関しては意外と慎重な所も多い。
無闇に突っ走るような真似はせずに情報を集めることも多いし、そのためにはお金を使うことも躊躇わない。
最も、あからさまに怪しい情報を売ってきたような奴らはランスに斬られてしまっていたが。
「私もランスと一緒に廃棄迷宮に行ったりと色々有りましたが…その辺はランスは凄いですね」
「やっぱりそれも含めて才能よね…そしてランスは私の予想もしないアイテムを手に入れてくる…ああ、ランスと冒険してると私の知識欲が存分に満たされるわー」
「スラル様、落ち着いてください」
今にも涎を垂らさんばかりにトリップしているスラルを、ケッセルリンクが諌める。
「ああ、ごめんなさい。何か色々と刺激が有りすぎて…今はこれを何とかしないとね」
スラルは改めてランスの持つ剣を見る。
「うーん…本当にどういう剣なのか。切味だけでなく、不思議な力も持っている。でもその前には私がしっかりしないとね」
先の実験はスラルにとっては実に有意義なものだった。
結果は残念な事に実戦ではまだ使用が難しいが、ランスの剣技に自分が魔法が加われば更なる力を発揮できる。
自分が外に出て魔法を使うよりも、ランスの剣技に自分の魔法を組み合わせた方が遥かに強い。
(それに…ランスの剣技とこの剣があれば私の必殺技も使えるようになるかもしれない)
スラルには魔王であった時に使っていた必殺魔法があるが、魔王で無くなった今その技を使う事は不可能になってしまっている。
レベルの問題もあるだろうが、やはり魔王の力ありきで使っていた魔法だ。
流石に自分が自分の必殺魔法を使えないのと言うのはやはり情けない。
「準備はランス達に任せて、私は私に出来る事をやりたいんだけど…正直、今回だけは気が乗らないのよね」
スラルはそう言って再びペンを走らせた。
「うーむ、やはり無いな」
「そうねー。ランスは何処で手に入れたの?」
「忘れた」
ランスとレダは街中で『お帰り盆栽』を探しに来たのだが、やはりそのような便利なアイテムが市場に出回るという事は無い。
ランスはそのアイテムを持っていたが、どこで手に入れたまでかは覚えていなかった。
帰り木の数が残り少ないため、帰り木も仕入れたかったのだが、生憎この街では売っていなかった。
「まったく、アイテムもろくに手に入らんではないか」
「用意するのも大変なのですね…」
お姫様として苦労する事無く育ってきたシャロンも難しい顔をしている。
昔はともかく、今の自分はランスの従者であり冒険者に近い立場だ。
それ故にこうして冒険をするための下準備をする事の難しさを味わっていた。
(まあランスが居た時代に比べたら天と地ほどの差があるでしょうね)
事情を完全に理解しているレダだが、だからといってこの状況をどうにかできる訳では無い。
何しろ自分も冒険に関しては完全に素人であり、ランスに任せるのが一番だと感じている。
「情報の集まりも悪いしね…」
「そういや何処を見てもなんかごちゃごちゃしたものが見当たらんな。ハイパービルも無かったしな」
「ああ…なんか人間が使っていたアレね」
レダはランスが言わんとしている事は勿論分かっている。
確かにあの時代にはCPUという物が存在し、それを利用する事で情報の伝達をしていたのだが、ここにはそれが見当たらない。
(そういや一体何時頃出てきたのかしらね)
レダは知る由もないが、それらの物が出来るのはまだまだ先の事である。
しかしそれらに慣れてしまっていたランスにとってはこの時代はやはり不便というものだった。
「あのドラゴンの事も何の情報も得られませんでしたね…」
シャロンの言葉にレダも難しい顔をする。
あのドラゴンは翔竜山に居るとはとても思えないし、スラルも「あんなドラゴンが翔竜山にいるとは思えない」と言っていた。
そもそもドラゴンが翔竜山から下りてくること自体が珍しいとの事だ。
そしてドラゴン達があの山に引き籠ってから、魔軍や人間と敵対関係になった事も無いと。
「フン、そんなのは簡単だ。人間が情報を持ってないなら、情報を持っている奴から聞き出せばいい」
「情報を持ってる奴? そんなのがいるの?」
「居るではないか」
ランスはそう言ってニヤリと笑みを浮かべる。
その顔にレダは嫌な予感がするが、ランスは決して止まらないという思いもある。
「だがそのまえに準備だ準備。少なくともアイテムが手に入らないのであれば何ともならん」
ランスは冒険には前もって準備をしている。
いや、正確にはシィルにさせていたのだが、決してランスが出来ないという事では無いのだ。
(しかし本当に何も無いな…これでは冒険にならんではないか)
だがそれでもやはり限界はある…これまでのランスの常識が通用しない世の中では、以前の様なペースで冒険を続けるのは非常に難しい。
魔法ハウスは手に入ったが、それだけでは難しいというのが本音だった。
「うーむ…どうするか」
―――魔軍テント―――
「まだ見つかりませんか」
「も、申し訳有りません! 何しろ相手はドラゴンですので…もしかしたらもうこの地には…」
魔物将軍の言葉に七星は顔色一つ変えないが、対する魔物将軍は生きた心地が全くしない。
(う…)
何故なら、七星の後ろには相変わらず魔人カミーラが座っているからだ。
そのベールの奥からは表情は見えないが、何しろ相手は魔人カミーラ…現在いる魔人の中でも古参の一人だ。
もし彼女の機嫌を損ねれば最後、惨たらしく殺されてもおかしくはない。
魔人にとっては魔物将軍であろうともコマに過ぎない…そして使えないコマは壊される。
「………」
「…カミーラ様は早く見つけよとの事だ。お前も前線に赴き、直接指揮を取れ」
「は、ははっ!」
魔物将軍は慌しく立ち上がると、直ぐに魔物隊長に指示を出し始める。
そしてテントにはカミーラと七星のみとなる。
「申し訳有りません、カミーラ様。まだ見つかるのは先のようです」
「…構わぬ。私は別に今の状況にはさほど不満は無い。あのまま城に篭っているよりもな」
「ハッ…」
この300年あまり、ナイチサは頑なにカミーラが自由に動くことを良しとしなかった。
無論それはカミーラだけではなく、行方不明となっているケッセルリンク、そして今でも魔王の元に現れぬますぞえ以外皆似たようなものだ。
その中でもカミーラは特別自由を与えられていないという事だ。
そして久々の自由…そして今はその心は非常に昂ぶっている。
「カミーラ様、よろしいでしょうか」
「許す…言ってみよ」
「カミーラ様から見て今回のドラゴンの件はどう思われますか」
七星の言葉にカミーラは少し考える。
カミーラはドラゴン出身の魔人だが、特にドラゴンに対して良い感情を持っているわけではない。
いや、むしろ過去を考えれば悪感情すら持っている。
だが、それでもドラゴンの事は良く知っている…そしてそのドラゴンの王の事も。
「…ドラゴンはあれから下に干渉してこぬ。そのドラゴンだけが特殊か…それともドラゴンでは無いか、だ」
「ドラゴンでは無いと?」
「ドラゴンが動くならば、真っ先にノスが動くだろう…だがノスが動いたという報告は無い。ならば、そいつはドラゴンの姿をしたドラゴンでは無い存在やもしれぬ」
「ドラゴンでは無いドラゴンですか…」
ドラゴンは最強の生命体だが、全てにおいて完璧というわけではない。
実際に七星は人間であるランスがドラゴンを倒した光景を見ている。
「それに四大聖竜、八大精霊竜が動いていない…ドラゴンが動くなら奴らが動く。だがあいも変わらずだ」
「そうですね…では今回の存在はドラゴンを探す、という方法を取らぬほうがいいかもしれませぬ。魔物将軍達に指示を致します」
「そうせよ…」
カミーラが無言となった時、突如として魔物将軍が飛び込んでくる。
「し、七星様! 行方が分からなくなっていた部隊が…」
「何事ですか」
魔物将軍は息を切らして報告する。
「も、申し訳ございませぬ。その…行方が分からなくなっていた第5部隊が見つかりました…」
「…その様子ですと、よい報告では無さそうですね」
「………全滅です。第5部隊は壊滅しておりました」
「…何と」
魔物将軍の言葉には流石の七星も驚く。
魔物隊長は当然の事ながら強い…そして魔物兵も魔物将軍や魔物隊長がいなければ統率が取れぬとはいえ、全滅という事は有り得ぬと思っていた。
「状況を説明なさい」
「ハッ…それなのですが、どうやら奴等は人間の村を襲おうとしていたようで…」
魔物が人間を襲うのは当然の事…そして人間とは全て魔物に蹂躙され、嬲られるためのオモチャでしかないというのは魔物の共通認識だ。
魔物の部隊が任務の途中で人間を蹂躙するなど何時ものこと…魔物将軍はそう思っていた。
「このカミーラの命令よりも人間を殺すことを優先したということか…」
その言葉で魔物将軍以下、報告に現れた魔物隊長・魔物兵達が一斉に凍りつく。
それは何とも無い一言だったかもしれないが、そこに込められた冷たい言葉は凄まじいプレッシャーとなって魔物達を包み込んだ。
「も、申し訳有りませぬ!」
カミーラの言葉に全ての魔物は平伏するしかない。
「まあよい…報告を続けよ」
次に放たれたカミーラの言葉に全員の力が抜ける。
「は、は! それでその隊長達の遺体を持ち帰ったのですが…妙なのです」
「妙、とはどういう事でしょうか」
「今までのドラゴンと交戦した者達とは死に方が違うのです。一部の魔物は確かに焼かれて死んでいましたが、魔物隊長が…」
魔物将軍の言葉に魔物兵達が魔物隊長の遺体を持ってくる。
七星はその遺体を見て「なるほど…」と呟く。
その魔物隊長の死体は確かに有り得ない死に方をしていた。
別に魔物隊長は無敵でも何でもない…人間にすら負けるという事も十分にある。
人間の抵抗で魔物隊長が死ぬというのは別に珍しく無い事なのだ。
だがこの死体は明らかに違う。
「一刀両断ですか…剣ごと」
その魔物隊長は頭から真っ二つになっていた。
それも魔物隊長に支給されている大剣ごと。
「どんな力で斬られたのか…しかも斬り方が恐ろしく鋭く、重い」
ただ真っ二つになっていたのではなく、魔物隊長の後頭部から股間にかけて後ろ半分が大きく消失してしまっている。
恐らくはその一撃の衝撃で後ろ半分が吹き飛んでしまったのだろう。
このような事が出来るのは、それこそ魔人くらいのものだろう。
「ま、まさかまだ見つからぬ魔人様が…」
魔物達に動揺が走る。
これ程の威力の一撃となるとそれこそ魔人くらいしか考え付かない。
コツ…コツ…
そこにカミーラが歩いてくる。
その事に全ての魔物達が驚愕の表情を浮かべる。
カミーラは全ての事に無関心だったはず…現に、ここでも全て七星が指揮をとっていた。
そのカミーラがその魔物隊長の死体を見下ろしている。
ベールの奥でカミーラがどのような表情をしているかは魔物達には分からない。
「ククク…」
そしてカミーラが笑い声を上げる。
その事に全ての魔物達に動揺が走る。
まさかあのカミーラが笑うなどとは考えてもいなかったからだ。
「カミーラ様…?」
七星の言葉にもカミーラ暫く笑い続けた。
「探せ」
そしてその言葉が魔物達にさらなる緊張を与える。
「これをした者を探してこのカミーラの元へ連れてこい」
そこには確かにカミーラの熱が感じられた。
「で、ですがカミーラ様、ドラゴンの方は…」
「同時に探せ。このカミーラの命が聞けぬというのか」
「い、いえ! わかりました!」
魔物将軍を始めととした魔物隊長・魔物兵は一目散にテントから出ていく。
それほどまでにカミーラのプレッシャーは強大だった。
「カミーラ様…何故ですか」
カミーラと七星の二人だけになったところで、七星は己の主に問いかける。
今のカミーラは明らかに機嫌が良い…これほどまでに機嫌が良いカミーラを見るのは実に300年ぶりくらいでは無いだろうか。
「ククク…やはりランスはここにいる…それも近くにな」
「…まさかこれはランス殿が」
七星は改めて魔物隊長の遺体を見る。
確かにこれほどの一撃を放てるのは魔人しか考えられないが、言われてみればあの男…ランスが斬ったというのであれば納得がいく。
あの男の一撃はドラゴンの硬い鱗すらも易々と切り裂いた…そしてあの地竜ノスすらも斬った男なのだ。
「ですがカミーラ様。ランス殿がここに?」
「間違いない…私の勘が告げている。あの男は今この時代にいるのだ」
カミーラは上機嫌で椅子に座る。
そしてベールを外すと、そのカミーラの端正な顔に明らかに笑みが浮かんでいるのが分かる。
だが笑みと言ってもそこには温かさは感じられない…そう、まるで何年も待ち望んだ得物をようやく見つけたかのような獰猛な笑みだ。
「しかしカミーラ様…ナイチサ様の命は如何いたしますか」
「フッ…そのドラゴンを追えば必ず奴に行きつく。私には確信がある」
「それは…いえ、了解しました。一刻も早く手配を致します」
七星はカミーラの望みを叶えるのが第一だ。
そのためにはどのような事でもやる覚悟がある。
己の主の望みを叶えるため、七星は魔物達に指示を出すべく歩き始めた。
一人になったカミーラは改めてその唇に笑みを浮かべる。
今度は先程見せた獰猛な笑みでは無く、少し親しみを感じさせる笑みだ。
「ランス…やはり貴様は私と深い縁があるようだ。今度こそお前を私の使徒としよう…それを拒むのであれば、全力で抵抗するのだな」
―――魔法ハウス―――
「意外と集まらないものね」
レダはこの一週間で集まった物を見てため息をつく。
「まったく、シケた世の中だ」
少し足を延ばして町を回ったりしたのだが、やはりランスが望むアイテムはそう見つかるものでは無かった。
何しろ帰り木でさえ貴重なもので、LP期と比べればずっと高い。
それに薬等も思うように手に入らないために、ランスも中々あのドラゴンを探す、という行動に移る事は出来ずにいた。
「私はレベルが上がったのですが…」
「その…私も」
シャロンとパレロアが申し訳なさそうに手を上げる。
ランス達も情報を集めがてらモンスター退治なども行っていた。
ランスにとっては弱すぎる相手のためランスやレダのレベルが上がる事は無かったが、代わりにシャロンとパレロアのレベルが上がっていた。
「私ももうLVが25になりました」
「…私もレベルが17に」
「シャロンももう普通に戦力になってきてるわね」
「恐縮です」
レダの言葉にシャロンは少し赤面する。
何しろかつての姫様がハニーをその拳で叩き割っているのだ。
それなりに経験もついてきており、普通に戦える範囲にまで強くなったのだ。
「私の方はあまり進んでないわね…やっぱり付与の方を全く考えてなかったのがね…500年損してたなあ」
スラルは色々と付与の力を試していたが、どうしても上手くはいっていなかった。
威力だけなら一級品だが、制御となるとやはり上手くいかない。
ランスの剣技が凄すぎるという点もあるが、スラルの魔力も大きすぎるという問題点もある。
スラルも後世で最弱の魔王とされているが、プランナーに魔王として任命されただけあり、その力はやはり普通の人間を凌駕している。
その大きな魔力が、付与をする際に足枷となってしまっる…スラルはそう感じていた。
「でもランス、これからどうするの? アイテムが手に入らない分、お金は少し貯まってきたけど…あのドラゴンはどうするの?」
「当然あのふざけたドラゴンはぶっ殺す。そしてアイテムも手に入れるそれだけだ」
あまりに自信満々に言うランスにある意味感心してしまうレダだが、事はそう簡単ではない。
「カミーラはどうする。あのドラゴンに関わる以上、カミーラと出会う可能性は高い」
ケッセルリンクはそこで鋭い視線をランスに向ける。
「カミーラはお前を諦めるつもりは全く無いだろう。お前が一度私達の前から消えた後、カミーラは確かに無気力だった。だが、お前ともう一度会ってからカミーラに覇気が戻った。カミーラは必ずお前を使徒にしようとするだろう」
「…まだ諦めておらんのか」
ランスからすれば2年程前の話だが、カミーラからすれば既に400年程経っている。
「カミーラはもっと長い時間生きてきたんだ。そんな簡単に諦めるような奴では無いだろう」
「うーむ…そんな奴だったか?」
スラルとケッセルリンクの言う魔人カミーラとランスの知っている魔人カミーラがどうも一致しない。
ランスに負けたカミーラはゼスにて封印されていた…その時にランスはカミーラを何度も犯した。
最初はカミーラからは殺意を感じていたが、最後にランスが襲った時にはそこには諦めしか存在していなかった。
「それに一部とはいえ魔軍も動いている。そんな中に関わっていくのは難しいと思うぞ。シャロンとパレロアを巻き込むことになる」
「むむむ…」
シャロンとパレロアの名前を出されてランスは少し考え込む。
もしこれがマリアや志津香、そして戦姫等といったランスも認める女達ならば問題無いだろう。
しかしシャロンもパレロアもどうしてもそれらのメンバーに比べれば劣ってしまう。
それがこの世界の絶対的なシステムなのだ。
「私も反対よ。無理にあのドラゴンに関わる必要は無いと思う」
流石のランスも皆にそこまで言われては強くは言えない。
それに彼女達の言うとおり、無理にドラゴンと戦う必要など本当に無いのだ。
地道に稼ぐのが面倒くさいランスが、何時もの通り一攫千金を目指して行動しているだけなのだ。
「わかったわかった。ならあのドラゴンに関わるのはやめる」
「それがいいわ。無理に魔軍と関わるべきでは無いわ」
ランスとレダの言葉にスラルとケッセルリンクは安堵する。
スラルとしては自分の研究が終わるまではランスに無理な事をしないで欲しいという思いもあるし、何よりあのドラゴンはスラルの目から見ても異常だ。
そんな存在に関わって欲しくなかった。
ケッセルリンクもなるべくはランスとカミーラを会わせたくなかった。
ランスがカミーラの使徒となる…というのはケッセルリンクとしても面白くない事ではるし、もし魔王が出張ってきたらそれこそアウトだ。
自分も魔王の命令には逆らえないため、ランスの敵になる可能性は非常に高い。
あの魔王ナイチサが動くとは思えないが、カミーラが動いているということを考えれば万が一の可能性も消しておきたかった。
こうしてランスは奇妙なドラゴン―――レッドアイと関わることを止めようと考えた。
しかし、運命という言葉はそんな事を許さない…それがランスという男の宿命だった。
ここから少し魔軍の方に視点が移る事が多くなります
実際組織立った行動をとれないランスと組織で動く魔軍を比べるとね…