「おい! どうだ!」
「いや! いない! 向こうを探せ!」
各魔物兵が必死になって動いている。
その中心にはこの任務を与えられた魔物将軍がおり、各魔物隊長に必死になって指示を飛ばしている。
「第1部隊はまだ戻らぬか!」
「ただ今戻っている最中との事です!」
あのカミーラの檄から数日、魔者達は寝る間も惜しんでカミーラの命を忠実に守っていた。
「急げ! カミーラ様が見つける前に何としてでも見つけるのだ! そうしなければ我らの命は無いと思え!」
「ハッ!」
魔物将軍の言葉に魔物隊長は敬礼をして再び走り始める。
「まさかカミーラ様自らが動かれるとは…!」
今魔物達が必死になって動いているのは、まさかの魔人カミーラ自らが動いているという事態からだ。
カミーラは怠惰…これが魔物達にとっての常識だった。
魔王の命令があるとはいえ、カミーラは滅多に己の城から動く事は無い。
実際にドラゴン捕縛の任務がおりてからも、カミーラは殆ど動かないし、言葉も使徒である七星を通じて放たれていた。
しかしそれに変化が起きる…それが第5部隊の壊滅だった。
「補充が来ないというのも…ええい、トッポスめ!」
当然それに補充が当てられると思っていたのだが、トッポスの予想以上の暴れっぷりに向こうに魔物達が補充されたとの事だ。
よりにもよってトッポスが卵を産んだ時期と重なってしまったようで、トッポスの方が重視されている。
勿論それには文句は無い…無いのだが、こうして魔人カミーラが動いているという事が魔物達を焦らせてしまっていた。
「だが逆に士気が上がっているのは良い事か…」
魔人が自ら動くという事に、魔軍の士気が上がっているのは救いだ。
「セロリ将軍! 第4部隊戻りました!」
「おお、戻ったか! どうだ?」
魔物将軍がこれからの事を考えていると、翔竜山付近を捜していた第4部隊が戻ってきた。
この部隊は一番危険な場所を捜索していた部隊であり、その部隊が戻ってきてくれた事は非常に喜ばしい事だ。
「は! ドラゴンの山には例のドラゴンはいないようです! やはり七星様の言うとおり、普通のドラゴンでは無いと思われます」
「そうか…ではそこに部隊を送るのはやめたほうがいいな…無闇にドラゴンを刺激する訳にもいかんからな。お前達は第1部隊が戻ってくるまで休んでいろ」
「ハッ! それにしてもまさかカミーラ様自らが動くとは意外ですね」
「うむ…それに関しては喜ぶべきかどうかは怪しいがな。出来るならカミーラ様が見つけ出すまでに我が見つけるのが望ましい」
魔物将軍の言葉に魔物隊長が頷く。
いくらカミーラとはいえ、一人で探すなど難しいだろう。
「しかし何故いきなりカミーラ様自らが動かれたのか…まったく訳が分からぬ」
「それなのですが…私は妙な噂を聞いた事が有りまして」
「噂だと?」
魔物将軍が胡散臭そうに顔(?)を顰める。
元来噂話などあてにならないものであり、そのような話自体魔物将軍セロリは信じていない。
「ええ…ナイチサ様の前の魔王…スラルの時代に、カミーラ様が一人の人間を使徒としようとしたとの噂です」
「あのカミーラ様が人間をか? それこそありえんだろう」
何しろカミーラは完全に人間を見下している。
誇り高い魔人であるが故に、人間を使徒にするなどあのカミーラに限ってありえないと魔物将軍は鼻で笑う。
「ええ…ですが、今の今までこの噂話が残っているとなると…気になりませんか?」
「下らん。そんな事を考えている暇があったらこれからの事を考えろ。働きによっては使徒へとなる事も夢では無いだろう」
あのカミーラが自ら動く…逆に言えばそのカミーラの目に止まれば使徒へとなる事もありえるかもしれない。
「それにカミーラ様直属の部隊があると聞く…何でも七星様の指揮で特殊な部隊が作られているらしい。その部隊への配属もあるぞ」
「ハッ! 申し訳有りません! 第4部隊はこれより休憩に入ります」
魔物隊長は敬礼すると、そのまま休憩へと入る。
「全く…そのような噂があるとは知らなかったな。しかし何故カミーラ様はあんな命令をしたのか…まあ私程度が考えても仕方ないか。今は出来ることをやらなければ」
魔物将軍はそのまま次の一手を打つべく考える。
中々優秀な人間らしく、その頭脳は中々冴え渡っている…あくまで個人の感覚ではあるが。
「使徒か…まあ確かにそれは魅力だがな。しかしあのカミーラ様が我らを使徒にする気は無いだろうな…あの方にとっては我らなど所詮は駒にすぎんのだからな」
空…それはカミーラが何にも気にせずに自由になれる時間だ。
昔は空がそれほど好きでは無かった…空はその時はドラゴンが支配していたからだ。
魔王ククルククル…魔王アベル…ドラゴンは魔王と長い時間戦い続けた。
その間は常にドラゴンが飛び交い、そして丸いもの達と戦い続けていた。
だが、それはある日唐突に終わりを告げる。
無数の天使達がドラゴンをあっさりと絶滅寸前まで追い詰めた。
そして人間という種族が現れ、人間出身の魔王スラルが現れた。
カミーラにとっては人間など下らぬ存在であり、特に何の感情も抱いていない…ただ、魔物に蹂躙されるだけの愚かな存在に過ぎないと。
しかしそこにカミーラも考えてすら居ない存在が現れた。
カミーラに傷をつけただけでなく、地竜ノスにも傷を与え、そして魔王とも戦って見せた人間。
そしてその人間―――ランスは間違いなくこの世界に存在する。
あの魔物隊長の死体は、魔人でも難しい…が、あの男ならば可能だろうと思う。
そして魔物隊長の死を良い事に、カミーラは今現在単独行動をとっていた。
とっていたのはいいのだが…やはりそう簡単に見つかるものではない。
まだ探し始めて日が浅いというのもあるが、あの魔物達の中にはカミーラの監視役として派遣された者がいるのは分かっている。
流石にこれ以上魔王に束縛されるのはカミーラとしても避けたい所だ。
「やはりドラゴンは動いておらぬか…」
カミーラは七星にああは言ったが、万が一の可能性を考えて翔竜山の付近を飛んだのだが、やはりドラゴン達は動かない。
最も、それがカミーラにとっては都合がいいのであり、これ以上いたずらにドラゴンに関わるつもりは無かった。
「問題はどの程度時間が作れるか…か」
カミーラが使える時間がどれほどなのか、カミーラ自身にもまだ分かっていない。
魔王ナイチサ…カミーラにとって、ナイチサはスラルよりも掴みにくい魔王だった。
スラルはその容姿から少し気に入らなかったが、カミーラに直接干渉はしてこなかった。
しかし魔王ナイチサは最初は人間を虐殺したと思ったら、今度は北の方へ引っ込み時折思い出したように人間の虐殺を行う。
ある意味スラルよりも不安定であり、尚且つ魔人か勝手に動くのを許さないというカミーラにとっては迷惑極まりない魔王だ。
「ケッセルリンク…奴も何処にいるのか」
そしてケッセルリンクは魔王からは特に命令を受けておらず、行動も規制されていない。
夜にしかまともに動けないという事が逆にケッセルリンクに自由を与えていた。
魔王ナイチサもケッセルリンクと、魔王の命令に従わぬますぞえには何も言わない。
部下の報告では、特にケッセルリンクの事を言ってるという事は無い…ならばケッセルリンクに関しては完全に放置しているのだろう。
しかしカミーラはケッセルリンクについてある考えが頭にあった。
恐らくはケッセルリンクはランスと共に居る…そして、ランスと共にセラクロラスに巻き込まれたのではないかと考えていた。
それ以外にケッセルリンクが自分を訪ねない事はありえないと考えているからだ。
カミーラも認めるのは癪だが、ケッセルリンクは中々馬が合う所がある。
それ故、七星に命じてケッセルリンクも共に探させていたのだが、今までは何の進展も無いのが現状だった。
「…そろそろ時間か」
カミーラは太陽の位置を見て忌々しそうに言葉を放つ。
気に入らないが、やはり魔王の言葉は魔人には重要だ。
ここで戻っておかなければ、どうなるかは予想がつかない。
カミーラが魔軍のテントに戻ると、テントで話していた七星と魔物達が一斉に跪く。
「お帰りなさいませ。カミーラ様」
「うむ…」
七星の言葉にカミーラは短く答えると、カミーラ用に備え付けられている大きな椅子に座る。
「如何でしたでしょうか、カミーラ様」
「ドラゴンが動く事は無い…お前達は範囲を広げよ」
カミーラの言葉に魔物将軍セロリが意を決したように声を出す。
「カ、カミーラ様…その事なのですが、全滅した第5部隊の補充の部隊を送ってもらう事は出来ないのでしょうか。相手はドラゴン故に、その行動範囲を考えれば今は数が足りませぬ」
その言葉を発した魔物将軍をカミーラは感情のこもっていない目で見る。
それだけで魔物将軍セロリは背筋を震わせる。
魔人に対して意見をした事の恐ろしさを今になって実感したのだ。
「それに関しては補充は難しいでしょう。ただでさえ先に魔物将軍の一人が死んでいます。ナイチサ様もこれ以上こちらに援軍を出す気は無いようですから」
「そ、そうですか…」
カミーラの代わりに答えた七星の言葉に魔物将軍セロリは逆に安堵してしまう。
七星の言葉は望んだ答えでは無かったが、それでもカミーラが何も言わない事で自分を処罰するつもりは無いと知り安堵したのだ。
「…時間はかかっても構わぬ。確実に見つけよ」
「ハハッ!」
カミーラの言葉に魔物達は一斉に返事をする。
そう、カミーラにとっては魔物将軍達が何をしようとあまり興味は無い。
見つければドラゴンを捕える気ではいるが、カミーラの一番の目的はこの近くにいるであろうランスを探す事だ。
「では明日にも動きなさい。決してカミーラ様の手を煩わせることが無いように」
「ハッ!」
七星の言葉に魔物兵達は皆テントの外に出る。
また明日には部隊の再編成をし、どこにどの部隊を送るのかを考えねばならぬのだ。
「報告せよ」
そしてカミーラと七星が二人になった事で、カミーラが七星に言葉を発する。
「魔物将軍セロリは魔王ナイチサ様から送られた監視役では無いでしょう。恐らくは魔物隊長の中にいると思われます。ばれぬ様に私の部下を各部隊に潜り込ませましたが、まだ目立った報告はありませぬ。むしろ壊滅した第5部隊の隊長がカミーラ様の監視役だった可能性もあるかと」
カミーラにとってはこの自由な時間を思うように使いたいため、ナイチサから送られてきている監視役はどうしても邪魔だった。
そのためには不慮の事故にあってもらうのが一番いいのだが、関係無い部隊まで壊滅しては逆に魔王ナイチサからの評価を下げる事になる。
カミーラ自身は魔王ナイチサの評価などどうでもいいが、これからある程度の自由を手にするためには少しでもナイチサからの評価を上げる事が必要となる。
「そうか」
「むしろ私はそのドラゴンの方が気になります。ドラゴンの目的が分かりませぬ。それにドラゴンが別の地で目撃されたという報告も有りませぬ」
七星の言葉はカミーラも気にかかっていた。
「そのドラゴンはあまり遠くに行けぬ事情があるのでは無いでしょうか。そうでなければ態々この地に留まる理由が分かりませぬ」
カミーラは少し何かを考え込んでいたが、
「七星、そちらはお前に任せる。私は私で好きに動く」
「ハッ…ですがランス殿がこの世界にいるとしても、人間の中から見つけるのは難しいのでは」
「恐らくそうはならぬ…あの男ならば必ず何か起こすだろう」
カミーラにはある種の確信があった。
(そう、そうでなければこのカミーラ…そして魔王が同時に一人の人間を望むなどあり得ぬのだ)
あの男ならば必ず一波乱起こす…これはもう確信に近いものが感じられた。
七星は楽しそうに笑うカミーラを見ながら、これからの一手を考える。
全てはカミーラのために。
―――人間界のある国―――
「それで魔軍が動いているのは確かなのか」
「ハッ! 翔竜山を中心に魔軍が動いているのは確かです! まだ接触はしていませんが、いつ動いてもおかしくありません」
部下の報告を聞きその国の将軍は頭を抱える。
魔軍は人類共通の敵―――ではあるのだが、だからといって隣国と協力する事も難しいという現実がある。
「魔王は動いていないのか」
「魔王が動いたという報告はありません。ですが、魔人が動いている可能性は十分にあります」
その言葉にこの場に居る全ての人間がどよめく。
それほどまでに魔人という言葉は重い…何しろ、人類では魔人を傷つける事すら敵わぬのだから。
結局人間達はこの魔人の動きには何も対応することは出来ない。
人間が魔物に対抗する力を持つまでには、まだまだ長い時間が必要であった。
そして一方のランス達はというと…とある所から動けぬ状況が続いていた。
「いい加減に腹が立ってきたな」
「そうねー。私もそろそろ限界よねー」
「落ち着いてください。ランス様、レダ様」
ここはとある国なのだが、そこでランス達は足止めを食らっていた。
理由は単純、この国が戦争を仕掛けようとしているという理由だ。
たまたまこの国で物資の補充をしていた時、たまたま巻き込まれた…ただそれだけの理由だ。
しかしこうして三日、一向に国を出る事が出来ない事実にランスとレダはとうとう我慢が限界に近かった。
(沸点低すぎでは無いだろうか)
スラルはそんな事を考えるが、確かにこう軟禁状態だとランスとしても面白くないだろう。
「しかし戦争か…私の時代よりも随分と人間同士の戦いが多いな。ガルティアもその強さから同じ人間から疎まれて魔人になったが…それ以上だな」
過去を思い出しガルティアにも会いたくなるが、流石に今は会うことは不可能だろう。
「私は戦争はもう嫌です…」
シャロンは辛そうな顔をする。
自分はランス達に救われたが、もし彼らと会わなければ自分はどうなっていたのだろうかと、思わず身震いする。
「面倒だ。力ずくで行くぞ」
「そうね。ぶっ飛ばしましょう」
「いや落ち着いて。いくらなんでも全てを規制するなんて出来ないわよ。その内出られるわよ」
スラルがランス達を落ち着かせる様に宥める。
確かにスラルとしてもこの状況はありがたくないが、だからとってどうこう出来る訳は無い…と考えたが、
(いや、ランスなら絶対何かしそう…でも他の皆の事もあるし自重してもらわないと…)
ランスが行動に移らないのは、やはり非戦闘員のパレロアがいるからだろう。
彼女は荒事の才能が無いため、ランスとしても行動は慎重になっている。
彼女の過去もあってか、ランスも彼女を無理矢理襲うような事は無い。
代わりにレダ、ケッセルリンク、シャロンが毎日のように襲われている(?)のだが。
「でもどうすれば宜しいでしょうか…」
こういった事の経験が無いパレロアはそわそわとしている。
「心配する必要は無い。私達がいれば問題は無い」
ケッセルリンクの言葉にパレロアは安心したようだが、やはり人間同士の争いという不安はあるのだろう。
「もう少し待ってみましょうよ」
スラルの言葉にランスは不満があるようだが、それでも何も言わない。
そしてこの出来事が、新たな出会い…そして別れを生む事になるとはまだ誰もわからなかった。
「いたぞ! 防衛部隊前へ!」
「オー! モンスターソルジャー!」
ドラゴンの前に巨大な盾を構えた魔物兵が立ち、ドラゴンのブレスとレッドアイの魔法を防ぐ。
勿論完全には防げないのだが、やはり正規の魔物兵の強さは高く、レッドアイといえどもそう簡単には倒すことが出来ない。
「シーット! 何故ミーの魔法で倒れない? モンスターソルジャーがドラゴンの攻撃に耐える?」
レッドアイは自分がこのような状況になっている事に疑問を抱きつつも、ただ単純に力押しで相手を蹴散らそうとする事しか出来ない。
確かにレッドアイは強い…他者に寄生する能力もあり、魔法レベル3というこの世界でもトップクラスの魔力を持っている。
だが、狂気の存在であるレッドアイにはそれを活かすだけの知能が不足していた。
「今だ! 魔法兵!」
魔物隊長の言葉に魔法魔物兵が一斉に魔法を放つ。
それはレッドアイからすれば大した威力ではないが、数が合わされは話は別だ。
ドラゴンの強靭な肉体はその程度では倒れないが、レッドアイ本体までは防いでくれない。
その膨大な魔力を使って魔物兵の魔法を相殺するが、そうすると今度は一部の魔物兵が斧を投擲してくる。
「シーット! ここまでネ!」
レッドアイはこれ以上戦うのは不利と感じ、ドラゴンの翼を羽ばたかせると空を飛んで逃げていく。
「逃げたぞ! 見失うな! 何としてもカミーラ様に報告するのだ!」
魔物将軍セロリの言葉に魔物兵が声を上げ追いかける。
「問題無さそうですね」
「七星様! こうしてアヤツを追い込めているのも七星様のおかげであります!」
「世辞は結構。私はカミーラ様に報告をしてくる。お前達は何としても逃がさぬように」
「ハッ! おい! 何としても奴を見失うな!」
魔物将軍自らが動き、レッドアイを追い詰めていく。
その光景を見て、七星はようやく一仕事を終えることが出来そうだと安堵する。
「カミーラ様のおっしゃっていた通りでしたか…奴はドラゴンなどではない。あのドラゴンの体に張り付いていた妙なモノが本体か」
七星はカミーラの言葉を元に、相手の動きを予測しこうして追い詰めることに成功していた。
勿論そう簡単にはいかず、第4部隊に関しては完全に消滅し、第3部隊、第6部隊の2体の魔物隊長を失ってしまった。
しかし魔物将軍セロリは七星が思った以上に優秀なようで、直ぐに部隊の編成を完了させていた。
そしてとうとうドラゴンの出現範囲と移動範囲を予測し、網を貼っていたところにあのドラゴンは現れた。
「そして移動範囲にも限りがある…あるドラゴンなのに空を飛んで遠くに逃げない…ということは、奴には何か重要なモノがあると言う事」
ドラゴンの翼ならば魔物の包囲網などあっさりと突破してしまう。
空を飛べるというのはそれだけで絶大なアドバンテージなのだ。
そして七星の予想は完全に当たっていた…絶大な力を持つレッドアイだが、一つとてつもない弱点が存在していた。
「シーット! 何故ミーがモンスタージェネラル程度にエスケープ!?」
レッドアイは己の隠れ家ともいえる場所に逃げる途中だった。
レッドアイがこの周囲から離れることが出来なかったのには理由がある。
「ケスチナ…奴がいなければノープロブレム!」
それはレッドアイがケスチナの血統が死に絶えると、自分も自己崩壊を起こして死んでしまう事にある。
なので、レッドアイは常にケスチナの血統を己の側においているのだが、問題はそのケスチナの血であった。
「ケスチナ…ベリーウィークネ!」
そのケスチナが非常に弱いというのがレッドアイの明確な弱点となっていた。
ケスチナの血統は己の力で身を守ることが出来ず、レッドアイが守らなければあっさりと死んでしまう。
最初はドラゴンの体に寄生した時、レッドアイは新たな強い肉体を求めてどこか遠くへと行こうとしたのだが、そのケスチナのせいでろくに動くことが出来ずにいた。
理由は単純、ケスチナではレッドアイと共に飛ぶ事が出来ないのだ。
その前にケスチナは地に叩きつけられ死んでしまう…するとレッドアイもまた死んでしまうのだ。
そのためこの周辺で新たな肉体を捜していたのだが、とうとう魔物兵達が自分達を追い詰める結果となってしまっている。
そしてもう一つの問題は、魔人が派遣されてきた事…レッドアイがいくらドラゴンの肉体を持っていようとも、魔人に勝つ事は出来ない。
魔人に寄生する…という手段をとろうにも、周りにあそこまで魔物兵がいるのではそれも難しい。
その結果、レッドアイはどうしても動くことが難しくなってしまっているのだ。
つまりは魔物が本気を出せば、こうしてレッドアイを追い詰めるのは簡単なことだったのだ。
レッドアイが空を飛んでいると、自分が隠れている場所が見えて来る。
「アンナー!」
「ひっ!」
アンナと呼ばれた少女がレッドアイを見て体を震わせる。
粗末な格好をし、明らかに栄養が足りていない肢体を持つ少女こそが、ケスチナの血統の少女である。
この少女が死ねば、レッドアイもまた死んでしまう。
「急いでエスケープ! ミーについてくるね!」
「あ…」
レッドアイの言葉にアンナは全てを諦めた目でレッドアイを見る。
この少女もまたレッドアイに虐待されており、彼女の母親もレッドアイによって殺され、その肉を無理矢理食べさせられた。
気に入らなければ殺されない程度に痛めつけられ、気の休まる日は決して存在しない。
だが、そのレッドアイが明らかに焦っていた。
動かぬ少女に業を煮やしたのか、レッドアイはドラゴンの大きな手でアンナを掴む。
そしてもう一つの棺を掴むと、大急ぎで走り出す。
空を飛んではアンナが死んでしまう恐れがあるからだ。
「ミーは全てをキル! ウケケケケケ!」
この状況にも、狂気のアイテム、レッドアイは醜悪な笑みを浮かべていた。
「いたか!」
「いや! いないぞ! だがまだ遠くには行ってないはずだ!」
魔物兵達がとうとうレッドアイが使っていた隠れ家を見つけるが、そこは既にもぬけの殻だった。
「誰かがいた形跡がある! 空からは逃げていないはずだ! 探せ!」
魔物隊長の言葉に魔物兵達が一斉に散らばる。
「何としてもカミーラ様よりも先に見つけるのだ!」
流石に自分達の主であるカミーラよりも先に見つけなくては面子に関わる。
だが、この魔物隊長の任務はそれだけではないのだ。
「まったく…なんで私がカミーラ様の監視等を…」
第7部隊の隊長は、先に消滅した第5部隊の隊長と共に、カミーラの監視役を命じられていた。
「奴は先に死んでしまうし…嫌な任務だ」
魔人の監視など、本当にやりたくは無いのが本音だ。
何しろ相手は魔人…自分よりも遥かに強い存在なのだ。
その魔人を監視するなど魔王の命令でなければ誰も引き受けないだろう。
「だが何も問題無く終われそうだな…カミーラ様もやる気のようだしな」
魔物隊長が額の汗を拭っていた時だった。
「ゴブッ!」
突如として血を吐き出す。
「やはりあなたでしたか。カミーラ様の監視を命じられていたのは」
「し、七星…様」
魔物隊長は呆然と自分の胸を抉った存在…カミーラの使徒である七星を呆然と見上げる。
「どうやらあなたが最後の一人のようですね…問題は有りません。あなたは名誉の戦死を遂げたのですから」
魔物隊長が見たのは、最後まで笑み一つ浮かべない七星の顔だった。
カミーラの監視役である魔物隊長を仕留めた七星は改めて周囲を見渡す。
確かにそこには誰かがいた形跡がある…魔物達の足跡に紛れ、小さな人間の足跡を見つける。
「なるほど、これがあのドラゴンが遠くへ逃げれなかった理由ですか。どうやらそれが弱点のようですね」
それを確認し、七星は己の主に報告すべくその場を立ち去る。
「さて…どれだけ時間を作れるでしょうかね。それまでにカミーラ様がランス殿を見つける事が出来ればいいのですが」
七星はこれからの処理を考えつつ、己の主のためにその頭を回転させていた。
間違って保存を消してしまう大チョンボ
少し遅れてしまい申し訳ないです
魔物兵の類ですが、今回出てきた防御重視の魔物兵は、ランス10に出てきた防衛兵の先駆けという感じで
でも毎回防衛兵は社会的に抹殺されるんですよね…