ランス再び   作:メケネコ

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レッドアイの狂気 前編

 レッドアイ、それは本来は魔王を倒すためにガウガウ・ケスチナが作り出したアイテムだ。

 しかしレッドアイは何時の間にか自分の力を高めることだけを求めだし、創造者であるガウガウの命令も聞かぬようになった。

 そこでガウガウ・ケスチナは自分が死ねばレッドアイが自己崩壊するようにした。

 が、レッドアイはそれを『ケスチナの血筋』へと変えた。

 そしてその狂気のアイテムは色々なモノへと寄生先を変え、とうとうこの大陸最強の存在であるドラゴンへと寄生する事に成功した。

 だがそれ故に魔王に目をつけられ、とうとう魔人カミーラがレッドアイを捕らえるべく動き出した。

 そしてとうとうドラゴンボデイを捨て、保管していた中々の魔力を持つ魔法使いの肉体を再び使用した。

 人間の国に入り込んだレッドアイのやった事は…いきなり国を火の海に包む事だった。

 火炎流石弾…魔法レベル3が使える魔法であり、その威力はゼットンとは比べ物にならない。

 瞬く間に城は炎に包まれ、町も同時に炎に包まれる。

 沢山の人間が死に、レッドアイはその事に大いに満足して笑った。

 そして次の獲物を見つける…生意気にも自分を追っていた魔物兵を焼き尽くし、目の前には魔物隊長と人間達がいるのみ。

「ケケケケ! モンスターもヒューマンも全てキル! これでミーはベリーハッピーね!」

「なんだこいつは」

 ランスは突如として現れた明らかにマトモではない人間を見て呆れた声を出す。

 どう見ても普通の人間だが、明らかに言動がキマッている。

 どこからどうみてもキチ○イにしか見えない。

 そこでスラルが気付く。

「ランス! こいつあの時のドラゴンに付いていた奴よ!」

「あん? こんなのついてたか?」

 ランスは覚えていないが、スラルは確かに覚えていた。

 確かにこいつはドラゴンの首にまるで首飾りのようについていた。

 何よりもあの時に聞こえた不快な声とまったく一緒だ。

「間違いない! こいつがそうよ!」

「スラルちゃんがそう言うならそうなんだろうな。よーし、そこを動くな。俺様がぶっ殺してやる」

 ランスの言葉にレッドアイ笑う。

「オー! 随分と身の程知らずのヒューマンがいるね! ケケケケケ! ミーの邪魔をするなら全てキルあなた!」

 レッドアイがランスにその杖を向ける。

 が、そこで今まで呆然としていた魔物隊長が猛然とレッドアイ目掛けて走り出す。

「こ、こうなったからにはどうあっても貴様を捕らえねば俺は殺される! そこを動くな!」

「オー! モンスターコマンダー程度はミーのボディには相応しくない! よってキルあなた!」

 レッドアイの構えた杖から強力な魔法が放たれ、それは魔物隊長を貫きあっというまに蒸発させる。

「な、なんだ!?」

「まさかファイヤーレーザー!? なんて威力よ!」

 流石のランスとスラルもその魔法の威力には驚く。

「オー! 相変わらずミーのビッグ魔力にはサプライズね! ケケケケケ! ヒューマン! あなたもこれでキルあなた!」

「なんつー奴だ! アニスと変わらんではないか!」

 その強力な魔力と、まるで噛み合わない会話にランスは思わずゼスの魔法使いであるアニス・沢渡を思い出す。

 しかしアニスと違って性質が悪いのは、明確な殺意を持って魔法を放ってくること。

 そしてアニスのようなへっぽこでは無いことだ。

「オー! カラー! カラーはまだ使ったこと無いけど中々ベリグそうなボディね! ケケケケケ!」

「ランス! 私はパレロアを守らなければならない! 奴は任せるぞ!」

 ケッセルリンクはレッドアイからパレロアを守らなければならない。

 シャロンを守れなった事も有り、ケッセルリンクは何としてもパレロアを守らなければならないと思っていた。

(そう、もう二度と失われるのは御免だ)

 自分ではスラルの心を救うことが出来ず、シャロンも守れなかった。

 だからパレロアは傷一つつけさせない、そんな決意を固めていた。

「フン! こんな奴楽勝だ!」

 ランスが剣を構えてレッドアイに突っ込む。

「ランス! 気を付けて! 奴の魔法は間違いなく大陸最強クラスよ!」

「フン! 俺様はそんな奴を何体も倒して来たわ!」

「ケケケケケ! すべてキル! 業火炎破ね!」

 レッドアイの放った魔法はランスが知る魔法よりも遥かに高い威力で襲い掛かる。

「うお!?」

 流石のランスのもその魔法の威力に驚き、その足を止められる。

 ランスの持つ『ドラゴンの加護』が素晴らしい魔法防御力を発揮しているが、相手は魔法レベル3故に完全に防ぐことは出来ない。

 その炎の広がりはランスが知る魔想志津香を遥かに上回り、ランスとレダだけでなく離れていたシャロンやケッセルリンクすらも巻き込む。

「これは…!」

 レダは天使の盾で相手の魔法をある程度軽減するが、それでもその威力は完全には防げない。

「キチ○イに刃物ってヤツかしら」

 まさかこれ程の魔力を持つ存在が魔王、魔人以外に居るとは思ってもいなかった。

 並の魔法使いの十数倍の威力があるだろう。

「クッ! シャロン! 無事か!」

 ケッセルリンクはパレロアを抱いて跳び上がり炎を避ける。

 その威力は無敵結界を持ってなお周囲に被害が及ぶほどだ。

 辛うじてパレロアまでに魔法は届いていないが、もしこの町を炎に包むほどの威力の魔法を放たれれば、間違いなくパレロアを守る事が出来ない。

「大丈夫です! ケッセルリンク様!」

 シャロンは自分が使徒になった事を今は感謝する。

 もし人間のままならば、今の炎に焼かれていただろうし、それでランス達の足を引っ張っていただろう。

 今の使徒の力と耐久力ならば、これくらいならまだ耐えられる。

「オー! 中々しぶといヒューマン共ね! バーッド! ミーの魔力の前には全てはダスト!」

 レッドアイは次々に魔法を放つ。

 レッドアイにとっては火爆破でも、ランス達から見れば業火炎破に等しい。

 そのせいでランス達と言えども容易に近づく事は出来ない。

「だー! なんつー威力だ! 魔法使いなんぞ近づければ一発なものを!」

「落ち着いて! ランス!」

 レダが放たれる魔法からランスを守りながら叱咤する。

「私があんたを守る! だからあいつを斬る事だけを考えて!」

「わかっとるわ!」

 そう言うが、まるで無限の魔力を持っているかのようにレッドアイの魔法が途切れる事は無い。

「ケケケケケ! 所詮はヒューマン! ライトニングレーザー!」

「この!」

 レッドアイから放たれたライトニングレーザーをスラルが魔法バリアで防ぐ。

「ぐっ! なんて威力よ!」

 しかしスラルの魔力をもってしても攻撃を逸らすので精一杯だ。

(落ち着け、こういう時は私が落ち着かないとダメだ。経験はランスの方が圧倒的に上だけど、私の知識で何とかしないと)

 スラルは考える。

 ランスの剣の中から相手の動きを観察し、何とか突破口を見出そうとする。

(だいたいあの無尽蔵の魔力…あんなに連発しているのに底が全く見えない。それに速度も異常…間違いなく魔法レベル3はある)

「ミラクルストレートフラッシュ! キルしてドッグの餌ね!」

 レッドアイがファイヤーレーザーを連発し、レダはそれを全て盾で受ける。

 その威力を完全に防ぐことは出来ないが、流石は防御に優れたエンジェルナイトであり、致命傷にはなりえない。

 細かな傷を負うが、それは彼女自身の回復力と、神魔法によって直ぐに傷は癒える。

(訳の分からない事を言ってるけど人間の方の口は動いていない…やっぱり喋っているのはあの宝石。でも魔法を放つのは人間の方…ということは)

 スラルは相手の動きを確認し、一つ当たりをつける。

「ランス! 本体はあの宝石よ! でもあいつは人間の体を媒介にしないと魔法を使えない…と思う! どっちでもいいから倒して!」

「倒せと言うがな! この魔法の中では迂闊に近づけんぞ!」

(もう一人くらい壁がいればな…金ピカあたりが突っ込めるのだが)

 名前は忘れたが、ヘルマンで共に戦った黄金の騎士、ピッテンの事を思い出す。

 あの魔法防御力があればそれを盾に一気に突っ込むことが出来る。

 レダの方が勿論ガードとして優秀だが、この敵はレダ一人だけでは手に余る存在だ。

 それにケッセルリンクが動けないのが一番痛い。

 本来は彼女一人で何も問題無く倒せるが、シャロンとパレロアの事を考えれば彼女に二人を守らせる必要がある。

 ランスをもってしてもこの状況は少し辛いものがあった。

 レッドアイは上機嫌に笑いながら魔法を放っていたが、徐々にそのペースが落ち始める。

「本当にしぶといヒューマンね! まだダイしないか!?」

 強力な魔法を連発しているが、それでもまだ一人も殺せないという状況に明らかにイラついていた。

 相当な数の魔法を放っているが、目の前に居る人間達はまだ一人も死んでいない。

 その状況にレッドアイはとうとう怒り始めた!

「ファーック! お前達全員纏めてキル! けけけけけ!」

 そしてレッドアイはとうとう強力な魔法を放つべく詠唱を始める。

「ランス! 今!」

「ようやくか!」

 ランス達はこのタイミングをじっと待っていた。

 この手の強力な魔法を使うタイプは、必ず焦れて強力な魔法を使おうとする。

(そして分かった。こいつは馬鹿だ)

 スラルはこれまでのレッドアイの言動や行動を見て、相手の事を分析していた。

 今までのランスとの冒険によりスラルの観察眼はさらに磨きを掛けていた。

 ランスは炎の海の中を走る。

 それに合わせる様にレダ、そしてシャロンも動いている。

「オー! 所詮はヒューマンの浅知恵! 全員キルあなた!」

 しかしレッドアイの詠唱速度は非常に速い。

「けけけけけ! これで全員キルあなた! 全員ドッグの餌ね! ゼット…」

「スノーレーザー!」

 レッドアイの魔法の詠唱が終わる前に、スラルの放ったスノーレーザーが放たれる。

 そしてそれはレッドアイが事前に貼っていた魔法バリアを大きく揺さぶる。

「ホワーット!? ミーのバリアがロスト!?」

 レッドアイはその結果に驚き、魔法の詠唱を止めてしまう。

「がはははは! 隙だらけじゃー! 死ねー!」

「ノ、ノー! ストップヒューマン! このボディは魔力はビッグでも…」

 レッドアイの言葉を遮る様にランスが飛び上がる。

 ランスの必殺技、ランスアタックの構えに入ったのだ。

「ほ、炎の矢!」

 最早片手で打てる魔法はこの魔法しか無い故に、レッドアイは魔法を放つ。

 本来であれば人間などこの程度で消し炭に出来る程の威力がある。

 しかし相手はまだ複数いるため、今この人間を消しても結局は自分の命が危ういことには変わりは無い。

 レッドアイの放った魔法がランスに直撃したのを確認し、レッドアイは他に自分に迫ってくる人間に目を向ける。

(このヒューマンはこれでキル! 後は他のヒューマンを…)

 レッドアイがそう考えていた時、

「がはははは! その程度の魔法が効くと思っとるのか!」

 レッドアイに聞こえたのは、自分をあざ笑う声。

 そしてその方向に目を向けたとき、

「ホワーット!?」

 まるで勢いが衰えぬランスの姿がその目の前にあった。

「バ、バリアを…」

「遅すぎるわ! ラーンスあたたたたーーーーーーっく!!」

 レッドアイは辛うじてバリアを貼ることに成功するが、ランスの一撃はそのバリアをいとも容易く切裂く。

 そして返す刃でレッドアイの体―――正確にはレッドアイが寄生している人間の体を容易に吹き飛ばす。

「メ、メイクドラマー!」

 ランスの剣の威力は凄まじく、レッドアイが寄生していた肉体をあっさりと打ち砕いた。

「がはははは! 俺様世界一!」

 

 

 

「おい! 何がどうなっている!」

「わ、わかりません! 突如として炎が上がったと思ったら、隊長達ももういなく…」

 魔物将軍セロリは非常に焦っていた。

 魔人カミーラが不在の時に、突如として報告に現れた部下の話を聞き、急ぎ駆けつけたのだがその部隊がそもそも存在していなかった。

「あ、あいつら…」

 魔物将軍セロリは当然の如く答えに行き着く。

 あれほど自分が釘を刺したのにも関わらず、魔物隊長自らが率先して人間を狩に言ったのだろう。

 恐らくはこの炎の中に目的の存在がいる、と後で報告するつもりだったのだろう。

 その浅知恵にもセロリは頭が痛くなる。

 もしこれがザビエルのように人間を虫けらのように殺す魔人であるならば問題は無いだろう。

 しかし今自分達の上にいるのは魔人カミーラだ。

「こうなっては仕方が無い。乗り込むぞ! 何としても目的の存在を探せ! だが人間を殺すのは後回しだ! 必ず見つけ出せ!」

「「「ハッ!!!」」」

 魔物達は勢いよく返事をする。

 もしここで結果を出さなければ、間違いなくカミーラに粛清されてしまう。

「行け!」

 魔物将軍セロリの言葉に魔物兵達は一斉に炎の中を突き進む。

「お、おいこれは…」

 そこで魔物兵が見たのは、凄まじい業火の中に転がる、夥しい数の人間の死体だった。

 確かに魔物兵が人間の村や国に攻め込めばこのような数の死体は珍しくは無い。

 だが、ここまでは普通はやらないし、やれない。

「ま、まるでザビエル様の黒い炎だ…」

 魔物兵の一人が呆然と呟く。

 今この場にいない魔人ザビエル…炎ガッパの魔人であり、魔人随一の炎の使い手だ。

「うわーーーー! 魔軍だ! 魔軍がまた現れたぞ!」

 生き残りの人間が魔軍を見てさらにパニックとなり逃げ惑う。

「隊長! どうしますか!?」

「構うな! 今は例の奴を探すのが先決だ!」

 魔物隊長は先頭に立って突き進んでいく。

 後から魔物将軍セロリも来るため、今ここで何とか手柄を立てねば残った魔物隊長としても立つ瀬が無い。

 それに何よりも魔人カミーラが恐ろしかった。

 魔物隊長が走っていくと、そこで剣を片手に笑っている一人の人間を見つける。

「た、隊長! 何ですかねアレは」

「構うな。大よそこの惨状で気が振れた人間の一人だろう」

 魔物隊長の言葉に笑っていた人間が突如として真顔となり魔物隊長を睨む。

「おい、貴様。今何と言った」

「なんだ、聞こえてたのか。今お前達に関わってる暇は無い。見逃してやるからとっとと消えろ」

 魔物隊長は面倒くさそうに消えろと言わんばかりに手を振る。

(しかし中々美しい奴等を連れているではないか)

 その人間の周囲にはメイド服を着た美しい女性と、鎧を着込んだ金色のこれまた美しい女性、そして一番特徴的な存在として、カラーの美しい女性が目に止まる。

(チッ…セロリ様の命令が無ければこいつらで楽しめるものを…だがそれよりも何よりも命の方が大事だな)

「よし! お前ら俺についてこ…ギャーーーーー!!!」

 先を急ごうとした魔物隊長が人間―――ランスの一撃を受け一撃で頭から真っ二つになる。

 部下の魔物兵はそれをぽかんとした目で見ていた。

 その光景があまりにも現実離れしていたからかもしれない。

「へ? 隊長?」

「まったく随分と偉そうな奴だ。雑魚の分際で」

 ランスは倒れた魔物隊長の死体をゲシゲシと蹴っている。

「た、たいちょー!?」

 そして現実に戻ってきた魔物兵は隊長の死に驚き、そしてその一瞬で隊長を切り殺した人間が迫ってくるのをまるでスローモーションの様に感じていた。

「あ」

 まさに言葉を発することも出来ずに魔物兵の上半身と下半身が分かれる。

「あれ…なんで俺の足が…」

 そのあまりに鋭すぎる切り口ゆえに、魔物兵は即死することが出来ずに呆然と自分の下半身を見ていた。

 そしてやってくる鋭い痛みと、まるで命を吸われるような恐怖と絶望感から必死に下半身へ手を伸ばすが、結局は直ぐにその場に力尽きる。

「ば、化物だ!」

 一度広がった恐怖は波紋となって魔物兵達に襲いかかり、自分達の役目も忘れて魔物兵達は我先へと逃げ出し始める。

「フン、魔物は頭を殺せばすぐいなくなる」

 ランスは過去に何度も魔軍と戦っており、魔軍は魔物将軍や魔物隊長がいなければ軍としての機能は発揮できない。

 個々では人間を圧倒する魔軍ではあるが、この指揮系統においてはそこは人間に劣っている部分なのかもしれない。

「ランス! 大変! いないの!」

 スラルの焦った声にランスはスラルの方を振り向く。

 見るとスラルは必死で何かを探していた…主にランスが斬った魔法使いの死体の辺りを。

「どうしたスラルちゃん」

「あいつはまだ死んでない! ランスが斬ったのは本体じゃない!」

「あん? どう見ても死んでるだろ」

 ランスが斬った…というよりもランスの一撃を受けて粉々に砕け散っている死体を見る。

「違うの! あの宝石みたいな目のついた奴が本体だって言ったでしょ!」

「…あ!」

 

 

 

「オー…ネバーギブアップ…」

 レッドアイは何とかランス達の側からほうほうの体で逃げ出していた。

「ミーはルーザー…ルーザー…」

 レッドアイは己が負けたことを信じられぬように呟く。

 だが負けたのは事実、あの人間の一撃は寄生していた人間を、レッドアイのバリアごと切り裂いたのだ。

「…けけけけけ! ミーはルーザー! バーッド! あのヒューマンは今までのボディより強いね!」

 レッドアイは狂気の声と共に再び目をぎらつかせる。

 レッドアイにとっては肉体は乗り捨てるものであり、次の寄生先が見つかればそれまでの事などどうでも良くなる。

 そして自分が選んだ人間のボディよりも遥かに優れたボディが見つかった。

 それはレッドアイにとっては喜ぶべきことであり、落ち込む事などでは無かった。

「バーッド…流石にあのヒューマンのボディを乗っ取るのはベリーディフィカルト。代わりのボディを用意する必要があるね」

 レッドアイは寄生先の体が無ければその肉体は非常に脆い。

 なのでレッドアイと言えどもここから先は慎重に動かなければならない。

「まずは手近なボディが必要ね」

 レッドアイ転がりながらも慎重に探す。

 普通の人間は間違いなく論外であり、最低でも魔物兵あたりの肉体が必要だった。

 しかしその魔物兵もレッドアイが殺しており、今新たに来た魔物兵もランスによって散り散りになってしまっている。

「シーット! ミーをサーチする時は嫌でも出てきたのに、こういう時だけ出ない! ファーック!」

 一向に現れない魔物に対しレッドアイも非常に短い気がさらに短くなる。

 自分でやっておいて、こうまで燃え続けるこの町にもついには文句を言い始める。

 そして十分ほど経過した時、レッドアイは新たな足音を感じ取る。

「どうなっている! 第一部隊の隊長はどうした!」

(オー! モンスタージェネラル!)

 そしてそこに居たのはレッドアイが望んでいた魔物将軍がいた。

「た、隊長は人間に殺されました! た、たった一発で…」

「なんだと!? 魔物隊長が人間に一撃で殺されただと!? 馬鹿も休み休み言え!」

 魔物将軍セロリは恐慌状態の第一部隊を纏め上げ、現状の報告をさせていた。

 流石に魔物将軍がいるとあってか、魔物兵達も既に落ち着いている。

 が、それでもその内にある恐怖は簡単には消えていなかった。

「魔物隊長が一撃で殺されるなど…いや、もしやカミーラ様が探してた…」

 魔物隊長が一撃で殺されるという事はつい最近にあった…それからだ、カミーラが急にやる気を出し始めたのは。

「セ、セロリ様…いかがなさいますか」

 魔物兵がおずおずと魔物将軍セロリに尋ねる。

「少し待て。状況の整理をする」

 魔物将軍セロリは必死に考える。

 この状況はどう考えても部下を統制できなかった自分の失態だ。

 預かった魔物隊長は殆ど死に絶え、残った魔物兵もそう多くは無い。

 その上、自分達は例のドラゴンの捕獲を後一歩のところで失敗してしまっている。

「むぅ…こうなれば、何としてもその人間と、例の寄生体とやらを捕らえるしかない。お前達! 言葉通り死ぬ気で探し出せ! もし見つけられなければ言葉通り我々はおしまいだ!」

「「「はっ!!!」」」

「人間に関しては決して戦おうとするな! 距離を取って監視だけに留めろ!」

 セロリの言葉に魔物兵は一斉に頷き、そのまま目的の存在の捜索にあたる。

「セロリ様! 我々はどうしますか」

「我々は寄生体を探す。それが本来の目的だからな。瓦礫の下に埋もれている可能性もあるが、何かに寄生している可能性は高い。注意して捜索せよ」

 セロリの言葉に魔物兵は一斉に動き出す。

 本来は人間を思う存分蹂躙したいだろうが、状況がそれを許さない。

「ふぅ…しかしとんでもない任務に駆り出されたものだ。しかしこれも私の仕事、さて動くとするか」

 魔物将軍セロリは自らが動き、寄生体の捜索に乗り出す。

 魔物将軍が護衛の兵もつけずに動くのは危険だが、致し方ない。

「その寄生体とやらは一体どこにいるのか…まさに雲を掴むような話だな」

 それでもやるしかないとセロリが動き出した時、突如として何かが自分の首に絡み付いてくる。

「な、なんだ!」

「オー! モンスタージェネラル! ドラゴンボディに比べればウィーク! バーッド! 今はそれでもグッドね!」

「ま、まさかこいつが!?」

 その言葉から今自分の首に絡み付いている物体が、例の寄生体である事を理解する。

 が、理解した時には既に遅かった。

「けけけけけ! 中々のパワー! これならあのヒューマンもキルできるね!」

 魔物将軍セロリの体を完全に乗っ取ったレッドアイは、既に先程の自分の言葉も忘れてゲラゲラ笑う。

 狂気のアイテムレッドアイ…その悪夢はまだまだ終わらない。




やっぱり遅れました
休みも中々取れないというか、休みの場合は本当に休まないと辛い時期です
ましてやこの暑さですから…と言い訳をしてみる
ここから盛り返して行きたいです

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