ランス再び   作:メケネコ

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カミーラとの再会

 カミーラがランスの所に現れる前―――

 

「カミーラ様! 人間の国で炎が上がりました!」

「本当ですか」

 魔物将軍セロリの部下の報告に七星の顔色が変わる。

 主であるカミーラの言葉と、魔物将軍セロリの報告から考えると、その場所に例の寄生体た逃げ込んだ可能性は高いと七星は考えていた。

「魔物将軍セロリはどうしましたか?」

「い、一部の魔物隊長が人間の国に踏み込んだようです」

 魔物兵の言葉に七星の顔が苦いものとなる。

 カミーラが釘を刺したというのに、まさか魔人の言葉を無視して行動するとは七星も思わなかった。

(魔物将軍セロリが統率しそこねましたか…いえ、彼は中々優秀です。魔物隊長がまだ新参だったと考えるのが妥当でしょうか)

 これまでの魔物将軍セロリの言動と行動力から、現場が暴走したと七星は判断する。

「カミーラ様…」

 七星がカミーラの方を向いたときには、カミーラは既に立ち上がって椅子から動いている。

 そしてそのまま無言でテントを出ると、翼を羽ばたかせて大空を舞う。

 そのカミーラを見て、七星もまた指示を飛ばす。

「お前達、急いで出発の準備を。撤収準備以外の魔物は私についてきなさい。カミーラ様の後に続きます」

 

 

 

 カミーラはただランスの顔を見ていた。

 炎に照らされたカミーラの表情は普段と変わらず、そこから何の情報も読み取ることが出来ない。

 しかし、そこには今戦っていたレッドアイ、そしてその前に戦った第参階級魔神をも上回るほどの力強さを放っている。

 そしてそのカミーラの登場に安堵したのがレッドアイであった。

(オー! ベリーラッキー! こいつは魔人ね! こいつの体を乗っ取れば…)

 レッドアイは既に死んでいる魔物将軍セロリの体からそっと離れる。

 そしてタイミングを見計らい、カミーラの体を乗っ取ろうと動く。

 幸いにもランス達はカミーラの方へ注意が向いているため、レッドアイは自分の勝利を確信していた。

 ―――あくまでレッドアイの視点から見ればだが。

 レッドアイがカミーラの体を乗っ取ろうと飛び上がった時、カミーラの手が無造作にレッドアイの体を掴む。

「ノー!」

 レッドアイはまさか自分の行動が読まれていた事に驚愕の声を上げる。

「黙れ」

 カミーラのあまりに冷たい言葉にレッドアイすらも思わず口を閉ざす。

 そしてそのままカミーラはレッドアイの触手を全て千切ると、そのまま壁にめり込ませる。

「アウチ!」

 レッドアイはその衝撃に目を回して沈黙する。

 そしてそのままカミーラは改めてランスを見る。

 こうしてランスと再び会うのは実に長い時間がかかったと改めて感じていた。

 ランスの姿はあの時スラルと共に消えた時と何も変わっていない。

 その身に纏う覇気や、何者にも屈せぬであろうその目も。

 それを見てカミーラは唇の端を上げる。

 それがただの笑みでは無いのは、その笑みを見て思わず体を震わせたシャロンとパレロアを見れば分かるだろう。

 それはまさに獲物を見つけた狩人の笑みだからだ。

 そして一瞬、まさにそうとしか言いようの無い瞬間、シャロンは思わずその光景に身震いする。

「いきなりだな、カミーラ」

「貴様も…衰えている訳では無いようだ。いや、逆に強くなったか…」

 ランスの剣とカミーラの爪が交差する光景だった。

 シャロンにはカミーラがいつ動いたのか分からなかったし、ランスがそのカミーラの爪を防ぐ瞬間も分からなかった。

「ランス様!」

「駄目!」

 シャロンが思わず飛び出そうとするのをレダがシャロンの体を掴む事で止める。

「レダ様!」

「行っても無駄に殺されるだけ。余計な事をしなければカミーラはあなたに手を出さない」

 レダの言葉にシャロンは歯噛みする。

 目の前のランスとカミーラの戦いには自分はまったくついて行く事が出来ないだろう。

 使徒となり確かに力は大幅に上がりはしたが、それでもこの2人の戦いにはついて行ける気がまったくしなかった。

「どうだ、ランス。いい加減私の使徒となる決心はついたか」

「お前は意外としつこいな。俺様は誰の下にもつかんと言ったはずだ!」

 ランスの言葉にカミーラは笑う。

 それは先程浮かべた狩人の笑みでは無く、何か楽しいものを見たような純粋な笑み。

 それこそカミーラが望んでやまない―――そして己の力で屈服させたいランスという男なのだ。

「それでいい。それでこそお前をこのカミーラの使徒とする価値がある」

「…お前は意外と気が長い方だったんだな」

 ランスは今でも自分を使徒とする事を諦めてないカミーラに、若干呆れたような顔をする。

「楽しみは続くほうがいいだろう」

 カミーラの爪をランスは見事な剣捌きで切り払うと、そのままカミーラに肉薄する。

 そして肉薄したままランスの剣がカミーラに放たれ、カミーラの衣装を切り裂く。

 ランスとしてはもう少し深く斬ったと思ったが、どうやら薄皮一枚に届いてないことに舌打ちする。

(いかんぞ。何か知らんが、カミーラの奴強くなってるぞ)

 昔戦った時もカミーラの強さに少し違和感を覚えたが、今回は明らかに違う。

 間違いなくカミーラは強くなっている。

 サテラに聞いていたカミーラ像との違いに、ランスはこの場にいないサテラに思わず文句を言いたくなる。

(サテラの奴、何がカミーラは前線に出ないで怠惰に過ごしているだ!)

「おっ!」

 ランスが雑念にとらわれていると、カミーラの爪がランスの顔を掠る。

 そしてそのままランスに対して追撃を仕掛けようとしたとき、カミーラの攻撃が何かの壁に阻まれる。

「…!」

 流石のカミーラもそれには驚く。

「まさか魔人カミーラが人間を相手に1対1なんて言わないわよね」

「スラルか…」

 カミーラはその声に聞き覚えがある。

 かつて自分の主として君臨していた存在…かつての魔王であるスラルだ。

「構わぬ…それくらいでなければ面白くない」

 カミーラはそれでも笑みを見せる。

 そんなカミーラを見てスラルは内心で苦笑いをする。

(まさかあのカミーラがここまで変わるなんてね。いや、これが本当のカミーラなのかもしれないわね。まったく…それだけのやる気を私の時にも見せてくれてたら…)

「ランス、でもまずいわよ。カミーラが本気なら間違いなく負けるわよ」

「ぐぅ…」

 スラルに言われなくてもランスには分かっている。

 今カミーラはランスに合わせて接近戦をしているが、本来は強力な魔法とブレスを上空から放つ事も出来る。

 実際ゼスではその戦法に苦しめられた。

 ランスが勝てたのは、何者かの横槍と、カオスを装備してのランスアタックがクリーンヒットしたからだ。

 この剣もカオスよりも切れ味は上かもしれないが、対魔人においてはその能力でどうしてもカオスの方が上だ。

「ケッセルリンク…貴様はどうする?」

 カミーラがケッセルリンクを見る。

 そこには驚いた様子は全く無く、むしろ当然の事のように話しかける。

 そんなカミーラに対してケッセルリンクは苦しい顔をする。

「…私個人としてはランスを守るべきだと思うのだがな」

「ならば構わぬ…これは魔王ナイチサの命令とは何も関係ない」

 カミーラの言葉にケッセルリンクは目を細めると、シャロンにパレロアを預けて前に出る。

「無敵結界は使わないのか?」

「私はランスの全てを屈服させる…こんなものは必要は無い」

 ケッセルリンクはカミーラの言葉に思わず冷や汗を流す。

 自分達がセラクロラスに巻き込まれていた間に、カミーラはランスを使徒とすべく実力をつけていったのだろう。

 だがそれでもケッセルリンクが引く理由は無かった。

「自らの意思で人を止めるのならば私も止めないが、ランスはそれを望まない。ならばお前の好きにさせる訳にはいかないさ」

 ケッセルリンクの言葉にカミーラは笑みを強くする。

「それでいい…ランスが全力で抵抗するほどその価値は上がる…それが例え魔人であろうともな」

 まさに一触即発…その異様な空気にパレロアは体が震えてしまう。

 先程のレッドアイもそうだったが、そのレッドアイ以上の存在…魔人カミーラ、そして魔人ケッセルリンク…この二人がいるだけでパレロアは生きた心地がしなかった。

 そしてランスとカミーラがぶつかりそうになった時、

「カミーラ様!」

 カミーラを呼ぶ声がしてカミーラが動きを止める。

「この声は七星…そうね、カミーラが動くのに彼が動かない訳が無いわね」

 スラルは厳しい声を出す。

 七星は、あのカミーラの使徒というだけでなく、カミーラ同様ドラゴン出身の使徒だ。

 カミーラを補佐するだけでなく、実力も高いのだ。

「これは…」

 七星はこの場を見て驚く。

 ランスがいる事も驚愕だが、何よりも魔人ケッセルリンクが居るのも驚きだ。

「七星、例の存在だ。捕らえろ」

 カミーラの視線の先には、目を回している触手が生えている宝石のようなものが存在していた。

「はっ!」

 七星は頷くと、箱のような物を取り出し、そこにレッドアイを入れる。

「捕獲完了しました。任務は成功です」

 そんな七星の言葉など聞こえていないようにカミーラはランスから視線を離さない。

 カミーラが喜んでいるのを見て七星は嬉しくなるが、同時にこの状況にもどうして良いか迷う。

 それはもう動いていない魔物将軍セロリを見つけたこともそうだし、自分の後から付いてきている魔物兵の事もそうだ。

「人間だ! 人間がいるぞ!」

「囲め!」

 魔物隊長の言葉に魔物兵がランス達を取り囲む。

 魔物将軍の死に、魔物兵達は殺気立ってランス達を睨む。

「貴様か!? セロリ様を!」

 ランスを囲んでいた魔物兵の一体がランスに向かって襲い掛かる。

「フン」

「あ、あれ?」

 その魔物兵はランスの放った一撃で、あっさりと頭から真っ二つになる。

 そんな魔物兵の死に魔物達は戦慄するが、魔人カミーラが居る事でより一層ランス達に殺意を向ける。

「下がれ」

 しかしそんな魔物兵を抑えたのはカミーラだった。

「この人間達はこのカミーラが預かる…それとも貴様等は魔人に刃を向けるか?」

「へ? 魔人?」

 カミーラの言葉に魔物兵達はランス達を見る。

 そして気付く…その中に魔人カミーラと同じ空気を纏っている存在に。

「お前達。彼女こそ、魔人ケッセルリンク様だ」

「へ…? 魔人ケッセルリンク…?」

 七星の言葉に魔物兵達が一人のカラーを見る。

「…歯向かうのであれば構わん。来るがいい」

 そのケッセルリンクも最早自分が魔人である事を隠す気は無い様で、その強大なプレッシャーが辺りを包み込む。

「は、ははーーー!!」

 魔物兵達は一斉に魔人ケッセルリンクに向けて跪く。

 そこにあるのは純然たる恐怖だ。

 よりによって自分達は、魔人に向けてその武器を向けてしまったのだ。

 魔人相手にそんな事をしては、殺されても文句は言えない…それが魔物界の常識なのだ。

「…興が殺がれた。今宵はここまでだ」

 カミーラはランスへの敵意を解くと、ランスの首筋を掴む。

「ぐえっ」

 その力強さにランスは呻くが、流石にこの状況では逃げることは出来ない。

「お前達。直ぐにでもここを出ます。まずは野営の準備をしなさい」

「ハッ!」

 七星の言葉に全魔物兵が一斉に返事をする。

 レッドアイの捕獲…多大な犠牲を出しつつも、一先ず魔王からの命令は終わりを終えた。

 

 

 

 ―――魔軍野営地―――

 魔軍の兵士達はようやく終えた任務に安堵していた。

「あー、終わったな」

「本当にな…まさかセロリ様まで死ぬなんてな」

 兵士達は焚き火を前にようやく一息つけていた。

 何しろ戦死者は千をゆうに超え、魔物隊長は2人を除いて全て戦死、そして魔物将軍セロリまでもが戦死してしまったのだ。

 カミーラが動く前の被害を合わせれば、万単位にまで届くかもしれない。

 それほどの激戦は、この魔物兵達は経験したことは無かった。

「しかし…カミーラ様は大丈夫なのか? 人間の所に行っているみたいだが」

「何言ってんだよ。あのカミーラ様に限ってまさかなんて有りえる訳無いだろ。それよりも俺はあんな家が出来ただけでも驚きだよ」

 魔物兵が遠くを見ると、そこにはランス達が持っている魔法ハウスが立っていた。

「すげーよな。ああいうアイテムがあればいちいち野営の準備なんてしなくていいんだけどな」

「そうだよな。まあカミーラ様の事だから取り上げるんじゃないのか? それよりも俺はケッセルリンク様が気になるんだが…」

「ああ…凄い綺麗な方だったよな」

 魔人ケッセルリンク…それは魔物兵達の間で名前だけが知られている魔人だった。

 魔王ナイチサの命令にも関わらず、己の場所から全く動こうとしない魔人ますぞえ、そして長い間行方不明になっている魔人ケッセルリンク…この二人の魔人は誰も見たことが無いと専らの噂だった。

 そして今日そのケッセルリンクを実際に見たのだが、聞いたとおり…いや、聞いた以上に美しい魔人だった。

「しかし今までケッセルリンク様は何をしていたんだろうな? しかも人間と一緒にいたようだし」

「ああ…使徒探しとか、人間界への視察とか色々話はあったしな」

「あのメイド服の女の一人は使徒だって話しだしな」

 魔物兵達は思い思いに談笑を続ける。

 ようやくこの戦いが終えたことで、緊張感が緩んでいるのだ。

 そしてその魔物兵達を見ている一つの目があった。

「さて…これからどうしますか」

 魔物兵達を見ているのは、カミーラの使徒である七星だ。

 カミーラが欲しているのは自由ではあるが、この魔物兵達をどうするかと思案していた。

 魔物将軍の死は七星としても予想外であり、これだけの魔物兵を纏めるのは残った魔物隊長だけでは無理だからだ。

 ならば自分が見るしかないのだが、そこが難しいところだ。

「カミーラ様にお任せするしかないか…」

 七星は人間達の持っていたアイテムである魔法ハウスの中にいるカミーラを思う。

 カミーラに限ってまさかは絶対に無いだろうが、相手はあのランスだ。

「しかし…カミーラ様とランス殿には何か縁があるのだろうな…まさか本当にこの時代にいるとは」

 時の聖女の子モンスターセラクロラス…本格的に自分が調べてもいいかもしれない。

 七星はそんな事を考えていた。

「七星様。捕らえた人間はどうしましょうか。あの奇妙な物体が言うには、あの人間が必要との事ですが」

 考え事をしている最中に魔物隊長が七星に問う。

 捕らえられた寄生体…レッドアイが言うには、その人間はどうあっても殺さないで欲しいとの事だった。

「手出しはしないように。恐らくはあの人間がいたから、寄生体はドラゴンの肉体で逃げる事が出来なかったのだろう。ならばあの人間は人質として生かす価値は十分に有る」

「ハッ!」

 七星に敬礼して魔物隊長がテントに戻る。

「さて…魔王様はどうするのやら。そしてランス殿の事も」

 これからの事を考えて、七星は少し気が重くなった。

 

 

 

 ―――魔法ハウス―――

 本来はランスが主であるはずの魔法ハウス。

 そこには一人の魔人が我が物顔で一つのワインを飲んでいた。

 魔人カミーラ、魔人の中でも古株の一人であり、ただ一人のメスのドラゴンである魔人。

「で、何でお前がここにいるのだ」

「私はお前達の要望を叶えたつもりなのだがな」

 ランスの言葉にもカミーラは顔色一つ変えない。

 カミーラは「魔軍のテントなんていけるか」というランスの言葉と、このような魔法のアイテムがあるという事で、ここにランス達がいるのを許可していた。

 ただし、カミーラも共に居るということを条件にだが。

「ケッセルリンク…使徒を作ったか」

 ケッセルリンクの後ろに立っている女性…シャロンを見る。

「ああ…尤も、彼女の意思を無視する結果になってしまったがな」

 ケッセルリンクは申し訳無さそうにシャロンを見る。

 自分の意思で使徒になったのではなく、彼女を助けるためとはいえ承諾無く使徒としてしまった事にケッセルリンクは負い目を感じていた。

「いえ…私はケッセルリンク様に救われました。何も問題はありません」

 そんなやり取りをカミーラは特に感情を感じ取れぬ目で見る。

「長い間ランスと共にいたようだが…それでもランスを使徒にはしなかったか」

「言ったはずだ。ランスが望まぬ限りは使徒にするつもりは無いと」

 カミーラはケッセルリンクの言葉に笑う。

「力で手に入れようとは思わぬか…だがそれがお前なのかもしれぬな」

 それ以上カミーラはケッセルリンクに何も言おうとはしない。

「それよりもカミーラ。あのイカレタ物体をどうするつもりなのよ」

 代わりにスラルがカミーラに問いかける。

「知らぬ。ナイチサが捕らえろと言った。魔人はそれに逆らう事は出来ない…それだけだ」

「まあ何となく想像はつくけどね…まったく、あんなキチ○イはランスの言うとおりに死んでくれればいいんだけどね」

 ランスの名が出たことで、カミーラは改めてランスの事を見る。

「なんだ」

「今一度聞こう。このカミーラの使徒となるつもりは無いのだな」

「何度も同じ事を聞くな。俺様は誰の下にもつかんと言っただろ」

 魔人相手にも臆せぬランスに、パレロアは内心で非常にハラハラしてしまう。

 相手は恐ろしい魔人…あの時の悪魔同様に恐ろしい存在だからだ。

「変わらぬな…だからこそお前を屈服させる意味がある」

「お前の方が変わらんだろ」

 カミーラの言葉にランスは呆れたように声を出す。

「で、これからどうする気?」

 スラルは警戒するようにカミーラに問いかける。

 実際、ランスの状況はこの上なく悪い。

 何しろ魔人に捕らわれてしまったのだから。

「………」

 スラルの言葉にカミーラは言葉を発しないが、実際にはカミーラ自身少し迷っていた。

 何故なら、今の魔王ナイチサの元にランス達を連れて行くのは少々危険だと考えていた。

 何しろ魔王ナイチサは人間を退屈しのぎの道具くらいにしか考えていない。

 その残虐性はまさに魔王…先代魔王であるスラル、臆病であったアベルを知っているだけに余計に考えさせられる。

 カミーラとしてはランスを屈服させてこそ使徒へとする価値がある。

 ケッセルリンクの言葉ではないが、ランスを無理矢理使徒へと変えるのは、カミーラとしても本意ではないのだ。

「カミーラ?」

 黙ってしまったカミーラにスラルが首を傾げる。

 この魔人が悩むなどスラルとしても意外だった。

「…それは後で教えてやろう。ランス」

 カミーラは会話を打ち切ると、ランスの側まで歩くと、その体を無理矢理立たせる。

「どわっ!」

 突如の事にランスは驚くが、次の瞬間、シャロンとパレロアが驚愕に目を見開く。

 カミーラが無理矢理ランスの唇を奪ったからだ。

 そのまま貪る様にカミーラはランスの口内を蹂躙する。

 ランスも抵抗しようとするが、あまりのカミーラの力強さにランスでも抵抗することが出来なかった。

 そして二人の唇が離れ、カミーラはそのままランスの襟首を掴んで引きずっていく。

「だー! 離さんか!」

 そんなランスの文句を無視してカミーラとランスは部屋の奥に消えていく。

「あ、あの…ランスさんは大丈夫なのでしょうか」

 パレロアは顔を青くしてケッセルリンクに尋ねる。

 相手は魔人…もしかしたらという事も考えられる。

 だが、ケッセルリンクは意外にもため息をついているだけだった。

「大丈夫だ。カミーラはランスを殺すつもりは無い。だが、今日はもうあの部屋には近づかないほうがいい。下手に近づけば本当に殺されてしまうだろうからな」

「え…?」

 ケッセルリンクの言葉にパレロアとシャロンの二人…ランスとカミーラの関係を知らない二人が首を傾げる。

「ランスなら大丈夫よ。まあカミーラとしても久々にランスと会った訳だしね」

「そうだろうけど…なんか複雑」

 レダの言葉にスラルは口をへの字に曲げる。

 その様子を見て、シャロンは何となく察する。

「あの…もしかしてランス様はカミーラ様とも?」

「そうだ。だから決して近づかないほうがいい」

 シャロンの言葉をケッセルリンクが肯定する。

 そしてその事実にシャロンも曖昧な笑みを浮かべる。

(レダ様もケッセルリンク様もそういう関係なのは知っていましたが…まさかスラル様も?)

 スラルの態度から何となく察してはいたが、やはりランスという人間はそういう人間らしい。

(でも…あの方は本当に魔人でも人でも変わらないのですね)

 自分が使徒となって、ランスとの関係が変わってしまうのではないか…そう考えていたが、それはどうやら杞憂だったようだ。

(あの方は誰であろうと変わらない…でもそんな人だからこそ、私も…)

 シャロンは自分の言葉を胸に秘め、ランスとカミーラが消えた部屋を見ていた。

(…それはそれで何か複雑ですね)

 シャロンもまた微妙な笑みを浮かべざるを得なかった。




少しゲームをやり直すと、やっぱり所々間違っていたり
こそっと直したりしていると思います

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