ランス再び   作:メケネコ

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カミーラとの戦い 後編

「な、なんだあの人間の剣は!?」

 魔物兵達は稲光を放つランスの剣に驚きの声を上げる。

 あのような物は魔物兵達も見たことも聞いた事も無い。

 そんな中、カミーラは冷静にランスの動きを見ていた。

 何しろ、ランスは自分の放ったブレス攻撃を斬って見せたのだ。

 その事実にカミーラはむしろ喜びで思わず唇を歪める。

「中々器用な事をするものだ…スラル、まさかお前にそんな力があったとはな」

「私も知ったのはつい最近よ。まったく…自分の力に気付かない馬鹿さ加減には少し腹が立ったけどね」

 このランスの剣から稲光が出ているのは、スラルの付与の力だ。

(ク…やっぱり制御が難しい…前にランスと試した時は私の得意の氷魔法だったからだと思ったけど…これは単に私の力不足か)

 スラルは何とか付与の力を制御するが、問題はそれがランスの剣技についていけるかどうかが問題だ。

 ランスの剣戦闘のレベルは3…それを考えれば、今の自分がそのランスのサポートを出来るかどうかは正直怪しい。

(もう少し時間があれば…いや、それは言っては駄目ね)

 いかに悩もうとも、今はもうそんな時間は無い。

 最早ぶっつけ本番でいくしかないのだ。

 だがそれよりも、自分はランスにその力の使い方を教えなければならない。

 今まではランスの好きにさせれば良いと思っていた。

 ランスが自分の好きなように生きているのは分かるし、素直に人のアドバイスを聞くタイプでもない。

 何よりも、ランスの剣技はスラルが見てきた中でも非常に独特…完全な我流によるものだ。

 それにも関わらず、ランスの剣は鋭く重い。

 しかしこの状況では、そうも言ってられないのだ。

 カミーラは本気でランスを倒し、使徒へと変えるつもりなのだから。

「ランス、良く聞いて」

「なんだ! 今はそれどころではないぞ!」

 先程から放たれるカミーラのブレスをランスは何とか避けている。

「あなたならカミーラのブレスを斬れる。だから私を信じてカミーラのブレスを斬って!」

「なんだと?」

 スラルの言っている事はランスにとってはとんでもない事だ。

 カミーラのブレスはただのブレスではなく、破壊力に特化したブレス以外にも、こちらを痺れさせるブレスや、こちらの力を脱力させるブレス等その効果は非常に多彩だ。

 だからこそ、カミーラはその怠惰な性格ながらも魔人四天王として君臨し続けていたのだ。

 実際にランスもゼスではカミーラのブレスには散々苦労させられた。

「あんなの斬れる訳が無いだろ!」

「斬れる! 今のランスなら出来る! 斬れないとランスは負ける! それだけよ!」

 スラルは珍しく強い口調でランスに言葉を放つ。

 ランスはそんなスラルに少し驚きながら、現状を考える。

(確かにこの状況は非常にまずいぞ)

 このままでは徐々に体力を奪われて、カミーラのブレスが直撃するのは時間の問題だ。

 今のランスは鎧が壊れているため、その一撃が当たればそれだけで致命的になってしまうのだ。

「…まあスラルちゃんは元魔王だ。何か考えがあるんだろ」

「ランス、あなたはブレスを斬れる…その思いを強く持って!」

 ランスはスラルの言葉に従い、その剣を両の手で持つ。

 普段は左手一本で剣を持つスタイルだが、その必殺技を使う時は両の手で握る。

 以前カミーラのブレスをランスアタックで相殺した事はあったが、あの時はカミーラがランスを完全に見下し、狩るためだったからだ。

 しかし今回は小刻みなブレスで、ランスの体力を削ることを念頭に置いている。

(あのカミーラとは思えない戦い方をしてる…それだけランスが欲しいという事ね)

 カミーラの戦い方は、魔人が人間に対する戦い方ではない。

 それだけランスを警戒し、慎重になっているということなのだ。

「ランス! 来る!」

「分かっとるわ!」

 ランスが一瞬だけ姿勢を崩したのを見て、カミーラがそれまでとは違う威力のブレスを放つ。

 そこでランスは覚悟を決める。

 スラルがカミーラのブレスを斬れるというのであれば、それを信じて本当にブレスを斬る意外にもう道は無いのだ。

「斬れるのを当然だと思うのよ! ランスが魔物を斬るのと同じように! 出来て当然と思うことよ!」

 その言葉をランスは別に信じたわけではない。

 だが、それでもランスはその言葉に後押しされるかのように、カミーラのブレスに向かっていく。

 それは傍から見ればまさに無謀といえる行動。

「「ランス!」」

「ランス様!」

「ランスさん!」

 レダ、ケッセルリンク、シャロン、パレロアの声が重なる。

 魔物兵達もあの人間は死んだと思った。

 魔人に向かっていくというのはそういう事なのだ。

 

 ザンッ!

 

 それは信じられない光景だった。

 ランスを飲み込むはずのカミーラのブレスが、ランスの一撃によって両断される。

「な、何だと!」

「カ、カミーラ様のブレスが…斬られた!?」

 その光景に全ての魔物兵がどよめく。

 そして自分のブレスが斬られたカミーラもまた、驚きに目を見開いている。

「ブレスを…斬っただと」

 ケッセルリンクも目の前の光景が信じられないように呟く。

 ランスの剣の腕前はケッセルリンクはこの場に居る誰よりも知っている。

 だが、そのケッセルリンクでも目の前の光景が信じられなかった。

 斬れるはずもないブレスをランスは斬って見せたのだ。

 そして当の本人であるランスは、

「がはははは! 流石俺様! カミーラのブレスも斬れたぞ!」

 ランスは剣を構えて何時ものように笑っていた。

(いや、本当に驚きね…斬れる言ったけど、まさか本当に斬れるなんて…私の魔法の付与があったとはいえね)

 これでスラルは確信する。

 斬れるはずの無いものを斬れる…この世の常識を覆す程の技術。

 それこそ、この世界に存在する技能レベル3というまさに非常識の域に到達した技術なのだ。

 そしてブレス攻撃を斬られたカミーラは…少しの間驚いていたが、徐々にその唇を歪めていく。

「ククク…まさか私のブレスを斬るとはな」

「随分と嬉しそうだな」

 カミーラの顔に浮かぶのは純粋な笑みだ。

「いや…私のブレスに耐える者はいても、斬られた事は無い。貴様はつくづくこのカミーラを楽しませる…ランス!」

 そのままランスに向かってカミーラはその爪を振るう。

 ランスの剣とカミーラの爪が交差した時、カミーラはその爪に感じた衝撃に先程とは違った意味で唇を歪める。

 そこに感じたのは明確な痛みだったからだ。

 その原因は直ぐに理解する。

 ランスの剣が放つ雷が僅かな痛みとなってカミーラに襲い掛かったのだ。

「スラル…貴様は魔王でなくとも厄介だな」

「まさかカミーラが私を褒めるなんてね。長く生きてたけど初めてね」

 カミーラはランスから距離を取ろうとするが、ランスがそれを許さない。

 カミーラに肉薄し、その剣を振るう。

 ランスの剣がカミーラの体を傷つけ、カミーラがその痛みに僅かに苛立ちを見せる。

「カミーラ様!」

「動くな」

 魔物兵達が動きそうになるのをカミーラは止める。

 ランスだけは、カミーラが己の力で屈服させねば意味は無いのだ。

「無敵結界を使ってください!」

「黙れ!」

 魔物兵の言葉をカミーラは強い言葉で黙らせる。

 そう、無敵結界を使ってランスを倒したとしても、それはカミーラに屈したという事にはならない。

 魔王の願いの副産物によっての勝利など、カミーラにとっては許し難いことだった。

 ランスだけは、カミーラ自身の力で屈服させてこそ意味がある。

 いや、それ以外はありえないのだ。

「ランス。貴様はここでこのカミーラに平伏す」

「がはははは! 逆だ! お前が俺様に平伏するのだ!」

 ランスが猛然とカミーラに斬りかかる。

 その速度と威力は明らかに人間の領域を超えている。

「な、なんだあの人間!?」

 明らかにカミーラが人間に押されている。

 無論、それはカミーラが無敵結界を使用していないからなのだが、それでも魔人が人間に押されているという状況は信じられなかった。

 そしてそれはレダ達も同様だった。

「これが…ALICE様が命じたランスの力…」

 人間が魔人に対抗する…それは長い歴史の中でありえないという事ではない。

 魔人ザビエルと戦った藤原石丸、魔人を捕らえて自らが魔人となったパイアール・アリ、魔人レッドアイを退けた勇者、魔人カイトと戦ったフレッチャー・モーデル。

 それらの人間が魔人を退けたり、互角に戦ったりしている。

 そしてこの男もまた、魔人と互角に戦えるという人を超えた存在なのだ。

「すごい…これがランス様の本気…」

 使徒となったシャロンはランスの強さを改めて理解していた。

 強いとは思っていた…あの時自分を助けるために無数の兵士を鎧ごと斬り、悪魔すらも斬っていた。

 まさに自分とは次元の違う強さだ。

(あれがランスの本来の力か…だが、それを見てもやはりカミーラが一枚上か)

 ケッセルリンクは冷静にランスとカミーラの戦いを見ていた。

 この状況はカミーラが望んで無敵結界を解除した結果に過ぎないのは分かっている。

 勿論カミーラがこの戦いにおいて無敵結界を使用する、という事は決して無いだろう。

 魔人カミーラのプライドがそれを許さないからだ。

 確かにランスの剣は素晴らしいし、スラルの新たな力もあって一見ランスが押しているように見えるだろう。

 カミーラのブレスすらも斬るランスの技術は本当に素晴らしい。

 だが、その技術を持ってしてもカミーラとランスには埋められない差が存在しているのだ。

(問題はカミーラにそれをする事が出来るか…か)

 ケッセルリンクは苦い顔でランスとカミーラの戦いを見ていた。

 

「ククク…ここまで心が躍るのは初めてだ!」

 カミーラの攻撃はどんどんと激しくなっていく。

 二人の戦いはケッセルリンクが予想していた通りの展開となっていた。

 確かにランスの一撃はカミーラを驚かせた。

 そのブレスすらも斬り、カミーラに衝撃を与えた。

 スラルが付与した剣の力も有り、ランスの剣技でカミーラにも有利に戦えていた。

 が、有利なのはそこまでだった。

(ヤバイぞ。まさかカミーラがこんな戦い方をしてくるとは)

 ランスのイメージのカミーラは、常に人間を見下しており人との戦いはあくまでも『狩り』でしかないと思っていた。

 実際、前回戦った時はカミーラは完全にランスを見下していたため攻撃も単調であったため、当時のランスでも何とか死なないように立ち回れた。

 しかし今回のカミーラは違う。

 傷つくことを恐れず、魔人の特性である体力と回復力を持ってランスに襲い掛かる。

「カミーラ! アンタがまさかこんな戦い方を選ぶなんてね!」

「私もドラゴンだったという事だ…私はプラチナドラゴンカミーラだ!」

 確かにドラゴンはカミーラが魔人となった事で戦う意義を無くしてしまった。

 しかしドラゴンの中にはノスのように今でも闘争本能が消えていない者もいる。

 カミーラは幼少期からの出来事がその精神を歪めさせた…が、それでもドラゴンの本能はまだカミーラの中に根付いていた。

 そしてランスがそのカミーラの本能を呼び覚ました。

 遠い未来にケイブリスによってへし折られる前に。

「ランス…貴様の強さはまさに人を超えている。だからこそ、お前はこのカミーラの物となるのが相応しい」

 カミーラはとうとう己の翼を羽ばたかせる。

「空に逃げる気か!」

「そんな詰まらぬ真似はせんよ」

 その言葉通り、カミーラは空からブレスを放つという戦法を取るつもりは無いようで、まるでホバリングするかのように浮き上がっただけだった。

「む!」

「行くぞ…ランス!」

 そしてカミーラは宙に浮いたままランスに襲い掛かる。

「グッ!」

 ランスはそのカミーラの爪を剣で切り払う。

 ランスの剣技ならばそのままカミーラの体勢を崩して追撃する事も可能だろう。

 だが、宙に浮いているカミーラはランスの剣の威力に逆らわずに宙で姿勢を立て直すと、そのままランスに向かって蹴りを放つ。

 しかしランスも目にも止まらぬ早業でカミーラの蹴りを剣の柄で防ぐ。

「うおっ!?」

 直撃こそ防いだが、その威力までは完全に防ぐことが出来ず、体勢を崩される。

「ランス!」

 レダの声が響く中、カミーラはそのままブレス攻撃が放たれる。

 いくらランスでも体勢が悪すぎる、そう思ったがブレスが当たる前に何かに弾かれる様にブレスがランスを避けていく。

「スラルか…」

 スラルが魔法バリアでカミーラのブレス攻撃を防いだのだ。

「しかし…」

 その弊害か、ランスの剣に纏っていた雷光が霧散する。

(やはりスラル様はまだあの術を完全にはものにしていない…あの魔法の付与が無ければいかにランスでもカミーラに大きな傷は与えられない。だからと言って、今のカミーラの攻撃を完全に捌くのはランスと言えども不可能)

 ケッセルリンクは難しい顔をするが、それでもある思いが存在していた。

 即ちランスなら何とかするのではないかという思いが。

 不可能かと思われた魔人の撃退、そして魔王と戦い生き残る、ランスはそれをやってのけたのだ。

 だからこそ、今回も必ず何とかするはずだという思いが存在しているのだ。

 しかしそんなケッセルリンクの思いとは裏腹に、カミーラの縦横無尽の攻撃にランスは防戦一方になる。

 ここまで粘れるのはランスの実力がずば抜けている証なのだが、徐々にランスの動きも鈍っていくのが分かる。

 対してカミーラの動きが鈍る気配は全く無い。

 これこそが人間と魔人の決定的な差…即ち基礎能力の絶対的な違いだ。

 それがこの人間からすると長い戦いに如実に現れてきたのだ。

「どうしたランス。その程度か」

「うぐぐ…」

 カミーラの声にももう怒鳴り返す気力が惜しいようで、ランスも何も言い返さない。

「…終わりが近いですね」

 その様子を見て、使徒七星が安堵のため息をつく。

 自分の主が無敵結界を解除して戦うのは予想はついていたが、まさか人間であるランスがあのような成長をしているとは流石に思っていなかった。

 確かにランスもあの時よりも強くなったようだが、それは自分の主も同じだったという事だ。

 セラクロラスによって居なかった時間を比べれば、カミーラの方がより成長しているかもしれない。

 使徒である七星ですらそうなのだ、魔物兵達もようやく終わりが見えて来た事にようやく一息ついていた。

「ふう…終わりそうだな」

「ああ…しかしあの人間強すぎだろ」

「カミーラ様の使徒か…いいなあ」

 大勢は既に決した…全ての魔物兵達はそう見ていた。

 結局は人間は魔人には決して適わない、それが現実なのだ。

 そして無敵結界が無くとも魔人カミーラは強い…その事を思い知らされたのだ。

「ケッ! あんな人間如きがカミーラ様の使徒とはな!」

「そう言うなよ。魔人様が使徒を選ぶんだからな」

 一人の魔法魔物兵が納得いかないような顔をするのを同僚が諌める。

 だが、確かに人間程度があのカミーラの使徒に選ばれるというのはあまり面白いものではなかった。

 そんな弛緩した空気の中、レダとケッセルリンクだけはまだ難しい顔をしていた。

 この二人の共通の思いは『ランスがこの程度で終わる存在ではない』という事だ。

 あのカミーラですらも既に余裕の表情を浮かべている。

 そしてランスも全く諦めてなどいなかった。

(チャンスは少ない…でも必ず来る)

 スラルは今は魔法バリアでランスに来る致命的な一撃を防ぐ事に神経を注いでいた。

 しかしランスの合図で、いつでもランスの剣に付与が出来るようにも魔力を調整していた。

 そのチャンスはランスが想像したよりも早く来た。

 カミーラは余裕からか、攻撃が単調なものになっている。

 そしてランスはそこを見逃さない。

「だー!」

「!」

 それはカミーラにとっても予想外の攻撃。

 いや、カミーラの気の緩みに付け込んだ動きと言っても良いだろう。

 まさに肉を切らせて骨を絶つ…それしか方法が無いとはいえ、まさかランスがそのような事をするとは考えてもいなかったカミーラは反応が一瞬遅れる。

 カミーラの爪を腕に受けてもランスの動きは決して止まらない。

 そのままカミーラに向かってその鋭い一撃を入れる―――前にカミーラは翼を羽ばたかせてランスから距離を取る。

 そしてランスから距離を取ったところで、カミーラは己のミスを自覚する。

 カミーラの懐に入っての一撃…それこそ、この体勢のための誘い水だったのだ。

 ランスの剣が再び雷光に包まれる。

 それも先程のような小さな光ではなく、明らかに空中で放電するほどの威力だ。

 それには流石のカミーラも一筋の汗を垂らすほどだ。

「がはははは! いくぞカミーラ! ラーンスアターーーック!」

(…やっぱりライトニングレーザーを付与するのは難しい…でもやるしかない! チャンスは今だけ!)

 カミーラは本能的にそれを受けようとはせずに、宙に飛ぶことで逃れようとする。

 そのカミーラの一瞬の判断でカミーラは辛くもランスアタックの直撃こそ避ける。

 が、そこまでだった。

 ランスの放ったランスアタックから凄まじい雷撃が放たれ、その威力はまさに雷神雷光と言っても過言ではないほどの威力だ。

 その雷光は直接の一撃を避けたはずのカミーラにも襲い掛かる。

(ちょ…これは!)

 流石のスラルもその威力には驚きしかない。

「ちょ! ランス!」

「パレロア!」

 レダは慌てて盾を構えてシャロンを守る。

 ケッセルリンクもパレロアを守るように抱きかかえて難を逃れる。

「これは…!?」

 七星は使徒故にこの程度では倒れるという事は無いが、他の魔物兵は話は別だ。

「ぎゃーーーーー!」

 まともに一撃を浴びれば当然のごとく即死する。

「ど、どけ! ぎゃーーーーー!」

「な、なんだこれは…げべっ!」

 ランスを囲んでいた魔物兵はその一撃に巻き込まれてパニックに陥る。

「がはははは! もう一発だ!」

 だが、今のランスの必殺技は一撃では終わらない。

 ランスは宙にいるカミーラに対して必殺のオーラを放つ。

「! ランス!」

 そしてそれはカミーラでも完全に予想してない一撃だった。

 カミーラは翼で己を庇うようにしてその一撃を防ぐ。

 直撃だけは避けたが、再び雷神雷光級の一撃が辺りを襲う。

「え…? ぎゃーーーー!!」

 一撃目を何とかやり過ごした魔物兵が、再び襲いかかる雷光の前に悲鳴をあげながら消滅する。

「ちょーっと! ランス!」

 レダは襲い掛かる雷光を何とか防ぎながら文句を言うが、ランスにはまったく聞こえていないようだ。

「く…なんという…!」

 ケッセルリンクはあの国を火の海に変えたレッドアイの魔力を思い出すが、この威力はまさにその一撃に匹敵するほどの威力だ。

 それが2連発とあっては、まさに災害と言っても良いほどだ。

 そして荒れ狂う雷光が過ぎ去った時、その場に立っているのはランスと、無敵結界を使用していたケッセルリンクだけだった。

「いや、凄いとは思ってたけどこれは本当に…」

 スラルはこの光景を呆然と見ていた。

 確かにランスと自分ならば出来ると思っていた。

 自分が付与したのはライトニングレーザー級の威力のはずだったが、それは雷神雷光級の威力となって放たれたのだ。

 それもランスの必殺技と組み合わさりまさに大惨事というべき状況だ。

(これはしばらく使うのは控えないと駄目ね…この力だと辺りを完全に巻き込んでしまうわ)

 もしこれが集団戦ならば、味方にも被害がいくとんでもない技になってしまった。

「で、カミーラは…」

 ランスアタックの直撃こそは免れたが、その雷光の中心部にいたカミーラは倒れていた。

 しかし次の瞬間にカミーラはゆっくりと起き上がる。

 そして今だに楽しげに唇を歪める。

「…流石にドラゴンといったところかしら。あの雷光でも倒せないのね」

 確かにカミーラの有様は普段のカミーラから見ればありえない光景だ。

 その服は雷によって破れ、体には無数の火傷の痕が見て取れる。

 魔人カミーラにこれ程のダメージを与えるなど、並みの魔人でも出来ないだろう。

 だが、それでも魔人カミーラを倒しきる事は出来なかった。

「お前はつくづく私を楽しませる…だがまだ私を倒すには至らないな」

 カミーラはゆっくりとランスへと歩いていく。

「がはははは! だったらお前を倒す威力を出せば良いだけだ! いくぞスラルちゃん!」

 ランスはカミーラに向かって勢いよく駆け出す。

 カミーラもそれを受けてランスに向けてブレスを放つ。

 ランスはそれを斬ろうと剣を振りかぶる。

 決着は近い―――ケッセルリンクがそう見ていた時、

「この! ファイヤーレーザー!」

 一体の魔物兵が起き上がったと思うと、その魔法がランスの背中に直撃する。

 その予想外の攻撃には流石のランスも吹き飛ばされ、真正面からカミーラのブレスが直撃して吹き飛ばされる。

「はははは! 人間が調子に乗りやがって!」

 魔法を放った魔物兵は笑う。

 元々人間が使徒になるなどとは面白くなかったのだ。

 だからこそ自分達を完全に巻き込む一撃を受けて、カミーラの言葉を無視して魔法を放った。

 それがどういう結果をもたらすかを考えずに。

 

 ドスッ!

 

「あ…へ…?」

 魔物兵が自分の体を刺し貫いているカミーラを見て呆然とする。

「…貴様はこのカミーラの言葉に逆らった」

 そして魔物兵は言葉通りに八つ裂きにされる。

「ランス!」

 レダがランスに駆け寄る。

 何しろカミーラのブレスをまともに受けてしまったのだ。

 死んでいてもおかしくは無い。

 レダは倒れているランスを抱き上げ―――その顔を見て安堵する。

 ランスは気絶はしているが、命に別状は無かった。

「威力の有るブレスではなかったか」

 ケッセルリンクがカミーラを落ち着かせる様にその肩を叩く。

「…興が削がれた」

 カミーラは不機嫌さを隠そうともせずに言葉を放つ。

 そしてそのまま倒れているランスへと向かって歩く。

「…目が覚めたら伝えておけ。今回は見逃すと」

 それだけを言うと、カミーラは空へ向かって飛び立つ。

「まったく…余計な事を。カミーラ様が相当に不機嫌になられている」

 七星はこれからの事を考えて頭が痛くなる。

 幸いにも捕らえたレッドアイが巻き込まれる事は無かったが、魔王ナイチサに与えられた魔物兵はまさに壊滅と言っていい損害を受けてしまった。

 そこには最後の魔物隊長も倒れており、生きている魔物兵はほんの僅かだ。

 今も半死半生の魔物兵の呻き声が聞こえるが、生憎とそれらを助ける時間も暇も七星には無かった。

「ケッセルリンク様。この場はお任せしても宜しいでしょうか。私はカミーラ様を追いかけねばなりませんし、魔王様への報告も有ります」

「…わかった。それは私が引き受けよう。カミーラにも伝えておけ。後で詳しく話すと」

 ケッセルリンクの言葉を聞いて七星は安堵する。

 彼女もどうやら魔軍へと戻ってきてくれるようだ。

 このままランスと共にいる可能性もあったが、やはり長く魔王の元を離れるのはまずいと感じてるようだ。

 七星はケッセルリンクに一礼すると、カミーラを追って走り始める。

 ケッセルリンクが辺りを見渡すと、その惨状に頭を抱える。

「まったく…確かにランスならばやってのけると思いはしたが、ここまでやるか」

 ここからの処理を考えるとケッセルリンクは思わずため息をつく。

 そして気絶しているランスを少し恨めしそうに睨むが、それでも生き残りを纏めようと動き始めた。




後書欄に書くのはちょっと違うかと思いましたが、皆様の意見とても参考になりました
それらを考えた上で続きを書き上げたく思います
次でレッドアイ編は終わりかな

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