ランス再び   作:メケネコ

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魔人コーク・スノー

「姉さん、本当に大丈夫なの」

「ええ…私は大丈夫よ。パレロアさんの食事で少し楽になったわ」

 結局パイアールの研究所に戻って来たランス達は、そのまま食事をしていた。

 そしてパレロアが作った料理を、少しながらルートは食べている。

 これも彼女の技能である料理LV1が成せる力でもある。

「おいガキ。聞いてなかったが、その捕らえる魔人というのは女か?」

「え? 象バンバラの魔人だけど?」

「なんだ、つまらん」

 魔人ケッセルリンクが来ているとの言葉で一気に突っ走ったが、もう一体の魔人について聞いてなかったので改めて聞いたのだが、まさか象バンバラの魔人と聞かされてランスのやる気が一気に減少する。

「まさかケッセルリンクが来るなんて思っていもいなかったからね。計画を早めたいんだけど」

「で、どうするのだ」

「簡単だよ。ボクの作った魔人キャッチャーでその魔人を捕獲する。それだけさ」

 いとも簡単に言い放つパイアールに、スラルは眉を顰める。

「そんな簡単に魔人が捕らえられるの?」

「象バンバラの魔人は、魔人になりたてみたいだからまだ実力的にも大した事は無い。PAとPBで問題無く包囲できる。でもケッセルリンクが相手なら難しいだろうね。何しろ『夜の女王』と呼ばれるくらいだから」

「夜の女王…」

「言葉だけならエロイな…まああいつに限ってそんな事は無いだろうが」

 ケッセルリンクは別名夜の女王と呼ばれており、夜に限れば誰も勝つ事は出来ないと言われている魔人だ。

 だが、ランスにとっては自分の女の一人だ。

「話を戻していいかな。そろそろ象バンバラの魔人が動く頃だと思うんだ。君達にはその足止めを頼みたいんだよね」

「足止めね…」

 レダは少し考える。

 魔人を足止めするというのは、本来であればとてつもなく難しい事だ。

 だが、自分とランスが居れば足止めくらいは何も問題は無いだろう。

 何しろランスは魔人カミーラとも渡り合える猛者だし、それに自分の防御技能と神魔法があれば十分に足止めは可能だ。

「問題はケッセルリンクなんだよね。流石に魔人が2体となると捕獲は不可能になるからね」

 魔人を捕らえるためにはパイアールが作成した魔人キャッチャーで相手を捕らえる必要がある。

 しかしその為にはもちろん製作者のパイアール本人がその道具を使う必要がある。

 そのために他の人間でも使えるPAを作成したのだ。

 本来の目的はそのPAで相手を弱らせ、捕獲する…だったのだが、ここにもう一人の魔人であるケッセルリンクが現れたとなるとそうもいかなくなる。

 現時点ではパイアールでも魔人ケッセルリンクに勝つ事は出来ない。

 昼の間なら何とかなるかもしれないが、それでもケッセルリンクとぶつかるには状況が悪いし、何よりルートの事が問題となる。

「ケッセルリンクなら大丈夫だろ。変に手を出さなければ襲ってくる事は無いだろ」

「随分と言い切るね」

「俺様の女だからな。万が一襲ってきても、俺様ならば大丈夫だ!」

「………彼は誇大妄想の気があるのかな?」

 パイアールは呆れたようにレダを見る。

「それが普通の反応よね。でもそれが事実だから恐ろしい…ランスの言葉じゃないけど、こっちから手を出さなければ大丈夫だと思うわよ」

 レダの言葉にスラルとパレロアも頷く。

 その様子にパイアールは少し首を捻るが、どちらにしてもケッセルリンクが襲ってきた時点で、自分の敗北が決まってしまうのだ。

 だとしたら、彼らに任せられるのであれば、任せるべきだと判断した。

「まあそれは君達に任せるよ。ボクの目的はあくまでも象バンバラの魔人の訳だし」

「で、その魔人は何時頃くるんだ」

「ボクの計算では3日後くらいだと思うんだけどね。これからは無用な外出は止めて欲しいな。雇い主としてはね」

 パイアールはじとっとした目でランスを見る。

「分かった分かった。まあ本当に何も無いしな」

 ランスも周辺を色々回っては見たが、特に新しい発見は無かった。

 それどころか、モンスターの姿も見えない。

 近くにダンジョン等も無いため、ランスとしても早く依頼を済ませたい所もあった。

(それにルートちゃんの事もあるしな)

 本来であれば多少の病気であればランスは構わずに口説いていただろうが、彼女に関してはランスでも声をかけずらい所が有る。

 理由は単純、彼女の病気がそれほどまでに重い症状だったからだ。

 ひどい時は会話もままなら無いようで、こうして一緒に食事を取ることすらも珍しい事のようだ。

 ランスとしても、やはり気持ちよくHをするためには病気を治してしまったほうがいいと思っていた。

 ただ、魔人を捕らえる事が病気を治すのとどう関係しているのかはまったく分からないが。

「でもこれって本当に便利ね…魔法で動いている訳じゃないわよね」

 スラルは今の食卓を照らしている照明を見て感心した声を出す。

 魔王で無くなった今でも普通の人間よりも遥かに多い魔力で明かりを灯しているが、この道具はその魔法すらも凌駕しているだろう。

 何しろ、パイアールが何かボタンを押すだけで明かりが灯るのだから。

「魔法を否定する気は無いけどね。でも魔法が無くてもこれくらいの事は出来るさ」

 パイアールは当然の事のように言い放つ。

「じゃあ貰ってくぞ」

「別にいいけど、ここじゃないと動かないと思うよ」

「なんだ、つまらん」

 結局その日はランスは大人しくする事にする。

 勿論ランス的な意味で大人しくしているので、レダとパレロアは思う存分ランスに抱かれ続けた。

 

 

 

「暇だな…」

「そうね…」

 ランスとレダは二人で暇を持て余していた。

 あれから5日…パイアールの計算に反して、魔人は姿を現さなかった。

 パイアールも自分の計算が外れた事には頭を悩ませている。

「ルートちゃんの病気は治せんのか」

「私はその辺の知識は全然駄目よ」

 ルート・アリの病状は明らかに悪化しており、昨日に至っては立っているのもやっとのようだった。

「埒が明かんな。探しに行くぞ」

「探しに行くって…どうやってよ」

「適当。俺様が探す時は必ず見つかる。そういうものだ」

「そういうものって…」

 レダは呆れたようにランスを見るが、

「いいんじゃない? ランスなら確かに何とかしそうだし」

 ランスの剣からスラルの声がする。

「ランスにはさ、そういう何かがあるような気がするのよね。そうじゃなければ、この剣を見つけたり、ドラゴンの加護を手に入れるなんて出来ないもの」

「だけど私達がいない時に魔人が出たら…」

「それくらいはパイアールも分かってるわよ。だからPAだったっけ…それを着た人間が偵察に出ている訳だし。彼も焦ってるのよ。だからそれを少し後押しするだけ」

「うむ、スラルちゃんの言うとおりだ。俺様ならば何とかなる。がはははは!」

 ランスは何時もの様に笑うと、パイアールに会うべく歩き始めた。

 

 

「すんなり許可が出たわね…それだけ焦ってるのかしら」

 ランスとレダは魔人の探索に森へと来ていた。

 パイアールも焦っているようで、あっさりと許可を出した。

「しかしバンバラ系のモンスターが多いな。まったくもって鬱陶しい」

 ランスは倒れている豚バンバラを見下ろしながら嫌そうに眉を潜める。

 バンバラ系のモンスターとは、顔はその動物だが、その下が人間に近いというモンスターだ。

 強さは分かれるが、目的の魔人である象バンバラは、バンバラ系最強のモンスターとされている。

 他には豚バンバラ、牛バンバラ等がいるが、ランスにとっては全てが鬱陶しい男モンスターにすぎない。

「だいたいモンスターは女の子をレイプする屑だからな。とっとと駆除するに限る」

「それって自己紹介?」

 ランスの言葉にレダがジト目でランスを見る。

「どういう意味だ」

「言葉通りよっと」

 レダは襲い掛かってきた豚バンバラの首をあっさりと刎ねる。

「それにしてもこの手のモンスターって何時頃現れたのかしら。私のいない間に随分と増えたものね。見なくなったモンスターも多いけど」

 スラルは襲い掛かってくる牛バンバラをライトニングレーザーで貫きながら考える。

 新種のモンスターが増えるためには、聖女の子モンスターが新たな子を生まなければならない。

 だがその全てが生き残れるわけではなく、中には直ぐに断絶する種も存在する。

 それもまたこの世界においては普通の事なのだ。

「聖女の子モンスターとはまだやっとらんからな…ベゼルアイも小さいし、セラクロラスは論外だ。ウェンリーナーは俺様の事が好きだから、今度はハウセスナースを探すのもいいな」

 ランスが新たに決意を固めている時、何かの破壊音と共に轟音が聞こえてくる。

「ん、なんだ」

「…何か来る!」

「グオオオオオオオオオ!」

 その時、猛烈な破壊音と共に、異形の存在がランス達の前に現れる。

「ゲハハハハハハハ! 人間だ人間だ! 俺に人間を殺させろ!」

「なんだこいつは」

 それは象バンバラである事は辛うじて分かる。

 が、その鼻は二つ有り、その腕も2本ではなく4本もある。

 その4つ全てにメイスを持ち、その4つの目は異常なまでに血走っている。

「こいつがパイアールの言ってた魔人?」

「つくづくランスは魔人に縁があるのねー」

 レダとスラルは何時ものことと言わんばかりにランスを見る。

 ランスは魔人とは奇妙な縁があるようで、有る意味魔人を引き寄せていると言えなくも無い。

 そうでなければ、ランスが居る期間に限ってケッセルリンクと出会ったり、カミーラと出会う等ありえない事だ。

「なんだ、そのまんま象バンバラではないか。詰まらん」

「なんだテメェら! 俺様は魔人だ! 魔人に殺されるだけの愚かな畜生共が!」

 象バンバラの魔人は血走った目でランス達を見る。

 いや、正確には見ているのかどうかは分からない…魔人の目はランス達を見ているかどうか全く分からない程に焦点が合っていないのだ。

「ふん、お前こそただの雑魚魔人ではないか」

 長い間魔人と戦ってきたランスだからこそ分かる。

 この魔人は、魔人の中でも下位とされる魔人サテラよりも明らかに弱い。

 魔人サテラの強さは、本人の強さではなく魔人サテラと互角の力を持つガーディアンを作り出せるからこそ、サテラは強いのだ。

 だがこの魔人は明らかに違う。

「この俺様を雑魚だと! 人間風情が! てめをぶちのめして、目の前でこの女共を犯し殺してやるよ! いや、このコーク・スノー様の性奴隷として可愛がってやるよ! ゲヒャヒャヒャ!」

 象バンバラの魔人―――魔人コーク・スノーがランス達へと襲い掛かる。

「死ね! 人間!」

 魔人コーク・スノーが振り下ろすメイスをランスは軽々と避ける。

 ランスが自分の一撃を避けた事に苛立つ様に魔人はその二本の鼻から荒い息を放つ。

「力任せのザコが!」

 自分を嘲笑った、そう感じた魔人コーク・スノーは、さらに目を血走らせてランスへと襲い掛かる。

 今度はその4本の腕から繰り出されるメイスを振り回しながらランスへと迫る。

 しかしランスはその一撃をまともに受けようとせず、意外なほど軽い身のこなしでその攻撃を避けていく。

(やはりザコだな)

 確かに力は強いようだが、それだけだ。

 もしかしたら、ランスが今でも覚えている人間―――人類最強と呼ばれたトーマ・リプトンの方が強いかもしれない。

 そして魔人も自分の一撃が人間に当たらぬ状況に苛立っていった。

 今まで全ての魔物、人間をすり潰してきた自分の一撃が人間にはまるで当たらない。

 完全に自分の動きを見切られているのだ。

 魔人コーク・スノーはさらに怒りで少ない理性を失い、さらなる怪力を持ってランスを殺そうとそのメイスを振るう。

「フン」

 それをランスはあっさりと避けると、その勢いで魔人は木に激突するが、流石は魔人と言ったところかその木がへし折れる。

 魔人はランスを再び血走った目で睨む。

「人間…人間が! 殺す殺す殺す殺す! 潰れろ!」

 そして何とかの一つ覚えとやらで再びランスへと襲い掛かる。

 今度はランスも剣を抜くと、その技で魔人の攻撃を受け流す。

 確かに力はあるがそれだけだ。

 これまで戦ってきた魔人…ザビエルのような炎を纏った剣や、カミーラの爪のような鋭さが感じられない。

「グググ…何故あたらねぇ!」

「お前が弱いからだろ」

 ランスが無造作に放った一撃は魔人コーク・スノーの無敵結界を揺らす。

「な、なんだと!?」

 この結果に魔人コーク・スノーは驚愕の声を上げる。

 今まで色々な奴等を殺してきたが、無敵結界の上からとはいえ、自分の体を揺るがすほどの衝撃が与えられるなど考えてもいなかった。

「がはははは! 死ねー!」

 勿論無敵結界がある故に魔人を殺すことは出来ない。

 しかしランスの剣の鋭さとその衝撃は、魔人の持つ無敵結界の上から確実に魔人コーク・スノーの体力を削っていた。

(な、なんだこの人間は!? つ、強すぎる!)

 今まで倒してきた人間…いや、ただ嬲り殺しにしていただけの魔人には、こういう時にはどうしていいかわからずにパニックとなる。

 攻撃は当たる気配は無く、相手の攻撃は全然見切る事が出来ない。

 無敵結界があっても、その上から衝撃波が伝わってくる。

「うぐぐぐぐぐぐ!」

 ランスの攻撃は無敵結界によって確かに当たってはいないが、それでもその威力は尋常ではなく、それだけでも魔人となったはずのコーク・スノーを脅かすには十分であった。

 コーク・スノーはその血走った目で周囲を見渡すと、そこには剣を持った金髪の女いる。

 それを見てコーク・スノーは醜悪に顔を歪める。

「ゲヒャヒャヒャヒャ!」

 そしてお約束と言わんばかりにレダに向かっていく。

 こういう小悪党の考える事はランスには手に取るように分かる。

 人質…それがコーク・スノーの考えた事なのだろうが、

「はい、残念」

 レダは軽やかにコーク・スノーの腕をかわす。

「グ!」

 その結果にコーク・スノーは呻き声をあげる。

 まさか人間が自分の腕をかわすとは思わなかった事、そして女が自分の事を馬鹿にするかのように笑った事。

 それがコーク・スノーの少ない理性をさらに失わせる事となる。

「人間が!」

 コーク・スノーは四本の腕を振り回し、ランス達を潰すべく暴れまわるが、そんなデタラメな動きでは人間のランスを捉える事も出来ない。

 しかしそこは魔人の体力であり、これほど動き回っても息一つ乱さない。

(うーむ、やっぱり無敵結界は面倒だぞ。こんなザコでも倒せんではないか)

 もしカオスがあればこの程度の魔人など、今のランスの敵ではないだろう。

 だが、スラルが神から授かった無敵結界は絶対的な力であり、これこそが人類が魔人に勝てない最大の理由なのだ。

(私が本調子なら無敵結界なんて意味無いんだけどね…)

 レダはエンジェルナイトとしての本来の力を発揮できないため、今は魔人に傷つけることが出来ない。

 それに調子付いたのか、コーク・スノーは笑いながらランス達を叩き潰そうとそのメイスを振るう。

「ゲハハハハ! 貴様ら人間程度に押される俺様ではないわ!」

 先程までその人間に押されていたのに、今やそれを忘れてメイスを振り回す。

 今は当たらなくとも、人間と魔人の間には埋められない基礎能力の差が有る。

 何れは人間の体力が付き、自分のメイスが人間を潰すと信じて疑っていない。

「調子に乗るな!」

 ランスはその振り回されるメイスを避けながら、一気に気を練る。

 そして強烈な一撃で振り下ろされるメイスを踏み台に飛び上がり、

「ラーンスアターック!!!」

 そこに特大の一撃を叩き込む。

 

 ガンッ!

 

 鈍い音を立てて、ランスの強烈な一撃が無敵結界に弾かれる。

「どわっ!」

「ランス!」

 その反動でランスは吹き飛ばされ、レダがランスを抱き止める。

 そしてランスアタックを受けたコーク・スノーは、ランス以上の衝撃を受けたのか、その巨体が大きく吹き飛ばされる。

 その目は先程の狂気は無く、信じられないかのようにランスを見ている。

(ば、馬鹿な…この象バンバラの魔人コーク・スノー様が人間相手に力で負けるだと)

 人間の一撃が迫った時もコーク・スノーは無敵結界があるので余裕で受け止めたと思った。

 いや、違う…先の一撃で、この人間が自分の無敵結界の上から自分に多大な衝撃を与えていたのは知っていたはずだった。

 それなのに、自分はそれを忘れて暴れまわった。

 その結果が今の状況だ。

 だが、それでも魔人コーク・スノーは笑いながら立ち上がった。

 自分が感じたのは確かな『痛み』だ。

 気のせいだったのかもしれないが、それでも自分があの剣を受けた部分は確かに痛みとなって自分の体を襲っている…魔人コーク・スノーはそう感じていた。

 そしてその痛みこそが、自分に取っての全てであり、快感だった。

「ぎひゃひゃひゃひゃ! 人間! やるじゃねえか! もっとだ! もっと俺様に痛みを与えてみせろ!」

 魔人コーク・スノーは立ち上がると、その口を大きく開けて空気を取り込む。

「むっ」

 ランスの目から分かるほどにコーク・スノーの腹が膨れ上がり、ランスも警戒する。

「くたばれ! 人間!」

 そしてその空気をその二本の鼻からまるで砲弾のように放つ。

「ランス!」

 レダはランスの前に立つと盾を構えて、その空気の塊を弾く。

 が、見えない空気の塊はレダの盾を避け、その体に当たるとレダの体がランスごと吹き飛ぶ。

「っ!」

 レダはその衝撃に顔を顰めるが、それでも体勢を立て直すと、ランスを庇いながら木々の後ろに体を隠す。

「げはははは! 出て来い人間!」

 それに気を良くしたのか、コーク・スノーはさらに空気の塊を連続して放つ。

「むぅ…調子に乗りおって」

「何言ってるのよランス。あれくらい大した事無いでしょ」

 スラルがランスの剣の中から、この状況には似つかわしくない声を放つ。

「なんだスラルちゃん。そう言えば出てこなかったな」

「色々と考えることもあったからね。まあアレくらいなら大丈夫かなと思って」

「何だと?」

「あんなの空気の塊でしょ。ランスはそれ以上のモノを斬ってるじゃない」

「…そういやそうだな」

 ランスは気を取り直すと、その剣を構える。

 そして魔人の前にその体を晒す。

「がはははは! そんな大道芸で俺様を倒せるとでも思っているのか!」

「姿を見せやがったな! 今度こそ殺してやるぞ!」

 コーク・スノーは再び腹に空気を溜めると、その鼻から勢いよく空気の塊を吐き出す。

 その空気の塊はランスに襲い掛かるが、ランスはその空気の塊をあっさりと切り裂く。

「なんだと!?」

 その結果にコーク・スノーは驚愕に顔を歪める。

 まさか自分の放つ空気の塊を切り裂くとは考えてもいなかった。

「がはははは! そんな下らん技が俺様に通用すると思ってのか!」

 ランスは笑いながらコーク・スノーへ突っ込んでいく。

「こ、こいつ…!」

 コーク・スノーは再び戦慄して連続で空気の塊を浴びせる。

 しかしランスはその空気の塊の軌道が読めているかのように、それを避け、避けれないものは斬りながら進んでいく。

 そしてとうとう魔人へと接近する。

「がはははは! 無敵結界だろうが何だろうが俺様の敵では無いわ!」

「そう! それでいいのよ! 今度は無敵結界を斬ればいいのよ!」

 スラルの新たな目的として、無敵結界を破ることがある。

 魔王の血から開放されたためか、今では無敵結界はスラルにとっては破るべきものとなっていた。

 そしてランスと共にならそれが出来る…そうも思っていた。

「行くわよ! ランス!」

「がはははは! こいつでくたばれ!」

 ランスの剣が白く輝き、そこから稲光が溢れる。

「な、なんだ!?」

 コーク・スノーはその状況に驚き、一瞬動きが止まってしまう。

「ラーンスアターック!!!」

 ライトニングレーザーが付与された一撃は、凄まじい雷光を発しながらコーク・スノーへと襲い掛かる。

「ぐ、ぐおおおおおおおお!?」

 コーク・スノーはランスの必殺の一撃、そして荒れ狂う雷撃の二重の衝撃に耐えられずに吹き飛ばされる。

「ちょっと! ランス!」

 レダはその荒れ狂う雷光を避けながらランスに文句を言う。

 確かに素晴らしい威力を持っているし、その攻撃範囲も凄まじく広い。

 だが、それは逆に言えばまだ周囲を無差別に巻き込む一撃だという事であり、レダとてそれは例外ではない。

 レダは己の技能を使い無差別に襲い掛かる稲妻を何とかやり過ごす。

「な、なんだお前は…なんでそんなにつえーんだ!? 人間ごときが!」

 コーク・スノーの目にあるのは確かな驚愕、そして恐怖だ。

 魔人となってから一度も味わったことの無い感覚に、確実にコーク・スノーは震えていた。

 もし無敵結界が無ければ、自分は間違いなく死んでいただろう。

 いや、無敵結界の下にはその衝撃が確実に伝わり、そしてその稲妻による火傷が僅かながら存在している。

「ふん、それは俺様が強いからに決まってるだろうが。魔人だろうが悪魔だろうが俺様の敵では無いわ!」

 ランスが再び剣を構えると、コーク・スノーは這いずる様にしてランスから逃げようとする。

「がはははは! 逃がすか!」

 ランスはそれを追おうとするが、

「バンバラバンバー!」

 そこに象バンバラが乱入してくる。

「邪魔だ!」

 ランスの雷を纏った一撃は、バンバラ系最強種である象バンバラですら一刀両断にする。

「ガンダーラ!」

 が、意外なほどその数は多く、ランスが全ての象バンバラを倒したときには、魔人の姿はそこには無かった。

「逃げたか」

「魔人が普通の人間相手に逃げるなんて事が異常なんだけどね」

 魔人コーク・スノーとの最初の戦いは、魔人が人間から逃げ出すという本来であればありえない結果で終わった。




象バンバラの魔人ですが、採用理由はイブニクル2にて大怪獣として登場したからです
でもGALZOOとかには象バンバラは出ましたが、ランス本編には殆ど出なかったという
やっぱり豚バンバラが一般的なんでしょうね

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