ランス再び   作:メケネコ

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動く魔軍

「で、魔人と戦ったって?」

「うむ、俺様の強さに恐れをなして逃げていったがな」

「…まあPAすらも斬るんだ、そんな下らない嘘はつかないとは思うけどね」

 パイアールは少し考えるが、目の前の男の戦闘力を考えると、あの魔人と互角に戦ってもおかしくは無いと考える。

 事実、自分の作ったPAは魔物の脅威を退け、こうして魔人を捕獲するための準備すらしているのだから。

「で、何か他に情報はあるかな」

「情報になるかどうかは分からないけど、空気を吸い込んで弾丸みたいに飛ばしてくるとか意外と器用よね」

「空気を飛ばす?」

 スラルの言葉にパイアールは眉を顰める。

 象バンバラの魔人とは何回か交戦しており、パイアールもPBからその戦い方等を分析し、PAの強化に勤しんできた。

 そこに新たな情報が手に入る。

「そんな方法を用意してたんだ。これは少し厄介だけど…まあPAでボクを守らせれば問題は無いか」

 まさかの遠距離攻撃の情報に少しパイアールは考えたが、PAを壁にすれば問題は無いと結論付ける。

「しかし君達が退けたとなると…逃げる可能性も否定しないけど、まああの単純な魔人ならそれは無いかな。むしろ君達を付けねらう可能性も高いかな」

「がはははは! それならば好都合ではないか! 次こそあのふざけた魔人をぶち殺す!」

「依頼は捕らえることだよ。ボクは君達の要望を満たしてるんだから、君達もボクの要望を満たして欲しいな」

「大丈夫よ。いくらなんでもまだ無敵結界は破れないしね」

 スラルの言葉にパイアールは少し引っかかったが、考えても意味は無いと判断し、それ以上は何も言わない。

「で、その象魔人は何時頃来る」

「あの魔人は頭が悪いからね。もしかしたら君達を付けねらってもう近くにいる可能性も否定はしないよ。まあPBで偵察してるさ。これ以上は動く必要は無いと思うよ」

 パイアールは手元で何かを操作し、ランス達には見えない何かを探しているようだった。

「時間が来れば呼ぶよ。それまではここに居て欲しいね」

 パイアールはそれだけを言うと、自分の部屋へと戻っていく。

 そこに入れ替わるようにパレロアがランス達の前に顔を見せる。

「ランスさん、レダさん、スラルさん、大丈夫ですか?」

「当然だ。俺様がやられる訳が無いだろう」

「…魔人と戦ったのですから、普通はやられてしまうと思うのですけど…でもランスさんですものね」

 パレロアは最初は呆れたような顔をしていたが、直ぐに微笑む。

 ランスの強さは自分の想像の範囲を凌駕しているため、もう強さの感覚が麻痺してしまっている。

「今から食事を作りますので、皆さんも戦いに備えてください」

「うむ、パレロアの料理は美味いからな。どっかのエンジェルナイトと違ってな」

「…うるさいわね。エンジェルナイトは料理なんてしないわよ。中には得意な奴も居るけどね」

 レダは料理は得意ではないため、少し唇を突き出し拗ねてみせる。

 そんな所はチルディに似ているとランスは思った。

「そういやスラルちゃんの料理の腕はどうなんだ? 確かあの大食い野郎がスラルちゃんの料理は絶品と言ってたな」

「私? 私は…どうなんだろ? 確かにガルティアは美味しいと言って食べてくれてたけど、不思議とケイブリスもメガラスも一度食べたきり食べてくれないのよね…」

「ふーん。まああの大食い野郎が言うのならスラルちゃんも料理が上手いんだろ。がはははは! いずれは元魔王の料理を味わうのもいいな!」

 ランスはそう言って笑うが、後にその言葉を大きく後悔する事となるのだが、それはまだ先の話。

 

 

 

 ―――森の中―――

 

「ギギギギギギ…うぎゃーーーーーー!!!」

 魔人コーク・スノーはその四本の腕で己の体をかいていた。

「ムシが…ムシ如きがこの魔人に群がってんじゃねえぞ!」

 己の体を這い回るムシを振り払うように体を旋回し、その拍子で辺りの木々が倒れる。

「ギギャアアアアアア!! ムシが! ムシが!」

 それでも己の体をはがれぬムシを、己の体が傷つくことを厭わずにその手で叩き潰す。

 実際には…魔人コーク・スノーの体にムシなど付いていない。

 狂気の魔人コーク・スノーは、常に殺しを行っていないと己の体がムシに覆われるような幻覚に常に襲われる。

 人を、魔物を殺している時にしか己の理性を保てぬ魔人…それがコーク・スノーという魔人だった。

「そうだ…アレを…アレを補充するんだ」

 コーク・スノーは震える体を押さえる様にしてある場所へと向かう。

「ひっ!」

「お母さん!」

 その場所に居たのは3人の人間。

 母親とその子供の3人…その人間達は血走った目をしているコーク・スノーを見て体を震わせる。

「ゲヒヒヒヒヒ…そろそろ薬だ。クスリヲヨコセ!!」

「きゃあああああああ!!」

 迫り来る魔人を前にして、親子は震えるしかない。

 そしてコークスノーの鼻が、母親の顎を砕きながら無理矢理に挿入させる。

 その感覚にコーク・スノーの目がトロンと蕩ける様に下がる。

 そしてコーク・スノーはそのまま勢いよくその鼻を息をするのと同じように吸い込み始めた。

 母親の体が一瞬震えたかと思うと、凄まじい勢いでその体が萎んでいく。

「あー…うめぇ…」

 そしてその鼻から全ての臓物、砕けた骨を吸い尽くすと、もはや用は無いと言いたげに乱暴にその死体を放る。

 子供達は目の前の光景に現実感が無いのか、呆然とその光景を見ているだけだった。

「…今日は前祝といくか。少し時間をかけてゆっくりと楽しむか」

 コーク・スノーは舌なめずりをしながら残りの子供達にその鼻を向ける。

 あの人間に与えられた恐怖、そして僅かに与えられた『痛み』は許される事ではない。

「グギャギャギャ!! あの人間もコイツラと同じようにしてやるよ!」

 コーク・スノーは子供達に向けてその鼻を向ける。

 おぞましい血の饗宴は、コーク・スノーが眠るまで続いた。

 

 

 

「じゃあ準備はいいかな」

 二日後―――パイアールはついに己から動く事を決めた。

(もう姉さんが持たない…とうとう動くことも出来なくなってしまった)

 その理由は極めて単純、ルート・アリの病状が進行し、もう歩くことすらもままならず、パイアールも急ぎ彼女を冷凍睡眠装置に入れるしかなかった。

 そして多少の危険は覚悟の上で、象バンバラの魔人を捕らえることを決めた。

(幸いにもケッセルリンクを見たという報告は無い…こうして昼に行動すればケッセルリンクと戦う事も無い)

 今回は兵を分散させずに、一転集中で魔人を捕らえることを目的としている。

 幸いにも、魔人の痕跡はPBを使って発見したため、直ぐにでも発見することは出来るだろう。

「パイアールさん! 大変です!」

「何かな」

 PAを纏った部下が報告に来る。

「魔軍が迫ってます!」

「…魔人は?」

「魔人はいません! 魔物将軍率いる魔物部隊のようです!」

(こんな時に…)

 魔人に率いられない魔軍という事は、この辺の様子を探りに来た部隊なのだろう。

 パイアールもPAやPBの実験も兼ねて、魔軍ともぶつかったことがあるが、結果としてはパイアールの予想通りに魔軍を退けることに成功した。

 だが、今は状況があまり良くない。

 これが魔人単騎であるならば、魔軍ごと倒してしまえばそれで終わりなのだが、あの象バンバラの魔人はバンバラ系のモンスターを引き連れている。

 豚バンバラ程度ならば問題は無いが、バンバラ系最強種の象バンバラを率いることが多いために、そちらの処理も時間がかかる。

(どうするか…)

「魔軍だと?」

 パイアール達の話を聞いてたランスが声をかける。

「ああ…まさかこのタイミングで魔軍が動くとはね。出来れば魔軍と魔人が合流するのは避けたいね」

 あの魔人ははぐれ魔人だからこそ狙う意味がある。

 魔人が居る事を魔王が知らない今だからこそ狙うのに最適なのだ。

「その魔軍がいなくなればいいのか」

「そうだね。魔軍と魔人が合流できなければそれでいいんだよね。でもこの状況だとどっちを優先するか迷う所だね」

 魔人を先に捕らえる―――それが出来れば一番良いのだが、間違いなく魔人の捕獲が一番の問題なのだ。

「じゃあ俺様が行ってやろう。そこそこ使える奴をよこせ」

「ランスが?」

 ランスの言葉にパイアールは少し悩む。

 今の中で最も実力があるのがランスだ。

 魔人ともぶつかったと言うし、象バンバラの魔人を挑発するという意味でもランスは居て欲しいが、だからといって魔軍を放置する訳にもいかない。

 パイアールは少し考えた末、

「わかったよ。その代り直ぐに合流して欲しいな」

「がはははは! 魔軍など俺様にかかれば楽勝だ!」

 ランスは笑いながら少数のPAを連れて魔軍の方へと向かっていく。

(本来であればランスが戻るまで待つのがいいんだろうけど…でもこちらとしても時間が無い。魔軍との合流は何としても避けないといけないしね)

「じゃあこちらは予定通りに行くよ」

「「「ハイ」」」

 パイアールは本来の予定の通り、魔人へと向かって歩き始める。

(待っててよ、姉さん。姉さんはボクが必ず救ってみせる)

 

 

 

「この辺りか? 人間共が我らに反抗している所は」

 一体の大きな魔物将軍がその体を震わせながら魔物隊長に尋ねる。

「ハイ。中々の強さを持つようで、魔物将軍であるザイハック様が討ち死にしたとの事です」

「フン! ザイハックも情けない奴だ! だがこのバルガルディ様は違うぞ!」

 バルガルディと呼ばれた魔物将軍は大きく笑うと、その巨躯を誇示するように地を鳴らす。

「しかしバルガルディ様。こちらには未確認の魔人様や、魔人ケッセルリンク様も来られているとの噂です」

「ケッセルリンク様か…」

 魔物将軍バルガルディは思案する。

 魔人ケッセルリンク…魔人の中でも古参の一人であり、その美しさは魔人カミーラにも匹敵すると言われている魔人だ。

 だが、その真の恐ろしさは『夜の女王』と呼ばれる通り、夜においては無類の強さを誇ることにある。

 それ故に、魔人ザビエル、魔人カミーラと並んで魔人四天王の一人に数えられているほどだ。

 そして魔王の命令が無ければ動かないザビエル、魔王に睨まれ動くことが出来ないカミーラに比べ、魔人ケッセルリンクは自由に動くことが許されている。

 自分はまだケッセルリンク様とは話したことは無いが、まだ温厚な方だとされている。

 そして軍を指揮する事を好まぬ方だという事も。

「ケッセルリンク様はいいだろう。それはケッセルリンク様がいらした時に考えればすむ話だ。問題はやはりその人間共よ。ナイチサ様もまだその人間共に対して何も言わぬとの事だ」

 自分達の主であるナイチサは勿論魔軍の王として申し分ない。

 その強さ、残虐性、魔物にとっては理想の主ではあるだろう。

 だが、常に人間を殺すという訳ではなく、定期的に殺戮を行っては、数十年、いや100年単位で人間を放置することもあるとの話だ。

「とにかく、その人間を殲滅するぞ。そして男は殺し、女は好きにして構わん。行くぞ!」

 魔物将軍バルガルディの言葉に魔物兵は大きく声を出す。

 皆、この先の血と殺戮に対しての期待をしてだ。

 こうして、魔軍達は人間達に向けて行進を始める。

 

 

 

 その魔軍を遠くから見ている者達がいた。

「意外と少ないわね。魔人もいないみたいだし」

「魔人がいなければただのザコの集団だな。予定通りに頭をぶっ殺してとっとと終わらせるぞ」

 ランスとレダがあまりにもあっさりと言い放つので、一緒に居るPAを纏った人間は眉を顰める。

「お前、そんな簡単に魔物将軍を倒せると思っているのか」

 そんなランスを馬鹿にするかのようにもう一人が笑う。

「なんだと」

 ランスの鋭い眼光に笑った人間が思わず後ずさる。

「貴様等は俺の言うとおりに動けばいいんだ。そうすれば全て上手くいく」

 ランスはそうとだけ言うと、レダを連れて魔軍を不意打ち出来る場所へと向かっていく。

 そんなランスの後姿を、PAを纏った人間達は不審そうに見ている。

「どうしますか?」

「あの人間は魔人とやりあったというが、信じられるか。我等は我等で動くぞ」

「「「ハイ!」」」

 PAという力を与えられ、人は勘違いをしていた。

 即ち、自分達だけで魔軍を撃退することは可能だと。

 

 

 

「…誰も付いて来なかったわね」

「別に構わん。囮くらいにはなるだろ」

 ランスとレダは誰も付いてこないことを想定していたように話す。

「一人くらいは来るかなーと思ってたんだけどね。でもいいの? 貴重な戦力なんでしょ?」

「そうですよ。今からでも話し合えれば…」

「そんな事する時間が勿体無い。今の俺様ならば魔物将軍など一撃だ」

「そこそこ使える奴をよこせと言ったわりには捨て駒にするのね…」

 レダは呆れたようにランスを見るが、ランスは全く表情を変えない。

「俺様を頼らない奴がどうなろうが知った事か」

「ランスさん…」

 パレロアが咎めるような視線を向けるが、ランスはそれを意にも意にも介しない。

「それにああいう調子に乗ってる奴等はいらん、邪魔だ」

 ランスの目にも、あの連中が借り物の力で思い上がっているのが簡単に分かる。

 その手の連中がランスにとっては不必要な連中だと言うのはこれまでの経験から簡単に分かる。

「まだあの時の盗賊団の方が使えるぞ」

「まあ…あいつ等はそれなりに優秀だったしね…強さだけならPAとかいう奴等の方が強いけどね」

「ああいう奴等は囮にするに限る。そして調子に乗ってる所を一気に俺様が片付ける。完璧だな」

「あんた鬼ね…」

 ランスの言葉には流石のレダも呆れたような声を出す。

 これまでも色々な意味で呆れてきたが、まだまだランスに対しては呆れることが多そうだ。

(でも効率的とも言えるか…いや、私がランスに毒され過ぎたのかもね)

「じゃあ早速行きましょうか。あの連中の事だから無策に突っ込むでしょ」

「そうね。ランス、少しは加減してよ」

「がはははは! 女の子モンスターになら手加減してやろう」

 

 

 

「ぎゃあああああああ!」

 人間の悲鳴が当たりに響き、その声を魔物兵は非常に楽しそうに聞いていた。

「まったく…なんだこいつらは。確かにそこそこはやるようだが、無策にも突っ込んできおって」

 魔物将軍バルガルディが呆れたように人間の体を踏み潰す。

 その一撃で悲鳴を上げていた人間の口が物理的に封じられる。

「被害は?」

「魔物兵の一部がやられましたが、問題はありません」

「うむ、行進を続けるぞ。この調子ならば人間共など一捻りよ」

 ザイハックがやられたと聞いてどれほどの人間がいるかと思ったが、ただ無意味に突っ込んでくるだけならば、どのような強さを持っていても意味が無い。

 勿論、それが無敵結界を持つ魔人であれば話は別だが。

 魔物将軍バルガルディは気分を良くして行進を続ける。

 そしてそれを木の上から見ている6つの目があった。

「見ろ、気分を良くした馬鹿が先頭を暢気にあるいてるぞ」

「そうね。最初見た時は先頭には魔物隊長が居たのにね」

「何言ってるのよ。これを見越してあいつらを捨て駒にしたんでしょ」

 スラルは少し責めるようにランスを見るが、ランスは何処吹く風と言わんばかりに笑う。

「奴等が居たら居たで別の方法もあったがな。まあどっちにしても俺様のやる事は変わらない。行くぞ、スラルちゃん」

「ハイハイ…じゃあいいわよ、ランス」

 スラルの言葉に合わせてランスが剣を抜く。

 ランスの剣が青白く光始め、そこから凄まじい冷気が放たれる。

「やっぱりこれは寒いな。スラルちゃん、どうにかならんのか」

「冷気の魔法は私の得意分野だから、確実に倒すならこれが一番なのよ。ランスと相性がいいのは電撃系みたいだけど、今回は我慢して。確実に行くためにもね」

「まあスラルちゃんならその内何とかするだろ」

 ランスは木の上で構えを取る。

 本来であれば、こんなバランスの悪い所では己の必殺技は打てない。

 だが、今のランスであればその一撃を放つ事が出来るのだ。

「レダ、タイミングはどうだ」

「少し待って…まだ…まだ…」

 レダは慎重にランスと魔物将軍の距離を測る。

 そして魔物将軍が一歩踏み出した時、

「今!」

 レダの声に合わせてランスが勢いよく木の上から跳ぶ。

「がははははは! くたばれ! ラーンスあたたたーーーーーっく!!!」

「あ?」

 突如として上空から聞こえて来た声に、魔物総軍ガルバルディは間の抜けた声で上空を見る。

 その目で見たのは上空から迫り来る、剣を構えた人間だった。

 そして勢いよく振り下ろされた剣が、自分の頭脳である腹をいともあっさりと切り裂くのがまるでスローモーションのように見えている。

「にん…げん…?」

 痛みは無い、がそれは一瞬。

 その後で襲ってきたのは猛烈な冷気と、己の体がまったく動かなくなるという現実。

「おー、随分といったな」

 人間の暢気な声が非常に癇に障る。

(…声が…出せない)

 何かを言ってやろうと思ったが、体も動かず、声を出す事も出来ない。

 それどころか、己の体の感覚がどんどんと失われていく。

「うーむ、確かに俺様の一撃は凄いが、これではご褒美が無いではないか。まあ中に居るのがブスのようだから今回はいいが」

 人間の声がどんどんと遠くに聞こえ、とうとう何も聞こえなくなる。

 こうして魔物将軍バルガルディは、氷柱の中で静かに息を引き取った。

 

「いや、凄いわね…このまま遺産として残せそうじゃない?」

「こんな面白い遺産なんていらないでしょ。それにいつかは融けるでしょうしね」

「がはははは! やはり俺様ならば一撃だったな」

 目の前に広がるのはまさに氷の津波と言うのに等しい。

 先頭にいた魔物将軍は氷柱に包まれ、既に絶命している。

 その周囲に居た魔物隊長も氷柱に包まれ、その後ろに居た魔物兵達は津波のように襲い掛かってきた氷の波に飲み込まれ、あるものは体の一部が凍り付いて絶命し、あるものは氷柱に刺し貫かれて絶命している。

 生き残ったのは…いや、逆に生き残ってしまった魔物兵は運が悪いとしか言えないだろう。

 足元が凍りつき動く事もできずに体力を奪われて死んでいくのだ。

「うーん、やっぱりランスの一撃は凄いわね…いくら私の魔力が上乗せされてるとは言っても、これほどの光景はそう見れないわね。まさに魔人級と言ったところかしら」

 氷の津波に飲み込まれた魔物達は100体ほどだが、それより後ろの魔物兵達は既に士気が崩壊していると言っていい。

 それでも一部の魔物兵がやってくる。

「将軍! 将軍!? あ、人間!?」

 魔物兵達は一斉に武器を構える。

 が、その横にある氷柱を見て誰もが絶句する。

「将軍…バルガルディ将軍!?」

「そ、そんな…将軍が死んだ!?」

「がはははは! 将軍は俺様が一撃で殺してやったわ! で、お前達はどうする?」

 ランスは剣を向けると、魔物兵達は一斉に踵を返し、

「うわーーーー! 将軍が死んだ!」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 悲鳴を上げながら逃げ始める。

「魔物共は頭を殺せば直ぐに逃げる。もうこれで手も出せんだろ」

「そうね。魔物は魔王、魔人、魔物将軍の統制が無ければ動けないしね…」

「とりあえずはこっちの方は片付いたわね。じゃあ合流しましょうか」

 ランス達はもう動かない魔物達を後に、パイアールと合流すべく走り出した。

 

 

 

 ランス達が去った後―――

「…相変わらず見事なものだな。これ程の威力、最早人間の力を超えている」

 魔人ケッセルリンクは巨大な氷の津波と、それに飲み込まれた魔物将軍を見て呆れたようにしていた。

「カミーラの言った通りか。本当にアイツとは切れそうに無い縁があるようだ…さて、どうするか」

 ケッセルリンクはそう言って笑いながら、夕暮れの道を歩き始めた。

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