ランス再び   作:メケネコ

76 / 456
寄り道

「…やはり朝は辛いな。いや、私が強くなるにつれて余計に辛くなるな」

 ケッセルリンクは重たい頭を押さえて、自分の頭を洗う。

「なんだ、まだ朝は辛いのか」

 ランスはその後ろでケッセルリンクの体を洗いながら答える。

 前からそうではあったが、今はより辛そうにも見える。

「まあな…『夜の女王』等と呼ばれているが、実際には昼には戦えないだけだ」

 カラーであった時とは真逆の生活には慣れてはいるが、やはり人間であるランスとは生活スタイルが合わない。

 それが非常にもどかしかった。

 ケッセルリンクはだるそうにランスに体を預ける。

「それにお前のせいで体が上手く動かないからな。まったく…本当に朝までする奴がいるか。まあ…悪い気はしないがな」

 頭は重いが、ランスと密着している肌の暖かさが非常に心地よい。

「それでランス…これからどうする? 私はお前の好きにすればいいと思っている。カラーの件も、今ここでと言うつもりは無い。セラクロラスの力で、何時お前が消えるか分からないからな」

 ケッセルリンクは魔人故に永遠ともいえる時間があるため、今すぐにもランスにカラーの事を探ってもらおうとは思っていない。

 ランスにはランスの事情があるだろうし、スラルの肉体をどうにかする手段を探しているのも知っている。

 何より、セラクロラスの力で離れ離れになろうとも、必ずランス達とはめぐり合う運命にあると思っている。

(そう…あの時に電卓キューブにランスと訪れてから、そうとしか思えない)

「カラーか…あ、そうだ。確かカラーには色々な術があったな…確かパステルの先祖とかがパステルの体を使っていたな。そこからどうにか出来るかもしれん」

 ランスはかつてのバベルの塔での出来事を思い出す。

 パステルの先祖がパステルの体を使ってランスに挑んできた時、ランスはその全てを返り討ちにしてその体を味わった。

 パステルの体に憑依していた先祖達は、肉体にも影響を及ぼし、中にはパステルよりも豊満な体もあれば、非常に小さい体も存在した。

「あの秘術をスラルちゃんが使えれば問題ないな、うん」

「…お前は妙にカラーに詳しいな。今更聞くつもりも無いが…まあそれはいい。ではカラーの元へ向かってくれるのだな?」

「うむ、JAPANには何時でもいけるからな。無敵ランス号があれば大陸の移動も楽々だしな。今のカラーを見ておくのも悪くない」

「そうか。それはお前に任せよう。ではいい加減に体を拭いて上がるとするか。ランス、本当にこれ以上は無しだ」

 ケッセルリンクはそう言って立ち上がると、その見事なまでの体が水を弾き、幻想的な光景を映し出す。

 もしこれが風呂の中でなければ、まさに絵になる光景だっただろう。

「がはははは! スラルちゃんをどうにかした後は、またスラルちゃんとケッセルリンクと3Pじゃー!」

 ランスはこれからの光景を頭で想像しながら、ケッセルリンクと共に風呂から出た。

 

 

 

「と、いう訳でカラーを探すぞ」

「また唐突ね。まあ私はランスについていくだけだけど」

「私も構わない。カラーとは一度ゆっくり話してみたかったし」

「ランスさんのお好きにしていいと思いますよ」

「う、うむ…」

 レダ、スラル、パレロアがあっさりと自分の言葉を肯定した事にランスは思わず口ごもる。

(うーむ、かなみや志津香やマリア達と比べて随分とスムーズだぞ)

 今まではランスの仲間がランスに振り回されるという事が多かったために、彼女達はほぼ必ず愚痴を零していたが、今の女性達にはそれが無いためにランスは少し驚いてしまった。

「で、ケッセルリンク。そのカラーはどの辺にいるか分かるの? 昔と同じ所?」

「いや…移動はしているらしい。何しろ私がカラーでは無くなってから500年だ…幸いにも魔王ナイチサはカラーには興味は無いし、魔物兵もカラーを相手にするつもりは無いからな」

 ケッセルリンクは一度ため息をつく。

 そこには500年分の郷愁のようなものが感じられる。

「私も魔人になったからにはカラーに関わっていはいけない…と思っていたが、どうしても気になってな。だが、私自身が動いて魔王にいらぬ行動されるのもごめんだからな」

「魔王ナイチサか…伝聞と歴史から見ればその破壊衝動は全て人間に向けられている…私はあまり破壊衝動は無かったけど、今の魔王は相当ね」

 スラルは過去の自分と今の魔王を比較し、その血の破壊衝動の凄まじさに体を震わせる。

 自分もかつて一度だけその破壊衝動に身を任せた事があった…それからだ、自分で自分の事が恐ろしくなったのは。

「魔王を刺激するのは確かに止めたほうがいいわね…魔王はこの地上における最強の存在、睨まれて良い事は一つも無いわ」

 レダも魔王の強さについては知っている。

 自分程度のエンジェルナイトでは到底敵わない存在だという事も。

「まあカラーだから森の方にはいるだろ。その付近で情報を集めればいい」

 ランスの言葉にパレロアが手を上げる。

「む、どうしたパレロア」

「それなのですが…そろそろ一度補充をしたいです。タオルとかもそろそろ交換したいですし…」

「そういや最近寄ってなかったな…じゃあまずはそっちで補充してからいくか。構わんな、ケッセルリンク」

「ああ。お前の好きにすればいい。私は特に何も言うつもりは無いよ」

「じゃあそうするか。適当な町で整えるぞ」

 このランス達の決断が、ある一人の人間の運命を変えることになるのをこの時点では誰も知らない。

 

 

「こんなものでしょうか」

 ランス達はカラーの森に近いと思われる町で物資の補充をしていた。

「でもケッセルリンクがお金を持っていて助かったわ。私達は殆ど持ってなかったし」

「まあ私も人と無用の争いをするつもりは無いからな。以前お前達と共に行動していた時に残しておいたものだ。私には必要無いからお前達で使ってくれればいい」

 ケッセルリンクはフードで顔を隠しながら辺りを見ている。

 幸いにも今は夕方のため、ケッセルリンクも問題無く行動出来ている。

「しかしあの乗り物は凄いな。ここまであっという間にこれたのだからな」

 ランスと共にバイクに乗ったが、確かにこれは非常に爽快だった。

「でもケッセルリンクは使えなかったのよね…やっぱり才能が必要なのかしらね」

「…言うな」

 からかうようなレダの言葉にケッセルリンクは憮然とする。

 試しに乗らせてもらったが、まったくもって運転する事が出来ずに何回も転んでしまった。

「ランスの才能が羨ましいな…私も自由に動かしてみたかった」

「気持ちは分かるわ…一緒に乗ってても爽快だしね」

 ケッセルリンクとレダは顔を合わせて頷きあう。

 自分達で動かせないのが非常にもどかしく、そして悔しい思いをしていた。

「しかしランスさんは何処に行ったのでしょうか?」

 パレロアの言葉にレダはヒラヒラと手を振る。

「スラルもいるし、ランスがやられる訳無いでしょ。どうせフラフラしてるんでしょ」

「心配はいらないさ。待ち合わせ場所に行けば問題ないさ」

 二人の言葉にパレロアは少し曖昧に笑う。

 この二人はランスとの付き合いは長いとの事だが、変な意味で信頼されているのだなあと感じていた。

 

 そしてランスはと言うと…

「で、スラルちゃんは何をしているのだ」

「いや…なんかね。気になる情報を聞いちゃってさ」

 スラルはランスを連れて路地裏に来ている。

 そこでは何やら男達が話をしている所だった。

「で、首尾はどうだ?」

「問題ありません。必ずあの貴族の家を没落させれますよ。その際にはよろしくお願いしますよ」

 偉そうな男に報告をしている者が、媚び諂うように笑っている。

 その顔はスラルから見ても醜悪で、もし魔王であった時ならば問答無用で排除していただろう。

「あのお嬢様達を本当に私達の村の共有財産にしていいんですね」

「好きにしろ。私達が必要なのは金であり、あの貴族の親子ではない」

 スラルはその会話を聞いて眉をひそめる。

 よくある悪巧みのようだが、会話から察するにこの国の貴族を没落させ、その家族を性奴隷にしようという相談をしているようだ。

 諜報LV1…スラル自身も気づいていない技能は、これから起こる重大な事件の情報を嫌でもスラルに教えてしまっていた。

 この技能のせいで、スラルはランスとカミーラ、そしてケッセルリンクの情事を何度も覗く事になってしまっているのだが、本人は勿論そんな技能は知らない。

「よくある悪巧み…なのかしらね。でも本当に人間って欲望のために相手の足を引っ張るのが好きよね」

「人間なんてそんなもんだろ。自分の欲のために動かない人間などおらんだろ」

「…まあ性欲が第一の人間がここにいるわね」

 スラルは半眼でランスを睨む。

 ランスは間違いなく稀代の英雄だろうが、その行動理念は自分の興味と性欲に完全に結びついている。

(ランスが本気なら、人間の統一なんて簡単でしょうね…でもその気が無いからランスなんでしょうけど)

 これまでの付き合いから、ランスが権力や力にそこまで執着していないのは分かっている。

 何より冒険が好きという事もあり、一つの場所に収まっているタイプではない。

(権力は好きだけど、飽きたらその場で突然消えるタイプよね…だからこそ、魔人として欲しかった訳だけど…)

 スラルがかつてランスを魔人へと誘っていたのは、その強さだけではなく、自分を自分として見てくれているという面が大きかった。

 魔王である自分に媚び諂うでもなく、誰にでも自然体に振舞う人間に非常に興味を惹かれた。

 そして自分の予想を完全に斜め上の方向に突っ走る存在…だからこそ、自分の手元に置いておきたかった。

「で…どうするランス? あいつら、この国の貴族を潰して、その家族を性奴隷にしようと企んでるみたいだけど」

「なんだと? それはいかんな。その美人の貴族の娘は俺様のものだぞ」

「もう自分のもの認定なんだ…しかも確かめもしないで自分の脳内で美人に変換されてるし…」

「がはははは! 貴族をぶっ潰すのもいいが、恩を売ってその娘を頂くのもいいな!」

 ランスの笑い声が響くと、

「誰だ!?」

 当然その声は気づかれる。

 が、ランスもスラルも別に特に気にしてはいない。

 ばれても構わないと思っているし、何よりもランスに勝てる人間などいないのだから。

「がはははは! 随分と好き勝手言っていたではないか! その貴族の美人の娘は俺様の物だ!」

「うーん、言葉だけ聞くとランスが圧倒的に悪人よね」

 堂々と姿を見せたランスに、偉そうな男が鼻で笑う。

「フン、下郎が。おいお前達、この男を片付けろ」

 男の言葉に全員をナイフを抜いてランスに迫る。

「おう兄ちゃん。こんな所で居た自分を恨むんだな」

 下卑た笑みを浮かべながら、男達はランスに向かって無造作に歩いていく。

 男達からすれば、ランス等まだまだ子供に見えたのだろう。

 だからランスが帯剣してても簡単に殺せると思って近づいていく。

「フン」

 だからか、ランスの剣が無造作に振られた時、男達には何が起こっているか分からなかっただろう。

「へ?」

「雑魚が」

 そのランスの声が聞こえていたかどうかは分からない。

 しかし男達は動かなくり、その首が3つ揃って落ちる。

「何?」

 偉そうな男は、まさか男達がやられると思っていなかったのか、その声には僅かな動揺が含まれている。

「これだから相手の力量も計れない奴は嫌よね。ま、どうでもいいけど」

「世の中にはこういう奴らがほとんどだ」

 ランスは偉そうな男―――この国の貴族の一人に向かって剣を突き付ける。

「で、お前も死ぬか」

「ま、待て! な、中々強いではないか! ど、どうだ!? 私に仕えないか!?」

「アホか。何で俺様がお前程度に仕えなければならんのだ。お前が俺様の下僕になるのだ」

 そのランスの笑みはまさに悪党と言っても過言では無いだろう。

「ランス…あんたの方が圧倒的に悪役みたいよ」

「何を言っている。俺様は正義の味方だ。だからこうして悪党の一人を改心させてやろうとしてるのではないか」

「ひっ!」

 ランスの剣が首筋に食い込み、少しでもランスが剣を引けばそれだけで自分の首があっさりと撥ねられるのが分かる。

「ま、待ってくれ! お、お前達は何者だ!? お前達が私を殺す理由なぞ無いだろう!?」

「何を言っておる。お前が死ねばその美人の貴族が奴隷になる事は無いだろう。お前を殺す理由はそれで十分だ」

「か、金か!? 金なら払う!」

「そんなものお前を殺してから奪えばいいだけだ」

「ひ、ひ~!」

 ニヤニヤと笑うランスにスラルはため息をつく。

「はいはい、ランスもそんな茶番はいいから。本当はどうするつもりなの?」

 突如として聞こえてきた女性の声に、貴族の男は思わず声の方向を見る。

 それは自分に突き付けられている剣から聞こえてきてた。

「がはははは! それは当然その貴族のお嬢様を俺様が助けて美味しく頂くに決まってるだろうが! 人助けの正当な報酬だぞ」

「そんな事だと思った。でもさ、具体的にはどうするのよ。こんな小物を殺しても意味なんて無いわよ。別の実行役が出て来るだけよ」

「とりあえず情報は集めておく必要はあるな。喜べ、お前に俺様のために働く名誉をくれてやろう。嫌なら別に構わんぞ。男の命がどうなろうが俺様の知った事では無いからな」

「そ、そんな…」

 男には嫌でも分かってしまう…この男は本気だ。

 自分の命を奪う事に何の躊躇いも無い男だと理解させられる。

「まあ取り敢えずお前には全てを喋ってもらうぞ。おかしな真似をすればお前は間違いなく死ぬぞ」

 ランスの鋭い眼光に貴族の男はただただ震えながら頷くしかなかった。

 

 

 

 宿屋―――

「で、今度はどんな厄介事を持ってきたのよ」

 床に転がされている身なりのいい人間を見て、レダは呆れた様に、そして何時もの事と言わんばかりに半眼でランスを見ている。

 その人間は最初は好色な視線を向けていたのだが、ケッセルリンクが姿を見せたことにより、今はもう震えるだけだ。

 ケッセルリンクに事情を話すと、彼女の目が細まり、その強力なプレッシャーを隠す事無く部屋へと入ってきたのだ。

 魔人のプレッシャー…しかも夜のケッセルリンクとなると、そこに存在しているだけで普通の人間は生きた心地がしないだろう。

 今のランスとて、本気のプレッシャーを放つケッセルリンクには話しかけづらいのだから。

「それはこの馬鹿に聞けばいい」

 ランスの言葉にレダは冷淡に男を見る。

 レダのあまりにも冷たい、ある意味無機質に見えるその目を見て男はよりいっそう体を小さくする。

「シャロンの時と似たような感じね。こいつらがいいがかりをつけて、この国の貴族の一つを没落させようとしているのよ。金、権力、欲望…言い返せばキリが無いわね」

(ランスもその欲望は強いけど…執着が無いのよね。性欲は別だけど。でもそこがランスの魅力でもあるのよね)

 ランスにとっては金も権力も必ずしも必要な物ではないのだろう。

 自分がやりたい事をするために金も権力も求めはするが、目的が達せられれば容易くそれを手放してしまう。

「答えろ。貴様は何のためにその貴族を潰すのだ」

 ケッセルリンクの声に部屋の温度が比喩ではなく、確実に下がるのが感じられる。

 パレロアは普段は優しく、争うことを決して好まないケッセルリンクが、このような冷たい声を出すことに思わず体が震えてしまう。

 そんなパレロアを見て、ケッセルリンクは優しく微笑む。

「すまない、パレロア。しかしこの男達が何をしようとしているのか…そして誰を不幸にしようとしているのか知る必要がある」

 ケッセルリンクはカラーであった時から誰かを守るという事をしていた。

 魔人となってからは、魔王でありながら臆病であったスラルを守るという思いを持っていた。

 しかしスラルは命を落としたが…ランスによって助けられ、今は人生を心行くまで楽しんでいるだろう。

 そしてシャロン、パレロアと不幸な運命を辿る女性達と出会い、ランスと共に彼女達を救った。

「知ったからには…私にはそれを見過ごす事は出来ない」

 ケッセルリンクは男を鋭く睨む。

 それだけで男は本当に命を落とすのではないかという感覚に襲われる。

「まあまて。所でお前が潰そうとしている貴族だが…美人の娘はいるか」

「へっ?」

 ランスの言葉に男は思わず声を上げる。

 ランスの声は真剣そのもので、ふざけている訳ではない。

 本気で気になって聞いているのだ。

「エ、エルシールなら美人で気立てもいいと評判です…だからこそあいつが…」

 言葉に出して憎しみが募ってきたのが、男の声が若干低くなるが、その声もケッセルリンクのプレッシャーによりどんどん小さくなっていく。

「わかった! お前、そのエルシールに振られたな? だから潰そうとしているんだろ! がはははは! そんな小さい男だからお前は振られるのだ!」

 ランスの言葉に男の顔が驚愕に染まり、同時に羞恥と怒りで顔が赤くなる。

「あ、あの女が悪いんだ! この俺の側室にしてやるという言葉を無視して…」

「黙れ、それ以上の言葉は必要無い」

 男の怒声を遮る様に、ケッセルリンクが一層に冷たい声を出す。

「下らぬ理由だ…自分が振られた腹いせにその女を不幸にしようとするとは…断じて許しがたいな」

 ケッセルリンクの視線はまさに人を殺せるほどの勢いだ。

「待ちなさいよ、ケッセルリンク。そんな下らない理由だけで貴族を潰すなんて事も無いでしょ。こいつの下らない面子のために動いていたら、この国に貴族なんて存在しなくなるわよ」

 それまで一言も口を出していなかったスラルがランスの剣から姿を現すと、男はそれを見て悲鳴を上げる。

「それにこいつがそこまで有能にも見えないしね…この手の人間の背後には必ず糸を引いてるやつがいるものでしょ」

 スラルが男の顔を覗きこむ。

 その何もかも見透かしていそうな目に、男は先程とは違った意味で体を震わせる。

「で、実際はどういう目的でその貴族を没落させるのよ」

「な、何のことだよ」

 男の目が泳ぐが、

「ランスキーック」

 ランスの強烈な蹴りが男の顔面に突き刺さる。

「げべっ!」

 男は血を吐いて倒れる。

「別に吐いても吐かなくても構わんぞ。吐かせる口はお前以外にもあるからな」

 ランスの言葉に男は身を震わせる。

 男も貴族の中で育ってきたのでわかる…目の前の男は、自分の命など毛ほども思っていない。

 やる時は本当に躊躇い無く自分の命を奪う男の目だ。

「あの家の持つ権利を皆が欲しがってるんだよ! それを使って財を溜め込んでいるんだ! それを奪いたいのは当然だろうが!」

「なるほど…その貴族が持っている利権を奪いたいという事ね。だからこの国の悪徳貴族達が手を組んでる訳か」

 スラルは納得いったように頷く。

 聞けば極々単純な話だ。

 簡単な富の奪い合い…よくある人間同士の争いだ。

「やっぱり下らん理由ではないか。ランスキーック」

 ランスの蹴りが炸裂し、とうとう男は動かなくなる。

 どうやら気絶したようだ。

「で、どうする? ランス。流石にこの貴族を潰すとなると面倒くさいわよ」

 勿論出来ないとは言わない。

 ランスならば、こんな国を簡単に掌握し、潰すことが出来るだろう。

「うーむ」

 ランスは考える。

 今までの事から考えても、レダ、スラル、ケッセルリンクという戦力でもこの国の貴族を潰すことは不可能ではないだろうが、非常に面倒くさいし、そもそもこんな国には興味は微塵も無いのだ。

 その貴族の美しい娘を頂くことが出来ればそれでいい…和姦ならばそれが一番いいと考えている。

「ここからどうやって俺様に惚れさせるか…」

「ランス…お前そんな事を言ってる場合では…」

「ランスさん。何とか助けてあげる事は出来ませんか」

 ケッセルリンクの言葉を遮って、パレロアはランスを見る。

 その顔は悲哀に満ちており、何とかしてあげたいという決意のようなものも感じられる。

「そう言うがな。ただこいつらの目的を伝えるだけではどうにもならんぞ。結局必要なのは力だからな」

 こういう貴族は本当に面倒くさいとランスは思う。

 これまでの冒険でもゼス、ヘルマンといった貴族連中は本当に腐っており、その皺寄せは全て市民に向けられていた。

 リーザスに関しては、その手の貴族達は全て魔王ジルによって殺され、リアは何も問題無く王位を継承出来た。

 リア、そしてマリスの優秀さも有るが、何よりも敵対する連中が根こそぎ魔王という人類の共通の敵に殺されたのが大きいのだ。

「でもランスさんなら…その家族を助ける事が…」

「落ち着きなさいよ、パレロア。助けると言っても色々な意味があるのよ。命だけを助けるか、それとも家自体を助けるか…それによって全てが変わるわよ。この国の貴族なんだから」

 スラルの言葉にパレロアは悲しそうに顔を伏せる。

「私やルートを助けてくれたときのようにはいかないのでしょうか…」

「いかないでしょうね。どちらが倒れようとも間違いなく争いは起こる。ましてや、この国を狙う国は中だけではなく外にもあるんだから」

「で、ケッセルリンク。あなたはどうしたいの?」

 レダの言葉にケッセルリンクは考える。

「………」

 咄嗟に言葉が出てこないのは自分でもわかる。

 自分はただ漠然とその不幸になるであろう少女を見過ごせない…それは理解しているのだが、それからがどうすればいいのか、そして何をしたいのかが見えてこないのだ。

「ケッセルリンク。自分がこの世界にいる不幸な娘を助けたい…なんて考えはやめなさいよ。絶対に出来ない事なのだから」

 ケッセルリンクはそう言い放つスラルを見る。

 そこには魔王であった時と同じような目をしている少女の姿があった。

「あなたは魔人だけど万能ではない。この世界に不幸な娘がどれくらいいると思う? それら全てにあなたは手を差し伸べるの?」

「スラル様…」

「無理でしょ? 魔人はあなた以外にもいる…そして魔人は魔王の命令には逆らえない。貴女が助けた娘を殺せと言われれば…あなたはそれをしないといけない」

「私は…」

 ケッセルリンクは珍しく苦しい表情を浮かべる。

 かつての己の主の言う事は正しい…自分ではこの世界の全ての不幸な少女を救う事は出来ない。

「ランス…お前ならばどうする?」

「可愛い女の子は助ける。男とブスは知らん。そして礼としてヤらせて貰う」

 自分の苦悶を下らないと言うかのようにランスは答える。

 それを聞いてケッセルリンクは呆れたように乾いた笑いを上げる。

「…お前は本当に変わらないな。だが、それが今は羨ましい…確かに私は傲慢だったのかもしれないな…しかし、知った以上は何とかしてやりたいとも思う」

「それでいいじゃない。ランスは極端すぎると思うけどね」

「何を言っている。それが世界の真理だ」

 堂々と胸を張って言い放つランスにその場にいる女性達が苦笑いを浮かべる。

「ランスはともかく…スラル様、どうすればいいでしょうか? 正直私にはいい考えは浮かびません」

 ケッセルリンクは人間界での知識が少ない。

 カラーであり魔人であるのだから当然なのだが、いざその少女を救いたいと思っても、具体的なプランが何も思い浮かばないのだ。

 ケッセルリンクの言葉にスラルも困ったように曖昧な笑みを浮かべる。

「私もそんなに人間の事に詳しい訳じゃないから…ランス、あなたはどう考えてるの?」

 スラルの言葉にランスは少し考える。

 ランスの目的はあくまでもその貴族の娘を頂く事であり、正直この国がどうなろうが知った事では無かった。

 それにそういった政治的な事はランスにとっては興味が無い事であり、その手の事は全てリアを初めとした優秀な人間に任せてきた。

「何はともかく、まずは情報を集める事だな。だが、その手の奴がいないのがな…」

 ランスはこの場に居るメンバーを見渡して考える。

 ケッセルリンクは魔人ではあるが、そういう情報を集めるのは得意では無さそうだ。

 レダも人間にあまり興味が無いためか、その手の事は得意では無いだろう。

 パレロアに至っては論外だ。

「スラルちゃんなら出来るのだろうがな…俺様の剣から離れられないだろう」

「そうね。情報の精査なら得意だし、なーんか昔から妙にその手の情報が不思議と入ってくるのよね。でもランスの剣からは離れられないのがね…」

「こういう時にまおーが居ればね…」

 レダは未だにぬいぐるみの状態から戻らない大まおーの事を思う。

 あの奇妙な物体は何故かその手の事が上手というまさに理不尽な存在だが、非常に頼りになる存在でもあった。

「やっぱりこいつに吐かせるのが一番だろ」

 ランスは気絶している貴族の男の頭を踏みつけながら当然の様に答える。

「それが一番早いわね」

「…そうだな。そこはランスに任せよう」

「がはははは! エルシールちゃんを助けてお礼のセックスじゃー!」

 ランスの楽しそうな笑いが部屋を木霊する。

 こうしてまだ見ぬ貴族の娘エルシール…彼女には色々な意味での危機が襲い掛かろうとしていた。




やっぱり今週も忙しくて更新は難しいかもしれません
それでももう一回くらいは更新出来ればいいと思います
申し訳ないです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。