ランス再び   作:メケネコ

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ありふれた内情

 男は名門貴族の長男として生まれた。

 長男として甘やかされ、当然の如く非常に我儘に育った。

 これで才能があれば何も問題は無かったが、生憎とその男には才能は全く無かった。

 そして男の親にはライバル…というよりも目の上のタンコブとも言える家が存在していた。

 その家には幸いにも女性しかおらず、これ幸いにと自分の親も結婚相手にと色々と手を回したが、効果は然程無かった。

 自分を袖にした貴族の女性…エルシールを男は憎んだ。

 自分がエルシールと結婚できれば、何れは自分がエルシールの家を継ぐ…しかし貴族の誰もがそれが叶わなかった。

 となると貴族の誰もがその事を疎ましく思った。

 元々利権の独占から財を蓄えており、なまじ合法的に財を築けるのだから誰もがその利権を欲しがった。

 だからより簡単な方法を取る事にした。

 それがあの家を潰す事だった。

 そして潰した後は、あの家族を領地の共有財産…性奴隷として扱い、人間としての尊厳を奪う。

 今はそれこそが目的になっていた。

 その目的は叶い、今はあの憎いエルシールが卑しい下民にモノのように扱われ、泣いて自分に懇願している。

 それが何よりも男の自尊心を満たしていた。

 そして自分がエルシールを可愛がってやろうとした時、

「起きろ、クズが」

「ゲッ!」

 強烈な一撃を腹に感じ、男は反吐を吐きながら起き上る。

「な、何だ!?」

 男が慌てて目を向けると、そこには剣を構えた男が自分を蹴っていると理解出来た。

「あ…」

 そして思い出す、自分の今の状況を。

 今自分は命の危機にあったという事を。

 男―――ランスはニヤリと笑いながら貴族の男に指を突き付ける。

「貴様の処遇は決まった。貴様は今から俺様の下僕だ」

「何を! 貴族に対して卑しい下民が!」

 自分の恫喝にも男は顔色一つ変えない。

「がはははは! 貴様の意見など聞いとらん! どうせ貴様は俺様に従うしかないのだからな! ケッセルリンク!」

 ランスの言葉にフードを被った女性が男に近づいていく。

 男は近づいてくるケッセルリンクに対して嫌でも体が震える。

(そうだ…この女だ。この女が…誰よりも恐ろしい…)

 この女からは生き物として根本的な恐怖しか感じられなかった。

 一緒の部屋に居る…それだけで体が震え、思わず命乞いをしたくなる…そんな存在だった。

 女性がフードを脱ぐと、その全身像がようやく見える。

 そして男はその女性を見て驚愕の声を上げる。

「カ、カラー?」

 その女性が人間とは決定的に違う点がある…それが額のクリスタルだ。

 それこそがカラーの証なのだ。

「がはははは! そうだ、カラーだ! お前もカラーの呪いの事は聞いた事はあるだろう!」

「の、呪い…」

 それはカラーが人間から恐れられている理由の一つ…人では容易に解除が出来ない恐ろしい呪いの力だ。

 だからこそ、人間はカラーには容易に手は出せない…それがこの時代の常識だった。

「今からこいつがお前に呪いをかける! お前が俺様に逆らえば…」

 ランスはそこで言葉を切って最高に人が悪い笑みを浮かべる。

「さ、逆らえば…?」

 男はもう既に言葉が完全に震えている。

 それ程までに、人にとっては未知の恐怖とは恐ろしいモノなのだ。

「お前はホモになる」

「…え?」

「お前はホモになると言ったのだ」

 男は一瞬何を言われているのか分からなかった。

「これからの一生をホモとして生きて行く事になる」

 間を置いて男が言葉を理解する。

「そ、そんな…」

 恐ろしい現実に男は身を震わせる。

「た、頼む! それだけは…それだけは勘弁してくれ!」

「がはははは! 自分だけ助かろうなどそんな虫のいい話があると思ってるのか! お前はこれから男に欲情するホモとして生きて行くのだ!」

 ランスは最高の笑顔で笑うと、そこで一度言葉を止めて、最高に悪い顔で男を見る。

「ケッセルリンク! やっていいぞ」

「分かった」

 ケッセルリンクはランスの言葉に合わせて右手を男に向かって突き出す。

 そこから魔力が溢れ、その魔力が男に向かって突きつけられる。

 そしてその魔力が男に突き刺さった時、

「終わったぞ。お前はこれからこの男に従わねば、これからの一生をホモとして生きる事になる」

「そ、そんな…」

 男は絶望に染まった顔を見せる。

 ホモとなれば家督を継ぐのはほぼ絶望的…他の真っ当な家族に引き継がせるのは当然の事だからだ。

「ただーし! 貴様が俺様の言うとおりに動けばその呪いを解除してやろう!」

「! ほ、本当か!?」

「勿論俺様の言う事を忠実に守ればな」

「わ、分かった! 守る! 守ります! だから…」

 男の哀願にランスは再びニヤリと笑うと、

「よし、ならばまずはこの件に関わっている奴等を全て教えろ」

「く、詳しい内容は俺は知らない…本当なんだ! でも家に戻れば何とかなる!」

(一度家にさえ戻れれば、カラーの呪いを何とか出来るかも…)

 男のそんな考えを見透かしたように、ランスは剣を突き付ける。

「スラルちゃん!」

「はーい」

 ランスの声に合わせてスラルが剣から出てくる。

「ひっ!」

 その姿は先程の半透明の女性だった。

「見ての通りスラルちゃんは幽霊だ。そのスラルちゃんがお前の事を見張っとるからな」

「そ、そんな…」

 スラルはニヤリと笑うと、そのまま男に取り付く様にその体を男の背後に寄せると、そのまま姿が消えていく。

「下手な行動をしようと思わん事だ。何時でも呪いは発動するぞ」

 ランスの言葉にとうとう男は絶望的な顔で素直に頷いた。

 

 

 

「あれで良かったのか? 私は呪いなど使えないぞ」

「構わん。脅しとしてはあれで十分だ。具体的に何をしたらホモになるかなんぞ、あの男には分からんのだからな」

 男が意気消沈して部屋を出た後、ケッセルリンクは少し困った顔でランスを見ていた。

 勿論、ケッセルリンクが男に呪いをかけたというのは真っ赤な嘘だ。

 そもそも自分は呪いの類は得意では無く、専ら剣と魔法で戦うカラーの異端児だったのだから。

「ルルリナ様ならその手の呪いは得意だが…生憎と私はな」

「それに私が幽霊として取り付いて監視してるなんて嘘をついて…本当にいいの?」

 スラルがランスの剣から姿を見せる。

 男に取り付いたなんて勿論嘘だ。

 そもそもスラルはランスの剣から遠くに行く事は出来ないのだから。

「いいんだ。あれで十分だ。これであの男から情報が入って来るだろ」

 ランスの言葉は全て嘘であり、男を従わせるためのフェイクでしかない。

「悪辣ねぇ…でもこれからどうするの? あの人間は所詮は下っ端、中心人物じゃないわよ。いざとなれば捨てられる男よ」

 スラルの言葉にランスは笑う。

「がはははは! ああいう自分の命やプライドにしがみ付くクズが一番扱いやすい。余計な事はさせないでおけばそれでいい」

「だけどあいつが下手に動いて殺されたら?」

「その時は別の奴を探して脅せばいい」

 ランスは気楽そうに言うが、スラルは若干不安になるが、実際には自分にも妙案が浮かばないのは事実だ。

 それにあの男は仮にも貴族の子息…そう簡単に処罰される事は無いと思い、これからの事を考える事にする。

「ランスさんが乗り込む…事は出来ないのですか?」

「貴族の連中が冒険者を雇うなど普通はありえんからな。いくら俺様が偉大でも、それを理解出来ないクズが世界には多いからな」

「は、はあ…」

 自信満々にいうランスに思わずパレロアは言葉を濁してしまう。

(その自信は何処から来るのでしょうか…ランスさんが普通の人物で無いのは確かですけど)

 魔人とも渡り合える人間がただの人間の訳は無いが、全てが性欲に結びついているため、どうしてもそこがネックとなってしまう。

(でも…そういう所がいいのかもしれませんね)

 ランスは自分よりも年上との事だが、どう見ても外見も内面も自分よりも下ではないかと思ってしまう。

(そこが…可愛いというか)

 子ども生んだ事のあるパレロアには、そんな子供っぽい一面もあるランスがどうしても放っておけない。

 それに…こんな自分の体をあそこまで求めてくれるとなると、自分も女としてどうしても嬉しい一面がある事に気づかされた。

「がはははは! 楽しくなりそうだぞ!」

 何かランスにとって楽しいことが起こりそうな予感に、ランスは高笑いを上げた。

 が、ランスの予感は完全に外れてしまう…それも悪いほうへ。

 

 

 

「何だと!?」

「ヒッ!」

 貴族の男はランスの怒鳴り声を前に体を竦ませる。

「もう手遅れとはどういう事だ!?」

「わ、私に言われても…もう国王様もご承知の事だと…」

 男の報告はランスにとっても予想外の事だった。

 既に事態はもうランスにもどうしようもないくらいに広がってしまっていたのだ。

「これは…困ったわね」

 スラルもこの情報を聞き難しい顔をする。

 まだ計画が始まったばかりだったり、計画の途中ならばまだ干渉出来る事が沢山有るが、ここまで進んでいては出来る事は殆ど無い。

 しかも国王も知っているとなると、この悪徳貴族の企みに王族も乗ってしまったという事だ。

「スラル様…」

「正直…もう出来る事は無いわね。貴族としてその娘を助けようとすると、この国を潰す必要が出て来てしまう」

「え…」

 スラルの言葉にパレロアは言葉を失う。

 まさかそんな事が…と言いたいが、スラルの顔は苦渋に満ちており、その言葉が真実だと嫌でも悟らされる。

「でも国を潰すとこの国を狙っている別の国がこの国を攻める…となると、結局はその貴族の娘はどちらにしろ奴隷として生きる事になってしまう…」

 スラルは頭を回転させるが、どうあっても『貴族の娘』として、その娘を助けるのは不可能だった。

「ランス…どうする? 正直私にはどうすればいいかわからない」

 スラルの言葉にランスは考える。

 ランスの目的は勿論貴族の娘であるエルシールとヤル事であり、必ずしも彼女の家を守る事では無い。

(命を助けるだけなら簡単なのだがな…)

 普通に考えれば命を助けるのも難しい状況なのだが、ランスはそれを容易い事と考えて疑わない。

 実際に、魔人であるケッセルリンクが居れば人間など相手にはならない。

 しかしそれでは『自分がかっこよくエルシールを助けて惚れさせる』という目的が果たせるかどうか怪しい。

 端的に言えば、ランスにとってはこんな国のことはどうでも良く、その美人の貴族の娘を頂くという事が重要なのだ。

「何にせよ、エルシールちゃんの希望を聞く必要があるな」

「そうね…でもこの状況で会えるかしら? その家もこの状況は分かってるでしょう?」

 スラルの言葉にランスは笑う。

「がはははは! こいつの名前を使えばいい」

 ランスは床に這いつくばっている男を指差す。

「まあいざとなれば力ずくでやればいい。どうせこの国はもうすぐ混乱するのだからな」

 ランスの人の悪い、そして実に楽しそうな笑いに皆が一斉に不安そうな顔をする。

 強きをくじくが弱きもくじく、気に入らない者斬り捨て御免 乱世の奸雄、治世の暴漢、全ての美女は俺様のもの…そんな男は今この時代を実に楽しんでいた。

 

 

 

「意外と簡単に面会出来ましたね」

「そ、それは当然です。自分は名家の嫡男ですから…」

 問題の貴族の家につくと、以外にもランス達はあっさりと通された。

 それもこの貴族のボンボンが居るからのなのだが、ランスは特段その事には興味は無かった。

 ランスの興味は貴族の娘であるエルシールのみだった。

「ですから呪いの方を…」

「何を言っている。お前が最後まで俺様の役に立つのが呪いを解く条件だ」

 男の言葉をランスは切って捨てる。

 男は悲痛な顔をするが、ランスは男にかける情など持ち合わせていないので、早々に男を無視する。

 周囲の人間も男には全く興味が無い様で、非常なランスにも何も声をかけない。

「お待たせした」

 厳しい声と顔をしながら身形のいい男が入ってくる。

 普段は威厳があるであろうその顔には既に隈が出来ており、目も窪んで充血している。

(当然彼もこの状況には気づいているか。でもどうしようもない状況にも気づいているって事ね)

 スラルはランスの剣の中から貴族の顔を見てそう判断する。

 この苦境を何とかしようと奔走してはいるが、味方がいないという事だろう。

 その証拠に、貴族の男を見る顔には憎しみを通り越し、殺意のようなものも浮かんでいる。

 男はその殺気に押されたのか、小さくなっている。

「で、我が家を潰そうとしている貴族の嫡男が何の用かな」

 ドスの聞いた声に男は完全に小さくなっている。

 その状況に当主は若干の不信そうな顔をする。

 てっきり何時もの様にこちらを嘲笑いに来たのかと思ったが、男は自分以外の何かに怯えているいるように感じられた。

「お前がエルシールちゃんの親か」

「…何?」

 貴族の男の護衛と思っていた男が、ふてぶてしい顔で自分の名前…いや、自分の娘の名前を呼んだ事に眉を顰める。

「で、エルシールちゃんはどこだ?」

「お前などに会わせる訳が無いだろう」

 貴族の当主はランスにも鋭い視線を向けるが、ランスはそんな事など全く気にしていないように逆に当主を睨む。

「大人しく会わせたほうがいいぞ。お前も娘だけは助けたいと思うだろう」

「何だと?」

 当主は貴族の男を睨むが、男は黙って首を振るだけだ。

「ランス、あなた喧嘩を売りに来た訳じゃないでしょう? 私に任せてよ」

 突如として何処からか女性の声が響く。

 当主はランスの周りにいる人物を見るが、フードを被った人間、戦士風の女性、メイド服を着た女性を見ても、それらはこちらに視線を合わせようともしていない。

「こんな姿で悪いわね」

 すると半透明の女性が男の腰辺りから出てくる。

「な、なんと!?」

 流石にそれには当主も驚く。

「悪いわね。最初に言っておくけど、私達はこいつらよりじゃ無いわよ」

 半透明の女性は貴族の男を見てから、ランスに合図を送ると、

「とーーーっ!」

「げべっ!」

 男の拳が貴族の男に突き刺さり、男はあっさりと気絶する。

 気絶した男をランスはソファから乱暴に蹴り飛ばす。

「お前達は…」

 この粗暴な男はてっきりこの貴族に雇われた護衛かと思ったが、まさか護衛の人間が雇い主に対してこんな態度を取る事はありえない。

 そう判断して、当主はより一層困惑する。

「私達が誰か、なんて事はこの際どうでもいいでしょ? 問題はこの家が潰されようとしている事実だけ」

「………話を聞こうか」

 味方かどうかは分からないが、まだ敵とも限らない…そう判断して当主は半透明の女性―――スラルを見る。

「聞いてくれて嬉しいわ。で、あなたはどこまで把握してるの?」

「…貴族達が我が家を潰そうとしている事までは分かってる」

 貴族の当主―――エルシドは苦い顔で腕を組む。

 自分の家が別の貴族達に狙われているのは知っているが、まさか本当に自分の家を潰そうとするとは思ってもいなかった。

 見通しが甘かったとも言えるが、外敵が居る中でまさか内部で争うとは思っていもいなかったのも事実だ。

 そして何よりも、自分の持つ利権…これが自分の家以外では成立しないのは他の貴族も分かっていると思っていた。

 だが、現実には自分の家は狙われ、合法的に潰されようとしている。

「じゃああなたの上…国があなたを潰そうとしているのは?」

 スラルの言葉にエルシドは大きなため息をつく。

「そうか…覚悟はしてたが、国が潰そうとしているのか…そこまで私が目障りだったか…」

 もしかしたらという思いはあったが、こうして事実を突きつけられると嫌でも理解してしまう。

 即ち、自分の家はもう終わりだという事も。

「確かに利権があるのは確かなのだが…私の家系無しに上手くいくと思ってるのだろうか…相手が納得する訳では無いだろう」

「あなたに成り代わろうとしている連中は沢山いるって事でしょ」

 スラルの言葉にエルシドは頭を抱える。

 まさかここまで短絡的に物事を考えているとは思ってもいなかった。

 しかもその自分の利権をそのまま継続できるとも考えている。

 そんな事で納得する相手では無いのだ。

「で、お前はどうする?」

 ランスは人の悪い笑みを浮かべながら問う。

 その笑みを見てエルシドは苦笑する。

 この男は自分の答えを既に分かっている、そんな事を感じさせる笑みだからだ。

「今更家を残そうとは思わんよ…この家が私の代で滅びるのは残念だが、それも時代の流れだ…だが、娘だけには被害が出ないようにしたい」

 最早こうなっては家の継続など二の次で、何とか娘だけは助けたいと思う。

 が、問題はその方法にあるのだ。

 目の前で笑っている青年は、間違い無く自分の娘を狙っている男だ。

 その態度を全く隠すつもりは無いようだが、それでもこの男に娘を預けるのは父親として許し難い。

(だが、この男がこの貴族を脅迫して動かしているのは事実だ)

 しかし方法は他には無いように思える。

 国外への脱出以外に娘を助ける手段は無いが、それからの事を考えると頭が非常に痛くなる。

「…君は娘を連れて、この状況から逃れる手段はあるのか?」

「当然だ。俺様に不可能は無い」

 間髪居れずに断言するランスにエルシドは呆れたような顔を浮かべる。

 この男はこの状況でも娘を連れて逃げるという事が容易いことだと信じて疑っていない。

 自信過剰の愚か者かとも思ったが、自分も貴族の中で揉まれていた男、目の前に居る青年が只者では無い事はわかる。

「ならばどうするのだ?」

「簡単だ。力ずくで突破すればいいだけだ」

「まあそれが一番簡単でしょうね。実際突破なら簡単でしょうし」

 いともアッサリと言い放つ二人にエルシドは流石に呆れたように唇を歪める。

 どんなプランが有るかと思えば、まさかの力押しだったからだ。

「それにこいつはまだまだ使えるからな。せいぜい役に立って貰うとするか」

 ランスは未だに気絶している男を踏みながら笑う。

「…まあもう私に出来る事は無いからな。君達に任せるとしよう」

 もう既に出来る事は無いのだ。

 後はこの男たちを信じる以外に出来る事は無いのだから。

「ランス。力ずくでいくのは構わないが、大丈夫なのか? その貴族の女性と、パレロアの二人を守りながらだと若干難しいと思うがな」

 ここで初めてフードの人物が口を開く。

 てっきり男かと思っていたが、どうやら女性だったようだ。

「問題無い。その手の奴等ほど自分の命は惜しいからな。一発でかいのをぶちかましてやればそれだけで終わりだ。死にたくない馬鹿共はそれで逃げていく」

「ランス…こんな街中でアレを使う気? 何が起きるか分からないわよ」

 レダはランスの言葉に眉を顰める。

 アレとは当然スラルの魔法の力を付与したあの一撃の事だろう。

 あれこそまさにLV3技能の魔法に匹敵する威力であり、確かに大混乱が起きるだろう。

「アレは無関係の存在を巻き込むから、あまり使いたくないわね。まあ他の方法もあるでしょ」

 スラルもアレを使うのには流石に抵抗が有る。

 まだ上手く制御が出来ないし、何よりも自分自身アレを魔物や魔人以外に使うのは止めておきたいところだ。

(何よりも一撃しか放てないんじゃ、切り札にしかならない。切り札は一度しか使えない…いつ切るかはランスに任せるけど、枚数は増やしたいわね)

 自分の技術ではランスの剣術にはまだついていけない。

 そのためにはもっと付与の力を研究する必要があるのだが、生憎とその兆しはまだ見えない。

「ランス、ここは別の方法を探しましょうよ。それにまだ時間は有るでしょうし」

「スラルちゃんがそう言うなら構わんぞ」

 ランスはスラルの提言を受け入れる。

 元魔王であるスラルは、長い時間を臆病に、そして慎重に生きて来たためか、その知識は非常に豊富だ。

(やっぱりカオスは駄目だな。俺様が持つ剣はやはり美女に限る)

 しかもカオスと比べて非常に可愛い。

 それだけでもカオスはポイして今使っている剣を使う価値がある。

(後は無敵結界を何とかするだけだな。俺様は天才だ。絶対に何とかなるはずだ)

「さて…どうするか」

 スラルは今の状況を心の中で少し楽しんでいるのを自覚する。

 魔王で有った時はあれほど臆病で、全ての物事に対して慎重に事を運んでいたつもりだが、ランスと一緒にいるためか、行き当たりばったりな事も多くなってきた。

(でもそれを私は楽しんでいる…魔王を止めてからまだ時間はたっていないのに…本当に不思議)

 スラルはこれからの事に頭を回転させるが、その考えは全て無駄に終わってしまう。

 既に危機はそこまで迫ってきている事を、まだ誰も知る由も無かった。




何とか更新ですが、まだ忙しいのは少し続きそうです
更新速度は戻したいですが、中々PCの前に座れないので少し厳しいです…
ランス以外の視点が長々と続くのは間が持たないので、その辺はあっさりと飛ばそうと思います
実際そこまで書くと作品が別のものになってしまいそうで…

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