ランス再び   作:メケネコ

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懐かしき再会

「と、いう訳でやってきたぞ。ここで間違いないのか」

「………ええ、そうです」

 ランスの問いにエルシールは口を押えながら答える。

「やっぱりまだ慣れませんか?」

 パレロアはエルシールの背中をさすりながら気遣う。

「…あなたはよく平然としてられるわね」

「慣れましたから」

 パレロアの答えにエルシールは内心で呆れながらも姿勢を戻す。

 自分以外が平然としているのを見て、エルシールは改めて気合を入れなおす。

 自分は父の最後の頼みを果たすべくここまで来たのだ。

 こんな所でへこたれている訳にはいかないのだ。

(それにしても…本当に只者じゃないのね。この人…)

 バイクを魔法ハウスに収納しているのを見て、エルシールは感心したようにため息をつく。

 それは初めてこの魔法ハウスに入った時だった。

 

 

 

「これは…家?」

 エルシールは突然現れた大きな家を見上げて、思わず口を開けてしまう。

 2階建ての大きな家は、この人数では大きすぎる程の広さを持つのが外観からも分かる。

「うむ、これが魔法ハウスだ」

「魔法ハウス…聞いた事が無いです」

 ミニチュアサイズの家の模型を地に置いたと思ったら、それが人の住める家になってしまった。

 それこそまさに『魔法ハウス』の名前に相応しいものだった。

 そして中に入るとさらに驚いた。

 きちんと整理されたリビングに、見た事のないキッチン、そしてボタン一つで煌々と灯る明かり…貴族の娘であるエルシールですらも考えられない程だ。

 これこそまさに金では買えないだろう。

「よし、移動するぞ」

 ランスが持ってきたのは、エルシールには何だか全く分からないものだった。

 辛うじて分かるのは、うし車の車輪が前後についているという事くらいだ。

「じゃあエルシールがランスの背中ね。この人数だけど乗れるほどの大きさなのが凄いわね」

 ランスはそれに跨ると、

「ほれ、エルシールちゃんは俺様の後ろだ」

「え…」

 エルシールはどうしていいか分からずに思わず周囲を見渡す。

「大丈夫ですよ」

 パレロアに促され、エルシールはその奇妙な物体―――バイクに跨る。

 するとパレロアも同じようにバイクに跨ると、自分の体にしっかりと手を回す。

「エルシールさんも同じようにランスさんにしがみ付いてください」

「え…は、はい」

 エルシールは思わず返事をすると、ランスの体に手を回してしっかりとしがみ付く。

「じゃあ行きましょうか」

 そして魔法ハウスを仕舞ったレダが、同じ様にパレロアの腰に手を回し、最後にケッセルリンクが後ろの僅かな隙間に座る。

「流石に狭いが…まあ私なら問題無いな」

「じゃあランス、行きましょうか」

「がはははは! 行くぞ!」

 ランスがバイクを操作すると、バイクが唸り声をあげたかと思うと、エルシールからすれば考えられないスピードで動き出す。

「き!」

 エルシールの悲鳴はランスのバイクの音にかき消され、彼女はバイクに振り落とされないように、必死にランスにしがみ付いていた。

 

 

 

 カラーの森の近くの村―――

「流石に最初は辛かったみたいね」

「………」

 レダの言葉にエルシールは何も言い返す事が出来ずにソファーに横たわっていた。

 うし車よりも明らかに早いスピードで移動出来ているが、その分安定感はうし車よりも遥かに悪い。

 そのスピードを体で感じとり、必死にしがみついている以外に出来なかった。

「しかし追っ手の方は無いようだな」

「仮に追っ手が私達を追っていたとしても、そんな簡単に追いつけないわよ。軍隊の移動なんてどうしても時間がかかるものでしょうし」

 ケッセルリンクの言葉にスラルが気楽そうに声を出す。

 自分の時代に比べても、人間の軍の移動速度はそんなに変わっていない。

 無論うし車等の普及もあって移動そのものは早いが、軍全部がうし車で移動出来る訳では無い。

 そんな軍がランスのバイクに追いつけるはずは無いのだ。

「で、ここがカラーの集落に一番近い村なのね」

「…そうです」

 スラルの言葉にエルシールは短く答えることしか出来ない。

 幽霊のスラル以外の皆が平然としているのがエルシールには信じられなかった。

「まあ明日にはカラーの所には着くだろ」

「…そうね」

 信じられないスピードだが、この村に来ているのが事実だ。

 最初はどうやって移動するのかと思ったが、まさかこんな移動手段があるとは想像もしていなかった。

「あの…アレは何なのですか」

「無敵ランス号だ」

「………」

 ランスのネーミングセンスに微妙な顔をしながら、エルシールは軽くランスを睨む。

 何しろこの男は猛スピードであの奇妙な物を走らせ、あっという間にこの町に近づいたのだから。

 だがそれ以上に驚くことがあった。

「………」

 無言でエルシールはその人物に視線を向ける。

 そこには寛いでいる一人のカラーの女性…ケッセルリンクの姿があった。

『夜の女王』魔人ケッセルリンク…その名前は当然人間界にも届いており、夜に出会えばまず命は無いと言われるほどの魔人だ。

 その魔人が、まさか人間と一緒にいるなど誰が想像出来るだろうか。

 しかもこの男とは知り合いのようで、更には夜を共にするという三重の驚きとなってエルシールを襲った。

 しかし魔人ケッセルリンクは驚くべきほど自分に紳士的あり、親と離れ離れになった自分を慰めてくれる。

 この姿を見ると、恐ろしい魔人だとは到底思えないほどだった。

「ランス…思いの他早くカラーの事が分かりそうだな…私としてはこれほどまでにスムーズに事が運ぶとは思わなかったぞ」

「俺様ならば当然だ」

 ケッセルリンクの言葉にランスは当然と言わんばかりに胸を張る。

 その態度はまさに自分への自信が見て取れるが、確かにこの男は只者ではないというのは嫌というほど分からされた。

 貴族である自分でも見たことの無いようなアイテムもそうだし、魔人と知り合いというのも凄い事だ。

 聞けば、ケッセルリンクとは彼女がカラーであった時からの知り合いとの事だが、そうなると年齢がおかしいと思ったのだが、彼の年齢を聞いてより驚く。

 自分よりも年上との事だが、どう見ても自分と同い年、若しくは年下としか思えない容姿をしている。

 聞けば『時の聖女の子モンスター、セラクロラス』の力で時を越えているとの事だが、到底信じる事は出来ない。

 が、魔人ケッセルリンクも他の女性…レダとパレロアもそれを肯定している。

「カラーかぁ…実は私もそこまで知ってる訳では無いのよね」

 そして驚きの一つである、幽霊の女性が興味深そうに目をキラキラさせている。

 この少女はスラル…何でもランスの持つ黒い剣の中にいるとの事だが、こちらの少女も謎が多い。

 かなりの博識だし、何より自分の中に魔法の才能があると見抜いた人物でもある。

(魔法…か)

 今まで考えた事も無かったが、どうやら自分には本当に魔法の才能があったようだ。

 軽い魔法ならば自分も少しは使えるようになったのだから驚きだ。

 最もまだ実戦レベルには届いていないとの事だが、この人達の言う実戦レベルとはどれほど高いのだろうと思う。

 魔物に襲われたこともあったが、実にあっさりと魔物達は退けられた。

(魔人がいるから強いんじゃない…この人達が異常なまでに強いんだ)

 特にこの男の剣はまさに常軌を逸している。

 自分も貴族の出、国を挙げての演習や、武道大会等は見学したことはあるが、この男はまさに次元が違う。

 自分が戦いにおいては素人であり、レベルも低い。

 しかしこの男達は一体何レベルあるというのだろうか…パレロアは完全に一般人のようだが、それでも動きは自分よりも格段に素早い。

「あの…皆さんのレベルはどれくらいなのですか?」

「む…そういえばバイクの件があってからクエルプランちゃんを呼んどらんな。という訳でカモーン! クエルプラン!」

 ランスが指を鳴らすと、突如として部屋に眩い光が溢れる。

「きゃっ!」

 エルシールはその光量に思わず目を閉じる。

「おい! 眩しいぞ!」

「申し訳ありません、ランスが最近私を呼ばなかったものですから」

 光が弱まりようやくエルシールは目を開くことが出来る。

「うわ…」

 そしてそこで見たのは、まさに神々しいとしか言いようの無い美女が浮いていた。

 エメラルドのような緑の瞳、小さくも形のいい唇、キメ細やかにキラキラと光を放つ薄紅色の髪…これほど完璧な女性を彼女は見た事が無かった。

「がはははは! クエルプランちゃんも俺様に会えなくて寂しかっただろう! 何時ものようにレベルアップだ!」

「わかりました。では…はい、ランスはレベル58になりました」

「うむ、もう少しだな」

「レダはレベル63になりました」

「まだまだ先は遠いわね」

「スラルはレベル58になりました」

「これでもっと魔法の制御が上手くなればいいけど」

「パレロアはレベル28になりました」

「私のレベルが上がることに意味はあるのでしょうか…」

「エルシールはレベル13になりました」

「え、私もですか?」

「皆様のレベルアップは終わりました。ランス…もう少し私を呼んでもいいのですよ」

「うむ、これから毎日呼んでやろう」

 ランスの言葉にクエルプランは少しだけ表情を変えた…ように見えた。

「そうですか。それでは失礼します」

 クエルプランはそう言うと光と共に消えていく。

 その光景をエルシールは呆然と見ていた。

「あの…今のは?」

「俺様担当のレベル神のクエルプランちゃんだ」

「レベル神…そんな存在が居るのですか…いえ、それ以上にあなた達のレベルですが…」

 エルシールは冷や汗をかきながら尋ねる。

「俺様からすればもっと遅いくらいだ。それに前はもっとあがった事もあったしな」

 ランスの今までの最高レベルを考えたが、恐らくあれ程レベルが上がるのは流石に無いだろうなと思う。

 それは魔王ジルとの戦いの時…あの時ほど己の力が高まった事は無かった。

 それに比べれば今のレベルなど低いも同然だが、流石にあれはもう二度とおきないだろう。

「だが魔人と戦ったにも関わらず、レベルが思ったよりも伸びんな…」

「私はランスがどれくらいレベルが上がるのが早いかは知らないけど、そんなに遅い?」

 レダは神の眷属とはいえ、下っ端のエンジェルナイト故にレベルが上がるのは遅いほうだ。

 元のレベルが高かったため、レベルが上がるのは少し早くなっているが、レベルが上がるに連れて必要な経験値は増えていく。

「焦らないでよ、ランス。確実にレベルが上がっていっているんだから」

「うーむ…あれだけ戦っとるんだがな」

 ランスの体感からいっても、あの時のゼスの騒動や、JAPANの時と同じくらいも濃密に戦っている。

 すぐサボるのでレベルが下がりやすいランスにしては、中々長続きしていると自分でも思っているくらいだ。

 しかし予想よりもレベルの上がりは悪い…これはランスから見ればやはり異常とも言える。

(でも人間のランスが元魔王の私や、エンジェルナイトのレダと同じくらいのレベル上昇速度はちょっと遅いわね…ランスは人間なのに)

 スラルはこの世界の本質を調べたくなった事もあり、レベルそのものに興味を持ったことがあった。

 その結果、人間に比べれば魔人はレベルが上がる速度が圧倒的に遅いという結論に達した。

 魔王である自分も恐ろしい程にレベルの上昇速度は遅かった…この事から察するに、神や魔のような寿命の長い存在はそれだけ必要となる経験値が多いという結論だ。

 その分、レベルによる力の上昇値は恐ろしく高い…逆に人間は、レベルが上がるのは早いがその上昇値も低いのはこの世界の常識なのだ。

(ランスは…どうなのかしらね。本人が言うにはレベルが上がるのが早かったとは聞いてたけど、実際にはレダと上昇速度はそれほど変わらない…やはりランスの体質に変化が?)

 ランスはあのレベル神と出会うまではレベルが上がらなかった事から、あの神がランスのレベルを上がるようにしたのは間違いないだろう。

「そういやランス。あなたって今までに才能限界に達したことはある?」

 それはスラルからすれば何の気無しの言葉だった。

 純粋な興味に過ぎない言葉のはずだった。

「知らん。計られた事もあるが、いっつも計測不明とか言われてたな」

 その言葉にレダとスラルの目が驚きで見開かれる。

「計測不明?」

「何回もそう言われるからもう調べてもおらん」

 ランスは何でもなさそうに言うが、レダもスラルも大変な事を知ったのではないかと顔を見合わせる。

 才能の限界とは、この世界の根底でも有り全ての存在…地上最強の存在である魔王ですら例外では無い。

 神はそのレベルを意図的に下げたりする事が可能であり、ランスもかつて己のレベル神であるウィリスにレベルを下げられた事もある。

 未熟なレベル神ならば、意図せずともレベルが下がり、時には必要以上にレベルが上がる事もある。

「才能限界が不明…か。やっぱり私の見る目は正しかったわね」

 スラルは自分の人を見る目の確かさに満足そうに頷く。

 一方のレダは、

(才能の限界が無い…間違いなくバランスブレイカーよね。ALICE様が私にランスを守らせているのはやっぱりこれも関係が…?)

 そんな事を考えるが、実際にはレダがランスを守っているのは女神ALICEの命令を勘違いし、女神ALICEもその勘違いを正す事が出来ない状況にあるだけだ。

(もしかして何か巨大な力が働いているとか…まあそれは考え過ぎね。私も下界に居て変な考えが根付いちゃったかしら)

 レダは内心で苦笑するも、それを表情には出さない。

 そして一方でレダやスラル以上に驚いているのがエルシールだった。

「どうしましたか? エルシールさん」

「あ…ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって…」

 エルシールが驚いたのは当然この一行のレベルの高さだ。

 彼女の認識からすれば、異常な程の強さと言っても過言では無い。

 何しろ自分の国の一番の使い手でもレベルが44だったと記憶している。

 この3人はそれを遥かに凌駕しているのだ。

「あの時からすれば順調だな、ランス。カミーラとぶつかり合ったのも無意味では無かったようだな」

 そしてケッセルリンクはランスのレベルの上昇を素直に喜ぶ。

 彼女はランスがレベルが上がらない事で悩んでいたのを知っており、それが解消された事は喜ばしい事だと素直に思う。

「うむ、もう少しで目標の60だな。がはははは! これでクエルプランちゃんの服を脱がせられるぞ!」

「…うーん、クエルプラン様も本気なのかしら」

 ランスの喜びにレダは頭を捻る。

 レベル神にそういう規則があるのは事実らしいが、まさか1級神であり魂管理局の立場にあるあの方がそんな事をするのだろうかという思いと、そんな事をさせていいのだろうかという思いが鬩ぎ合っていた。

「俺様のレベルアップの祝いだな! ケッセルリンク!」

「…構わないさ」

 ランスの言葉にケッセルリンクは少し嬉しそうに微笑む。

 そしてこれこそがエルシールの一番の驚愕だった。

 ランスはケッセルリンクの体を抱き寄せると、もう一つ取ってあるランスの部屋に消えていく。

 そこで何が行われているのか分からない程エルシールは世間知らずでは無い。

「あの…ランスさんとケッセルリンクさんはどういう関係なのですか? 人間と魔人ですよね?」

「ランスはケッセルリンクがカラーだった頃からそういう関係だったのよ。それが今でも続いているのは驚きだけどね」

 レダの言葉にエルシールは余計に混乱してしまう。

 魔人の寿命は永遠であり、更には『夜の女王』ケッセルリンクは古参の魔人という事だけは人間界でも伝わっている。

 その魔人ケッセルリンクがカラーだった時からの知り合いとなると…

「あの人何歳なんですか…」

「ああ…年齢はあんまり関係無いわよ。口で説明しても理解できないでしょうし…あなたももしかしたら体験するかもしれないから」

 レダの微妙な笑顔にエルシールは曖昧に頷くしかなかった。

(…レダさんもパレロアもあの人と関係があるのよね)

 ランスがこの三人と関係を結んでいるのは嫌でも理解させられた。

 やってる事だけを見れば、悪徳貴族と似たような感じだが何故かあの男からはそんな気配は感じられない。

 あの明るさがそう見せているだけかもしれないが、三人とも同意の上ならば何も問題は無いのだろうと自分を納得させる。

(というか、こんな綺麗な人達がいるのに私まで…底無しの性欲ね)

 流石自分を抱きたいという欲望だけで自分の脱出を引き受けただけは有る。

「明日にはカラーには接触できそうかしら」

「そうですね…明日には大丈夫かと」

 スラルの言葉にエルシールは同意する。

(そうだ…明日は私にとっても大事な日だ…カラーがどう出るか)

 これからの事を考えれば不安で仕方が無い。

 が、それでも父の最後の言葉は何が何でも成し遂げなければならない。

(見ててくださいお父様…私は必ずお父様の意思を…)

 

 

 

 そして話は冒頭に戻る。

 まだ慣れぬバイクの振動と速度に背中を押さえながらも森を進んでいく。

 父に一度連れてきてもらったことがあるだけだが、それでも彼女のはその優れた技能で確かにその道を覚えていた。

「ランスさんもカラーの集落に行ったことがあるんですよね?」

 パレロアの言葉にランスは少し難しい顔をする。

「あれから何年たってるかは知らんが、俺様はカラーの里に行った訳では無いからな」

 正確にはランスはカラーの里に現れたのであって、カラーの里に行った訳では無いのだ。

 一度冒険でカラーの森から出て、帰ってきたことはあったが、その時とは入る場所も違っているために過去の経験が役に立つ訳でも無かった。

「まあ正しいでしょ。さっきから見られてるし」

 レダはあっさりとしており、その手には既に盾が構えられている。

 先程から何者か…いや、カラー達が遠巻きに自分達を見ているのは当然の事ながら気づいていた。

 攻撃してくる気配は無いが、カラーは弓の名手…ランスは何も問題無いだろうが、パレロアとエルシールは自分が守らなければならない。

「いい加減出てきてくれてもよくない?」

 レダの言葉が聞こえたのか、少したってからカラー達が降りてくる。

 その手には弓が構えられており、中には魔法の準備をしている者もいる。

 この反応はカラーからすれば当然の事だとランスは考えていたが、その様子に少し違和感を感じる。

(なーんか反応がおかしいぞ)

 ランスが初めてカラーと接触した時、その反応は明らかな敵意だった。

 カラーの歴史を考えればそれは無理も無いことではあるのだが、ランスもパステルには散々振り回された(パステルがランスに振り回されているとも言う)。

 そして二度目の邂逅はケッセルリンクだが、この時はこの時でカラーの態度は明らかに柔らかかった。

 ケッセルリンクにしてもランスの登場に驚きはすれど、敵意は持っていなかった。

 しかしこのカラー達は違う…どちらかと言えば、人間を見下しているような感じを受けた。

 昔のゼスのように、魔法使いが魔法を使えない人間に対して向けていた視線に似ていた。

「何をしに来た。人間」

 カラーの声も少し人間を見下した感じがランスには感じられる。

「私がお話します。まずはこちらを…」

 エルシールは懐にしまっていたあるモノを取り出す。

 それはエルシールが父から渡されたネックレスであった。

「これは…おい、メカクレ様を呼んで来い」

 それを確認したカラーの言葉に、別のカラーが森の奥へと消えていく。

 そしてその名前に反応したのは、フードを被っているケッセルリンクだった。

(メカクレ…? いや、カラーが長寿とはいえあれから500年以上も経っている)

「それまで大人しくしてもらおうか」

 カラー達はどこか高圧的にランス達に指示をする。

 ランスはそんなカラー達に言いたい事があったが、

(ランス、落ち着いてよ)

 スラルはそんなランスを止めようとする。

 理由は、エルシール自身がそれを当然のように受け止めていたからだ。

 貴族の娘であるエルシールが大人しくしているのを見ると、それが『今の世界の常識』なのだと認識したのだ。

 が、当然の事ながらそれで納得するランスでは無いのだ。

「おいお前、リセット・カラーという娘をしらんか」

 ランスがまず聞いたのは、自分の娘の事だった。

 対してカラーは、

「人間、誰が口を開いて良いと言った」

 ランスに対して非常に高圧的な言葉で返すだけだった。

 ただでさえ気が短いほうのランスには、それだけで十分だった。

(落ち着いて! ランス!)

 一歩踏み出そうとしたランスをレダが引き止める。

(今はまずはエルシールの用件のほうが先でしょ!)

(むぐぐ…)

 この生意気なカラーをおしおきしたい所だが、まずはエルシールの事が先だと思いランスも押さえる。

 何しろこれが終わらなければエルシールとセックスする事が出来ないのだ。

「フン!」

 ランスは腹立ち気にその辺の木を蹴ると、そのまま木を背にして大人しくなる。

 そのやり取りを見ていたケッセルリンクは今のカラーの状況に少し顔をしかめる。

 明らかに人間を見下している態度は、昔からすれば考えられない事だ。

 確かに昔カラーを襲った脅威からは逃れられたようだが、その代わりにカラー全体が少し変わったように見受けられる。

 彼女の目から見ても、今目の前にいるカラーは若いカラーではあるようだがそれにしても自分の時とは全く変わってしまっている。

(…一体カラーに何が起きたというのだ?)

 今までは意図的にカラーとの接触を避けて来たこともあり、これが約500年ぶり(暦として)のカラーとの再会なのだが、やはり500年の時は長いと感じてしまった。

「はーい、どうしましたかー」

 そこに少し間延びした声が聞こえてくる。

 だが、その声はケッセルリンクは確かに聞き覚えの有る声だった。

「メカクレ様。この人間達がこれを…」

「これは…人間の貴族に交渉の証として渡したものですねー。確かエルシドさんでしたっけ」

 そこには非常に不思議なカラーが居た。

 半透明の体は幽霊のスラルにそっくり…いや、そのものと言っても良いだろう。

 以前に来た時はこのようなカラーには会わなかったが、どうやら父の事を知っているカラーと出会えた事でエルシールは安堵のため息をつく。

「これを持ってきたのは…」

 メカクレと呼ばれたカラーがこちらに目を向けた時、彼女の目がその髪の向こうで大きく見開かれる。

 そこには彼女の知っている人間…それこそ別れの挨拶も出来ずに魔軍に攫われたと思われた人間がいたからだ。

「ランスさん! レダさん!」

「あなた…もしかしてメカクレ!?」

 そこに居たのはかつてランスと共にムシと戦い、廃棄迷宮を探索し、魔人とも戦ったメカクレ・カラーだった。

 




ここで少し遡りカラーの流れを書いていきたいと思います
この辺の流れは公式では語られないから、やっぱりオリジナル展開となります

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