ランス再び   作:メケネコ

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カラーの歴史

「ランスさん! レダさん!」

 メカクレ・カラーが約500年ぶりの再会に満面の笑みを浮かべる。

「あんた…もしかしてメカクレ?」

 レダは覚えている…共に冒険し、そして魔人とも戦ったカラーの娘を。

「そうです! レダさん!」

 メカクレは本当に嬉しそうにレダの手を握ろうとするが、霊体故にその手はすり抜けてしまう。

 そして今度はランスを見るが、

「…誰だお前」

 ランスの言葉に霊体にも関わらずにずっこけてしまう。

「ちょっと! ランス! 本当に覚えてないの!? 一緒に廃棄迷宮に行ったり、魔人とも戦ったじゃない!」

「うーむ、あの妙に元気のいいカラーの事は覚えているのだが、こいつは覚えてないな。少なくともヤって無いだろうからな」

「ランスさーん…私も一緒に冒険したじゃないですかー」

 メカクレは少しむくれた様に頬を膨らませる。

「サクラに似てるが、言動はどう見てもサクラじゃないしな」

「だれですかそれー。私はランスさんと一緒に廃棄迷宮を冒険したメカクレ・カラーですー」

「確かそんな奴がいたような…」

 一度ヤった女も忘れてしまうランスが、自分とあまり関わり合いが無かった(とランスは思っている)女性を覚えてはいなかった。

「もう…レダさんは私の事を覚えているのに」

「確かカイセツだかアナウンサーだかいうカラーと一緒に居たカラーだよな」

 ランスは昔の事を思い出し、確かその時にやたらと煩くてテンションの高いカラーと一緒にいたカラーの事を思い出す。

「アナウサちゃんの事を覚えているのに私の事を覚えていない…呪いますよ」

「そんな事で呪うな。今思い出したぞ」

 自分の言ってた言葉を思い出し、ようやくランスは目の前のカラーの事を思い出す。

 ランスと共に廃棄迷宮を巡り、そして魔人との戦いでも周囲の盛り上げ役をしていたカラーが確かに存在した。

「で、お前は何で幽霊みたいになっとるんだ」

「それなんですが…あ、皆ちょっといい? 私の昔の友達だからちょっと話がしたいのよ。この件も私が話をつけるから」

「…メカクレ様がそう言うのであれば」

 蚊帳の外に置かれていたカラー達は、特にランス達には興味が無いのか、皆一斉に下がっていく。

 その様子は流石森に住まうカラーだけあり、あっというまに森の奥へと消えていった。

 そしてメカクレ以外のカラーが消えたのを確認した後、

「メカクレか」

「………あー! ケッセルリンク様!」

 ケッセルリンクがフードを取り、メカクレへと声をかける。

 メカクレも昔と服装こそ変わってしまったが、まったく変わらない姿をしているケッセルリンクを見て喜びの声をあげながらケッセルリンクに抱き付こうとするが、その手はやはり触れる事は出来ない。

「ケッセルリンク様…本当に魔人になってしまったんですね」

「ああ…もう500年前の話になるがな。そしてお前のその姿は?」

 500年…それは長寿のカラーでも当然寿命を迎えている程の長い時間だ。

 あの時のケッセルリンクの仲間はもう当然亡くなっていると思っていたが、目の前にいる幽霊とも言えるカラーは、間違いなくケッセルリンクの仲間のメカクレ・カラー本人としか思えなかった。

「それなんですけど…説明すると長くなりますけどお話ししますか?」

「ああ。私としても今のカラーがどうなったのか気になる。話して貰えるな」

「うむ、俺様も気になるぞ」

 普通ならランスはこの手の長い話は好きでは無い。

 朝倉義景のような話し上手な人間の話ならば聞いていても面白いが、本来であれば長話を聞かされても途中で遮るタイプだ。

 しかし今はカラーの変化がどうしても気になってしまっていた。

 それはやはりリセット・カラーというランスの娘の存在が大きかった。

「そうですね…あれはケッセルリンク様とランスさん達が消えてしまってからの話です」

 

 

 SS420年―――

 黒髪のカラー―――ハンティ・カラーが突如として表れ、あちこちに散らばっていたカラーはようやく一つに纏まる事が出来ていた。

 それこそルルリナ・カラーの悲願であり、こうしてカラー達は完全ではないものの、ようやく手と手を取り合うことが出来たのだ。

「そうですか…そんな事が」

「ええ…しかしここはいい環境ですね。私達が居た所はこうした森が少なくて…」

 カラーは森に住まうのが当たり前であり、森以外ではその力が落ちてしまう

 だからこそ、ドラゴンの居る山の麓の森は今のカラーにとっては最適な土地とも言えた。

 ルルリナ・カラー達は運よく…いや、この土地に居たことでムシや魔人の脅威に晒されたとも言えるが、それでも森の中に集落を構えることが出来た。

 しかし他のカラー達もやはり色々と苦労をしていたようだ。

 自分達のようにムシや魔人といった脅威は無かったようだが、それでも魔物や人間といった脅威に晒されていたようだ。

「あるムシ使いが私達と協力してくれてたのですが…その人が同じムシ使いに裏切られてから、本当に苦労の連続でした…」

 このカラーの長はあるムシ使い―――かつて人間だった頃のガルティアのおかげで魔物の脅威から逃れることが出来ていた。

 しかし、そのムシ使いは魔王の誘いに乗り、今では魔人となってしまっている。

 勿論彼の気持ちも分からない訳ではないが、それからは苦労の連続だった。

 同胞すらも裏切るムシ使い達を信用する事が出来ずにそこから離れたのはいいが、やはり安住の土地など中々見つからなかった。

 しかしそれでもカラー達は一致団結して、何とかやってきたが、時が経つに連れてカラーの戦士達も魔物達との戦いで死に、人間に近づくのも躊躇われて数も増やせないというどうにもならない状況になった時、その救い主が現れる。

 それこそ黒髪のカラーであり、彼女の圧倒的な魔力は全ての魔物を撃退してようやくカラーの土地を手に入れることが出来た。

 それから長い時間が経ち、再び黒髪のカラーが現れた時やはり自分達には朗報が齎された。

 それが今の土地…即ちドラゴンの住まう山の森の中にカラーが住んでいるという情報だ。

 自分達以外のカラーが見つかったという情報はカラー達を歓喜させた。

 そして彼女の案内の元、ようやくこの森へと来る事が出来、安住の地と思われる場所に来る事が出来たのだ。

「それも全部ケッセルリンクとランスさんとレダさんのおかげです…」

 ルルリナは言葉とは裏腹に、辛そうに顔を伏せる。

「その方は魔人となってしまったのですよね…でも彼女のおかげで私達は魔物の妨害に合わずに、ここに辿り着けました」

 いかにハンティ・カラーといえども、全てのカラーを守りながらの移動は不可能だっただろうが、魔物はカラーを襲うことは無かった。

「そのランスさんとレダさんという方は…」

「カラーを救ってくれた英雄です。彼等の力が無ければ、私達はムシと魔人によってこの森を追われていたでしょう…」

 ルルリナ達は今でもこの二人への感謝を忘れていない。

 魔王に捕らわれてしまった事は、ケッセルリンクが魔人になってしまったのと同じくらい大きな損失だ。

 特にランスはカラーへの敵意が全く無いだけでなく、カラーでは殆ど居ないファイターであるだけでなく、カラーすらも見事に指揮してみせる程のカリスマを持っている。

 そして何よりも判断力の高さや意外性…今のカラーには間違いなく必要なものだった。

「もしかしたらランスさんもレダさんも魔人にされてしまっているかもしれません」

 ルルリナの言葉に、ランス達を知るカラー達は皆一様に落ち込んでしまう。

「ホラホラ、何落ち込んでるのよ」

 そこに場違いなほど朗らかな声が響き渡る。

「ハンティ様!」

 突然登場したハンティにもう誰も驚かない。

 これこそが後に伝説のカラーと呼ばれる存在の力…瞬間移動の力だ。

「で、どうするかは決めたの?」

 ハンティの顔は何処か嬉しそうで、キシシと笑いながら皆を見る。

「本当はハンティ様に率いてもらうのが一番いいのですが…」

「それは無理だって言ったでしょ」

 ルルリナの言葉にハンティは苦笑する。

 今の時代のカラーを率いるのは、今の時代のカラーであるべきだ。

 ハンティはその姿勢を崩さない。

「分かっています。暫定的にですが、私が女王として皆をまとめていく所存です」

「そう。大変だろうけど…頑張りなさいよ、ルルリナ」

 ハンティの言葉にルルリナは恭しく一礼する。

 ケッセルリンクという強力なカラーに支えられてきたとはいえ、ルルリナが女王の立場に相応しいのは皆が分かっていた。

 勿論、今も散らばっているカラーの中にはルルリナを超えるものも居るかもしれないが、そうなったらそうなった時の話だ。

 そして散り散りになっているカラーを探すためにハンティは動いてくれているのだから。

「ええ…ドラゴンを刺激しない程度に村を広げて…そして人間の事も考えなくてはいけません」

 カラーは単体では数を増やすことは出来ない。

 そのためには人間の男の協力が必要なのだ。

「ランスさんがいればねー。カラーを増やすのもあっという間だったんだけどねえ」

 アナウサは腕を組みながら本当に残念そうにしている。

「私もランスさんならOKだったんだけどなー」

「そのランスって人間…そんなに凄い男だったの?」

 ハンティの言葉に、ルルリナの里に居た者たちが一斉に頷く。

 ルルリナの里に居たカラーはほぼ全員ランスの事を知っており、無茶苦茶な人間ではあれど決して悪い人間ではなかった事を知っている。

 確かにスケベだっただろうが、それでも無理矢理襲うという事は絶対に無かったし、何よりあのケッセルリンクがランスを認めていたからだ。

「魔人を倒す計略を練ったのもランスさんですし…何よりも人を惹きつける何かを持っていた方ですから」

「カラーに対する知識も持ってましたし…パステルとリセットというカラーの事を訊ねてましたから、カラーの知り合いがいるんでしょうねー。それを聞く前に魔王に攫われちゃって…」

「別のカラーを知っているか…アタシも出会ってみたかったね。流石に魔王に捕らわれたとなると難しいか…」

 ハンティの瞬間移動はハンティ以外の存在を巻き込むには危険すぎた。

 流石に魔王にはハンティと言えども敵わない。

 それに今の状況で魔軍を刺激するのは得策ではなかった。

「まあ今は魔王に捕らわれた人間の事よりも先の話よね」

「はい…カラーが存続していくためにも、何とかしなければなりません」

 そしてルルリナ達は再び会議へと戻っていく。

 その様子を満足気に見て、ハンティは小屋の外へと出る。

(あれから420年…カラーもようやく一安心か)

 ハンティ・カラーは普通のカラーではなく、ドラゴンカラーと呼ばれる人間が作られる前から存在していた。

 そしてエンジェルナイトの大群がこの世界を一度滅ぼした後に自分が目覚めた時、今の姿となっていた。

 人間が生まれ、そしてその人間とほとんど同じ姿を持ったカラーと呼ばれる種族も生まれた。

 だが人間もカラーも魔物に比べれば弱く、魔物に蹂躙されていた。

 ハンティはそんなカラーを助けて来たが、その歩みは非常に遅いと言わざるを得なかった。

 420年経過し、ようやく世界に散らばるカラーの所在を掴み、そしてこの翔竜山の近くでようやく大きな群れの2つを合流させる事が出来た。

(これもそのケッセルリンクというカラーと、人間のおかげなのかね)

 魔人となってしまったカラーと、魔人を倒すほどの力を持った人間の事を思うと、ハンティとしても会いたい気持ちが大きかった。

「ハンティ様~」

「おや、メカクレかい」

 これまでの軌跡を思い返していたハンティに、少し間延びした声で名を呼ばれる。

 彼女こそ、ハンティが救ったカラーの少女…メカクレ・カラーだった。

「いやー、ハンティ様のおかげでようやくカラーも一安心ですよー」

「まあそうだね…でもメカクレ、あんたは大丈夫なのかい?」

 ハンティの言葉にメカクレは少し悲しそうに耳が下がる。

「うーん…ハンティ様の言うとおり、私もそろそろみたいです」

「そうかい…悪いね。アタシの瞬間移動に巻き込んでしまって」

「いいんです。ハンティ様に助けられなければ、私はその時点で死んでいましたから」

 メカクレ・カラーはルルリナの里で生まれたカラーではなく、今合流を果たしたもう一つのカラーの村の出身だ。

 その村が魔物に襲われ、生まれて間もないメカクレは一人取り残されたところをハンティに救われた。

 ハンティは瞬間移動を使ってメカクレを助けたのだが、その代償は大きく、メカクレは通常のカラーよりも遥かに短い寿命となってしまった。

 それこそが瞬間移動の欠点であり、ハンティが他者と共に瞬間移動が出来ない理由となった。

 メカクレは通常よりも早い速度で大人となり、今の村へと移ったのだった。

「そこでハンティ様に相談があるんですけど…」

「何? 出来る限りの事はするつもりだけど」

「私は…カラーの正しい歴史を伝えていきたいです。人間とも協力できることがあるという事は伝えていくことは必要だと思います」

「…よっぽどその人間は強烈だったみたいね」

 ハンティは返す返すもその人間、そして魔人となったカラーに出会えなかった事を残念に思う。

 まさかこれほどまでに、カラーの信頼を集める事が出来る人間が存在するとは思ってもいなかった。

「分かったわ。何か方法が無いか考えてみるわ」

「ありがとうございます。ハンティ様」

 

 

 

「ちょっと待て。ハンティだと?」

 メカクレの回想話に出てきた名前にランスは反応する。

「ええ、ハンティ・カラー様です。その方のおかげでカラーはここまで大きくなれたんですよー」

「話には聞く黒髪のカラーだな…残念ながら私は会う事は叶わなかったが」

「私も話だけは聞いたことがあるわね」

 ケッセルリンクとスラルはその名前はだけは聞いたことがあった。

 ケッセルリンクは凄まじい力を持つと共に、カラーを守護している偉大なカラーとして。

 スラルは強大な力を持ち、魔人に匹敵する魔力を持つ存在として。

「ランスも知ってるって事は、やっぱり名の知れたカラーのようね」

 スラルはうんうんと頷いているが、ランスが反応したのは別の理由だ。

「そいつは黒髪で肩になんか変な手みたいのがついてなかったか」

 ランスの言葉にメカクレは首を傾げる。

「いいえ? 黒髪では有りますけど、ランスさんの言うようなものはついてませんでしたけど…」

「む…じゃあ瞬間移動とか使ってなかったか」

「ハイ。瞬間移動はハンティ様の得意技ですから」

「おお!」

 ランスが顔に笑みを浮かべる。

「どうしたの? ランス」

「うむ、ようやくカミーラ以外の知ってる奴が出てきてな」

「ハンティ様を知ってるんですか?」

 ランスの言葉に全員が驚く。

「ハンティの奴は今もパットンと…」

 言葉を言いかけてランスは思わず言葉が出なくなる。

 そもそも自分はセラクロラスの力で色々と変な冒険をしている。

 パレロアの話では、100年単位で時間が経過しているとの事だ。

「いや、何でもない」

 だとすると、パットンが生きているのかという疑問をランスは持ってしまった。

 いや、そもそもカミーラが自分の事を知らなかったのに、ハンティが自分の事を知っているのかという疑問を抱いてしまった。

 自分に強い憎しみを抱いていたカミーラが自分の事を全く知らなかったし、何より自分が倒した使徒が生きていた事も有り、ランスはこの世界に少し疑問を抱いていたのだ。

「ランス…お前はカラーについての知識が豊富のようだが、一体どこでそれを知った? それに黒髪のカラーの事もな」

 ケッセルリンクは前々から疑問に思っていた事をぶつける。

 自分がカラーだった時から、ランスにはある程度のカラーの知識が有った。

 前はランスが外から来た人間ゆえにカラーの事を知っているのかと思ったが、今は違うと思っている。

 カミーラの事を知っている事、そして今回の黒髪のカラーの事もそうだ。

 簡単に言えばランスはこの世界を『知りすぎている』という感じがするのだ。

(あー…とうとうここまで来たか)

 レダは内心でため息をつく。

 ここはランスの時代からすれば遠い過去の世界…なのだが、ランスはそれを認識していない。

 ランス本人がこの世界の歴史に興味が無いのだろう、それ故に歴代の魔王の名前すら知らないのだ。

(さて…どうなるか。上の神達はランスに何もしてないみたいだけど…)

 レダは1級神である女神ALICEの命令(と本人は思っている)で動いているが、もしかしたら他の神が動くかもしれない…とは考えていた。

 もしそうならば、自分はどうすればいいのか…まだ決めかねている状況なのだ。

「うーむ…俺様としては、ここは実は俺様が知っている世界とは別世界なのではないかと思ったのだが」

「別世界だと?」

(あー…そっちの方向にいったんだ)

 ランスの言葉を聞いてレダはどんな表情をすればいいか分からなくなる。

「俺様の女に別世界へのゲートを開けれる奴がいるからな。それに志津香も同じ様な事をしようとしていたからな。まあそんな感じだろ」

(全然違うんだけど…まあ私が指摘する事じゃ無いわね)

 レダはランスから正解にたどり着かない限り、自分からは何も言うつもりは無かった。

「ふむ…ランスが分からないのであれば、私からはもう何も聞くつもりはない。例えランスが別世界の存在であろうとも、私にとってはランスは恩人だ」

 ケッセルリンクはさほど気にしてないようで、自分の疑問を早々に切り上げる。

 彼女にとって大事なのはこれまでの事とこれからの事であり、ランスがカラーに悪意を持っていない事は十分に理解している。

 そうであれば、ランスが別世界から来ようが別に気にならなかった。

「別世界か…ありえない話じゃないわね。実際にこの世界にはホルスも存在しているし」

 スラルは興味は持ったようだが、特に何も言うつもりは無いようだ。

 パレロアとエルシールは話についていけないようで、その顔には疑問の表情を浮かべている。

「まあ今更考える必要は無いな。ここが異世界だろうが何だろうが俺様のやる事は変わらんからな」

 ランスは今までの疑問を全て頭の隅に追いやり、

「で、それからどうなったんだ」

 メカクレに続きを促す。

 メカクレも大して気にしていないようで、

「えー…それからですね」

 

 

 

 SS422年―――

「メカクレ…あなた」

「すいません。私はもう寿命が近かったもので…ですけど、こうして皆様とお話出来るので何も問題は有りません」

 メカクレ・カラーはカラーとしての寿命を迎え、これまでの生から天使へとなるはずだったが、今は半透明の幽霊のような存在となっていた。

「メカクレちゃんは記録を残してましたしねー。でもそれだったらもう書けないんじゃない?」

 アナウサ・カラーは大して気にならないようで、何時ものようにケラケラ笑っている。

「それだけは不便ですねー。でもこうして話すことは出来ますから、何も問題は無いですよー」

 メカクレの明るい言葉に他のカラーは本当に大した事の無いように振舞う。

 そしてカラーのとっては当たり前の日々が流れ続けていた。

 魔物の襲撃は無く、ムシもあれから何処かへと行ってしまった様であれから姿を見ていない。

 たまに人間がやってくる程度だが、特に人間とも揉めるという事は無かった。

 あの日がくるまでは…

 

 

 

 SS500年―――そしてNC0001年―――

 アコンカの花が咲き、驚きの言葉が流れる。

「新しい魔王が誕生しました。来年からはNC1年となります。お間違いなきように…」

 それだけが流れると、そのままアコンカの花はつぼみへと戻っていく。

 その新たな魔王が誕生したという知らせは、カラーに対して大いに動揺を与えた。

 そして会議のために作られた小屋で、この80年の間に合流したカラーの名大達が集まっていた。

「今回の議題は…新たな魔王が誕生した事です」

「ええ…魔物がカラーを襲わなかったのは、ケッセルリンクが魔王と約束したから…でもその約束した魔王が変わってしまったのでは…」

 その言葉に皆の顔が暗く沈む。

 カラーの一番の脅威はムシでも人間でもなく、やはり魔物なのだ。

 魔物にとっては人間だけでなく、カラーもまた殺意の対象なのだ。

 人間の方が優先度が高いのか、魔軍の兵そのものがカラーを襲うという事は今までは無かった。

 しかしそれは魔人となったケッセルリンクが魔王スラルと約束したから…というのはカラーには常識だった。

 だが、それが今まさに崩れてしまったのだ。

「魔王の出方を見るしかないだろう。我々は魔王、そして魔人の前には無力なのだから」

 この80年の間に合流したカラーの長が、唇を噛み締めて言う。

 彼女は長い間魔物に苦しめられた過去を持ち、何人もの仲間が魔物の犠牲になった過去がある。

 無論やられっぱなしでも無く、その呪いの力で報復はしてきたが、それでも限度が有り、ハンティ・カラーが現れこの里に案内された時は思わず泣き出したほどだ。

 それ故に、一番魔物の脅威を知っているカラーとも言えた。

「魔王スラルはもういない…その魔王がどういう魔王であるかは、その動きを見るしかないのだ」

 悲しいことだが、それがカラーの…いや、この世界に住まう人間と亜人の運命とも言えるのだ。

 カラー達もむざむざとやられるつもりも無く、防備を固めていたがそれは以外にも肩透かしに終わってしまった。

 NC100年…魔王が変わってから100年経過しても魔物達はカラーを襲う気配は無かった。

 時には魔物も襲ってくるが、それは魔軍の配下ではない野良モンスターの類だ。

 魔王の殺戮は、常に人間に向けられていた。

「私もどうやらここまでです…」

「ルルリナ様…」

 女王であるルルリナは、ついにその命が尽きようとしていた。

「ナール…後はあなたに任せましたよ」

「はい…お母様」

 ルルリナは自分の娘であるナールに全てを任せるしかなった。

 勿論これからのカラーの事も心配だ…今のカラーの状態は、自分が長をしている時よりも遥かに悪い。

 それでも、今の若い者に任せるしかないのだ。

 そしてルルリナはこれまでの功績から天使となり、それから次々とランスやケッセルリンクの事を知っているカラー達が消えていった。

 残ったのはメカクレ・カラーだけになった。

「メカクレ様。これから私達はどうなるのでしょうか…」

「そーですねー…でも何とかなると思いますよ。私達よりもずっと酷い状況の人間が、人間同士で争える時代ですから」

 メカクレ・カラーは情報が大事だという事を口すっぱく言ってきたつもりだが、あの激動の時代を過ごしたカラーが居なくなったためか、少し緊張感が薄れてきていた事が不安だった。

 自分達の時代とは違い、里が崩壊するかもしれないような大きな出来事を経験していないのだから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないのだが。

 だが、それでもカラー達に大きな変化は無かった…変化が起きるのは、それからさらに時間が経ってからだった。

 NC100年…200年…そして400年の間に、カラーは繁栄していった。

 SS期よりも遥かに人口を増やし、今では人間の里に出向いているカラーが出てくるほどだ。

 そして今では何と人間と取引をも始めていた。

 メカクレとしてもカラーの繁栄は勿論嬉しかった。

 が、それと同時に一抹の不安も感じていた。

 それこそがカラーの意識の変化だ。

 だんだんとそれが強くなっていっているのは、決してメカクレの気のせいではなかった。

 

 

 

「と、まあそんな状況の時にケッセルリンク様とランスさんと再会できた訳ですよー」

「ふむ…この500年程の間にそんな事が…」

 ケッセルリンクはメカクレの話を聞いて複雑な表情を浮かべていた。

 勿論カラーがここまで繁栄しているのは嬉しい事だ。

 あの時のカラーを襲った脅威をバネにして、そこまで人口が増えたのは勿論いい事だとも思う。

「しかし皆もういないのか…」

 ケッセルリンクは何処か寂しげに呟く。

 あの激動を共に生きた仲間達は、当然の事ながらもう誰も残っていない。

「時間が時間ですからねー…でも、こうして皆の事を伝えられて、私も肩の荷が下りました」

 メカクレも過去の仲間を思い返し、ケッセルリンクと同じく寂しそうな声を出す。

「ちょっと待て。そんな状況からどうしてこんな風になる」

 ランスもこの500年の間のカラーの事には少し驚いた。

 LP期のカラーの事を知っているので尚更なのだが、それと先程のカラーの娘の態度がどうも結びつかないのだ。

「それなんですが…」

 メカクレは辛そうに顔を伏せる。

 あまり言いたい事では無かったのだが、それでもランスとケッセルリンクには嘘がつけなかった。

「その…ケッセルリンク様の伝説が関係してまして」

「あん?」

「私の伝説?」

 メカクレの言葉にその場の全員が首を捻る。

「ええ…あの時の私達の事が少し歪んで後世に伝わっちゃったんですよ」




カラーの歴史ですが、大分省略しております
この間に何が起きたかは公式では何もありませんから…
ランスが関わらない以上、詳しく描写も出来ませんでした
申し訳ないです…

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