ランス再び   作:メケネコ

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歪んでしまった歴史

「歪んで伝わっている? どういう事だ。あの時の事は確かにランスとレダ…そしてカラーが一丸となって立ち向かったはずだ。まあ…アレを立ち向かうというのは若干無理があるかもしれないが」

 自分が魔人となる前…それこそ人間と協力し、時間をかけて舞台を作り出し、相手の能力を逆手にとってようやく倒す事が出来た相手だ。

 真っ向勝負ならば、無敵結界の前に手も足も出ずにやられていただろう。

 自分の魔力がどれだけ凄かろうとも、ランスの剣の腕がどれだけ素晴らしくても、無敵結界の前には悲しい程に無力だったのだから。

「そうなんですけどね…それを知っているのはもう私しかいないじゃないですか。一応私の手記は伝わっているんですけどねぇ…」

 メカクレはそこで大きなため息をつく。

「せめてハンティ様がその光景を見ていれば、今も正しい歴史が伝わっていたと思うんですけど…やっぱり手記だけじゃダメなんですかね」

「その様子だと…あなたの知る歴史と、今のカラーの歴史が食い違っているという事かしら?」

 スラルの言葉にメカクレは頷く。

「あの魔人との戦い…今はケッセルリンク様がカラーを率いて、その力を持って魔人を倒したという話になってしまいまして」

「…はあ?」

 メカクレの言葉にケッセルリンクは目を丸くする。

「ケッセルリンク様がファイヤーレーザーで魔人にトドメを刺した事は事実ですけど…その過程が吹き飛んでしまったんです」

「何だと?」

 実際にはあの戦いは、魔人オウゴンダマの体質を利用し、無敵結界をオフにさせた上でムシをぶつけて疲労させ、特殊なアイテムを使ってルルリナが呪いをかけた後でランスが特大の一撃を叩き込むという非常に手の込んだ戦いとなった。

 確かにあの魔人にトドメとなる一撃を打ち込んだのは自分だが、魔人の体を大きく傷つけたのはやはりランスの一撃なのだ。

「今のカラーの歴史には、人間のにの字も出てきてないんですよ…だから人間と共に協力して危機を乗り越えたという歴史が無くなっちゃったんです」

「ちょっと待て! 何故そんな事に!?」

 流石のケッセルリンクも珍しく大きな声を出す。

 あの協力があってこそ、カラーはあの危機を乗り越える事が出来たのだ。

 カラー単体では恐らくは魔人、そしてムシに蹂躙される未来が待っていただろう。

「ケッセルリンク様はご存じ無いでしょうが、アレから魔物と争う事が減った代わりに、人間との小競り合いが続きまして…人間の世界が安定すると、私達カラーを密かに狙う奴等が出てくるんですよ」

「む…」

 人間がカラーを狙う…昔からは信じられないが、これまでケッセルリンクも人間の世界を見ている内に、人同士の小競り合いを何度も見てきた。

 自分の使徒のシャロンも人同士の争いの結果、王女という立場であったにも関わらず、最後には同じ国の人間にも見捨てられた。

 パレロアは己の夫によって子が犠牲となり、エルシールも人同士の争いによって家族と離れ離れになってしまった。

 それも全て人の欲望が引き起こしたものだ。

(いや、ランスもかなり欲望が強いが…)

 自分の隣に居る人間を見て、ケッセルリンクは少し迷う。

 確かにランスは己の欲望に正直だし、何よりも女性に対する欲望は人一倍高いだろう。

 ただそれでもシャロン、パレロア、エルシールという不幸になる女性を救ってきたのは事実だ。

「カラーが狙われるというが、やっぱクリスタルが狙われるのか?」

「え? クリスタルですか?」

 ランスの言葉にメカクレが首を傾げる。

「カラーのクリスタルが狙われるなんて話、私は聞いた事がありませんが」

 メカクレの言葉に今度はランスが怪訝な顔をする。

 ランスの常識では、カラーとはクリスタルを狙われるものだ。

 ペンシルカウの大虐殺…ヘルマンが引き起こしたあの殺戮は、全てカラーのクリスタルを狙って行われた。

 その結果、ヘルマン革命においてそのクリスタルをミネバが使用し、無数のクリスタルミネバと共に襲い掛かってきた。

 それ以外にも、魔想志津香が持っているクリスタルロッドもカラーのクリスタルが使用されていたはずだ。

 ランス本人はカラーのクリスタルに興味は無いが、全世界の人間にカラーのクリスタルは狙われていた。

 しかもクリスタルが赤から青になるためには、カラーが処女を失わなければならないのだから、人間にとってはまさに一石二鳥だろう。

 勿論その後に拡散モルルンで全滅するという結末が待っているのだが。

「そうなのか」

 メカクレの言葉にランスは少し疑問に思いながらも納得する事にした。

(まあ俺様の居た世界とは違う世界なのだから、カラーが狙われるのも別の理由かもしれんな)

 と、割と酷い勘違いまでする始末だ。

「とにかくケッセルリンク様への憧れが間違った方向に行ってしまっている次第で…しかもケッセルリンク様が魔人になったのも、カラーを守るために魔王スラルへ直談判したという事になってしまっていて」

「ちょ、ちょっと待て! 私が魔人となった経緯は、ムシとの戦いで命を落としそうになった時にスラル様に救われたからだぞ!? 何故そのようになる?」

「確かにカラーへの手出しをしないように頼まれたけど、直談判はされてないわよ」

 ケッセルリンクとスラルの言葉にメカクレは大きくため息をつく。

「そうなんですけどねー…私はカラーが間違った方向に行くのを止めるためにハンティ様に頼んだんですけどね…そのハンティ様も、今は何処かへ行ってしまってますし」

「なんだ、ハンティはおらんのか」

 ランスが少し残念そうに声を出す。

 今はパットンが居ないだろうから、手を出すチャンスだと思ったのだが、あのハンティが居ないとなると流石のランスも探すのは難しい。

 瞬間移動とは、それほどまでに凄まじい技能なのだ。

「今のカラーは…ちょっと危険な状況に足を踏み入れつつあるような気がするんです。でも、私にはそれを止める力はありません」

「がはははは! そんなのは簡単だ! 俺様が今の女王を説得してやろう」

 カラーの危機と聞いてランスは何時ものように笑うが、

「駄目です。今は本当に駄目です。ランスさんにもしもの事があったら、私はルルリナ様やアナウサちゃんに顔向けできません」

「む…」

 メカクレの必死の言葉に流石のランスも躊躇する。

 カラーの恐ろしさはランスが身を持って知っている。

 あの禁欲モルルンの恐ろしさの前に、ランスは一度自殺を考えた事もある程だ。

「ランス、私としてもカラーの事でお前を危険な目に合す訳にはいかない。私にとっても、お前はカラーを救ってくれた恩人なのだ」

「むぅ…ならば仕方ないな」

 ケッセルリンクにそう強く言われては、ランスとしても引き下がるしかない。

 今のカラーの女王の事も気になるが、もし再び禁欲モルルンを食らってしまえば、今の状況でLV35以上の女性を探すという非常に手間のかかる作業をしなければならなくなる。

 あの時はランスの周囲には既にLV35を超える女性が結構居たが、この世界で探すとなると流石に厳しい。

 レダはエンジェルナイトなので禁欲モルルンの対象外だし、それは魔人ケッセルリンクも同じだ。

 パレロアとエルシールの二人も、最大レベルが35を超えていなければ抱く事は不可能だ。

 その状況では流石に今の女王に手を出す事は難しい。

「あのー…それはそうと、私と同じ幽霊の方ですが…あなた、もしかして…」

 メカクレがスラルに向かって話しかける。

 今のスラルの容姿はメカクレも少し覚えがある。

「そうよ。前魔王スラルよ。最も、今はただの幽霊であって、何の力も無いけどね」

「えっ…!」

 スラルの言葉に思わず声をあげたのはエルシールだ。

 確かに魔人であるケッセルリンクが『スラル様』と様付で呼んでいたのは違和感があった。

 それに前魔王の名前は今の人間にも伝わっていたが…正直エルシールはあまり気に留めていなかった。

「前魔王スラル…?」

「隠していたつもりは無いんだけど…今はこうしてランスの持つ剣に憑りついてるだけの幽霊だしね」

 その言葉にエルシールは卒倒しそうになるが、パレロアに支えられる。

「…パレロアさん。知ってたの?」

「私も最初は驚きましたが、今までの事を考えれば特に問題は無いと思ってましたから…」

 パレロアも中々壮絶な人生を歩んでおり、悪魔と魔人との戦いに巻き込まれ、奇妙な寄生体との戦いを経験し、そしてランスが魔人カミーラと戦う所を見て、さらには象バンバラの魔人との戦いにも参加した。

 それを考えれば、元魔王と一緒に冒険しているなど些細な事にように感じてしまっていた。

(それにランスさんの方が余程大変な経験をしているでしょうし)

 自分に比べれば、ランスの方が遥かに想像を絶する経験をしているだろうと思う。

 何しろ悪魔、魔人にも臆せず戦っている男なのだ。

「…なんか頭が痛くなってきたわ」

 エルシールは大きなため息をつく。

「とりあえず今日は泊まって行ってくれませんかー? カラーの森には案内できませんけど、この辺はモンスターもいませんから安心ですよー」

「ああ、それなら丁度いい広場はあるかしら?」

 

 

 

「はえー…すっごいですねー」

 メカクレは突如として現れた家に目をキラキラとさせる。

 しかも内装もメカクレが今まで見た事も無いような物でできており、好奇心旺盛な彼女の心を刺激する。

 カラーの家とは全く違う作りの家に、メカクレはキョロキョロと何度も何度も辺りを見渡している。

「これもランスさんが手に入れたアイテムですか?」

「そうだ。あるお姫様を助けた時に俺様が手に入れたものだ」

「へー…やっぱりランスさんは凄いですねー」

(嘘じゃないんだけどね…実際にはランスは思いっきり関与してるのよね)

 ランスの言ってる事は全てが嘘ではないが、その過程が思いっきり省略されている。

「それにしてもまさか本当に魔王スラルだなんて…ぜひ一度話してみたいです」

「それは私もよ。カラーの事は興味はあったけど、ケッセルリンクとの約束も有ったし、私も色々あったからカラーの事はあまり詳しくは無いのよね」

 スラルとメカクレは和気藹々と話しこみ、ケッセルリンクとレダもその話に付き合うようだ。

「私は少し休ませてもらいます…流石に疲れました」

 パレロアは慣れぬ森の移動で疲れたのか、今日は早めに休む事にしたようだ。

 となると、残ったのはランスとエルシールの二人なのだが…

「がはははは! お楽しみタイムじゃー!」

 ランスは早速エルシールを自分の部屋へと連れ込んでいた。

 対するエルシールは何処か心非ずといった感じでベッドに座り込んでいた。

 色々な事が有り過ぎて、頭が少しショートしてしまっていた。

 そんなエルシールの構う事無く、ランスは手始めにエルシールの唇を奪う。

 その柔らかい唇が自分の唇に重ねられる感触、そして自分の口内に柔らかい舌が侵入してくる感覚にエルシールは正気に戻る。

「んん~!! ちょ、ちょっと待って下さい!」

 エルシールは慌ててランスを引きはがす。

「む、依頼はしっかりとこなしたではないか。後は俺様が報酬を頂くだけだぞ」

「そ、そうですけどね! まさかそんないきなり…」

 エルシールは自分の心臓の鼓動を押さえるように自分の胸に手を当てる。

 突然の衝撃に、別の意味で頭がショート寸前となってしまっていた。

「まずはシャワーの方がいいか?」

「そういう事では無くてですね! ああもう…」

 エルシールは少し苛立たしげに頭をかくと、

「あなたは一体何なのですか!」

 今まで自分が抱えてきた疑問を全てぶつけるような勢いでランスに詰め寄る。

「何だとはどういう事だ。見ての通り俺様は超ハンサムな世界一いい男だぞ」

「そんなふざけた事はどうでもいいんです! 私はあなたの存在が納得いかないだけです!」

 エルシールには何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。

 この男が自分をここに連れてきてくれた…そこまではまあいい。

 しかし問題なのはその後…カラーと知り合いというのも驚いたし、前魔王のスラルが居るというのも驚いたし、何よりもこの男は一体何なのだという思いが一番強い。

「あなた…確か27歳くらいだと言ってましたよね。明らかにおかしいじゃないですか! どう見ても二十歳以下にしか見えませんし、それにカラーの英雄って…」

 聞きたい事は沢山あるが、一体に何から聞いたらいいのか自分でも考えが纏まらない。

「分かった分かった。説明くらいはしてやるからおちつけ」

 ランスは少し面倒くさそうにエルシールの隣へと座る。

「で、何から聞きたいのだ」

「何から…何から…えーとその…まずはやっぱりあなたの年齢の事です。普通に考えればあり得ないですよね。あなた、SS期の人間なのですよね」

「年については俺様は別に誤魔化したつもりは無いぞ。まあセラクロラスの影響で若返ったとレダは言ってたがな」

「…若返った?」

 突然の言葉にエルシールは目をぱちくりさせる。

「時の聖女の子モンスター、セラクロラス。知っとるか」

「…いいえ、聞いた事がありません」

 女の子モンスターとは、言葉通りに女の子の姿をしたモンスターだ。

 モンスターと名前がつく通り、基本的には人間の敵なのは間違いないのだ。

「なんだ、知らんのか。まあ言葉通り時を操るらしくてな。俺様はそのセラクロラスの力でこうなってるのだ。そしてセラクロラスの力で未来に飛ばされとるらしい」

「こうなってるって…正直話の内容が濃すぎて信じられません」

 人が若返るなど、本来はあり得ない事し、未来に飛ぶなどそれこそ滑稽な話だ。

「嘘だと思うならスラルちゃんとケッセルリンクに聞いてみろ」

「…魔人がそんな嘘をつくとは思えませんから、一応信じます」

 エルシールは深くため息をつく。

 自分が想像した以上にこの男はとんでもない経歴をもっているようだ。

「それはそれで! まだだめです!」

 ランスは何時の間にか自分の服に手をかけており、エルシールは慌ててそれを止める。

「確かに依頼は果たしてもらいましたが! まだ結果が出てません! それを聞くまでは駄目です!」

「何だと」

(うっ…まずかったかしら…)

 ランスの目を見てエルシールは心臓が激しく動くのが分かる。

 この男の強さはこれまでの旅路で嫌というほど理解している。

 最初はあの貴族の男のように嫌な奴だと思っていたが、この男は全く違っていた。

 どちらかと言えば、非常に我侭で子供っぽい性格をしている。

「聞けばいいんだな」

「え? …え、ええ」

「じゃあいいや」

 ランスはあっさりとエルシールから離れる。

 それを見てエルシールは意外そうな顔をするのを見て、

「なんだ、不満か?」

「いえ、そうではなくて…あっさり私の言葉を受けれましたから」

 自分で言っていて何だが、まさかこうもあっさりと引き下がるとは思いもしなかった。

「カラーからの報告を聞けばヤらせてくれるのだろう。だったら別に慌てる必要は無いだろ」

 もし昔のランスであれば、構わずに押し倒していただろうが、少し…本当に少し大人になったランスは我慢する事を覚えていた。

(急ぐ必要は無い。ここはゆっくり紳士的に俺様に惚れされればいい)

 あの自分を毛嫌いしていた魔想志津香もようやく自分を素直に受け入れるようになった。

 その時間を考えれば、ここで我慢をするのも大した事ではなかった。

「…あ、ありがとうございます」

 エルシールは自分の服を直すと、改めてランスと向かい合う。

(こうして見るとやっぱり私より年上には見えないんですよね。改め見ると…顔立ちは結構整ってますね。ちょっと口が大きいけど…でも何よりもその覇気が違う)

 顔が整っている貴族など珍しく無いが、何よりもその身に纏っている気配が全く違う。

 誰にも従わないという強い意思が見れる。

「その…良ければあなたのお話も聞かせて頂けませんか。私は外の世界をあまり知らなかったもので」

「まあ貴族なんてそんなものだろ。いや、まあ俺様の知ってる奴等はそんな事も無い奴らが多いが」

「え?」

「いや、何でもない。だが何が知りたい」

「カラーの話を。当事者からの話は何よりも貴重でしょうから」

「ふーん…まあいいが」

 こうしてランスとしては珍しく女性と夜を共にせず、一晩中エルシールと話してその夜は更けていった。

 

 

 

「いやーやっぱり話は色々と聞くものね。ケッセルリンクとは違った視点で見れたわ」

「…そうか、お前達から見て、私はそんな感じだったのか」

「そうですよー。だからみんな、ランスさんとケッセルリンクさんの子を楽しみにしてたんですよー」

 スラル、ケッセルリンク、メカクレはその夜スラルの部屋で話しこんでいた。

 スラルもケッセルリンクからあの時の騒動の話は聞いていたし、自分も遠目の魔法で見ていたが、こうして細かい話を聞くとより新しい情報が齎される。

 そして他の者から見たランスとケッセルリンクの関係も興味深いものだった。

「でも当時のカラーって良くランスをあっさりと信頼したわね。あんな性格でしょ?」

「当時はそれ所ではありませんでしたし、ランスも不思議とカラーに手を出すことは有りませんでしたから…今思えば、カラーの呪いに関する知識があったのでしょう。そうでなければ、魔人に呪いをかけるという発想は出てこないでしょうから」

 ケッセルリンクももう詳しく尋ねるつもりはないが、ランスのカラーの知識量は確かにおかしな事だ。

 今の時代のように、人間とも接触があるならばともかく、あの時代には人間との接触は殆ど無かった。

「それと冒険の手引きですねー。ランスさんって面倒くさがりだけど、冒険の時はそんな事無いんですよねー」

「そうね…ランスは冒険の時は本当に楽しそうにしてるものね。でもそれ以上に驚くのは、ランスが冒険をすると必ず何かがあるって事よね」

 これまでもランスとは何度か冒険をしているが、ランスはその度に何かのアイテムを手に入れる。

 勿論目的の物が見つからないという事は沢山あるが、それでも成果が無いという事は無い。

 それは経験値パンだったりと様々だ。

「ランスにはやっぱり何か特別な力があるのね…そしてこの剣も」

 スラルが見るのはランスが普段から使っている剣だ。

 本来スラルが目をつけていた剣は『ペルシオン』という名の、恐らくは稀代の名剣として語り継がれるであろう素晴らしい剣だった。

 しかしランスが手に入れたのは、魔王である自分の魂すらも取り込む黒い剣だ。

 そして驚くべきは、これは悪魔との契約で手に入れた剣であるという。

(私はあんまり好ましくないんだけどね…でもランスが個人で手に入れた剣だし、私としても何も言えない…)

 レダもその場に居た天使としては複雑であり、実際にこの世界の有り方を壊してしまっていると思う。

 いや、この場に魔王スラルが居る時点で既に壊れているし、何よりも本来はランスと自分がこの時代に居ること自体が既にこの世界を壊してしまっているのだ。

 だが、それでも上…それこそ人類管理局ALICEのさらに上…自分が名前を呼ぶのもおこがましい方々が放置しているところ見ると、さして問題は無いのではないかと錯覚してしまう。

「手に入れた経緯を知りたいわね。一体どうやって悪魔と交渉したの?」

 スラルが目をキラキラと輝かせながら三人を見る。

 この三人はランスが悪魔とした契約の内容を知っている。

 悪魔とは関わったことの無いスラルとしては、一体どのような事を悪魔と話したのか、そして何を対価として求められたのか非常に興味があった。

 が、その反応はスラルにとっては意外なものだった。

 レダは深くため息を吐いてげんなりとしており、ケッセルリンクは少し顔を赤くして自分から顔を逸らし、メカクレも何かを誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべるだけだ。

「どうしたの? もしかして私に言えない様なとんでもない契約だったとか?」

「とんでもない…うん、有る意味とんでもないわね。まさか私もあんな事でこんな剣を貰えるなんて考えてもいなかったし」

「後生です…それだけは聞かないで下さい」

「あはは…あの時は私も笑ってましたけど、こうして月日が経つとあんまり笑えませんね…」

 三人の態度にスラルは首を傾げるが、流石にこれ以上踏み込むことは出来ないと感じて話を変える。

「話は変わるけど、ケッセルリンク。あなたは本当にいいの? 後悔はしない?」

 スラルの顔は真剣そのものであり、ケッセルリンクも真直ぐにスラルの目を見て答える。

「いいんです。私は魔人となった時、カラーではなくなりました。今のカラーの未来は今のカラーが作るべきです。例え何が起ころうとも。それに…」

 ケッセルリンクはそこで苦い顔をする。

「もし私が全てのカラーを守るとなれば、それこそカラーは人類全体を敵に回してしまう…それを防ぐためには、私はカラーとは極力関係を持たないほうがいいのです」

 今の魔王であるナイチサはカラーには反応は示さないが、将来それがどうなるか分からない。

 もしカラーが自分の保護下にあると人間に知れれば、人類はカラーをモンスターの一種と見て完全に敵として見なすかもしれない。

 カラーにとってはモンスターが一番の敵であり、それは人類にとっても同じはずだ。

 だがここで自分がカラー側に寄っては、カラーの未来にもならないとケッセルリンクは判断した。

「あなたがそう言うのであればいいんだけど…」

 しかしスラルは不安そうにケッセルリンクを見る。

 長い間人間を見てきたスラルにはあのカラー達の視線の意味が痛いほど分かる。

 あの目は完全に人間を見下している者の目だった。

 同種のものであれば問題は大きくならないだろうが、それが他の種族となると話しは変わってしまう。

 今は大丈夫かもしれないが、それが続けば必ず大きな問題となる。

「ねえメカクレ。エルシールの件は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよー。私も魔法を使えますから、既にカラーの女王の耳には入っていると思いますよー。それが彼女の望む答えかどうかはわかりませんが」

 今のカラーがあの貴族の娘にどのような判断をするかは、もう女王に任せる他無い。

 メカクレ自身も、あの娘の親がカラーとどのような契約をしたかは知らないのだ。

「私も最近は起きていられる時間も少なくなってきましたから…でもこうして再びケッセルリンク様やランスさんと会えて運がいいですねー」

「ずっと起きてられるって訳じゃないのね」

「そこまで万能ではなかったようです。まあハンティ様も次はもっと改良していると思いますから、大丈夫だと思いますよー」

「…それでいいのか、メカクレ」

 ケッセルリンクの言葉にメカクレは微笑む。

「いいんですよー。そもそも私はもっと早くに消えてたはずなんですから。だからこそ、ここでランスさんやケッセルリンク様に会えたのは運命だと思うんですよー」

「メカクレ…」

「そんな顔しないで下さい。私は本当に嬉しいんですから」

 メカクレは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるが、それに対してケッセルリンクはどう言葉をかけていいか分からない。

「それよりも。皆さんはこれまでどんな事をしておられたのですか? 私も聞きたいです」

「あー…それは一晩で言えるのかしら?」

「間違いなく一晩じゃ終わらないわね。それだけ濃かったもの」

「時間が許すまで聞きたいです」

 スラルは得意気に腕を組んで笑うと、

「じゃあとりあえず私からね。あれは私が魔王の血に飲まれそうになってから…」

 こうして古き友との再開は過ぎていった。

 

 

 

 ???―――

 光溢れる間に一体の天使のような姿をした女性が浮かんでいる。

 オッドアイの瞳をした美しい姿だが、その顔には何の表情も浮かんでいない。

 それは破壊の神として作られた存在。

 それには何の意思も無く、人に模した姿をしているが人格は存在しない。

 ただ破壊するという、単一機能のシステムがそこにいた。

 この世界に勇者というシステムが生み出されたのと同じ様に実験的に生み出された存在。

 神を冒涜するものや汚染された魂が一定数に達した時に地上に天罰を与える為に作られた存在。

 2級神であり破壊神ラ・バスワルド―――それを見る無機質な目があった。

 それは一級神ラグナロク…ラ・バスワルドの上司にして、三超神ローベン・パーンの化身でもある。

 しかしその破壊神は作られてから一度もその役割を果たす機会が訪れていない。

 それはこの世界が神の想定通りに回っている証であり、決して悪いことではない。

 だが、一度作ったからにはやはりその力を点検しておく必要はあったが、今の下界にてその機会は存在しない。

 魔王はその役割を果たし、人間もプランナーが望んだとおりの動きを見せている。

 プランナーと共にこの破壊神をどうにか出来ないかと議論していたが、今までにこれという答えは出ていなかった。

 だからローベン・パーンは独断で一度だけこの神を下界で使う事を検討していた。

 ラ・バスワルドが殺すのはこの世界の人口の0.01%にも満たない。

 そして相手は人間である必要も無い…その一瞬の力を見る事が出来れば良いのだ。

 それ故にローベン・パーンは人類管理局ALICEにその力の性能を試すように話していた。

 あの人類を苦しめる事に愉悦を感じているモノであれば喜んでその力を試すだろう。

 全てはこの世界のため…自分達の創造主たるルドラサウムのために全ての神、そして地上の生命体は存在しているのだ。

 こうしてラ・バスワルドは初めて下界へと光臨する事となる。

 それは一つの歴史の始まる瞬間でもあった。




次でとりあえず一度カラーの事は終わって新たな展開です
そして次はまあアレです
原作に登場していない神は基本的にセリフも何も無い予定です
正直1級神より上は動かし難いです…
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