ランス再び   作:メケネコ

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神の降臨

「これから…あなたの父と契約を交わされた方が来ます」

「…ハイ」

 エルシールは体に流れる冷や汗を嫌というほど感じていた。

 父からの言葉を伝えるというだけなのに、これほどまでに緊張するとは思ってもいなかった。

 理由の一つに、メカクレ・カラーから聞いたカラーの変化もある。

 最初に会った時のカラーの視線…それは間違いなく人間を見下しているように感じられたのは事実なのだ。

 そして何よりも、父が案じていたのはカラーと人類が対立しないことなのだが、今はその言葉の重圧に押し潰されそうになる。

 直ぐ側に居る気楽そうな顔をしているランスが非常に羨ましい。

(いえ…この人は私よりも遥かにややこしい事態を解決してるみたいだし…)

 魔人カミーラと戦っただのドラゴンと戦っただのと聞き、最初は半信半疑だったが、あのレダという女性と元魔王だというスラルが言うのであるのだから、間違いは無いのだろう。

 それを考えれば、今のこの状況などこの男にとっては危機にも入らないのだろう。

「大丈夫ですよー。多分あなたが危惧しているような事にはなりませんからー」

 メカクレ・カラーの言葉が今は非常に有り難い。

(私が不安に思ってちゃいけない。私はここにお父様の代わりに来ているのだから)

 父の最後の言葉を思い出し、エルシールは自分を奮い立たせる。

(それに何かあれば、ケッセルリンクさんが動いてくれると言っていたし…)

 今この場には姿を見せていないが、魔人ケッセルリンクは自分達を見守ってくれているらしい。

 幸いにも、今は夕方のため、彼女もそれほど辛くは無いとの事だ。

「待たせたな」

 そこに最初にエルシール達を引き止めたカラーが姿を現す。

 口では『待たせた』と言っておきながらも、そこには謝罪の意は隠されていないのがエルシールにも分かる。

(でもそれくらいに私にとっては当たり前だった)

 貴族の世界はこれ以上にドロドロとしており、自分はその中で生きてきたのだ。

 エルシールは改めて気を引締める。

「テティス様。この者があの男の娘です」

「ご苦労」

 そこに現れたのは、やはりカラーだけあり非常に美しい容姿をしている。

 後ろに束ねられた髪はまるで髪長姫のように美しい。

 エルシールはこのカラーもまた人間を見下しているのか不安に思いながらも、

「エルシドの娘、エルシールです」

「そうか。私はテティス・カラーだ。まずは聞こう。エルシドはどうした?」

 その声には何の抑制も感じられない。

 その顔も能面のように表情は浮かんでいないが、その目は人間を見下しているような色は無いように感じられた。

 一方のランスは、

(うーん、中々美人だな。あの無表情の裏ではとんでもなくいい声を出してくれるに違いない)

 そんな事を考えていたが、幸いにもそれは彼女に見破られる事は無かったようだ。

「父は…エルシドは死にました」

「そうか、死んだか。だがあの男は人間の国の重鎮だったのだろう。そのエルシドが何故死んだ」

「同じ国の貴族によって貴族の立場を追われ、国の法によって処罰されました」

 確かめた訳ではないが、恐らく間違いは無いだろう。

 行方不明という立場の自分には、両親がどうなっているのかは分からないが、恐らくはもうこの世には居ないだろうと思う。

「同じ国の者によって? 何故だ?」

 テティスは不思議そうに首を傾げる。

 彼女にとって、自分との交渉役であるエルシドを同胞が殺したというのは不可解極まりなかった。

「カラーとの交渉による富の独占…それが原因です」

「…人間の考えることはよく分からない。だが、死んだのであれば仕方あるまい。してエルシール、お前がエルシドを継ぐということか?」

「いえ…私の家は既に存在しません。ですので、他の者が来ることになると思いますが…」

 エルシールは不安そうにテティスを見る。

 その顔にはやはり何の表情も浮かんでおらず、事務的に自分に言葉を投げかけるだけだ。

「そうか。だが私はエルシドとその父と契約をかわした。そのエルシドが排除されたのであれば、このまま約束を守る必要も無い」

 その言葉にエルシールは複雑な思いにとらわれる。

 それは父を信用してくれていたという安堵、そしてこれからの人間とカラーの間に何か争いが起きるのではないかという不安だ。

「そしてこれは父の最期の言葉です。どうかこれが原因で人と争うことが無いようにと…」

「人と争う…それは私の裁量では決める事ではない。女王が決める事だ。私はお前の父との交渉役に過ぎない。だが、人と争う理由も無い。人が私達を攻めるというのであれば別だが」

 エルシールをそれを聞いて安堵のため息をつく。

 少なくとも、今現在はカラーは人間に対する敵意は持ってはいないようだ。

 勿論この先の事は分からないが、今自分に出来るのはこれが精一杯だ。

「話はそれで終わりか。ならば去るがいい」

「あの! 宜しければ教えてください! 父と祖父はどうやってカラーの信頼を勝ち取ったのですか」

 エルシールはそれだけは聞いておきたかった。

 カラー…そして魔人であるケッセルリンクの信頼を勝ち取った人間が今自分の隣に居る。

 その男はカラーと共に強力な敵と戦い、そして魔人とも戦う事でカラーから信頼を得たのだ。

 父がランスのようにカラーから全幅の信頼を得たとは思っていないが、その理由だけはどうしても知っておきたかった。

「あの男とその父は我等が望むものを差し出した。だからその対価を支払った。それだけだ」

「カラーが望むもの…ですか」

「そうだ。あの時カラーが必要だったもの、種となる男をな」

「!!」

 その言葉にエルシールは思わず目を見開く。

 そしてそれはその会話を近くで聞いていたケッセルリンクも同様だった。

「男…人を?」

「そうだ。カラーは人の男が居なければ繁殖出来ない。エルシドはカラーにそれを提供した。だからその対価を支払った。それだけだ」

 テティスはそれだけを言うと、配下のカラーと共に姿を消す。

「あっ、行っちまった。中々の美人だったのに…」

 そのカラーを口説こうとしていたランスは、消えてしまったカラーに対して本当に残念そうに舌打ちをする。

「…そんな…父が」

 エルシールはカラーの言葉を思い返し、思わず膝から崩れ落ちる。

 貴族である父が清廉潔白だったとは思っていない…財を貯めるのには何か後ろ暗い事もしているかもしれないとは思っていた。

 だが、それは全てこの国のためだった。

 実際に父はモンスターや他国からの侵略を防ぐために、巨額の金を国に納めてきてた。

 それはカラーから仕入れた丈夫な木材等もあり、それこそがアドバンテージとなっていたはずなのだ。

「まさか…人をカラーに渡していたなんて…」

 父のしている事は間違いなく人の売買だ。

 勿論人の売買などとりたて珍しくも無い…この世界に奴隷という身分の人間は存在するし、自分の家も奴隷を何人も雇っていた。

「別に変じゃないだろ」

 ランスの言葉にエルシールは思わずランスを睨む。

 しかしランスはそんな彼女の視線を全く感じていないように言葉を発する。

「奴隷として売られたんだろ。どこででもある事だろ」

 ランスと共にいるシィルも元は奴隷として売られた存在であり、ゼスという国では魔法を使えない2級市民は全て奴隷に等しい存在だ。

 いや、下手をすれば奴隷よりも酷い扱いだったかもしれない。

 ランスが最初に入れられた施設では、その2級市民がいつ死ぬか賭けが行われていたほどだ。

 それにヘルマンの大統領であるシーラ・ヘルマンも、ランスが助けなければ奴隷として売られていただろう。

「ランスさん!」

 そんなランスにパレロアが強い声で抗議をする。

 その目には暗に『言いすぎだ』と言っているが、ランスはそれでも言葉を止めない。

「お前の親父は奴隷を売ってカラーと取引してた。それだけだろ」

「…」

 ランスの言葉にエルシールは何も言い返すことが出来なかった。

 その言葉は全て真実だという事が嫌でも分かっているからだ。

 確かに奴隷が売られるというのは別に珍しい事でも何でもない…が、まさか自分の父がカラーの信頼を得るために人をカラーに売っていたとは考えてもいなかった。

「ランス、そこまでだ」

 ランスの言葉を少し強い言葉でケッセルリンクが止める。

「一先ずはここを出よう。メカクレ…カラーを頼むとは言えない。だが、誤った方向に行きそうな時は…」

「はい。そんな事を起こさないために、私はハンティ様にお願いしたんです」

 メカクレの言葉にケッセルリンクは微笑む。

(ああ…ケッセルリンクは魔人になってもそういう所は変わってないんだなあ…それもランスさんが居たからかな?)

 カラーという種族に大きな影響を与えた人間…そして魔王に攫われ、もう二度と会えないと思っていた存在。

 そのランスと再び会えたのには、何か意味がある…メカクレはそう考えていた。

「だから…もう一度会いましょうね。ケッセルリンク様」

「ああ…そうだな」

 その笑みは確かにメカクレがかつて見た微笑…カラーだった時から変わらぬ笑みだった。

 

 

 

 夜―――

 魔法ハウスにて、ランスはパレロアから非難の目を向けられていた。

「ランスさん…エルシールさんにどうしてあんな事を言ったのですか」

 あんな事とは、間違いなく先程ランスがエルシールに向けた言葉だ。

 まさかパレロアは、ランスが女性に対してあんな厳しい言葉を向けるとは思っていなかった。

 確かに性欲は旺盛だし、女性を抱くためならばどんな努力も厭わない人物なのは分かっていたが、ショックを受けている女性に対してあんな言葉を言うのは信じられなかった。

「フン。ああいうのは誰かがスッパリと言ってやった方がいいんだ。大体何時までも親の事でうじうじ悩むなんざ下らんだろ」

 ランスは自分でも言いすぎたとかそんな事は思っていない。

「そうかもしれませんが…」

 パレロアもランスの言っている事は分からないでもないが、それでも彼女の気持ちを考えると、やはり言い過ぎではないかと思ってしまうのだ。

「大体あの手の奴は、こうして強く言ってやった方がいいんだ」

 ランスは己の言う事に絶対の自信を持って胸を張る。

「大丈夫よパレロア。彼女はあなたが思ってるほど弱い人間じゃ無いわよ」

「ですが…」

 スラルの言葉にパレロアは尚も言葉を発しようとするが、それは2階から降りてくるエルシールの足音によって止められる。

 顔を伏せて歩いてきたエルシールは、リビングに置いてある椅子へと無言で座る。

 無言で有りながらも、只ならぬ気配にパレロアもこれ以上言葉を発する事が出来ずにいた。

 少しの間エルシールは何かを考えているようだったが、突如として立ち上がると自分の顔を思いっきり両の手で叩く。

「エ、エルシールさん?」

「おお…」

「あー…すっきりしました」

(ミラクルみたいな事をしてるな)

 ランスは思わず関心してしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

「もう大丈夫です。ランスさんの言うとおり、奴隷を売るというのは何処ででもある話です。そしてそれで何不自由無く暮らしてきた私が悩んでも仕方ないですから」

 エルシールの言葉に、ランスが「ほら見ろ」と言わんばかりにパレロアを見る。

「で、これからどうするつもり?」

「…それなのですが、スラルさん。私には魔法の才能があるんですよね?」

 レダの言葉に、エルシールはスラルを見る。

 スラルはその視線を受けて、ニンマリと笑いながら頷く。

「ええ。あなたには確かに魔法の才能があるわ。それも氷の魔法の才能が高い」

 氷の魔法、それはスラルの得意している魔法でもある。

「でしたら…宜しければ、私を鍛えて頂けませんか」

「私は別に構わないけど…ランス?」

「構わんぞ。で、その後はどうするつもりだ?」

 ランスの言葉にエルシールは真剣な目でランスを見る。

「それですが…私をここに置いて頂けないでしょうか」

 エルシールの言葉にランスは待ってましたと言わんばかりに笑う。

「がはははは! つまりはエルシールも俺様のモノになるという訳だな!」

「正直私は世間知らずもいい所ですから…ランスさんなら色々な事を知ってそうですし」

「あん?」

「約束通り、ランスさんが私を抱くのも構いません。ですから…私をここに置いて欲しいです」

 そこでエルシールはランスに一礼する。

 貴族であったエルシールには、ここでランス達に見捨てられればどうしていいか分からないというのも現実だ。

 仮に人里に送ってもらったところで、今の段階では何も出来ない自分ではそれこそ体を売ったり、奴隷として売り飛ばされる未来しか無いだろう。

 しかしこの男は違う…冒険に対して深い知識があり、そして認めるのは癪だが人を巻き込みながらも引っ張っていくタイプの人間だ。

 そして間違いなく、自分が知っている限りでは最強の人間だ。

「おーけおーけ、それは別に構わんぞ」

 ランスとしてはそれは願ったりだ。

 エルシールを一目見た時から、何としてもヤりたいと思っていたし、ランスの目から見ても彼女は中々使えるとも思っていた。

「それとお前にも俺様のメイドをやってもらうぞ」

「メイド…ですか?」

 ランスの言葉にエルシールは目を見開く。

 何か要求されるとは思っていたが、まさかそんな要求が出てくるとは思わなかった。

 ランスは己の城を持ってからは身の回りは全てビスケッタを中心としたメイド達に行わせていた。

 特にメイド長のビスケッタは異常なまでに優秀であり、ランスを見事すぎるまでにサポートしていた。

 ランスも何となく、エルシールにビスケットと同じ『出来るメイド』の匂いを嗅ぎ取っていた。

「…そうですね。ここに置いて頂けるのであれば構いません。私はあなたのメイドになります。ランス様」

「いいんですか? エルシールさん」

 パレロアが心配そうにエルシールを見る。

 ランスのメイドになるという事は、当然肉体関係も迫られるだろう。

 自分はもう慣れた…というよりも、もう嫌では無くなっている。

 ランスという人間が分かってきたというのもあるが、不思議とランスには母性本能を刺激させられるからだ。

「いいんです。それに…ランス様と居れば嫌でも強くなるでしょうから」

 自分のレベルもあっさりと13に上がっていたくらいだ。

 この調子で行けば、自分ももっと強くなれるだろう。

「そういう訳です。皆様、宜しくお願いします」

 こうしてエルシールはランスと共に行動する事を決めたのだった。

 

 

 

「がはははは! お楽しみターイム!」

 そしてその夜、ランスは早速エルシールを自分の部屋へと呼び出す。

 覚悟を決めているエルシールではあるが、やはりいざとなると緊張しているようで、その顔は限界まで羞恥に染まっている。

「と、言う訳で早速頂くとするか」

 ランスは何時ものように素早く全裸になると、エルシールをベッドへと押し倒す。

 エルシールはというと、ランスの裸体に驚きつつも目を放すことが出来なくなってしまっていた。

(凄い体…意外と細いと思ったけど、どこにあんな力が…)

 モンスターをその剣で真っ二つにするだけでなく、その周囲のモンスターもその余波で消し飛ばすのを何度も見た。

 ランスの体に触れてみると、やはりそこには見事なまでの肉体があるだけだ。

「なんだ、俺様の体に興味があるのか」

「あ…えーと…凄い体だと…」

「そうかそうか」

 ランスはニヤリと笑いながらエルシールの服を脱がす。

 そこにはランスが想像したとおり、見事な肉体があった。

「んむ…」

 エルシールはその唇にランスの唇が重なるのを感じる。

 ランスの顔が間近にあり、その顔から目を離すことが出来なくなる。

 そしてランスの舌が自分の唇をこじ開け、自分の舌と絡み合う。

 勿論そんな経験が無いエルシールにはどうしていいか分からず、ランスにされるがままだ。

「エルシールは処女か」

「…まあ一応は貴族の娘ですから」

「うむ、初々しい感じもグッドだ! がはははは!」

 ランスはそう言いながらエルシールの肢体にその指をそして唇を這わせる。

 エルシールは、その体に感じるランスの熱の篭った手と唇に心臓が破裂しそうになるほど高鳴っているのを感じていた。

 あんな馬鹿貴族に犯されるのに比べればまさに天国と地獄程の差がある。

「さーて、そろそろ行くぞ」

「あっ…」

 エルシールは自分の大切な部分に何かが当たるのを感じる。

 もう体は自分の意思で動かすことが出来ない。

 そして少し首を動かすと、ランスのハイパー兵器がその目に入ってくる。

(あんな大きいのが…私の中に入るの?)

 勿論自分も初心な子供では無いが、それでも自分がこうして男に抱かれる日が来るのがこれほど早いとは思っていなかった。

「とーーーっ!」

「ああっ!」

 自分の中に男が入ってくるのを感じ、それが痛みとなって現れる。

 処女を失うのは痛いと聞いていたが、それは確かにそうだった。

「うむうむ、エルシールは初めてだからな。俺様も優しくしてやろう」

 今までのランスであれば相手が処女だろうが自分勝手な動きで勝手に終わっていただろう。

 だが、数々の経験を積んできたランスは今では女性をよがらせるのも楽しくなっていた。

(うーむ、やっぱり処女だけあってきつきつだ。ここはゆっくりとやるとするか)

 流石にこれではランスも自由に動くのは難しいと、ゆっくりとエルシールのなかをほぐしていく。

 ランスにしては実に優しく、そして繊細に動く。

 すると、ランスのハイパー兵器の動きがだんだんスムーズになる。

「がはははは! 大分慣れてきたようだな! ではもう少し早くするぞ!」

「え…あ…」

 エルシールは荒い息をつきながら、自分の体にのしかかってくるランスの体をその手で受け止める。

 そしてそのままエルシールは何度も何度もランスに抱かれ続けた。

 

 

 

 魔物界―――それは人間には決して踏み込めぬ、魔物達の領域。

 そこに足を踏み入れることは死を意味する、それが世界の常識だった。

 しかしそこに現れたのは、その常識が通用しない異形の何かだった。

「馬鹿な…アレは一体何なのだ! こ、この魔物大将軍マディソンが手も足も出ないなど…!」

 魔物大将軍マディソンは周囲を見渡しながら呆然とする。

 彼の周囲には何も無かった。

 まるで何かで抉られた様に地は消滅し、マディソンも既にその右腕が存在していない。

 頑丈で、魔法に対しても大きな耐性を持つはずの自分の体が実にあっさりと消滅する…自分の遥か上の存在である魔人でも、そう簡単に魔物大将軍を殺すことは出来ないのだ。

 マディソンは呆然と目の前に浮かぶ存在を見上げる。

 それは金色の髪をし、オッドアイをした美しい女性だった。

 しかしその目は無機質で、本当に自分をその視界に入れているのか分からなかった。

(一体…何が起きたというのだ)

 

 それは魔物大将軍の任務としては酷く容易いものだった。

 トッポス…常に魔物の闘争を繰り広げる恐ろしい存在であり、その力は魔人が束になっても敵わないほどだ。

 魔人四天王であるザビエルですらも、トッポスに対しては消極的にならざるを得ない恐ろしい存在だ。

 特に凶暴となるのは卵を産んだ時だが、幸いにも今はその時では無いため、迂闊に近づきさえしなければいいはずだった。

「マディソン様。トッポスに動きはありません」

「そのようだな。しかし警戒は緩めるな。トッポスと争うのは避けねばならぬからな…」

 魔人は無敵結界が有る故にトッポス相手にも死ぬことは無いが、それが無い自分達ではトッポスにはまるで歯が立たない。

 まるで嵐のような存在であり、トッポスが通過するのを待つしかないのだ。

「まったく…人間の所へ行ってくれるのが一番なんですけどね」

 配下の魔物将軍が忌々しげに言う。

 その魔物将軍に向かってマディソンは鼻で笑ってみせる。

「そんな事になっては我々が人間相手に遊べんではないか。ナイチサ様は今は動かぬが、一度動けばあの大殺戮が待っている。それまでに人間共がトッポスに殺されては、我等の楽しみが減るだろう」

「それもそうですな。ハハハハハ!」

 マディソンとその配下の魔物将軍は気楽に笑いあう。

 トッポスの脅威は今の所は大丈夫のようだ。

 このまま通り過ぎてくれれば、被害がゼロで切り抜けることが出来る。

 そしてトッポスが魔王ナイチサの指示した範囲から消えた時、その場に居る配下の魔物達が大きくため息をつく。

 確かに去ってくれる可能性の方が高かったが、一度戦闘になってしまえば最後、魔物達が全滅するまでトッポスはその動きを止めないだろう。

「行きましたな」

「うむ、これで任務は終了だ。ナイチサ様に報告へ行かねばな」

 魔王の命令を遂行したことでマディソンは得意気に笑みを浮かべる。

(今度は私も是非人間狩りに行きたいものだ…ナイチサ様も気まぐれな方…人間を放置している期間も長いからな)

 不思議と魔王ナイチサは人間を虐殺する一方で、それが終わればあっさりと己の城へと戻る。

 そして再び人間に一切関わろうとしない…そんな魔王だった。

「マディソン様…アレは何でしょうか?」

 配下の魔物隊長が上空を指差す。

「何だ」

 マディソンもそれにつられて上空を見ると、そこには一人の人間と思しき存在が浮かんでいた。

「人間…? いや、しかし何故人間がこんな所に?」

 姿形は間違いなく人間に近い。

 美しい金色の髪に、無機質なオッドアイ…しかし身に纏っている衣装、そしてその両隣には女性を模った不気味な像が浮かんでいる。

 そしてその美しい女性は自分達の前に音も無く降り立つ。

「おい…これは上玉だぞ」

 魔物兵たちが魔物スーツの中でつばを飲み込む。

 確かにこれほど美しい容姿をした人間の女にはそうそう会う機会は無いだろう。

 そしてその女をどう犯して苦しめようか、今はその事で頭がいっぱいなのだろう。

 しかし魔物大将軍マディソンはそんな女に薄ら寒いものを感じていた。

 まるで魔人…いや、魔王ナイチサの前にいるような恐怖が浮かんでくる。

「へへへ…久々の上物だぜ! マディソン様! 捕らえましょう!」

 魔物隊長がそう言って無造作に女に近づいていく。

「ま、待て!」

 マディソンはそれを静止しようとするが、突如としてその魔物隊長の胸に大きな穴が開く。

 そしてその体全体に穴は広がっていき、とうとう魔物隊長の姿は消滅する。

「…へ?」

 その光景を魔物兵達は呆然と見ていた。

 魔物隊長が近づいたと思ったら、その姿があっさりと消えてしまったのだから。

 それを見てマディソンは背筋を凍らせながら、

「に、逃げ…」

 その言葉を言いきる前に、目の前の女―――破壊神ラ・バスワルドの手から強力な何かが放たれた。

 

「お、お前はなんなのだ!」

 魔物大将軍マディソンは、ついに己の四肢を消滅させられながらも聞かずにはいられなかった。

 圧倒的…いや、圧倒的という言葉すら生温い何かが目の前にはある。

 その女は無機質に自分を見ている…いや、本当に自分を視界に入れているかどうかも怪しい。

 そして女の指が自分に向けられると、魔物大将軍マディソンはそれ以上何も言えずにその体を消滅させる。

 魔物大将軍率いる5,000の軍がここにあっさりと消滅した。

 それをした本人…破壊神ラ・バスワルドは何事も無かったかのようにその姿を消した。




バルワルドに関しては、織音氏の言葉を参考にして魔王よりも強いという設定とさせて頂きます
しかし結構設定が変わるのでどれが正しいのか少し分からなくなります…
ランス10本編で「第一次魔人戦争を超える数の魔人が来ている」という台詞があったと思いますが、実際には第一次魔人戦争に参加した魔人は15体…ランス10本編ではワーグを除けば11体だし
もし間違ってれば中途半端な知識で本当に申し訳ありません

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