ランス再び   作:メケネコ

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破壊神ラ・バスワルド①

 ランス達はバイクの力で即座にJAPANへ到達―――とはいかなかった。

「中々止まないわねー」

 スラルは魔法ハウスから空を見上げて少し憂鬱そうにため息をつく。

 ランス達を足止めしているのは天…即ち雨であった。

 流石のランスでも、この雨の中でバイクを運転する訳にもいかなかった。

 体が濡れるのが嫌というのも有るが、一番の問題点としてはこの雨の中でバイクを運転するのは危険という結論に達したからだ。

 ランス一人であれば、その卓越した技術で問題なく進めるのだが、ここにパレロアとエルシールがつくと流石に危ない。

「そしてここで凄い陰気な空気が…」

 スラルは少しニヤニヤと笑いながら食卓を見る。

 そこには黒焦げになった料理が置かれており、エルシールが顔を真っ赤に染めながら俯いてた。

「…エルシールは料理が不得手なのだな」

「そうみたいです…」

 ケッセルリンクの言葉にエルシールは顔を上げることも出来ずに頭を垂れる。

 エルシールは貴族の令嬢だけあって、家事全般は得意では無かった。

 洗濯、掃除といったスキルも低く、掃除をしようとして逆に汚れてしまう事も多々あった。

 それを見てランスがエルシールの料理を作ってみろ言ったのだが、その結果がこの黒焦げになったこかとりすのから揚げだった。

「まさかエルシールがこれほど料理が下手だとはな」

「うっ…」

 ランスの言葉にエルシールは恥ずかしそうに身を捩る。

 確かに自分は家事全般が不得手だと思っていたが、まさかこれほど下手だったとは自分でも思っていなかった。

「爆発しなかっただけでもまだましか」

「いくらなんでもそこまでは!」

 流石にエルシールが抗議の声を出すが、ランスの視線が突き刺さるとしゅんと小さくなってしまう。

「ランス、そう言ってやるな。誰だって得手不得手があるだろう」

 ケッセルリンクはそう言いながら、黒焦げになったこかとりすのから揚げを口に含む。

 ざりっ、という音を立てて、明らかに火が通り過ぎているだけでなく、下処理もあまりされていないために臭みもある。

「ケ、ケッセルリンク様…そう無理をしないで下さい」

「フッ…」

 エルシールの気遣う言葉にケッセルリンクは笑みを浮かべる。

(そういえば…スラル様の料理を初めて食べた時は驚いたものだな)

 

 あれは忘れもしない、ランスが突如として姿を消した時、スラルの落ち込みようは凄いものだった。

 魔王の血に飲み込まれていたこともあり、自己嫌悪と恐怖でスラルは心ここにあらずといった感じだった。

 それを見かねたガルティアが、スラルを元気付けるためにもその手料理を食べたいとスラルに願った。

 本来は逆ではないかと思ったが、ガルティアにとってはスラルの手料理こそが一番のご馳走であったようだ。

 ガルティアはメガラスとケイブリスを誘ったようだが、その二人には忙しいという理由で断られたと言っていた。

 そしてあの二人が何故断ったのか、それを知るのはそれから直ぐだった。

「はい、どうぞ」

 スラルの顔は少しやつれていたが、それでも顔には笑顔が戻っている。

 その顔を見るだけでケッセルリンクはスラルが少しは気が紛れたと思い安堵する。

 そして隣のガルティアはスラルの料理をその目で楽しみ、そして香りを楽しみまるで宝石でも見るかのように目をキラキラさせていた。

(あのガルティアがここまでの顔をするのだ。さぞや絶品なのだろうな)

 ガルティアは非常にグルメであり、ランスとレダもガルティアとよく食事をとっていた。

 実際に自分もその食事の場に呼ばれた事は何度もあったため、彼の食に対する拘りはよく分かっている。

 どんなに味が不味くとも、必ずその料理を食べきり、感謝を忘れない…それがガルティアという魔人なのだ。

 そんなガルティアが、何処か緊張するかのように慎重にスプーンを動かしてその料理を口に含む。

 それだけでガルティアはその顔に満足気な笑みを浮かべる。

「ああ…うめぇ…やっぱりこの味が最高だぜ。まさに宇宙だ…」

 普段とは違うガルティアの姿を見て、ケッセルリンクもその唇に笑みを浮かべる。

「では私も」

 ケッセルリンクもガルティアに習ってその料理をスプーンですくって口に入れた時―――彼女はその意識を手放した。

 

「どうしたケッセルリンク」

「…ああ、少し昔を思い返していただけだ」

「いや、顔が青いんだけどどんな事を思い返してたのよ」

 ランスとレダの言葉でようやくケッセルリンクの意識が覚醒する。

 どうやらこの料理を食べた事で、スラルが自分に振舞ってくれた料理の事を思い出したのだ。

 が、どうしてもその後に自分に何があったのかは思い出すことが出来ない。

 思い出そうとすると、頭痛と恐怖感に襲われるために今までその記憶を封印してきたのだ。

「…分かっています。私は凄い料理が下手だと…いえ、家事全般が下手だと…」

 エルシールはそんなケッセルリンクを見てとうとう地に手を着けるまでに落ち込む。

「落ち込むことは無い。全ての存在には向き不向きがあってだな…」

「ケッセルリンク、それ慰めになってないから」

 レダの容赦の無い突っ込みに、エルシールはどんどん小さくなっていく。

「とりあえずこれは…処分しますね」

 パレロアは黒焦げになったこかとりすのから揚げをゴミ箱へ捨てる。

(ごめんなさいね…エルシールさん)

 本当はエルシールの手際の悪さは分かっていたが、こうも一生懸命にやっている彼女を見ると最後までやらせてあげればいいと思ったが、やはり物事には限度というものがある事をパレロアは理解した。

「まあまあ。エルシールもそんなに落ち込まないで。家事が駄目なら他で挽回すればいいのよ」

「そうでしょうか…いえ、私は一人の女性としてこの結果が少し受け入れ難くて…」

 蝶よ花よと育てられていた訳ではないが、自分が片付けやお菓子作りをしようとすると、必死になって止めていた使用人達の態度の理由が今になって分かった。

(私が手を出すのを嫌がるはずよね…仕事が増えるだけだものね)

 エルシールが過去を思い出して限りなく落ち込んでいく。

「じゃあこれならどうかしら?」

 そんな落ち込んでいるエルシールを尻目に、レダが一つの皿を置く。

 そこにあったのは先程の黒焦げのから揚げとは違い、実に美味しそうな匂いを放つから揚げだった。

「ほう。まともそうだな」

 ランスはそう言ってそのから揚げを口に含み、咀嚼して飲み込む。

「うむ、普通だな」

「まあそうよね。流石にパレロアみたいに上手くはいかないわね」

 それは本当に普通の味のこかとりすのから揚げだった。

 パレロアの作った料理のように特段に美味しいという訳ではないが、それでもごく普通に食べれる味だ。

 普段ランスはシィルの作った料理や、メイド達が作ってくれている料理を食べているがそれに比べれば少し落ちるだろう。

 最も、それはシィルやメイド達がランスの好みを知り尽くしているという事もあるだろうが。

「私達は普段料理なんてしないからね…」

「そうなんだ」

 この中でレダの正体を知っているのはランスとスラルのみで、ランスは特にレダの事を話すつもりは無いようなので、スラルもレダの事は特に言うつもりは無かった。

(そもそもエンジェルナイトなんて話、そう信じられるもんじゃないでしょうしね…)

 いや、そもそも今の人類にエンジェルナイトの事を知っている者は殆どいないのでは無いかと思う。

(魔人は…ケイブリスやカミーラ、メガラスなら知ってそうね)

 これらの魔人達は、人類が生まれる前から存在している魔人達だ。

(…でもどうして私はカミーラ達なら知ってると思ってるんだろう)

 スラルは記憶に障害があるのを自分でも自覚している。

 何故かは知らないが、自分の記憶の一部が完全に抜け落ちている部分があるのだ。

「ううう…美味しいです」

 エルシールはレダの作ったから揚げを食べながら涙する。

 女として何か決定的な部分で負けていると感じてしまった。

「普通だ普通。むしろエルシールが下手なだけだ」

「正直返す言葉もありません…」

 ランスの言葉にもエルシールは何も言い返せずに、ただレダが作った料理を食べるだけだ。

「君にも時間はまだまだある…焦らずにゆっくりと学べばいい」

 ケッセルリンクの言葉にエルシールは静かに頷く。

 そんな彼女を見てケッセルリンクも笑みを浮かべる。

「生憎の雨だ。こんな時はゆっくりと体を休めるのも必要だろう」

「そうね。たまにはこんな事もあるでしょ」

 この雨は本来であればランスが足を止められただけ…そんな雨のはずだった。

 しかしこの雨が新たな世界の変動を作るとは、まだ誰も気づいてはいなかった。

 

 

 

「ザビエル様」

「どうした、煉獄」

 魔人四天王の一人であり、魔王ナイチサの重鎮である魔人ザビエルは己の使徒である白虎―――煉獄に目を向ける。

 ザビエルの使徒である煉獄―――福耳の大男が己の主の前に跪き報告を始める。

「カミーラ様とメガラス様が動きました」

「そうか…」

 魔人ザビエルは正しく魔王ナイチサ…いや、魔王の忠臣であると言えた。

 今回の件―――魔物大将軍が死んだ件も、魔王ナイチサが『捨て置け』と言ったからには自分はその命に従うのが当然だと思っている。

「どうしますか? ナイチサ様に報告しますか?」

 煉獄の言葉にザビエルは少し考える。

 魔人ザビエルにとってはカミーラもメガラスもどうでもいい存在であり、特に何の感情も持ち合わせていない―――最もそれは向こうも同じだろうが。

 カミーラは魔王ナイチサに睨まれており、自由に動かれるのを嫌っている。

 それにも関わらず、カミーラはメガラスと共に何処かへ…いや、確実に魔物大将軍を消滅させた者の所へ向かったのは確実だ。

「…捨て置け。ナイチサ様もそう仰せられた。ならば我らが動く事もあるまい」

「はっ」

 ザビエルの言葉に煉獄は何も異議を唱えない。

 使徒である煉獄は常に主であるザビエルに従うだけだ。

 そのザビエルが「捨て置け」と言ったのであれば、自分からは特に言う事は無いからだ。

「戯骸と式部と魔導は何をしている」

「式部は何時もの通り人間を殺してますよ。戯骸はまた悪い癖が出てるんじゃないですかね」

「変わらぬな」

 煉獄の報告にザビエルは僅かに唇を吊り上げる。

 式部は36時間に一度は殺さないと知能が低下するため、人間を殺しにいったのだろう。

 戯骸はどうやらいい男を見つけたようで、その男を襲いに行ったようだ。

「魔導は何か色々とやってるみたいです。まあザビエル様が呼べば直ぐに来ますよ」

「ならばよい…戯骸達にも伝えておけ。今回の件には決して関わるなと…」

「ザビエル様?」

 主の声には僅かに緊張の色が見て取れる。

「あの魔王ナイチサ様が言ったのだ。魔王がな…」

 魔王が「捨て置け」…即ち関わるなと言ったのには必ず何か意味があるのだ。

 自分達にこの件には関わるなと存外に言っているのだ。

 それにも関わらず、カミーラとメガラスは動いた…そこには奴らなりの意味があるのだろうとザビエルは思っている。

 それならば自分が動く必要は全く無いのだ…そう、魔人ザビエルは何処までも魔王という存在に忠実だった。

 

 

 

 

 魔人カミーラと魔人メガラスは雨の中動いていた。

 例え魔人であっても雨の鬱陶しさからは逃れることは出来ないもので、カミーラはその肌につく濡れた髪をかき上げながら進んでいく。

 そのカミーラの前には同じ魔人であるメガラスが飛んでいる。

 自分と同時期に魔人になったにも関わらず、これまで交流らしい交流はまったく無かったのをカミーラは思い出す。

 何しろメガラスは殆ど口を開くことは無い上に、カミーラ本人もメガラスとは別に話そうとも思っていなかった。

 ただ同時期に魔王アベルの手によって魔人となった…ただそれだけの関係だった。

 そんな二人がこうして同じ目的のために動いてる…カミーラにとっては始めての事だった。

(ケッセルリンクがいればよかったのだがな…)

 魔人の中ではあの魔人が一番話が合う。

 しかし今はケッセルリンクはいない…それも今回の話を彼女に振ったのは自分だった。

 少し間が悪いとも思ったが、逆に彼女が居ないほうが好都合だったのかもしれないとも思っている。

 この件は、今の人類とカラーが生まれる前から存在している者にしか分からない事だとカミーラは感じていた。

 そして暫く飛んでいると、メガラスが突如としてその動きを止める。

 そのメガラスの視線の先に問題の存在は悠然と光り輝き、浮かんでいた。

 それは非常に奇妙な光景だった。

 これだけの雨にも関わらず、その存在には雨が当たっていなかった。

 いや、当たっていないというのは正しくは無いだろう…何故ならば、その存在に向かって振る雨はその体に当たる前に消滅しているのだから。

 それは魔人であるカミーラとメガラスの存在など眼中に無いかのようにただ浮かんでいるだけだ。

「…少し違うか」

 カミーラが最初に見て思ったのは、かつて空を埋め尽くす程の数の羽の生えた存在との違いだった。

 あの時に見た者達とは違い、翼は生えていない。

 だが、それよりもカミーラが内心で驚いているのは、その圧倒的な存在感だ。

 かつてのドラゴンの決闘…魔王アベルとマギーホアの戦いは幼いカミーラから見ても圧倒的だった。

 だが、そのドラゴンもあの空を埋め尽くす程の存在…天使の前には悲しいほどに無力だった。

 勿論個としては天使を圧倒していただろうが、まさにその数が違いすぎた。

 どれほど倒そうとも後から後から現れる天使の前にはドラゴンもなす術が無かった。

 目の前にいるのはその姿とは違うが、その気配は圧倒的と言わざるを得なかった。

 それは雨の中、悠然とカミーラとメガラスを見る。

 ただそれだけなのに、カミーラもメガラスも最大限の警戒を取らされる。

 自分達は魔人…この世界に君臨する魔王によってつくられた、まさにこの世界の支配階級の存在だ。

 だが、目の前の存在は動きが無いのに魔人をも圧倒する何かがある。

「………」

 女性―――破壊神ラ・バスワルドは魔人を見ても何の動きも見せない。

 この神にとって、相手が魔人だろうが人間だろうが何も関係は無い。

 ラ・バスワルドには感情が存在しない…何故ならこの神は己の役割にそって動くだけのプログラムに等しい存在だからだ。

 そして今回は己の上司に言われるままにこの世界に一定の破壊を与えようとしてた。

 そのために移動をしていた時に目の前に2体魔人が現れた。

 ラ・バスワルドにとっては人間でも魔人でも破壊するものであれば何でも良かった。

 何故ならば、今回は己の役目を果たす事ではなく、ただこの世界の一部を破壊するように言われているだけだからだ。

 だからこそ、ラ・バスワルドは己の役目に沿う事にする。

 即ち、目の前にいる存在の破壊を。

 それは一瞬の動きだった。

 ラ・バスワルドの両の手が動くだけで、そこからは強烈な威力を持つ魔法が放たれる。

 そしてそれはカミーラ、メガラスの両名に直撃し、二人は地面に叩き落される。

 

「ク…」

 カミーラは地に叩き付けられた事に屈辱を感じながら起き上がる。

「…まさか、な」

 そして自分の体の一部に火傷が出来ていることに唇を歪める。

 あの存在は、魔人の持つ無敵結界を貫通したのだ。

 無敵結界はこの世の絶対的な理…例えドラゴンであろうとも無敵結界を破る事は出来ないのだ。

「今のは…ファイヤーレーザーか」

 己の体に当たったのはこの世界に普及している魔法だが、その威力はまさに桁違いだ。

 魔人である自分にここまでの傷をつけた…それは今自分を感情の無い目で見下ろしている存在が自分を遥かに上回るという証拠だ。

 そして魔人メガラスは己の体についた氷を力ずくで引き剥がしていた。

 メガラスの方に放たれたのはスノーレーザーのようで、その魔法はメガラスに確実にダメージを与えていたようだった。

 剥がされた氷にメガラスの血がこびり付いている。

 メガラスは表情一つ変えずに上空に居る存在を見る。

 それは動いている二人を一瞥すると、上空からゆっくりと降りてくる。

 そして眩い光が少し収まると、その正体が見えてくる。

 金色の長い髪に、赤と青のオッドアイ、そして奇妙な衣装が見えてくる。

 その容姿にカミーラは鋭く睨む。

 容姿が気に入らない、という理由では無い…その服装は、差異はあれど天を埋め尽くした天使の着ていた鎧に若干似ているように感じられた。

 しかしそんなカミーラの鋭い視線にもラ・バスワルドは表情一つ変えない。

 そしてその手が持ち上げられると、再びファイヤーレーザー、そしてスノーレーザーが二人を襲う。

 今度はカミーラもメガラスも油断せずにその一撃を防ぐ…が、その威力はまさに圧倒的であり、流石の二人もそのまま吹き飛ばされる。

「………」

 ラ・バスワルドは本来の力である破壊の力は使わない。

 前回は魔物大将軍を含めた魔物5,000体を消滅させたが、今回は完全なイレギュラーだ。

 魔物や人間を破壊しても良いとは言われたが、魔王や魔人を消滅させて良いとは言われていない。

 しかし魔人と戦った場合はどうなるか…これもまた上が試してみたい事でもあった。

 魔人ラ・バスワルド…それは神ですらどう扱っていいか分からない使い勝手の悪い神だからだ。

 それを天界から見ていた女神ALICEは少し複雑な感情を覚えつつも、そのままにさせる。

(当初の予定とは違うけど…これはこれで問題は無いわね)

 だからこそ、こうして魔人と戦わせる事には意味がある…女神ALICEはそう判断したのだ。

 だが決して殺してはいけない…それだけは徹底しなければならない。

(万が一魔人が死んだら面白くないしね)

 魔人の役割は人間に苦しみと絶望を与える事…まあ全ての魔人がそう考えている訳ではないが、それでも神の力で魔人が死ぬのはおいしくない。

 そんな女神ALICEの思考を読み取ったのかは分からないが、ラ・バスワルドの強大な魔力がカミーラとメガラスに襲い掛かる。

 破壊神の名に相応しいその魔力は、魔人四天王の一人であるカミーラすらも容易く吹き飛ばす。

 しかしそこは魔人四天王カミーラ、彼女も吹き飛ばされながら空中で姿勢を整えると、そのままラ・バスワルドへ向かって突っ込んでいく。

 そしてその爪をラ・バスワルドに振るうが、

「!」

 ラ・バスワルドの前の魔法障壁によってその攻撃を阻まれる。

 カミーラもその障壁ごとラ・バスワルドを潰そうとするが、どれだけカミーラが力をこめようとも、ラ・バスワルドの障壁を貫くことは出来ない。

 そしてそのままカミーラは魔法障壁ごと吹き飛ばされる。

 そのカミーラを襲ったのはラ・バスワルドの不可視の攻撃だった。

 指から放たれるその一撃は魔法ではない…しかし確かな攻撃となってカミーラに襲い掛かる。

「クッ!」

 カミーラは不可視のその一撃をその翼で縦横無尽に動くことで避ける。

 が、そこに放たれるのはラ・バスワルドの放つファイヤーレーザーだ。

 カミーラはその魔法を自分も魔法バリアを貼る事で防ごうとするが、その魔力はまさに圧倒的であり、魔人カミーラの魔法バリアすらもあっさりと貫く。

 そんなカミーラを救おうとしたのかは分からないが、メガラスが猛スピードでラ・バスワルドへと突っ込んでいく。

 魔人最速の名は伊達ではなく、ラ・バスワルドですらも反応出来ないほどだ。

 が―――それだけだった。

「…!」

 メガラスは己の一撃を受けても全くの無反応のラ・バスワルドを見る。

 その一撃はラ・バスワルドにダメージを与える事は出来なかった。

 ラ・バスワルドは感情の篭らぬ目でメガラスを一瞥すると、その細腕をメガラスへ向ける。

 一見すると細腕であっても、その力は見た目と比例しないのはメガラスはよく知っている。

 掴まれば最後、その圧倒的な力で自分は砕け散ると彼は理解していた。

 カミーラにすらも大きなダメージを与えた不可視の攻撃をメガラスは避け続ける。

 メガラス本人もこの相手に自分が有効打を与えるのは難しいと思っている。

 フォースを使えばいいだろうが、この相手がそれを使わせる時間をくれるとは思えない。

 だからこそ、自分は時間稼ぎをするのが一番いいと思っていた。

 そしてその時間はカミーラにとっても十分過ぎるほどの時間だった。

 メガラスはカミーラがこちらに向かって来ているのを察知すると、すぐさまカミーラとラ・バスワルドの直線上から離れる。

 そしてラ・バスワルドの目の前に現れたのは、魔人カミーラから放たれた強烈な炎のブレスだった。

 そのブレスは一瞬でラ・バスワルドを飲み込む。

 そしてカミーラのブレスが消えた時目の前にあったのは―――傷一つおっていないラ・バスワルドの姿だった。

「…まさか無傷だとはな。魔法で防いだか?」

 カミーラが苛立ちを隠せずに唇をかむ。

 ランス相手には出さなかったカミーラの全力のブレスだった。

 かつてのこの世界の最強の存在であるドラゴン…そのプラチナドラゴンのカミーラの放った炎のブレスは、相手に傷一つつけることが出来なかったのだ。

 ラ・バスワルドは無表情にカミーラとメガラスを見る。

 カミーラの一撃を受けたというのに、そこには何の感情も浮かんでいない。

「いや、当たってはいたか…炎が効かぬだけか」

 先程は相手はカミーラの爪を魔法バリアで防いだ。

 しかしカミーラの炎のブレスに関してはバリアを使ってすらいない。

 という事は答えは単純、純粋に炎の攻撃が相手には通用しないのだ。

 ラ・バスワルドは少しの間、何かを考えるように身動き一つしないが、二人に視線を向けると再びその手に魔力が集まり始める。

「…まさかこれほどとはな」

 カミーラはそれを見て自分の背筋が凍るのを自覚せざるを得なかった。

 ラ・バスワルドが放とうとしているのは間違いなく白色破壊光線だ。

 それは魔王スラルも使っていた魔法であり、人間にも魔物にも使える最上級魔法の一つだ。

 だが、目の前の白色破壊光線はあの魔王スラルにも匹敵する…いや、もしかしたらスラルをも超えるかもしれない程の魔力を感じられる。

 そしてラ・バスワルドから白色破壊光線が放たれ、その光はカミーラとメガラスの二人を飲み込んでいった。

 

 

 

「まったく…ろくに進めんではないか」

 ランスは雨でぬかるんだ地面に対して文句を言うが、言ったところで現実は何も変わらない。

「流石にこの状況じゃあバイクも使えないしね」

 レダも翼が出せないためか、初めての地面のぬかるみに少し唇を歪めながら進む。

「はぁ…冒険というのは本当に大変…」

 貴族の令嬢であったエルシールも、こんな路面で歩くのは初めてのようで、泥のついた靴を少し気にしながら歩を進める。

「そうですね…」

 パレロアもぬかるんだ地面に苦戦しながら足を進める。

「もう少しの辛抱だ。そう時間はかからんさ」

 ケッセルリンクは今日は太陽が出ていないので然程問題なく足を進められる。

「でも何だったのかかしらね。あの衝撃」

 スラルはランスの剣の中で、先程の衝撃に頭を捻らせる。

 突如として襲ってきた衝撃、そしてあわや魔法ハウスを飲み込みそうになった濁流の前には、ランス達も移動を考えるしかなかった。

 もう少し天候が回復するのを待つつもりだったが、少し移動したほうが良いという結論に達し、急ぎ移動をしていた。

 だがこの状況ではバイクを使う事も難しく、こうして歩く以外に手段は無かった。

 歩き続けてどれくらい時間がたったか、ランス達は目の前に突如として現れた巨大なクレーターに大きく口を開けていた。

「なんだこれは」

「何だと言われても…何があったのかしらね。魔人でもいるのかしら」

 これほど巨大なクレーターは、ランスもかつて一度しか見たことが無い。

 あれはJAPANに居た時、魔王リトルプリンセスが暴走していた時に作られたクレーターと同じくらいの大きさだ。

「あの濁流はこれが原因ね…でもその余波だけであれほどの影響が出るなんて…どんな威力をしてるのかしら」

 スラルもこのクレーターには驚く。

 まるで魔王であったころの自分が作ったようなクレーターであるからだ。

「もしかして魔王が…?」

「それは無いと思いますが…」

 ケッセルリンクも警戒するが、魔王の気配は感じられない。

「ランスさん! アレを!」

 クレーターを少し興味深げに覗いてたパレロアとエルシールが同時に声を出す。

「何だ?」

 ランスがクレータを覗いた時、そこには何者かが倒れていた。

 一人は人間に見えるが、もう一人は明らかに人の形をしていない。

 そしてランスはその二つの姿に見覚えがあった。

「アレは…カミーラではないか!」

「メガラス!? メガラス!」

 ランスとスラルの声が同時に放たれる。

 クレーターの中で倒れていたのは、かつてランスが刃を交えた存在…魔人カミーラと、魔人メガラスであった。




ラ・バスワルドは炎と氷が無効ですが、これはバスワルドの本来の体質なんでしょうかね?
ハウゼルとサイゼルに分けられてからついた個性なのかどちらかは分かりませんが、本作ではランス10アフターを参考にさせて頂いております

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