ランス再び   作:メケネコ

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破壊神ラ・バスワルド④

「ランス、本当に上手く行くのか?」

「がはははは! 俺様の作戦に間違いは無い! かからなかったらそのまま逃げればいいだけだからな」

 ランス達はダンジョンの入り口で、空中に浮かんでいるラ・バスワルドを見ていた。

 今は夜だが、宙に浮かんでいるラ・バスワルドは仄かに光っているためにその存在を把握するのは非常に容易い。

 夜を選んだのは、当然ケッセルリンクが本来の力を発揮できる時間だからだ。

「しかしカミーラ…お前がランスの提案をあっさりと受け入れたのは意外だったな」

「この男の策というのであれば乗ってみてもいいだろう…大した問題ではない」

 カミーラは実にあっさりとランスの策に乗ることを選んだ。

 元々使徒の提案は意外と受け入れるのがカミーラだが、彼女の中ではランスは既に自分の使徒の扱いなのだ。

 つまりはこれも自分の使徒が主に出した策…という見方をしている。

「問題はあいつが追ってくるかどうかね…このダンジョンごと魔法で潰してきたならそれこそ終わりよ」

「そんな簡単に潰すならもっと早く潰してるだろ。奴は俺様達をそう簡単に殺す気は無いだろ」

 その点に関してはランスは確信している。

 あの天使は自分達を殺すつもりは無い…それはこれまでの戦いで十分に分かっている。

 もし殺すつもりなら、それこそ白色破壊光線が直撃すればランスでも一撃だ。

 それに魔法というのは理不尽なことに必中であり、回避の手段は無いのだから。

「あ、メガラスが動いたわよ」

 スラルの言葉通り、メガラスがラ・バスワルドに近づいていく。

 今までのようにスピードに任せて突っ込んでいくのではなく、慎重に進んでいく。

 そしてラ・バスワルドがメガラスを認識すると、すぐさまメガラスに魔法を放つ―――前にメガラスが猛スピードでラ・バスワルドの魔法の範囲外に移動する。

 ラ・バスワルドはそれを見ると、メガラスに向かって近づいていく。

 それを見ると、メガラスはそれに合わせる様に徐々にランス達が待つダンジョンへと近づいていく。

「よし、例の場所に移動するぞ」

 ランスはそれを見届けると、ラ・バスワルドとの戦闘と行う場所へと移動していく。

 その後にカミーラは以外にも素直について行く。

「メガラス…死ぬなよ」

 ケッセルリンクも慎重に動いているメガラスを見届けると、自分もランス達の後についていく。

(しかし…オウゴンダマの時といい、本当にランスは突拍子もない事を考えるな)

 ケッセルリンクは昨夜の事を思い返す。

 

 

 

 魔法ハウス―――

「がはははは! これであいつもイチコロだ!」

 魔法ハウスに戻ってくるなり、ランスは上機嫌でパレロアの作った料理を食べる。

 その様子にケッセルリンクは不思議そうな顔をしながらも、同じ様にパレロアの料理を食べる。

「どうした、ランス。随分と上機嫌のようだが」

「うむ、あいつに対する最終兵器を手に入れた。これであいつの厄介な魔法も問題ないぞ」

「最終兵器?」

 ケッセルリンクは首を傾げると同時に、昔の事を思い出す。

 それはかつて魔人オウゴンダマと戦った時の事…ランスの顔はその時と同じ顔をしている。

 あの時もランスの奇想天外な策で見事に魔人を倒すことが出来た。

 その結果が今のカラーなのだから、ケッセルリンク本人はあまり笑う事は出来なくなってしまっているが。

「まあお前がそう言うんだ。何かあるのだろうな」

「うむ。ところでお前は魔法が使えなくても大丈夫か」

「…何?」

 突然のランスの言葉にケッセルリンクの目が細くなる。

 ケッセルリンクはカラーには珍しく、弓ではなく剣を使うカラーであるが、その本領はやはり魔法だ。

 今の自分の本気の力…即ち闇と化すのは魔法ではないが、それでもやはり主な攻撃方法は魔法にある。

「少し厳しいな…私はやはり剣より魔法の方が得意だからな」

「そうか。まあそれ以上の効果があるから仕方ないな」

 ランスとしてもケッセルリンクの魔法が無くなるのは痛いが、それ以上に相手の魔法を防ぐほうが効果が大きいと判断した。

「ふむ…その言葉からすると、全ての魔法が使えなくなるという事か」

「そうよ。まったく…ランスもよくあんな手を考え付くものよね」

 レダも呆れ半分にランスを見る。

 だが、確かにあれほどの威力の魔法を防げるのであればランスの策も悪くない。

 どうせ本気で戦えば自分達に勝ち目は無いのだから。

 しかしレダには一つ気にかかっている事がある。

(でもラ・バスワルド様が本気を出せば一瞬で終わるんだけどね。でもどうしてバスワルド様は本気を出さないのだろう?)

 レダはラ・バスワルドが本気ではない事に当然気づいている。

 あの2級神の本当の力はその名の通り破壊にある…自分はバスワルドの事は名前でしか知らないが、その攻撃方法は自分よりも先に作られたエンジェルナイトより聞いたことがあった。

 最も、それがどんな攻撃なのかは誰も知らないようだが。

「戻ったか」

 ランス達の声を聞きつけたのかどうかは知らないが、カミーラが寝室より出てくる。

「うむ」

 相変わらずカミーラのプレッシャーに恐怖を感じるのか、エルシールとパレロアは体を竦める。

 むしろランスが平気で魔人と接しているほうが本来はおかしいのだ。

 カミーラはケッセルリンクの隣の椅子に座ると、ランスの方を見る。

「どうやら何か考えたようだな」

「当然だ。天才の俺様が無策であんな奴に突っ込むわけが無いだろう」

「…そういう事にしておこうか」

「どういう意味だ」

 相変わらずのランスとカミーラのやり取りに、エルシールとパレロアは内心びくびくしている。

 それほどまでに魔人カミーラの存在が恐ろしいのだ。

「そしてどうする?」

「あるダンジョンにあいつをおびき寄せる。その中ではあいつは魔法は使えないのでそこを狙って攻撃する。それだけだ」

「魔法を使えぬだと…? どういう事だ」

「スラルちゃん」

 ランスは説明するのが面倒くさくなったのか、スラルに説明を任せて自分は食事の続きを始める。

「魔法を一切使えなくさせるモンスターがいるのよ。そこでは誰も魔法を発動できない。そこであいつを誘き寄せて戦うそうよ」

 スラルの説明にもカミーラは顔色一つ変えない。

 一方のケッセルリンクは、『魔法を一切使えなくするモンスターがいる』という言葉に驚いていた。

 先程ランスのランスの言葉の意味も分かったが、まさかそんなモンスターが存在しているとは考えてもいなかった。

「ふむ…」

 カミーラはその言葉を聞いて何かを考え込んでいる。

 そして少し経った後、

「いいだろう…お前の策に乗ってやろう」

「そか」

 カミーラはそれだけ言うと再び立ち上がり自分に宛がわれた部屋に戻っていく。

 ランスはそれを見届けた後、

「何だあいつは」

 カミーラが消えた扉を少しの間見ていた。

 それを見てケッセルリンクが苦笑する。

(カミーラ…まだ傷が完全に癒えていないだろうに。ランスが戻ってきたから顔を見せたか? いや、考えすぎと言われるのだろうな)

「だがいつごろ仕掛ける? 奴から動いた事は無いとはいえ、それが何時までも続くとは思えん。仮に奴から先に動いたとすれば…」

「大丈夫だろ。そんな簡単に殺るならもっと早くに動いてるだろ。カミーラの傷が癒えてからで十分だろ」

 ナチュラルにメガラスの事は無視されているが、ランスは男…ましてやホルスに興味は無いのだから仕方が無い。

「ではカミーラとメガラスの傷が癒えてからだな…まあ明日には治っているだろう」

 

 そして話は現在に至る。

 メガラスは慎重に相手との距離を測る。

 決して魔法の範囲に入らないよう、尚且つ相手が自分を追ってくるような距離感を保ちながら少しずつ目的の場所へ移動していく。

 メガラス本人は魔法を使えないながらも、その魔法防御力は高い。

 だからこそ、こうして少しの魔法ならば耐える事は十分に可能だった。

 あの天使が最初にしてくるのは炎の矢や氷の矢といった完全な初級の魔法だ。

 最も、相手の放つ炎の矢と氷の矢だけで凄まじい威力を持つため、それだけでも惨事になってしまう。

 メガラスは魔法の範囲内に入らないように、慎重に距離を取っている。

 ラ・バスワルドはというと、足りない射程をメガラスに近づくことで埋めようとする。

 普通ならばそれを訝しがり、罠だと思い警戒するものだろう。

 相手が魔人であるならば尚更だ。

 しかしラ・バスワルドにはそれが無い。

 絶対的な力からくる余裕…という事ではない。

 彼女は破壊により浄化をもたらすストッパーであり、地上に汚染魂が増えすぎると現れ、これを殲滅する存在…そのためのシステムでしかない。

 こうして人間や魔人と戦うという事が彼女の本来の目的から大きく離れているのだ。

 それ故に、ラ・バスワルドは上司である1級神の命令通り『ランスを殺さないように戦う』という行動しか出来ない。

 それ以外のことを考える思考能力が欠けているのだ。

 メガラスは徐々に高度を下げながらラ・バスワルドの様子を見る。

 スラルの言葉通りに行動しながら、メガラスは目的のダンジョンにラ・バスワルドを誘導しようとする。

 そしてメガラスが完全に地に降り立った時、それを追いかけるようにラ・バスワルドもまた地に足をつける。

「………」

 メガラスは何も喋らず、相手と対峙する。

 やはり感じるのはその圧倒的な力の差だ。

 メガラスは魔王アベルの時代に、ルドラサウム大陸に墜落したホルスの宇宙船の整備士だ。

 自分以外の技術者は墜落時に死んでしまったため、ホルス最後の技術者になった。

 それから数百年の間、仲間達と共にコールドスリープをしている者達を守ってきたが、そこに現れたのは当時の魔王アベルだった。

 その力は圧倒的で、多くの仲間達が成す術も無く斃される中、メガラスはそれでも果敢に立ち向かった。

 その結果が、魔王アベルに気に入られ魔人となって生きるという結末となった。

 それからはかつての仲間であるホルス達との関係を絶ち、こうして魔人として生きてきていた。

 そしてメガラスも見た…遥か昔、この大陸最強の存在であるドラゴン達が天使によって成す術も無く敗れていくのを。

 目の前にいるのはその天使と同じ存在…いや、その時以上の力の持ち主だ。

 カミーラに誘われたとき断ることも出来たはずだが、メガラスはそれに乗った。

 メガラスが何を考えているかは分からないが、その甲殻の下にある赤い眼光からは何も窺うことは出来ない。

 だがそれでも、メガラスは今目の前の存在から逃げるつもりは無かった。

 この世界で生きると決めたからには、目の前の脅威から逃げてる訳には行かない。

 またいつあの光景が訪れるか…それは今日かもしれないのだ。

「………」

 メガラスが無言で睨んでいると、ラ・バスワルドがついに地に降り立つ。

 そのオッドアイからは何の感情も読み取ることは出来ない。

 魔王スラルに比べ、魔王ナイチサは表情を読みにくい存在だが、この天使はそれ以上だ。

 天使の手がメガラスに向けられ、その手からはスノーレーザーが放たれる。

 それを見てメガラスはスラルからの助言に従い、あらかじめ仕込んでおいたあるものを天使に投げつける。

「あいやー!」

 それはこの世界に生きる種族の一つ、ハニーと呼ばれる種族だ。

 放たれたスノーレーザーはハニーへと当たり、消滅する。

 ハニーは絶対的な魔法防御力を持っており、魔法であるならば例え魔王であろうともダメージを与える事は出来ない。

 そのシステムは神に対しても有効であるらしく、ラ・バスワルドの放つ魔法ですら、最下級のノーマルハニーには通用しない。

「ハニ夫さん!」

「あいつはもう駄目だ! ハニ代さん!」

「離してハニ吉さん! ハニ夫さんが!」

「あいつの分までボク達が生きるんだ! ハニ代さん!」

 必死でハニ夫…メガラスに投げつけられたハニーに近づこうとするハニ代を、ハニ吉と呼ばれたハニーが止める。

 ハニ吉の口はニヤリと弧を描いており、何を考えているか丸分かりだ。

「ううう…さよならハニ夫さん。私はあなたの分まで強く生きていきます」

「え…まだ死んでない…」

 ハニ代とハニ吉は涙を流しながらその場から去っていく…前にメガラスにその頭を掴まれる。

「あ、あの…」

「ボ、ボク達は…」

 ハニ代とハニ吉の言葉を無視して、メガラスは再びそのハニー達をラ・バスワルドに投げつける。

「「あいやー!!」」

 ラ・バスワルドのファイヤーレーザーがハニー達に当たり霧散する。

「わはははは! ざまーみろ! 二人ともボクを見捨てようとしたバツだ!」

 一番最初意投げられたハニーのハニ夫が無傷で倒れているハニ代とハニ吉を罵ってその場から離れようとした時、

「え…」

 再びメガラスにその頭を掴まれる。

「あ、あの…」

「………」

 ハニ夫の言葉にメガラスは何も答えない。

「ひー! ボ、ボクは逃げるんだ! こんな所で死にたくなーい! 家にはボクの帰りを待つハニ実が待ってるんだ!」

「酷いわハニ吉さん! あなた既婚者だったのね! 私だけが好きだなんて言っておいて!」

「うるさーい! お前みたいな尻軽なヴィッチなんて相手にする訳無いだろ! ぽかぽか!」

「いたっ! 酷いわハニ吉さん! この女の敵! ねぇ、あなたもそう思うでしょ!?」

 ハニ代はラ・バスワルドを見上げる。

 話しかけられたラ・バスワルドは一瞬ハニー達を見て―――問答無用で再びファイヤーレーザーを放つ。

「「あいやーっ!!」」

 その衝撃でハニ代とハニ吉は空高く吹き飛び、

「「あんっ」」

 そして地に落ちた衝撃で両方が割れる。

「わはははは! ざまーみろ! ボクの本命はハニ実さんなんだ! ハニ代はキープだったんだよ! 待っててねハニ実さん! ハニ吉が死んだからにはボクが…あいやー!」

 再びハニ夫がメガラスによって投げられ、再びハニ夫にラ・バスワルドの魔法が直撃する。

「ううう…どうしてボクがこんな目に…あんっ」

 倒れたハニ夫に大きな岩が降って来て、ハニ夫はそれに潰される。

 ラ・バスワルドはその光景に何かを感じたのか、少しの間潰されたハニーを見ていたが、直ぐにメガラスにその視線を向ける。

 当のメガラスはというと、既にラ・バスワルドの魔法の範囲の外へと逃げている。

 そしてそこにはランス達が居るダンジョンがある。

 ラ・バスワルドは何の躊躇いも見せずにメガラスを追う。

 それを見て、メガラスはダンジョンの中へと入っていく。

 もしラ・バスワルドに明確な意思があればそれを罠だと見破って、メガラスを追わなかったかもしれない。

 あるいは、罠ごと踏み潰そうとやはり追って行ったかもしれない。

 あるいは、その力を使ってダンジョンごと辺りを消滅させていたかもしれない。

 しかし、ラ・バスワルドにはそれが存在しない。

 世界を消滅させるためのシステム…後に使い難いと判断され、二つに分けられる破壊神はただ命令された通りにメガラスを追っていく。

 即ち、神を満足させるべくランス達と戦うために。

 

 

 

「こいつがお前の言っていたモンスターか…」

「そうだ」

 若干薄暗いダンジョンの中だが、夜目がきくケッセルリンクには何も関係なかった。

 その檻の中にはまるで落書きのようなモンスターが変な踊りを踊っていた。

「ふむ…確かに魔法が使えないな」

 試しに魔法を使ってみたが、その魔法がまったく発動しない。

 己を闇と化す事は可能だが、魔法が使えないというのはケッセルリンクにとっては不便だった。

 カラーらしく、魔法が得意な魔人としては、やはり魔法が使えないというのは不安だ。

 だが、相手の魔法はケッセルリンクをも遥かに超える。

 それを考えれば、相手の魔法を封じる方が効果が大きいだろうと考える。

 カミーラは少しの間何かを考えていたようだが、突如としてランスの前に立つ。

「何だカミーラ」

「ランス…貴様はそれほどこのカミーラから褒美が欲しいのか」

 ランスを見るカミーラの表情は真剣そのものだ。

(むむ…ここは少し真面目に答えたほうがいい気がするぞ)

 ここまでカミーラと関わる事になるとは流石のランスも思っていなかった。

 だからこそランスも少し思う事もある…即ち、カミーラも自分の女にしたいという欲求だ。

 まあカミーラが甘えてくる…なんて事は流石に無いだろうが、あの志津香ですら落としたとランスは思っている。

 ならば、より高い山を目指すは当然だろうと。

「当然だ」

「…貴様もこのカミーラの体を自由にしたいというのか」

 昔のドラゴンはカミーラの体を景品とし、子を産ませるためにカミーラを犯した。

 魔人となる事でそれは無くなったが、その後に待っていたのは何とも言えぬ苛立ちだった。

 魔人ケイブリスが自分をそういう目で見ているのは知っているが、ケイブリスは内面が非常に醜い。

 そしてランスが自分を好色な目で見ていることも勿論知っている。

 だがそれでもカミーラはランスを己の使徒へと望む。

「別に体だけが欲しい訳ではないぞ。俺様の目的はお前を俺様の女にする事だからな。大体お前は誰の命令も聞くような奴じゃないだろ」

「………」

「まあ俺様は何れお前を頂く。それだけだ」

 ランスの言葉にカミーラは少し無言であったが、やがて何時ものように「ククク」と笑う。

「まさかこのカミーラを相手に全てを手に入れようとする愚か者がいるとはな…身の程知らずもここまでいけば大したものだ」

 カミーラは眼光鋭くランスを睨む。

 だが、その目には殺意や敵意は感じられない。

「よかろう…貴様が私をモノにするか、私が貴様を使徒とするか…それも面白そうだ」

「がはははは! 俺様は誰のものにもならんのだ! 世界の女は俺様のものになるがな!」

「ククク…ならば精々励むのだな」

 ランスとカミーラの物騒な雰囲気に、その場で隠れているパレロアとエルシールは体を寄せて震えあう。

「ランスさんと魔人カミーラっていつもあんな感じなの…?」

「何時もかどうかはわかりませんが…前にあった時もあんな感じでした」

「ランスさん…よく魔人に対してあんな態度でいれるわね」

「本当にそこは尊敬してます」

 二人が身を寄せていたとき、通路から白い魔人…メガラスが現れる。

「メガラス! ここに来たという事は、上手くいったようね」

 スラルの言葉にメガラスは頷く。

 即ち、ラ・バスワルドをここに誘き寄せることに成功したと。

「ランス。今更だけど、本当にいいのね。魔法を使えないという事は、私もランスを援護出来ないという事よ。つまりは私は役立たず同然よ」

「構わん。それよりもあの魔法を何とかする方が大事だ」

 何しろ相手は飛んでいる上に、ランスの射程外からアニスをも上回る威力の魔法を連発してくる。

 流石のランスも空を飛んでいる相手には手も足も出ないし、何よりカミーラやケッセルリンクの攻撃を相手は魔法バリアで無効にしている。

 このダンジョンの中ならば飛ぶことは出来ないし、何よりあの厄介な攻撃魔法も魔法バリアも使えない。

 相手の攻撃も防げないという欠点もあるが、それでもあの魔法の連発よりも遥かにマシだ。

 そして少し時間が経つと、暗闇の中から光が溢れてくる。

 それはかつてランスがクエルプランと邂逅した時と似た光だ。

 あの時ほどの光ではないが、この光を浴びると流石のランスも初めてクエルプランと出会った時のように、自分が矮小な存在なのかと錯覚してしまう。

 が、今のランスは違う。

 アレからレベルも上がり、ランスもまた強くなったが…

(改めて見るといい女だが…ヤバイな)

 それは強者と何度も戦い続けてきたランスの勘だが、この相手が本当にまずい相手だというのは本能で理解できる。

 あの時クエルプランとは戦える気すらしなかったが、こいつも同じくらいの相手だ。

 だがランスはそれでも諦めることは無い。

(何しろ傷さえつければカミーラが俺様の言う事を一つ聞くといっているからな…うむ、傷一つなら余裕だ余裕)

 ランスはラ・バスワルドを見て何時ものように笑う。

「がはははは! これまでは好き勝手に出来たようだが、ここではそうはいかんぞ!」

 そんなランスに対してラ・バスワルドは表情一つ変えずに見てくるだけだ。

「うむ、中々いい顔をしているではないか。これまでの分もまとめて返してやるぞ!」

 やはりラ・バスワルドはランスの言葉を無視し、その手をランスに向ける。

 本来であればここで強力な魔法が飛んでくるのだろうが、今回は何も起きない。

(うーむ、びびったぞ。だがここならば本当に魔法は使えないようだな)

「がはははは! ここではお前は魔法は使えんぞ! さーてこれまでの借りを返してもらうぞ!」

 こうして破壊神ラ・バスワルドとの本格的な戦いが始まる。




この作品の中ではゴブリンの能力は神にも有効という事にしてますが、実際どこまで有効なんでしょうかね
まあ神クラスならゴブリンなんて物理で一捻りだから問題は無いのでしょうけど

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