破壊神ラ・バスワルドはその名の通り神である。
世界のリセット、それこそがこの神に与えられた唯一の役割だった。
が、それ故にラ・バスワルドには融通というものがきかない。
今魔法を使うことが出来ないのも、神ならば当然ゴブリンの仕業だといういう事は分かるだろう。
しかしこの神はそれに思い至らない。
今回の事も、これが人間であれば、いや魔人であってもメガラスの動きを罠と感じて決して乗っては来ないだろう。
もし乗るとすれば、余程相手を見下しているが、それ以上の手を有しているから。
しかし破壊神ラ・バスワルドにそのような考えは存在しない。
良くも悪くも破壊という手段に特化している…後の三超神からも『扱いにくい』と判断されている神なのだ。
本来であればゴブリン等取るに足らない存在だ。
それこそ本来の力である破壊の力で消滅させればいいだけの話だ。
だが今はそれをする事が出来ない…破壊の神としての力を封じられているからだ。
だからこそ魔人と戦う時も、魔法で応戦した。
目的の人間に対しても、決して殺す事無く魔法のみで攻撃をした。
今回もそれに習い魔法のみで戦っていた。
自分を挑発するように動く魔人を追って、ダンジョンに入り…そして今目の前に目的の人間がいる。
そして何時ものように魔法を放とうとし…それが発現しない事にも何の感情も見せない。
だが確実に、その神の力の一つは今封じられていた。
ランスが剣を構えた時、まず最初にラ・バスワルドを襲ったのはカミーラの破壊力のあるブレスだった。
カミーラのブレスがラ・バスワルドを包み込む。
これまでならば、いかにカミーラのブレスの威力が大きくとも、その強力な魔法バリアの前には無力のはずだった。
ブレスが消えた後、ラ・バスワルドはその場に静かに立っているだけだ。
それを見て忌々しげに唇を歪めたのがカミーラだ。
自分のブレスの威力はそれこそ魔人の中でもトップクラスの威力だろう。
その自分のブレスが直撃しても、目の前の天使にはダメージになっていないのだ。
ラ・バスワルドはブレスを浴びせてきたカミーラに向けて手を向ける。
本来はそこから強力な魔法…それこそファイヤーレーザーなりスノーレーザーなり放たれるのであろうが、この場にゴブリンがいるためかその魔法が発動する気配は無い。
「とーーーーーっ!!」
ランスが剣を大きく振りかぶってラ・バスワルドに斬りかかる。
(さて…ランスの剣はこの天使…いや、神にダメージを与えられるか…)
スラルはこの相手が神である事に気づいている。
いや、気づかされた。
その気配はまさにランスのレベル神であるクエルプランという神にそっくりだったからだ。
スラルは自分がどうやって無敵結界を得たのかという記憶が抜け落ちている。
だがそれでも、自分が人ならざる何かからそれを得たというのは何となく分かる。
スラルの考えを余所にランスの剣がラ・バスワルドに当たる―――そう思っていたが、ランスの剣を止めたのはラ・バスワルドの左右に浮かんでいる女性の形をした彫像のようなものだった。
ガンッ! という大きな音を立て、ランスの剣が彫像に突き刺さる。
「むっ!」
ランスはその感覚に驚く。
この剣を手にしてからありとあらゆるものを斬ってきたが、この手に感じた感触はこれまでとは比較にならない何かだった。
堅いのは間違いないが、その手に感じた感触は何かが違う。
ラ・バスワルドはその感情の篭らぬ目でランスを見る。
ランスはその顔を非常に美しいと思った。
これまで色々な美人と呼ばれる人間とセックスしてきた。
レベル神となったウィリスともしたし、悪魔であるフェリスともしたし、エンジェルナイトのレダともした。
魔人であるケッセルリンク、カミーラともしたし、果てには魔王であるジル、スラルともした。
何れも人並み外れた容姿を持っているが、目の前の存在はそのどれにも当てはまらない。
今ランスのレベル神をしているクエルプランに近いが、その彼女とは決定的な違いがある。
それは何処までも感情を感じさせない目だ。
最初はクエルプランの目もランスに対して何の感情ももっていない目だったが、今ではその彼女にも色々な感情があるのは分かっている。
が、この神は違う…感情を出すことが無かったクエルプランと違い、まるで最初から感情が無いのではないか…そんな感想すら抱かせるほどの無機質な目だった。
「ぐぐぐ…」
ランスは力を込めてその盾代わりとなっている彫像を弾き飛ばそうとするが、ランスがどれだけ力を込めてもまったく動く気配は無い。
「ランス! 逃げて!」
スラルの声にランスはすぐさま行動を移す。
ランスの目の前に、ラ・バスワルドの細腕が迫ってきていたのだ。
あれほどの魔法を放つ程の力の持ち主が、その腕力が低いとは考えていない。
見た目と力が比例しないのはこの世界のある意味常識なのだから。
「異常に堅いな」
「このカミーラのブレスにも耐えたのだ。お前の剣が通用すると思うか」
「フン、俺様はお前のブレスも斬れるのだ。だったらお前以上の威力があるに決まってるだろ」
「ククク…威勢が良いのは結構だ。しかしお前に奴を傷つける事が出来るか?」
ランスとカミーラは互いに軽口を叩き合う。
(うーん、あのカミーラがこんな会話をしているのに相変わらず違和感が…まあいい変化だと思うしかない訳だけど)
カミーラ本人としてはいい変化だが、狙われるランスにとっては迷惑この上ないだろう。
だが、ランスもこうして並び立っているし、それはそれでいいのだろうとスラルはとりあえず納得する事にする。
そして改めて目の前にいる神を見る。
(何か変な神よね…今回魔法が使えない原因を探ろうとしているとは思えない。いえ、そのための思考能力が無い? 相変わらず魔法を使おうとしているし…)
先程の腕の動きから見ても、あれはファイヤーレーザー級の魔法を使おうとしていたのは分かる。
そして魔法が発動しないのは分かっているようだが、その原因がゴブリンにあるとまでは理解していないようだ。
「ランス、気をつけてよ。魔法バリアが貼れないのはこっちも同じ。ましてや人間のあなたが一撃を貰えばそれだけでアウトよ」
「そんなの当たらなければどうという事は無いだろ」
「当たらなければね。来るわよ!」
スラルの言葉通り、ラ・バスワルドが動き出す。
その動きは非常にゆったりとしている。
超スピードで動くメガラスや、その翼で小回りな動きも出来るカミーラに比べれば遅い。
が、そこから感じられるプレッシャーは異常なまでに大きい。
ランスも流石にそのプレッシャーには背筋が寒くなるが、そんなランスを嘲笑うようにカミーラが一歩前に出る。
「あ、こら!」
ランスの抗議の声を無視してカミーラはその鋭い爪をラ・バスワルドに振るう。
その動きはやはり早い…が、ランスの剣を防いだのと同じ様に女性の形をした彫像がカミーラの爪を弾く。
それに合わせる様にメガラス、ケッセルリンクといった魔人達も動いていた。
メガラスの突撃をもう片方の女性の彫像が防ぎ、無防備となった所にケッセルリンクの剣が襲う。
「!!」
ケッセルリンクの剣は確かにラ・バスワルドの体に当たりはした。
が、それは本当に当たっただけでしかない。
ラ・バスワルドはケッセルリンクの剣を意にも介せずその腕をケッセルリンクに振るう。
その腕に当たらないようにケッセルリンクは距離を取る。
そして己の持つ剣を見て顔を歪める。
「まさかな…ランスの持つ剣に比べれば劣るだろうが、それでも相当な業物だと思ったのだがな」
刃こぼれを起こしている自分の剣を苦々しげに見て、改めて相手をしている敵の存在感に戦慄する。
相手の力は魔法だけではない…何より生物としてのランクが人間はおろか魔人と比べても格段に上なのだ。
いくら自分の得手が魔法であるとはいえ、剣にも覚えがあるのだが、その自分の腕をもってしてもこれというのは流石にケッセルリンクも舌打ちをしてしまう。
ケッセルリンクが距離を取った所にランスが突っ込んでいく。
剣の腕と質に関してはケッセルリンクよりもランスが上回る。
そのランスならば…とケッセルリンクは考えるが、目の前にあったのはケッセルリンクから見ても信じられない光景だった。
ギンッ! という金属がぶつかり合う音を立ててランスの剣が相手の鎧にはじかれる。
両面の女性を模った彫像をではなく、その鎧でランスの剣を防いだのだ。
「どれだけ堅いのよ…!」
剣の中からスラルが苛立った声を出す。
この剣とランスの腕があれば鎧であろうと何の問題も無く一刀両断に出来る。
魔物隊長の剣と共にその体を切裂ける程の腕をランスは持っているのだ。
だが、目の前にいるこの神の鎧には傷一つつけられていない。
ラ・バスワルドの手がランスを掴むべく伸ばされるのを、ランスはあえてラ・バスワルドに密着する事で防ぐ。
ランスの顔とラ・バスワルドの顔が接近し、ランスはその鋭い眼光と、ラ・バスワルドはその感情の篭らない目がぶつかる。
ここでランスはラ・バスワルドに体当たりをして、態勢が崩れたところに蹴りを入れてからランスアタックへと持ち込む算段だった。
が、そのランスの目論見はランスが想像もしていなかった形で崩れる。
ガッ!
ランスの肩がラ・バスワルドの体に勢いよく当たり―――そのあまりに堅い感触にランスは思わず声を上げる。
「何だと!?」
ラ・バスワルドの態勢は全くと言って良いほど崩れなかった。
ランスは力も当然人並み以上にあるが、そのランスの一撃を受けても相手は全く動かない。
そしてラ・バスワルドの手がランスに伸ばされ―――間一髪の所でメガラスがランスの襟首を掴んで強引に相手から引き剥がす。
「ぐえっ」
その勢いの前には流石のランスも呻き声を上げるが、それでもラ・バスワルドに掴まる事を思えば十分マシだろう。
「おいお前! もう少し丁寧に扱え!」
「………」
ランスの抗議にもメガラスは何一つ答えない。
ただ真直ぐに目の前のラ・バスワルドを睨むだけだ。
言っても無駄だということを察したのか、ランスももうメガラスには何も言わない。
いや、目の前の相手の強さに何も言えないのかもしれない。
「ランス、それよりも本当にまずいわよ。勝てる勝てないの存在じゃないわよ」
「フン…」
スラルの言葉にランスは詰まらなそうに唇を歪める。
言われずともランスにも分かっている…目の前の相手は、あの時のジルすらうも超える存在である事は間違い無いだろう。
あの時のジルと違うのは、相手の攻撃手段の魔法を封じているために相手が来ないという事だけだ。
事実、ラ・バスワルドは尚も魔法を使おうとしている。
魔法が発動しない事が分かっていないのか、その光景は非常に滑稽にも見える。
だが、それでもその存在感はまさに圧倒的だ。
実際、メガラスがランスを無理矢理引っ張らなければ自分はどうなっていたか…それが分からぬランスではない。
「逃げるのも視野に入れてもいいと思うわよ」
「うーむ…」
スラルの言う事も当然分かる。
魔王ジルの時はあの時以外にジルを倒す手段が無かったし、何しろジルが復活すれば最後、人類は再び暗黒の時代に突入するからこそあの奇妙な空間に突っ込んだ。
だが今回は違う…この神と戦うのは完全に自己満足でしかない。
本来であればここは逃げるのが正しい事だ。
ランスはカミーラを見ると、カミーラは未だ戦意が衰えぬ目で相手を睨んでいる。
それを見てランスもラ・バスワルドに向けて剣を構える。
「いいの? ランス」
「フン、当然だ」
(ここで逃げるとカミーラを俺様の女には出来んだろうしな)
ランスはカミーラを自分の女とするためにこの相手にも退くわけには行かない。
行動原理は全て女…だが、それで数々の奇跡を起こしてきたのもまたランスという男なのだ。
そして何よりも、このいい女に対しておしおきセックスを絶対するという絶対的な決意。
「まったく…まあ私相手でも全く退かなかったものね。でも何よりも大事なのは命よ。カミーラ、その時は私達は遠慮無く逃げるからね」
「好きにしろ。最もその男が目的も果たさずに逃げるとは思えんがな」
カミーラは唇の端を上げると、そのままラ・バスワルドへと向かっていく。
その翼を使い、機動力を上げて相手に向かっていく。
それに合わせる様にメガラスが、そして少し遅れてランスが走る。
相変わらずラ・バスワルドは魔法を唱えようとしているようだ。
(相手が論理的な行動を取れないのが救いね…神ならば違う攻撃手段があるはずだけど…今はそれが使えない?)
もし相手がスラルの想像通りの相手であるならば、魔法以外にも攻撃手段は無数にあるはず。
それなのに頑なに魔法に拘っている様にも見える。
(だからこそ、そこにつけ込める…!)
相手は防御のために左右の女性の彫像を使ってカミーラとメガラスの攻撃を防いでいる。
それを注意深く見て、スラルはこの状況の打破しようとする。
魔法が使えない自分にはこの観察力以外に貢献する事は出来ない。
ランスには無い観察力、そして知識で援護するしかないのだ。
「むぅ…」
ランスはというと、カミーラの後に続いたのはいいのだが、カミーラとメガラスの高速の戦闘の前には流石に二の足を踏んでしまっている。
これがリックやパットンやヒューバートクラスならばランスも相手の隙をつき攻撃を仕掛けられるだろう。
むしろ不意打ち騙し討ちはランスの得意とする所だ。
しかし今回はカミーラとメガラスという魔人が戦っているため、流石のランスも中々付け入る隙を見つけられない。
カミーラとメガラスの高速移動にぶつかるだけで人間のランスには惨事となってしまうからだ。
「どうするの? ランス」
そしてこの状況に手を出せないのはレダも一緒だ。
攻撃よりも防御に長けたレダには、力が落ちている現状では流石にこの戦闘にはついていけない。
何しろ相手はラ・バスワルド…自分のオリジナルである4級神レダをも遥かに上回る存在なのだ。
「ランス、迂闊に手を出すのは止めた方がいい」
そして同じ様に手が出せないのがケッセルリンクだ。
何しろ攻撃方法の剣が相手に全く通用しないのだ。
ランスの持つ剣やランス程の技量があれば話は別だが、流石のケッセルリンクもこの状況は見ている以外に他は無い。
「私も本来の戦い方をする。ランス…お前は隙を見て全力でいけ。私は魔人…お前の攻撃ではダメージを受けないからな」
「ケッセルリンク…あなたが闇になった程度で抑えられる相手じゃ無いわよ」
スラルの言葉にケッセルリンクは笑う。
「いいんです、スラル様。今の私にはそれくらいしか出来ない…それに、魔王であるスラル様の魂を斬ったランスの剣ならもしかしたら…と思っています。それに賭ける以外に私には思いつきません」
何しろ相手はカミーラ、メガラスの二人を相手取って傷一つ負っていないのだ。
それどころか、不可視の一撃はカミーラ達に少しずつ傷をつけていっている。
このまま何も変化が無ければ、間違いなく自分達は負ける。
「ランス、躊躇うな。全力でやれ」
「まあいいだろう。だがお前は絶対に死ぬなよ。俺様の女がこんな所で死ぬなどありえん事だからな」
「最初からこんな所で死ぬつもりは無い。お前こそしくじるなよ」
ランス達は慎重にタイミングを伺う。
相手はカミーラ達を相手に魔法無しでも互角以上に戦う存在だ。
まさにチャンスは一瞬…ランスはそのタイミングを逃さぬように剣を構える。
そしてラ・バスワルドの周りの彫像がカミーラとメガラスの動きを止め、そこに不可視の一撃が放たれようとした時、
「ランス!」
ケッセルリンクは己を闇と化し、ラ・バスワルドがその闇に包まれる。
ラ・バスワルドの強烈な光をも包み込む闇の中では流石のランスも何が起きているかは分からない。
が、今のランスには何となく…そう、本当に何となくではあるがその気配が読める気がする。
ようやく己の剣に体がついていっているように感じられている。
自分のレベルが上がるごとに、その力がどんどん馴染んでいっている。
ラ・バスワルドの体は見えないが、何となくその闇の中でどう動いているのかが分かる。
そしてラ・バスワルドが自分に背中を向けた…そんな気配を闇の中から感じる。
ランスは己の体に力を入れて、思いっきり跳躍する。
「ラーンス…あたたたたーーーーーーーっく!!!」
何時もよりもより鋭い一撃をその闇の中に叩き込み…そしてそれは何か堅い感触に阻まれる。
ランスはそれを無視して剣を振り切る。
「とーーーーーーっ!!」
そしてその振り切った剣を跳ね上げるように振り上げ、もう一度堅い感触…しかし先程よりも確かな感触を感じる。
それと同時に、己の剣が少し光り輝いたのだが、それに気づくものはまだ誰も居ない。
ガンッ! と音を立ててランスの体が闇からはじき出され、同時にその闇が人の形を模りランスとは逆の方向に弾かれる。
「どうだ!?」
ランスは直ぐに立ち上がると、目の前にいる光を見る。
そこにはラ・バスワルドが立っていた…が、その鎧に覆われていない腹部に僅かな傷が出来ていた。
横一字につけられた僅かな傷…それがランスの与えた必殺の一撃の結果だった。
「…全然効いていないではないか」
「元々の生物としてのランクが違いすぎるのよ。当然よ」
レダはそう言うが、内心では非常に驚いている。
(まさか…人間が2級神であるラ・バスワルド様に傷をつけるなんて…)
これはまさに人間から見れば快挙だろう。
何しろ相手はこの世界の支配者たる魔王すらも上回る相手なのだから。
「だが見たかカミーラ! 俺様は奴を傷つけたぞ! この賭けは俺様の勝ちだな!」
ランスが何時もの様に笑うが、対するカミーラは厳しい表情を消していない。
「…確かにな。だが、問題はその賭けの対価をお前が得られるかという事だな」
「何だと?」
「ラ…ランス…あれ見て…」
スラルの震える声にランスは改めてラ・バスワルドを見る。
その顔は先程と変わらぬ無表情だが、その変化は彼女の腕にあった。
「何だありゃ」
その右手にはまるで燃え盛る炎が剣のように集まっていた。
逆の手には凍てつく氷が同じ様に剣のように握られている。
「…魔法が使えないはずじゃ無かったのか」
「魔法じゃないんでしょうね。うっぴーの炎が魔法ではない様に、相手の炎と氷は魔法ではない…そういう事なのでしょうね」
「何だと!?」
ランスが驚愕の声を出すと同時に、ラ・バスワルドがランスに向かってその炎の剣を振り下ろす。
「ランス! 避けて!」
レダの声に合わせてランスはその剣を転がるようにして避ける。
ランスが立っていた所がその炎で焼かれ、地が赤く染まっている。
「げ!」
そしてそのまま踵を返し氷の剣がランスを襲うが、ランスはそれを己の剣で受け止める。
そのままその威力に逆らわないように飛んで衝撃を逃がすが、その威力はランスの想像を遥かに超えている。
ランスが壁にめり込みそうな勢いで吹き飛ばされ、カミーラはそんなランスを受け止める。
「な、なんだあいつは!?」
「…ククク。まさかそこまでとはな」
カミーラはまさかここまでとは思ってもいなかった。
完全にカミーラの想像を超えた存在…それこそ、魔王にすら匹敵する存在だ。
「おい…流石に逃げるぞ。あんなのには付き合いきれん」
「逃げられればな」
カミーラはランスを抱えたままラ・バスワルドの一撃を避ける。
その際の衝撃にランスは目を白黒させるが、流石にこの状況では文句は言えない。
アレは最早人の手でどうにか出来る相手ではない。
「レダ! 帰り木だ!」
「分かってる!」
レダは帰り木を使いこのダンジョンから脱出しようとするが、問題はその時間を相手がくれるかどうかだ。
パレロアとエルシールの事も有り、今は流石に使用することは出来ない。
どうしてもある程度相手との距離が必要となる。
「ぐぬぬ…」
ランスは必死で考えるが、やはり相手との距離をある程度あける以外に他は無い。
そしてそれが出来るのは…
「レダ! お前はパレロアとエルシールを連れて先に行け!」
「ランス!」
「いいから行け! 俺様も帰り木は持っとる!」
ランスは剣を構えると、ラ・バスワルドの前に立ちふさがる。
ラ・バスワルドの顔には相変わらず表情は無いが、何か混乱しているかのように目が明滅している。
「何かシステムエラーを引き起こしてる…? 原因は一つしか無いわね」
スラルはそれを見て悟る。
相手に影響があったとすれば、それはランスの剣が相手を傷つけたからに他ならない。
今までとはまったく違う行動パターンを取るのは、相手に何か問題があった証拠だ。
「ランス! 難しいかもしれないけど、もう一回同じことするわよ!」
「何だと!?」
「それしかない!」
スラルの言葉に反論する前に、ランスは襲い掛かるラ・バスワルドの攻撃を避ける。
幸いなのは、相手の剣の腕前がランスから見て完全に素人レベルだという事だ。
威力も有るし、スピードも有る。
だが、技量がその力に伴っていないように感じられる。
間違いなく、何か深刻な問題を抱えているのはランスでも分かる。
「まったく…とんでもない事になったな」
ケッセルリンクがランスの横に並び立つ。
「フン、俺様ならば余裕だ余裕だ」
「この期に及んでも強がるか…」
カミーラも同じ様にランスの横に立つ。
「………」
そしてメガラスもそれに続き、4人は揃って目の前の神を見る。
「ケッ! ぴかぴか光って偉そうなのはもう沢山だ! お前を倒しておしおきセックスじゃー!」