レダはパレロアとエルシールを守りながら魔軍と対峙していた。
魔軍がその気になればレダはともかく、パレロアとエルシールは魔軍に嬲り殺しにされるだろう。
勿論七星にはその気は無いだろうが、それでも万が一という事もある。
それに七星はともかく、お供の魔物兵は気が立っているのは明らかに分かる。
先程の魔物兵と同じ様に、レダ達を嬲りものにしたいという視線から明らかだ。
その視線に晒され、パレロアとエルシールの二人は身を寄せ合って震えている。
「それでカミーラ様は…」
「生憎だけど私からは何も言わない。自分の主から聞きなさい」
七星の問いにレダは何も答えない。
「そうですか…」
それを聞いて七星は少し顔を顰める。
(思えばレダ殿とはあまり話したことは無かったか…)
カミーラの興味もランスに向いているため、レダはランスのおまけのような感覚となってしまっていたために会話があまり無かった事を思い出す。
実力に関しては間違いなく人間の中でも上位…いや、これまでの七星が見てきた人間の中でもランスに次ぐ程の実力であるのは間違いない。
もしかしたら、総合力ではランスすらも上回るかもしれない人間なのだ。
ランスと共にグリーンドラゴンを倒すところを七星も見ていた。
(失敗しましたね…カミーラ様はランス殿を見ていましたから、私も必然的に彼の方を見すぎましたか)
レダは魔軍にいい感情を持っていない…いや、それは人間であれば普通の事だ。
ランスのように、女性ならば魔人や魔王でも大丈夫だというのが異常なのだ。
配下の魔物兵は自分達に強い目を向けているレダを滅茶苦茶にしてやりたいという意識が強いだろう。
無論それは魔物ならば当然の感情ではあるのだが、七星はそんな配下の魔物兵の態度に内心では舌打ちしていた。
(仕方が無いといえば仕方が無いのですが…もう少し理性的になれないものでしょうかね)
ドラゴン出身である七星には人間を犯したり人間で色々としたいという感情は無い。
全てはプラチナドラゴンであるカミーラのために…それが七星の存在意義なのだ。
七星がどうしようかと頭を捻っていた時、突如としてカミーラがいるというダンジョンから強い光が吹き出てくる。
「な…これは!?」
「まさか…ランス!? くっ!」
七星はその光の量に目を押さえ、レダはパレロアとエルシールをその体で抱え込む。
「七星様!?」
「な、何が…うわーーーーーっ!」
配下の魔物兵達も突然の光に目をやられ、地面をのたうち回っている。
魔法の類ではない様で、ダメージは無いようだ。
そしてその圧倒的な光が収まった時、そこには倒れているモノがあった。
「ケッセルリンク! メガラス!」
「カ…カミーラ様!」
そこには見るも無残な姿になって倒れている魔人達の姿があった。
ケッセルリンクは全身に火傷が有り、メガラスはその体の一部が凍り付いている。
カミーラも似たような感じで、その全身には傷が広がっていた。
「これは…回復の雨!」
レダはとりあえずヒーリングを施すが、それだけで癒えるほど浅い傷ではない。
「うっ…」
だがそれでも効果は有ったようで、ケッセルリンクが目を覚ます。
「ケッセルリンク!」
「ケッセルリンク様!」
今は夜の時間帯なので、ケッセルリンクも見た目よりも傷は浅いようだった。
「ここ…は」
「ケッセルリンク! ランスは!?」
倒れていたのは3体…ダンジョンの中に残っている中でランスだけが見当たらない。
「ランスはいないのか…?」
ケッセルリンクは痛む体に鞭打って立ち上がると、そこに倒れているメガラスとカミーラの姿が目に入る。
それを見てケッセルリンクは唇を歪める。
自分の傷も大きいが、何よりも重症なのははやりカミーラだろう。
だがそれよりもランスの姿が無いのは気にかかる。
あの時確かにランスはあの相手に剣を突き刺した…その背中にカミーラがいたのも覚えている。
そして突如として部屋が光に包まれ、自分は薄れ行く意識の中であの光と同じ様な光を見たような気がした。
それと同時にその光の中にピンク色の髪のようなものも見た気がした。
気がしたというのは、あの激闘で自分の意識が朦朧としていたからだ。
「クッ…!」
ケッセルリンクは痛む体を押さえながら、ダンジョンの中へ戻ろうとする。
「お待ちくださいケッセルリンク様! 今のあなた様の体では…!」
そのケッセルリンクを七星が止める。
まさかカミーラ、メガラス、ケッセルリンクといった古参の魔人がここまでの傷を負うなど七星も思っても居なかった。
そしてそんな相手が魔王以外に存在するとは魔物達は考えてもいない。
それ故に、魔人にここまでの傷を負わせた存在に恐れ腰が引けている。
だが七星はカミーラ同様に、天使によるドラゴンの殲滅の事を知っている。
この世界最強であったドラゴンですら敵わぬ存在が居る事も。
「待ちなさいケッセルリンク。私が行くわ」
七星と同様にケッセルリンクを止めるのはレダだ。
(そう…多分私が行くのが一番良いはず)
何しろ相手は2級神ラ・バスワルドなのだ。
階級はかなり下…本来は自分ならば謁見すらも出来ないまさに雲の上の存在だ。
それでもエンジェルナイトである自分が行く方がまだいいだろう。
「七星か…」
その時、倒れていたカミーラが起き上がる。
「カミーラ様!」
カミーラがまだ痛むであろう体を、そのプライド故かそんな痛みを微塵も感じさせずに起き上がる。
そして周りを見渡し、ここがあのダンジョンでない事を確認すると、再びダンジョンへと向かおうとする。
「お待ちください! カミーラ様! そのお体では…」
カミーラは自分を制止してくる七星を睨む。
その目を見て七星は怯むと同時に、ある感情が沸きあがってくる。
それはこれほどの傷が有るというのに、まったく折れぬ主の姿…それは使徒として不敬かもしれないが、非常に美しいと感じてしまった。
体は傷ついているのに心は全く傷ついていない…それどころかどこまでも前を向いている主の姿は何処までも神々しかった。
しかしそれでも七星は使徒として、これ以上主を危険な目に合わせたくは無かった。
「ご自重くださいカミーラ様! 此度の件は魔王ナイチサ様も認めてはおりませぬ!」
魔王の名を出されてカミーラの動きが一瞬止まる。
「ケッセルリンク様もです! これ以上の事はナイチサ様がどう出るか分かりませぬ! どうか…どうかお願い致します」
七星の必死の言葉にカミーラの動きが完全に止まる。
己の使徒の言葉がカミーラには良く分かる…七星の言葉は全て主である自分のための言葉だと。
「…フン」
カミーラは少し詰まらなそうに鼻を鳴らすと、ダンジョンに背を向ける。
「レダ」
「何よ」
「ランスを見つけたら伝えておけ。賭けはお前の勝ちだとな…」
「…分かったわ」
カミーラの表情はレダからは見えないが、それでもそこまで悪い顔はしていないのだろうなとレダは思う。
「引き上げるぞ。メガラスを運べ…丁重にな。ケッセルリンク、お前は好きにするがいい。私はたまたまお前と顔を合わせただけだからな」
「カミーラ…」
ケッセルリンクはカミーラの言葉に苦笑いを浮かべる。
(ここは私の顔を立ててくれたという事か…いや、もしかしたらこれほどまでに傷ついた自分をランスに見られたくないのかもしれないな)
カミーラのプライドは物凄く高い…それこそカラー出身である自分とは比べ物にならないくらいに。
それともランスの主であろうとするカミーラの気概か…カミーラの心は分からないが、ケッセルリンクはそんな自分の友とも言えるカミーラの気持ちが何となく分かった。
「分かった…ランスには私からも伝えておこう。メガラスを頼むぞ」
「ああ…七星、引き上げるぞ」
「はっ!」
カミーラは今も起きているのは辛いはずだが、それでも体をふらつかせる事無く歩いていく。
「失礼します。ケッセルリンク様」
「「「失礼致します!!!」」」
七星がケッセルリンクに一礼すると、魔物将軍を初めとした魔物兵達も一斉に一礼する。
「ああ」
ケッセルリンクが短く応えると、七星達はカミーラを追っていく。
そして残されたのはレダ、ケッセルリンク、パレロア、エルシールの四人だけとなった。
「レダ、行くぞ」
「待ってください! ケッセルリンク様、その傷では…」
パレロアもケッセルリンクの事はランス程ではないが知っている。
そんな彼女がここまで傷つくとは思っていもいなかった。
「少し休んでください。ランスさんは私達が探します」
エルシールもケッセルリンクの傷を見て彼女を止めるが、ケッセルリンクは首を振る。
「今回は魔人の事情にランスを巻き込んでしまった。だからこそ、私はその責任を取る必要がある。いくらあいつが強くとも、あいつは人間なのだからな」
ケッセルリンクの言葉にパレロアとエルシールな何も言えなくなる。
そこにあるのは確固たる彼女の決意があるからだ。
それを止めたのはやはりレダだ。
「ケッセルリンク、安静にしてなさい。いくら魔人といえどもその傷じゃあ辛いでしょ」
「不要だ。それに…カラーが受けた恩に比べればこの程度の事…」
「それでもよ。大体あんたが無理をしてランスが喜ぶと思う?」
「…」
レダの言葉を聞いてケッセルリンクは何も言い返せなくなる。
ランスにとって自分が魔人であるかどうかは重大な事ではなく、自分が女であるかただそれだけだ。
「休んでなさい。私が行くわ」
「………分かった。パレロアとエルシールは私に任せろ」
ケッセルリンクはそう言うと地に腰を下ろす。
「パレロア、エルシール、任せたわよ」
「わかりました。レダさんも気をつけて…」
「人間の私達が魔人であるケッセルリンク様をどうにか出来るとは思えないですけど…レダさんも気をつけて」
レダは問題ないという風に手を振りながらダンジョンの中へと消えていった。
「と、言ったもの…どうすればいいのかしらね」
ダンジョンの中でレダはため息をつきながら歩いている。
何しろ相手はあの2級神のラ・バスワルド…魔王すらも上回る破壊の神だ。
本来であれば人間どころか魔人でも到底敵わないこの世界の管理者の一人なのだ。
だが、カミーラ達は無事だった所を見ると、ランスも無事なのではないかという思いはある。
(もしランスが死んでたら、私に帰還命令が来てもおかしくないし、そもそも女神ALICE様が私にランスを守らせた意味が無くなってしまう。でも今の事情ならそんなの関係無いかなあ…)
ランスは未だに気づいていないが、ここは過去の世界…本来ランスが存在していい時間帯ではない。
この世界の歴史をいうものを知っていれば容易に気づく事実なのだが、ランスは魔王の事は知っていてもその歴史には無頓着だったようだ。
魔王スラルはともかく、魔王ナイチサの事を知らないというのはレダとしても驚きだった。
(でも私から言う訳にもいかないし…)
だからといって、ランスにそれを教えるわけにはいかない。
自分で気づくのならば問題は無いが、エンジェルナイトである自分が教えるのは完全にアウトだ。
そもそも神が人間や魔物に干渉するのはあまり良い事では無い…レダは上司にそう教えられてきていた。
だからこそ、自分が人間の歴史に干渉するのは好ましく思っていなかった。
(まあ正直私程度が干渉したところでどうということは無いんでしょうけどね…)
何しろ今回動いたのは自分より遥かに階級が上の第2級神なのだから。
(もう訳分からなくなってきたわ…一体どこからどこまでが女神ALICE様の意向なのか)
1級神の御心はエンジェルナイトにしか過ぎない自分には当然分からない。
もしかしたらこれも全て神のシナリオ通りなのかもしれない。
聖女の子モンスター…実際には神の一柱であるセラクロラスが自分達を過去に連れてきた…それすらも想定内だったのかもしれない。
そう考えているうちに、レダはラ・バスワルドと戦っていた場所に着く。
そこはまさに酷い有様で、壁は焼け焦げ氷の塊は今もまだ消えていない。
改めて2級神という存在の大きさに前に戦慄してしまう。
「ランスはいないか…」
光が溢れたと思ったら、突如として魔人達がダンジョンの外に現れたのだから普通に考えればランスも外に現れるだろう。
もしかしたら死んでいるのかもしれないと思ったが、幸いと言って良いのかは分からないがランスの死体は無い。
死体ごと消されたのであれば話は別だが、あの時のラ・バスワルドの様子からしてそれは無いだろうと思う。
「じゃあランスは何処に…?」
ランスも少なくない傷を負っていた。
いくらドラゴンの加護があろうとも、それでも魔人の耐久力には遠く及ばない。
魔人が動けない程なのだから、ランスも相当に体力を消耗しているはずだ。
「まさかモンスターにやられたとか…は無いか」
あれほどの戦いがあった後でモンスターがここに来るとは思えない。
その証拠に、今は魔法による明かりが使用できているし、何より自分を襲ってくるモンスターの気配が無い。
「まったく…何処に行ったのよ!」
レダが少し腹立たしげに地面を蹴ると、突如として自分の正面にランスが現れる。
「わっ!?」
「むっ!」
「ちょ…ランス!? アンタ今まで何をして…っていうか何で無傷!?」
突如として現れたランスにレダは当然驚く。
しかもあれほどの激闘があったにも関わらず、ランスには傷一つ無い。
「スラル! スラル!」
「ん…あ? あれ!? ここは? 私達はあの神と戦っていたはずよね?」
レダはスラルに事情を聞こうとするが、どうやらスラルにも現状が分かっていないようだった。
「ランス! 何が起きたのよ!」
「いきなりなんだうるさいな。が! それよりもまず最初に俺様にはやる事がある!」
「な、何よ」
そう言うランスの目を見てレダは昔を思い出す。
即ち、初めてランスと出会った時の目を。
「がはははは! とーーーーーっ!!」
ここがダンジョンであるためか、流石にランスも全裸にはならない。
しかしレダをダンジョンの壁に押し付けると、そのままレダの服を脱がせてハイパー兵器をレダに挿入する。
「ちょ、ちょっと! 少し痛い…!」
「がはははは! そう言いつつも濡れているではないか! お前の初めての時もノリノリだったではないか!」
「そ、それは…」
自分は確かに初体験の時にランスに無理矢理犯されたが、実際にはもう一度抱かれてみたい…そんな言葉を発したのは事実だ。
そして今回も自分の意思を無視した行為だが、その行為に始めての時を思い出して興奮してしまっているのを感じていた。
「不完全燃焼の分、しっかりとお前に付き合ってもうらうぞ!」
「な、何の話なのよ…」
レダにはランスの言ってることはさっぱり分からないが、とにかく暫くの間はランスの相手をしなければいけないのを感じていた。
???―――
「な、なんだ!?」
ランスが目を見開いた時、そこには同じ様な光溢れる場所だった。
「ど、どーなっとるんだ!?」
流石のランスもそれには困惑するしかない。
が、周囲を見渡すとそこは何となく見覚え…いや、感じたことのある場所だった。
「無事ですか、ランス」
「やっぱりクエルプランちゃんか」
そして輝いていたのははり過去にこの場所で出会った存在…第1級神であるクエルプランだった。
「だが何でクエルプランちゃんが? ケッセルリンク達はどうした」
「まずは彼女達は無事です。そして私があなたをここに呼んだのは、あなたを助けるためです」
「助けるだと? そういえば俺様の傷が治ってるな」
ランスは自分の体を見ると、そこには火傷や凍傷があったはずだがそれが綺麗に消えている。
「だが…」
突然の事でランスは体をふらつかせる。
元々、ラ・バスワルドとの戦いでもう体力は限界だったのだ。
もう今にでも横になって眠りたいほどだ。
「ランス?」
体をふらつかせるランスに近づくと、丁度ランスがクエルプランに倒れこんでくる。
「…疲れた。寝る」
そしてそのままランスはクエルプランの腕の中で眠り始める。
「…こういう時はどうすればいいのでしょうか」
自分が疲労とは程遠いためか、まさかランスが突然眠り始めるとは思ってもいなかった。
体を治す事は出来ても、体力までは回復させる事は出来なかったようだ。
「確か…人間は眠る時に横になるのでしたね」
自分には睡眠は必要無い為、今までランスを観察していた時の事を思い出す。
その時はランスはベッドの上で枕というものを頭に敷いて寝ていた。
だが、ここには枕のような気の利いたものは存在しない。
「…思い出しました。そういえば魔人の一人がこうしていましたね」
クエルプランは自分でも意外と思うほどに優しくランスを横たえると、そのまま自分の膝にランスの頭を乗せる。
ランスはこの体勢で眠っていたのを思い出したのだ。
そしてそのまま規則正しい寝息を立てるランスの顔を見る。
「ぐがーぐがー」
余程疲れたのか、ランスが起きる気配は微塵も無かった。
そんなランスの顔をクエルプランは身動き一つせずにただジッと見ていた。
「ん…」
そして数時間経過してランスは目を覚ます。
その目に映ったのは神々しいほど美しい…まさに完璧な美とも言うべき女性がランスの顔を覗き込んでいた。
「目が覚めましたか」
「んー…何で俺様はこんな所にいるんだ」
ランスはそのままクエルプランの柔らかそうな髪、そして美しい頬に触れる。
「相変わらず綺麗だな」
「そうですか」
クエルプランはランスの言葉には何の反応も示さない。
ランスは少しの間クエルプランの髪を触っていたが、そのまま起き上がる。
「で、何がどうなったんだ。おいスラルちゃん」
ランスは自分の腰にある剣に居るスラルに声をかけるが、スラルからは何の反応も無い。
「あなたの剣の中の存在にはここは認識出来ません。私が個人的にあなただけを呼んだものですから」
「何だと?」
クエルプランの言葉にランスは首を傾げる。
「今回のラ・バスワルドの件で予想外な事が起きまして…それと同時にあなたの戦いぶりに満足した方がおりまして。あなたに褒美を取らせてもよいとの事です」
「はあ? なんだそりゃ。まあくれると言うのならば貰うがな」
ランスにはクエルプランの言っていることはさっぱり分からない。
だが、褒美を貰えるという言葉には反応した。
ランスの知っている神であるレベル神も、自分のレベルが上がれば色々とサービスをしてくれる。
だからランスもその延長上としてその言葉を捉えていた。
「うーむ…そうだな。シィルを俺様の所に連れて来い。あ、かなみも一緒にだ」
「シィルとかなみ…ですか」
クエルプランの周囲に大量の用紙が現れると、クエルプランはそれを恐ろしいほどのスピードで見ているようだった。
そして最後の用紙がクエルプランの目に留まったとき、
「シィルという人間はこの世界に8人、かなみという人間は4人居るようですが、どなたでしょうか」
「あー…シィル・プラインと見当かなみだ」
「…居ませんね。シィル・プラインと見当かなみという人間は存在していません」
「何だと?」
ランスはクエルプランをジロリと睨む。
勿論クエルプランにはそんなものは通用しないが、ランスは彼女が嘘を言っているようには見えなかった。
何となくだが、彼女は嘘をつけない存在のように感じていた。
「うーむ…いよいよ本格的に異世界に来たという訳か。まあ昔もそんな事もあったな」
ランスはこれまで色々な冒険をしている。
魔王ジルを追って変な異世界に行った事もあるし、ミラクル・トーの魔法で他の世界を見た事もある。
だからこそランスは今回の事もその延長上としか捉えていなかった。
「まったく…俺様の奴隷の分際で生意気な。見つけたら10発はやらないと気が済まんな。あ、かなみと3Pするのもいいな」
ランスは一度何時ものように笑うと、
「じゃあ他にどんな褒美とやらがあるんだ」
「どんな…と言われましても…あなたの望みを叶えるようにと言われただけですから」
「俺様の望みか」
ランスはそこで考える。
本来であればシィルやかなみと合流するのが一番良いのだが、ここが異世界となるとそうもいかないだろう。
異世界とはそういうものだという認識がランスの中にも存在していた。
だからこそ退屈しない―――不可能だと思われる事を成し遂げる達成感が味わえるのだ。
(クエルプランちゃんとやる…のもなあ。俺様のレベルが上がればいつかはクエルプランちゃんともやれるだろうしな)
ランスはクエルプランとH出来ると信じて疑っていない。
実際にレベル神ともした事もあるし、いつかは彼女を抱けると信じている。
「あ、そうだ! 俺様と戦ったあいつはどうなった! あいつにおしおきセックスをしなければ気が済まん!」
「ラ・バスワルドとセックスをしたいのですか?」
「そうだ! 散々苦労させられたんだ! 1発や2発じゃ済まさんぞ!」
「少々お待ち下さい。ええ…ええ…そうですか。分かりました。ではそのように」
ランスの言葉を聞いてクエルプランは何かと会話をしていたようだが、
「許可が出ました。今ラ・バスワルドを呼びます」
クエルプランが合図をすると、そこにクエルプラン同様に完璧な美を持った存在…2級神であり破壊神であるラ・バスワルドが現れる。
「おー! こいつだこいつ! よくもやってくれたな!」
ランスはそう言いながらラ・バスワルドへと何時ものように襲い掛かる。
「がはははは! おしおきセーックス! とーーーーーーっ!!」
1時間後―――
「詰まらん…詰まらんぞー!!!」
ランスは怒りが頂点に達し、そのまま地団駄を踏む。
その下にはラ・バスワルドが身動き一つする事無く、倒れている。
勿論その体はランスのハイパー兵器によって汚されているのだが、ランスはそれを見て尚腹を立てていた。
「どうしましたか? ランス」
「クエルプランちゃん! 実に詰まらん! これではダッチワイフと同じではないか!」
ランスが非常に不満なのは、ラ・バスワルドがランスとのセックスに対して何の反応も示さなかった事だ。
これではダッチワイフに対して自家発電しているのと何も変わらない。
不感症の女や無気力の女を抱いている事よりも更に面白くない。
「ダッチワイフ…ですか」
「そうだ! 何をやっても無反応ではないか! やってて面白くないぞ!」
今までのランスならば自分が満足すればそれで良いというような身勝手なHをしてたが、今は女性を自分のテクであへあへさせるのも非常に楽しんでいた。
勿論無理矢理Hする事もあるのだが、ラ・バスワルドとのHはランスとしても非常に不愉快なものとなってしまった。
「ラ・バスワルドは破壊神であり、そういう感情はありませんから」
「だったら何で女の姿をしとるんだ! クエルプランちゃんはこんなに感情豊かだというのに…」
「私が…ですか?」
クエルプランはランスの言葉に首を傾げる。
自分は魂管理局であり第1級神…本来神には感情というものは存在しないはずである。
だからこそ、ランスの言葉が非常に不思議だった。
「まったく…神だかなんだか知らんが、達成感がまったく無いではないか」
「…そうですか。ではあなたの要望として私が伝えておきますが…何かありますか?」
ランスが非常に不愉快そう…そして残念そうにしているのを見て、クエルプランは思わずそう言ってしまった。
(…私は何を言っているのでしょうか。私にはそんな権限は無いのに)
「そうか。なら伝えておけ! 無表情なのはそれはそれで面白いが、無反応なのはいかん。やってて面白くない」
「面白くない…ですか」
そういえば…と思い出す。
ランスは性行為を非常に楽しんでやっていた。
確かにラ・バスワルドをしているランスは最初は笑っていたが、どんどん詰まらなさそうな顔になっていった。
「ランスは…性行為が面白いのですか」
「当然だ。まあ気持ちいいしな」
「…では男性とはそのような事はしないのですか? その手の趣味の人間も居るようですが」
それはクエルプランとしては何気ない言葉だったかもしれない。
しかしそれはランスには非常に恐ろしい言葉だった。
「いかん。いかんぞ。バイはまだいいがホモとレズはいかん。同性愛など断じて駄目だ。ホモなど論外だ」
ランスはそこであのホモ焼き鳥の事を嫌でも思い出してしまう。
「あ、いかん…眩暈がしてきた」
クエルプランからのまさかの言葉に戯骸の事が頭に浮かんだランスは顔を真っ青になり、非常に気分が悪くなってしまう。
「クエルプランちゃんはかわいい…うむ、もう大丈夫だ」
「そうですか…他に何か有りますか?」
自分の顔を真剣に見ているランスに首を傾げながら、クエルプランはランスに問う。
「うーん…別に無いな」
ランスは少し考える素振りを見せたが、本当にもう何も無い様だった。
そんなランスを見てクエルプランは今日何度目かの不思議な感情に襲われる。
「あなたは…本当にそれしか望まないのですか?」
「他に何かあるのか?」
逆にランスに聞かれて、クエルプランは何も言えなくなる。
人は愚かだ…目先の利益のために仲間すらも切り捨て、人の上に立とうとする。
そして互いに足を引っ張り合い自滅していく…それが神が望んだ人間という存在だ。
ランスも同じ様に愚かな人間なのは間違いないが、それでも他の人間の愚かさとは違う愚かさだと思った。
「いえ…ランスがそれでいいのであれば私からは何も言いません。あなたはそれでいいのでしょう」
「何を言っているかは分からんが、とにかく俺様は帰る。この怒りをレダにぶつけなければ気が済まん」
「分かりました…ではランス、またお会いしましょう」
クエルプランの手から光が放たれ、ランスの姿が消えていく。
そして一人残ったクエルプランは今も動かないラ・バスワルドを見る。
その目は果たして自分を写しているのかは分からないが、確かにランスの言うとおりなのかもしれないと思ってしまった。
「面白くない…ですか。でもそれはあなたが人間だからなのでしょうね…ランス」
ラ・バスワルド編の終了です
当然ですが全く相手にならずに終わりましたが、まあ魔王と互角かそれ以上だし仕方ないですよね
むしろ手加減させるのに頭を捻りました…
次からはJAPAN編に入る予定です