ランス再び   作:メケネコ

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全てが終わって

「破壊神ラ・バスワルドだと?」

「なんかそんな事言っておったな。まあレベル神と同じ存在なんだろ」

(そんな訳無いでしょ…この世界を本当の意味で破壊するための神なんだから)

 レダと共に戻ってきたランスは早速パレロアの作った料理を平らげていた。

 傷は治ったし体力も回復したが、それでも腹が減るのは止められない。

「破壊神か…悪魔に対して無敵結界が意味が無いように、神にも無敵結界は意味が無いという事か」

 ケッセルリンクも重症ではあったが、流石は魔人四天王だけありその再生能力も非常に高い。

 外見上は既に傷は見当たらない。

 ラ・バスワルドの炎を受け止めた腕はまだ完全に治ってはいないが、それでも日常生活には支障は無い様だった。

「しかしランスの言葉は突拍子も無いな…まあお前が嘘を言っているとは思わんがな」

 ランスの言葉は普通に考えれば到底信じられない言葉なのだが、ケッセルリンクもこれまで悪魔と戦ったりと中々過激な経験をしているため、ランスの言葉を嘘とは思えなかった。

「大変でしたね…」

 パレロアはランスの言葉を疑ってないようだが、エルシールは少し懐疑的な目でランスを見ている。

 エルシールはランスとの付き合いが短いため、まだランスの事が信じきれない事が多い。

 勿論魔人とセックスしたり、あんなとんでもない存在と戦ったりととんでもない人間ではあるが、流石に今回の事は頭が追いつかない。

「まったく…おしおきセックスをしたが、あんな無反応だと楽しくも何とも無かったぞ」

「それを私で解消しないでよ…もういいけど」

 レダは先の事を思い出して頬を赤く染めている。

 嫌な訳ではなかったが、やっぱり普通にベッドでする方が好みであるかもしれない。

「しかし神か…私も何か忘れてるような気がするんだけどね」

 スラルはスラルで頭を捻っている。

「むしろ私はランスと一緒にいたのにその事を全く覚えてないのよね…」

 ランスの話を聞いて一番悔しがったのがスラルだ。

 もし神とやらに会えれば新たな知識を増やせたかもしれないと思うと、非常に口惜しい。

「カミーラの奴は帰ったのか」

「ああ。賭けはお前の勝ちだと言っていたよ。まあお前の事だ、その内カミーラとも会えるだろう」

 カミーラは己の領地に戻っていったが、ランスとの約束を反故にするような人物ではない。

 むしろあの完全に弱りきった姿をランスに見られるのは嫌だったのではないかとも思う。

(ランスを探しにダンジョンに入ろうとしたのは言わない方がいいな…互いのためにもな)

「まあこれでJAPANに行けるな」

 ランスの言葉に全員が少しホッとした顔をする。

 やはり今回の神との戦いでは皆が疲れていたため、ようやく終わったという思いがランスを除く全員にあった。

「私もそろそろ自分の領地に戻らなければな…シャロンも心配しているかもしれないからな」

「む、そうか」

 ランスもそれを止めない。

 シャロンの名前が出て来た事と、ケッセルリンクやエルシールから聞いた魔王像から判断すると、あまりケッセルリンクを連れ出すのは良くないと判断した。

 これがスラルならば何も問題は無いが、何しろ魔王ナイチサは突如として人間を虐殺するため、ランスとしても関わり合いたくないというのが本音だ。

(それにこの世界にシィルはいないみたいだしな)

 クエルプランの言葉が正しければ、今この世界にランスの奴隷とランス付の忍者は存在していない。

 勿論ホルスの戦艦には行ってみるつもりだが、流石に魔王の領地に行くほどランスは向こう見ずではない。

 だとすれば元の世界に戻ればいい…ランスはごく単純にそう考えていた。

 最もそんな事は簡単な事では無いのだが、これまでの冒険の中でランスは必ず上手くいくと考えていた。

「しかしJAPANか…私も興味はあるのだがな」

「まあ独特な所だな」

 JAPANとは本当に独特な文化がある所だ。

 大陸とは全く違う文化を持ち、建物の構造や軍のあり方も違う。

 ランスから見ればJAPANの兵士は軽装に見えるし、ランスが友と認めた織田信長が言うにはランスが重装備過ぎるらしい。

 妖怪というJAPAN独自の存在も居る。

 織田家の裏番となり、魔人ザビエルを倒してJAPANを統一したランスとしても、今でもJAPANはまだまだ冒険し足りない所もある。

(まあここが俺様の知ってるJAPANとは限らないのだがな…まあそれもいいか)

 JAPANという地名は同じではあれど、ここは別世界なのだ(ランス視点)。

 また新しい出会いと冒険が自分を待っていると考えている。

「JAPANですか…普通なら移動に何十日もかかりそうですけどね」

「バイクがあれば大分短縮されるから…本当に便利ですね。ランスさんしか使えないけど」

 パレロアはランスとの長い付き合いでもう大分冒険に慣れてしまっている。

 そのため、新たな冒険というのにも興味が湧いてきていた。

 エルシールは冒険者としてまだ日が浅い事も有り、新たな冒険というのに興味と不安を覚えていた。

 だがそれでも興味の方が勝るのか、その目は少し興奮している。

「ケッセルリンクも行ければいいんだけどね…まあ魔人である以上魔王には逆らえないからね…」

 スラルも残念そうにため息をつく。

 ケッセルリンクとガルティアはスラルが見込んだ自慢の魔人であり、その中でも今は古参に数えられる存在だろう。

 そのケッセルリンクが居ると自分は嬉しいが、自分が魔人にした事により魔王という枷がついてしまった。

「申し訳ありません。ですが魔王ナイチサは時に人間を虐殺するというのも事実です。まだ大丈夫だとは思いますが、やはり一度戻っておきたいのです」

「いいのよ。魔人は魔王には絶対服従…魔王が死ねと言えばそれに逆らえないもの」

 スラルは大きくため息をつく。

 自分が魔王で無くなる等考えてもいなかった。

 永遠に魔王として生きるのだろうと考えていたし、その長い生があるからこそ人間のランスを魔人へと勧誘出来る自信もあった。

(まあ結果はあんな風になってしまったけど…)

 それはスラルにとっても非常に苦い思い出。

 魔王の血に負けて、ランスの意思を無視して無理矢理魔人へと変えようとした記憶。

 だが思えばそれがあったからこそランスはセラクロラスに巻き込まれたのかもしれない…スラルはそうも考えていた。

「それはそうと動くのは明日からでしょ。遠出をするなら色々用意しないといけないし」

「そうですね…そろそろ食料も不安になってきました」

 メガラスはともかく、カミーラは普通に食事を取るため一人分の食料が長い間使われていた。

 しかも失った体力を取り戻すためか、カミーラはその容姿とは裏腹に意外と食べていた。

 そのため予定の量よりも早く食料が無くなってしまった。

「分かった分かった。その辺の町で食料を仕入れるか。そろそろこかとりすも手に入れたい所だな」

「うーん…こかとりすは私でもあんまり食べられない高級品なんですけど…」

 エルシールが驚いたのは、高級品であるこかとりすの肉が当たり前のように食べられていた事だ。

 ランスとレダの二人であっさりとこかとりすを倒したのを見た時は、思わず口を大きく開けてしまったものだった。

「じゃあまずは食料品や日用品の買いたしね」

 その日はそれで一先ずは終わった―――そしてそれが再びの別れの時になるとはまだ誰も知らなかった。

 

 次の日の夕方―――

「エルシール、あなたは良かったの? パレロアと一緒に行かなくて」

「少しでも魔法の知識をつけたいですから」

 パレロアに買い物を任せ、その護衛兼荷物持ちとしてケッセルリンクが付き添っている。

 ランス達は町の外でパレロア達を待っていた。

 あまりバイクで近づきすぎると余計な警戒を招くことと、あまり大きい町ではないためランスがその町に入るのを面倒くさがったためだ。

 そのランスはというと、あのダンジョンで拾ったらしい貝を磨いていた。

 貝の収集はランスの趣味の一つであり、その情熱はセックスにも勝るとも劣らない。

 今回拾った貝はランスの目に叶う物では無かったようで、少し渋い顔をしている。

「うーむ…これは当たり前のように手に入る貝だな」

 この世界に来てから(ランス視点)中々珍しい貝が手に入るのは嬉しい事だが、中には外れもある。

 勿論ランスはそれは仕方が無い事だと認識しており、だからこそJAPANの冒険が楽しみの一つでもあった。

(武田の領地で貝が沢山取れたからな…まずはそこに行くのも良いな)

 まずはJAPANへ行くこと…これがランスの目的であるため、そこからの事はまだ計画していない。

 JAPANの迷宮は制覇したつもりだが、それでもまだランスが訪れていない迷宮は沢山あるはずだ。

 それを思うとランスは自分の冒険のムシが疼くのを抑え切れなかった。

 冒険LV2…世界でもランスただ一人が持つ技能は、ランス自身にも強い影響を与えていた。

 ランスが新たな決意を固めていた時、

「ランス~」

 非常に間延びした声がランスの耳に入る。

「この声は…やっぱりお前か」

 何時の間にかランスの側に居たのはこのランスの冒険の原因である、時の聖女の子モンスターであるセラクロラスだった。

 それを見てレダは唇を歪める。

 このタイミングでセラクロラスが現れたという事は…

「ちょっと力が溜まったから、今回は少し長くいけるかも。てやぷー」

 セラクロラスがそう言った時、ランス達は光に包まれその姿は跡形も無く消え去っていた。

 

「申し訳ありませんケッセルリンク様。荷物を全部持って頂いて…」

「構わんよ。私は魔人だ。君よりも遥かに力を持っているからな」

 ケッセルリンクはその両の手で全ての荷物を持っていた。

 かなりの量だが、それこそ魔人であるケッセルリンクには軽いものだった。

「…ランスはこの辺にいるはずだが」

「そうですよね…」

 パレロアは周囲を見渡すが、そこには誰も居ない。

 そしてその中である一つのものを見つける。

「これは…」

 パレロアが拾ったのは、小さな貝だった。

「ランスが持っていたものだな」

 ケッセルリンクもそれを見て少し苦い顔をする。

 ランスが無造作に貝を捨てるなどありえない。

 確かに珍しい貝ではないだろうが、それでもランスが貝を粗末に扱うという事は無かった。

「まさか…私達がいない時にセラクロラスが来たのか」

「そんな…」

 セラクロラスが現れたという事から導かれるのはただ一つ。

 ランスはもう既にこの時代にはいないという事だ。

「私…まだランスさんに恩を返していないのに」

 パレロアが目に見えて落ち込んでいた。

 それを見てケッセルリンクは少し悩んだ後で、

「パレロア…良ければ私の使徒になるか? そうすれば必ずランスと再会出来ると思うが…」

 言ってからケッセルリンクは眉を顰める。

(私は何をいっているのだ…私の言っていることは彼女に人間をやめろと言っているのと同じ事だというのに)

 シャロンはその命を助けるために自分の使徒としたが、彼女は生きている人間だ。

 彼女は人として平穏に暮らすことも可能なのだ。

「…それでは宜しくお願いします。ケッセルリンク様」

 しかし彼女の言葉はケッセルリンクを非常に驚かせた。

「いいのか? 言っておいて何だが、君には人として幸せに生きる事が出来る。使徒になるという事はそれを全て捨ててしまう事だ」

 ケッセルリンクの言葉にもパレロアはただ微笑むだけだ。

「いいんです。私の命はランスさん達…そして魔人ケッセルリンク様に救われました。そのランスさんが居なくなってしまったのなら、私はケッセルリンク様に恩返しがしたいです」

「私の使徒になる事が私への恩返しとは限らないのだがな…」

「それに…使徒となればまたランスさんに会えるでしょう? ランスさんへの恩返しもまだ終わっていませんから」

 その言葉を聞いてケッセルリンクも覚悟を決める。

「分かった…ならば行こう」

 ここで彼女を使徒にするつもりは無い。

 彼女の仲間…シャロンが居れば彼女も心強いだろうと考え、ケッセルリンクはパレロアと共に歩き始める。

(ランス…またいずれ会おう。お前と私はどうやら切っても切れない縁があるようだからな)

 ケッセルリンクはランスと共に訪れた迷宮で手に入れた己の手袋を見て微笑んだ。

 

 そしてパレロアがケッセルリンクの使徒となり、200年以上が経過した。

 ケッセルリンクはというと、己の城で使徒と共に時間を過ごしていた。

 だが、そのケッセルリンクの顔は浮かない。

 その顔を見て、使徒のシャロンが心配そうに声をかける。

「ケッセルリンク様…大丈夫ですか?」

「ああ…相変わらずレキシントンの相手は疲れるな」

「レキシントン様ですか…」

 レキシントンの名を聞いてシャロンも苦笑いを浮かべる。

 魔人レキシントン―――魔王ナイチサによって新たに魔人となった存在。

『鬼』と呼ばれる種族の出身だが、とにかく色々な意味で品が無い。

 酒、戦、セックス、酒、戦、セックスを地で行く非常に厄介な奴というのがケッセルリンクの認識だった。

 そのケッセルリンクにも襲い掛かろうとした事があったが、勿論ケッセルリンクはその襲撃をあっさりと退けていた。

 だがそれでも疲れるものは疲れるのだ。

「ランスさんは見つかりましたか?」

 そこにワインを片手にパレロアが入ってくる。

「まだ見つかってはいない…人間の中でも今はまだ大きな動きは無い。カミーラも今の所大人しいからな…不思議とカミーラが動く時はランスも大きな動きを見せている。それを考えれば今の時代にはいないのだろうな」

 200年以上経過したが、今もまだランスは見つかっていない。

 比較的自由に動けるケッセルリンクは定期的に人間界を回ってはいるが、ランスらしき人物はまだ見つかっていなかった。

「JAPANにも行ってみたがランスが居たという痕跡は無かったからな…まだこの世界に居ないのだろう」

「私も久しぶりにランス様に会いたいのですけどね…」

 ケッセルリンクの言葉にシャロンは笑みを浮かべる。

 自分が人ではなくなって長い時間が経つが、あれほど強烈な人間の事は忘れられない。

 ましてや、自分と共にランスと一緒に居た女性であるパレロアが使徒になったのならば尚更だ。

「まああいつの事だ、動く時は必ず大きな事が起きるだろう」

 ケッセルリンクもシャロンもパレロアも再びランスと再会出来ると信じて疑っていない。

 あの男はそういう星に生まれた男なのだと思っている。

 ケッセルリンク達がランスの事を思い返していると、そこに一人の女性が姿を現す。

「ケッセルリンク…」

「カミーラか」

「「いらっしゃいませ、カミーラ様」」

 突如として現れた魔人カミーラに、使徒の二人は恭しく一礼する。

 だがカミーラは当然のように、その二人を無視するような形でケッセルリンクの座る椅子の向かいの椅子に座る。

 無視された形になるシャロンとパレロアだが、それはこの200年以上で何度もあった事なので何とも思っていないようだった。

「今度はどうした? お前の所にもレキシントンが来たか?」

 少しからかう様なケッセルリンクの言葉にカミーラは少し不愉快そうに眉を顰める。

「あの下品な鬼の事は言うな…」

 カミーラはシャロンが注いだ赤ワインを味わうように飲むと、

「まだ動きは無いようだな…」

「ああ。ランスが行くといっていたJAPANにも何回か行ってみたがな…生憎ランスが居たような痕跡は無かったよ。まだあいつはこの時代には居ないという事だ」

 ケッセルリンクの言葉にカミーラはどこか得意気に笑ってみせる。

 勿論その微妙な表情も、付き合いの長いケッセルリンクだからこそ気づけるような小さいものだが。

「このカミーラがまだ動いていないのだ…当然奴もまだいないのだろう」

「そうかもしれないな…まあその内嫌でも出くわす事になるだろうよ」

「フン…」

 そのまま二人はワインを片手に話し続ける。

 これももう200年以上続いた二人の会話であり、二人の使徒も幾度と無く見た光景。

 その光景が終わるのはもう少し先の事だった。

 

 

 ???―――

 何も無い空間…光刺さぬ漆黒の空間の中に一人の人間の姿を模った何かが浮かんでいる。

 そしてそれを無機質の目で見る何かがそこにはある。

「バスワルド…やはり上手くは使えぬか」

 1級神ラグナロク…いや、三超神の一人であるローベン・パーンは魔王を上回る力が有りつつも、使い勝手が悪いという欠点を持つ2級神ラ・バスワルドを前に何かを考えているようだった。

 今回は試しにラ・バスワルドを下界に下ろしたのだが、結果はやはり自分が望むような結果ではなかった。

 人間を蹂躙するはずの魔物大将軍が死んだだけ…それがラ・バスワルドが齎した結果だった。

 人類管理局の女神ALICEがその後で人間の下にラ・バスワルドを向かわせるようにしていたようだが、それは誰もが予想もしていない結果に終わった。

 しかしその結果においてはローベン・パーンは特に不満は持っていない。

 ローベン・パーン他全ての神は創造神ルドラサウムを喜ばせるために存在している。

 そして今回のラ・バスワルドが起こした結果は、意外にも創造神ルドラサウムを喜ばせる結果へと終わることが出来た。

 だからといって同じことを二度しようとはローベン・パーンは考えてはいない。

 今回の事はあくまでも完全なイレギュラーであるからだ。

「しかしクエルプランもまた面白い事を言う」

 創造神ルドラサウムを大いに喜ばせた人間には褒美を取らせるようにクエルプランに伝えた。

 その人間が願ったことは、まさかの神とセックスをしたいという非常に愚かで、そして面白い願いだった。

 ローベン・パーンを更に喜ばせたのは、その褒美を得たにも関わらず、更なる要求をしてくるという事だった。

 勿論普段ならば、そんな人間如きの言葉など純粋たる神には聞くにも値しない。

 たかが100年も生きられない人間個人の事など興味も無かった。

 しかしその人間の言葉は実にユニークな言葉だった。

「『感情が無くて詰まらん』か」

 神には本来は感情等必要無いのだが、創造神ルドラサウムの作り出した神にはその感情がある様に思えてならない。

 ラ・バスワルドはその力の全てを破壊に費やしている存在であり、感情など無縁のものだった。

 まさかその神とセックスをするという人間が現れるとは思ってもいなかった。

「しかし感情か…次なる手には丁度良いかもしれぬ」

 このラ・バスワルドという神を何とか上手く使えぬかというのはローベン・パーンが常々考えていることだ。

 世界に創造神を侮辱する存在が居ないのは良い事だが、同じ2級神である閻魔やアマテラスと比べてラ・バスワルドは本当に何もする事が無い。

 だからこそ何とかしたいと考えたが、その人間の言葉は中々興味深ものだと感じていた。

「しかしこの同性愛はダメとは一体何のことだ?」

 クエルプランの言葉の中でもそこだけは今一理解が出来ないところだった。

 しかし褒美を与えた人間がそう言うのであれば、それを参考にするのもいいかもしれないと感じていた。

 だが、それ以上にローベン・パーンが興味を惹かれる所がある。

「ラ・バスワルドの力の一部が感じられない…」

 それはラ・バスワルドの腹部に開いた穴。

 ラ・バスワルドの力の一部…僅か5%程だが、その力を感じ取ることが出来なくなっている。

 普通ならば大問題であり、プランナーならばその力の回収を命じるかもしれない。

 一方のハーモニットならば面白いという理由で放置するかもしれない。

 そしてローベン・パーンが下した結論は…ハーモニット同様に『面白い』という理由から放置をする事だった。

 ローベン・パーンは混沌と戦乱とを好み、平穏を好まない…それ故に、そのラ・バスワルドの力が地上にある事で、どのような変化があるかを見てみたかった。

 それが魔物に渡って人間が蹂躙されるのも良し、それが人間に渡って魔を倒す力になるのも良し。

 どちらにしろ、下界には混沌と戦乱が蔓延るだろう。

「神の力…魔物にしろ人にしろ、どうなろうとルドラサウム様を楽しませるだろう」

 ローベン・パーンはそう笑い、ラ・バスワルドをどうしようか考えていた。

 

 

 JAPAN―――

 そこには1体の妖怪が夜空を見上げていた。

 自分は別に人間に対して悪意を持っている訳ではない。

 だが、人はそれでも自分を見て「化物」と呼び、そんな自分を倒そうと何人もの人間が向かってきている。

 勿論自分はそんな人間達を全て返り討ちにしていた。

 有象無象の人間にやられるほど自分は弱くは無い。

 妖怪『黒部』…聖獣オロチの牙から生まれた最強の妖怪は、その身に貯まる何かを抑えるのももう限界に近づいてた。

「上等じゃねえか…」

 黒部の目がギラリと光る

「そんなに俺が怖いぇってんなら、なってやろうじゃねぇか…テメェらが名を聞いただけで震え上がるような、恐ろしい人食いの化け物によぉ……!」

 それからはあっという間だった。

 何時の間にか黒部の下には多数の妖怪が集まり、既に巨大な集団へとなっていた。

 そして自分達を討伐に現れる奴らを喰い、思い思いに暴れていた。

 黒部にはただ暴れている時だけが、自分を襲う黒い衝動を緩和させていた。

 それは本来の歴史において、藤原石丸という存在が黒部を訪れるまで続く―――はずだった。

「がはははは! ここが妖怪共の住処か!」

 そこに現れたのは完全なるイレギュラーな存在。

 世界のバグであるランス…この世界の風雲児がこのJAPANで今まさに嵐を起こそうとしていた。


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