ランスが黒部と出会う前―――
「がはははは! とうとうやってきたぞJAPANに!」
「この橋…どうやって浮いているのでしょうか」
(これも神の力なのよね…)
ランスはようやく自分が良く知る大陸とJAPANを繋ぐ巨大な橋である『天満橋』を渡ることが出来ていた。
『天満橋』は2級神アマテラスが大陸にかけた橋であり、その力はまさに計り知れないと言って良いだろう。
ランスとしても、何度もJAPANに向かおうとする度に邪魔が入り、時には魔人と戦い時には神と戦い、やっと此処まで来る事が出来ていた。
「でも本当に200年以上たってるなんて…正直信じられないです」
「まだお前は言ってるのか」
エルシールは何度目かの疑問を口にする。
正直に言えば、今でも自分の状況が理解出来ないと言ってもいい。
もう既に自分の居た国は存在しない…それだけの時間が経っているなど誰が信じられるだろうか。
「本当にランスさん達はこんな事を何度も経験してたんですね…」
実際に見るのと体験するのでは大違いだ。
「それにしてもこれがJAPANか…どういう所なのかしら」
スラルはランスの剣の中で目をキラキラさせている。
話はランスから聞いていたが、やはり聞くと見るとではその光景は大きく違う。
(それに…この状況を何とかしたいのも事実なのよね…)
スラルはランスの剣の中で自分の『同居人』を見る。
そこに居るのは先にランスと戦った破壊神ラ・バスワルドの姿があった。
(ううう…下手にランスに言う訳にもいかないし…どうすればいいのよ)
スラルは最初の出会いを思い返す。
それはセラクロラスの力でこの時代に来た時の夜の事だった。
「と、いう事でこれが私が教える新しい魔法よ」
「スノーレーザーですか…名前は聞いたことは有りますが、私に使えるでしょうか…」
エルシールはスラルから新たに教えてもらった魔法に少し不安がある。
確かに自分には魔法の才能が有る様だが、それでもスラルには遠く及ばない。
そんな自分に歯噛みするが、正直に言うと自分がランス達と共に冒険をしていること自体がおかしいのだとも思う。
(ランスさんは強すぎるし、レダさんは何でも出来るし、スラルさんも私とは比べ物にならないくらいの魔法使いだし…)
何しろ魔人とも渡り合うことが出来るであろう、まさに人類でも最強クラスの人間だと思っている。
「はあ…落ち込むなあ」
「あなたはあなたよ。そんなに気にする事は無いわよ。ランスは強いか強くないかで人を見るタイプじゃないでしょ」
「まあそうでしょうけど…」
事実、自分と共に居たパレロアは戦闘能力はあまり無かった。
魔法も使えなければ、武器も使えない…でも、ランスはそれに文句をつけた事は一度も無い。
戦闘要員とは見ていなかったのは確かだろうが、それでパレロアに何かを言う事は無かった。
「それを言ったら私だってそんなに大したこと無いわよ。元魔王ってだけで…まあ普通に魔法使いの才能はあったみたいだけどね」
スラルは苦笑する。
実際、魔王で無くなった自分がこれほど魔法を扱えるとは思ってもいなかった。
そして一番驚いたのは、自分には付与の技能が備わっていたこと。
ランスの手によって幽霊にならなければ、それに一生気づくことは無かっただろう。
「私は活動時間が短いし…それを考えれば、あなたみたいに常に魔法を使える人間が側にいた方がいいわよ」
「そうでしょうか…私はまだ冒険者としては殆ど役に立ってませんから」
「気にしない気にしない。経験を積めばいいのよ」
この世界は才能が全ての世界だが、それでも経験は確かな力となる。
しかしそれを聞いてもエルシールの顔は晴れない。
「比較対象がランスさんとレダさんなので…」
「まあ…流石にあの二人と比べるのはね?」
(私の勝手な予想だけど、剣戦闘LV3のランスとエンジェルナイトのレダは比較対象としては不適切よね…)
あの二人は本来比較対象とするのは全く適切ではない。
ランスはスラルが知る人類の中では間違いなく最強の存在だ。
そして何よりも、魔人ともやり合う度胸や、相手を無力化しようと様々な策を考え付く頭を持っている。
ずる賢い、卑怯と言えばそれまでだが、生きるか死ぬかの戦いではそれは引っ掛かる奴が悪い…スラルはそう思っている。
エンジェルナイトのレダに関しては完全に問題外だ。
何故なら相手は神なのだから。
「それにしても…ランスさんとレダさんはどういう関係なんですか? 恋人…には見えませんし」
「それは私も知らないのよね。聞いても多分教えてくれないでしょうし…」
「ランスさんが凄い女好きなのは見て分かりますが、実はレダさんも結構…」
「それはあるわね。私、レダがランスを拒んだ所見た事無いのよね」
今もレダはランスに誘われている。
「でも魔人といい…本当にランスさんは不思議な人ですよね」
「不思議というか何と言うか…たまにランスが本当に人間なのかどうか疑うことがあるわ」
この日もスラルはエルシールに魔法の事を教えて一日が終わる。
幽霊である自分が眠る…というのは変だが、ランスの剣の中に居ればそれに近い状態になれる。
(こうして安心して眠れる…というのは変かもしれないけど、魔王だった時より遥かにマシよね)
スラルが眠りにつこうとしたとき、この広大な空間の中で一際輝く光が見える。
「…あれ?」
ランスの剣の中にいて長いが、今までこのような事は一度も無かった。
スラルはそれが気になり、持ち前の好奇心の強さも手伝いその光に近づいていく。
そしてそれが人の形を作っているのを見て、スラルは息を飲み込む。
「まさか…」
スラルは意を決してその光に近づくと、その形がハッキリと見えてくる。
そしてその姿が見えたとき、スラルは言葉に出来ない悲鳴を上げる。
「な、な、な…破壊神ラ・バスワルド!?」
目の前に居るのは間違いなく、先にランスだけでなく、カミーラ、ケッセルリンク、メガラスといった強者と戦いを繰り広げた存在であった。
見間違いかと思い目を擦ってみるが、目の前にいるラ・バスワルドは変わらず光り続けるだけだ。
「ま…まさか私と同じ様にラ・バスワルドも魂がランスの剣に引っ張られた? 確かにランスの剣が腹部に突き刺さった時に何かの力を感じたけど…」
今も思い出せるランスの剣がラ・バスワルドを貫いた時の感触。
確かに何かの力が入ってくるのを感じたが、それがまさかラ・バスワルドだとは思ってもいなかった。
目の前のラ・バスワルドはスラルなど目に入っていないように輝き続けるだけだ。
「あの…あなたは」
スラルは意を決してラ・バスワルドに話しかけるが、ラ・バスワルドにはその言葉が届いているかどうかは分からない。
無視をしているように見えれば、心此処にあらずといった感じにも見える。
(ランスと戦ってた時も一切の感情も見せなかったし、言葉も発していない。唯一反応を見せたのはランスが傷をつけた時だけなのよね…)
今思えば、ランスが相手を傷つけた時からラ・バスワルドの攻撃パターンが変わった。
それを考えれば、鍵はランスの持つ剣なのだろう。
「もしかしたら、このラ・バスワルドの力を上手く使えればランスでも魔人に攻撃出来るかもしれないわね」
スラルは少し考えた後、そう結論付ける。
目の前の存在は確かに厄介かもしれないが、魔王である自分すらも取り込んだランスの剣だ。
この世界のバランスブレイカーならばどのような結果になってもおかしくはない。
「それに…この先魔人と敵対する事もあるだろうしね」
ケッセルリンクから聞いた、あの時にランスと戦った寄生体…レッドアイが魔人となった。
そして自分が死んだ後に作られた魔人も複数居る。
その中でも魔人ザビエルという新たな魔人四天王は正しく魔人という存在であるようだ。
そして魔王ナイチサの重鎮…だとすると、魔王が一番動かしやすい魔人とも言える。
「さて…問題はランスと私に神の力を扱えるほどの力があるかだけど…」
そこは時間をかけてやっていくしかないと思っている。
自分とレダには時間という縛りは存在しない。
そして…恐らくはランスも。
彼自身は気にしてはいないだろうが、この数年の旅の間にランスが年をとった形跡が存在しない。
「セラクロラスの力か…それともあの時私の血が少しランスに入ってしまったか…」
あの事は今でも忘れられない…自分が魔王の血に飲み込まれ、ランスを魔人とすべく襲った時。
ランスに魔王の血を与える際に、ランスへと口付けをした。
その際にランスの体内に入ったであろう魔王の血…魔人へとするには絶対的に血液量が足りないが、それでも魔王の血はランスの中へ入ってしまった。
恐らくはランスのレベルが上がりにくくなってしまったのはそのせいだろう…魔人や魔王は永遠の命がある分強くなるのも非常に遅い。
その影響がランスに出てしまっている…スラルはそう考えている。
「だが私はどうするべきなのだろうか…」
それに気づいてもスラルにはどうする事も出来ない。
そしてそれをランスに言う勇気も無い。
スラルはこれからのランスの運命を思い、ため息をつくしかなかった。
JAPAN―――
それは大陸から隔離された大陸であり、そこで独自の進化をしてきた。
2級神アマテラスは己のミスから、JAPANと地獄を繋げてしまい、そのお詫びとして大陸とJAPANを繋ぐ天満橋を作り、三種の神器を与え、帝システムを作り、味噌を教えた。
が、それは上司に怒られてしまい、その上司へのご機嫌取りのために帝レースというものを作り上げた。
そんな歴史がNCによって作られ、今もそれは長々と続いている。
JAPANは大陸からの影響が少ない代わりに、JAPAN独自の文化が生まれ、そして長くに渡り争いを続けている…それがJAPANという島国なのだ。
そんな島国だが、天満橋が作られたことにより大陸からも人が入ることもあり、そしてその逆もある。
だからこそ、ランス達のような大陸の人間がこのJAPANに入っても今は特段珍しい事ではなくなっていた。
こうしてランス達が食事処で食事をしていても、JAPANの人間は誰も何も言わない。
「これも美味しいですね」
エルシールもその食事に最初はおっかなびっくりだったが、平気な顔で食べるランスとレダを見て食べ始めると、その箸はもう止まらなかった。
大陸では無かった味に今はもう慣れてしまっている。
「団子は無いようだな」
ランスは誰にも聞かれないような小さな声で言う。
JAPANはランスにとっても特別な土地のである。
ランスが唯一友達と認めた男…織田信長と出会った土地であり、自分の子を産んだ山本五十六が住まう地でもある。
そして奴隷のシィルが魔王リトルプリンセスによって氷付けにされた土地。
ここが異世界(だとランスは思っている)なのは分かってはいるが、それでもランスが知っているJAPANと同じだとランスでも過去に浸る事くらいはあるようだ。
「で、ランス。これからどうするの?」
レダもおいしそうに食事をしながらランスに問う。
彼女の目的はランスを守る事なのでランスの行く所には必ず行かなければならないのだが、何しろランスは魔人と関わったり魔王と関わったり2級神と関わったりとレダの理解の範囲を超えている。
大人しくして欲しいとは思うのだが、ランスにそれを求めるのは不可能だろうとも思っている。
だがそれ以上に下らないと思っていた下界が今は中々楽しくなってきているという事もある。
(下界に長くいると堕天するというのも分かるわ…JAPANの料理も癖があるけど美味しいし)
美味しい料理、美味しいお酒、今まで無縁だったものとの接触に、レダは確実に魅了されていた。
(これも下級天使の性なのかしらね…ああ、でも8級神のベゼルアイもシィルとロッキーの作った料理を美味しそうに食べてたしなぁ…)
自分よりも階級が上の神が楽しんでいるのだから、9級神の自分が楽しんでも問題無いと自分を誤魔化しながら食事を楽しむ。
(今度はJAPANのお酒が飲みたいわね)
これも1級神から下された命令の役得だと思い、今の状況を楽しんでいた。
「そうですね…JAPANに来てからずっと食事ばっかりしてましたからね」
「そうよ。ご飯が食べられない私に対するあてつけ?」
エルシールの言葉にスラルまでランスに噛み付いてくる。
そんな女達の言葉もランスは何時ものように笑って応える。
「問題無い。これからのプランはもう考えてあるからな」
JAPANはランスにとっても興味深い国であり、それ故にランスもJAPANの出来事は今でも忘れていない。
魔人ザビエルの事は数年経った今でもまだ覚えているくらいだ。
だが色々と個性的な者達が多かったのも事実だ。
自分を慕う上杉謙信、態々大陸まで来て自分を売り込んできた真田透琳、自分の子を産んだ山本五十六、一つ目の妖怪伊達政宗…そして最後には腹上死した鈴女。
男もいるが、それだけランスには大きな舞台だったとも言える。
「お前達も聞いてるだろう。この辺には人を喰う妖怪がいると」
「確かにその話で持ちきりだったわね…凄い強い妖怪みたいだけど」
「妖怪…不思議な奴らよね。是非とも調べてみたいわね」
「魔物とは違うんですよね?」
ランスの言葉に三者三様の答えが返ってくる。
レダはどこまでも気楽そうに、スラルは何時ものように好奇心で目を輝かせて、エルシールは不安そうに答える。
「まあ妖怪だろうが何だろうが俺様には敵わんがな」
ランスが何時ものように笑うと、その話を聞きつけたのかこの店の店主がランスに話しかけてくる。
「大陸の人。あんた妖怪に興味があるのか?」
「あん?」
「だったらやめときな。この前も有名な武将が妖怪退治に行ったけど、誰一人として帰ってこなかったんだからな」
男の言葉にランスは不敵に笑う。
「フン、そんな雑魚共とこの俺様を一緒にするな。妖怪だろうが何だろうが俺様の敵ではない」
「大陸の人は自信満々だねぇ…でも妖怪王黒部は本当に強いって話だよ。命が惜しかったら近づかないことだよ」
店主はそう言うと別の客への接客へと回る。
(黒部…知らん名前だな。政宗の奴じゃ無いんだな)
ランスが知っている妖怪王は一つ目の妖怪である伊達政宗だ。
ザビエルとの戦いではランスと共に戦い、その後は政宗の嫁であるノワールがランスと共に導く者達と戦った。
当然の事ながら政宗はいないようだが、変わりに黒部というのが妖怪王をしているようだ。
「よし決まったな。その黒部とかいう妖怪の所へいくぞ。妖怪王と言うからにはさぞお宝を溜め込んでいるのだろう! がははははは!」
JAPANにはランスも興味が惹かれる宝が多い。
中でも『貝』という地は本当にランスにとってはお宝の土地だ。
そこに行ってみるのも良かったが、まずはその妖怪王とやらの顔を拝んでみるのも面白そうだった。
そんな訳でランス達の妖怪王黒部を探すという旅が始まった。
JAPANは大陸よりも圧倒的に狭いが、それでもそう簡単に目的の場所に行けるかと言えば意外とそうでもない。
やはりモンスターはどこにでもいるし、中にはサメラ~イのように中々強いモンスターも見られる。
勿論ランスの敵ではないが、それでも中級所のモンスターは見かけることが多いので、想像以上にエルシールの体力が削られていく。
「エルシール、大丈夫?」
「な、何とか…」
エルシールはソファに寝転がりながらスラルの言葉に応える。
実際彼女の体力は結構限界に近づいており、体が休息を求めていた。
「ランス、流石に彼女にはJAPANは早かったんじゃない?」
「うーむ」
レダの言葉にランスも少し考える。
エルシールが足手纏いという訳ではない。
やはり体力が少ないというのは魔法使いにとっては当然の事だからだ。
魔法使いでありながらあの肉体をもっているガンジーがおかしいのだ。
「そういやあれからクエルプランちゃんを呼んでなかったな。忙しくて忘れてたぞ」
何分破壊神との戦いがあまりにも非常識な流れだったため、流石のランスも自分のレベルの事を少し忘れていた面もある。
「カモーン! クエルプランちゃん!」
ランスが指を鳴らすと、部屋に眩い光が溢れる。
この光こそ、レダにとってはあまりにも偉大すぎる光…自分の遥か上の存在である1級神クエルプランの前には反射的に跪いてしまう。
「お久しぶりですね、ランス」
「そんな時間経ってるか?」
クエルプランの言葉にランスは首を傾げるが、クエルプランはそれに対して思い至ったように頷く。
「そうでしたね。私にとっては200年以上ですが、あなたにとっては大した時間では無いのでしたね」
セラクロラスの力で再びランスが移動したのは彼女も知っている。
何故セラクロラスがランスに対してそんな事をするのかは知らないが、誰も何も言わないというのであれば何も問題は無いのだろうと思う。
「それよりも…レベルアップですね」
クエルプランはそう言って呪文を唱えると、ランス達に再び新たな力が溢れてくる。
「ランスはレベルが65になりました」
「なんか一気に上がったな」
「レダはレベル68になりました」
「有難う御座います、クエルプラン様」
「スラルはレベル63になりました」
「あ、とうとうランスにレベルが抜かれた…」
「エルシールはレベル30になりました」
「一気にレベルが上がりましたね…」
「皆様のレベルアップは終わりました。さて…ランスのレベルが60を超えましたね」
「うむ、そうだな」
クエルプランの言葉にランスは胸を張って応える。
もう少しでレベルが60を超えるの分かっていたが、あの破壊神とやらの戦いで随分とレベルが上がったようだ。
「ではレベル神の規則に従いましょう」
クエルプランはそう言うと彼女の美しい生足が露になる。
「おおー!」
「こ、こらランス! クエルプラン様に対してなんて恐れ多いことを!」
その光景を見て喜びの声を上げるランスの目をレダは急いで塞ぐ。
1級神はまさに雲の上の存在…そんな方がレベル神をやっているというだけでも恐れ多いのに、ましてはその肌着を1枚とはいえ脱がすなどとんでもないことだ。
「問題はありません。これも神の規則です。私も今はランスのレベル神をしているのであれば、それに従うだけです」
「それにまだ足が見えただけではないか」
「あのね! 相手はクエルプラン様よ!」
レダはランスを必死で押さえようとするが、
「構いません。これはレベル神の規則と聞いています。ならば私もその規則に従うのが当然です」
「う…」
規則と言われればレダもこれ以上何も言えない。
契約している者のレベルが一定のレベルになれば、レベル神はその服を脱いでいくというのは確かにレベル神の規則だからだ。
「うーむ、思ったとおり綺麗な体ではないか」
まだ生足だけだが、それだけでも非常に美しい…ランスはそう思った。
ウィリスは彼女が人間だった頃からの付き合いで、その長い冒険の中で色々な姿を見てきたが今のレベル神クエルプランはやはりレベルが違う。
完成された美とも言うべき彼女の肉体はまだ生足を晒しただけだというのに、ランスが今までに感じたことの無い神聖さのようなものを感じていた。
(これで俺様のレベルが上がればどんどん脱いでいくという訳か…ぐふふ)
今はまだその生足だけだが、その内にそのスカートや上着等も対象になっていくだろう。
それを考えれば今まで面倒くさいと思っていたレベル上げも捗るというものだ。
それに最近ランスのレベルは下がる事無く、徐々にではあるがレベルが上がっていっている。
100レベルまではまだまだ遠いが、ランスは持ち前の自信で非常に気分を良くしていた。
(いや待て。もしかしたらウィリスのような事になるのも有り得る…)
あれは非常に傑作であり、ランスもそんなウィリスをからかう為に何度もウィリスを呼び出したものだった。
忘れもしない、リーザス解放戦の時にウィリスのあの姿。
まさかのセーラー服は非常にランスを笑わせたが、まさかクエルプランもああなるのではないかと少し不安になる。
ウィリスだから許されたようなものであり、今目の前にいる絶世の美女があんなコスプレ紛いの格好をしても、非常に微妙な空気になってしまうかもしれない。
(…レベルが上がった時に考えるか)
まあ自分のレベルが上がるのもまだまだ先の話なので、ランスはそれ以上考えるのをやめる。
まずは身近な目標であるレベル70を目指せばいいのだ。
「ではランス…また経験値が貯まれば呼んでください」
「別に経験値が貯まってなくてもいいんだろ」
それはランスにとっての何気ない言葉。
「…そうですね。頻繁に呼ばれるのも困りますが」
その時のクエルプランの顔は、ランスにとっても非常に魅力的に写った。
そしてクエルプランの姿が消え、部屋の中を人工的な明かりが煌々と照らす。
「とうとうランスにレベルが抜かれたわね。まあ戦ってるのはランスなんだからある意味当然だけど」
「流石にラ・バスワルド様と戦えばレベルも上がるわよね…」
「私もとうとう30台に突入しました。そろそろ限界にもぶつかりそうですけど」
エルシールは急激にレベルが上がり嬉しいのと動じに少し複雑な顔をする。
才能限界は誰にでも存在し、人は…いや、魔物や魔人ですらもそれから逃れることは出来ない。
人間の才能限界は大抵の者は低く、才能限界が40もあれば普通に優秀な存在だ。
ランス達がまだ才能限界ではない事に驚くが、自分の才能の限界はどれくらいなのだろうかと少し不安になる。
もし限界に達すれば、自分はどうすればいいのか…今まで考えた事も無い事だったが、周りにいるのが超人的な力を持つものばかりのためどうしても悩んでしまう。
「がはははは! これで妖怪王とやらも楽勝だ!」
どこかの山の中―――
「ううう…凄い不気味です」
エルシールはその辺に散らばる鎧と骨を見ながら気味悪そうに顔を歪める。
彼女の言うとおり、今ランス達が歩いている道には無数の鎧と骨が散らばっている。
「がはははは! 妖怪王とかいうのはどうこだー!」
ランスはそんな事を気にせずに笑いながら進んでいく。
レダも全く気にならないようで、エルシールをいつでも守れる位置でランスの後に続く。
『人間だ…』
『人間だ…肉だ…美味そうだ…』
「ひっ!?」
そんな時、まるで地の底から響くような恐ろしい声が周囲から響き渡る。
エルシールはその声を聞いてレダの背中に隠れるように周囲を見渡す。
すると、先程まで倒れていた鎧と骨が一斉に起き上がり、それぞれ剣や槍等といった獲物を構えながらランス達と取り囲む。
「アンデッド!?」
エルシールは自分達を囲む敵を見ながら杖を構える。
それはこれまでの冒険で見てきたボーン系のモンスターに似ている。
「フン、雑魚の妖怪どもか」
ランスはこの状況でも不敵に笑う。
かつて伊達政宗の領地に攻め入った時の妖怪の兵士達と似た姿ゆえ、ランスにはその強さが十分に分かっている。
『黒部様に報告だ』
『いや、この場で喰っちまいたい』
『そうだ、喰ってしまおう』
妖怪達がランス達を取り囲み襲う前にランスとレダは動いていた。
「がはははは! 死ぬのはお前達だ! ラーンスアターック!!」
ランスの一撃は妖怪達を有無を言わさず吹き飛ばす。
今ここに、ランスと妖怪達の戦いが始まる。