ランス再び   作:メケネコ

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妖怪王黒部 後編

「で、一体何のお宝を探しに来たってんだ?」

 黒部は鋭い視線でランス達を見る。

 勿論鋭いのは視線だけで、そこには殺気も敵意も何も無い。

「なんだ突然」

 ランスの言葉にも黒部はただ笑うだけだ。

「負けたって言ったろ。これ以上お前達とやりあう気はねえよ。おら、お前達ももう散れ」

 黒部が合図をすると、周囲にいた妖怪達の姿が一斉に消える。

「もう俺しかいねえよ。警戒する必要はねえよ」

「そうみたいね」

 レダは周囲から完全に妖怪の気配が消えたことで、戦闘態勢を解除する。

 黒部にももう戦闘する意思は無いようで、これ以上警戒する必要は無いと判断した。

「随分とあっさり負けを認めるのね」

 ランスの持つ剣から先程の幽霊の声が聞こえたことに黒部は一瞬驚くが、直ぐに少し不満そうに自分の膝に頬杖をついてため息をつく。

「まさか俺が一撃でやられるたぁ考えてもいなかったからな」

「がはははは! 俺様が強いだけだ!」

 ランスは何時ものように笑うが、それを見て以外にも黒部は笑みを浮かべた。

「ああそうだ。テメェはつええよ。大陸の人間は皆コイツのように強いのか?」

 黒部はそう言ってエルシールをジロリと見るが、彼女は慌てて首を振る。

「この人を基準に考えては絶対にダメです。大陸でもこんな人は一人しかいないと思います」

「お、おう…」

 エルシールの意外にもハッキリとした言葉に思わず黒部は気圧される。

 黒部は改めてこの場にいる人間を見渡す。

 やたらと強い大陸の男に、これまたやたらと強い金色の髪をした大陸の女、この二人に比べて実力は大分劣るが大陸の魔法使い、そして謎の幽霊。

「で、あなたが妖怪王黒部なのよね。是非とも話を聞きたいんだけど」

 ランスの持つ剣からスラルが飛び出し、目をキラキラと輝かせながら黒部の周囲を飛び回る。

「な、何だ?」

 黒部はこれまで自分の姿を見て畏怖された事はあれど、このように興味津々に見られたことは無かった。

 それなのにこの自分の身長のよりも遥かに低いこの少女は遠慮無しに自分の事を見てくる。

「うーん…凄いわね。モンスターやドラゴンとは根本的に違う…どういう過程でこんな生物が生まれたのかしら?」

 自分が魔王で無くなってから色々と世界は変わったが、まさかこんな生命体が生まれてくるとは考えてもいなかった。

(新たに出現した『鬼』といい…JAPANって本当に興味深い。ランスが行きたがる訳だわ)

 スラルは新たな種族との出会いに、JAPANに来れたことを本当に楽しんでいた。

 こうして妖怪という自分が知らない種族を知る機会をくれたランスには本当に感謝しかない。

「で、あなたは何を主食にしているの? やっぱり人間? それとも別のものを食べてるの? 草食? 肉食? もしかしてホルスみたいに樹液を…」

「いい加減にしねえか! そんな一編に聞かれても答えられえだろうが!」

 スラルの矢次に放たれる言葉に対して、流石に怒ったのか牙を剥き出しにして怒鳴る。

「凄い牙ね…でもドラゴンとかモンスターとはやっぱり違うのね。出来れば一本分けてくれない? すっごい調べてみたい」

 自分の怒鳴り声にも全く怯まないスラルには流石の妖怪王も面食らう。

 今まで自分の怒声で怯まなかった人間はいなかった。

「落ち着けスラルちゃん。それよりもまずは聞くことがあるだろう」

「そ、そうね。つい興奮しちゃって…」

 ランスの言葉にスラルは咳払いをすると、

「妖怪ってどうやって増えるの? やっぱり性行為で…」

「スラルは少し黙ってようねー」

 レダがスラルの口を塞ぐ…フリをする。

 エンジェルナイトのレダでもスラルには触れることが出来ないが、それだけでもスラルは察してくれたようだ。

「俺様が探しに来たのはこのスラルちゃんの肉体だ」

「この幽霊のか?」

 黒部はスラルの爪先から頭部まで見る。

 何処からどう見ても紛れも無い幽霊だ。

「この女を生き返らせたいって事か?」

「まあ似たようなものだ。妖怪共ならその手のアイテムくらい持ってるだろ」

 ランスの言葉に黒部は己の頬を掻く。

「いや…流石に人間を生き返らせるような道具はねえな。つーかそんな道具があるなら今頃人間共が挙って取り合ってるんじゃねえか?」

 黒部の言葉にランスは少し難しい顔をしたが、何処かそのような結果を予想していたかのような顔だ。

 ランスも長い冒険の経験で、必ずしも目当ての物が見つかる訳ではないのは理解している。

 それに人を生き返らすアイテムというのを、ランスはこれまでの冒険で聞いたことも無かった。

「そうか。なら仕方ないな。行くか」

 ランスはもう用は無いと言わんばかりに踵を返す。

「待てよ」

 そんなランスを呼び止めたのは勿論黒部だ。

「お前…本当にそのアイテムとやらを探すためにここまで来たってのか」

「当たり前だ。それ以外に何の理由がある」

 ランスの実にあっさりとした、そして嘘の欠片も見当たらない言葉を、黒部は少し複雑な心境で聞いていた。

「俺をどうにかするために来たって訳じゃねえのか…」

 今まで自分の前に現れたのは、自分を倒して名を上げようとか、自分を退治しようとする人間だけだった。

 黒部が何をしても、例え迷子の子供を助けようともそれは全て人間にとっては悪意として受け止められてしまっていた。

 だからこそ、人が自分に向ける視線にどこか諦めのようなものを黒部は感じていた。

(だけどこいつらは…)

 黒部が初めて接触した大陸の人間…それらの反応は黒部が今まで受けていた反応とは違う。

 青髪の人間は確かに自分を恐れてはいるようだが、自分を忌み嫌っているような視線は感じられなかった。

 純粋に未知の脅威への恐怖…そんな感じだった。

 金髪の女は自分にまったく恐怖も敵意も無い。

 いや、どちらかと言うと自分に無関心のようにさえ見える。

 当然自分に対して無関心でいるような人間などこれまでに存在していなかった。

 自分に興味津々の幽霊の女は、最早言うまでも無いだろう。

 今も自分の事を興味有り気に体の隅から隅まで見ようとしている。

 そして何よりも目の前の茶色い髪の男。

 自分を倒すほどの実力もさることながら、自分の事を全く恐れない人間。

「ケッ…随分と変わった人間達だな」

「私は普通のつもりなんですけど」

 黒部の言葉にエルシールは不満気な声を上げる。

 流石にランス達のような非常識さは自分には無い、と思っている。

「じゃあ別の所に行く?」

「うむ、政宗が居た所に行ってみるか。あの辺は意外なお宝が多そうだしな。いや、その前に貝に行くのもいいな」

 ランスは次の冒険に既に視線を向けている。

 ここに目当ての物が無かったのは残念だが、そもそもそう簡単に見つかっては面白くない。

 ランスの冒険の虫が再び騒ぎ始め、ランスが何時ものように遠くへ行こうとした時、

「待ちな」

 それを呼び貯めたのは黒部だ。

「なんだ。まだやり足りんのか」

「そうじゃねえよ」

 まだ戦い足りないという事ではない。

 ただ、自分が何故この人間を呼び止めたのか、それは黒部自身にもわかっていなかった。

「いや…今は中々人間共が煩い状況だからよ。行くなら気をつけて行きな」

「あら、忠告のつもり?」

「ちげーよ! お前らは能天気そうだから教えてやってんだよ!」

 スラルのからかうような声に、黒部は声を荒げて唸る。

 それを見てランスがニヤリと笑う。

「なんだ貴様。もしかして俺様についてきたいのか?」

「な! 何を馬鹿なこと言ってやがる!」

 黒部は立ち上がってランスに詰め寄る。

 それでもランスは余裕の表情を決して崩しはしない。

「がはははは! そうならそう言えばいいものを! うむ、お前は中々の強さだし、安全圏の奴だから俺様についてくる事を許してやろう」

「俺の話を聞いてねえのか!?」

「なんだ、お前俺様についてきたくないのか」

「だ、誰が行くかよ!」

 そう言って黒部は再び胡坐を掻いてその場に座る。

「何だ。お前がいれば面白そうだと思ったんだがな」

 ランスは少し残念そうに言う。

(連れて行けば便利そうだったが…男だしまあいいか。これがお町さんみたいな美人なら何としてでも連れていくんだがな)

 政宗の妻の一人というお町さんの巨乳をランスは思い出す。

 あれほどの体と実力があれば文句無しだろう。

「もう行っちまえ! 全く…」

「おう、じゃーな」

 これを最後に大陸から来た人間達は黒部の前から消えていく。

 黒部はその姿をランス達の姿が完全に消えるまでずっと見ていた。

 

 

 

 その夜―――黒部はただ一人で煌々と輝く月を見ていた。

 黒部という妖怪王は本当に強い…それは今までに黒部が好き勝手出来ていた事からも分かる。

 だからこそ、今日相対したランスという人間の強さが良く分かる。

「今日は…爽快だったな」

 自分は負けたが、自分は自分なりに全力でランスと戦った。

 不意打ちに近い形で負けはしたが、それは戦いにおいては当然の事だ。

 何よりもランスは自分を倒した…それだけが黒部にとっては重要な事実だった。

 それも自分も黒い感情も無く、純粋にあの男とぶつかり合うことが出来た…それが何よりも黒部には嬉しかった。

 そして何よりも躊躇う事無く付いて来るように言った人間…そして自分を面白いと言った人間。

「ヘッ…俺も素直になれねえ奴だな」

 黒部は自嘲する。

 本当はランスに付いて来いと言われた時、自分の体に湧き上がったのは言いようの無い喜びだった。

 初めて自分に対して臆する事無く言葉を発した人間。

 そして自分を倒すほどに強い人間。

「あいつら…本当に人を生き返らせる道具を探しにいったのか?」

 ランスという男は恐らく本気だろう。

 そしてそのためならば、どんな障害物だろうが蹴散らして進んでいく男だ。

「チッ…俺は一体どうしてぇのやら」

 今のJAPANが大変な状況になっているのは黒部でも分かる。

 最近自分の所に人間が来ていないのも、それ所ではない為だ。

 人間同士の争い…それもJAPAN人同士で覇権を争っているのは部下の妖怪の報告からも分かっている。

 あのランスという人間がどれだけ強かろうが、数の暴力の前には無力だ。

 だがそれでもあの男は突き進むのだろう…それが黒部には分かってしまった。

「全く…世話をかけさせてくれるよな」

 そう言って黒部は、今までとは違う表情で笑みを浮かべた。

 

 

 

 JAPAN―――この時代はまさにJAPANにとっての激動の期間と言っても良いだろう。

 国と国が分かれ覇権を握り合う時代。

 それが収拾するのはもう少し先の時代ではあるが…とにかくその時代の流れは確実にランス達へと牙を向いていた。

「身動きが取れませんね…」

「そうね。流石にこの状態だとね。移動するのにも一苦労だし」

 エルシールはこの遅々として進まぬ状況に少し不安を覚えていた。

「まさかJAPANがこんな国だったなんて…」

 最初は不思議な国だと思った。

 進んで行く度に、自分が全く知らない文化が目に入るのが非常に新鮮だった。

 ある国の貴族の令嬢だった自分だが、やはり自分は籠の中の鳥に過ぎなかったと改めて認識させられた。

 妖怪や妖怪王とも出会い、ランスが捜し求めている物を見つけるために移動しているのだが…その移動がどうしても上手くいかない。

「大陸も争いが凄かったけど、JAPANはそれ以上ね」

 レダの言葉にエルシールは一つため息をつく。

 そう、この進まぬ状況こそがJAPANで起きている争いが原因だった。

「で、ランス。どうするの?」

 レダはランスを見るが、そのランスは珍しく何かを考えているようだった。

「うーむ…」

 ここはランスが知る世界のJAPANでは無いとは分かってはいるが、それでもここはランスが良く知るJAPANとそこまで変わりは無い。

 木で出来た家に、大陸では存在しない食材、そして妖怪達。

 織田家の裏番として好きに振舞っていた時は何処にでも行けたが、この状況はランスとしても面白くなかった。

 何よりランスは移動が上手くいかないと飽きてしまうという所がある。

 シィルを救うため、導く者との戦いの後でヘルマンへと行こうとしたが、山越えが非常に面倒くさい上に国に入るのも時間がかかるため一度帰った程だ。

 その時はパットンが手引きをしてくれたのと、途中でかなみ、志津香、マリア等と合流出来たためにスムーズに行ったが、流石にこのJAPANにはそんなコネは無かった。

 こうして隠れるように魔法ハウスで移動するのも、煩わしい検閲等を回避するためだ。

「地形の関係でバイクもあまり使えないしね。移動にも一苦労ね」

「ランスさん。今回の目的地はまだまだ遠いのですか?」

 エルシールの言葉にランスは難しい顔をする。

 距離だけを見ればそれほど離れた距離ではない。

 大陸の方が移動する距離は余程多いだろう。

 しかしここJAPANはまさに戦乱の時代、かつてランスが統一したJAPANの時代よりもずっと悪い。

 実際、黒部達が居た所からはまだ然程距離は離れていないのが現実だ。

「天満橋辺りまではスムーズだったんだけどね」

 レダの言葉通り、JAPANの中に入っていけば入っていくほど移動は大変になっていく。

 実際に、JAPANの兵士達を蹴散らしながら移動するのも珍しくは無い。

「引き返すのも一つの手段だと思いますが」

「ぐぬぬ…」

 エルシールの言葉も最もであり、ランスも少しそれを考えていた。

 せっかくJAPANに付いたというのに、まさかあの戦乱の時代よりも尚酷い状態だとは流石に考えてもいなかった。

 この状態では碌に探し物など出来ないし、そもそも冒険にすらならない。

 こうして隠れながらコソコソ移動するのはランスの性に合っていないのだ。

(だがなあ…ここに信長や香ちゃんはいないしな)

 そもそも織田家がまだ存在していない時代、流石のランスもこの時代では好きに振舞う事が難しかった。

 

 ドンドン!

 

 ランスがそう考えていた時、突如として扉が叩かれる。

 その音に反応し、ランスとレダは直ぐに戦闘態勢を取り、エルシールもレダの背後に隠れる。

「ランス、いるか」

 そして聞こえて来たのはランスも完全に予想もしていなかった声だ。

 ランスとレダは顔を見合わせると、そのまま武器を構えたまま魔法ハウスを出る。

 そこにいたのは、つい最近ランスと戦った妖怪王黒部の姿があった。

「なんだ、お前か」

「…おう」

 ランスの言葉に黒部は短く応える。

「妖怪王が一体俺様に何の用だ」

「あー…それはだな」

 黒部は一度咳払いをする。

 そして意を決したようにランスを力強く見ると、

「お前、中々進めてねえみてえだな」

「む…」

 黒部の言葉にランスは不満そうな顔を隠そうとしない。

「お前にそれが関係あるのか」

 ランスの言葉に黒部はニヤリと笑みを浮かべる。

「お前の探してた道具の情報…いらねえか?」

 その言葉こそが、黒部の運命を変える一言だとは、この時は黒部自身にも分かっていなかった。

 

 

 

「こいつはすげえな…まさか持ち運びできる家だなんてよ」

 黒部は魔法ハウスに入ると感心したように声を出す。

 ランス達の事は実は少し前から遠巻きに見ていたのだが、突然家が現れた時には黒部も心底驚いたものだ。

 自分は人間よりも遥かに体が大きいが、この家は自分が入っても問題ないくらいに広い。

 しかもその家の中に入って尚も驚きがある。

 天井には煌々と明かりが輝き、その内装も黒部が知るJAPANの内装とは全く違う。

 大陸の家の内装には黒部も少し興味を惹かれていた。

「ノミを撒き散らすなよ」

「犬じゃねえって言ってんだろ!」

 ランスの言葉に黒部は犬歯を剥き出しにして唸る。

「まあいい。それよりも俺様に情報とは何だ」

 ランスは椅子に腰を下ろすと、黒部もそれに合わせて床に腰を下ろす。

「それなんだがな…お前、地獄って所を知ってるか?」

「地獄だあ? なんか聞いたことがあるな」

 地獄、と聞いてランスが思い出したのはJAPANのある地方の名前だ。

 死国と呼ばれる土地であり、そこでランスは坂本龍馬と出会った。

「確か死国だったかなんだかに鬼が出てくるって場所があったな」

「知ってるのかよ…まあそれはともかくだな。とにかくその地獄って所にはすげえお宝が眠ってるって話だぜ。そこならお前の探している道具があるんじゃねえか?」

「地獄か…」

 ランスはそれを聞いて少し考える。

 JAPAN統一の時もランスは数多ある迷宮に足を運んでいた。

 そこにはランスが大満足した貝塚や、骨折り損で終わってしまった平城京等色々なダンジョンがあった。

 が、流石に地獄へ繋がるダンジョンには行った事は無かった。

 JAPANを存分に探索する前に、ザビエルが復活し、そしてシィルが氷付けとなってしまったからだ。

「…面白そうだな」

 ランスが興味深そうに黒部を見る。

 その様子を見て黒部もまた自然な笑みを見せる。

「どうだ? 中々の情報だろ?」

(地獄って…いいのかしら?)

 一方のレダは若干盛り上がりかけている二人を尻目に少し考え込んでいた。

 地獄とは、神が創った立派な施設であり、破壊神ラ・バスワルドと同じ階級である2級神アマテラスが管理する地区だ。

 そこには鬼が働いているのだが、時たまその鬼達が地獄を飛び出して暴れているという話もあるし、中には人間に使役されている鬼もいる。

(私は1級神ALICE様の命令で動いているけど、この時代のALICE様じゃ無いし…)

 レダは少し悩むが、今自分が言葉を発するべきではないと考える。

(まあランスが止まるとは思えないし…)

 それに自分が何を言ってもランスは決して止まらないだろう。

 それならば、自分は自分の任務を全うしようと心に決める。

「だがそれは何処にある。正直遠いと移動が面倒くさい」

 ランスが気になるのはやはりその距離だ。

 何分人間同士の争いが激しいため、移動するのにも一苦労だ。

「それなら心配いらねえよ。そこは妖怪の塒の一つだからな。人間達も近づきゃしねえよ。まあ俺が案内してやるよ」

「ふーん」

 黒部の言葉にランスはニヤリと笑う。

「がはははは! お前はやっぱり俺様について来たかったのではないか!」

「な、何言ってやがる! そ、そんなんじゃねえぞ!」

 ランスの言葉に黒部は図星を突かれたかの様に声を荒げる。

 しかしランスはそんな黒部の態度も笑って受け流すだけだ。

「うむ、お前は中々強いからな。それに面白そうだ。光栄に思え。俺様が男を誘うなど滅多に無い事だぞ」

「だからなあ! 俺はお前に情報を与えてやっただけだ! それ以上は何もしねえよ!」

 

 

 

 地獄へと続くと言われる道…そこはまさに『地獄』という言葉が似合う土地に他ならなかった。

 かつてのランスが攻め込んだ死国と同じ所にあるその地には、無数の人とも獣ともつかぬ骨が散らばり、時には何かの絶叫のようなものも聞こえる。

 その様子に既にエルシールは体を震わせている。

 普通に考えれば、こんな所に入っていくなど自殺行為と言われてもおかしくはない。

「ここか」

「ああ。妖怪ですら近づかない所だよ、ここは」

 2級神アマテラスが誤ってJAPANと地獄と繋げてしまったが、それは今でも放置されて現在に至る。

 そこは妖怪も寄り付かぬ、不毛の地と成り果てていた。

「でもこんな所があるなんてね…私の時とは本当に大違い」

 スラルは感心したように言う。

 自分が魔王であった時よりも世界の情勢は大きく変化しているのを嫌でも理解させられる。

「それにしても私が同居人と交渉しようと努力している内に何が起きてたのよ」

 スラルはこの場に黒部がいるのを知ったのはつい先程だ。

 それまでは自分と同じくランスの剣の中にいる、破壊神ラ・バスワルドと何か話せないかと思っていたのだが、何も進展が無かったのを歯痒く思っていた。

「言っておいて何だが…本当に行くのか?」

「当然だ。未知のダンジョンが俺様を待っているのだ」

 ランスは未知の冒険を好む。

 己の持つ技能もあるのかもしれないが、何よりも自分の知らない事を知るのが大好きだ。

 その達成感こそが、ランスにとっては何よりも楽しみなのだ。

 だからこそ、そこが危険な場所であってもランスは挑み続けるのだ。

(それに何よりもとっととスラルちゃんの体を見つけんとな。このままではセックスもできんではないか)

 一番の目的はやはり元魔王のスラルと思う存分セックスをする事…それが何よりも大切なのだ。

「よーし、行くぞ!」

 ランスの声にレダは何時もと同じ様に、エルシールはその顔に多大な緊張を持って。

 3人が歩みを進めるのを、黒部は黙ってみているしか無い。

「どうした、黒部。お前も来るんだろ」

「………」

 ランスはその場に振り返り、自分について来ない黒部に声をかける。

 そんなランスの顔を、黒部は少し複雑な顔で見る。

「ランス…お前は俺が怖くねえのか」

 黒部はこれまで人に忌み嫌われ、人を喰うバケモノとして恐れられてきていた。

 それは今でも変わらず、人間はそんな自分を殺そうと何度も挑んできた。

「なんでお前を怖がらなければいかんのだ。俺様が恐れるものなど無い」

(…いや、シルバレルだけはダメだな)

 ランスが恐れるのは規格外のブスであるシルバレルだけだ。

 それに比べれば、黒部等恐れる訳は無いのだ。

「いいから来い。お前ならば俺様に付いて来る事を許すぞ」

「………ヘッ、しゃあねえな。俺がお前達を助けてやるか」

「がはははは! 素直に俺様について来たいと言えばいいのだ! 行くぞ、黒部!」

「おうよ! ランス!」

 こうして黒部はランスの横に並び立ち地獄への道を歩いていく。

 妖怪王黒部は、こうして初めて人間と共に冒険をする事を選んだ。




黒部はツンデレだと思う
でもそんな黒部が好きです
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