ランス再び   作:メケネコ

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奈落のハニー

 魔人ますぞえ…それは何時生まれたのかは誰も分からない。

 あるハニーが魔血魂を飲み込んだ事で生まれた魔人とも言われているが、その真相は誰も分からない。

 ただ一つ分かっているのは、それは魔人の中でも非常に強力な存在であるという事だけ。

 そしてその魔人ますぞえにはある二つ名が存在する。

 それこそが奈落の王…その魔人ますぞえが今目の前に存在していた。

「ますぞえ…こいつが居たわね」

 スラルは祭壇に座るますぞえを見ながら唇を噛む。

 勿論この魔人の存在を忘れていた訳では無いのだが、まさかこんな所でますぞえと再会するとは考えてもいなかった。

 何しろこの魔人は、魔王であった時の自分の命令すらも無視し続けた魔人なのだから。

「あら…人間が来ましたね、ますぞえ様」

 そのますぞえの側に居るのは、ピンク色のハニーであるハニ子だ。

 ますぞえはそのハニ子にのみ心を開いているとの事だが、それが真実であるかどうかはますぞえしか知らない。

「こいつが魔人か…」

 黒部も初めて出会う魔人を前に冷や汗が出る。

 強い人間とは何回か戦ったこともあるし、モンスターや鬼とも戦ってきた。

 しかし目の前の存在はそれらとは全く次元が違う圧力を持っていた。

 勿論ハニーなのでその表情は全く分からないが、それがかえってますぞえの不気味さを物語っていた。

 その体からは小さなハニーが生まれ、ハニーのような形をした手には不気味な槍のような物が握られている。

 ますぞえはゆっくりと立ち上がると、本来ハニーには存在していない足を使って祭壇から降り、ランス達へと近づいていく。

 その顔には表情と呼べるものが無いため、ますぞえが何を考えているのか全く理解できない。

「久しぶりね、ますぞえ」

「………」

 スラルの声にもますぞえは何も応えない。

「何故あなたがここに居るのかは分からないけど…別に私達はあなたと戦う気は無いわよ」

 その言葉にもますぞえは何の反応もする事無く、ランス達へと向かっていく。

(まずいわね…ますぞえは私が魔王だった時にも私に全く従おうとはしなかった魔人…私を嫌っていたカミーラとも違って全く表情が見えないのよね)

 カミーラは自分を嫌ってはいたが、それでも自分に対して感情を向けてくれていた。

 しかしますぞえからはその感情というのが全く感じられない。

 それが非常に不気味だった。

 ますぞえはランス達から少し離れたところに止まると、その不気味な形をした腕を振るう。

 すると、地の底から湧き上がるような不気味な声が響く。

「メガネェ…」

「コロッケェ…」

 それは比喩でも何でもなく地の底から這い出てきた2体のハニーだった。

「メガネッ娘ハドコダ…」

「コロッケヨコセェ…」

 半透明のゾンビのようなハニーはスラルを見つけると、ズルズルと音が出ているのと錯覚させるように這って来る。

「あら…ブラット様とピット様はスラル様が気に入ったようですわね」

「ブラットとピット? もしかしてこいつら…」

「はい。ブラット様とピット様。ゴーストハニーにしてますぞえ様の使徒ですわ」

 魔人ますぞえの使徒、ゴーストハニーのブラットとピット…ハニー故に魔法が通用せず、物理攻撃も効果が薄い上に使徒という非常に強力な存在。

 2体の使徒がずりずりとスラルに向かって近づいていく。

「下がってろ、スラルちゃん」

 ランスがスラルを庇うようにブラットとピットに向けて剣を突き出す。

「ゴーストハニーだか何だか知らんが、所詮はハニワだろ」

「コロッケェ…」

「メガネッ娘ォ…」

 剣を向けるランスの事など目に入らないようにブラットとピットはスラルに向けてその歩みを止めない。

「フン、使徒だか何だか知らんが敵なら殺すだけだ。ラーンスアター…」

「お待ち下さい、剣士様。ますぞえ様が…」

 ランスの一撃を止めたのはハニ子の声…というよりも、ますぞえから放たれる強力なプレッシャーだった。

「な、何だ」

 かつてランスが戦った時とは比べ物にならないプレッシャーがますぞえから放たれている。

 あの時は苦戦しながらも何とか倒すことは出来たが、あの時よりも遥かに強力な殺気がますぞえから感じられる。

「ますぞえ様!? ああ! ついにますぞえ様が世界を滅ぼす決意を!?」

「ええっ!?」

「世界を滅ぼす…!?」

 ハニ子の言葉にスラルとエルシールは驚愕する。

(こいつ…何考えていたか全く分からなかったけど、こんな事考えてたの!?)

 自分が魔王の時は自分が何を言っても全く動く気配が無かった魔人…その魔人が今世界を滅ぼすべく(?)動こうとしている。

「ヘッ! 面白いじゃねえか!」

「やってみなさいよ…ハニー風情が」

 黒部とレダは目を細くして戦闘態勢を取る。

 そしてますぞえの殺気が数倍に膨れ上がった時―――

「ですけど…今日はますぞえ様が生まれてから8282で割り切れる日なので、使徒の望むものを作って頂ければ取りやめるそうです」

 まるで空気が抜けるように、ますぞえから殺気が失われていく。

 ますぞえから殺気が抜けた事で、レダと黒部は困惑する。

 先程までやる気満々だった魔人が、その一瞬で完全にやる気を無くしたのが分かったからだ。

「…で、何を要求するっていうのよ」

「………」

 スラルがますぞえに尋ねるが、やはりますぞえは一言も言葉を発しない。

「コロッケェ…」

「メガネッ娘ォ…」

 代わりに使徒であるブラットとピットが言葉を発するが、先程から同じ事しか言っていないため、やはり意思疎通は非常に難しい。

「ブラット様のピット様のお言葉ですが…メガネッ娘が作るコロッケが食べたいそうです」

「…はぁ?」

 ハニ子の言葉にスラルは間の抜けた声を出すことしか出来ない。

(確かにハニーはメガネをかけた女性とコロッケが好きって話だけど…本気で言っているのかしら)

 ますぞえの顔を見てもやはりそこから何かを探る事は出来ない。

 ゴーストハニーのブラットとピットの顔を見てもやはり何も探る事は出来ない。

 そもそもハニーから何かの表情を読み取れというのが難しいのだ。

「そもそもメガネッ娘などおらんだろうが」

 ランスの言葉も最もで、スラルもレダもエルシールもメガネなんてしてないし、そもそも持ってすらいない。

 その言葉でますぞえの殺気が再び湧き上がってくる。

「うお!」

「うーん…そんなにメガネッ娘とコロッケが大切なのかしら」

「人間には分からない何かがあるんでしょ。分かりたくもないけど」

 スラルとレダがため息をついた後で、戦闘態勢を取る。

「魔人と使徒か…中々楽しい喧嘩になりそうだぜ」

 黒部がランスの横に立ち、その唇を舐める。

 まさに一触即発…互いの殺気がぶつかり合う事で、エルシールの体が自然と震える。

 そしてますぞえが今まさに一歩踏み出そうとした時、

「はーにほー!!」

「何だ!?」

 突如奈落に神々しい光が降り注ぐ。

 その光の前に思わずランスは手で光を遮る。

「げ…これってまさか…」

 スラルがゲンナリした声を出す。

 この気の抜けた声は忘れたくても忘れられない…何しろ自分が魔王であった時から存在する、ある意味で底が知れない存在でもあるからだ。

「はーにほー!」

 その光りが収まると、そこには真っ白い体をした、マントと王冠を着けたハニーがいた。

「ハニーキング…」

 スラルがため息と共にその名を呼ぶと、

「王様だー!」

「ハニーキングばんざーい!」

 突如として何処からか大量のハニーが出てくる。

 それも茶色い普通のハニーもいれば、グリーンハニー、ブルーハニー、レッドハニー、しまいにはスーパーハニーといった強者まで現れる。

「久しぶりだねーますぞえ」

 ハニーキングの言葉にもますぞえは何も答えない。

 だが、先程から放たれていた殺気はあっさりと消える。

「そしてスラルも久しぶりだねー。魔王を辞めたんだ」

「辞めたというか何と言うかは分からないけど…私はあなたとは会いたくなかったわね。ハニーの王」

「何だ、あのハニワを知ってるのか、スラルちゃん」

 ランスの言葉にスラルは大きくため息をつく。

「別に知りたくて知った訳じゃ無いんだけどね…」

 ハニーキング…その名の通りハニーの王様にして、この世界に住まう絶対的な強者の一人。

 ドラゴンの王とも交流があるとされる、スラルの目から見ても伝説の者の一人に数えられる。

(それだけならいいんだけどね…)

「相変わらずメガネが似合いそうな顔をしてるねー。今からでもこのメガネをかけない?」

「断固として断るわ。前から言ってたでしょ、私はそんなメガネに興味は無いって」

 スラルの言葉にハニーキングは露骨に肩(?)を落とす。

「そんなー…スラルちゃんがメガネをかければ、京はかたいの…」

「うん、そういう寝言をほざくから私はあなたが嫌なの」

 心底嫌そうなスラルの言葉にハニーキングが体を俯かせ、震え始める。

「む、怒るか?」

 ランスが少し心配していると、

「はーにほー!!!」

「うおっ!?」

 突如として俯いて大声を出すと、

「いいねいいねー! やっぱりスラルちゃんはそんな感じに虚勢を張るのがいいねー! その不幸な所とメガネが組み合わせれば最強の組み合わせになるのに!」

「………何こいつ」

「こういう奴なのよ。だから私も魔王だった時はハニーにはなるべく近づきたくなかったのよ」

 魔王だった時からこのハニーの王の事が非常に苦手だった。

 人の話は聞かない、部下のハニーとどんちゃん騒ぎをする、そして自分にメガネをつけさせようと迫ってくる所。

(それなのに底が見えないし、魔法も効かないし…相手するだけ疲れるのよね)

 ハニー故に魔王の魔力を持ってしても魔法が一切通用しない。

 素手で叩き割った事も一度や二度ではないが、必ず復活するという厄介という言葉で片付けられない奴なのだ。

「で、何しに来たのよ。ハニーキング」

 スラルは嫌そうにしながらもそれでも聞かなければならない。

 自分よりも古い存在、魔王アベルを倒したとされるドラゴンの王と同等と言われる存在。

 そんな奴が動くのであれば、それ相応の理由があるのだろう。

「あ、そーだった。スラルちゃんと再会した嬉しさで本来の要件を忘れる所だった」

 ハニーキングは魔人ますぞえへと視線を向ける。

「この前誕生日に花をくれたお礼を言いに来たんだった。ありがとね~ますぞえ」

「わー! ハニーキング様の誕生日だー!」

「おめでとうございます王様ー!」

「はにほー!」

 ハニーキングの言葉にハニー達が一斉に祝いの声を出す。

 その様子にハニーキングは満足気な表情をしている…ように見える。

「おめでとうございます、ハニーキング様。それでますぞえ様ですが…これから世界を滅ぼすそうです」

 ハニ子の言葉にハニー達が一斉にますぞえへと視線を向ける。

「ますぞえが世界を滅ぼすんだってー」

「300年くらい前にも同じ事を言ってたって聞いたよ」

「ますぞえだから仕方ないね」

 ハニー達が好き勝手言っている中、ますぞえが一歩足を前に踏み出す。

「えー…ますぞえ、君300年前もそのさらに300年前も同じ事言ってたよね? 撤回する気は無いのかな?」

「………」

 ハニーキングの言葉にもますぞえは何も答えない。

「ハニーキング様。ますぞえ様は確かに世界を滅ぼすそうですが、今日はブラット様とピット様が使徒になって8282で割り切れる日。それに免じてブラット様とピット様の忠誠に報いたいと言っています。そうすれば世界を滅ぼすのも考え直すと」

「本当かい? ブラット君、ピット君」

 ハニ子の言葉にハニーキングが二体の使徒へと視線を向ける。

「コロッケェ…」

「メガネッ娘ォ…」

「うーん、そういう事かあ…それは大変だねえ」

 ハニー達の意味の分からない会話をレダ達は首を傾げてみていた。

「あのハニー達、一体何を話しているかわかりますか?」

「ハニーの言葉に意味を求めちゃダメよ。アレはそういう生き物だから」

「妖怪も変わっているが、流石にハニーよりはマシだと思うぜ」

 レダ達が顔を見合わせてため息をつく。

「な、何だってー! メガネをかけたスラルちゃんの手作りコロッケが食べたいだって!?」

 ワザとらしいほどの大声でハニーキングが叫び、スラルの方を見る。

 それに合わせて全てのハニー―――ますぞえ含む―――がスラルの方を見る。

「な、何よ」

 スラルはその視線を受けて思わず後ずさる。

「スラルちゃん! 世界の命運は君の作るコロッケにかかっているんだよ!」

「ますぞえだけで魔王に勝てる訳無いでしょ」

 ハニーキングの言葉をスラルは直ぐに否定する。

 魔人である以上…いや、この世界の生命体である以上、魔王という存在には決して勝つ事は出来ない。

 魔王の強さというのは、剣が上手い、魔力が強いというレベルでは無いのだ。

 言葉通り、生命体としての次元が違う…魔王は一人でこの世界の生命体を絶滅させる事が出来るのだ。

「そんな事言わないでコロッケを作ってあげてよ。元魔王のコロッケはハニーはみーんな食べてみたいんだよ!」

「「「そうだそうだー! コロッケー!!!」」」

 ハニーキングの言葉に合わせて全てのハニーが声を出す。

 その様子にスラルは呆れたようにため息をつく。

「何言ってるのよ。私は今は見ての通り幽霊よ。何かに触ることも出来ないのに作れる訳無いでしょ」

「うーん…それは良くないなー」

 スラルの何処か馬鹿にしたような言葉にハニーキングは何かを考え込む。

「じゃあスラルちゃん。今からボクがスラルちゃんの体を戻してあげれば作ってくれるのかな?」

「何寝ぼけた事言ってるのよ。そんな事が出来るのなら作ってあげるわよ」

 そのスラルの言葉にハニーキングはにた~と笑う。

 そんなハニーキングの顔にスラルは何か嫌な予感がするが、それに反応したのがよりにもよってランスだった。

「ちょっと待て。お前は本当にスラルちゃんの体をどうにか出来るのか」

「さ~どうかな~。まあ怖い女が居るけど、これくらいなら大丈夫だと思うし。それじゃあスラルちゃん」

「がはははは! ちょっと待て!」

 ランスがハニーキングの行動を止める。

 その様子にスラルは何か非常に嫌な予感がしてならない。

 ランスとの付き合いで、こういう笑いをしている時のランスは到底碌な事を考えていないのだ。

「ちょっと耳をかせ」

「え、何かな?」

 ランスはそのままハニーキングに何かを耳打ちする。

 するとハニーキングの顔がどんどん興奮しているかのように紅潮していくのが分かる。

「はーにほー! いいね! 流石はランス君だね!」

「がはははは! 当然だ!」

 ランスとハニーキングが一斉にスラルを見る。

「な、何よ…」

 その二人を見てスラルは流石に自分がもしかしたらとんでもないことを言ってしまったのではないかと後悔していた。

 

 

 

「ううう………」

 スラルの顔は限界まで紅潮しながら、手元にある食材を捏ねていた。

 何時ものような半透明な姿ではなく、確かな肉体がそこにあった。

「凄いね…」

「うん…どきどきするね」

 その様子をハニー達は何処か神妙な様子で見ている。

「ぐふふふふ…やっぱりスラルちゃんも小柄に見えて中々いい体をしてるじゃないか」

「ひゃん!」

 ランスがコロッケを作っているスラルのお尻を触る。

 そう、今のスラルには肉体がある。

「うーん…恥らう元魔王が作るコロッケ…しかもここから見たらメガネ裸エプロン…はーにほー!!」

 ハニーキングは興奮したようにハァハァしながらコロッケを作るスラルを見ている。

「それにしても…あんた本当に意味が分からないわね。何で私の体を用意できるのよ…」

 こうしてスラルがコロッケを作れているのも、ハニーキングがその杖を振るうと突如としてスラルに懐かしい感覚が戻ってきた。

 自分達がこれまで色々なダンジョンを渡り歩いていながらも、その欠片も見当たらなかった肉体…それはハニーキングによってあっさりと用意された。

「永遠とはいかないけどねー。流石にそこまでやっちゃったら怒られちゃうから。今回もますぞえが世界を滅ぼすのを止めるための緊急措置だよ」

 誰に言っているのかは不明だが、ハニーキングは誰かに言い訳をするかのように頷いている。

「…で、どうしてこんな恰好をしなくちゃならないのよ」

 スラルが強い視線でハニーキングを睨む。

 メガネはまだ納得は出来るが、何故自分は下着の上からエプロンをつけてコロッケを作らなければならないのか、それだけは全く理解できなかった。

「がはははは! ハニーの魔人がそれを望んでるんだから仕方無いだろ」

「ちょ、ちょっとランス」

 下着の上から自分の体を弄るランスに抗議をするが、ランスはそんな事はお構いなしに体を弄ってくる。

 久々に触れるランスの手の大きさ、そして温かさにスラルは本当に久しぶりに自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

(だけど絶対このエプロン一つだけはランスの仕業よね。ハニーキングと何かを話していたし…)

 ランスがエロを求めているのは知っているが、それは自分が魔王であった時から何も変わっていない。

 こうしてランスと旅をしている時も、ランスの行動原理の大半は『女』なのだ。

(だから…ランスにとって私は元魔王とかそういうのじゃなくて、ただ女だからなんでしょうね)

 ランスの行動原理に呆れるが、それを成し遂げるために努力をするのは評価できる。

 出来るのだが、その対象が自分だというのはちょっと嬉しいと思うと同時に、非常に複雑だ。

「どきどき…」

「メガネをかけた女の子が、料理を作りながらガラの悪い男にお尻を揉まれている…いいね」

 ハニーは決してスラルの姿を後ろから覗く様な事はしない。

 人間に対して興奮するのは事実だが、その内容は人間や魔物とは大きくかけ離れている。

「うう…ランス。もうこれくらいにして…コロッケを揚げなきゃいけないから」

「おお…メガネッ娘がコロッケを揚げる…しかも裸エプロン…」

「下着をつけてるのがより一層いいよね」

 スラルがコロッケを揚げようとすれば、ハニー達に背を向ける格好になる。

 ハニーはその瞬間を今か今かと待っている。

「がはははは! 貴様らハニワ如きにスラルちゃんの体が見れると思ったのか!」

 スラルは確かにコロッケを揚げるべく、ハニー達に背中を向ける。

 が、その背中にはぴったりとランスが貼りついている。

「ええーーーー!! 横暴だー!」

「そうだそうだ! スラルちゃんの可愛いお尻が見たいんだー!」

 当然ハニー達は抗議するが、それでランスがどける訳が無い。

「王様ー! あの人間が邪魔するよー!」

「うーん…ごめんねー。これ以上やっちゃうと流石に怖い人に怒られそうだから…」

「そんなー!」

「それに君たちはまだまだ青いよ。見てごらんよ」

 ハニーキングの言葉にハニー達が一斉にスラルの方を見るが、当然その体はランスの陰に隠れて見る事が出来ない。

「王様ー。何もみえないよー」

「ふふふ…見るんじゃなくて聞くんだよ」

 その言葉にハニー達が一斉に喋るのをやめると、コロッケを揚げる音と共にごく小さく女性の喘ぐような声が聞こえてくる。

「ちょっとランス…んっ…危ないじゃない」

「ぐふふふふ。何年振りかにスラルちゃんの体を味わうのだ。じっくりと楽しませてもらうぞ」

 ランスは背後からスラルの胸を揉みしだいている。

 最初は下着の上から、そして今では直接スラルの双丘を味わっている。

「ちょっと…凄い硬いのが当たってるんだけど」

「スラルちゃんの体を味わっているのだから当然の事だ」

「か、硬いのって何かな?」

「ど、何処に当たってるんだろう…」

 ハニー達はランス達の会話を聞いて目を輝かせる。

「お、王様! これは…」

「ふふふ…姿が見えなくても、声だけで何をされてるのか想像するのもいいだろう?」

「な、何て深い言葉…! これこそハニーの王!」

 ハニーキングの言葉に周りのハニーは興奮気味にランス達を見る。

 今でも小さな声で喘ぐスラルの言葉に、なまじ何をしているかハニー達から見えないのがその想像を引き立てられる。

 それはスラルが全てのコロッケを揚げるまで続けられた。

 

 

 

「ホラ、出来たわよ」

「わーい!」

「コロッケだー!」

 スラルは既に下着エプロンから、魔王の時に愛用していた服に着替える。

 マントは生憎とランスが使っているが、どうやら服も回収してくれていたようだ。

「じゃあみんな! スラルちゃんの作ってくれたコロッケでパーティーだー! ブラット君、ピット君、おめでとー!」

「「「おめでとー!!!」」」

 ハニーキングの言葉にハニー達はどんちゃん騒ぎを始める。

「ただでさえ煩いハニーが尚更やかましくなったわね…」

「私もハニーだけはどうしても魔人としてスカウトしようとは思わなかったわ」

 レダの言葉にスラルが同意するように大きくため息をつく。

 この体があとどれくらい保つかは分からないが、それでも再び肉体を動かせた事は素直に感謝している。

 その代償がコロッケならば安いものだろう。

「じゃあブラット君! ピット君! 君達が先に食べるんだ!」

「コロッケェ…」

「メガネッ娘ォ…」

 二体の使徒がスラルの作ったコロッケへと手を伸ばす。

 そしてそれを躊躇う事無くその口へと放り込む。

 しばらく味わうかのようにしていたの二体の使徒だが、突如としてその目と口から謎の液体が溢れ出す。

「オエエ! ゲフ! ガハァ!? ゴボ!? グゲゲゲゲゲゲ!!」

「オロロ! グエップ!? ゲベ! ゲグゴ! グギギッギギギギ!!」

 その体が激しく痙攣し、その体に本来入るはずの無いヒビが入ったかと思うと、そのヒビからも謎の液体が染み出てくる。

「「アアアアアアアアアアアアアア!!??」」

 そしてより一層大きな悲鳴を上げたかと思うと、まるで内側から爆発するようにその体が弾ける。

 謎の液体が周囲に居たハニーにも飛び散るが、そのハニー達も一体何が起きているのか分からないのか、ハニーキングですらも呆然としている。

「…ねえ、ランス。昔同じ様な事があったと思うんだけど」

「…なんかあったな」

 それはスラルが魔王であった時、ランスとレダは魔王城に捕らわれていたいた事があった。

 その時に自分達の話し相手だったのが、魔人一食通のガルティアだった。

 彼の薦める料理の味はまさに絶品であり、ランスもレダも食事には困ってはいなかった。

 その中でガルティアが「これが一番の絶品」として薦めてきた料理があったのだが…ランスとレダはその料理を一口食べて気絶してしまった。

 その記憶が今、二人の脳裏に蘇って来ていた。

「もしかしてアレ…スラルの料理?」

「あんなものを作れるのは香ちゃんだけだと思っておったが…」

 無常なまでの沈黙がこの奈落へと続く。

 が、その空気を打ち消したのは当然の事ながらハニーキングだ。

「ブ、ブラット君とピット君はあまりの美味しさに弾けちゃったんだね! じゃ、じゃあ皆今日はこれでお開きにしようか!」

「さ、さんせ~い! ブラット君、ピット君! おめでとう!」

「か、帰って妻の作るはにめしを食べよう」

 ハニーキングの声は完全に裏返っており、ハニー達も完全に動揺してしまっている。

 そんな中、ハニーキングがその場を解散しようとするが、

「待ちなさい」

 それは静かだが、確かにこの奈落にまで響き渡りそうな声だった。

「ス、スラルちゃん…?」

 その声には流石のランスですらも大いにびびる。

 まるで魔王ジルのような何処までも冷酷で温かみの無い声。

「ハニーキング…私は、あなたの、要望に応えて、あんな格好で、これだけのコロッケを、作ってやったのよ」

 途切れ途切れの言葉だが、そこには異様なまでのプレッシャーが含まれている。

 これに比べれば、先程のますぞえのプレッシャー等そよ風みたいなものだろう。

「だからね…食べろ」

「ひっ!?」

 その時スラルの側にいたハニーは見た。

 元魔王スラルの笑み…その笑みのあまりの禍々しさを。

「そこのハニー…食べろ」

「えっ!? ボク!?」

 スラルに指差されたブルーハニーが自分を指差す。

 そのブルーハニーに全員の視線が刺さると、ブルーハニーは助けを求めるかのようにハニーキングを見る。

 だが無常にも、ハニーキングはその視線を避けるかのようにソッポを向いている。

 ブルーハニーに注がれる異常なまでの鋭い視線…その圧力に負け、ブルーハニーは震える手でコロッケを一つ手に取る。

「エイッ!」

 そして意を決したようにコロッケを口に放り投げる。

 すると、先程の使徒のように激しい痙攣が始まる。

「えぎぎぎぎぎぎ…へげぇっ!」

 パリンッ!!

「ひっ!?」

 そのありえない姿に周囲のハニー達は一斉に距離を取る。

 ブルーハニーは前半分はそのままだが、後半分が完全に吹き飛んでしまっていた。

 そしてそのまま後に倒れこむと、その衝撃で粉々に砕け散る。

「あ、あの…スラルちゃ…いや、スラル様…」

 ハニーキングが下手になってスラルに話しかけるが、

「食べろ。この我がお前達のために作ってやったコロッケだ」

「あ、これヤバイぞ。完全に昔の言葉になってるぞ」

「下手したら魔王だった時より強いプレッシャーを放ってるんだけど…」

 スラルを見てランス達は思わず後ずさる。

 エルシールと黒部もそんなランス達と同じ様に、スラルから距離を取る。

「フッ…ならばここはボク達に任せてもらおう」

「おお! あなた方はハニーキング親衛隊!」

 この惨劇の前に現れたのは、二体のハニーナイトだった。

 ハニーナイトは言葉通り、ハニーキングを守るナイトであり、この二人はその中でも選りすぐりのエリートだ。

「よし…行くぞ!」

「おう!」

 そして二体のハニーナイトはそのコロッケを口に放り込む。

「「中々のお手前で…」」

「「「おおおおーーーーーーー!!」」」

 ハニーナイトの言葉に周囲のハニー達が一斉に拍手をする。

「よし! ではこの調子で行くぞ!」

「おうよ!」

 そのままハニーナイトは再びコロッケを口に放り込む。

「あは~!」

「いい気持ちだ~~~!」

 ハニーナイトの顔がどんどん恍惚の表情(ハニー視点)になっていき、その体がついに痙攣を始める。

「「ちにゃ!!」」

 そして内側から爆発したようにその破片が周囲へと飛び散る。

 その様子に再び痛いほどの沈黙が周囲を支配する。

「ねえ、ますぞえ、ハニーキング、あなた方も食べなさいよ。コロッケ、好きなんでしょ」

 突如として名前を呼ばれたますぞえだが、やはり何も答えずにスラルの作ったコロッケへと手を伸ばす。

 そしてコロッケを1個だけでなく、その手に5個も手に取ると躊躇い無く口へと放り込む。

「おおーーー! 流石ますぞえだね!」

「やっぱり魔人だね! 魔人には無敵結界があるから大丈夫だよね!」

 ハニーは助かった言わんばかりに騒ぎ始めるが、しばらくしてますぞえが胡坐をかいて座り込む。

「あれ? ますぞえ?」

 1体のハニーが俯いたますぞえの顔を覗き込んだ時、

「し、死んでる…」

 ますぞえの顔が…凶悪ハニーのような顔だったまずぞえの顔が、一般のハニーのようになってしまっていた。

 その目から放たれていた不気味な眼光は消え去り、その口から不気味な液体が垂れ始める。

 魔血魂になってはいないから死んだ訳ではないのだが、ますぞえは完全に行動不能となってしまった。

「ハニーキング…あなたも食べなさいよ。好きなんでしょ? 不幸なメガネッ娘が作ったコロッケ」

「ひっ!?」

 ハニーキングがスラル笑みを見て思わず悲鳴を上げる。

 その姿は間違いなく魔王の姿そのものだった。

 そしてハニーキングは震える手でスラルの作ったコロッケを持ち上げると、意を決したようにそれを口に放り込む。

「ぴっ!?」

 まず最初に来たのは異常なまでの痺れがまるで麻薬の如く全身に広がる。

 それが痙攣という形となって体に現れる。

 それに耐えた後はまるで麻薬のように体内に広がっていく凶悪な毒素。

 恐らく魔王にすらも有効であろうその毒は、確実にハニーキングの体を蝕んでいく。

(あ、あれ…なんか気持ちよくなってきた…)

 体が痛くて苦しいはずなのに、頭の中には物凄い幸福感が感じられる。

(さあ、もう一つコロッケを食べるのです…そして更なる幸せを掴むのです)

 すると頭の中に天使の翼の生えたハニ子が、自分を暖かな光で包んでくれるような感覚に陥り、再びコロッケを食べたくなる。

 ハニーキングは震える手で二つのコロッケを両手に掴むと、そのまま口へと入れる。

 すると己の脳内に再び翼の生えたハニ子が三体に増え、更なる暖かな光で包んでくれる。

(ここは…桃源郷?)

 再びその暖かな光を浴びるために、ハニーキングは再びコロッケを口に含むと、やはり翼の生えたハニ子が増えて光を放ってくれるがその光がどんどん弱くなっていく。

(そんな…どうして!?)

 その光を求めてハニーキングはどんどんコロッケを口に入れるが、その光がどんどんと弱くなる…いや、冷たくなっていくのを感じる。

 そして暖かな光が真逆の闇の光へと変わり、翼が生えたハニ子の姿が何時の間にか悪魔の翼が生えた凶悪ハニーのような姿へと変わっていく。

 その中には、先程爆発したブラットとピット、そしてブルーハニーとハニーナイト達の姿がある。

(王様もこっちにこようよー)

(ここはいい所だよー。寒さも暑さも空腹も何も感じない所だよ)

(メガネッ娘もたくさんいるよー。不幸な女の子も沢山いるよー)

 まるで悪魔の誘惑のようにハニーキングの頭の中を攻め立てる。

 そしてハニーキングはその誘惑に屈したかのように一歩足を踏み入れる。

 すると巨大なハニ子の体が出てきて、

(そこに入るんだよー)

 その言葉に誘われるようにハニーキングはハニ子の中に入ると、暖かな感触がハニーキングを包む。

(そうです…そこで何も考えずに生まれ変わるのです…そう…ハニースライムへと!)

 暖かな感触が突如として不気味な冷たい感触に変わり、そこには無数のハニースライムがハニーキングを逃さないようにその体を掴む。

(オマエモヒトツニナルンダ…)

(オウサマー…イツマデモオツカエシマス…)

(イッショニスライムニナロウヨ…)

「ひっ…い、嫌だー!!」

 ハニーキングは必死にもがくが、ハニーの王である自分の体が全く動かない。

「うわーーーーーーーー!!」

 そしてハニーキングの悲鳴が暗いハニースライムの中で何処までも響いていた…

 

 

 

「王様ー! 王様ー!」

 完全に動かなくなってしまったハニーキングを、ハニー達が必死に呼ぶがその意識は戻ってこない。

 そんなハニー達を凄まじいプレッシャーが襲い掛かる。

「あなた方も食べなさい。いや、食べろ」

「ひっ!?」

 ハニー達は静かでありながら、非常に恐ろしい声に完全に腰が引けている。

 しかしここで食べなければ間違いなく魔王スラルに割られてしまうだろう…それならばもしかしたら助かるかもしれない可能性に賭けるしかない。

「み、みんな突撃だー! 赤信号 皆で渡れば 怖くない!」

 レッドハニーの言葉に皆が意を決したようにコロッケへと手を伸ばし、そして悲惨な目にあっていく。

 ある者は全身が砕け、ある者は完全に溶けてハニースライムへとなっていく。

 まさに地獄の光景が目の前にあった。

「ランス…」

「な、何だ」

 静かに自分の名前を呼ぶスラルに、ランスですらも完全に腰が引けている。

「あなたでしょ…あんな条件をハニーキングに出したの」

「「「「ひっ!?」」」」

 ランス達がこちらに振り返ったスラルを見て悲鳴を上げる。

 その顔は確かに笑っている…笑っているのだが、これほど凶悪かつ禍々しい笑みは今まで見たことが無かった。

「そこでね…あなたの分も作ったのよ、コロッケ」

 スラルの手にあるのは一つのコロッケ、それは一見何の変哲も無いコロッケだ。

「食べろ」

 そしてそのコロッケを手に取ると、ランスへと突き出す。

「ちょっと待てスラルちゃん!」

「我にあんな事をしておいて今更逃げるな! 食べろー!!」

 今までの感情が爆発したようにスラルが叫ぶと、そのままあのランスを力ずくで押し倒すとその口にコロッケを詰め込む。

「ぐげ!」

 ランスはそれだけで悲鳴を上げると、そのまま気絶してしまう。

「皆のバカーーーーー!!」

 その場にスラルの悲痛な声が響き渡る…どこまでも、どこまでも。




ハニーが関わるとどうしてもこうなってしまう…
ますぞえは犠牲になったのだ…ハニーキングの犠牲にな
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