ランス再び   作:メケネコ

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「むがっ…」

「あ、ランスさんが目を覚ましました」

 ランスが目を覚ました時、そこにあったのは心配そうなエルシールの顔だった。

 そのエルシールの顔も、安心したような笑みが浮かんでいる。

 どうやらエルシールに膝枕をされているようだ。

「…俺様はどれくらい気絶してた」

「一時間程です」

 ランスはエルシールの膝から起き上ると、そこに広がるまさに地獄の光景を目にする。

「うーむ…ハニワ共がどうなろうと知った事ではないが、見ていて楽しい光景ではないな」

 ハニー達が割れたりドロドロに溶けたりと中々の衝撃的な光景を見たが、今の状況はそれに輪をかけて酷い事になっている。

「オウサマー…ハヤクタスケテー…」

 ハニースライムになってしまっているレッドハニーらしき物体が、必死になってハニーキングに助けを求める。

「うん…ちょっと待ってね…」

 そのハニーキングは人間にも分かる程に虚ろな表情をしながらその手に握るステッキを振るうと、スライム状だったハニーの姿が元のハニーの姿に戻っていく。

 戻っていくのだが、そのレッドハニーの口からは絶えず唾液なようなモノがあふれ続け、何よりもそのハニーの背後にもう一つの顔のようなものが出来ており、そこからはまるで怨念のような呻き声が放たれる。

 中には緑と青のダブルハニーになっている者も存在し、グリーン、ブルー、レッドの破片が混ざったハニーも存在している。

「うっ…えれれれれれ!!」

「うわー! 王様が毒を吐いたぞー!」

「退避ー!」

 ハニーキングが口から黒や紫の入り混じった不気味な何かを吐き出す。

 それを見たハニー達は一斉にハニーキングから距離を取る。

「うっ…」

 エルシールがその光景を見て口を押える。

 ハニーの嘔吐というのもそうだが、その口から放たれた不気味な塊を正視出来ないでいるのだ。

「うげ…」

 かつての冒険で色々な悲惨な光景を見ていたランスですらも見るのが憚れるモノだ。

 その黒とも紫ともつかぬ不気味なモノからは絶えず瘴気のようなモノが放たれ、まるで生きているかのように動いている…ような気がする。

「げびっ! うげげげげげげ! はぎょお!」

 逃げ遅れたハニーの一体がその瘴気を吸い込んだようで、痙攣するとそのまま爆散する。

「うわー!」

 その光景に再びハニーの間から悲鳴があがるが、ランスはそんな事はどうでも良い事のように周囲を見渡す。

 すると、離れた所に目的の人物がこちらに背を向けながら、まるでパステル・カラーのようにいじけていた。

 ランスがスラルに近づいても、スラルはそれに気づかないかのようにぶつぶつと呟いている。

「分かったわよ、理解したわよ。道理でガルティア以外私の作った料理を食べないはずだわ。私を嫌ってたカミーラが食べないのはまだ理解出来るわよ。ホルスだから口に合わないと言ってたメガラスも、一度だけ食べて二度と私の作った料理を口にしなかったケイブリスも。そして私の料理を食べた後で必ず寝込んでたケッセルリンク…そういう事だったのね」

 スラルがどんな表情をしているのかランスからは見えないが、容易に想像はつく。

「スラルちゃん」

「ランス…」

 スラルがこちらに振り向くと、既に幽霊の姿に戻っているスラルだったがその目は赤く染まっているのが分かる。

「とりあえず君は料理を作るの禁止だ」

「えええーーーーーーー!?」

 ガーン! という音がこちらにまで聞こえてきそうなくらいにスラルの顔が驚愕に染まる。

「当たり前だ! あの光景を見てスラルちゃんは何も思わんのか!」

 ランスが指さすのはまさに地獄のような光景。

 ハニーの怨念のような声、そして散らばる破片、今もスライム状のまま不気味な液体を吐き出し続けるハニー達。

「ハニーは絶滅させても誰も困らないと思うの」

「それについては同感だが、あの光景がスラルちゃんの手によって起こったいう事だ!」

「ううっ…」

 ランスの言葉に流石のスラルも目に見えて落ち込みを見せる。

「俺様もスラルちゃん並の団子を作る子を知っているが、スラルちゃんはそれ以上だ!」

「そ、そんなに!?」

「いや、その子は団子以外は普通に美味しい料理を作れるから、スラルちゃんはもっと性質が悪い!」

「ガーーーーーン!!」

 あんまりと言えばあんまりの言葉に、流石のスラルもショックが大きい。

「ちょ、ちょっとそれは言い過ぎじゃない!?」

「やかましい! スラルちゃんも自分で自分の料理を食ってみろ!」

「だってガルティアは美味しいって! 私の料理は宇宙だって!」

「宇宙に行くほどマズイという事だろうが!」

「ぐぬぬ…」

 ランスの言葉にスラルが呻く。

 自分の料理を食べてくれていたのがガルティアだけだという現実、今まで自分の料理を決して口にしようとしなかった魔人達、自分の料理を食べる度に体調不良を起こしていたケッセルリンク。

 そして今自分の作ったコロッケで悲惨な状況に陥っているハニー達、一口で気絶したランス…確かに結果だけを見れば、スラルの料理はまさに劇物だ。

 今のこの状況こそが、スラルの作った料理というのを物語っているのだ。

「待ちなさい、ランス」

「レダ…」

 ランスの言葉に待ったをかけたのはレダだ。

「スラルに料理を作らせるべきよ」

「お前は何を言っとるんだ。お前もあの時スラルちゃんの料理を食べただろうが」

「ええ、確かに私も食べて気絶したわ。でもだからこそ、スラルの料理に利用価値があると気づいたのよ」

「…は?」

 レダの言葉にスラルは首を傾げる。

「見なさい。スラルの料理は魔人はおろか、ハニーキングにすら有効なのよ! これを武器にすれば魔人の撃破も簡単よ! しかも一見普通の料理だから誰も気づかないわ!」

「む…確かにそうだな」

「もういい加減にしてー!」

 自分の料理を最早兵器として考え始めた二人に、ついにスラルは大きな悲鳴を上げた。

 

 

「それにしてもスラルちゃんがまた幽霊になっているではないか」

 ランスは先程まで確かに触れることが出来ていたスラルの胸やお尻に手を伸ばすが、もうそれに触れる事は適わずにすり抜けてしまう。

「スラルちゃんの小柄に見えて実は出る所がしっかり出てる体が…」

「褒められてるんだろうけど、あんな事があったから素直に喜べないわね」

「何時ごろ戻ってしまったんだ」

「ランスが起きる少し前よ」

 ランスの言葉にレダが少し意地悪そうに笑う。

「何だと!? じゃあ俺様がスラルちゃんのコロッケを食べてなければ1発か2発は出来ていたではないか!」

「残念だったわねー」

 レダはニヤニヤと笑いながらランスを見る。

 もしランスがスラルの料理につけ込む形でセクハラをしなければ、もしかしたらスラルと生身で触れ合えたかもしれない。

「まあ身から出た錆ね」

 レダの言葉にランスは露骨に悔しがる。

 そのランスの姿を見て、

(アレだけ色々な女とHしてるのに、私ともしたいんだ…)

 自分が魔王であった時からそうであったが、ランスは自分を完全に普通の女として見ている。

 それはそれで一人の女性としてスラルは嬉しく思ってしまう。

 もし自分の体があれば、その顔は完全に赤面してしまっていただろう。

「ぐぬぬぬ…ならばこの収まりのつかぬ俺様のハイパー兵器はどうしてくれる!」

「知らないわよそんなの。ランスが悪いんでしょ」

 レダの言葉にランスの目がギラリと光る。

「だったらお前で解消してくれるわー!」

「あ、コラ!」

 ランスはレダを担ぐと、誰にも見られない物陰に向かっていく。

 その光景を見ながらスラルはため息をつく。

「レダもあんまり余計な事言わなきゃいいのに。それともこれが誘い受けってやつなのかしら?」

 ランス達が消えた物陰を覗きに行くと、そこには案の定ランスに後ろからせめられているレダの姿が見える。

「ちょ…ランス…激しい!」

「がはははは! やはりエンジェルナイトはここも一級品だな! 何発でも出来るぞ!」

「そんな褒め方しないでよ! ん…あ、そこいい…」

「そうか! レダはここがいいのか! だったら何回でもしてやるぞ!」

 相変わらずのランスとレダにスラルは今でもドキドキしながらその情事を見る。

 もう何回も何回も繰り返されてきた光景だが、ランスとするまでは完全に処女だった自分には今でも刺激が強い光景だ。

(でもそれでも見ちゃうのよね…)

 思えば自分は何度も何度もこの光景を繰り返し見てきた。

 しかも自分がランスに会いに行く度に、色々な女性としていた。

 最初に見たのはレダとの情事、そしてケッセルリンク、カミーラといった自分が知っている女性としているのを何度も見せられた。

 しまいにはケッセルリンクと同時にランスに抱かれもした。

(…やっぱり私も惜しかったかな)

 もしランスが自分の作ったコロッケを食べていなければ、もしかしたらあそこにいたのは自分かもしれないと思ってしまう。

 そんな事を考えながら、スラルは二人の情事を割りと真剣に見ていた。

 

 

 

「あら、あんた生きてたんだ」

「何とかね…でも気を抜くとまた変なものを吐き出しそうになるんだ…」

 スラルの言葉にハニーキングは生気の無い顔で答える。

 その口からは未だに緑色の不気味な粘液が垂れ下がっており、それが地面に垂れるとジュゥ…という音を立てて地面から煙が上がる。

「うっぷ…じゃあスラルちゃん…ボク達はもう二度とスラルちゃんにメガネをつける事を強要しないことを誓うよ…死にたくないし…」

「そう…それは嬉しいけど非常に複雑になるのは気のせいかしら」

 ハニーキングの言葉にスラルは口元をヒクヒクさせながら睨む。

 自分の料理がアレなのは流石に理解したが、生死に関わると言われるのは流石に精神的にくるものがある。

「で、ハニーキング。あなたは本当に何をしに来たのよ」

「うん…本当にますぞえに会いに来ただけなんだけどね…でもそのますぞえもどこかに行っちゃったし…」

 ランス達が戻った時には、既に魔人ますぞえの姿は無かった。

 どうやら生きていたようで、使徒のブラットとピットと共にどこかへ消えたようだ。

「何でも自分探しの旅に出るって…自分が世界を滅ぼす理由を探しに行くって…」

「そう…それは何よりね」

 その言葉も当然スラルには面白くない。

 まさか魔人であるますぞえが自分の作ったコロッケを食べて、あんな風になってしまうなど自分でも考えていなかった。

「で、ここが地獄の果て…なのかしら?」

「地獄? 違うよ、ここは奈落だよ。道を間違えたんだね」

「だって、ランス」

「知らん。俺様も地獄になんぞ行った事が無いからな。まあこんなハニワ臭いのは確かに地獄だが」

 今も広がる死屍累々の光景…一部のハニーは完全には元に戻れなかったようで、ハニースライムになってしまったのもいれば、何故かうっぴーやはっぴーになってしまった奴等も居る。

「地獄は反対側だよ。ハイ、これが地図だよ」

 ハニーキングに渡されたのは確かに地図…のようだった。

「…何コレ」

「これは…読めねえなあ」

 レダと黒部がその地図とやらを見るが、確かに一見すると地図ではあるのだが何て書いてあるのかが全く分からない。

 ハニーの文字なのかそれともハニーキングが独自に使っている文字なのかは不明だが、これは地図としては不十分だろう。

「スラルちゃん達が地獄に何の用があるのかは知らないけど頑張ってね…う…エレレレレレレ!!」

「うおっ!? 吐きやがった!」

「退避! 退避よ! ハニーキングがまた毒を吐き出したわ!」

 ハニーキングが再び紫と黒が入り混じった塊を吐き出したのを見て、ランス達を含めた全ての存在がハニーキングから距離を取る。

「あ、みんな待って…うっ…あ…あああああああああ! たわば!」

 その日ハニーキングは割れた。

 

 

 

「で、ここが本当の地獄の続きって訳ね」

 ますぞえが居た方向とは別の方向に進むと、そこは先程の不気味な所とはまた別な意味で不気味な所に出た。

 そこはより不気味な光景となっており、スラルも初めて向かう場所に思わず背筋が寒くなるのを感じる。

 幽霊なのに背筋が寒くなるというのも変な話だが、ここま間違いなく自分にとってもあまり良くない場所だというのが分かる。

「さて…今度は何が出るのかしら」

「さあな…だが、何かとんでもない事になりそうにはなりそうだけどな」

「同感」

 黒部とレダがランス達の前に出る。

「囲まれとるか」

「え?」

 ランスもその理由に気づくが、エルシールだけはまだ経験が浅いせいか困惑している。

 そして響き渡ってくる太鼓の音。

「人が来たぞ! 戦の時間だ!」

「オレヲコロシテクレー!」

「いや、俺が先だ!」

 そして大きな声が響くと、闇の中から赤鬼、青鬼の群れが猛然と突っ込んでくる。

「グオォォォォォ!!」

 赤鬼の太くて大きな腕が黒部に放たれる。

「上等じゃねえか!」

 黒部はニヤリと笑うと、その太い腕を己の手で受け止める。

 そしてそのまま黒部はその爪で赤鬼の体を引き裂く。

 普通ならばその一撃で相手を倒す事が出来る…のだが、鬼という種族はそれだけでは止まらない。

「いいぞ! そのまま俺を殺してくれ!」

「こいつ…!」

 黒部の爪で体を引き裂かれつつも、赤鬼はなおも力づくで黒部を押し切ろうとするが流石は妖怪王黒部、赤鬼の力にも一歩も引かず、そのまま鬼の首を跳ね飛ばす。

 赤鬼の体が崩れ落ちるが、

「ぎゃははははは!」

 何と黒部に跳ね飛ばされたその首がそのまま黒部の首筋を狙って飛んでくる。

「はっ!」

 黒部はそれに慌てずに飛んできた赤鬼の首を殴り飛ばす。

 その一撃で完全に赤鬼は沈黙したのか、流石に動かなくなる。

「ヨクモオレノアニキヲコロシタナ! コンドハオレノバンダ!」

 そう言いながらも全く怯まずに襲い掛かってきたのは青鬼だが、黒部はそんな青鬼を見ても尚笑う。

「へっ! どんどんかかってきな! 返り討ちにしてやるぜ!」

 黒部はそのまま真っ直ぐに青鬼を迎え撃つ。

「女だ! しかも上等な女だ!」

「オレノコヲウメー!」

 黄鬼、灰鬼がレダに向かって突っ込んでくる。

「鬼ってこんなのしかいないのかしら…」

 レダは苦笑すると、そのまま手にした剣と盾を使って鬼の攻撃を防ぎ、そしてその首をあっさりと跳ねる。

 一見するとレダの細腕では鬼の攻撃は防ぐなど無謀に見えるが、レダの盾は鬼の攻撃の威力を完全に殺していた。

「エンジェルカッター!」

 そして先程の黒部の時と同じように飛来する鬼の首を魔法で細切れにする。

 鬼は確かに魔物兵よりも強い…だがそれでもエンジェルナイトであるレダや妖怪王黒部には敵わない。

 だがそれでも鬼の勢いは全くと言って程止まらない。

 いや、むしろより苛烈に、そして過激にランス達を攻め立てる。

「まったく! 何とむさ苦しくて喧しい連中だ! とっととくたばれ! ラーンスアターック!」

 苛烈に攻めてくる鬼達に向かってランスが必殺の一撃を放つ。

「グギャ!」

「ぐげげげげげ!」

 ランスの必殺の一撃が鬼達に決まり、その体を言葉通り粉々に吹き飛ばす。

 流石の生命力を持つ鬼でもこれでは生き返ることが出来ない…そして相手の士気を挫く一石二鳥の作戦のはずだった。

 しかし鬼の行動はランスの予想の斜め上を行く。

「おい! あの黒い剣士が一番強いぞ!」

「ツギハオレダ! オレコロシテクレ! オレヲセンシニシテクレ!」

「いや! 次は俺だ!」

 ランスの強さを見て、鬼達は逆に士気を高める。

 まるで死を求めるかのようにランスへと殺到していく。

「な、なんだこいつ等は!」

「頭が沸いてるんじゃないの…!」

 流石のランスとスラルも鬼達の行動には驚く。

 鬼達が一列に並び、クラウチングスタートのような体勢を取る。

「恨みっこなしだぜ!」

「オウ! イッセイニダ!」

「合図だ合図!」

 緑鬼の言葉に合わせるように、1体の赤鬼が太鼓を鳴らす。

「ハッ!」

 太鼓の音が鳴ると同時に鬼達が一斉に突っ込んでくる。

 そのスピードはランス達の予想よりも遥かに速い。

「チッ! スラルちゃん!」

「分かってる! レダ! 黒部! 時間を稼いで!」

「分かったわ!」

「お、おう!」

 黒部にはスラルが何をしようとしているのか分からないが、あのレダがあっさりと引き受けたのを見て、鬼の前に立ちはだかる。

 確かにそのスピードは非常に速い。

 だからこそ、黒部は己の体から熱い何かが吹き出るのを止められなかった。

「まさかこんな戦いになるとはな…」

「びびってるの?」

「まさか! 高揚してるのよ!」

 鬼達が突っ込むのと同じ様に黒部もまた鬼へと突っ込む。

 そして鬼と黒部がぶつかり合うと、黒部の力に負けて複数の鬼の体が宙に浮かぶ。

「きやがれ!」

 そのまま鬼達の中でその爪を振るう。

 それでも鬼達は全く止まらずに、ランスへ向かって突っ走っていく。

「まったく…鬼が嫌いになりそうね」

 鬼は本来はレダと同じく神に仕える存在だが、自分の同僚が鬼の事を嫌っていたのを思い出す。

(気持ちが良く分かるわ…流石にこんなのとは一緒に仕事は出来ないわね)

「さて…来なさい!」

 レダも盾を構え、己に鉄の壁の魔法をかけて鬼の突撃を受け止める。

「オオオオ! スゲェッ! コノオンナオレノトツゲキヲトメヤガッタ!」

 一際大きな体躯を持つ黒鬼の突撃が小さな体のレダに止められるのを見て、赤鬼が嬉しそうに叫ぶ。

「エンジェルカッター!」

 黒鬼がレダの盾によって弾き飛ばされると、そのままレダの放つ魔法の前に体をバラバラにされる。

 だがそれでも鬼の勢いは止めることは出来ない。

 それほどまでに鬼という種族は強いのだ。

「俺を殺してくれー! 戦士にしてくれ!」

「イイヤ! オレガサキダ!」

 鬼達がランスに殺到する。

「貴様等の様なむさ苦しい奴等が俺様に近づくな!」

 ランスの一撃が鬼を肩から一撃で切裂くが、鬼はそのまま残った頭部と右腕だけでランスに襲い掛かる。

「鬱陶しい! さっさと死ね!」

 その飛び掛る鬼の頭を両断すると、直ぐに次の鬼が襲い掛かってくる。

 かつてJAPANで北条家や死国で鬼と戦ったが、あの時の鬼よりも間違いなく強い。

「よくも俺の弟を殺したな! 今度は俺を殺せ!」

「イヤ! ツギハオレダ!」

 青鬼と緑鬼が続けざまにランスに襲い掛かるが、

「エルシール!」

「は、はい! 粘着地面!」

 スラルの声に、エルシールが魔法を放つ。

「な、なんだこれは!?」

「ウ、ウゴケネエ!?」

 エルシールは確かにスラルに比べれば遥かに魔力が劣る。

 だからこそ、その魔法を攻撃魔法よりも仲間を補助する魔法を学び始めている。

 そして今回はスラルに教わった、相手の動きを封じる魔法で鬼の動きを止める。

「ランス! そろそろいける!」

「オーケオーケ! レダ! ぶちかますぞ!」

「分かったわ!」

 ランスの声に鬼と戦っていたレダが、エルシールを守るべくその側に立つ。

「黒部は!?」

「あいつなら大丈夫だろ! おい黒部! 一発でかいのをぶちかますぞ!」

「ハッ! やるなら盛大にやりやがれ! 中途半端なのはいらねえぞ!」

 黒部はランスに啖呵をきると、ランスもそれに応える様にニヤリと笑う。

 それと同時にランスの持つ黒い剣が青白く光り輝きだす。

「これは…」

 魔法を使うエルシールにはそれがどれほどの魔力を持っているのか直ぐに分かる。

 自分では到底出す事が出来ない程の威力…それが今ランスの持つ剣に集まっているのだ。

「ナンダアレハ!?」

「構うか! 俺はあれで戦士になるんだ!」

 ランスの持つ剣はついに放電を始め、その光がより一層強くなっていく。

「がははははは! 貴様らこれで皆殺しじゃー! ラーンス…アタタタターーーーーック!!」

 その青白い光を纏ったまま、ランスは己の必殺技であるランスアタックを放つ。

 ランスの一撃が放たれると、ランスの近くに居た全ての鬼が雷光に巻き込まれて一瞬で消滅する。

 魔人カミーラにすらダメージを与えたランスの新たな必殺の一撃は、そのままこの地獄を覆いつくすかのように雷光が暴れまわる。

 その雷は相手を選べないのか、黒部やエルシール達にも襲い掛かる。

「キャア!」

「大丈夫よ。やっぱりまだ制御は無理か」

 レダは盾で雷光を防ぎながら呟く。

 ランスとスラルのレベルが上がったためか、より威力が上がっている分制御が難しくなったのかもしれない。

「どわーーーーっ!」

 黒部の悲鳴が響く方を見ると、黒部がランスの放った雷光をまともに浴びていた。

「あの…黒部さんは大丈夫なんでしょうか」

「妖怪王だから大丈夫なんじゃない?」

 まあ黒部なら大丈夫だろうとレダは思っている。

 それだけの強さを持っている存在なのだ。

 そして雷光が収まった時、そこに立っているのはランスとレダとエルシールだけだった。

 鬼達は雷光に飲み込まれてある者は消滅し、ある者は炭と化し、ある者は全身が黒焦げになって死んでいる。

「がはははは! 俺様の勝利だ!」

 ランスは剣を掲げて地に倒れている何かを踏みつけているが、それがランスの一撃に巻き込まれた黒部だと気づくのは少し先の事だった。




今年最後の更新…にならないようにしたいなあ
でももう少し忙しくなるようです…
今年中に地獄編を終わらせたいなあ

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