「よせ! トキセラ!」
「駄目よ! あなたをこれ以上傷つけさせはしない! かかってきなさい! 今度は私が相手よ!」
目の前にいるカラーは震える手でランスを指さすと、その潤んだ目で睨みつけてくる。
そんなカラーの女性をランスは何処か呆れた顔で見ていたが、大きなため息をつく。
「もういい、やめだ。もう何もせんから安心しろ」
そう言って自分を押さえていた黒部の体をぽんぽんと叩く。
ランスから完全にやる気が失われたのを感じた黒部は大人しくランスの拘束を解く。
ランスはこれ以上争うつもりは無いと言わんばかりに剣を鞘に納める。
「しかし何でカラーが鬼の妻などやっとるんだ」
カラー…それはランスにとっても深いかかわり合いのある種族であり、この世界に来て初めに出会った種族だ。
あれからもうランスの感覚では数年だが、実際には750年以上が経過している。
その間カラーとは特に接触する事も無く、エルシールの父親の依頼で彼女をカラーに引き合わせたのが最後だ。
その時に最初に出会ったカラーの一人、メカクレ・カラーとは再会したが結局あれからカラーとは関わり合う事は無かった。
(それにカラーに手を出すのは面倒だからな…)
ランスは一度カラーの女王であるパステル・カラーを襲って酷い目にあっている。
禁欲モルルンという高度な呪いをかけられ、そのせいでランスは散々苦労し、自殺まで考えたほどだ。
もし目の前のカラーを犯してしまえば、どんな呪いをかけられるか分かったものでは無い。
そんなリスクを冒すのはランスとしてもやめておきたかった。
(やはりカラーとは和姦に限るな)
一時の快楽のために命を賭ける気には流石のランスももう無い。
「大丈夫よ。もう私達は戦う気は無いから。取り敢えずと」
レダはそう言って天降鬼に向けてヒーリングを放つ。
すると天降鬼の傷が見る見るうちに癒え、その傷ついた羽も元通りになる。
「なんのつもりだ」
それでも天降鬼は当然の如く警戒を解かない。
争う気はもう無いようだが、改めて見ても相手の強さが異常だと分かる。
自分を1対1で倒した人間の男、そしてその人間と同じくらい強いであろう金髪の女、そして自分をも上回る体格を持つ妖怪。
もしこの三人に襲われれば、自分はものの数分で倒されていたのは容易に分かる。
「それにしてもあなた…何処かで見た事があるような気がするのよね」
レダはトキセラと呼ばれたカラーの顔を覗き込む。
初対面のはずだが、この顔は何処かで見たような気がするのだ。
「ねえランス。このカラーの顔に見覚え無い?」
「何だと」
レダの言葉にランスがトキセラの顔を覗き込む。
「それ以上近づくな!」
天降鬼がトキセラをその大きな背中の後ろに隠す。
「おい、もっとよく顔を見せろ」
「近づかなくても見れるだろうが!」
トキセラは天降鬼の背中から少しだけ顔を見せているが、警戒しているのは丸わかりだ。
「うーむ…確かに見覚えがあるような無いような…ケッセルリンクやメカクレのように個性的なら分かるのだが」
ケッセルリンクはカラーでは珍しい髪形をしているし、メカクレはランスが知っているサクラ・カラーのように前髪で目を隠している。
だが、目の前のカラーは一般的なカラーのように、ロングの髪を美しい女性だ。
「ケッセルリンク様とメカクレ様を知ってるんですか?」
「え? あなたも二人の事を知ってるの?」
ケッセルリンク、メカクレというこの時代におけるランスとレダの共通の名前を目の前のカラーが知っている事にレダも驚く。
確かにメカクレとは再会したが、ケッセルリンクならばともかくまさか彼女の名前に反応するとは思わなかった。
「あ、そうだ! ルルリナちゃんだ! ルルリナちゃんに似てるような気がする!」
そこでランスは思い出す。
ランスと関わったカラーの中で、その中心人物の一人であったカラーを。
「あ! 言われてみれば…確かにルルリナの面影があるわね!」
レダもランスの言葉に深く関わったカラーの一人である、あの集落の女王をしていたルルリナ・カラーの事を思い出す。
魔人オウゴンダマとの戦いでは、彼女の力も借りてオウゴンダマに呪いをかけ、その力を大きく弱体化させた所で自分達が倒したのだ。
「ルルリナは私の先祖の名前ですが…何故皆さんが知ってるのですか!?」
トキセラが天降鬼の背中から完全に出てきてレダの手を取る。
「そうね…確かにあの時オウゴンダマに呪いをかけたカラーに似ているわね」
スラルも遠隔目玉を使ってあの戦いを目にしていた。
その戦いを見たからこそ、自分はランス、レダ、ケッセルリンクの三人に目を付けたのだから。
「先祖…という事は、君はルルリナちゃんの」
「はい、私はトキセラ・カラー。ルルリナ・カラーは私の偉大なるご先祖様です」
ランス達は木で作られた小さな家に案内される。
それはランス達の知るカラーの家とは似ているようで似ていない。
「なんか不恰好な家だな」
「だったらお前は入ってくるな!」
ランスの文句に天降鬼が食って掛かる。
「あなた落ち着いて。それに不恰好なのは事実でしょ?」
「トキセラ!」
自分の妻の言葉に天降鬼はショックを受けたように落ち込む。
「見よう見真似でカラーの家を建てたって感じね」
「グッ!」
レダの言葉に追い討ちをかけられてとうとう地に膝を突く。
どうやら妻の家を作ったのはいいが、不恰好なのは自分でも自覚していたようだ。
「ごめんなさいね。それよりも皆さんに聞きたいことがあるのですが…」
人数分の椅子はあるようで、それぞれにその椅子が宛がわれる。
天降鬼も体が大きい分、黒部にも丁度いい大きさもあるようだった。
「あの…それで皆様方、どうして私の先祖のルルリナ・カラーをご存知なのですか? ルルリナはもう700年以上の前のカラーです。こちらの大きな方以外は人間に見えるのですが…」
「それは複雑な事情があるんだけどね…時の聖女の子モンスター、セラクロラスの仕業…と言ったらあなたは信じる?」
「セラクロラス…ですか?」
トキセラが首を傾げる。
どうやら彼女は時の聖女の子モンスター、セラクロラスの事を知らないようだった。
「知らないか…まあ無理も無いかもね。私が魔王だった時も姿を見たのでさえランスとレダが消える時だったし」
魔王であった時のスラルですらセラクロラスには会おうと思っても会うことは出来なかった。
そしてランスとレダを時間的に移動させるという技能も見せられた。
ならば普通に見つけるなどほぼ不可能なのかもしれない。
「逆に聞くけど、あなたはルルリナの事を何処まで知ってるの?」
レダがトキセラに問いかける。
「ルルリナ・カラーはカラーの英雄、ケッセルリンク様…そしてある人間二人と共に魔人を倒したと聞いています」
トキセラの言葉に女勢が目を見開く。
「…ちょっと聞くけど、あなた何歳?」
「私は生まれてから30年ですね」
「30年…」
スラルはそれを聞いて腕を組んで考える。
自分達がケッセルリンクの頼みでカラーの里に向かった時、お世辞にもカラーの態度は良いとは言えなかった。
排他的…というよりも、どちらかと言えば人間を見下しているという印象さえ感じられた。
例外はメカクレ・カラーだが、彼女はランスと共に魔人と戦った仲間だ。
「所でなんでカラーのトキセラちゃんがこんな所にいるのだ。しかもこんなむさ苦しい鬼の妻になるんだ」
「どういう意味だ!」
ランスの言葉に天降鬼が詰め寄る。
「男が俺様に近づくな。暑苦しい。俺様はトキセラちゃんに聞いているのだ」
「それなのですが…私はどうもカラーの国に馴染めなくて。外の世界に興味があったのと、今のカラーの雰囲気がイヤで出てしまったんです」
トキセラが少し恥ずかしそうに答える。
「ただ何処をどう間違ったのか、地獄についてしまいまして…鬼から逃げているところに夫…天降鬼に助けられたんです。それで私から彼に結婚を申し込んだんです」
「本当に何処をどう間違ったのですか…?」
エルシールが少し呆れたようにため息をつく。
自分の人生も中々波乱万丈だと思うが、彼女の方もかなり濃い人生を歩んでいるようだ。
「カラーの空気って…何かあったの?」
「今のカラーは…完全に人間を見下しています。それどころか、一部の人間を奴隷として扱い、それどころか人間の国に攻め入ろうという声もあるくらいで…」
「はぁ?」
トキセラの言葉に驚くのはランスだ。
ランスはある意味本来の時代において、カラーと最も親しい人類かもしれない。
次期女王であるリセット・カラーの父親にして、ヘルマンの大虐殺からカラーを救った英雄…それがランスだ。
そのランスでも、最初はカラーからは(当然の事では有るのだが)敵視されていた。
それはランスだからという訳ではなく、人間そのものを敵視していた感じだ。
そして何よりも、カラーの数ではとてもでは無いが人間に対抗することは出来ないはずだ。
「今のカラーにはそういう空気が蔓延していて…私はご祖先のルルリナ・カラーが残したとされる記録を見てたので、どうしてそうなるのかが理解出来なくて…」
「そういえばメカクレも言ってたわね…私達が共に魔人と戦った事を誰も信じてないって」
ケッセルリンクがカラーの英雄であるのは事実だが、カラーだけであの魔人を倒せたかと聞かれれば無理だろう。
しかしこの時代のカラー達はその事実を知らず、ケッセルリンクがカラーを率いて魔人を倒したという事を信じている。
そしてカラーを守るために魔王と取引をして魔人となったという事を。
「そこで私は人の国を見て回ろうと思ったのですが…今の人間達にカラーはあまり良く思われていなくて。人間達から逃げているうちに、ここに辿り着いたんです」
「それはそれでどうかと思いますけど…」
トキセラの言葉にエルシールは曖昧な言葉を出す以外に他無い。
「記録が残っていたとあるけど…どういう記録なの?」
「それは…黒い剣を持った剣士、ランスという人と、美しい金色の髪をしたレダ、という女性がカラーを助けてくれたと」
「うむ、俺様がランス様だ」
「信じられないかもしれないけど、私がレダよ」
「まあ…」
トキセラはまじまじとランスとレダの二人を見る。
「どうした。あまりにのいい男に驚いたか」
「いえ…私の想像してた方とはちょっと違ったもので…あ、勿論疑っていませんよ。700年以上前のカラーの名前を知っているなんて普通は考えられませんから」
「想像と違ったんだって。勿論そういう意味よね」
トキセラの言葉にスラルがにやにやと笑いながらランスを見る。
「やかましい」
ランスはそんなスラルの頭を叩こうとするが、幽霊のため当然当たらない。
そんな様子を見てトキセラは思わず笑みを浮かべる。
「ところで皆さんは何故こんな所へ? 私が言うのも変かもしれませんが、普通の人が来る所では無いと思うのですが…」
「そうだ。一体お前らは何しにここに来た」
トキセラの言葉に天降鬼がランスを睨む。
(何かランスさん嫌われてますね…)
(いや、あの出会いでランスを嫌わない方が無理があるでしょ)
天降鬼はランスに対して露骨に敵意を露にしているが、まあそれは無理もない事だろう。
しかしランスはそんな天降鬼の敵意など全く感じていないように堂々と胸を張る。
「うむ、俺様はスラルちゃんの体を探すためにここに来たのだ」
「スラルさんの体…ですか? 確かに幽霊のようですが…」
カラーであるトキセラはメカクレ・カラーの事を知っているので、スラルの状態には特に驚いていない。
天降鬼も特に驚いていないのを見ると、この地獄ではそう珍しいものでは無いのかもしれない。
「お前…ここの秘宝とやらを狙ってきたのか」
天降鬼は少し難しい顔で腕を組む。
「何か知ってるのなら素直に教えた方が身のためだぞ」
「…まあ別に俺も隠すような事じゃないけどよ。とにかくお前の望むものがあるかは知らんが、何かとんでもないお宝をここの管理者が用意した…って話は有名だな」
その言葉に真っ先に興味を惹かれたのはスラルだ。
「とんでもないお宝? それってどんなものなの?」
スラルは好奇心の塊であると同時に、魔王であった頃から珍しいアイテムやバランスブレイカーと呼ばれるアイテムを回収していた。
魔王である自分の脅威になりそうなアイテムは、軒並み回収し調べていた。
その中で自分の脅威になり得ない物はそのまま廃棄し、自分の脅威になりそうな物は調べた後に破壊若しくは異次元へと放り込んでいた。
以前にランスに渡そうとした禁断才能というアイテムも、何かの役に立つかもしれないと思い保管していたものだ。
「どんな物かは俺は知らないな…別に興味も無いからな。だが、ここ最近にそのアイテムを持ち帰った人間がいるという話は聞いた事があるな」
天降鬼はその時はちょうど地上へ出て、トキセラのために色々と必要な物を収集していた時だ。
その時に異常に強い人間が来て、あるアイテムを持ち帰ったという話が鬼の中で広まっていたのを聞いた。
「何だと!? じゃあそのアイテムはもう無いという事か!?」
「それは俺に言われても分からねぇよ」
ランスが天降鬼に詰め寄るが、天降鬼としてもこれ以上は答え様が無い。
「抑えろよ、ランス。まだ他にもあるかもしれねえだろ」
黒部がランスを宥める。
「うーむ…まあここまで来たら最後まで行くか」
「行くならとっとと行ってしまえ」
ランスの言葉に天降鬼が詰め寄る。
「何だと? 貴様にそんな事を言われる筋合いは無いぞ」
「黙れ。ここは俺と妻の家だぞ」
二人は顔を突き合わせて睨み合う。
「まあまあ。あなた、今日はもう遅いですから、皆さんに泊まっていって貰いましょう」
「トキセラ!」
「久しぶりなの。こうしてあなた意外と話すのは」
「…わかったよ」
自分の妻の言葉に天降鬼も思うことがあるのか、素直に頷く。
「ただしお前は絶対に近づくな。お前は外で寝ろ」
「何だと! 外で寝るのはお前と黒部だろうが! お前等デカブツがこんな小さい家に入ることがおかしいだろうが!」
「ここは俺とトキセラの家だ! 何でその家にお前を入れないといけないんだ! 外へ出ろ! 決着をつけてやる!」
「今度こそぶっ殺す! それでトキセラちゃんをいただきじゃー!」
ランスと天降鬼の二人が外に出ると同時に、激しくぶつかり合う音が聞こえてくる。
「あ、あの…」
「…黒部、行くわよ」
「あ、ああ。しかしランスは本当にああいう奴なんだな」
「そうよ。多分ランスは死ぬまでああなんでしょうね」
レダと黒部の二人がランスと天降鬼の二人の馬鹿らしい争いを止めるために外にでる。
「あんぎゃー!」
「ぐわー!」
そしてランスと天降鬼の悲鳴がその場に響き渡った。
「はぁ…凄いですね」
「そうでしょ。本当にこれは凄いわね」
トキセラは興味深そうに魔法ハウスの中を見渡す。
流石に彼女達の住まう家ではこれだけの人数が寝る事は不可能のため、魔法ハウスを使用する事となった。
「ランスは寝かせてきたわよ」
ランスを2階に寝かせてきたレダが自分が普段から使っている椅子へと座る。
「こっちもだ」
こちらも気絶した天降鬼を床に寝せた黒部がそのまま地面に腰を下ろす。
流石に黒部ほどの大きさと体重に耐えられる椅子が無いため、彼は床に座るしかない。
「で、私達に聞きたい事って何?」
スラルは幽霊なので椅子に座る事は出来ないが、それでも生前の時からの癖のようなもので自分用の椅子に腰を下ろす。
トキセラが泊まっていって欲しい、といのはやはり自分達に何か聞きたい事があるのは明白だ。
「繰り返しますが、あなたはルルリナ・カラーやケッセルリンク様と一緒に魔人と戦った事があるのですよね?」
「ええ。何故か人間の体がついたやたらとポージングをしてくるオウゴンダマとね」
レダの言葉にトキセラは顔に喜色を浮かべる。
今のレダの言葉は、ルルリナの残した書物にしか書かれていない事だ。
魔人を倒したという事は確かに伝わっているが、それがどのような魔人であったかはルルリナの残した書物にしか残っていない。
かつてカラーが倒した魔人がオウゴンダマの魔人だという事は今のカラー達は知らないのだ。
「あの…皆はどうやって魔人を倒したんですか!? 魔人には無敵結界があって、決して倒すことは出来ないと!」
「ああ…それはね。何と言うかね…」
当時の事を思い出し、レダは頭を押さえる。
別に隠すような事ではないが、アレをどうやって説明すればいいか正直悩んでしまう。
「あれはねえ…確かに笑ったわね」
スラルは当時の事を思い出し、その顔に笑みを浮かべる。
あんな手段があるとは思わなかったし、現実にそれでランス達が魔人を倒したというのも事実なのだ。
誰も知らないだろうが、恐らくは人類が一番最初に倒した魔人だろう。
肝心の人間はその事実を永遠に知ることは無い…魔人オウゴンダマは既にスラルが初期化してしまったのだから。
「なんだお前等。魔人と戦った事があるのかよ。俺も知りてえな」
黒部も興味有り気にレダを見る。
魔人とは戦った事は無いが、無敵だと事はJAPANにも伝わっている。
その魔人をどうやって倒したのか、それは黒部も是非とも知りたかった。
「アレはね…簡単に言えば、魔人が自分の能力で自滅してしまったのよね」
魔人オウゴンダマ…それは己の持つ技能のせいで、無敵結界を外さざるを得なかった魔人。
レダはその魔人との戦いの中で起こった顛末を話す。
別に隠すような事ではないし、自分達が魔人を倒したというのは事実だからだ。
そしてその話を興奮した様子で聞いていたトキセラだが、その話を聞いてその表情がどんどん微妙なものになっていく。
「あの…本当にそれが事実なんですか?」
「証明は出来ないけどね。だけどこれが私が見たことをそのままよ」
少し唇が引きつっているトキセラに、レダはただ頷くだけだ。
「えーと…その…何と言いますか…私が思っていたのと全然違う…」
「そこは省かれたのね…まあ魔人とプロレスして倒しましたなんて書かれても困るわよね」
あの時の事を思い出しても、レダ自身も少し微妙な気持ちになる。
勿論、あの場ではああするしかないのは事実だし、それに関しては何の文句も無い。
「もっとその…こう…何かドラマチックな事があったりとかは…」
「魔人とプロレスした人間というのは十分ドラマチックだと思うけど」
「え、えーと…」
その当時の者にこう言われては、トキセラとしても何も言えない。
「懐かしいわね。確かにそんな流れだったわね。でもそれが真実よ。尤も証明は出来ないけどね」
「はぁ…」
トキセラは困ったように頭を抱える。
(まさかそんな事が…でも彼女達が嘘を言っているようには思えないし…)
「…そんな事があったんですね」
エルシールも顔を引きつらせている。
なまじランスとレダの強さ、そして魔人と共にとんでもない存在と戦った事を知っている身としては、そんな過去があったとは思っていなかった。
「真正面からぶつからなかったって訳か。まあそれも戦術といえば戦術だな」
黒部はランス達の戦いを評価しているが、それでも少し微妙な表情を浮かべている。
「それしか手段が無かったから仕方ないでしょ。魔人には無敵結界が有り、己の意思で解かなければ決して傷つけることは出来ない」
(尤も、後にカオスと日光が出来れば無敵結界は何とかなるけどね)
ランスが魔剣カオスを持っていたのはレダも知っている。
しかしこの時代にはまだカオスも日光も存在していない…つまりは魔人はこの時代においてはまさに無敵だ。
「ルルリナも流石にそれは残さなかったみたいね…何しろ彼女もあんな格好してたし」
「お願いします、これ以上言わないで下さい…ご先祖様の事とは言え、私にも効きます…」
自分の先祖のルルリナも確かに魔人を撃破する立役者の一人になったようだが、その手段は後に残せなかったのも納得してしまう。
それが延々と語り継がれるのは流石に嫌だったのだろう。
「でもこれで私も納得しました。確かに人とカラーが協力して魔人を倒した…これが聞けただけで私は十分です」
顔を上げたトキセラの顔はすっきりとしていた。
だからこそ、今のカラーの有り方により疑問を抱いている。
そして彼女の疑問は、後の世になり最悪の形で的中してしまうことになる事を彼女はまだ知らない。
夜―――
「あの…」
「何かしら?」
トキセラはスラルの部屋で寝ることを望んだ。
どうしても彼女に聞きたい事があったのだ。
「スラルさんはランスさんとはどういう関係なんですか? スラルさんのためにランスさんはこんな所まで来たんですよね?」
「…そうね。ランスは私の体を取り戻して、私とHしたい…その一心で動いているのよね」
呆れたように言うスラルだが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「ランスさんの事…好きなんですか?」
「うーん…実は私もそれがわからないのよ。私は自分自身でランスの事をどう思っているのか…そんな事考えた事も無かったから」
魔王として生まれた自分にはそんな事を考えた事も無かった。
自分の周りには異性はいたが、ケイブリスはリスの魔人だし、メガラスはホルスの魔人、ガルティアは自分が魔人としたが彼を異性として見ているかと思えば微妙だ。
勿論ガルティアの事は頼りにしてるし、今でも信頼する魔人の一人だ。
だがそれでもランスと一緒にいるときの感情とは違う。
そんな様子のスラルを見て、トキセラは笑う。
「そうですか」
彼女の本心は彼女自身が気づくべきだ。
でも彼女の心は多分自分と同じはずだ…自分を助けてくれた天降鬼に対する思いと。
「それとケッセルリンク様の事ですが…本当にケッセルリンク様はランスさんの事が好きなのですか?」
それがトキセラが一番気になる事。
「ケッセルリンクは…そうね、ランスの事好きだと思うわよ。もし彼女がカラーのままだったら…もしかしたら世界のメインプレイヤーがカラーになってたかもね」
もしランスとケッセルリンクの間に子が居れば…世界は今よりも混沌としていたかもしれない。
あの二人の子孫が居れば、さぞ今の世界は混沌としていただろう。
「…今でも、ですか?」
「そうよ。どれだけ時間が経ってもランスとケッセルリンク…そしてカミーラは再び出会う運命にあるのよ。多分それが世界の流れなのよね」
この広い世界、ランスは今いる時間の中であの二人の魔人と何度も邂逅している。
それも魔王の目が厳しく、行動が制限されているあのカミーラもだ。
「だから必ずこの時代でも会うことになると思うのよね。それが何時かはまだ分からないけど」
流石にこのJAPANであの二人に会うとは思わないが、もしJAPANでやる事を終えればランスは必ず大陸へ戻る。
そうすれば必ずあの二人…そして他の魔人とも出会うことになると考えている。
(だからこそ…それまでに何とかしないとね。無敵結界を何とかする手段を)
スラルはこの先のランスの事を考え、ある決意をしていた。
朝―――
「皆さん、お世話になりました」
「いいのよ。世話になったのは私達だしね」
次の日、ランス達は再び探索に戻ることになる。
「おう、もう二度と来るなよ!」
天降鬼はランスに向かってわんわんを追っ払うように手で出て行くようにする。
「がはははは! 貴様が死んだら俺様がトキセラちゃんを慰めにきてやるぞ!」
「いいからとっとと出て行け! 特別に道筋を教えてやったんだからよ!」
エルシールの手には天降鬼が用意してくれた地図がある。
これを辿ればこの地獄にある秘宝の元に行けるようだ。
「じゃあ行きましょう、ランス。トキセラも元気でね」
その言葉でランス達の姿が天降鬼とトキセラの前から消えていく。
「あなた…そんなにランスさんが嫌い?」
「ああ嫌いだ。あいつは絶対お前の事を狙ってるからな」
夫の言葉にトキセラは笑う。
「大丈夫ですよ。あの人にはもう運命の方がいますから」
トキセラは何となく、また将来彼らに会えそうな気がしていた。
それが何年、何十年、何百年後かは分からない。
だがそれでも、彼とは再び邂逅するという未来が彼女には見えていた。
そしてランス達は進む。
天降鬼から貰った地図を元に、邪魔する鬼達を蹴散らしながら進んでいく。
「これが…秘宝?」
スラルは一つの宝箱を見つける。
それは他の宝箱に比べて非常に価値のありそうな宝箱だ。
そしてこのいかにもという間取り…十二分に怪しいといえば怪しいが、それでもこの宝箱には何かある…そう思わせるのには十分だった。
「よーし、じゃあ黒部。開けろ」
「…もう罠はこりごりだぜ」
ランス達のパーティーにはレンジャーのスキルを持っている者がいない。
よってこれまでの宝箱は全て黒部がその身を犠牲にして宝箱を開けていた。
黒部も慎重に宝箱を開き…そしてそこから眩いまでの光が溢れる。
「な、何!?」
エルシールはその光に目を開けることが出来ない。
「これ何回目だ…」
ランスはもうこの光を浴びるのは何回目かと考える。
そう、この光はあの時と同じだ。
「…そういう事か」
レダは逆にこの光で納得する。
「よくぞ来た…」
そこに居たのは透き通った姿を持つ一人の女性。
地獄の管理者にして、第2級神であるアマテラスがその場に浮いていた。
トキセラに関しては、闘神都市3しか知らないので、DSに関しては分かりません
ですから完全にオリジナルになってしまいました
投稿速度も少しずつ戻していきたいと思います
エターだけは絶対に嫌だ…