貴族とか平民とか……本当にめんどくさいな。そう思いながら俺は配膳の仕事に精を出す。配膳が終わり食事前のお祈りが終わりそこから食事の時間となる。その間は休憩したりデザートの用意だったりそれぞれで役割が振られている。
そしてデザートの配膳やその時間が終わると片付けに入る。
朝の食堂での仕事が全て終わるとメイドたちは生徒の部屋のベッドメイクだったり片付けだったりやることが沢山あるのだが、管理人たる俺にはやることが何一つない。なので俺はこの間、学院長からもらった学院の地図を片手に地形の把握を始める。
俺のレアスキルはどこに何があるか把握してこそ効果を発揮する。どこの場所でならどのカードの力を強く発揮できるかなどを考える。例えば水場近くならば節制、光がよく入る(当たる)場所ならば星、といった具合である。
今日は室内の探索ということで、学院長に許可をもらい生徒たちの教室がある塔へと来ている。今は授業中なので生徒と遭遇することはない。けっこうな時間を使い建物の構造を把握していく。
――――あとは宝物庫か
建物の地図を確認し、本日最後の目的地である宝物庫へと足を運ぶ。そこにはかなりの大きさの鉄の扉があり、その前にはロングビルが立っていた。周りの構造を把握しながらマルチタスクでロングビルへ話しかける。
「こんにちは、ロングビルさん。こんなところで何をやってるのですか?」
「これはミスタ・サガミ。今はちょうど宝物庫の目録を作っていたところです」
そう言うとロングビルはその手に持っていた目録を見せてくれる。俺は字が読めないのでなんと書いてあるかわからないが、目録というくらいなので恐らくこの宝物庫の中に入ってる物が書いてあるのだろう。
「そういうミスタ・サガミこそこんな誰も近寄らないような所で何を?」
「ああー……俺の場合は……ほらこの学院に来たばかりなので、どこに何があるか把握しないといけないので……」
少し濁して言ったのだが、それほど疑問を持たれることはなかった。嘘を信じさせるには、その嘘の中に少しの真実を入れるといいって八神が言っていたので、それを実行してみたのだが……なるほど、確かに疑われずに済んでいる。さすがは腹黒狸。そこに痺れる憧れる……ことはない。すると下から足音が一つ聞こえてきた。魔力を探るとどうやらコルベールのもののようだ。コルベールには若干だがロングビルに惚れてるような節を感じ取れたので、軽く別れの挨拶をしてその場を立ち去った。
――――宝物庫か……そこまで通路は広くなかったな。使えるとしたら、自分の性能を上げるカードだな。
そろそろ午後の仕事の時間も迫って来ているので、考え事をしながらも食堂へ向かい仕事を終わらせる。部屋に戻り入り口の監視や怪しい人影などがないかチェックしていると、一つの部屋の近くで複数の魔力を感じた。それほど大きい魔力ではないし、魔法を使う様子もなさそうだが一応確認の為にその部屋へと向かう。しかしその途中で魔法を使う独特な気配と、窓が割れるような音が耳に届いた。何かあったのかもしれないと思い足を早める。扉にあるプレートを見ると、その部屋の主はキュルケであった。一応ノックをして扉の外から声をかける。
「おい、ツェルプストー。なにかあったのか?さっき窓が割れたような凄い音が聞こえたぞ!!」
扉の内側から少し焦ったような返事が聞こえる。
「ミスタ・サガミ!?なんでもありませんわ!!ええ…と……虫……そう!!少し大きめの虫が窓に止まったので、びっくりしてつい魔法を使ってしまっただけです!!」
「……そうか。でも気を付けろよ?今はもう夜中に近い。周りにも部屋があるんだから迷惑にならないようにな」
「はい、わかりましたわ」
その返事を聞いて部屋の前を立ち去ろうとすると、隣の部屋から物凄い勢いでルイズが飛び出し、なぜか部屋の前にあった藁束を見て「あんのバカ使い魔~~~!!」と地団駄を踏み、キュルケの部屋の前にいた俺を突き飛ばしドアを蹴破り中に入っていった。状況が読めない俺は中に入っていったルイズを追い、キュルケの部屋に入るとそこには俺らが入ったにも関わらずキスを交わす才人とキュルケの姿があった。しかも窓は影も形も無くなっており、所々に焦げ目が見える。
――――これ隠者のカードで治せるかな……やっぱパーツがないと無理かな……修繕費どうしよう……給料から引かれたりしないよね……?
溜め息とともに色々な考えが頭をよぎる。何やら先程から大声で話しているが、周りの部屋からの苦情は不思議と上がらない。魔法でもかけてあるのだろう。周りに迷惑がかからないのなら怪我をしない程度に好きにやってもらってけっこうなので、巻き込まれる前にキュルケの部屋から退散し管理人室へ戻る。それ以降は特に問題もなかったのでその日はそのまま就寝した。
今日は虚無の曜日というものらしい。この日は学生も授業が休みで各々好きなことをして過ごすようだ。地球の日曜みたいなものかと納得したのも束の間、管理人室の窓の外に大きな影が表れる。その影がトントンと、窓を壊さないように慎重に叩く音が聞こえる。それをあえてシカトして本日の業務へと取りかかる振りをする。次に聞こえたのはドンドンという少し強めの音。次はガンガン。それからは叩く度に大きくなっていく音にうんざりした俺は、仕方なく窓の外の影に話しかける。
『イルククゥ、うるさい。俺は忙しいのだ。今度遊んであげるから大人しくタバサのとこに行ってろ』
『トモハルったらやっと気づいたのね!!これからシルフィと遊んで!!今日は虚無の曜日だから、お姉さまは本を読んでて相手してくれないのね!!』
『知るか。大人しく空でも旋回して遊んでなさい』
『いーやーなーのーねー。遊んでくれないと、ここで暴れるのね!!』
『さあイルククゥ!!何をして遊ぼうか!!魔法戦?飛行勝負?なんでもいいぞー!!』
昨日キュルケが窓を破壊したばかりで、また別の所を壊されたのではたまったもんじゃない。しかもこいつが暴れたら間違いなく女子寮は崩壊する。ここは俺の住み処でもあるのでそれは避けたかった。
『今日はそんな気分じゃないのね。シルフィの背中に乗せてあげるから、一緒にお散歩するのね!!』
『別にそれ俺いらなくね!?』
突っ込みながらも遊ぶと言ってしまった手前、無下にするのもあれなのでそのまま窓からシルフィードの背中に乗る。シルフィードは俺が乗ったのを確認すると一気に空へと飛び上がった。
――――たまには自分で飛ぶ以外で空に出るのもいいなあ」
「でしょ!?たまにはシルフィの背中もいいでしょ!?」
どうやら途中から声に出ていたらしい。ここは上空なので安心してシルフィードは声を出して喜んでいた。しばらく二人(?)で空の旅を楽しんでいると学院から二頭の馬が走っていった。それを見ていたシルフィードは「美味しそうな馬なのね……」と呟いたので、軽く頭をこずいておく。するとシルフィードが急に何かに反応し旋回、学院の女子寮へと戻っていく。
「どうしたんだイルククゥ」
『お姉さまに呼ばれたのね。それも急ぎらしいから早く来いって。トモハルはそのままでいいのね。お姉さまに話せば連れて行ってくれるのね』
正直降りたいのだが、どうもシルフィードは俺も連れて行きたいらしく、背中から降りることを許してくれなかった。女子寮のタバサの部屋の前に止まるとそこにはタバサとキュルケの姿があった。二人が驚いた目でこちらを見ていたのでとりあえず挨拶をしておく。
「よお、二人とも。イルククゥ……じゃなくてシルフィードに遊びに誘われたんで搭乗してます。こいつが俺も連れてくって聞かないからここまで来ちゃったんだけど……大丈夫?」
タバサのシルフィードへ向ける視線がどこか厳しい。恐らく念話、もしくは主従契約したときに意志疎通ができるようになっているのだろう。一人と一頭はしばらく黙ったまま視線で会話をするだけだ。するとタバサがシルフィードに跨がった。特に何も言われないということはついて行っても構わないのだろう。邪魔にならないように隅の方で大人しくしておく。タバサに続きキュルケがシルフィードに跨がり、タバサが小さく「どっち」と呟いた。キュルケがはっとしたように声を出した。
「慌ててたからわかんない…」
「馬二頭。食べちゃだめ」
タバサはキュルケの言葉に文句を言うわけでもなくシルフィードに一言命じると、シルフィードは一声きゅいと鳴いて了解の意を示す。それを確認したタバサはキュルケの手から本を奪いそれを読み始めた。
シルフィードの背中ではひたすらキュルケのノロケ話が続いている。それも何度も同じような内容を話すので、相槌をうつ俺の反応も芳しくない。いつ聞いても他人のノロケ話ほどつまらないものもない。高町のユーノ君がユーノ君がというのと同じレベルである。本当にどうでもいい。違うのはアプローチのかけ方か。高町はどちらかというと引っ込み思案な方なので自分からはぐいぐいいけないが、キュルケは真逆であり押せ押せタイプの人間であった。どちらにせよ恋人になってからそういう話はしてほしい。
ずっとその話を聞いてそろそろ本当に限界が近づいてきた頃に、トリステインの城下町の近くの駅で目的の馬を見つけた。キュルケはそれを聞くとタバサをお供に颯爽と行ってしまった。俺とシルフィードはお留守番である。あれについて行くくらいだったら、シルフィードと遊んでいた方がよっぽど有意義だ。途中で一人で町に降りたりしたがほとんどはシルフィードと空の旅を楽しんだ。
そして日が暮れる前に学院へと戻った俺たちは、二人と一頭に別れを告げて管理人室でこの世界の出来事を事細かに残していく。もし戻れたら必要になるかもしれないのでやっておいて損はないはずである。その作業が一段落し休憩でもと思ったところに奇妙な爆発音が聞こえた。その直後に才人らしき声で「殺す気か!!」なんていう悲鳴が聞こえたので、またルイズが才人にお仕置きでもしているのだろう。そう思い気を抜いたところで、今度は誰かの(恐らくキュルケだろう)本気の悲鳴が聞こえた。その悲鳴から非常事態を感じた俺は、すぐさまセットアップし隠者のカードの第一詩篇を解放する。
本来ならば瞬間移動が出来る皇帝のカードがいいのだが、如何せん俺が俺の状態のままで使うと遮蔽物(ガラスのような先が見えるものでも)の先へは移動出来ないのである。なのでいち速く駆けつけるには自分のスピードが上がる隠者が一番いいのだ。
外に出るとそこには驚きの光景が広がっていた。なんと高さ二十メートルは軽く超えるゴーレムの姿があった。しかもそのゴーレムは、宝物庫のある塔へ攻撃を加えようとしていたのである。俺は急いで三枚のカードをミクシムへスラッシュする。
一枚目は力、二枚目は正義、三枚目は戦車のカード。先程の隠者の能力は三枚目をスラッシュしたと同時に切れている。このタロットカードを四枚以上スラッシュしようとすると、自動的に一枚目のカードが四枚目のカードに入れ替わる。つまりどう足掻いても同時に三種類以上のカードは使えないのである。
力、正義、戦車の第一詩篇を解放し、それぞれの能力を行使する。戦車のカードは第一詩篇を解放すると自身の体が鋼鉄化し攻撃力、防御力が共に上昇する。力、正義のカードの第一詩篇はそれぞれ片手が入る箱と天秤が出てくる。正義のカードの場合は剣も同時に出せるが今回は使わないので出さない。そして俺は天秤を右手に持ち一言呟く。
「右の皿に防御力を。左の皿に攻撃力を」
そして右の皿を一気に押し下げる。こうすることで防御力が一気に跳ね上がり、攻撃力はほとんど無くなる。正義のカードは、簡単に言えば何かを上げる代わりに何かを下げるカードなのである。だが今はそれでいい。それを補うのが力のカード。第一詩篇の解放ともに現れた箱を地面に置きその中へ手を突っ込む。すると不可視の手がゴーレムへと叩きつけられるのが感覚でわかった。力のカードの能力は、箱の中と指定した空間の同一化である。今回の場合は箱の中とゴーレムのいる周辺が同じ空間となっており、先程の不可視の手は箱の中に突っ込んだ自分の手である。故にゴーレムを叩き付けた感覚がわかったのだ。
叩き付けるより前に壁を破壊し、宝物庫の中へと入った不審者。その間に放置されたゴーレムを不可視の手で原型を留めないよう破壊していく。不審者が出てきたところを不可視の手で捕まえようとしたのだが、ニヤリと笑ったかと思うと杖を振るっただけで先程あれほど壊したゴーレムがあっという間に復活し、逃走を始めた。力のカードの範囲外に逃げないように、何度も攻撃を繰り返すが当たった端からすぐに戻ってしまう。
そしてゴーレムが力のカードの範囲外に出てしまう。しかも範囲外に出たかと思うと、ゴーレムとは思えない速度で走って逃げていく。慌てて皇帝のカードをスラッシュし瞬間移動で追いかけるが、追いついた先にあったのは山のような土砂だけであった。
不審者を逃がしてしまったことに責任を感じながら学院まで戻ると、そこにはルイズ、タバサ、キュルケ、才人の四人が何かを聞きたそうな顔をしてそこにいた。そしてルイズが代表してこう言った。
「土くれのフーケの行方も気になるけど、それは私たちじゃどうも出来ないから一回置いとくわ。それよりもアンタのその意味のわかんない魔法!!詳しく説明してもらえるわよね?」
どうやら言い逃れは出来なさそうである。俺は諦めて説明することにした。ただし……
「誰にも言うなよ?それとここで話すのもあれだ。管理人室で話してやるから、ついてこい」
こうして初めて管理人室へ人を呼ぶこととなった。思いもよらぬ理由によってだが。
カードの能力の説明が難しい……