「先輩、人生相談がありますっ」
「なんだよ藪から棒に。お前はいつから高坂桐乃になったんだ」
彼女の名前は神野めぐみ。友達がやたら多い、元気でポニーテールの中学一年生の美少女だ。妹の小町の友達だったのだが、今となっては俺をターゲットにちょっかいを出してくる。
最近はからかい上手の高木さん2を見たせいか、俺をますますからかおうとしてくる。
しかし俺妹の新刊が出た影響で人生相談すら持ちかけられるとは思わなかった。この調子だと下手くそな手品につきあわされる可能性もあるな。助手としてのラッキースケベは望むところなんだけど?
「ま、とりあえず飲めよ」
「ありがとございますっ。このマッ缶ってやつ、東京には売ってないんですよね~。最近ちょっとハマってるんで嬉しいです♡」
この人生相談は俺が寝てるところをビンタして起こされたわけではない。事前にアポイントメントをきっちり取られて、うちに訪問してきたあと近所の公園まで散歩。そして突然の人生相談の切り出しである。木陰のベンチに座らせ、マッ缶を二つ買ってきたところだ。つめた~いやつだ。
プルタブをぱかんと開け、一口舐めてからめぐみは話し始める。
「実はあたし、モテるんですよ~?」
「いや、そうだろうよ」
こいつがモテないわけがない。実はなんて言葉はふさわしくない。意外とモテるなんてのは雪ノ下雪乃とか厄介な性格の人間に用いる言葉であって、こいつやうちの妹なんかはどう考えてもモテる。小町がモテることは許すが、小町に近寄る男は許さん。特に川なんとかさんの弟とか。
「で、またしても告白されたんですけどぉ~」
「ふむ」
「あ、気になっちゃいます?」
しょっちゅうなのだろうから別に気にならない。が、俺も中学一年生相手にそこまで大人げないわけでもない。
「そうだな、めぐみが変な男に騙されてないか心配だ。兄のような気持ちで心配だ」
「む、むぅ~」
露骨に不満な態度を見せるめぐみ。状況としては俺の方がからかってるんじゃないかと思えてくるが、俺は本心なのよね。小町は清純派だからまだいいが、めぐみははっきりいって陽キャなので変なやつからもモテそう。
「相手の男の人なんですけど~」
「うん」
「イケメンなんですよね~。どう思います?」
「イケメンか。タイプはどうなんだ」
「ふぇっ!? タイプ!?」
「そうだよ。イケメンって言ったって要するにお前の好みかどうかが大事だろ」
「え~っとぉ~、なんかこう爽やかでぇ~、スポーツが出来そうな細マッチョというかぁ~」
「そういうのがお前の好みなのか?」
「いえ、全ッ然」
「じゃあ、告白は断ろう」
「チョット待って、チョット待ってくださいっ」
ワタワタと慌てて、目を見開くめぐみ。こんなにスピード解決したのに何が不満なのか。
ものすごく頭をフル回転させてますよ~という顔になった後、ピコーンと電球マークが頭上に表示されるように見えるほど露骨に今考えましたという仕草を見せる。こいつ本当に見え見えだな。
「女の子ってぇ~、好きだって言われると好みが変わっちゃうというか? 好きになった人が好みというか? 決して好みじゃないからと言ってすぐに断るかということそんなことはないというか?」
「ああ、そう」
わからんでもないので、ここは納得しておく。
あれだろ、巨乳派だって公言してたって、貧乳と結婚することを誰が責められるだろうかということだろ。大きかろうが小さかろうがおっぱいは素晴らしいものだ。なんかいい話なのかそうでもないのかよくわからんが。ゆきのんも希望を持ってね。
「あと彼は年上なんですけど~?」
「どのくらいだ」
「あ、気になっちゃいます?」
「30歳過ぎだったら即通報だ」
めぐみは交友関係が広いのでそういう相手も考えられる。ロリコンにも人権はあると思うが、俺みたいな真面目な高校生としては法律や条例を遵守させていただく。
「さ、さすがにそんなことはないですよっ」
「そりゃよかった。で? 何歳なの?」
「え~っと~、先輩と同じくらいです」
「じゃあ、やめとけ」
「ええ~~~っ!? な、何でですかっ!?」
「え? なんでお前怒ってるの?」
食って掛かってきそうなめぐみは、ベンチに両手をつきつつ顔を俺に近づける。めぐみは怒って赤い顔だとしても顔が近いと俺は違う意味で顔が赤くなるからヤメてね?
「いや、俺と同じ年齢だったらもうなんというか……」
おじさんと同じでヤリたいだけかもしれないというのはさすがに言いづらい。俺もそうだということになるからな。俺はなんというかこいつのことは大事にしたい……。
「おにーさんと同じ年齢なんて凄く魅力的ですけどねっ!? 付き合ってもいいかもしれないですけどっ?」
はー。俺の親父もこんな気持ちになるのだろうか。小町がこんな事言いだしたら俺はもうどうしていいかわからん。
「やめておけ。本当にお前のことが好きだったら、この時点で告白しない。お前が大きくなって、大手を振って一緒に居られるまで我慢するだろうよ」
「え! ええっ!? それって、それって、そういうことですかっ!?」
「どういうことだよ……」
こいつは本当に俺をからかう気があるの? 空回りにもほどがあるよ?
「そもそも~、そもそもですよ? 先輩と同じくらいの年齢で、あたしが嫌いじゃないタイプの男性だったらどう思うんですか?」
「どう思うも何も。お前がどう思うか次第としか言いようがないだろ」
「ん―! も―! 可愛くないっ!」
そもそも俺がカワイイ可能性があると思っているならどうかしている。それを求めるなら戸塚のところへ行け。自慢じゃないが、俺は可愛くなさには定評がある。平塚先生に「可愛くないね、君は」とか言われると逆に嬉しくなっちゃうまである。
「はー、もうあたしが何か変な男の人に良いようにされたらどうするんですか?」
珍しくしょんぼりと肩を落として、神野めぐみは声を漏らす。
「そうなる前に相談してくれたことは感謝してる。そうなったらどうなるかわからん」
少しだけ、語気が強くなってしまったかもしれない。想像することすら脳が拒否する。
「えっ!? ええっ!?」
嬉しそうな態度を見せるが俺は何一つ愉快ではない。
「あのな、めぐみ。お前は自覚を持つべきだ」
「え。なんですか、真剣な顔で……ちょっと怖い……ような……」
珍しくも怯えた表情を見せるが、俺はちょっと苛立っていた。このままだと怖がらせてしまうかもしれない。それは本意ではないので、ちょっと軌道修正しておく。
「お前はね、自分でも可愛いと思ってるだろうけど、お前が思ってる以上に可愛いんだよ」
「え! なんかものすごく恥ずかしいんですけどっ!? でももっと言って下さいっ!」
「中学一年生にしてはえっちな身体をしてるというのも理解はしてるのだろうが、男子はもっと思ってるんだよ」
「さっきよりももっと恥ずかしいですけどっ!? でももっと言って下さいっ!」
「お前は女の子としての魅力が溢れかえってるんだよ」
「んっふふー。あたしの満足度ももう溢れかえってますっ」
さっきまで不安だった顔はどこへやら、スイーツバイキングを終えたかのように頬をツヤツヤとさせている。しかしこんな下手くそなからかい方をしてきためぐみを俺は許さん。何が人生相談だ。
告白されたことが真実なのかどうかはどうでもいい。だが、それをネタにこいつが俺をやきもきさせようとしていることは明白だ。わかっていても若干しているところが尚更許せん。よって反撃させてもらう。
「めぐみ。お前が誰と付き合うかは自由だ。だけどな、俺が歓迎するわけないだろ」
「え、ええっ!? そ、それって、それって!?」
「それはな、俺がお前を、一番……」
「一番……!?」
「妹よりも、誰よりも……」
「妹よりも? 誰よりも?」
うららかな日差しをバックに浴びて、あまりにも緊張しまくってるめぐみを見ながら、俺は吹き出しそうになるのを必死で堪える。ほんとこいつ、からかい甲斐があるな。
「必死でお願いすれば、えっちなことをさせてくれるやつだと思っている」
「え! ええ! ええええ!?」
「俺以外の男もきっとそう思っている。だからやめとけ」
俺のセリフをどう受け止めたのか、めぐみはひたすら顔を赤くしている。口はずっとモニョモニョ動いているが、なんと言っていいのかわからないのだろう。セクハラだって怒り出せばいいのか、お願いされてもしませんよと否定すればいいのか、それとも本当にお願いされたらどうしようと考えたらいいのか……そんなところだろうか。
「ふふふ……ははは……くくく……」
「え? ええ? なんで?」
困惑するめぐみが可愛くて、ますます面白くなってしまう。こいつは未だに自分がからかっている側だと信じて疑っていないのだ。とっくに攻守は逆転しているのに。
だから。
あまりにも俺の大勝利だから。
きっと彼女が満足するであろう言葉をお返しに。
「いいから、俺以外の男の告白なんて断れ。な?」
「う、うん。うんっ♡ えへへ♡」
めぐみ相手に圧勝するのは、いささかバツが悪い。
俺は高木さんじゃないから、引き分けくらいが丁度いいだろう。
公園のベンチで飲むマッ缶は、いつにもまして甘くて美味かった。
うーん、この八幡は本当に八幡なんだろうか。
でもね、八幡って小さな女の子相手だと男前じゃん?
だから中学一年生相手だとこうなってもおかしくないよね? よね?