からかい上手になりたい神野めぐみ   作:暮影司

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ハロウィン

「うわ~、見事なゾンビですっ。目が完全に腐ってますね」

「ちょっと? いつもとおんなじなんだけど? なんならぐっすり眠れたくらいなんだけど?」

「じょーくですよ、じょーく! ハッピーハロウィーン♪」

「少しもハッピーじゃねえよ」

 

俺は脅されて神野めぐみの地元の方までやって来ていた。こいつはあろうことか渋谷でハロウィンに参加するなどとのたまったのである。友達がアホほどいる陽キャのめぐみとしてはある意味当然の流れなのかもしれんが、中学一年生の偽ビッチであるめぐみが一番行ってはいけない場所としか言いようがない。ダメ、ゼッタイ。本当にいたずらされちゃう!

俺が足立区までハロウィン当日に行くというなら、渋谷行きはキャンセルすると言うので仕方なくやって来ていた。そうでもしなければ俺がハロウィンなんて参加するわけがない。

 

「参加してみたら楽しいんじゃないですかっ?」

「クソつまんねえよ」

「ほ~らね。……ってええっ!?」

「なんで驚いてるの? 思ったとおりつまんないんだけど? 苦痛なんだけど?」

 

知らない奴らが、変な格好をしているのを見て何が面白いというのか。ガキンチョがお菓子を貰って嬉しいというのはわかるが、俺はもうそういう年齢ではない。

テレビなどで見る渋谷のハロウィンとは異なり、地域のお子様が主体ではあるが、中学生や高校生、大人も混じって仮装大会が行われていた。

 

「なんでですか~っ! ほら、見てくださいよぉ」

 

血まみれのナース服でくるくると回るめぐみ。ハロウィンとしては割りと定番の仮装であるらしい。似たような格好のお姉さんもいた。

そりゃピンク色のナース服に白いニーハイソックスは非常に魅力的だが、たっぷり浴びた返り血のようなものと悪魔の角みたいなものが邪魔だった。どういう状況なんだよ。

 

「可愛いでしょっ?」

「いや、俺にそういう猟奇的な趣味ないから。血まみれとか八幡的にポイント低いから」

「ええ~!?」

 

いや、これに関しては俺が普通なんだと思うよ? これで可愛いと思うほうが性格がひねくれています。俺が言うのだから間違いない。俺より性格がひねくれているとか、ちょっと日常生活に支障があると思いますよ?

 

「お。あの人ならいいけどな」

「え? ちょっと。それっておっぱいが大きいからですか……?」

「ばっ! 違ぇよ……あれは、はたらく細胞のマクロファージさんのコスプレだろ? だから返り血に意味があるって話だよ」

「ええ~。何言ってるかわかりませんケド、ゼッタイおっぱい見てますよねぇ」

 

くっ。こういう決めつけはむしろセクハラではないだろうか。あくまでもマクロファージさんの設定として胸の大きさも準拠しているな、と確認しているだけだ。はたらく細胞は好きだが、働きたくはない。

 

「ゼッタイかわいいのにな~」

 

そう言いながら、胸元を開けるめぐみ。やめなさい。誰が見ているかわからんのだ。うっかり撮影されてSNSに投稿されちゃったらどうするの!?

服装を正させつつ、咳払いをしてから俺は考えを述べることにした。

 

「そもそもだ、こんな脅迫イベントの何がハッピーなんだ」

「脅迫?」

「そりゃそうだろ。お菓子をくれなきゃいたずらするって脅してるんだぞ」

「脅してるって、それは言いすぎですよぉ」

「それはいじめっ子の考えだな」

「ふぇっ!? いじめっ子!?」

「そうだ。そういうつもりじゃなかった、ちょっと強く言っただけだった。そういうのはな、強者の傲慢なんだよ。弱者は常に怯えて暮らしてるんだ」

「うう……なんか本気っぽい……」

「最初はお菓子をくれなきゃいたずらするかもしれないが、そのうち金を出さなきゃどうなるかわかってんだろうなあと言い出す」

「それはもうハロウィンじゃないですよぉ」

「同じような精神で行われているイベント、ということだろ」

 

また、それにかこつけて馬鹿騒ぎしたいだけの連中が集まるというのがまた嫌悪感を募らせる。民度の低いやつらが集まるから街も汚れるし、警備も大変だし、ろくなもんじゃない。百害あって一利なしだ。こんなものをやりたがることがすでに罪と言ってもいいだろう。

 

「ぐすっ……」

「えっ!?」

 

待って、まさかこいつ泣いてるの?

 

「いじめとか、あたし大っ嫌いなのに。そういうの、ほんと嫌なのに。ぐすっ」

「ま、ま、ま、待て。別にお前がいじめをしているとか言っているわけじゃなくてだな」

「ハロウィン一緒にしたら楽しいでしょ、ってそう思ってただけなのに」

「そ、そうだよな!? お前はみんなの幸せを考えて行動しただけだよな!?」

「でも、独りよがりだったんですね。あたしがしてたのはいじめる側の考えなんですね」

 

や、やばい!

何がやばいってこれはもう俺がいじめたのと同じ!

三浦の耳でも入ったら、「は? あ~し、そういうのマジ許せないんだけど?」とか言われてものっすごい顔で睨まれるに違いない。怖い! 怖いけど、カッコイイ!

まぁ、三浦の顔はやめなよボディにしな、的なことは起こらないにしてもだ。

男子高校生が女子中学生を泣かせるなんてことは、どう考えても許されるわけがない。仮に小町が同じ目にあわされたとしたら、絶対に殺す。社会的に。どんな陰湿な方法を使ってでも社会的に殺す。一色に金を払って美人局させてでも社会的に殺す。

そんなレベルのことを自分がしていると思うと、生きた心地がしない。早くなんとかしなきゃ!

 

「い、いや~! こうしてよく見てみるとハロウィンってハッピーだよな~。子供とかみんな笑顔だし! 参加者もお祭り気分で楽しそうだし、こういうイベントは年に何回あっても悪くないよな~!?」

 

うつむいていた顔がこちらを向く。

涙の跡を拭うこともなく、潤んだ瞳で俺をまっすぐに見つめる。うう……

 

「ほんと?」

 

伏し目がちに、弱々しい声で、らしくない顔を見せるめぐみ。くっ、こいつがこんな顔をするなんて調子が狂うなんてもんじゃない。お前は常に満面の笑顔でいてくれなきゃこっちが困るんだよ。

 

「ほんと、ほんと! ハッピー! ハッピーハロウィーン!」

 

ぴょこぴょことお道化た動きをしつつ、なるったけ陽気に振る舞って言った。もうなりふりかまっていられん。

 

「……よかった」

 

ほんとに良かった~。マジで良かった~。こんなところを平塚先生にでも見られたらもうおしまいだよ? 泣かせたことをか、お道化たことをかって? どっちもだよ!

 

「じゃあ、ハロウィンをしましょっ♪」

「お、おう」

 

あれ? いつもの笑顔だね? ほんとに今泣いてた? なんかこう、涙が流れたわりには他が普通というかなんというか。まさか目薬だったってことはないよね? ないよね?

 

「じゃあ、改めまして。トリック・オア・トリート♡」

 

は?

 

「俺?」

「そうですよっ」

「お菓子なんか持ってないけど」

「それじゃあ、いたずらするしかないですねっ♡」

 

こ、こいつ……。

やっぱり、いじめっ子じゃねーかよ……。

 

 




嬉しい感想がいっぱい届いたので、書かなきゃという気持ちになりまして。ちょっと短かったですけどね。
私の八幡はひねくれが足りてないと思っていたんで、今回は結構ひねくれられたんじゃないかと。
来月は俺ガイルの最終回とエロマンガ先生の新刊に期待大!

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