からかい上手になりたい神野めぐみ   作:暮影司

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学園祭

「あ、結衣せんぱーい! やっはろーです!」

「めぐみちゃ~ん、やっはろー」

 

え?

なに? すっかり仲良しなの?

 

「あれ、めぐみじゃん」

「あーしさん、こんにちは~」

 

え?

あーしさんのこと、あーしさんって呼んじゃってるの!?

三浦をそう呼ぶのは俺の脳内だけだと思ってたんだけど?

 

俺は妹の友達の神野めぐみに誘われて俺の高校の学園祭に来ていた。

え? なにかおかしい? おかしくないだろ。そもそも俺が学園祭に参加するほうがどうかしている。

そりゃあ当然、事実上断れない理由がない状況でもなければ、参加するわけないだろ。

めぐみは将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という言葉を知っているのか知らないのかわからんが、外堀から埋める作戦をとったようだ。

要するに、以下のようにだ。

 

「お兄ちゃん、めぐみちゃんと学園祭回るんだって? まぁ、小町はお姉ちゃん達がかまってくれるからいいけど。ロリコンだね」

 

「先輩って、ほんと、あざとい後輩に弱いですよね……まぁ、知ってましたけど、いくらなんでもロリコンですね」

 

「さすがだな、比企谷。君の言う本物、確かに見せてもらった……このロリコンめ」

 

と言った具合だな。俺はロリコンじゃない。むしろガハママの方が好みまである。

しかし、もう周囲が二人で参加することを認識している状態で俺がサボったらそれをみんなが許さないということだ。

 

俺と違ってめぐみは陽キャ、いやそれどころじゃないな。目に映るすべてのことは友達と言い切れる彼女は太陽キャと呼んでいいだろう。もう見てたら灰になりそう。どうも、となりの吸血鬼さんです。

 

そんなわけで俺は自分の学校の学園祭であるにも関わらず、連れの中学一年生の女子のついでのような扱いだ。めぐみに連れ回されて回る学園祭はアウェイ感たっぷりだ。俺の学校なのにアウェイなの? まぁ俺からすればこの世界はすべてアウェイだけどね? 

 

俺のクラスはどうやらメイド喫茶らしい。今の今まで知りませんでしたね?

俺の教室は机を合わせてつくられたテーブルがいくつか用意されており、俺たちは席に案内された。

 

「あ、ヒッキーもやっはろー」

「ヒキオもいたんだ。ほら、メニュー」

 

俺を認識するのに時間かかりすぎない?

まぁ、そりゃめぐみのような太陽がとなりにいたら無理もないけどね?

 

しかし、このメイド喫茶という出し物を選んだやつは褒めてつかわす。由比ヶ浜も三浦も普段のビッチ臭がファブリーズされて凄くいいですね!

 

「めぐみちゃん、何にする?」

「おすすめで!」

「じゃあ、紅茶セットだね~」

 

こいつらどんだけ仲いいんだよ……。

普通、由比ヶ浜相手にそれほど信用できないだろ。

 

「ヒッキーは何食べるの?」

「お前が作ってないやつ」

「んもおおお! 何それえ!」

「食えるものは食えるが、食えないものは食えないからな」

「食えるもん!」

「無理だろ……」

「無理なんだ……」

「どれに絡んだ?」

「ん~、売り子だから調理は何もしてないよ」

「英断だ」

 

由比ヶ浜から必要な情報を聞き出した。どうやら死にはしないらしい。

心底安堵して、ほっと一息ついて水を一気飲みすると、由比ヶ浜は口を「いい~っ」とさせてお盆を胸に押し付けながら他所のテーブルに移動していった。

いや、今までの君の行いのせいだからね?

しかし、後ろ姿ですら絵になるな……。

 

「で、なんにすんの」

 

綺麗な縦ロールの髪を人差し指でみょんみょんさせながら言う三浦。金髪ロングに黒いリボンをつけ、メイド服を着こなした三浦のキャラの立ちっぷりが凄い。何かを思い起こさせる。

 

「パルフェかな……」

「は? パルフェ? パフェのこと? なに、ヒキオってスイーツにこだわりあんの? キモ」

「いや、そういうわけでは」

「ふ~ん。ま、じゃチョコパフェいっちょね」

 

てこてことオーダーを承ってバックヤードに向かう三浦。

……いいですね……。メイド喫茶のあーしさん、凄くパルフェっぽいです……。

 

ようやくオーダーを終わらすことができて、一安心していると対面のめぐみはなぜか俺を睨んでいた。

 

「ぐぬうううう」

 

見れば顔を真っ赤にして、歯を食いしばりつつ、握り込んだ拳を机に打ち付けていた。なに、なんなの?

 

「お、おにーさん……」

「な、なに?」

「仲、いいですね……」

 

は?

どこをどう見たらそうなんの?

なぜか仲がいいのはお前らであって、俺はアウェイなんだけど? あまりにもアウェイすぎてフライアウェイしそうなんだけど?

 

「正直、あたしはみんなともうすっかり友達だと思ってました……」

「どうみてもそうだと思うが……」

 

こいつは何を言っているのだ?

 

「でも、社会不適合者の超絶コミュ障のおにーさんの方が全然仲がいいですよね」

「ちょっと? 間違っていないけどそこまで言う必要なくない? あと、お前らのほうが普通に仲いいだろ」

 

誰がどう考えてもそうにしか思えないだろ。お前のことは「やっはろー」で俺は同級生なのに「も、いたんだ」だぞ。

お前の注文はあっという間……小説なら三行だ。俺なんて十行かかって結局注文できてないんだぞ? 意思疎通の難儀さは一目瞭然だぞ?

 

「あたしのコミュニケーションなんてコンビニ店員と対して変わらないですよっ! おにーさんは完全にお互いを知り尽くした関係性じゃないですかっ!?」

 

物は言いようだな……俺は由比ヶ浜に対して料理が絶対にできないという厚い信頼がある。そして三浦は俺のこととキモいと思ったらキモいと口に出せるくらい親しい関係ってわけだ。ポジティブにもほどがあるだろ。

 

「つまり、めぐみもキモいとか言われたいと」

「いや、あたしはキモくないからそれはいいです。本当のことを言い合えるってことです」

 

ほーん。

つまり俺がキモいことは真実なのね? 本当のことなんて知りとうなかった。

 

「だから、そのー。おにーさん、あたしに言いにくかったけど言えなかったことを言ってくださいっ」

 

そう来たか。

――これはキツイ。

言いたいことも言えないこんな世の中はポイズンかも知れないが、言えないから言わなかったことを言えと言われる世の中はポイズンどころじゃない。

 

「おまちどうさま、めぐみちゃん。あとヒキオも」

 

しかもこのタイミングでメイド店員のあーしさんがチョコパフェと紅茶セットを運んできた。やだ、聞かれたかしらん……。ってかやっぱり俺はついでじゃん……。

 

「じゃ、ごゆっくり。……ヒキオ、がんばんなよ」

 

あーしさん! 優しい! でも、励ますより聞いていないふりをして欲しかった! でも頑張るね!

 

めぐみは紅茶を淹れている。俺はパフェを食べようとするが……よく考えたら俺がパフェを食うこと自体恥ずかしくないか? なんでこんな注文を? 三浦がパルフェっぽかったからですね。やっぱり俺はキモいのでは?

 

周囲を見回すと、三浦と由比ヶ浜、他に数人のメイド店員が俺の方を見て、噂話をしている。話題はパフェを食っててキモい件か、それともめぐみのセリフの件か。どっちもツラいんですけど?

 

しかしこういうやりとりをめぐみとするのは何度目かだが、今回は煙に巻けないだろうな。

 

「う~ん」

 

バニラアイスの溶けたところを長いスプーンでこそぎながら悩む。

めぐみは意外にも静かに紅茶を啜っている。にぎやかなのもらしいが、こういう姿もさまになるよなあ……。言わんけど。

 

「おにーさん、言いにくいことを言うだけですよっ?」

「いや、それ一番大変だよね……」

 

今まさに思ったけど言わなかったことがあるが……言うのは恥ずかしすぎて無理だ……。あーしさん、ごめんね、頑張れない……。

 

「お前はないのか、言えなかったこと」

 

卑怯な手だが、相手にボールを渡した。

めぐみはティーカップをソーサーに置くと、人差し指で頬をつんつんしながら、んーと小首をかしげる。

 

「キモいとは思ってないですねぇ」

「そりゃどうも」

「うーん。そもそも嫌いなところが無いんですよね~」

「……そ、そりゃどうも」

「ううーん。ううーん。その目付きが悪いところもあたし的には悪くないっていうか、結構好きだし……」

「っ……」

 

こいつ、わざとなの? いや、天然なんだよなあ……。いい子だから友達がいっぱいいるんだよなあ。

 

「背が高くてスラッとしてるとか……誰が見てもそうですよねえ……」

 

おいおい、こいつが世界で一番俺を評価しちゃってるんじゃないの……そこまでじゃないだろっていう店なのに食べログ5点つけちゃう人なんじゃないの……?

 

コーンフレークをほじほじしながら、めぐみがロールケーキを口に運ぶのを見やる。

 

……これなら言える、かな。

 

「めぐみ」

「? なんですか?」

「思ってたけど今まで言わなかったんだが……」

「はいはい! なんですかっ!?」

 

待ってましたとばかりに、さっきまでロールケーキが刺さっていたフォークを振り回す。そういうの似合うね、キミ。

 

「お前、俺のこと結構好きだよね」

 

何でも無いように、努めて何でも無いように言った。パフェを食べるついでに。そういえば、とでもいうような言い方で。

 

「キモ」

「へ?」

「キモい、キモーい! おにーさん、それ、キモいですよー!」

 

めぐみは興奮した様子で、フォークをぶんぶん振り回す。ちょっと? 言いすぎじゃない?

それからめぐみは、紅茶やロールケーキを一口味わうたびに、「キモ」と言っていた。

 

まるで「美味しい」の代わりに。

 

ったく、何がそんなに嬉しいんだか……。

 

俺はあまりにも卑怯な手を使って、自分の行為をひた隠しにして。

めぐみは俺に美辞麗句を言った挙げ句に、今度はキモいなんて最低の侮蔑の言葉を連発したのに。

 

俺たちは、この学園祭というハレの舞台において、誰よりも笑顔だった。

 





エロマンガ先生の新刊が出たら書きますという宣言があったから書いたのですが。

御存知の通り、新刊にめぐみの出番はゼロ!
書けねえよ、と思いつつ、俺ガイルの最終巻を読んだ方の影響で書きました。

だからちょっと八幡もあーしさんもガハマさんも優しかったかもしれない。

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