からかい上手になりたい神野めぐみ   作:暮影司

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初詣

あけおめのスタンプを送ってきたと思ったらすぐに無料通話のコール音が鳴った。まったく夜中だというのにうるさいことだ。年明けくらいは早く寝たってバチは当たらないだろうに。もちろんそのディスプレイに映った名前は神野めぐみ。他に相手などいない。

 

「おにーさんっ、初詣に行きましょう~♪」

 

冗談ではない。このクソ寒いのに外に出るとか正気の沙汰とは思えん。そもそも俺はあけおめ声優大集合を見るのに忙しいんだ。

 

「初詣にいく必要はない。なぜならこの家には世界の妹として神になった小町がいるからな」

 

小町を崇めておけば、世は全てこともなし。

あまりの信仰によって(シスター)のクラスのサーヴァントとして英霊召喚されるまである。

 

「え~っ!? 女子中学生の神様なんていませんよっ」

 

いや、いるだろ。かみちゅとか知らないの?

 

「じゃあ、どこの神様のところに行くんだよ」

「あ~、それはどこでもいいんですけど~」

 

おい。バチが当たるぞ。だったらうちの妹神でもいいだろ。

 

「そもそもですね、神様とか神社とかお寺とかそういうことは重要じゃないんです。初詣っていうイベントが大事なんですよ。ハロウィーンもクリスマスも全部おんなじなんですよっ。イベント! イベントが大事!」

 

うわー。日本人ってのはどうしようもないね。いや、神野めぐみを日本人代表にするのはどうかと思うが。俺が言うのもなんだが結構変わってると思うよ。なんでこいつに友達がいっぱいいるのか不思議なくらい普通じゃない。いや、まあ本当に俺が言うのもなんだけど。

怪訝(けげん)な表情を見せる俺に、めぐみはなぜか自信満々で人差し指をぴこぴこと振る。

 

「いいですか? おにーさんみたいなキモオタ向けのギャルゲーで考えてみてくださいよ。初詣でイベントCGが出てこなかったらどう思います?」

「クソゲーだな。絶対許さん」

「ほ~らね?」

 

なんということだ、一発で論破されてしまった。なんなの、意外と天才なの? それとも俺が実はアホなの?

 

「というわけで、今すぐこちらに来てくださいねっ♡」

「いや、しかしだな……電車が」

「電車は終日動いてますよ~」

 

おいおい、働き方改革はどうなってるんだよ。年末年始から働くとか社畜にもほどがあるだろ。俺は絶対に家から出ないぞ。

 

 

「あ、おにーさん、おまたせしました~」

 

千葉市と足立区から明治神宮で集合しているのに俺が待ってるっておかしいだろ。またしてもアウェイである原宿に俺を召喚しやがって。

 

「どうですか?」

「ま、イベントCGとしてはいいんじゃねーの」

「もっと褒めてもいいのに~」

 

赤い晴れ着を着た神野めぐみは、それはもう可愛らしかった。住宅情報館のCMの橋本環奈を超えて二億年に一度の美少女なんじゃないかと思うくらいに。普段ポニーテールにしている髪をアップにしているところも八幡的にポイント高い。言わないけどね?

 

「馬子にも衣装だな」

「えー! よくわかんないですけど頭良さそうな褒め言葉ですねっ」

 

お前のリアクションは完璧に頭悪いけどな。せっかくあえて褒めてないのに喜んでどうするんだ。ま、上機嫌な相手に間違いを指摘するのもアホらしいので、このまま神社へ行くことにする。

 

「寒いな。帰るか」

「帰りませんよ! 逆によくここまで来て帰ろうと思いますよねっ」

 

だって入り口まで来たけど全然神社見えないんだけど? 何この広すぎる敷地。そのくせ人は多い。出店までいっぱい出ているようだ。

 

「ほら、ベビーカステラとか買いましょ」

「そうだな、猫の金玉みたいでカワイイからな」

「そうですよねっ。おちんちんもカワイイけど金玉もカワイイですもんね」

「いや、ちんこは可愛くないだろ……」

「え~、合わせてあげてるのに~」

「いや、猫の金玉は誰が見たってカワイイだろ。うちの妹と同じで」

「小町ちゃんもその評価は嬉しくないと思いますケドね」

 

猫の金玉……じゃなかった、ベビーカステラを購入する。

紙袋を傾けてやると、めぐみは一つ取ってはむっと半分かじった。ベビーカステラを一口で食べられないほど口が小さいのか、こいつは……。

俺は二つ同時に口に放り込んだ。金玉だからな。

うむ。甘いは正義。

 

「ふふっ」

「ん? なんだよ」

 

晴れ着だからか、笑い方まで上品だな。きらびやかな袖を口元に寄せてはにかむように笑いやがって。普段ビッチ臭がするやつがそういうことをするとギャップ萌えしちゃうということをわかってやっているのか? だとしたら残念ながら大成功だからな?

 

「いや、美味しそうにベビーカステラ食べるなぁ~って」

「実際にうまいしな」

「ふふふっ」

「だからなんだよ」

「性格がひねくれてて目が死んでるのに甘いものが好きなんて、なんかカワイイなって」

「んな……」

「ギャップ萌えってやつですかね~っ」

 

ギャップね。やっぱりギャップの効果はデカイね。目が死んでるから生きてるだけでギャップがあるしな。ギャップだよギャップ。

 

「いいから食えよ」

 

一つ口に含んでから、彼女の方に袋を向ける。

 

「ふふ~、照れちゃって。カワイイなぁ、おにーさん」

 

俺がカワイイとか、もはや辞書を書き換える必要があるだろ。馬子にも衣装と合わせてお前は言葉を勉強し直すべきだぞ。

 

「おにーさん、ワンバン食いって知ってます?」

「あぁ、餃子だっけ?」

 

焼き餃子をライスに一度バウンドさせるという食い方のことだろう。そうすると美味しくなるというのは正直なところ意味がわからん。論理的にロジカルシンキングで考えて欲しいね。

俺の脳内で玉縄が手をくるくる回している間にめぐみは、ベビーカステラを一つつまんで、自分の唇で軽くキスをしてから、俺の口に放り込んだ。

何、何? こいつ何してくれちゃってるの?

 

「ワンバンするとめっちゃ美味いらしいですよ♡」

 

かーっ、俺の脳内の玉縄さんはもうお手上げ。ケンドーコバヤシもギブアップだ。

 

「あたしも食べたいなぁ~」

 

俺にそのこっ恥ずかしいことをやれっていうのかよ。しかしまあ、俺ばかりがやられるというのもな。仕方がないので、俺もベビーカステラにそっと口づけて……そのまま食った。無理無理。これをめぐみに渡すとか絶対ムリ。

 

「ちょっと、なんで食べちゃうんですか~! くださいよっ」

 

ムーッとむくれるめぐみ。お前がやるならいいけど、俺がやっても可愛くねえっての。そんなことをやる俺のことを俺がキモくて耐えられない。はっきりいって自分で自分を殺すレベル。

 

「ワンバン食いはちょっと旨すぎてお前にはやれん」

「へぇ~、そんなに美味しかったんですかっ。じゃあ全部やってあげますよ。んふふっ」

 

しまった。

言い訳が下手すぎたので、これはもう責任を免れない。

やむを得ないので彼女の唇にワンバンしたベビーカステラを一つずつ咀嚼した。

 

「お前はノーバンで食え」

「仕方ないですねえ」

 

俺ばかり食うわけにもいかないので、めぐみの口に放り込んでやる。一口だと大きいみたいだから、半分に割ってな。

 

「ノーバンでも美味そうだな」

「おいひーですよっ。自分で食べるよりずっと」

「そうかよ」

 

俺はもうワンバンしてないベビーカステラなんて食べる気しないけどな。

食べ終わった紙袋をくしゃりと潰して、ポケットに突っ込んだ。

甘酒の匂いが漂ってくるが、もう甘さも暖かさも十二分に足りている。

ようやく賽銭箱が見える位置までやってきた。

 

「さて、二礼二拍手一礼だぞ」

「なんですかそれ? ニレーニハクシュ? ニレ―さんに拍手ですか? ぱちぱち」

「え、お前マジで言ってるの……?」

 

これが一色だったらドン引きするレベルだが、まぁこいつは中学一年だし、知らないかもな。

 

「俺の真似してやればいい」

「ちょっと? アイカツの悪口は許さないんだけど?」

「え、なにそれ」

「おにーさんのモノマネです」

「えぇ……」

 

そんなこと言ってる俺?

アイカツの悪口は確かに許さないとしても、ちょっとショックですね……。

 

一応俺が一礼すると、めぐみも習って礼をする。うん、それでいいのよ。

 

がらんがらんがらん

 

がらんがらんがらん

 

うん、めぐみも鳴らしちゃったね。俺の真似をしろって言ったのは俺だから俺が悪いか。まぁそれぞれ神様を呼んだっていいだろう。

 

「で、ここで賽銭を入れる」

「お賽銭ですね」

 

俺が五円を入れようとすると、ばしっと奪われた。なんてことすんの、賽銭泥棒!

 

「あのな、五円はケチってるわけじゃなくて」

 

説明しようとする俺に、めぐみは頬を膨らませる。

 

「ご縁がありますように、ですよね。おにーさんにもうご縁なんて必要ないです」

 

あ、そう……。

 

「百円あげますから。五円を百円にしているんですから感謝してください」

「あ、ハイ……」

 

そう言われますと、おとなしく従うしかないですね……なんだろう、強く出られたらめちゃ弱いという特性、来年はなんとかしたいですね。

 

賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。

 

「それで、目をつむって手を合わせるわけだ」

「へー。もうお願い事をしてもいいんですか」

「ああ」

 

感謝をするとか住所を言うとか色々あるみたいだが、そこまでしなくていいだろう。こいつの言っていたとおり、イベントで来ているだけだしな。初詣がそのまま今年最後のお参りになるような俺達は、そこまで真剣にやったら逆に失礼まである。

 

「来年も一緒に初詣できますように」

「……いい忘れたが、願い事は口に出してはいけないんだ」

「ええ~。もう~」

「すまん」

「すまんじゃないですよっ。叶わなかったらどうしてくれるんですかっ」

「わかったよ。その願いは責任を持って俺が叶えるよ」

「……じゃあ、オッケーです♡」

 

目を開けずとも、めぐみの表情は手にとるようにわかった。

俺が願ったのは、来年ここに来たときに、もう一度こいつを笑顔にできますように、だ。

 

そして、今この瞬間を神様に感謝した。

 




ラブプラスEVERYの小早川凛子さんの晴れ着姿が素敵すぎてこのお話が書けました。凛子に感謝しつつ、感想をお待ちしております。
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