「なんでお前がここにいんの……」
「あ、おにーさん、待ってたんですよ~?」
うちの高校の下駄箱で、なぜか神野めぐみは待ち構えていた。
だから足立区から千葉まで、まぁまぁ遠いのになんでいるんだよ。
「あれー? っべー、二人知り合いなのー?」
いや、むしろなんで戸部と普通に知り合いになってんの? こいつのコミュ力どうなってんだ。
「じゃ、戸部先輩さよなら~♪」
「あ、おう! またなめぐみっち~」
話の途中だったろうに、めぐみはもう用はないとばかりに戸部を扱った。こいつ、戸部への対応が一色と同じだな……。
適当に低い位置で手を振っていためぐみは、くるりと俺の方にターンして、片目をつぶって微笑む。
「一緒に帰りましょうよ、おにーさん」
「いや帰らないし……」
「なんでですか!?」
「一緒に帰ってるところを見られて噂とかされたら恥ずかしいし……」
このセリフはとりあえず誘われたら断るというぼっちの習性によるものであり、特に俺がめぐみに対して好感度が低いからではない。あのときの詩織の顔は、今も俺の心の柔らかいところを締め付けている。だからみんな虹野さんに転んじゃうんだよ。
渾身のモノマネをしたが通じないようで、キョトンと小首をかしげるめぐみ。
世代的に知らないよな。まぁ、俺も世代的には知らないはずなんですけど。
「なんですかそれ? 美少女と一緒にいると通報される心配ですか?」
まー、その可能性の方が高いけどね……。
それにしても自分のことを美少女って言い切るタイプが俺の周りには多すぎじゃないですかね。
まぁ、実際に可愛いんだからありがたく思うべきか。どうせならもっとToLOVEるな展開を希望したい。特に戸塚とか。うっかり股間に顔を突っ込んじゃったら、実は付いてなかった可能性がある。はがないの幸村みたいなパターン、あると思います!
「通報されても、ちゃあんと説明してあげますよ?」
わー、優しい。一色とかろくに説明しないで笑い転げそうだもんな。
もし新垣あやせが相手だったら通報されても構わない。その覚悟はとうに出来ているが、彼女は千葉にいるはずなのにまだ会えていない。小町が読モ始めたらウチに来たりするんでしょうか!?
「そりゃ、どうも。でも一緒には帰らない」
「なんでですかっ!?」
「そもそも、俺は自転車通学だし」
「え~~?」
ギャルゲーやアニメでは家まで歩く描写もよくあるが、本当は小中学校までが普通だ。市町村内の近所の学校に通うものと、都道府県内で自分にあった学力で選んだ高校では大きく異なる。
歩いて高校に通ってるやつなんてほとんど居ないだろう。
よって一緒に男女が帰るシチュエーションなどそうそうあるものではない。俺がぼっちで特殊だからじゃないんだよ、普通だ普通。
「じゃ、そういうことで」
「待って、待ってくださいよー。でもでも、雨降りそうですよ?」
そう言って、あたふたと俺を呼び止めつつ、人差し指を天に向けるめぐみ。サタデー・ナイト・フィーバーみたいだな。そこまでじゃねえか。
「いや、雨降っても関係ないし……」
「駄目ですよぉ~、片手で傘差すのは道交法違反です。私が傘持ってあげますから、後ろに乗せてください。ね?」
「二人乗りも道交法違反なんですけど……」
「えっ、でもジブリの甘酸っぱいやつでしてるじゃないですかー。私ずっとやってみたかったんですけど」
「耳をすませばのことね。なに、あの二人に憧れてるの? そういうのは憧れの男子とするもんだぞ」
「だから……」
セリフの途中で固まってしまった。なに? DAKARA? 俺はポカリ派なんだけど。更に言えばスポーツ中もマッ缶でいい。スポーツしないけど。
表情を伺っていると、俺の視線で生き返ったかのように突然動き出した。俺の目は死んでるのにね。ほっとけ。
「ちがっ、違くって、今日は二人乗りじゃなくてあいあい……」
また、途中で固まった。何、WINDOWS95なの? メモリ足りてる?
アイアイって何? ブルブルブルアイアイ、ブルーベリーアイ? なんか一時期狂ったようにコマーシャルしてたよねアレ。主にアニメの前後で。
「えーっとー、ところでおにーさんは傘持ってますか?」
「なんだ、唐突に。俺は念の為いつも折りたたみを持ってるんだが」
「あ、あー、そうなんですね。私うっかり傘忘れてここに来ちゃってー。だからおにーさんの傘に入れて欲しいなーって」
妙だ。確かに雨が降りそうにも見えるが、まだ降ってもいないのにわざわざうちの学校に寄るのは不自然すぎる。俺がコナンくんだったらこの時点でめぐみを犯人だと思っちゃうまである。
しかしまあこの状況で置いていくわけにもいかない。
俺が自転車を押して歩きだしたことを、許可と受け取っためぐみはとててっと近寄ってくる。
「じゃ、帰りましょっか」
「お、おう」
ぴったりと寄り添って歩くめぐみ。
なんだ? まだ傘も差していないのに、この時点で相合い傘みたいな距離感なんだけど。
あいあい……ガサ?
まさかとは思うが、こいつ……。
右側で自転車を押している俺の左側は十分なスペースがあり、こんなにくっつく必要はない。
すっかり相合い傘を始めているような気持ちでもない限り。
「まだ降りませんねえ」
そう言いながら天を仰ぐめぐみ。まるで天気予報で雨が降ることを知っているかのように。
まだだ、まだ勘違いという可能性がある。
「あ、ぽつぽつと降り始めましたね~♪」
待ち望んでいたかのように、嬉しそうに報告してくるめぐみ。
「あ、すまん、折りたたみ持ってると思ってたけど、やっぱ忘れてたわ」
「えっ」
「悪いけど先帰るわ、小町に迎えにこさせるよ」
努めて平然とそう言うと、めぐみは、わざとらしくぽんと手を打った。
「あ! あー、実は私、傘持ってました」
――やっぱりな。
どうやら俺の勘違いじゃなかったらしい。
折りたたみにしては大きい傘をバッグから取り出す。おいおい、まだタグが付いてるぞ。買ったばかりだってバレちゃうじゃないかよ。
嬉しそうに傘を差すと、
「どうですか、相合い傘になっちゃいましたね?」
と言った。
なっちゃったというか、相当頑張ってここまで持ってきたよね?
「ああ、そうだな」
そう答えると気に食わないのだろう、リスのように頬を膨らませて眉根を寄せる。
「ずいぶんと無反応じゃないですか、こ~んなにくっついてるのに」
傘を差す前からずっと同じ距離なんだよなあ……。相合い傘をする気持ちがはやりすぎて先走っちゃってたのよ君。
傘を差してから距離が近づくんだよアレ。最初からくっついてたら「濡れるだろ、もっと近づけよ」みたいなセリフが発生しないのよ?
「ちょーっと左腕貸してもらっていいですかっ?」
「いや、自転車は両手で押さないと危ないし」
「そういうの、いいですから」
さっきは道交法違反がどうのと言ってたくせに……。
左腕を開放すると、すぐにその腕を抱きかかえて、俺の脇を通した右手で傘を持った。
「んふふ~♪」
満足気に笑うが、その行動も読めてるんだよね……。
「どうですか、おにーさん、意識しちゃってるんじゃないですかー?」
「まあな」
「えへへ♡」
わかってても、左腕に胸が当たってれば意識せざるを得ない。それを指摘して通報されても困るから、これはこのままの状況を我慢するしかないな、うん。
「うわー、歩き方ぎこちな~い。こういうの慣れてないんですね~?」
「あ、ああ、まあな」
めぐみは俺の返事に満足したのか、終始機嫌が良さそうだった。
片手で自転車を押してるから歩きにくいだけなんですけどね……。
慣れてないという意味では妹以外の誰かと歩くこと自体が慣れていない。
満面の笑みで鼻歌でも歌いそうな勢いだけど、これで俺をからかってるつもりなのか? なんというか、陽乃さんに比べたら児戯に等しい。あれは相手が悪すぎるか。
「は、ふぁ、八幡くんったら、きんちょーしてるんだー、かっわいい~」
自分が顔を真っ赤にして、一生懸命に俺をからかおうとしていた。無理して下の名前言おうとして噛んでるし。
しかしまあ、ここまでからかうのが下手くそだと、可愛いと思ってしまう、な。
俺たちは家に帰るまでゆっくりと、一つの傘を差して、自転車を押しながら歩いていく。
雨は少ししか降ることはなく、早々に晴れ間が見え始めていた。
めぐみは雨が止んだことに気づかず、俺の家につくまで傘を閉じることはなかった。
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