「お兄ちゃん、いや間違えた、ごみいちゃん」
「ちょっと、逆じゃない? 合ってたよ? なんでわざわざ言い直したの?」
「なんで自分の部屋に引きこもってるの? そんなにヒッキーってあだ名が気に入ってるの?」
「ちげえよ……あいつがいるからだろ」
俺の妹、いや世界の妹である比企谷小町は大仰に、ふぅ~っとため息を付いて疑問を唱える。
「なんでお友達が遊びに来ているのに自分の部屋に引きこもるの」
いつの間に友達になったんだよ……。
「おいおい、めぐみは小町ちゃんのお友達でしょう? 仲良くあそびあそばせ」
やんわりと良いとこのお母さんのようにたしなめる俺。
せっせっせーので、大好っきー♡したら良いよ? 尊いよ?
「ほんとごみいちゃんだなあ……わかるでしょ、全く」
ゲロ以下の匂いがプンプンするぜえっとでも言わんばかりの目で俺を見る小町。
やだわ……なんでこんな子になっちゃったのかしら。私が悪いのかしら。間違いないわ。だって小町ちゃんは天使ですもの。
「じゃあ、遊ぶけど。ちょっと2人じゃ出来ない遊びだからリビング来て」
ちょいちょいと手招きされてしまう。
そう言われたら断るわけにもいかない。
3人以上で遊ぶなんて何をするのかしら……ぼっちだからわからんぞ。桃鉄は1人でやるものだし、いたストも1人でやるものだし、スマブラも1人だろ。うーん、想像もつかない……。
リビングに入ると、制服姿で紅茶を片手にクッキーをはむはむ食べているJCがいた。もちろんポニーテールの快活な美少女、神野めぐみだ。こうして見る分には年相応にあどけないんだけどなあ……。
「あ、おにーさん、お邪魔してまーす♡」
本当にお邪魔なんだよなあ……。おジャ魔女の方がよっぽど邪魔じゃない。むしろ居てくれたらと願うまである。もしかしたら本当に居てくれちゃうかもしれないよ?
めぐみの対面にあるソファにどっかりと腰を下ろすと、めぐみはとててっと当たり前のように隣に座る。
いままでめぐみが座っていた場所に小町が座って、じとっとした目を俺に向けた。なんで俺に?
「はぁ……もうからかわれてるのは小町なんじゃないかと思ってくるよ」
そう言って、がくっと肩を落としながら嘆息する。
俺は何もしてないぞ。
「じゃ、この本に書いてある心理テストをしますからね」
ものすごいテンションの低さで仕方なさげに本をふりふり、宣言する小町。
それに対するように、めぐみはアゲアゲで腕を振り上げた。
「へ~! 心理テストデスか~!? 面白そうですね~? ね、おにーさん?」
「お、おう」
これなんなの?
土砂降りの雨の日に仕方なく散歩に出かける主人と、その犬みたいな感じですけど?
俺は一体、どんな気持ちで居たらいいのか。
「じゃ、第一問。あなたは丘の上に大きな家を買って住んでいます。そこで飼っているペットの数を答えてください」
ほーん。
これが3人でないと出来ない遊び?
ま、1対1だと面白くないのかな。知らんけど。
適当に答えるか。
「9匹」
「きゅっ……!?」
なぜか飛び上がるようにソファを立つめぐみ。
どしたのワサワサ。
小町は冷静にMCを続けるべく、指をビッと指した。
「めぐみちゃんも早く答える」
「あ、あ~。あたしも、9匹なんだ~」
両手の指を合わせて、天井を見ながらそう答えるめぐみは明らかにオカシイ。なぜ耳まで顔が赤いのか。
「あ、そう。偶然だね。答えは、将来欲しいと思ってる子供の数でした」
MC小町は非常に淡々と進行していた。これじゃ盛り上がらないぞ、と思いきや隣のJCは超盛り上がっていた。
「お、おにーさん、野球チームでも作るつもりですかっ。んも~、大変ですよ、そんなに
「あ? ああ、まあ、そうね」
正直、心理テストなどそれほど真剣に答えていない。
そもそも信憑性もない。
真に受けていないので、本当に9人作るつもりもない。よってこのような返事しかできない。
だが、そんなにいたら専業主夫が大変だし、ほとんど妊娠してるから夫婦ともに忙しいのに収入がない。日本政府は少子化対策をする気がないな。まずは俺を支援するべき。
「ま、大変だよな」
「あ、あ、相手だって、そんなに付き合ってくれますかね~?」
ふむ。大家族スペシャルになっちゃう人数だし、産むのはさぞ大変だろう。
「難しいだろうな」
「あ、あたしは、結構好きだから、へーきですよ?」
ほーん。こいつ子供好きなのか。ま、友達がいっぱいいるんだからそりゃそうかもな。こいつ自体、まだ子供みたいなもんだし。
こいつの子供ならまぁ、可愛いのだろう。
「じゃ、できたら見せてくれ」
「ええっ!? 見せるんですか!?」
「おう、楽しみにしてる」
「え? あ? え? でもその、相手がその見せてもいいって言うかどうか」
めぐみは、しどろもどろでぼしょぼしょとそう言った。
あぁ、今はそういうのも厳しいよな。
「まー、うかつにネットに上げるのはどうかと思うがな。知り合いならいいんじゃねえの。親戚とか」
「し、親戚に見せるんですかっ!? こっ、子作りを!?」
めぐみは顔を真っ赤にして頬に両手を当てていた。
どうやら、俺が子供と思っていたものを子作りと勘違いしていたようだな。ええ……。マジで……。
結構好きだからへーきですよ、とか嘘に決まっている。
それに9人子供がいるならそれなりの子作りが必要だろうけど、子作りを見せてくれとか親戚に見せるという発想はない。えっちーずじゃないんだから。
なんと言ったものかと、冷静に思案していると、露骨に不機嫌なため息が聞こえる。
「はぁ~。小町、もういいかな? もう何を見せられているんだとかしか言えないんだけど」
心底うんざりした顔で俺たちを見る小町。何? 俺が悪いの? なんかごめんね?
仕方ない。
俺はめぐみに向き合うとしっかりと目を見て言った。
「あのな、俺はお前の子作りを見せてくれって言ったわけじゃないんだ」
「そ、それって……見るんじゃなくて……あばばばば」
めぐみはなぜか、かおす先生みたいになってしまった。
なんで俺がセクハラしてるみたいになってんだよ……別に興味ないからね? 俺はロリコンじゃないからね?
「で、でも、ちょっと嬉しい、かもです。んふふ」
めぐみはそう言って、真っ赤になった頬を隠すように手をあてたまま、くりくりとした目を輝かせて俺を見上げる。長いまつげや艷やかで桃色の唇が、どうしようもなくそれが子供ではなく女の子だと俺に告げていた。
「そ、それって……ん」
中学一年生相手に、声が上ずった。つばを飲む音も聞こえてしまったかもしれない。
「なーんて、冗談ですよう。本気にしちゃったんですか~?」
俺の鼻をつんと指でつついた後、とててっとリビングの外に向うめぐみ。
後ろ手にノブを掴みながら、んべっと舌を出した後、おトイレ借りますね~と言いながらドアを閉めた。
狐につままれたような顔でぼーっとしていると、特大級のため息が聞こえる。
恐る恐るちらと妹の表情を伺うと、どんぶりいっぱいの砂糖を噛んだようにうぇーっとしていた。
なんか……なんか、ごめんね?