からかい上手になりたい神野めぐみ   作:暮影司

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はじめてのLINE

「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」

 

夏休みにエアコンの効いたリビングでカウチポテトをキメていると、麦茶を飲みに来たらしい小町から真剣な声で依頼された。とりあえず一時停止ボタンを押す。

じーわじーわと蝉の声が窓の外から聞こえる。アイス買ってきて、程度であればもっと気軽なお願いの仕方であり、多少身構える。

しかし世界の妹、比企谷小町のお願いとあれば聞く以外無いのだろう。

 

「なんだ」

 

とは言え、出来ないお願いをされたら困るので内容を確認する。もうニチアサ見るのヤメてとか言われたら困るもんな。むしろ小町も見るべきでプルンス。

 

 

「いい加減、LINEやって」

「何故だ」

「今どきLINEやるのに理由がいると思う?」

「必要じゃないしな」

「必要」

 

どうも怪しい。

そこまで抵抗するようなことではないと思わなくもないのだが、どうも怪しいのだ。

 

「小町との連絡には必要じゃないよな? 誰の差金だ?」

「そ、そういうんじゃないよ。小町のためにも必要なんじゃないかな~」

 

演技が下手!

明らかに誤魔化している。

 

「今ならスタンプもプレゼントしちゃうよ? 孤独のグルメのやつ」

 

なんで孤独のグルメのスタンプなの? そんなに俺にアームロックかけたいの?

それにしてもそこまでして俺にLINEさせたいなんて、ますます怪しい。

顎をこすりながら、冷蔵庫を開ける小町を横目で見やる。

麦茶を一気飲みした小町は、ぷはと息をつくと、ニンマリと笑顔になる。

 

「い、い、か、ら、い、れ、て」

「お、おう」

 

まぁそもそも俺に拒否権など無いのだ。わかっていたことだ。

ぽちぽちと速やかにインストールを行うと、小町がスマホをどーんと見せつけてくる。何? 印籠? 水戸黄門?

 

「早くふるふるするよ」

「は?」

 

何を言ってるんだ?

 

「ともだちになる方法だよ、ふるふる」

 

は?

 

「僕は悪いスライムじゃないよ、ぷるぷる?」

「何それ。何言ってるのお兄ちゃん」

「いや、俺が言いたいんだけど……」

 

ここまで血を分けた兄妹の意思疎通が困難なことある?

困惑している俺にため息をつくと、スマホが奪われた。

何やら端末同士を振っている。何してるのん……?

 

「はい、ともだちになったから」

 

LINEの画面を見ると、こまちという名前が追加されている。

え、今の行動で?

全く理解できないんですけど?

ともだちの追加方法はよくわからないが、ともかくLINEで小町と連絡できるようになったようだ。無料通話アプリということだが、目の前にいるので通話する選択肢は発生しない。

チャットとしての機能の方がよく使われていることは知っている。

試しに何か送ってみようかと思っていると、こまちからスタンプが送られてきた。なんで横山光輝三国志の孔明……? 

 

「ほらね、スタンプとか使えて楽しいでしょ」

「そうだな、でもなんでこの報告は孔明にとってショックだったの……?」

 

一番最初のメッセージがコレっていうことが俺にとってショックだったんだけど?

 

「細かいことはいいの! このスタンプも欲しかったらあげるからさ」

 

LINE始めたばかりだからってやたら優しいな。ラグナロクオンライン始めたばかりのアコライトみたいに手厚く甘やかしてくるじゃん。このままネカマになるまである。

 

「さー、後は連絡だ」

 

連絡とは……?

もらったスタンプをダウンロードするのに忙しく、あたふたしていている間になにか不穏な動きをしているようだ。

よく画面を見てみると、ともだちがもう一人増えているようだった。

めぐみんと書かれている女の子は、神野めぐみだ。あたしって可愛いでしょ? と言わんばかりに横ピースをした笑顔のアイコンだった。まぁ本当に可愛いわけだが……。

こういう画面なのかー、などと確認していると早くも着信。小町ではなく、めぐみんからだ。

 

「小町、ひょっとして俺にLINEさせたいのってめぐみが関係ある?」

「あー、わかっちゃったかー」

 

ぺしっと額を手のひらで叩いた。それがポーズであり本当にバレないようにしているわけではないことはわかる。

 

「まー、ぶっちゃけですねー。めぐみちゃんが私を通じてお兄ちゃんに連絡したり、アポ取ろうとしたり、めんどくさくて……。小町、お兄ちゃんのマネージャーじゃないんで……。小町がアイドルになったらお兄ちゃんがマネージャーするならウェルカムだけど。今の小町的にはちょっとポイント高い」

 

小町の本音がダダ漏れで怖い……。そして小町のシンデレラガールズルートは始まったら確実にPとして馬車馬のように働いてしまうことも怖い……。

軽く戦慄しつつ、通話を受ける。インターフェースは電話とあまり変わらないので流石に操作方法は理解できた。

電話と違うのはビデオ通話が基本なのな。

すぐにめぐみのにこやかな笑顔が表示される。俺の顔を認識すると手を振った。

 

「あっ、おにーさん? 今どんなパンツ履いてるの?」

 

古っ!?

おっさんジョークじゃん。うちの父親が友人との電話でたまにやって小町から冷たい目で見られるやつだ。

しかし一周回って新しいのか、それともめぐみがやれば新しいのか。

神野めぐみなら許されるのだろう。こいつはこういうやつだ。

そして、俺の人生初のビデオ通話がこの会話というわけだ。うん、やはり俺の青春はなにかと間違っている。

しかし俺は優しいお兄さんなので、この残念な会話の始まりでも無下にはしない。

 

「プリキュアに決まってんだろ」

「えーっ!? 大人向けのサイズ売ってるんですかーっ!? 履けるのは幼稚園児までだと思ってました~」

 

めぐみは開いた手を口元にあてつつ、目を丸くした。

俺がプリキュアのパンツを履いているとあっさり信じてしまったようだ。

こいつがアホなのか、俺がプリキュア好きすぎることがバレているのか。多分両方だな!

 

「本当は覚えてねえよ。小町のならともかく自分のパンツなんか興味ねえ」

「へ~。妹のパンツには興味あるんですね~」

 

意外とめぐみは驚いていない。引いてもいない。おかしいな、ウィットに飛んだジョークのはずなんだが。小町の方を見やるとドン引きしていた。そうだよな、そのリアクションが正しいぞ。ジョークだよ!?

 

「じゃあじゃあ、あたしのパンツには興味ありますかっ?」

 

うーん……これって悪魔の質問じゃね? なんて答えても駄目じゃね?

 

あると答えた場合、「おにーさんってえっちですね~」とからかわれる。

ないと答えた場合、「おにーさんってウブなんですね~」からかわれる。

 

これは西片くんだったら顔を真っ赤にして悶絶しちゃうだろうなあ……。

でも、俺は別に中学一年生のニセビッチにからかわれたところでどうということはない。

 

「興味あるって言ったら、見せてくれるのか?」

「ひあっ!? 見せっ!? お、教えてあげるだけですよっ」

 

ちょろいなあ……。

からかうつもりで自爆するパターンが板についちゃってるんだよなあ……。

 

「ほーん。で?」

「で? とは?」

「どんなパンツ履いてるの?」

「んも~、やあっぱり知りたいんじゃないですか~。んっふふ~、なんと! 縞パンです! 白とピンクの!」

「へー」

「えっ!? それだけですかっ!?」

「だって、嘘かもしれないし。俺だって嘘だったじゃん」

 

思った展開と違うのだろう、困ったような素振りを見せる。うーん、ちょっといじめすぎたか?

と思いつつ、からかおうとしてきた相手をからかい返すつもり満々だった。やられたらやり返す。倍返しするの癖になってんだ、俺。新連載「HUNTER X BANKER」にご期待下さい!

 

「その場でスカートをめくればいいだけだぞ?」

「な~んだ、カンタン♪ ってちょっと!?」

「お前、ノリツッコミうまいのな」

「そんなんで褒められたくなかったですよっ!」

 

スマホ越しでもわかるほど顔を真っ赤にしていた。こっちは普通のテンションなので、多少申し訳なくなってくる。いつの間にか小町は居なくなっていた。

 

「あー、あれだ。スカートの中を写真撮って、データで送れば十分だぞ」

「あ~、それならそこまで恥ずかしくないかもですねっ♡」

 

どうやら感覚が麻痺してきちゃったようだな。ここまでちょろいと心配だな……。

 

「じゃあ、一旦通話を切って写真撮りますねっ」

「おう、静止画だとスマホの待ち受けにもできて便利だからな」

「ええっ!? 恥ずかしすぎますよっ!?」

 

そうだよ、えっちな写真なんか人にあげちゃ駄目なの。この機会に学べっつーの。

 

「データで他人に写真を渡すのはリスキーだぞ。友達だと思っててもどこから流出するかわからん。そういう写真を撮ったりすること自体やめておけ」

 

柄にもなく説教してしまった。

お兄ちゃんスキルの発動もいいことばかりじゃねえなあ。

でもこいつ友達多いらしいし、心配なんだよな……。俺が変質者だったら大変なことになってるぞ。材木座みたいに。

 

「でも、おにーさんがあたしの画像を待ち受けにしてくれるのは嬉しいですね~♪」

 

にこぱーっと嬉しそうに笑うめぐみ。

おいおい、パンツの写真を待ち受けにされて嬉しいとか馬鹿かよ……こういうところが心配すぎるんだ。心配すぎて、むずむずと心臓のあたりが痒くなる。それを誤魔化すようにぼりぼりと後頭部を掻いた。

 

「そもそも、何の用なんだ? なんか用事があったんじゃねーの」

 

この話はもう続けなくていいだろう。多少強引だが話題を変える。

 

「あ、そうそう! えっと、もうすぐおにーさんってお誕生日じゃないですか。それで、プレゼントどうしようかな~っていっぱい考えたんですけど、好みとか全然よくわからないし、小町ちゃんに聞いたら本人に自分で聞けばってなって。でも、本人から聞いたものをそのまま渡すなんてつまんないから、一緒に選びに行きたいんですよ~♡」

 

ぷちっ

 

とりあえず赤いボタンを押して通話を切った。

ふ~っ。

思わず顔を抑えた。熱を持ってることが自分でもわかる。

いきなり素に戻るの反則だろ。

すぐに着信音が鳴る。まぁ当然だよな。

 

「なんで切っちゃうんですか~! しかもなんで音声通話なんですか~!」

 

こちらからはめぐみはぷんすか怒っているところが見えるが、俺の表情は向こうには映らないようだ。便利だな、LINE。

 

「すまん、今お風呂上がりで裸なんだ」

「一瞬でお風呂に!?」

 

ノリツッコミをさせることでなんとか誤魔化せたようだ。

ったく、まともに誕生日を祝われたことがないぼっちを舐めるなよ。完全に籠絡するとこだっただろうが……。

 

ビジュアルを伴わない深呼吸は、どうやらため息と間違えてくれたようだった。

 

 




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