――参った。
さすがにこれをデートじゃないと言い切れるほど俺は馬鹿じゃない。
ただ男女で出かけるだけではデートとは言わない。
そりゃそうだ、小町とスーパーにコロッケ買いに行っただけでデートだったら俺はしょっちゅうデートしまくってることになる。
精霊をデレさせるためにすることもデートではあるが、妹の監視下で選択肢を指示されるデートは一般的ではない。デート・ア・ライブの世界は特殊なのだろう、ラノベ脳ではない一般人的には。俺は一般人だ。材木座とは違うのだよ、材木座とは!
デートという言葉を辞書で引くと、デートは英語のDATEから来ている。つまり日時を指定して待ち合わせてどこかに行くことがデートと呼ばれるそうである。
一色とのあれはデート、とは言えない。確かに日時は強制的に指定されたし、場所も指定されて待ち合わせた。しかし、あれは依頼だ。葉山隼人という男と付き合うことになったときの予行練習であり、あれをデートしたと言ってしまっては一色に悪い。
由比ヶ浜と買い物したこともあるが、あれは同じ部活の仲間として同じ部活の仲間である雪ノ下雪乃へのプレゼントを買いに行っただけだ。最初は小町も居たわけで、待ち合わせた時点では3人居たとなるとこれもデートとは言えないだろう。
さて、今回のコレはなんだろう。
俺への誕生日プレゼントを選ぶために一緒に買物に行く。
場所と時間をLINEでやり取りして決めた。
相手は兄妹でも部活の仲間でもない異性。
普通はこれをデートと呼びそうな気がする。
いやいやいや、しかし、待てよ。
相手がもし5歳児だとしたらどうだろう、それはデートとは言えないんじゃないだろうか。
何故か。
それは異性として捉えていないから、恋愛感情に発展しようがないから。
つまり俺が彼女をどう思っているかによってデートかそうでないかが決まるということだ。
そうなるとこの問題は余計に難しくなってしまう。
それはすなわち、中学一年生の美少女である神野めぐみを俺はどう思っているのか、ということだ。
しかも。
しかもだ、彼女がわざわざ俺にいちいち纏わりついてきたり、なんやかんやで会おうとしてきたり、からかおうとしてるけど要するに誘っちゃってる感じ。
こんなのかぐや様は告らせたいだったら、告白している扱いになる行動だ。
つ、つまり。
あいつ、俺のこと、す、す、好きなんじゃ……
あああああああああ!!!
俺はリビングのラグの上でのたうち回った。
恥ずかしいぃいいいいぃぃいいい!
っていうか、普通の恋愛経験がない高校生男子だったら親戚でもない女の子が誕生日プレゼントくれるだけでももう十分惚れちゃうだろ。
それが全然欲しくないものだとしても惚れるだろ。
なのに、散々考えたけど、欲しいものがわからなかったから一緒に買いに行きたいとか言いやがって……。
あああああああああ!!!
思い出すだけで恥ずかしすぎるぅうう!
尺取り虫のような動きをしたり、柔道の受け身みたいな動きをしたりしていると、何やら視線を感じる。
ちらとそちらに目をやると、スマホを持った小町がいた。
「あ、見つかっちゃった」
「何をしている……」
非常に嫌な予感がする。
小町の持っているスマホは赤いランプが点滅しているように見えるところが特に。
「デート前に照れまくって
「めぐみに!? 今の状況を!? なんてことをするんだ!?」
「お兄ちゃんがイケないんだよ? めぐみちゃんが心配して小町に連絡してきたから、ありのままのお兄ちゃんを中継してたわけ」
鬼なの? キュゥべえなの? なんで人間は照れてるところを相手に見られるのが恥ずかしいんだい、訳がわからないよとか言い出しそうなんだけど? まどかみたいな声してるのに……。
愕然として見ていると、小町は更に追い打ちをかける。
「お兄ちゃん、スマホ確認しなよ」
ソファーの上にうっちゃっていたスマホを見ると、LINEにいくつかメッセージが来ている。もちろん全てめぐみからだ。小町とめぐみ以外に連絡先無いしね?
今日、楽しみですね。
もう、準備できてますか。
忘れてないですよね?
おにーさん?
あれ? まだ寝てるんですか?
ひょっとして体調が悪いとか・・・
なんか急用とかだったら全然あたしは大丈夫ですよ?
―ーこの2時間くらいか。
ぼっちの俺にとってスマホは暇な時にポチポチするものであって、連絡が来ることなど滅多にない。
友達の多い彼女からするとこれだけ既読にならないことは不安だったのだろう。
申し訳無さで胸が一杯になるが……。
そんな感傷が出来ないのは、目の前に生暖かい目で見てくる妹がいるからだ。
「ほらね、めぐみちゃん。今の一連の行動は完全にデート直前の恥ずかしさで
「あ、ああ~、そうですね~♪ ほんと、もうおにーさんったら♡」
妹のスマホの奥では、余裕を持った女子ぶってきゃぴるんした神野めぐみがぱちこーんとウインクしていたが、そんな下手くそなからかいが通じるわけがない。
それどころじゃねーんだよ! 単に年下の女の子とのデートの直前で心がわさわさしている俺のことを本気で心配してるとかマジでヤバイだろ!
申し訳無さとか、羞恥とか、照れ臭さとか、正直なところ可愛いな畜生! そんな、ありとあらゆる意味で顔が赤すぎる!
そしてそんな彼女が安心した途端に今までどおりのキャラで接してくれることが有難いというか、こそばゆいというか、ほんわかと心が暖かくなるというか、最初から身悶えしている状態なのに追い打ちが強力すぎだ。
「こ、これから着替えるから出ていってね?」
それだけ言うのが精一杯だったが、当然そのセリフの恥ずかしさは本人もわかっているとおりで。
中学生の女の子達でもふんわりと優しく笑ってしまうほどに、俺は他愛もない男の子に過ぎなかった。
毎回短くて申し訳ないです……。
でもこの悶々とした感じこそ八幡! って感じで書いてて楽しかったですね。
俺妹とのクロスオーバーも書き始めたので、是非そちらもよろしくおねがいします~。