続編希望の要望を受けまして、書いてみました。
もうすぐ駅に到着する。
来てしまったなぁ、デ、デートに。
しかもどう考えても彼女は俺のことが、す、好きなわけだが。
……いや、まだわからない。そう思わせる作戦であり、てってれーという音とともにドッキリの看板を持って出てくる可能性がある。
友達が多すぎるめぐみのことだ、バラエティ番組のディレクターが友人でもおかしくない。
そう思いつつも、俺はもう相手を待たせているのは明確なので、電車のドアがあくやいなや走って待ち合わせ場所に向かった。
「待たせて悪かったな」
「ううん、今来たところですよぉ~」
嘘だっ!!
なんていくら性格がひねくれている俺でも言わないが。今来たところじゃないことは知っている。
「そんなことより、そんなに急いで来るなんてぇ~。そんなに早くあたしに会いたかったんですかぁ~?」
いや、待たせて悪いからだよ。
しかし、悪いと思ってるなら、ここはイエスと答えるべきなんだろうなあ。
「まぁな」
「んふふ、照れちゃって♡」
照れてないっての。
思わず、後頭部をぼりぼりと掻いた。
だいたい、彼女は妹よりも年下の中学一年生なわけで。なんで俺のほうが照れなきゃいけないんだ。
「さ、行きますよっ」
そう言って手を差し出してくるあたり、やはりお子様感がある。小町も昔はよくそうしてきたものだ。今でもたまーにする。
「おう」
手を出すと、一度普通に握ってから、すべての指を絡ませるように握り直した。随分とがっちり手を繋ぐのね。小さい手だから離れて迷子になっちゃうかもしれないからかしらん。
「おにーさん、これ何ていうか知ってます?」
「は? これって?」
「これですよ、こ、れ」
彼女は右手を高く上げて、俺の左手とがっちり握りあった部分を見せてくる。
「ささくれ?」
「いえ、おにーさんの親不孝の話ではなく」
「ちょっと? それは迷信だからね?」
うにうにと俺の右手が握られる。こんな他愛もない会話が楽しくて仕方がないといった様子で。俺をからかいたいならそういうのは隠せ。純粋に可愛いだろ。
「で? 答えは何だったんだ?」
「ああ。えへ。この手の握り方なんですけど、恋人繋ぎって言うんですよ」
なっ――!?
道理で小町とはこんな握り方したことないはずだ。なに、世の中の恋人たちはこうしているわけ? リア充爆発しろ。何、俺? 俺のことはほっといてくれ。
「あはは、おにーさん、こんなこと言われたくらいで何もそこまで恥ずかしがらなくってもいーのに」
恋人繋ぎってネーミングが恥ずかしいっての。大体恋人って言葉がもうヤバイ。お口の恋人ロッテというキャッチコピーですら恥ずかしいまである。ロッテのおもちゃ!だったら恥ずかしくない。
「困っちゃいますね~、どっからどう見ても恋人同士ですよぉ~?」
何一つ、びた一文、困っていない口調だった。恋人繋ぎにした手をぶんぶんと振っているところが恋人っぽくないので残念ながら恋人同士には見えないと思われる。でも恥ずかしい。相手が川なんとかさんの妹のけーちゃんだったら微笑ましいだろうけどね!
「じゃあまずはスタバで休憩しましょっ」
「えっ」
こいつらってなんですぐ休憩したがるの? 薬草より宿屋の方が安いから?
そしてなんでスタバに行きたがるの? 意識高い系なの?
なお、こういうときに反論なんてする権利はない。あと休憩っていうと普通なのに、ご休憩って書くとときめくのはなぜですか? ときめきの魔法なの? 教えて、こんまり先生。
「マックスコーヒーフラペチーノのグランデ一つで♪」
何っ!? 話が変わった! なんというコラボしてやがるんだスタバ! そしてナイスチョイスだめぐみん!
「じゃあ俺もそれで」
「いいい、いらないですっ」
わちゃわちゃと店員にキャンセルをかけるめぐみ。なにこれ、サンドウィッチマンのネタ? 二つ来ちゃうぜ、って二人で二つ。別におかしくないぞ。
めぐみは俺の耳たぶを軽く引っ張って耳打ちをしてくる。
「こういうとこのスタバは人数分買わなくても大丈夫なんですよっ。大きいの一つの方がオトクですから」
ほーん。そういうものか。確かに高いよな。マッ缶五本くらい買えそうだ。
しっかし二人で一つしか買ってないのに、スタバはやたらニコニコしてるな。いやむしろ、まるでアツアツのカップルを見てるようにニヤニヤしていると言ってもいいね。どこぞにバカップルでもいるのかな。
めぐみは片手でスマホで電子決済したり、フラペチーノを受け取ったりと不器用そうにやっている。なんで両手を使わないんだと思ったら、俺とがっちり手を繋いだままだからだ。どうやらバカップルは俺達だったようだな? そりゃみんな苦笑だよ。あたしゃ恥ずかしいよ……などと思うまるこであった。
俺がキートン山田のナレーションをしている間に、そのままテーブルに連れて行かれて、がっちりホールドされている手もテーブルの上に。なるほど腕相撲でも始めるのか。それとも「いっせーのせ」ゲームでもするのかな。この上げた指を当てるゲームは千葉市の中ではチョムチョムとかチョメチョメと呼ぶやつらもいる。山城新伍は関係ない。
「んふふ、手、外さないんですねっ」
ちょっと? 俺が選択肢を選んだかのように言うのやめてくれる? 繋がれた手を振りほどけるほど勇気がないだけだよ? 僕の魂ごと、離してしまう気がするから。
とはいえ、なんか理由があれば外せるか。
「手汗をかいてきたからもう離すか」
「気にしないから大丈夫ですよっ」
えっ、手汗はほんとにかいてるの? 方便だったんだけど? マジで離してくれ……。
めぐみは空いている方の手でフラペチーノを握ると、俺の口の方へストローを向けた。あー、先に俺に飲ませてくれるのか。後でストローを交換するんだな。
甘い! 冷たい! 美味い!
さすがスタバだ、さすがマックスコーヒーだ。まるでパピコみたい。あれ? じゃあパピコでよくね?
そんなこと言っちゃうとすべて台無しだということはわかるので率直な感想を述べておく。
「うまい」
「ど~れどれ」
ぱくっ。
ずーずー。
「ぷはっ、おいしー」
俺は口をぽかんと開けていた。当然のごとくに俺が使っていたストローを使用して飲んだんだけど? なんで? ねえなんで?
ストローが二本刺さってるのを二人で使うよりは全然恥ずかしくないことはわかったけど。
開けたままの口を催促と捉えたのか、鳥の餌付けのようにストローが口に突っ込まれる。
ちゅーちゅー。
やはりうまい。
ずーずー。
ちゅーちゅー。
ずーずー。
ちゅーちゅー。
片手は繋いだままで、間接キスを繰り返していた。俺達、ほんとに爆発したほうが良いんじゃないの? いや、これはあれだから。美味いマックスコーヒーフラペチーノを極めてリーズナブルに平等に楽しんでいるだけだから。間接キスとか誰も気にしてないから。そんなこと言ったら意識しすぎてキモいって言われちゃう。ふー、自意識過剰ルートの回避成功。
こいつもあれだろ、女友達とかと普段こうやってるんだろう。だから平気ってわけだ。俺はぼっちだから慣れてないだけ。ホントだったら男友達とこうしててもおかしくない。戸塚とか。ええっ、何それ平常心では居られない!
「なんかもう、間接キスなんて慣れてきちゃいましたねっ?」
いやそこまで慣れてないし。でもこんな普通にストローを使い回すなんてことはイジリーに進化した俺に比べたら大したことないのだろう。自分で撒いた種というやつか。
異常も、日々続くと、 正常になる。
――戦場のメリークリスマスだったか。
ってそんな壮大なストーリーではない。ごく普通の千葉にあるスタバだ。ベビーカーを押している妊婦さんが休憩しているようなのどかな風景だ。
「こうしてるとぉ~、まるで新婚さんみたいですねっ?」
――は?
何を言ってるのかな?
こういうのを意識しないってのは彼氏彼女の間柄より手前の友人関係だと思ってたら関係が先に行ってたのかよ。
「俺はまだ慣れてないぞ」
「それってぇ、まだあたしのこと、女だと思ってくれてるってことですかっ?」
「なにそれ? 熟年夫婦の会話?」
関係性があまりにも急上昇しすぎだ。ジンバブエ・ドルも真っ青のインフレだろ。しかし、そんなことを言われながら、繋ぎあった手を握られたり、潤んだ瞳で見つめられたりすると八幡困っちゃう。
ここは大人らしく振る舞う方がいいだろう。西方くんはどうしてああもカンタンに振り回されるのかって? 坊やだからさ。
ただし、長瀞さんにイジられた場合はうまくこなせる自信は全くない。
俺は妻を気取った中学一年生に仰々しく肩をすくめてみせる。
「フッ、俺をからかって楽しいか?」
「楽しいですよぉ~、とっても」
「そりゃよかったな」
どうだ。この大人の対応。
さり気なく横を向いて視線を逃したのは、クールさを醸し出すためであって、決して彼女の笑顔が眩しくて見ていたら恥ずかしくて仕方がないからではない。
「誕生日プレゼント、何がいいですかーぁ?」
「あ、ああ。なんでもいい」
突然の質問を受けて、窓の外をぼんやりと見ながら生返事。そういやそれが目的だったな。
「ほーらねっ」
「何がほーらねっだ」
「永年連れ添った夫婦みたいじゃないですか。今のやりとり」
かーっ。
俺はルパンがろくでもないことを言い出したときの次元大介のように顔を抑えた。この女は峰不二子よりも厄介だ。少なくとも俺にとっては。
連れて行かれた店は、意外過ぎることにメガネ屋だった。
「めぐみ、俺は目が悪いわけじゃないんだ。目つきが悪いだけだ」
「知ってますよっ♡」
人間、すべての言動が賛同して欲しいわけじゃないのよ? 否定が優しさになることもあるのよ?
そもそもそこまで目つきは悪くない。腐ってるだけだ。
握られた右手を引っ張られ、少しかがむと視界が暗くなった。
「何これ?」
「わーっ、想像以上ですね~っ」
めぐみは鏡を見せてくる。
そこに映っていたのはHACHIMANバジーナであった。
「だから何これ?」
「ん~、はっきりいって臭いものに蓋っていうか。目が死んでるならサングラスっていうかぁ~。これって凄くないですか~? 目が隠れただけでこの違い!」
知らんがな。
だがな、これほど言ってることがボロクソでも、似合ってるって思ってることくらい伝わっている。死ぬほど恥ずい。今まで目が死んでいることを指摘した人物は数知れないが、そこを克服したらどうこうなんてことを言ったやつはいない。
「これをプレゼントしたいなぁ~って思うんですけどぉ」
「……好きにしろ」
「はいはい、おじいさん。お似合いですよ」
なんで俺はたった一日で神野めぐみのトゥルーエンドを迎える羽目になったんだよ。
レジを終えたプレゼントをそのまま着用しての帰り道。
「お返し、期待してますからね」
「お前を更に可愛くするのは難しそうだな」
「弱点が無いですモンね」
「そうだな。これ以上可愛くなるのは不可能かもな」
「そうですね~っ、んふふ」
「お前も照れて恥ずかしくなってのたうち回ったりしろよ……」
「も、だって。も」
きゃーきゃー言いながら俺たちは帰った。
うっかりサングラスを付けたまま家に帰ると、小町がにや~っと笑った。
「ふぅ~ん。そのサングラスをめぐみちゃんがねぇ~」
かぁ~っ、恥ずかしい。小町さんめ。
めぐみよ、これが正しいからかいかただ。
やはり神野めぐみのからかい上手は間違っている。