4人は二手に別れた。
時雨は公園。
叶彗とウィルバーは先程の小鬼が気がかりだった。
雅司の案内の元、墓場へと向かう事になったのだ。
公園は廃れていた。
錆びたブランコと滑り台。
幾つかのベンチがある程度。
そしてベンチにはさきほどの紅璃によく似た少年が1人座っていた。
腕には包帯を巻き、頬には青アザができていた。
「少し、いいかな?」
時雨が話しかける。
それに気づいた少年は逃げ出そうとする。
ただ、機敏に動いたせいか、腕に痛みがあったのか足を止めてしまう。
その間に時雨に回り込まれてしまった。
「どうしたの?その怪我」
「関係ないよ!」
「見せてみて」
そう言って時雨は包帯を解き、治療し直し、新しい包帯を巻き直す。
「ありがとう。お姉さんは他の大人とは違うんだな…」
「どういたしまして。他の大人って村の人達?」
「みんな目が変になっちまってんだ。父ちゃんもなんか変だし…」
「お父さん?」
「ああ、俺の父ちゃんは村で神主をやってんだ」
そう言った少年は自身の名前が
雅司から聞いていた神主と同じ、苗字。
それに鍵のかけられた蔵を開けられる子どもとは紅太のことだろう。
神主の息子なら自宅に蔵の鍵もあるだろう。
それとなく聞くと自身が本を盗んだことも話した。
「なんで本を盗んだの?」
「あの本がなけりゃ、姉ちゃんが儀式なんてしなくていいと思ったからさ…」
儀式をするだけ。
舞を踊るだけ。
祝詞を読み上げるだけ。
文字にするなら簡単だが紅太からするとそれは非常に重い出来事だった。
「子供は見たらダメだって言われたんだ。けど、オレ……どうしても母ちゃんが舞を踊るところを見たくてこっそり見に行ったんだ。そしたら…」
彼の母親。
つまり、紅璃の母親でもある彼女は病死などでは無かった。
紅太の話によると、舞の最中に血涙を流し、錯乱したように喚き、倒れ伏し、絶命したという。
その時の彼女の体は無数の刃物で切り刻まれ、食いちぎられたような痕が見えたという。
しかし、神主である父親や村人たちは母を「病死」とした。
警察沙汰にせず、埋葬されたというのだ。
「母ちゃん…あんな死に方したのに、事件にもならないし、誰もその話に触れない…」
「父ちゃんも、おかしくなってんだ。それもこれも全部蔵であの本を見つけてからなんだ。だからあの本を燃やして捨ててやろうって思ったんだ」
本が無くなれば村は元に戻って、紅璃も巫女をやらないで済むと考えた。
祭具の運び出しで人がいないうちに蔵に忍びこんだ紅太。
本の中身には『舞によって呼び覚まされた鬼の魂は巫女に宿り、一体化する。しかし、力なき巫女は鬼に食い殺され、息絶える。鬼の意志に勝てる者は、鬼を封じられる』と書かれていた。
「あの本に書いてある鬼が母ちゃんを殺したんだ。オレは危ないから巫女なんてやめろって言ったんだ。だけど逆にやる気になって……本を燃やそうとしたら何故か腕が刃物に切られたみたいになって、それで父ちゃんにも見つかって……」
そういって青く腫れた頬を撫でる。
「その時に本は父ちゃんに取り上げられたけど、舞台には河原から近づけるんだ。こうなったら力ずくでも儀式を……つぅっ!」
そこまで言って紅太は腕の痛みと切り裂かれた恐怖を思い出す。
その体の周りには赤い肌の醜い小鬼がたくさん集まってきていた。
時雨は小鬼達を払い除ける。
その時に刃で切りつけられてしまった。
痛みもある。
しかし、流れ出るのは血ではなく、あの記憶。
嫌な気持ちを時雨に抱かせる。
払いのけられた小鬼たちは草むらなどに飛び込み、姿を消す。
紅太はどうにか落ち着きを取り戻すがかなり錯乱気味だった。
時雨は紅太の近くで落ち着かせようとそばにいる。
これでは、少し足を取られてしまう。
でもここを離れる訳にもいかない。
「あちらは大丈夫でしょうか…」