星のカケラの導き   作:ロクサス

1 / 3
ハーメルンからディズニーの規制が消えていたので作ってみました。

あらすじにも書きましたが、KHⅢのネタバレにお気をつけください。


プロローグ

窓から差し込むやわらかい光を受けて、ゆっくりと瞼をもちあげる。デジャヴな感覚にうっすらと笑みを浮かべて少年…ロクサスを身体を起こした。

かつての自分はこの後、ボソリとこう呟くのだろう。

 

『また、あいつの夢だ』と。

 

「ソラの夢…毎日見てたよな」

 

かつて自身が見ていた奇妙な夢。青い海、青い空が印象的なその夢に、いつも屈託のない笑顔を浮かべる男の子がいた。

 

全てが終わった今ならば理解することができる。

 

無論、痛みは忘れていない。

 

懐かしい時計台。甘くてしょっぱいあのアイス。2人の親友。3人の友達。

 

『機関に消されちまうんだぞ!?』

 

ネオンばかりが明るい街で、過ごした記憶。

 

『ダメだ…シオン。また3人でアイスを食べよう…?』

 

自分が何者なのか、ソラとは誰なのか、自らの存在理由を模索した記憶。

 

とても長い時間がかかった。それこそ、ロクサス自身は納得していないながらも自らの存在を諦めかけていた。それでも、諦めなかった男の子とロクサスの帰還を待ち続けた親友によって彼の存在は繋ぎ止められ、復活することができた。

 

過去の悲しみはゆっくりと癒されている。

 

全てが元に戻った。

 

レプリカという新しい身体を得て、黄昏の街(トワイライトタウン)に帰ってきた。トワイライトタウンは何も変わらずにロクサスのことを出迎えた。

 

いや、少々変わった点もあったりなかったり…。

 

不思議なシェフの料理屋さんができていたり、いつの間にか大きなシアターができていたり。

 

この街にロクサスが帰ってきてから1ヶ月ほどの期間が過ぎようとしている。親友2人が隣にいることの喜びを噛み締めながら…自分が存在していることを実感しながら、ロクサスはトワイライトタウンで生活していた。ハイネ、ピンツ、オレットの存在も忘れてはいない。データの世界で友人だった彼らとも、現実の世界で絆を結ぶことができた。

 

毎日一緒に行動しているわけではないが、大きなイベントがある祭には彼らも側にいることが多い。

暴走するハイネを止める役割をロクサスは担っている。わかりやすく言うならば、サイファーへのカチコミを阻止する役割である。

 

親友のアクセルとシオンとはほぼ毎日共に過ごしている。特に何をするわけでもない日常を謳歌している。次の大きなイベントでは3人だけで海に行く計画を建てている。青春なんて言葉は似合わないが、ハイネ曰く、『女の子と出かけるなんて、これが青春じゃなくてなんと言う!』らしい。3人だけとは言ったものの、『俺たちを除け者にすることはできないぜ!』なんて言ってハイネグループが参加することは目に見えている。

 

アクセルとピンツの頭の対決はすでに始まっているのかもしれない。

 

ベッドから立ち上がり大きく伸びをしてから、着替え…ようとして私服をつかもうとした手を止めた。ロクサスの視線の先にあるものは、ハンガーにかけられている真っ黒なコート。

 

最後の戦いの時に身につけていたそのコート。ⅩⅢ機関と呼ばれた組織の服装でもあったそのコートに酷く懐かしい感覚を覚える。この街に帰ってきて以来、このコートを着ることはなかった。

戦いでついていた汚れも、シオンとオレットに説教半分に洗濯されたことは、この街に戻ってきてすぐのことだが、記憶に新しい。

 

このコートを着ることはしばらくない…と思っていたが、気分で着てみるのも悪くない。懐かしい目覚めをしたからだろうか、なぜだか今日は過去を振り返ってみるのも悪くないとロクサスは感じた。親友のアクセルとシオンに会ったら笑われそう予感がしたが、それはそれだ。ロクサスから言わせれば、私服を着るようになったアクセルとアイザよりも可笑しく思うことはないだろう。黒コートがあまりに似合いすぎていた彼らに、ロクサスは違和感しか感じなかった。2人が私服で現れた時には、シオンと2人で笑ったものだ。

 

とにかく、今日はこの黒コートを着よう。

 

なぜかそう感じたロクサスはⅩⅢ機関のコートに袖を通す。Xの文字の形をしたネックレスを身につけることも忘れない。

 

鏡で懐かしい自分の姿を確認して、外へ出る。

 

時計台から溢れる暖かな日の光に目を細めながらロクサスは何度も通ってきた街中を歩く。データのトワイライトタウンと現実世界のトワイライトタウンに目立った差異はない。いつもなら溜まり場(いつもの場所)を足早に目指すのだが、真逆の方向へと歩みを進める。

 

別段、今日は何かする約束もなかった。

 

トワイライトタウンの大きな門をくぐり抜け、緑で溢れた郊外へと出る。しばらく森のように木が並び立つ薄暗い道を通り過ぎたその先にある大きな屋敷。ロクサスはそこへ向かっていた。

 

幽霊屋敷。

 

トワイライトタウンに住む者で、この屋敷を知らない者は少ない。トワイライトタウンに伝わる七不思議を知らない者は多いが、幽霊屋敷の話を知らない者は少ない。

幽霊屋敷と呼ばれるのにはもちろん、理由がある。古びた古風の大きな屋敷。そこには誰も住んでおらず、今では空き家となっている。誰も住んでいないはずのこの屋敷の2階の窓から女の子の姿が見えるという…そんな噂だ。

無論、幽霊であるはずもなく、本当に女の子がこの屋敷に居たことをロクサスは知っている。

 

そうして、この屋敷でロクサスの夏休みが終わりを迎えたことも。

 

幽霊屋敷の門に視線を移す。

 

全てはここから始まった。

ロクサス自身は覚えていないが、生まれ落ちたロクサスはここで存在の証(名前)を与えられた。ロクサスと繋がる男の子…SORA(ソラ)に異端の文字を付け加えられ、ⅩⅢ機関へと身を投じた。いくつもの出会いと別れを繰り返し、心とは何か、ソラとは誰なのか、自分は何者なのか、喜びや悲しみとともに物語は進んでいった。

 

屋敷の扉に手をかけようとしたとき、足元に何かが落ちているのに気づく。

一部が欠けた水色の星の形をした何か。流れ星を表現するように黄色い尾がついている。

星の形をした何かを拾い上げ、探るように確認する。柔らかくはない。石のように硬く、握りつぶせそうにはない。

 

不思議な石だ。

 

まじまじと不思議な石を見つめる。

 

(あとでアクセルとシオンに見せよう)

 

ピンツに見せたら『研究してみたい!?』と言いそうだ。想像が難しくない様子にクスリと微笑んで今度こそ扉に手をかける。だが、またしてもロクサスが扉を開けることは叶わなかった。

 

「ロクサス?」

 

不意にかけられた声に振り向く。

振り向いた先にいたのは、ロクサスに微笑みかける袖のない黒い服とスカートに身を包んだ黒髪の少女。

 

かつて自身が傷つけ、消滅してしまった彼女もまた、ロクサスと同じようにこの街へと帰ってくることができた。

 

「シオン」

 

驚くロクサスにシオンも驚いた様子でゆっくりと近づき、ロクサスの周りをゆっくりと一周したシオンは黒いコートの一部を摘む。

 

「機関のコート着てるの?なんだか久しぶり」

 

「シオンとオレットに洗濯されて以来かな」

 

洗濯してもらって(・・・・・・・・)…でしょ?」

 

諌めるように言うシオンにロクサスは苦笑いを浮かべる。あの時の2人の表情には有無を言わさない何かがあった。もう1人の親友であるアクセルが何度も首を縦に振る程度には凄みがあった。

『そうとも言う』と呟くロクサスの手に握られている不思議な形をした石に気づいたのか、シオンが指差す。

 

「それは?」

 

「ここで見つけたんだ。不思議な石だろ。あとでみんなに見せようと思って」

 

「ピンツに見せたら、喜びそうだね」

 

「同じこと考えてた」

 

お互いにクスリと微笑み合う。手に握り締められた星の形をした石を太陽にかぶせるようにかざす。一部は欠けているが、確かな星の形。そして流れるような黄色い尾を見て、改めてロクサスは思う。

 

「流れ星みたいだよな」

 

ロクサスがそう呟いた直後だった。

 

眩い光がロクサスの視界を真っ白に染め上げる。甲高い音が一度鳴り響いたかと思えば、弾けるような音と共に、身体がふわりと浮き上がる感覚に襲われる。

 

「ロクサス!?」

 

スキップをするようにリズムを踏みながらロクサスの身体を振り回し、石とロクサスは空を駆ける。

相変わらず視界は真っ白に染まったまま。だが、自身の身体が確かに空を飛んでいることをロクサスは感じていた。遠くから自分を呼ぶシオンの声が聞こえる。

手を離して落下することなど造作もない。だが、手を離そうにもなぜか握りしめた不思議な石を手放すことができなかった。ロクサスの手が離れること不思議な石が(・・・・・・)拒んでいるのだ。

 

それはまるで、石がロクサスをどこかへと誘っているよう。

 

弾けるように駆ける石は止まることを知らず、ただひたすらにどこかを目指すように見えない階段を上っていく。眩しさに堪えながら、なんとか下を向いたロクサスの瞳に見えたのは、玩具のように小さくなったトワイライトタウン。更に高度を増していくにつれて、トワイライトタウンの地形が変化していく。

平らに見えていたはずのトワイライトが球体へと変わっていたのだ。球体の周りはオーロラのように揺らめいている。星のように煌めくいくつもの点が、トワイライトタウンの球体を照らしていた。

 

恐らくはロクサスの周りもこの景色になっているのだろう。

 

状況に見合わない感嘆の声を漏らしたのは一瞬だった。上昇していたはずの不思議な石が、突然急降下をし始めた。ふわりとした感覚とともに、ロクサスはどこかへと落ちていく。

 

一瞬、ロクサスは奇妙な感覚に襲われる。

 

どこか懐かしい。

だが確実に闇の回廊とは違う…世界の壁を越える感覚だった。

 

最後に見えたのは、トワイライトタウンのように球体状になっている巨大な鋼鉄の城だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。