星のカケラの導き 作:ロクサス
データの世界で剣をぶんぶん。
ロクサス入れやすいかなとか安直に思ってしまったんです…。
黒の少年、白の少女
この世界に存在するのは現実世界となんら変わることのない空や湖、人々。変わる部分があるとすれば、世界観やモンスターと呼ばれる怪物がいることくらいか。
『これはゲームだが遊びではない』
このゲームの製作者、茅場晶彦が放ったこの一言に多くのゲーマーが沸き立った。
俺自身も例外ではない。メディアを含めた大勢の人が一斉に取材を開始し、開発者を含め、そのゲームは大きな話題をよんだ。話題が話題を呼び、正式サービスを待たずして、誰もがゲームをプレイしてみたいと心を躍らせた。
開発者の台詞の本当の意味を理解するまでは。
ソードアート・オンラインと名付けられたこのゲームはゲーム界を激震させた。フルダイブシステムと呼ばれるVR技術を駆使して、プレイヤーは世界の中で自由に動くことが可能となった。視覚、聴覚、嗅覚といった現実世界となんら変わらない五感を再現することの難しさは想像を絶するものに違いない。現に、この偉業を達成した者は、茅場晶彦その人しか存在しない。
プレイヤーは、文字通りゲームの主人公となって、一人称の視点から思った通りに身体を動かすことができる。
それはもはや、もう一つの肉体を得たと言っても過言ではない。
βテストを経て、発売されたソードアート・オンラインは瞬く間に売り切れた。購入できたプレイヤーはサービス開始が始まる日時を心待ちにしながら過ごしたことだろう。だが、プレイヤーはすぐさま絶望に落とされることとなる。
『諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間…諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』
プレイ開始から僅か1時間後、このゲームはデスゲームと化した。
このゲームを作り上げた茅場晶彦の望みはなんだったのだろう。もしかすると、この状況こそが、彼の作りたかったものなのかもしれない。
眼前に迫る光を浴びた剣を冷静に対処し、息を吐く音と共に握りしめられた剣を喉元に突き刺す。緑色の光沢を放つ鱗は爬虫類そのもの。違和感を感じるならば、それはこの爬虫類が人型をしていて、2足歩行をしているからだろう。人によっては、気持ち悪いとすら感じるだろう。
突き刺した剣を思いっきり横薙ぎし、爆散させ、背後に迫っていたもう一体の
全てが終わった後に残った者は、黒ずくめの黒髪の少年とリザードマンの残骸とも言える小さな四角い光の破片。手を器用に回し剣で円を描き、背中の鞘へとしまう。
ここは、データが全ての世界。
人の身体、敵、景色。全てがデータによって形作られた幻想の城。
その城の名は、浮遊城アインクラッド。
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不思議な石とともに辿り着いたのは薄暗い場所だった。今立っている細い通路は随分たい場所にあるらしく、下は真っ暗で何も見えない。ソラの記憶で見た、オリンポスの冥界に似ているかもしれない。
一つ確実に言えるとすれば、別の世界へ移動してしまったことだろう。
ここはトワイライトタウンとは別の世界。
世界を越えること自体は何度も経験をしている。簡単に世界と世界を行き来することはできないが、ロクサスを含めたⅩⅢ機関と呼ばれるかつての組織は、闇の回廊と呼ばれる特殊な方法を用いて世界と世界を行き来していた。ソラと呼ばれる少年は、グミという特殊な素材を用いて作られたグミシップに乗って移動をしていた。その他にも世界間を移動する方法はあるのかもしれないが、今回移動してきた方法は極めて異質だとロクサスは感じた。
行きたい場所を念じたわけでもなく、ただ不思議な石が強引にこの場所へと連れてきたのだ。不思議な石が光りだした時と同じように、ロクサスは頭上に不思議な石を掲げてみる。
だが、不思議な石は何も反応しない。
この薄暗い空間は洞窟の何かで天井に覆われている。状況が違うとすれば、青い空が見えないことか。
何度か試してみたものの、石はやはり何も反応しない。トワイライトタウンに帰る方法はわからない。そもそものところ、この不思議な石は、一体何に反応したというのか。仮にこの石が光りだしたとしても、また別の世界に飛んでいってしまう可能性も否定できない。
現時点での解決は不可能。もっと言えば前途多難な現状。
ロクサスの脳裏に浮かぶニヤニヤしながら計画を立てるアクセルと部屋に飾ってある貝殻を手に取るシオンの姿。
「海、またすっぽかしちゃった」
今度こそと思っていた海に行く計画。
頭を掻いてため息を吐く。
迷惑をかけている以上、一刻も早く戻らなくてはならないことは確か。ロクサスは慎重に薄暗い道を進み始める。
歩き始めてわかったことがいくつかある。
この世界はオリンポスの冥界ではないということ。同時に、闇の世界でもないことがわかった。仮にここがもしも闇の世界だとすれば、すでにハートレスに襲われている。
暗く細い道は一直線にどこかへと繋がっているようで、どれだけ歩いても枝分かれする道にたどり着くことはなかった。一直線の道ではあるものの、螺旋階段のような作りになっているせいで、先を見据えることはできない。確実にいえるのは、どこかを目指して上っているということだけ。
その他に道中であったことといえば、途中からだだっ広い円形の足場が立ち並ぶようになり、不思議な淡い光のせいもあって荘厳な景色へと変化していた。一寸も違わず等間隔で並べられているだろう円柱。一体だれが作り上げたのか、円柱には見事しかいいようのない彫刻が施されている。その彫刻が不気味であるとはいえ、見事なことには変わりがない。
何かに近づいている。
宝箱だろうか。それとも強大な敵だろうか。
「…なんだ?」
立ち止まり、青い瞳を細めてロクサスは耳をすませる
円柱が並び立つ奇妙な回廊に、先ほどまで自分の足音以外に音はなかった。おかしいことに
「戦ってるのか?」
空気を裂くように聞こえてくる音。その正体をロクサスはすぐに理解した。なんということはない。彼自身も、幾度となく聞いたこの音。金属と金属がぶつかり合う音に間違いない。時折なる甲高い音は、十中八九、剣で相手の剣を逸らす音だろう。
一瞬の光とともに、2本のキーブレードを出現させる。右手には黒を基調とした
薄青い光に照らされた螺旋状に並べられた円柱を走り抜ける。どれだけ走り抜けても周りの景色は一向に変化はしない。円柱の上という足場も変わらない。だが、走れば走るだけ、戦闘の音は激しさを増していく。音からして、1対1ではない。1対複数か、複数対複数。
そうしてようやくたどり着いたその場所にいたのは、黒ずくめの少年と白を基調とした鎧を見に纏った少女。
なによりも目を引いたのは、彼らが戦っていた相手だった。
血色の悪そうな緑色の鱗に細く長い舌、二足歩行で地に足をつけ曲刀を握りしめたその形相は、正しくトカゲ男と呼ばれるもの。トカゲ男の右上には黄色の奇妙な棒線も見える。
奇妙ではあったものの、ロクサスが注視したのはそこではない。
トカゲ男の目。
基本、爬虫類とは鋭い瞳孔を有していることが多い。しかし、このトカゲ男の目はなぜか丸く黄色い。
ロクサスの脳内に導き出された答えは1つ。
心なきもの…ハートレス。
生きている限り、誰しも必ず心には闇が存在する。人の心というものは曖昧だ。決して目に見えるものではない。
しかし、存在するのは確か。
ハートレスはそんな心の闇を具現化した存在といえる。
ハートレスの目的は、全ての心の集合体と呼ばれるキングダムハーツへと還ること。心を持たないが故に、彼らは一心不乱に目的を遂げようとする。結果として、世界が闇に消え去ってしまうこともあると言われている。
改めて気を引き締めて一気に距離を詰め、黒ずくめの少年とトカゲ男の姿をしたハートレスの間に跳躍し、左手に握りしめられた約束のお守りを一閃する。
「は?」
どこか間の抜けた声が背後から聞こえてきた。声の主は少女ではなく少年だろう。一瞬でトカゲ男のハートレスを1体屠ると、困惑する少年と少女をよそに、改めて戦況を確認する。
ロクサスは器用に2本のキーブレードを回転させて、構え直し、トカゲ男のハートレスを睨め付ける。
「2本!?」
残りのトカゲ男の数は4体。
驚きの声をあげた黒ずくめの少年と白の鎧を着た少女に怪我はないように思える。
「怪我はない?」
「怪我? HPに余裕はあるし、状態異常もついてないから問題ないけれど…あなたは?」
「HP? 状態異常? いや、今はこいつらを蹴散らそう」
「まあ、その通りだな」
後ろで2人が武器を構えたのを気配と音で感じ、2本のキーブレードを引きずりながら駆け出す。トカゲ男が振り下ろす曲刀を2本のキーブレードをクロスさせて受け止め、力一杯弾き返す。ノックバックをうけたトカゲ男がよろめきながら数歩後ずさる。その隙を許さず、2本のキーブレードでX字を描くように斬りつける。
トカゲ男の右上にあった黄色棒切れが目に見えて短くなる。
更に追撃すべくロクサスがキーブレードを振りかぶったとき、突然変化は起こった。
「なにやってるソードスキルだ!? 下がれッ!」
黒ずくめの少年の怒号の後、待っていたかのように嘲笑う表情を浮かべたトカゲ男の姿が、突然残像を残してブレる。同時に、トカゲ男の曲刀が突然赤い光を纏い、異常な速度で繰り出された。先ほどの動きからは予想することが不可能な洗練された動き。動き始めから終わりまで一切無駄のない動きだった。
ほぼ独学のロクサスから見ても、洗練された達人のような動きだと認知できた。
だが、ロクサスは見事にソードスキルと呼ばれる技を対処してみせた。ほんの一瞬で、トカゲ男から放たれるソードスキルと呼ばれる技の範囲外まで下がったのだ。側から見た少年と少女には、瞬間移動したようにすら見えただろう。
今までの戦いでは、瞬間移動まで使い背後を取る、或いは目の前に現れる敵と戦い続けてきたのだ。驚きはしたものの、この程度の速度、しかも眼前に迫ってくるだけの攻撃など難なく躱すことが可能だった。
ロクサスが無事避けたことに安堵した様子の2人は、それぞれが1体のトカゲ男を相手取っていたが、2人とも青い光を放つ剣技で圧倒していた。明らかに戦い慣れている様子の2人に今日何度目かわからない驚きを感じながら、過ぎ去りし過去と約束のお守りによる連撃でトカゲ男を圧倒する。
再度吹き飛んだトカゲ男にロクサスは右手の過ぎ去りし過去をブーメランの要領で投げつけ、追撃する。
そこで、ロクサスは奇妙なものをみた。
ハートレスをキーブレードで倒すことによって、ハートの形をした心が解放される。心が解放されないハートレスももちろんいる。だが倒したときに例外はなく、闇に溶けるようにその身を消滅させる。
だが、今回は違った。
トカゲ男の身体が突然光り始め、小さな光のカケラを放ちながら散っていったのだ。その光景は、過ぎ去りし日、シオンが一度ソラに帰ったときによく似ていた。
戦闘が終わったことを確認し、キーブレードを光とともに消失させる。ロクサスが振り返ったそこにいたのは、まじまじとこちらを見つめる2人。彼らの視線はロクサスに向いているようで、どうやら違うらしい。具体的にいうならば、ロクサスの少し上…頭上辺りが適当だ。
「キリトくん、これって…?」
「ああ、間違いない…NPCだ。なにかのクエストが始まったのか? だけどクエストフラグは建ってない。受注画面もなし。さっきのリザードマンもどこかおかしかったし、バグか?」
「…NPC? クエストフラグ? バグ? なんのこと?」
顎に手を当て、何かを考える黒ずくめの少年。そんな少年の肩を、少女が軽く小突く。
「そうやって直ぐに考えないの。彼、困ってるじゃない。私はアスナ、よろしくね」
我に返ったようにブンブンと手を振るキリトに首を傾げる。この世界のことを知るチャンスではある。しかし、アクセルか以前聞いたことがある。異なる世界では、世界の秩序を守るために話てはいけないことが多いのだと。
故に、ロクサスは言葉を選ばなくてはならなかった。
「いや、いいんだ。俺はキリト。えっと…」
「俺はロクサス。普通にロクサスって呼んでくれ。よろしく、キリト、アスナ」
「ネーム持ちのNPC…キズメルと同じ。いや、それよりだ。ステータス化け物なんじゃないか? AGIオバケの割にはSTRも弱くなさそうだし…
「オバケ?」
続きを濁したキリトに自己紹介をするロクサス。しかし、なにが不思議だったのか、キリトは面食らったような表情をし、再び何かを考え始めてしまった。
「ってまた考えてるじゃない…。ごめんなさい、この人のことは気にしないで」
「わかった」
「わかったって酷いな、おい」
キリトのツッコミに小さく笑いロクサスは、この世界にたどり着く前に見た鋼鉄の城を思い出す。城というにはあまりに巨大だったような気がするのだが、何故だか、あれは城だと確信している自分がいた。そのことを不思議に思いながら、ロクサスはキリトに問いかける。
「キリト、アスナ、鋼鉄の城について、教えてほしい」
トワイライトタウンへの帰還に向けて、ロクサスは一歩前進した。