星のカケラの導き   作:ロクサス

3 / 3
飛ばし飛ばしのストーリー構成です。クラインさんはまだ出てきません。コーバッツ先輩は察しがいくと思います…。

そのうち一方その頃的なシオンとアクセルサイドも書きます。

ちなみに、文章の書き方はKH小説版を参考にしてます。


歩み

暗い部屋に浮かぶ、いくつもの窓。横長の長方形に映されているのは、屈強な男がモンスターに立ち向かう姿。ある者は戦い、ある者は宝箱を開け、またあるものは芝生でのんびりと寝転んでいる。ウィンドウと呼ばれるこの窓は、この世界に囚われたプレイヤーの数だけ存在する。プレイヤーの数だけあるといっても、四六時中行動を監視しているわけではない。製作者である茅場晶彦は、このようにプレイヤーの行動を見れるようにしたが、プライベートに関しては興味を示さない。

 

戦いの中でこそ、人の可能性が垣間見えると考えていたからだ。

 

「ほう…」

 

ウィンドウの光だけが照らす暗がりの中、茅場晶彦は小さく感嘆の息を漏らす。他のウィンドウを全て消し、一つのウィンドウの大きさを拡大し、調節する。

そのウィンドウに映されているのは、黒ずくめの少年と白を基調とした鎧を着た少女。そしてなによりも彼の関心を惹いたのは、フードつきの黒いロングコートを身にまとった少年だった。

 

奇妙な形の二振りの剣。彼のステータスを表す標識はNPC…つまりプレイヤーではない。

全てのNPCやクエストを記憶しているとは言わないが、果たして二刀流のNPCなどいただろうか。

 

二刀流がある種、攻略の鍵となるこのゲームに…?

 

二刀流は、ある条件を満たしたプレイヤー(・・・・・)にしか与えられないはずなのだ。ましてや、NPCに与えられることなどあるはずがない。茅場晶彦は、思い出したように隣にいる黒ずくめの少年のステータスの一部を閲覧する。自身が既に注目しているその少年のステータス欄には、確かに二刀流の文字があった。

 

ユニークスキル。

 

二刀流はこの世界に一つだけ。

黒いコートの彼は二刀流ではない。ソードスキルも発動していない。

 

自身の早計に安堵しつつも、茅場晶彦の興味は黒いコートの少年にあった。

 

彼のステータスは決して、平凡なNPCとは思えない。

 

最近突如として出現し始めた黄色い目をしたモンスター。原因不明のバグではあるものの、さしたる問題ではないと感じたが故に放置している。言ってしまえば、モンスターは強化される結果となった。

 

だが、この二刀流の少年には強化などまるでなかったかのように、ただの斬撃(・・)でモンスターをポリゴンの欠片へと変えていった。あれだけ振り回せば、ソードスキルのモーションだと誤作動を起こしそうなものだが、不思議なことにソードスキルが起こることはなかった。

 

ソードスキルを使用せずにモンスターに有効な攻撃を与え続ける姿…茅場晶彦から見たそれは、まるで黄色い目をしたモンスターに対して特攻がついているかのようだった。

 

管理者としての世界の管理ではなく、純粋な好奇心が彼を掻き立てる。

 

指を操作して管理者用のウィンドウを開き、プログラムを組んでいく。システムの根幹を組み直すわけではない。一番最下層の第一層では不具合が起きるだろうが、茅場晶彦にとって彼のウィンドウを作ることが最優先となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

浮遊城アインクラッド。

 

鋼鉄のような見た目が印象的だったが、どうやらこの世界は蒼穹の彼方に浮かんでいるらしい。そのルーツは遥か昔、神話にまで遡るようだ。もともと世界は大地に根ざしていた。今のように蒼穹の彼方に浮いているのは、神話の時代に起こった事件が原因らしい。現在、世界の全ては城の中に押しとどめられているらしく、この世界に生きている人々は城から出ることが出来ずにいる。キリトとアスナから聞いた話を要約したロクサスは、不思議そうな顔をする2人に礼を言う。

それにしても、世界の全てがこの城に押し留められているというのに、どうしてキリトとアスナは外に出たがっているのか。外に出ても大地はない…疑問は残る。

 

2人とも何かをボソボソと呟いているのが気になるものの、こちらに対して警戒をしている様子はない。そのことに若干の安堵を覚える。

 

というのも、今の自身の姿を考えてみれば警戒されない方がおかしいことは明白だ。黒いロングコートに2振りの奇妙な剣。フードなんて被っていれば、それこそ怪しい人相に違いない。

 

 

いつもの服…来てくればよかったな。

 

 

「なぁ、さっきの黄色い目をしたモンスターについて、何か知ってないか?」

 

「俺たちはハートレスって呼んでる」

 

キリトの質問にロクサスは、小さく頷いて慎重に言葉を選ぼうとするが、考えてもいない台詞が浮かぶ。突然のことに目を見開き、両手で口を抑える。だが、頭の中ではハートレスについて話さなくていけないと感じている自分がいた。それはまるで、『知っていることを全て話せ』と絶対服従の命令をされているようだった。

 

「ハートレス… heartless?冷酷なとか熱意のないとか…直訳するとそんなところかしら」

 

キリトが『クエストが進行したのか?』と何やら指を動かしているのを見ながらも、ロクサスの口は動きを止めることはない。

 

「心無き者は心を求める。ハートレスは人の心の闇に反応し、心を奪うことで増え続けるんだ」

 

「この世界の設定補完のサブストーリーってところか? クエストフラグは立ってない辺り、条件を満たさないといけないのかもしれない」

 

元の世界に帰りたいだとか別の世界について話してしまうのではないかと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。ロクサスの口は閉じ、主導権もロクサス自身に返ってきた。そういった魔法の可能性も考えたが、キリトとアスナから警戒している雰囲気は微塵にも感じられない。

 

だとすれば、アクセルから聞いた世界の法則というのが当てはまるのかもしれない。

世界には決まりごとがある。世界ごとに異なっている世界の法則は、他の世界から移動する場合、ほぼ必ず適応される。世界によっては、姿までも変えられることがあるという。豪に入れば郷に従えということなのだろう。

 

今まで何度かやりとりをしたが、回答を強制されたのはこれが初めてだ。質問されたことも初めてではあるが、何か条件があると考えていいだろう。世界の法則によって、なんらかの力が働き、ロクサスの知っていることや受け答えを誘導していると考えるのが自然だ。

 

アクセルに言われたことを守るのは難しそうだ…と内心でボヤくロクサスにアスナが手を伸ばす。そんなアスナにキリトが驚いた様子であたふたしているが、アスナは気にせずにロクサスに手を伸ばす。

 

「もしよければ、私たちと一緒に行動しない?」

 

「アスナ!?」

 

「ここに一人置いていくわけにもいかないじゃない。もしかするとボス攻略の重要なクエストかもしれないし。それに、彼の実力なら一緒に行動して足を引っ張るどころか大助かりなんじゃないかしら」

 

「…それもそうか。俺からも頼むよ、ロクサス」

 

差し出された手を軽く握る。

 

この2人を見ていると、何故だかソラとカイリを脳裏によぎらせる。こういったやりとりが似ているのだろうか。決して姿が似ているわけではない。性格が似ているわけでもなさそうだ。だが、不思議なことに、そう感じた。

 

特にアスナ。

 

これはもはや、直感に近い。一体何が似ているというのか。見れば見るほど、話せば話すほど別人だということはわかる。わかるはずなのに、なぜかカイリと同じ(・・)だと直感する。

 

それはもはや、顔や性格などの外見ではなく、世界における在り方…根幹かもしれない。

 

建ち並ぶ円形の足場はどこまでも続いてる。それこそ頭上を見上げてみれば、まだまだ上への道が続いている。ロクサスたち一行は、果てしなく続く螺旋階段に似た道を進んでいた。

今頃、シオンやアクセルはどうしているだろうか。そもそも、こちらに来てからどれくらいの時間が向こうでは経っているのだろうか。時間の流れが違うとは考えにくいが、そういう世界もあるのだとアクセルから聞いた。現に、アクセルとカイリは、そんな場所で修行をしたそうな。

 

「どうしたの?」

 

「なんでもない。それより、2人はどこに向かってたんだ?」

 

果てしなく続く道を見ながらロクサスはキリトに問いかける。キリトとアスナは同じように頭上を見上げ、困ったように苦笑いを浮かべた。

 

「向かってたというより、探索していたんだ」

 

「探索? 何か探してたの?」

 

「いや、もう見つけたんだ。俺とアスナの2人で挑んでも無謀だから、マッピングできていない…ええと、まだ行ったことのない場所を探ってる」

 

ロクサスは考える。

 

やはり、この先には何かがあるのだろう。

 

アスナとキリトの2人で挑んでも無謀…やっぱりなにか強大な敵がいるのか?

 

それがハートレス何なのかはわからないが、この世界にいる以上、きっとキリトとアスナが探していた何かは俺にも意味がある…と。

その答えを示すように、ハートレスとモンスター(・・・・・)が姿をあらわす。モンスターたちはキリトとアスナに任せ、ロクサスはハートレスと対峙する。光とともに2本のキーブレードを出現させ、そのまま目にも止まらぬ速さでハートレスを斬り裂いていく。

 

度重なる同中の戦闘でこの世界の戦闘についても、だいぶ慣れ始めていた。

 

注意すべき点はいくつかある。

 

まず、今まで不自由なく使えていたはずの魔法やアビリティが封じられている。攻撃魔法はもちろんのこと、回復までも意味をなさない。キーブレードを構えて唱えてみても、振ってみても虚しい結果となった。アビリティに至っては全て封じられているわけではない。しかし、多くのアビリティが使えなくなっている。

 

その際たる例がグライドだ。

 

本来ならば空中に停滞し、ゆっくりと飛行できるはずのアビリティ。しかし、どんなに飛ぼうとしても重力に引かれて落ちてしまう。使えるアビリティに感じての多くはキーブレードを使って攻撃する物理的な技ばかり。キリトやアスナの使っているソードスキルという剣技の帳尻合わせなのかもしれない。これもまた、世界のルールのせいなのだろう。

 

ロクサス自身が得意としている光系の魔法…ホーリーやホーリーライズ、ラグナロクが使えないことは不都合なことに変わりはないが、この程度のハートレスに遅れをとることはない。

 

周りを囲んでいたはずのハートレスは確実に数を減らしている。一体、また一体と握りしめられたキーブレードによって消滅させられていく。魔法こそ使えないのが悔やまれるが、ストライクレイドのような複数体に有効な技を使えば、複数体を相手取っても問題はない。

むしろ、一本のキーブレードを投げたところで、ロクサスにはもう一本のキーブレードが残る。その他のハートレスの攻撃を捌く余裕は十分にあった。

 

「貫け!」

 

全力で地面を蹴り、最後の一体を高速で突き抜ける擬似(・・)ソニックレイブで切り抜け、慣性が収まったところで着地する。

 

「お疲れロクサス」

 

「それを言うならキリトとアスナもだろ」

 

「それじゃあ、お互い様ってことね」

 

一足早く戦いが終わっていたキリトとアスナを茶化すように声をかけ、再度考える。

 

自身にとって、この世界の一番の強敵はモンスターだと。

 

黄色い目をしていない…闇から現れるわけでもなく、光とともに現れ、周囲をうろつき始めるモンスター。このモンスターはずっとこの世界にいる原生的なモンスターらしく、ロクサスの攻撃があまり通らない。キリトやアスナの使うソードスキルならば有効なダメージが通るのだが、ロクサスの攻撃ではソードスキルほどのダメージは与えられない。逆に、ハートレスを相手取る際、アスナとキリトの2人ではソードスキルを使ってもロクサスほどのダメージを与えることはできない。そういうこともあって、キリトとアスナはモンスター、ロクサスはハートレスを担当することになったのだ。

 

「そういえば、ロクサスはどうしてここに?」

 

不意に問いかけられたアスナの言葉に一瞬身構えるロクサス。不思議そうに首をかしげるアスナ。だが、先ほどのような強制感はなかった。安堵の息を漏らして口にするべき言葉を探す。

 

そうして少し考えて探してみた言葉は、酷く曖昧なものだった。

 

「…気がついたら、あの場所に立っていたんだ」

 

世界を移動してきたなんて、言えるはずがない。懐にしまってある石のことを言っても、帰って混乱させるだけだろう。

 

「記憶喪失って設定なのか…?」

 

「いや、記憶はある。だけど、気がついたらここにいて、帰り道を探してるんだ」

 

「もともとはどこにいたの?」

 

「トワイライトタウンっていう大きな街だ」

 

「トワイライトタウン…聞いたこともないな。もしかして、次の層の主街区…?」

 

「あー、ごめんねロクサス。彼のことは気にしないで」

 

若干のデジャヴを感じながらロクサスは苦笑いを浮かべたその時だった。

 

大地を揺るがす大きな揺れとともに、遠くから悲鳴が聞こえてきたのは。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。