死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
「んじゃ、情報交換と行きますか」
言いながら、俺はドッカとケツをソファーに沈み込ませ、足はローテーブルの上へと投げ出した。
ハッキリ言ってヤケクソだ。女の子らしい仕草とか口調を色々頑張ってきたが、緊急事態で滅茶苦茶に
こうなれば逆に、過剰なまでに不遜な態度で押し通してやる!
変に凶暴な人格が混じっていると思われるよりも、人格が突然切り替わると思って貰った方がまだ都合が良い。
王子は不遜にふんぞり返る俺を見て、引き攣った笑いを浮かべている。
「……随分と、今までと態度が違うんだな」
「そりゃーな、命を
対面に座る王子の問いに俺は肩を竦めて答える。
「王子、やはりコイツ危険です!」
「黙ってろ」
いきり立つガルダさんを王子は一蹴する。他にもフィダーソン老やシノニムさん達も壁際に立って事態を注視していた。当然だが、みな豹変した俺の態度に驚いている。
舞台となるのは同じくボルドー王子の私邸、部屋こそ移したが、まだ半日と経っていない。それなのに王子も俺も既にすっかり回復していた。
「まずは怪我を治してくれて感謝する」
「そりゃどーも、元々俺が撃たれる所を庇ってくれたんだから、感謝するのはコッチかもな」
俺は手をヒラヒラさせて感謝の言葉を受け流す。
「それで、聞きたいのだが。……君は本当にユマ姫か?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるな」
「どう言う事だ?」
俺はボリボリと頭を掻きながら、どう説明するかと思案する。
「まず、俺がオルティナ姫の生まれ変わりと言うのは言ったな?」
「ああ」
「だが、オルティナ姫が死んでからン百年と経ってる。当然ユマ姫に生まれ変わるまでに色々と他の人間も経由してるって訳だ」
「それがお前だと?」
「理解が早くて助かるね、この非常事態にヨヨヨと泣いてるだけじゃ、おっ死んじまうからな」
「……じゃあお前は、誰だ?」
「誰って程でもねぇよ、色々と荒っぽい人格が混じっただけさ」
俺の言葉に王子は考える素振りを見せる。
「なるほどな、ガルダの忠告もゼクトールの傾倒もコレで合点が行く、シノニム嬢はこれを知って居たのか?」
王子の問いに、控えめに手を上げたシノニムさんが答える。
「いいえ、でも正確には一度だけ。タナカさんが死んで塞ぎ込んでいたユマ様が突如飛び起きて、オーズド様の屋敷を飛び出した時、同じ様な事がありました」
「つまり、精神的なショックがトリガーか」
納得行った様子で王子が呟くが、怪訝な顔で俺を睨んだ。
「それで、お前の目的はなんだ? どう言うつもりでユマ姫に取り憑いている」
「取り憑くとは随分だな、お化けじゃねーよ、目的だって一緒。帝国への復讐さ」
「信じると思うか?」
「じゃあ何だ? このビルダール王国の転覆を狙っているとでも? それで俺に何の得がある?」
「知れた事、王国の乗っ取りだ」
「だったらもっと上手くやるよ、それこそ同盟相手の王子サマが死にそうだったなら、涙ながらにオイシイ遺言を引き出すとかな」
「…………」
俺の言葉に皆が押し黙る。結構説得力があったんじゃ無いかね?
「で、今度はコッチの質問だ。シャルティアは見つかったか?」
「いや、怪しい人影は一切発見出来なかった。あれは、本当に?」
「……ああ、シャルティアで間違い無い、俺は声も聞いた」
「しかしあのお嬢様がそんな」
王子は暖炉を見る。部屋こそ違うが暖炉の作りは変わらない。非常に狭く、ココに人間が瞬時に隠れられるとは思えないのだろう。
もちろん現在、暖炉はしっかり封鎖されている。
「気持ちは解るがアイツは化け物と思った方が良い、俺と同じレベルのな」
「それは、アイツも魔法を使うと?」
「そうとは言わないが、マトモじゃないと思って事に当たれって意味さ」
「……ふむ」
「なにを隠そう、俺はアイツに目を付けられてここ数日、酷いストレスに見舞われていた。そこへさっきの襲撃がトドメになって、俺が出て来たって訳よ」
「だが、確実にアイツがシャルティアと言い切れるのか?」
「間違いない、賭けても良いね!」
「だったら話は早い、シャルティアを嘘発見器に掛ければ良い」
「…………へぇ」
なるほど、その手が有ったか。
嘘発見器を使われる心配だけで、俺が訴えるのは勘定に入れてなかった。
「しかし、嘘発見器を誤魔化す方法は本当に無いのかねぇ?」
「解らない、有るとしてもそれを見つけたと吹聴する者は居ないだろう」
確かに、そんな手段が有れば、もしもの時のため隠すだろう。王子は更に続ける。
「誤魔化す方法が有る、と言う噂は根強く存在する。……例えば、魔人公と恐れられるダックラム公は何度も嘘発見器に掛けられているが――」
「ああ、そりゃ無駄だな」
「そう、君が言うに、彼は暗殺に関わっていないのだろう? だったら反応する訳が無い」
ふむ、だとするとシャルティアを嘘発見器に掛ける意味は有るか? ……いや、微妙だな。
「多分無駄だろう、俺が使える魔法の中に、自分に対する敵意を感知する魔法が有るんだ。実は今までソイツを使って暗殺者達をぶっ殺して来たんだが――」
「それがシャルティアには効かないと?」
「ああ、今日も密かに使っていたが、撃たれる寸前まで、いや撃たれてからも、まるで反応しなかった」
「やはり、それは相手も魔法が使えると言う事にならないか?」
「いや、その割に魔法に対する反応が素人じみていた。俺はもう一つの可能性を推したい」
「もう一つの?」
王子の問いに対して、俺は壁際に突っ立っている物知り爺さんに水を向ける。
「フィダーソン老、嘘発見器が通用しない相手に心当たりは?」
「知らんな、いや正確には有るが、嘘をついた自覚が無い奴には効果が無いと言われておるの」
老の言葉に皆が頷く。嘘のつもりが無くても、結果的に嘘になってしまう事が有る。誰にでも経験が有る事だ。
「それだけじゃ無い、嘘をついて置きながら後になってアレは嘘じゃ無かったと心底思い込める人間も存在する」
「そんなおめでたい人間が居ますか?」
シノニムさんの疑問ももっともだが、そう言う人間は居る。そしてその強化版と言えるのが俺だ。
「もっと凄いのが居るぞ? 一人の人間に複数の人格が共存する人間だ」
「君の事か?」
「俺だけじゃない、この国にだって探せば居るはずさ、そうだろ?」
俺は王子の問いを皮肉げに笑って、フィダーソン老に水を向けた。
「確かに、多重人格と呼ばれる病気じゃ。突然に言葉遣いも性格も変わってしまう。強烈なストレスが原因の病と考えられておる」
「さっすが中央書庫の偏屈爺さんだ、話が早い」
「お主に言われても嬉しくないの」
いや、実際、現代人の俺と遜色無い知識があるのは凄い。
「実際に俺も……そうだな、もうそろそろ『戻して』も良いだろう」
言いながら俺は居住まいを正し、皮肉げな笑みを引っ込める。
「……そう、人格が切り替われば仕草も表情も、雰囲気の全てが変わります」
「えっ?」「うぉっ!」「凄いのぉ」
優雅に微笑む俺に、周囲からは驚きの声が上がる。
あまり見せびらかす機会は無かったが、田中が死んだ時からこの程度は可能だ。
「シャルティアも同じ様な物かもしれません、パーティーの時、突然変貌した様に見えました」
「……言われてみれば、深窓の令嬢をアレだけ演じ切れるのはおかしい。ガルダもそうだが、王宮は人物鑑定のプロが何人も居る。なのにシャルティアが異常と言う話は聞いた事も無い」
「ある種の異常者なのでしょう、悪気も無く人を殺せるなら私の魔法にも掛かりませんし、嘘発見器もすり抜けるかも知れません。シノニム! マテ茶を」
「少々お待ちを」
口寂しくなって、俺は優雅な動きでお茶を要求。すぐにあらかじめ用意してあったポットから、熱々のお茶が注がれる。
シノニムさんが淹れてくれたお茶を上品にすする。良い香りが鼻に抜け、少し落ち着いた。
そう言えばお昼も大分過ぎた、落ち着いたら、なんだかお腹が減ってきたぞ?
「シノニムさん。何かお茶菓子でも貰ってきて頂けませんか?」
「ふざけるな! 何を言っている!」
そんな俺に怒鳴ったのはガルダさんだ、おちゃらけキャラだったのに、怒り散らすキャラにすっかり変わってしまったな。
王子も同じ事を思った様で、ガルダさんをたしなめる。
「ガルダ、止さないか。最近怒りっぽいぞ」
「……解っていますよ、解っていますが! 色々起こりすぎて、俺の頭がパンク寸前なんです!」
「もうお前は休め!」
「嫌ですよ、ここで投げ出せません!」
「だったらせめて、黙って見てろ」
「…………」
なんだか二人の世界だな、また男同士の友情が羨ましくなってきた。
これって前世の『高橋敬一』の友情を思い出しての感傷かと思ってたけど、ひょっとして腐女子的なアレなんかな?
ま、良いか。聞く事は聞いてしまおう。
「では話を戻しましょう、シャルティアは煙突から侵入してきました。警備はどうなっているのです?」
「その件については警備主任から話を聞いていますよ」
気を取り直したガルダさんが、警備からの報告を読み上げる。
「そもそもが、あの煙突はどんなに小さい人間だろうと入れる構造じゃないらしいのです」
「しかし、実際に奴は来た」
説明半ばでの王子のツッコミに、ガルダさんはため息を漏らす。
「そう、ですが煙突には雨水の浸入防止機構なんかがあって、実際は見た目以上に狭いらしいんです」
「ふむ、では?」
「ええ、そう言った機構が綺麗に取り除かれていました。こんな事は一朝一夕で出来るもんじゃありませんね」
「つまり、煙突の清掃業者が怪しいと?」
「ご明察、今、話を聞きに行って貰っています、随分前から狙われてたって事になります」
聞けば煙突の清掃は専門の業者へ委託していたらしい。
高所作業で、内部構造もそこそこ複雑な煙突は、専門の職人じゃないとメンテが出来ない。
勿論、貴族の家の保守をするのだから信用第一の商売なんだろうが、そこはソレ、暗殺者も必死だ、人質を取ったりして上手くやるのだろう。
で、上手くやるのだろうから、当然証拠も残していないだろう。取り敢えず暖炉は封鎖だな、こりゃ冬までにカタを付けないと、大分お寒い事になるぞ。
王子とガルダさんは二人で捜査の方針を話しているが、俺はシノニムさんが持ってきてくれた茶菓子をつまむ事に。
――旨いな!
「なかなか美味しいですよ、シノニムさんも食べませんか?」
「では少しだけ」
「ワシも良いかの?」
なぜか爺さんも含め、三人でクッキーを食べる事に。
しかし、さっすが王子サマのお屋敷だ。屋敷の見かけこそは地味だが、良い物を食べている。
「これだけの物をポンと出してくれるのは流石ですね、どこのお店の物か聞いて帰りましょう」
「キィムラ商会の新作です、持ってきたのは私なので間違いありません」
「え?」
「急なお招きとは言え、手ぶらと言う訳には行かないでしょう?」
「…………」
自分で持ってきて自分達だけで食べちゃうのかよ。流石にどうなの? いいの? 駄目だよね?
ま、シノニムさんが良いって言うなら良いだろ。
まったりする俺達をガルダさんが睨んでくるが、捜査なんぞ無駄な作業に思えて仕方が無い。今更そんな奴らを洗っても何にも出てこないに決まっている。
今考えるべきは……ジッとクッキーを見る。
「キィムラ商会を私の専属から外した方が良いかもしれません」
「考え過ぎでは? 元々キィムラ商会は多くの恨みを買っています、今更でしょう」
シノニムさんはそう言うが、パーティーの時の様子から木村が目を付けられたのは間違い無い。
そんな俺に賛同してくれたのは、ガルダさんと話していたボルドー王子だった。
「その意見には賛成だな、君の派閥も大きくなってきた、一つの商会を頼みにするのは良くない。それに彼の商会は悪い噂もつきまとう」
「それは一理あるかも知れません、外すのでは無く追加を検討してみては?」
追加ならばとシノニムさんも乗ってくれた。うーん『偶然』の事を考えれば距離を置いて欲しいのだが、いきなり外すよりはそっちのが無難か。
俺が頷こうとした時に、控えめに扉がノックされた。
「あのー、ここにボルドー
ボルドー王子を兄と呼ぶ間延びした声、つまり相手はお姫様だ。
しかし、第一王女も第二王女も第一王子側、つまり仮想敵。他に王女の話は聞いていないが?
「ただいま参ります」
ガルダさんが応対に向かうと、一人の女性を連れ立って部屋に戻ってきた。
「その方は?」
「おはつー、あたしはヨルミ・ラ・ガードナー、一応ですが第三王女となっていますー、お見知りおきー」
俺に挨拶を返す黒髪の少女は少し変わっていた。
黒髪自体は特筆するほど珍しい物ではない。金髪に生まれても成長するにつれ黒みがかる事も多いし、色が濃い方が優性遺伝なのも地球と変わらない。
なので、その少女が変わって見えるのはその顔立ちだ。凹凸が少なく目が小さい地味な顔立ち。いや……もっとハッキリ言うとアジア人っぽい。
同じ地味でもボルドー王子とは方向性が違う。この辺りでは見ない種類の顔である。
それに、第三王女が居るなど俺は聞いていない、これは一体どう言う事か?
「ボルドー王子、ヨルミ様は一体?」
「ああ、ヨルミは第三王女だが余り表に出る事が無い、理由は見ての通り彼女の母親がこの国の人間では無いからだ」
王子から語られた所、彼女は現王が手を付けた侍女から生まれたらしい。
その侍女が南方のプラヴァスの少数民族の生まれと言う事で、少し変わった見た目になっている。
「キィムラ様やタナカ様に少し似ているでしょうか?」
シノニムさんの言う事はもっとも。西洋人的な顔立ちのビルダール王国民より、日本人に近い感じである。
ってか第三王女なんて居るなら、シノニムさんもあらかじめ教えて置いて欲しいものだ。
……え? 話した? 忘れてるだけ? うーん『参照権』あっ! マジだ。
と、その第三王女はソファーで頭を掻くボルドー王子に眉をひそめた。
「あんのー? ボルドー
「あーその件だがな」
ヨルミはボルドー王子が危篤と聞いて、慌てて飛んで来たと言う事らしい。
対してボルドー王子は気まずそうに答える。
「一時は本当に瀕死だったのだ、ユマ姫の魔法で治して貰った。それを伝えなかったのは、それで犯人をあぶり出そうと思っているからだ」
どう言う事かと言うと、
「ボルドー兄にしちゃー冴えてるね」
「俺にしては、とは言ってくれるじゃないか」
二人は大分仲が良いらしい、不人気連合と言った所か。いや、流石に全く無名なヨルミよりはボルドー王子のが人気はあるけどな。
俺は二人の掛け合いを黙って見守る事にした。
「こう見えてヨルミは中々頭が良い、犯人を追い詰めるのに、良いアイデアを出してくれるかも知れん」
「こう見えてって……兄ちゃんも言う様になったねー、しっかし
「全くだ、ユマ姫には助けるつもりが助けられてしまった」
「へぇ~~」
二人して俺を見るが、俺はお茶をすすってお澄まし顔。そこを誇るつもりはあんまり無いからだ。
「でもでも、あぶり出すってどうやってー?」
「そりゃ、
「んーちょっと弱いなぁ~」
「弱いとは?」
「どうせならもっと派手に焚きつけないと意味ないよ。例えば――」
ヨルミはニヤリと俺を見た。
「兄ちゃんとユマちゃんの婚約発表会を開こう!」
俺は盛大にお茶を吹き出した。